クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

フリーダムバトル スペシャルエディションI「争いの業火の中へ」

この物語は、我々のいる時空とは別の時空にある地球で起こった物語である…。その地球では100年以上前から怪獣災害や宇宙人の侵略、人類同士での争いが続いていた…。物語開始の1年前、長く続いた戦いが次々と終わりを迎えていた西暦2099年12月26日、突如宇宙帝国イフィニアドが襲来した。長きに渡る戦いで消耗していた地球統合軍はイフィニアドの強大な戦力を前に、なすすべもなかった…。地球上にある街は次々とイフィニアドに侵略されていった…。この物語の主人公、ドラゴニュートの故郷もまた、イフィニアドに滅ぼされた…。ドラゴニュートは姉の蒼乃、妹の流羽と共にイフィニアドから逃げていた。父親と母親はドラゴニュート達を逃がす為の身代わりとなり、兄の奏真と弟の大河は途中ではぐれてしまった。そんな中、ドラゴニュート達はイフィニアドの兵士と遭遇した。しかし、兵士がドラゴニュート達に斬りかかろうとした時、どこからか矢が飛び、矢はイフィニアド兵士に刺さり、イフィニアド兵士は倒れた。彼らを助けてくれたのはエルフの女性、エルライン・エルフィードであり、父親と母親、兄と弟を失うも無事逃げ延びたドラゴニュートとその姉と妹は、自分達を助けてくれたエルフの女性のエルラインと共に、山奥の小屋で暮らす事になった…。そしてその1年後の西暦2100年、地球統合軍は対イフィニアド専門組織、クロストライアルを結成し、イフィニアドに対抗する事になるのだった…。

ドラゴニュート達が山奥の小屋で暮らし始めて1年近くが経った西暦2100年11月13日…エルラインの住んでいる小屋はボロボロだが、最低限暮らすことはできた。ドラゴニュートの姉、蒼乃・ブラウスピカは弟たちの生活費を稼ぐためにクロストライアルに入隊した。そして、残されたドラゴニュート・ブラウスピカと流羽・ブラウスピカはイフィニアドと戦うため、エルラインと共に特訓した。エルラインは弓使いだが、剣術も多少たしなんでおり、ドラゴニュートにそれを叩き込んだ。1年近く叩き込まれたおかげでドラゴニュートも成長しており、今では多数の技を覚えている。

ドラゴニュート「今から新技を放つけど、いいか?」
エル姉「もちろんよ!」

ドラゴニュートは木刀に雷魔力を纏い、木刀を振った、新技のスパークブレードだ。エルラインは木刀でスパークブレードを受け止めたが、少し後ずさった。

ドラゴニュート「どうだ? 俺の編み出した新技、スパークブレードは?」
エル姉「悪くはないわね、けど、少し威力が低いかな?」
ドラゴニュート「威力を犠牲にして、切れ味に全振りした技なんだけど、決定打にはなりづらいかな?」
エル姉「そうね、けど、部位破壊するには丁度いい技じゃないかしら?」
ドラゴニュート「部位破壊って…どこかのゲームで聞いた言葉だなぁ…」

本日の特訓を終えたドラゴニュート達であったが、食料が無かった為、ドラゴニュート達は小屋から歩いて10分ほどの場所にあるアトールの村に買い出しに向かった。アトールの村は平凡な村であり、野菜などを栽培して収入を得ている村である。更に、イフィニアドの魔の手も伸びてない平和な村でもあった。

ドラゴニュート「この村は相変わらず平和だなぁ…」
流羽「そうだね、お兄ちゃん、今世界中で戦いが起こってるなんて嘘みたい」
ドラゴニュート「だよな、でも、イフィニアドの奴ら、最近はヴェイガンとも手を組んだし、ザフト軍の残党やコスモ・バビロニア軍の残党も取り込んだみたいだから、いつ攻めてくるか分からねえぞ?」

その時、ドラゴニュート達のいる場所の先から男性が走って来た。何やら慌てた様子だったので、ドラゴニュート達はその男性の方を向いた。

男性「たたた…大変だぁ! イ…イフィニアドだぁぁぁ!!」
ドラゴニュート「何だって!?」

男性がそう叫んだ後、男性の後ろからイフィニアド兵士達がやって来た。部隊長はかつてウルトラマンレオと戦ったマグマ星人の同族であり、複数の兵士を携えてアトールの村に進軍してきていた。

マグマ星人「何と貧相な村だ…これなら簡単に滅ぼせそうだな…」
女性「あぁ…やめて…命だけは…」
男性「お…俺はこんな所で死にたくないぞ!!」
マグマ星人「喜べ! 今からこの村の住人は皆殺しにしてやる! 一人残らずなぁ!!」

マグマ星人の率いる部隊はレギオノイドを始めとしたロボット怪獣、ミラーモンスターやクライシス帝国の残党の怪人達、ヴェイガンやザフト残党、コスモ・バビロニア残党のMS達で構成されており、数はざっと30はいた。それらの兵士達はそれぞれビームを撃ったり、武器を振り回したり、マシンガンを撃ったりしながら村を蹂躙した。村はあっという間に火の海になり、地面の土は血で真っ赤に染まった。それを見たエルライン達は逃げようとしたが、ドラゴニュートだけは違った。

ドラゴニュート「エル姉…本当に逃げるのかよ…俺はもう…嫌なんだ…誰かが死ぬのを見るのは…」
エル姉「無理よ! 勝てる訳ないでしょう! 私達は3人、相手は10人以上いるのよ!?」
ドラゴニュート「だからって、救えるかもしれない人達を見殺しにできる訳ないだろ!!」

ドラゴニュートは自分の剣であるスティールソードを取り、イフィニアドの部隊に向かって行った。そして、ヴェイガンのMSであるダナジンとミラーモンスターの一種であるギガゼールを叩き斬り、叩き斬られたダナジンとギガゼールは爆散した。

レガンナー「な…何だ! 貴様! イフィニアドに逆らうのかッ!!」
ドラゴニュート「うるせえ! 罪もない人達を何人も殺しやがって! お前らはそんなに偉いのかよ!!」
シグー「ああ、そうだよ、俺達は偉いんだぞ? だからお前も跪けや!!」
ドラゴニュート「…誰が…誰がお前らの汚い足元に跪くかっ!!」
マグマ星人「何だと貴様! お前ら、あいつをぶっ殺せ!!」
シグー「はっ!!」

マグマ星人ザフト軍のMSシグーとヴェイガンのMSレガンナー、そして、クライシス怪人のガイナバラスをドラゴニュートに差し向けた。ドラゴニュートはそれぞれの相手の攻撃をかわし、一瞬の隙を見て3体を斬り、倒した。

マグマ星人「中々やるじゃねえか、だがな、俺の実力はその辺の雑兵とは違うぞ!!」

ドラゴニュートマグマ星人に立ち向かうが、マグマ星人のサーベルに吹き飛ばされた。吹き飛ばされたドラゴニュートは地面に膝を付き、相手の強さを実感した。マグマ星人ドラゴニュートにとどめを刺そうとした時、どこからともなく矢が飛んできた。その矢はマグマ星人の左腕に刺さり、マグマ星人は痛みのあまり絶叫した。

マグマ星人「ぎゃあああああっ!!」
ドラゴニュート「今の矢は…エル姉!!」
エル姉「ドラゴニュート! もう、無茶をして…」
ドラゴニュート「ご…ごめん…でも、エル姉は1年前のあの時もこうして助けてくれたよな、この恩はいつか必ず返すよ」
エル姉「いいのよ、返さなくても、それより、今はこの状況を何とかしないと!」
ドラゴニュート「そうだな!」
流羽「わ…私も戦うよ!」
ドラゴニュート「じゃあ、みんなで行こう!!」

エル姉は得意の弓で戦い、クライシス帝国のチャップ達や、クライシス怪人のアッチペッチーを倒した。その百発百中の弓は敵の急所を的確に射貫いていた。一方の流羽は兄であるドラゴニュートとの協力体制で敵を撃破した。ドラゴニュートがダナジンやデナン・ゾンと言ったMSの武器を破壊した所を流羽がレイピアで倒すと言った形で少しずつ倒していった。そして、ドラゴニュートはレギオノイドやガメロットと言ったロボット怪獣を撃破していった。そのままじゃ硬いので、スパークブレードを多用して次々と倒し、遂に部隊兵は全滅した。

マグマ星人「な…何っ!?」
ドラゴニュート「後はお前だけだっ! 覚悟しろよ!!」
マグマ星人「ほざけぇぇぇぇぇっ!!!」

マグマ星人ドラゴニュートにサーベルで斬りかかったが、ドラゴニュートは回避した。そして、ドラゴニュートは剣に電撃を纏い、攻撃の準備をした。

ドラゴニュート「食らえっ! スパークブレード!!」

ドラゴニュートはスパークブレードでマグマ星人の左腕を斬り落とした。

マグマ星人「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!! 痛いっ!! 痛いぃぃぃっ!!!」
ドラゴニュート「痛いだと…? お前達が人々に与えた痛みは、こんなものじゃないぞ!!」
マグマ星人「分かった、分かったぞ、お前らはクロストライアルだな?」
ドラゴニュート「違う、俺はクロストライアルじゃない! お前達に故郷を滅ぼされたドラゴニュート・ブラウスピカと、その仲間達だ!!」

ドラゴニュートは大技のインパルススラッシュでマグマ星人を叩き斬った。叩き斬られたマグマ星人は苦しみながら叫び声を上げた。

マグマ星人「くそっ…! こんな…奴らに…!! ぐわあぁぁぁぁぁっ!!!」

マグマ星人は大爆発を起こし、倒された。暴虐の限りを尽くしたイフィニアドの部隊長だったが、その塵際はあっけないものだった。

ドラゴニュート「勝った…俺達は…勝ったのか…」
流羽「勝てたみたいだね、はぁ~、死ぬんじゃないかとドキドキしたよ…」

すると、流羽は何かを見つけたのか、ドラゴニュートの肩を叩いた。

流羽「お兄ちゃん! あれ見て!!」
ドラゴニュート「ん? って、あれは…!!」

上空から白い戦艦が着陸してきた、その戦艦には、大きくクロストライアルのマークであるXとTの文字が書かれていた。

流羽「あれは確か、クロストライアルの保有している戦艦だよね?」
ドラゴニュート「そうそう、確か…セイバークルーザーだっけ?」
エル姉「でも…そのセイバークルーザーが何でこんな所に…?」

セイバークルーザーが着陸すると、中から見覚えのある顔の人物が現れた。その人物とは、ドラゴニュート達の姉である蒼乃であった。

蒼乃「ドラゴニュートー! 流羽ー!」
ドラゴニュート「姉ちゃん! 何でここに!?」
蒼乃「実は…あなた達2人をスカウトするように言われてね~」
ドラゴニュート「俺達が…スカウト…!?」
蒼乃「実はね…クロストライアルの総司令があなた達2人をスカウトするって決めたの、私は反対したんだけどね…」
流羽「そうなんだ…」
ドラゴニュート「でも、これでやっと俺達も戦えるんだ、エル姉との特訓は無駄じゃなかったんだな!」
蒼乃「あなた達もたくましくなったじゃない、特訓の成果、後でじっくり見せてもらうわよ?」
ドラゴニュート「おう! 任せとけ!」

ドラゴニュート達はクロストライアルの旗艦セイバークルーザーに乗り込んだ。地球統合軍の最新鋭艦だけあって最新鋭の設備が整えられていた。戦艦を空中に浮かす為のシステムである反重力エンジンもきちんと最新鋭の設備が整えられているようだ。性能に関しても地球統合軍の主力艦であるラー・カイラム級やアガメムノン級と比べても高い性能を誇っているらしい。更に、高い推進システムを持っており、戦艦でありながら高い機動性と運動性を持っていると聞く。ドラゴニュートと流羽、関係者として同乗したエル姉と共にクロストライアルの本部を目指していたが、その中で蒼乃からウルトラ族の故郷である光の国が滅ぼされた事を聞いた。光の国はウルトラ大陸と言う場所にあり、そこではウルトラ族の人々が暮らしている。そして、ウルトラ族はあまり外部とコミュニケーションを取らず、独自の方法で地球の平和を守っているのだ。その光の国がイフィニアドの手によって復活した悪のウルトラマン、ベリアルの手によって滅ぼされたのである。悪のウルトラマンの代表としては、イーヴィルティガやダークメフィスト等がいたが、イーヴィルティガはかつて自分の野望の為にかつての友であるウルトラマンティガと戦い、ティガに敗北した。その後は友達である瀕死のガーディーを連れてどこかへ去って行った。ダークメフィストはダークザギと言う悪のウルトラマンの作った模造品であり、ウルトラマンネクサスと幾度となく激しい戦いを繰り広げ、最後は善の心に目覚めてウルトラマンメフィストとして現在も正義の為に戦っている。だが、いずれも90年以上前の事であり、知っている人は少ない。ベリアルは力を求めるあまり、ウルトラ族を裏切って、大昔宇宙を支配していた究極生命体レイブラッド星人の力を得た。レイブラッド星人は近年も地球のとある場所でレイオニクスバトルを開き、大勢の犠牲を出した上、地球で怪獣災害を頻発させた張本人である。最後は正義のレイオニクスであるレイモンによって完全に滅びたが、この事件は割と最近の出来事であり、ドラゴニュート達の記憶にも新しい。レイブラッド星人の力を得たベリアルはひたすら暴れまわったが、最後はウルトラ族の長老、ウルトラマンキングによって牢獄に投獄された。強大な力を持ったベリアルを味方に付けたイフィニアドと戦わなくてはいけない、そう考えると、恐怖で手が震えた。

流羽「そんなに強い相手に私達、勝てるの…?」
イオナ「勝てます、その為に私達がいるんですから」
ドラゴニュート「君は?」
イオナ「私は躑躅森衣緒菜(つつじもり いおな)、クロストライアルのメンバーです」

イオナと言う少女は、何故かメイドの恰好をしており、青い長髪と青い瞳、そして人形の様にかわいらしい顔、とてもクロストライアルのメンバーとは思えない。恐らく炊事係だろうとドラゴニュートは思った。

ドラゴニュート「クロストライアルにはメイドもいるのか…」
イオナ「メイド兼戦闘要員と思ってもらえると早いかと思われます」

メイド兼戦闘要員などと言う物は当然聞いた事がなく、本当にクロストライアルは対イフィニアド専門組織なのかとドラゴニュートは感じた。

ドラゴニュート「なるほどな…まあ、よろしく!」
イオナ「こちらこそ、よろしくお願いします」
流羽「ねえ、さっきの話の続きだけど、本当に、私達は勝てるの? もうウルトラ族も栄光の10人ライダーもいないんだよね?」

ウルトラ族はベリアルに倒され、栄光の10人ライダーはクライシス帝国との最終決戦の最中シャドームーンによって倒された。確かに、これだけ強い人物がいなくなったと聞けば、誰もが絶望するだろう。

イオナ「確かに、ウルトラ族はベリアルに滅ぼされ、栄光の10人ライダーはシャドームーンに倒されました…ですが、悪と戦っているのは彼らだけではないですよ?」
流羽「え? どういう事?」
蒼乃「流羽は悪と戦っているのがクロストライアルとウルトラ族、ライダー族だけだと思ってるでしょ?」
ドラゴニュート「いるんだよ、それ以外にも悪と戦ってる人達が」

その代表としてドラゴニュートが挙げたのは、魔弾戦士たち、彼等はあけぼの町で活動していた魔人軍団ジャマンガと戦った戦士達で、ジャマンガは巨大兵器や衛星兵器を使った事もあったが、大体はリュウケンドーを中心とした魔弾戦士、そしてあけぼの町で活動するSHOTと言う組織だけで対処できた為、地球統合軍の支援はいらなかったのだ。そして前大戦でも活躍したガンダム、MS族の中でも特に優れたガンダム族はとにかく種類が多く、デスティニーガンダムガンダムAGE-3、ガンダムF91、Gセイバーととにかく多い。これら以外にも1年戦争の頃からガンダム族には世界中の人たちが希望を抱いていた。そしてキノコ王国の英雄マリオ、この人物は凄く有名なスーパースターであり、大魔王クッパキノコ王国のピーチ姫を攫った際はたった一人でクッパ城に侵入してクッパを倒してピーチ姫を救ったまさに英雄である。

イオナ「それに、ウルトラ族もライダー族も生き残りがいるかもしれません、諦めるのはまだ早いですよ」

そんな話をしていた時、突如セイバークルーザーが激しく揺れた。この揺れ方は確実に何者かの仕業としか思えなかった。

ドラゴニュート「なっ…何だ!?」
穂乃果「敵の攻撃!? それともエンジンの故障!?」
栄太「違います! 何かに吸い寄せられているんです!! この反応は…磁力怪獣アントラー!?」

磁力怪獣アントラーが初めて地球に出現したのは100年以上前の事であり、対怪獣部隊の一つである科学特捜隊に大きな被害を与えた怪獣で、ウルトラマンスペシウム光線すら防いだ怪獣だった。最後はバラージの石と言う青い石をぶつけて倒したと言われている。アントラーは蟻地獄を作り、磁力で本艦を吸い寄せようとしていた。セイバークルーザーは全砲門からビームを放ったが、全く効き目がない。流石、ウルトラマンスペシウム光線を防いだだけの事はある。かつてアントラーを倒したバラージの青い石が無い今、もはや万事休すである。そうこうしているうちにだんだんアントラーの方に引き寄せられるセイバークルーザーに、ドラゴニュート達にも諦めの感情が芽生え始めた。

ドラゴニュート「くそっ! こんな所で…!!」
ネクサス「諦めるなっ!!」

誰もが諦めかけたその時、ウルトラマンネクサスのキックでアントラーは吹き飛んだ。同時に、セイバークルーザーが吸い寄せられる事もなくなった。

ネクサス「セイバークルーザー、無事か?」
蒼乃「こちらは大丈夫よ、でもどうしてここに?」
ネクサス「パトロールをしていたらアントラーに襲われている君達を見つけて…」
蒼乃「助かったわ、ありがとう」
ネクサス「ここは任せてくれ、と言いたい所だけど、ここはレイモンに任せよう」
レイモン「行けっ! ゴモラ!!」
ネオバトルナイザー「バトルナイザー、モンスロード!!」
ゴモラ「ギャオオォォォォッ!!」
ドラゴニュート「古代怪獣ゴモラ!!」

レイオニクスのレイモンの操るゴモラ、人類の敵であることが多い怪獣だが、あのゴモラは人類の味方の怪獣と言う事で当時から話題になっており、ドラゴニュートゴモラの勇姿はかっこいいと感じていた。

レイモン「セイバークルーザー! ここは任せてくれ!」
イオナ「レイオニクスのレイモンさん、彼はかつてZAPスペーシー所属でしたが、現在はクロストライアル所属です」
流羽「レイオニクスって、レイブラッド星人の血を引く存在で、怪獣を操る力を持ってるんだよね?」
イオナ「そうです、そして、ネクサスさんも私達と同じ、クロストライアルの所属です」
レイモン「ゴモラ! 行けっ!!」
ゴモラ「ギャオオォォォォッ!!」

ゴモラアントラーは激しい怪獣プロレスを見せつけた、実際に生で見ると凄い迫力であり、体当りをしたり、尻尾でアントラーを吹き飛ばしたり、ボディプレスをしたり、激しいパンチを食らわせたり、とにかくワイルドな戦い方で、迫力があった。そうこうしているうちにアントラーはグロッキー状態になった。

レイモン「超振動波だーーーっ!!」

ゴモラは鼻の辺りの角から超振動波を放ち、それをモロに食らったアントラーは爆発四散した。ウルトラマンを苦戦させた怪獣をこうも簡単に倒したゴモラ、レイモンのゴモラは一味違うと感じた瞬間であった。

レイモン「戻れ、ゴモラ!」

ゴモラはバトルナイザーと言う装置に戻っていった。この様子を見ていたドラゴニュートは、自分が子供の頃に大好きだったアニメを思い出した。そのアニメもバトルナイザーの様な機械でモンスターを呼び出していたのだ。

レイモン「今のアントラーはイフィニアドの構成員ではなく、野生のアントラーみたいだな」
ドラゴニュート「きっとイフィニアドのせいで食料が手に入らなかったんだろうな…」
レイモン「今どきはイフィニアドが怪獣を使役する事の方が多い、野生の怪獣と出くわすなんて、珍しいな」

ネクサスとレイモンはセイバークルーザーと合流する事を決め、セイバークルーザーは地上に着陸し、ネクサスとレイモンが乗り込んだ後、セイバークルーザーは再び浮上した。そして、セイバークルーザーは本来の目的である兵器開発局との合流の為、全速で目的地のリエール山に向かった。セイバークルーザーは高速艦であり、目的地がすぐ見えてきた。おまけにセイバークルーザーはマッハで飛行しているのに全く船体が揺れない。これも兵器開発局が開発した戦艦だからなのか。そして、10分もしない内に目的地に着いた。そして、蒼乃は兵器開発局のケルベロスと言う戦艦に通信回線を繋いだ。ケルベロス赤と黒のツートーンカラーの試験支援艦であり、戦闘用の艦ではなかったが、かなりかっこいい見た目であった。しばらくすると、兵器開発局の試験支援艦であるケルベロスからオレンジ色の小型艇が発進した。そして、その小型艇はセイバークルーザーの格納庫に入ってきた。あの小型艇は8mぐらいしかなかった為、どんな新兵器が入っているのかは不明だった。そして、ドラゴニュート達はセイバークルーザーを自動操縦にして格納庫へ向かった。

アリス「どうも、兵器開発局のアリス・リシャールです」

アリスと言う人物はかなり若く、恐らく年齢は20代前半、このアリスと言う人物が兵器開発局の主任らしく、人は見た目によらないものだとドラゴニュートは思った。

蒼乃「セイバークルーザー隊の蒼乃・ブラウスピカです」
アリス「あなた達の為に新兵器、開発しましたよ」
イオナ「ご苦労様です、で、その新兵器とは一体どんなものですか?」
アリス「それは、こちらです」

小型艇から出てきたものは武器でもなく、ミサイルでもなく、化学兵器でもなく、小柄な女の子であった。黒く美しい長い髪が特徴的で、顔も非常に美しく、戦いとは無縁な顔をした少女だった。一応、鋭い剣を持っていたり、レオタードっぽい感じの戦闘服みたいな服を着ていたりはしたが、とてもこの少女が戦況を変えるほど重要とは思えない。本当にこんな女の子で戦況を変えられるのだろうか、そればかりしか考えられなかった。

蒼乃「アリスさん、この女の子は…?」
アリス「確かに、この子は女の子の姿をしていますね、ですが、この子は人工精霊です」
ドラゴニュート人工精霊!?」
アリス「まあ、見てもらった方が早いですね、ファヴール」

ファヴールと呼ばれた人工精霊は一瞬眩く光った後、エアバイクになっていた。青い車体が特徴のそのバイクはタイヤがなく、空を浮遊する乗り物であった。近未来的なデザインをしており、とてもかっこいいとドラゴニュートは感じた。

蒼乃「エアバイクに変身した!?」
アリス「この子はファヴール、エアバイクに変身し、搭乗者をアシストする事を目的に生み出しました」
イオナ「なるほど、ところで、この子は誰に与えられるのですか?」
アリス「それはファヴール本人が決める事ですね」
蒼乃「それは何故ですか?」
アリス「人工精霊を扱うには相性が一番大切です、そして、人工精霊は自分と一番相性のいい相手を選ぶ能力を持っています、なので、ファヴール自身に選ばせてあげてください」
蒼乃「分かりました」
アリス「さあ、ファヴール、選んで」

ファヴールは人間の姿に戻った後、俺達をキョロキョロと見まわした、しばらくすると、ドラゴニュートに近づいてきた為、ドラゴニュートは目を丸くした。

ファヴール「今日からあなたが私のマスターです、契約をお願い致します」
ドラゴニュート「へっ? 俺?」

ドラゴニュートもまさかクロストライアルに正式に入ってない自分を選ぶとは思わず、困惑した。せめて自分の姉かイオナを選んでくれればよかったのにと、こんな大役が自分に務まるわけないと、そう思うだけだった。

ドラゴニュート「えっと…何かの間違いだよな?」
ファヴール「いえ、間違いではありません、私はあなたと契約します」
ドラゴニュート「姉ちゃん…どうしよう…?」
蒼乃「契約しなさい」

蒼乃はにっこりとほほ笑んでドラゴニュートに契約を促した。その顔を見たドラゴニュートは少し恐怖を感じた為、仕方なく契約する事にした。

ドラゴニュート「で、俺が君と契約するとして、どうやって契約するんだ?」
ファヴール「口づけです」
ドラゴニュート「へっ?」
ファヴール「私とあなたの唇同士を合わせると言う事ですが…」

ドラゴニュートもまさかファーストキスをこんな事に使うとは思わず、困惑した。だが、ドラゴニュートは昔母親や蒼乃にキスされたことがあり、ファーストキスではなかったものの、それでもなお躊躇っていた。

ドラゴニュート「他に契約方法はないのか?」
ファヴール「ありません」
ドラゴニュート「…しゃーねぇな…」

ドラゴニュートは仕方なくファヴールとキスする事にした。ファヴールの唇は柔らかく、とても作られたものとは思えなかった。人間と全く同じ、いや、人間そのものだった。

蒼乃「ド…ドラゴニュート!?」
流羽「お…お兄ちゃんが…女の子とキスした!?」

案の定、クロストライアルの仲間達は驚いていた、まあ、当たり前だろう。ドラゴニュートとファヴールが唇を話すと、ドラゴニュートの左手の甲に謎の紋章が現れた。それはファヴールのバイク形態に似た紋章で、その紋章はすぐに消えたが、それが何なのか、ドラゴニュートは気になった。

ドラゴニュート「今一瞬俺の左手に現れた紋章は何だ?」
ファヴール「私と契約した証です、これからよろしくお願いします、マスター」
ドラゴニュート「お…おう…こちらこそよろしくな…」

その後、アリスからエアバイクの練習をするよう言われたが、ドラゴニュートはエアバイクに乗った事がなかった。そもそもエアバイクは免許を取らなくていいのか? 気になったドラゴニュートはアリスに聞く事にしたが、アリスは法律に関しては詳しくないようで、質問をはぐらかして退散した。もしドラゴニュートが警察に捕まったらどうする気なのか、エアバイクで逃げろとでも言うのだろうか。ドラゴニュートはただ呆れるだけであった。

アリス「私は用事がありますので帰りますね」
蒼乃「ありがとうございました、アリスさん、ほら、ドラゴニュート! さっさと練習しなさい!」
ドラゴニュート「分かったよ、何もそんな言い方…まあいいか…ファヴール!」
ファヴール「了解」

ファヴールは一瞬のうちにエアバイクに変身した、そして、ドラゴニュートはその上に乗り、発進準備を完了させた。乗り心地は自転車とそう変わらず、むしろ乗り心地が良かった。座席もソファーみたいな感じで柔らかく、乗るだけで癒された。恐らく、搭乗者のメンタル面を意識してこの乗り心地にしたのだろう。そう考えると、アリスと言う人は天才だと感じた。

ドラゴニュート「準備OKだ、行くぞ、ファヴール」
ファヴール「了解、発進します」

ファヴールはいきなり急発進した、そのあまりのスピードにドラゴニュートは衝撃を受けた。ファヴールは最高時速720㎞らしく、空気抵抗などはファヴールの周辺に発生する空気のバリア、エアフィールドで防御されているが、あまりのスピードに目が追い付かず、ドラゴニュートはパニック状態となった。しかも、自転車等と違って上下左右にも移動しないといけない為、ますますパニック状態となっており、ドラゴニュートの様子をブリッジで見ていたセイバークルーザーのクルー達は呆れていた。その時、セイバークルーザーに火球が直撃し、セイバークルーザーは大きく揺れた。

蒼乃「何っ!?」
穂乃果「セイバークルーザーの動力部に火球が直撃!」
レイモン「何とかならないのか!?」
穂乃果「駄目です! 反重力エンジンのエネルギー、低下していきます!」
ネクサス「不時着はできませんか!?」
栄太「やってみます!」

セイバークルーザーはリエール山の樹海に不時着した。艦内は激しい揺れに見舞われ、蒼乃たちは床に倒れ込んだ。一方、空中にいるドラゴニュートはその様子を見つつも悪戦苦闘していた。

ドラゴニュート「セイバークルーザーが! くそっ! みんな、無事でいてくれよ…! って…わぁぁぁぁっ!!」
ファヴール「マスター! 今は私の操縦に集中してください!」
ドラゴニュート「んな事言ってる場合か! 早くしないとみんなが…!!」
ファヴール「だったら今はなおさら集中してください、マスターに死なれたら私だって困ります」
ドラゴニュート「…分かったよ、今はお前の操縦に集中する! そして、みんなを助けに行く!!」

一方、リエール山の樹海に不時着したセイバークルーザークルー達は全員が集まっていた。

蒼乃「うっ…みんな、無事?」
栄太「な…何とか…」
流羽「セイバークルーザーは大丈夫なの?」
穂乃果「今見てみましたが、セイバークルーザーは十分修理可能です」
ネクサス「でも、一体誰がこんな事を…」
レイモン「ん? あれを見ろ!」

そこにいたのは全身が黒い服を着た赤と紫の2本の刀を持った黒髪の少女と、青い鱗を持ったワイバーンだった。

???「…強そうな人達……」
蒼乃「誰かは知らないけど、いい人ではなさそうね…」
イオナ「隣にいるのはワイバーン、もしかして、セイバークルーザーを墜落させたのは…」
???「私よ、私がこの子に命令して、セイバークルーザーを墜落させたの」
蒼乃「一体何の為に?」
???「あなた達を試す為よ」
エル姉「何ですって?」
???「さあ、戦いましょう」
蒼乃「仕方ないわね…行くわよ! みんな!!」
ネクサス「仕方ないな!」
レイモン「行けっ! ゴモラ!!」

ネクサスはジュネッスに変身し、レイモンはゴモラを召喚した。蒼乃と流羽は剣で同時攻撃したが、素早く回避された。続けてゴモラは角を向け突進するが、刀で軽く受け流されてしまった。この剣の腕前、ただ者ではないとこの場にいる誰もが感じた。ネクサスもキックを放ったが、これも回避された。あまりに戦いなれた動きに、この人物は何者なのだろうと感じた。そして、謎の少女は目にも止まらぬ動きで蒼乃たちをかく乱した。あまりの早さに誰も対応が追い付かなかった。

流羽「早すぎるよ~!!」
???「斬月刀奥義 壱の型 疾風」

謎の少女が流羽の間を通りすぎたと思った時には、流羽の右の二の腕から血が溢れ出てきた。

流羽「うぅっ…痛い…」
蒼乃「流羽! 大丈夫!?」
???「斬月刀奥義 弐の型 五月雨」

謎の少女は空高く飛びあがり、一瞬で10個の真空波を飛ばし、あっという間に蒼乃以外は戦闘不能になった。そして、蒼乃と謎の少女は対峙した。

蒼乃「あなたは一体、何者!?」
???「それをあなたに教える事は出来ない…」

謎の少女はすれ違いざまに蒼乃を斬りつけた。蒼乃は体を斬られ、血を流した。

蒼乃「くっ!」
???「やはり、あなた達ではなかったみたい…」
蒼乃「何を…!」
ドラゴニュート「待てーーーっ!!」

ファヴールに乗った状態で上空から急降下してきたドラゴニュートは、見事にファヴールを乗りこなし、自分のものにしていた。

???「! この人…」
ドラゴニュート「大体状況は分かった! お前がセイバークルーザーを墜落させた犯人だな?」
ファヴール「そして、あの人がマスターの仲間を攻撃した、大体そんな感じでしょうか?」
ドラゴニュート「絶対許さねえ! 覚悟しろよ!!」
???「…この人の気迫は…他の人と違う…!」
ドラゴニュート「行くぞっ!」

ドラゴニュートと謎の少女は激しく斬り合った。双方が全く譲らず、どちらの攻撃も当たりそうな所で当たらない、ギリギリの戦いをしていた。

ドラゴニュート「中々やるな…! どうやら全力で戦わないといけないようだ!!」
???「こっちも全力で行く…斬月刀奥義 参の型 流星」

謎の少女は空高く飛びあがり、エネルギーを纏った刀で急降下した。だが、ドラゴニュートはその攻撃を読んでおり、素早く後方に跳んで攻撃を回避した。

???「かわされたっ!?」
ドラゴニュート「今だっ! ストライクソード!!」

謎の少女が体勢を整え直す前にドラゴニュートはストライクソードと言う。強力な突きの攻撃を放った、謎の少女は斬月刀と言う2本の刀で防御したが、ストライクソードの衝撃を吸収しきず、吹っ飛ばされた。

ドラゴニュート「どうだ!」
???「…中々、やる…」
ドラゴニュート「答えろ、お前は一体、何者なんだ?」
???「私はシオリ、あなたは?」
ドラゴニュート「俺はドラゴニュート、クロストライアルのメンバーだ」
シオリ「ドラゴニュート、私は近いうちにまたあなたに会いに来るわ、じゃあね」

シオリと言う名の少女はワイバーンに乗り、空の彼方へ去って行った。

ドラゴニュート「…あいつは一体何だったんだ?」
蒼乃「さあ? でも、あの子はドラゴニュートの事を気に入ったみたいよ?」
ドラゴニュート「勘弁してくれよ…おれはもっと普通の子に好かれたいぜ…」

その後、セイバークルーザークルー達は協力してセイバークルーザーを直すことになった。最新鋭艦なのにも関わらず、修理は割と簡単であり、1時間ほどで修理が完了した。恐らく、想定外の事態に備え、艦の内部は割と簡易的に作られているのであろう。そして、このセイバークルーザーの設計にはアリスも関わっていると聞き、ドラゴニュートはますますアリスが天才だと言う事に気付いたのであった。

蒼乃「どう? 修理できた?」
穂乃果「できましたよ」
蒼乃「じゃあ、クロストライアル本部まで行きましょう」

そして、セイバークルーザーはアグリッサ平原へと向かった。アグリッサ平原は特に何も無い平原であり、本当にそんなところにクロストライアル本部があるのだろうかと思った。そして、翌日の2100年11月14日、無事目的地に到着した。

イオナ「着きましたね」
ドラゴニュート「ここがクロストライアルの本部か?」
蒼乃「そうよ」
流羽「でも、何もないじゃん」
蒼乃「普段は入り口が隠されているのよ、まあ、見てて」

蒼乃はスマホ型の携帯端末を取り出し、通信を開始した。

蒼乃「蒼乃・ブラウスピカです、セイバークルーザー、着艦願います」
AI「顔認証、声紋認証完了、転移します」

すると、急に場所が切り替わり、格納庫らしき場所へ転移した。

ドラゴニュート「ここがクロストライアルの本部か…」
イオナ「そうです、ここがクロストライアル本部の一つ、通称フリーダムベースです」
ドラゴニュート「フリーダムベースねぇ…ん? 一つって事は、他にもあるの?」
イオナ「はい、世界各地に沢山ありますよ」
ドラゴニュート「そうなんだ、クロストライアルってすげー」

フリーダムベースの内部はいかにも秘密基地と言った感じであり、何に使うか分からない設備も多く、慣れるまでに時間がかかりそうであった。

???「あんたらが新しい新入りか?」

俺達が右往左往していると若いガンダム族が3人やって来た為、ドラゴニュートはとりあえず返事を返す事にした。

ドラゴニュート「そうだ、俺はドラゴニュート
流羽「私は流羽だよ」
デスティニー「俺はデスティニー、よろしくな」
フォースインパルス「私はインパルスよ、よろしくね」
ガイア「私はガイア、よろしく…」
ドラゴニュート「こちらこそよろしく!」

デスティニーはザフト軍所属のガンダム族でザフト青い稲妻の異名を持っているザフト軍のエースで、多くの強力な武器を扱って数々の強敵を打ち破った姿は当時ニュースなどで話題になっていた。前大戦終盤はストライクフリーダムインフィニットジャスティス、そしてデスティニーの3人が協力してデスティニープランを提唱するザフトデュランダル議長に立ち向かったのである。
フォースインパルスは、ザフト軍所属のガンダム族でデスティニーの仲間である。流石にデスティニーほどではないが、彼女も凄い戦果を上げたエースだ。現在はフォースシルエットを装着しているが、状況に応じて他の形態にもなる事が可能である。
最後はガイア、彼女は地球統合軍所属であり、前大戦ではデスティニーと何度も戦ったが、最終的にデスティニー達と一緒に戦ったデスティニーの頼もしい仲間である。四足歩行形態に変形する事も出来、名前の通り地上での戦闘能力は目を見張るものがある。
その後、蒼乃に連れられて向かった先は会議室であった。その移動中にドラゴニュートはルートを覚えようとしたが、結構入り組んでてすぐには覚えられそうになかった。しばらくはイオナかデスティニー辺りに頼むしかないとドラゴニュートは感じた。

蒼乃「さて、着いたわね、ここが会議室よ」
ドラゴニュート「へ~、結構しっかりした作りなんだ、何か、どっかの会社の社長室みたいだな」
蒼乃「まあ、クロストライアルの総司令と会議する時もここを使うからね」
イオナ「ちなみに、掃除は全て私がやっています」
ドラゴニュート「そうなんだ、ところで、総司令ってどんな人なの?」
蒼乃「意外かもしれないけど、結構若い人よ、しかも凄くイケメンなの」
ドラゴニュート「へ~、意外だな、もっとヒゲ生やしたおっさんだと思ってた」
蒼乃「実は、私もそう思ってたのよ、って、そんな話は置いといて、あなた達にクロストライアルについて教えるわ」

デスティニー「まず、クロストライアルが対イフィニアド専門組織ってのは知ってるな?」
ドラゴニュート「もちろんだ」
デスティニー「だけど、度重なる怪獣災害や人類同士の争いで消耗したこの地球上には、イフィニアドに対抗できる人材は少ない」
フォースインパルス「そこで、この地球上から優れた人材を集めて、イフィニアドに対抗しようって考えたの」
レイモン「イフィニアドの戦力は大きい、今の状態でまともにぶつかり合ったら絶対に勝てない」
デスティニー「だから、俺達の様な優れた人材を少しずつ集めて、少しずつ戦ってるって訳だ」
ドラゴニュート「確かに、まともにやり合ったら絶対に勝てないもんな」
ネクサス「クロストライアルは迅速に対応できるよう、世界のあちこちに支部を構えている」
レイモン「もしイフィニアドが暴れていたら、その場所に一番近い場所にある支部の人たちがイフィニアドを討伐する、それを続けているんだ」
デスティニー「今も世界のあちこちでイフィニアドと戦ってるはずだ」

ドラゴニュート「その他の支部にいる人達はどんな人達なんだ?」
デスティニー「前大戦で俺達と一緒に戦ったガンダム族の人達とか、地球統合軍から派生した組織であるGフォースやSHOTの人達、クロストライアルに協力体制を取っている民間人のヒーロー達もいるぞ」
蒼乃「それ以外にも大勢の人達がいるわよ、まあ、たくさん協力者がいると思っていればいいわ」
ドラゴニュート「なるほどな、しかし、イフィニアドの戦力…奴らはどれほどの戦力を保有しているんだ?」
蒼乃「それは分からないわ、それでも、私達としてはかなり倒した方なのよ?」
デスティニー「けど、奴らは倒しても倒しても次々と現れる、はっきり言ってキリがない、それに、イフィニアドは戦艦や機動兵器まで保有している、今の地球統合軍やクロストライアルの戦力じゃ対応しきれない」
ドラゴニュート「そうなのか…クロストライアルが結成されても対応しきれないなんて…」
デスティニー「けど、俺達は戦わないといけないんだ、どんなに苦しい事があっても!」
ドラゴニュート「そうだな、戦わないと、もっと多くの人が死んでいく…俺達も協力するよ!」
デスティニー「頼もしい仲間が増えたな! 頼りにしてるぜ!」
ドラゴニュート「ああ、任せとけ!」

その後、ドラゴニュート達は初任務に向かった。その任務とは、アグリッサ平原の周辺で活動しているヴィオレッティ盗賊団の勧誘である。メンバーはドラゴニュートとファヴール、デスティニー、インパルス、ガイア、Gセイバー、エクセリア、ソウル、ミサキの9人。
Gセイバーは前大戦で活躍したガンダム族の1人で、主にF91と一緒に戦って活躍したガンダム族である。
エクセリアは白く長い髪が特徴で、お姫様みたいな顔をしているが、実際イフィニアドに滅ぼされたアストラル王国の王女だ。そんな彼女はアストラル王国の再興と言う目標を持ってアストラル王国に伝わるクリスタルカリバーを駆り、戦っていると言う。
ソウルはエクセリアの知り合いの男性剣士であり、黒いコートを着た銀髪の少年である。漆黒の剣デモンスレイヤーを駆り、若くして病死した妹の遺言である平和な世界を作る為戦っているようだ。ちょっと無口で怖い人物ではあるが、エクセリア曰く根はいい奴だと言う。
ミサキは元地球統合軍の軍人で、若くして軍を辞めたようであるが、イフィニアド襲来と同時にまた戦う事を決意したようだ。面倒見がよくて結構いい人だとドラゴニュートは感じた。

ドラゴニュート「なあ、俺達が勧誘しに行くヴィオレッティ盗賊団って、どんな奴らなんだ?」
エクセリア「そうね…リーダーはヴィオレッティ・ヴィーヴィルって女の子なの」
ドラゴニュート「女の子!?」
ソウル「しかも年齢は18、更に盗賊王だ」
ドラゴニュート「すげえな、そんなに強ければ仲間になったらさぞ頼りになるだろうな」
Gセイバー「けど、そう簡単に仲間にできないのが現状なんだよ」
デスティニー「ヴィオレッティ盗賊団はナイル盗賊団やアクセル盗賊団を取り込んでかなり巨大な組織になってるからな」
ミサキ「今では貴重な動物や精霊を高値で売りさばいたりとやりたい放題、もうどうしようもないわ」
ドラゴニュート「…何か、俺とんでもない任務やらされてます?」
エクセリア「下手したら指の1本ぐらい取られるかもね?」
ドラゴニュート「ひっ!」
ソウル「エクセリア、あまり新入りをからかうな」
エクセリア「あっ、ごめん」
ドラゴニュート「大丈夫だよ」

ヴィオレッティ盗賊団と言う組織の実態を聞いたドラゴニュートは、少し恐怖心を抱いた。もしかすると、自分がクロストライアルにスカウトされた理由は自分を生贄にする為なのか? そんな事を考えていると、目的地に到着した。着いた場所は洞窟であり、どうやら、前大戦で作られた防空壕をそのまま居住スペースにしているらしい。ドラゴニュート達は恐る恐るヴィオレッティ盗賊団の基地に入った。中は思ってたよりはるかに広く、秘密基地感満載のその様に大人ながらに子供心をくすぐられた。一方で、罠があるかと思われたものの、特にそれらしきものはなく、しばらく歩くと、奥の方から騒ぎ声が聞こえてきた。どうやら宴会でも開いてどんちゃん騒ぎしているのだろう、妙に騒がしかった。

ソウル「デスティニー、どうする? 突撃するか?」
デスティニー「いや、しばらく様子を…」
???「あんたら、そこにいるのは分かっているよ、出てきな」

案の定、速攻で気付かれたドラゴニュート達は、恐るべき地獄耳だと感じた。やはり、伊達に盗賊はやってないと言う訳かと思い知らされたドラゴニュート達は、言われたとおりに出て行き、約30名ほどの盗賊たちと対峙した。男女比率が丁度半々のその盗賊団のメンバーは全員が若く、恐らく構成員は10代後半から20代後半のメンバーなのだろう。

デスティニー「俺達に気付くとは、かなりの地獄耳だな、ヴィオレッティ」
ヴィオレッティ「ちょっと入り口に細工をしていてね、誰かが入って来る度にあたしに知らせが来るようにしているのさ」

ヴィオレッティと呼ばれたその少女は盗賊とは思えない程容姿端麗だった。長い紫の長髪は非常に綺麗で、頭には真っ赤な紐リボンを付けている、本当にこんな少女が盗賊王なのだろうか。

ヴィオレッティ「あんた達が最近噂のクロストライアルね、そんな大人数でこんな所に何の用よ?」
デスティニー「簡単な話だ、世界を救う為、クロストライアルに入ってくれないか?」
ヴィオレッティ「なるほど、勧誘ね、悪いけどパス」
Gセイバー「それは何故だ? 今世界は大変なことになっているんだぞ?」
ヴィオレッティ「だって、地球の危機とか、そんな事、全く興味ないんだもん」
フォースインパルス「興味がない?」
ヴィオレッティ「だって、地球を救う為に命を懸けて戦うなんて、全然面白くないじゃない」
アクセル「第一、俺達が仲間になった程度で、そんな簡単に戦局が変わるとも思えないな」
ナイル「はっきり言って、戦うだけ無駄だ」

エクセリア「そんな…! イフィニアドがどれだけ酷い事を行っているのか知って言ってるの!?」
ヴィオレッティ「もちのロンよ、人を殺して街に火を付けてるんでしょ?」
ドラゴニュート「それを知ってて、何故戦わないんだ?」
ヴィオレッティ「そりゃ痛い思いをしたくないからよ、その為ならイフィニアドに寝返る覚悟でいるわ」
ドラゴニュート「!! …それ、本気で言ってるのかよ?」
ヴィオレッティ「本気よ、自分が辛い思いをする事が分かってるのに、何で戦わないといけないのよ」
ドラゴニュート「…何でだよ…」
ヴィオレッティ「ん?」
ドラゴニュート「何でそんなこと言うんだよ! イフィニアドがどんな事してるのか知ってるのに、何でそんなこと言うんだよ!!」

気が付くとドラゴニュートは怒っていた、それも心の底から。怒りと悲しみの感情が混ざり合い、目からは涙を流して、怒っていた。

ヴィオレッティ「…あんた…、何で泣いてるのよ…」
デスティニー「こいつは1年ほど前故郷を滅ぼされ、家族をイフィニアドに殺されたんだ」
ソウル「このままイフィニアドを放っておくと、第2第3の被害者が増え、次々と人が死んでいく、それはお前も、お前の仲間も例外じゃない」
エクセリア「だから、今は地球に住む人達全員で協力して戦わないといけないの!」
フォースインパルス「ずっと戦争を続けていたザフト軍も今は地球統合軍と手を取り合って戦ってる!」
ミサキ「今だけでいい、手を貸してくれないか?」

ヴィオレッティ「………」
アクセル「ヴィオレッティ、今回は俺達の負けでいいんじゃないか?」
ナイル「あいつらは俺達の事も心配してくれている、その想いには応えてやってもいいんじゃないか?」
ドラゴニュート「………」
ヴィオレッティ「…仕方ないわね、クロストライアル、私達もあなた達に協力するわ」
デスティニー「本当か?」
ヴィオレッティ「もちろん、今回はそこの白髪泣き虫に負けたわ」
ドラゴニュート「え? 俺?」
ヴィオレッティ「白髪泣き虫、今回はあなたの勝ちよ、参ったわ」
ドラゴニュート「だったらちゃんとした名前で呼んでくれよ、俺の名前はドラゴニュートだ」
ヴィオレッティ「ドラゴニュート、ね、変わった名前だけど、いい名前じゃない」
ドラゴニュート「ありがとう、これからよろしくな、ヴィオレッティ」
ヴィオレッティ「こちらこそよろしく、ドラゴニュート

こうして、ドラゴニュート達はヴィオレッティ盗賊団の勧誘に成功し、フリーダムベースに帰還した。一度に30人ほどの戦力を補強できた事はかなり大きかったが、規律が乱れないかどうか心配であった。若き盗賊王ヴィオレッティとその仲間達、少し癖はあるが、頼りになりそうだと、ドラゴニュートは感じた。ヴィオレッティ盗賊団を仲間にしたドラゴニュート達は、フリーダムベースの会議室で歓迎会を開いていた。と言っても、このご時世だからあまり贅沢はできず、そこそこの量のお菓子とジュースで歓迎会をしていた。

ヴィオレッティ「と、言う訳で、あたしがヴィオレッティ盗賊団のリーダーで若き盗賊王ことヴィオレッティ・ヴィーヴィルよ、ま、適当によろしく」
アクセル「俺がサブリーダーのアクセル・エムバースだ、よろしくな!」
ナイル「同じくサブリーダーのナイル・アーテライトだ」
蒼乃「ようこそ! クロストライアルへ!」
ヴィオレッティ「で、これから何をすればいいわけ?」
レイモン「とりあえず、イフィニアドが何かするまで待機する感じだな」
ヴィオレッティ「な~んだ、あんたら結構暇してんのね、カフス、疲れたから肩揉んで」
カフス「かしこまりました、ヴィオレッティ様」

ヴァネッサ「アクセル副団長! 肩揉もっか?」
アクセル「いや、いいよ、そんな疲れてないし…」
アネット「本当? 結構疲れてそうだけど…」
アレクシア「無理は禁物だぞ、副団長」
アクセル「いや、ほんとに大丈夫だって…」

ヴェローナ「…ナイル様、肩揉みましょうか…?」
ナイル「いや、いい」
アルル「ナイル様、照れてない?」
ナイル「照れてない」

ドラゴニュート「ったく、賑やかな奴らだな…」
デスティニー「聞いてたほどヤバい奴らじゃなさそうだな」
ドラゴニュート「そうだな」

ヴィオレッティ盗賊団の人達は貴重な動物や精霊を高値で売るって聞いたから危ない人達だと感じたが、そうでもなさそうであった。特に、ヴェローナと言う少女は何故か制服を着ており、きっとそれぞれ事情がある人達が集まってるんだと感じた。そう言うクロストライアルも彼らと一緒で、それぞれにいろんな事情があるんだとドラゴニュートは気づいた。

ヴェローナ「あの…」
ドラゴニュート「うわっ! びっくりした!! 何だ何だ!?」
ヴェローナ「さっきから私の事をずっと見ているようですが、何か用ですか?」

どうやら何故制服を着ているのか気になりすぎてずっと見ていたようだ。ドラゴニュートはこの事を聞いていいのか迷ったが、勇気を振り絞って聞いてみる事にした。

ドラゴニュート「何で制服を着ているんだろうな、って思って」
ヴェローナ「これですか? この服は私のお気に入りなので着ているんです」
ドラゴニュート「あ、そうなんだ、何か事情があるのかなと思ってたよ」
ヴェローナ「事情ですか? 実は皆さんにはいろんな事情があるんですよ」
ドラゴニュート「そうなの?」
ヴェローナ「私は家庭内で虐待の様な教育を受けていましたし、アルルさんは獣人族ってだけで虐待を受けていました」
ヴァネッサ「それに、私は幼い頃にテロで家族を失ってるし、アネットは家族を失ってるし、アレクシアは恋人を失ってる」
ヴィオレッティ「ま、そんな事情のある奴らが集まってるのさ、うちの盗賊団には」
ドラゴニュート「そうなんだ…辛い事を聞いてごめんな」
ヴェローナ「いいんですよ、こういう事、盗賊団ってだけで大体の人は信用してくれませんから」

やはり、この盗賊団の人達も自分達と同じ暖かい血の流れる人間なんだと感じた。イフィニアドに寝返ると言ったのも、きっと大切な仲間を危険な目に合わせない為だと、そう考えると、彼等はとても優しい人達なんだと実感した。

ドラゴニュート「誰が何を言おうと俺は信用するよ」
ヴェローナ「ありがとうございます」
イオナ「皆さん、紅茶を入れました、どうぞ」

イオナの入れた紅茶はすごくいい香りがした。ドラゴニュートはあまり紅茶には詳しくないが、いい感じに入れられてると思った。どうやら、伊達にメイド服を着ているわけではなさそうだ。

イオナドラゴニュートさん、いります?」
ドラゴニュート「いるけど、砂糖を少し入れてもらえるかな?」
イオナ「分かりました」

ドラゴニュートは紅茶にもコーヒーにも砂糖を入れないと飲めない人間であり、当然、ブラックのコーヒーなんて飲めるはずがない微糖派であった。イオナの淹れた紅茶は美味しく、疲れが癒された。その時、フリーダムベース内に警報が鳴り響いた。

ヴィオレッティ「ちょっと何よ!」
穂乃果「大変です! このフリーダムベースに侵入者が現れました!!」
蒼乃「侵入者!? ありえないわ! このフリーダムベースにはクロストライアルの人間以外は絶対に入れないのに!!」
アクセル「けど、今はこうして侵入者が入ったんだ、現実を見ようぜ」
ナイル「第一、どこから侵入したんだ」
穂乃果「それが…急に現れたんです」
ガイア「現れた?」
ドラゴニュート「…そうか! ワープしたんだ」
蒼乃「ワープ…確かにそれならあり得るわね…」
デスティニー「とにかく、今は侵入者の対応をしましょう!」

ドラゴニュート達はすぐに侵入者のいる格納庫近くの物置に向かった、任務は侵入者の捕獲、または排除である。ドラゴニュートは移動しながら何とかルートを覚えようと思ったが、やはり覚えられそうになかった。そうこうしているうちに物置前に到着し、扉の前を包囲した。扉を開けた瞬間、いきなり発砲してくる可能性もある為、オペレーターの穂乃果が注意しながら物置の扉を開けた。ドラゴニュート達は扉が開くのを固唾を飲んで見ていた。一体何が出てくるのだろうか…化け物がいるのか、それとも殺し屋がいるのか…完全に扉が開ききったその場所にいたのは、1人の少年だった。

???「あ、やっと開いたよ、今この扉を吹き飛ばそうかと思ってたから丁度良かった」

そこにいたのは、青髪に青いコートを着た10代ぐらいの少年であり、当然、クロストライアルメンバー全員が知らない人間であった。

蒼乃「あなた…誰?」
???「俺か? 俺はカイトだ」
ドラゴニュート「カイト?」
カイト「ん? お前、ドラゴニュートか? いや、俺の知ってるドラゴニュートとは違うな…」
デスティニー「ドラゴニュート、お前の知り合いか?」
ドラゴニュート「いや、知らないぞ」
カイト「おお、デスティニーにネクサス! それにイオナ! 久しぶりだなあ!」
デスティニー「え? 久しぶり? 初めて会ったばかりなんだけど…」
ネクサス「久しぶりと言われても…知らないから困るなあ…」
イオナ「えっと…どなたでしょうか…?」
カイト「え!? みんな俺の事を忘れたのか!? って、ナイル盗賊団!? 何でいるんだよ!?」
ナイル「いや、なんでいると言われても…」
ヴェローナ「ナイル様、お知り合いですか?」
ナイル「いや、知らんぞ」
アルル「だって~」
カイト「あれ? おっかしいな~、あ! そっか! ここは別の世界なのか!」
ドラゴニュート「別の…世界?」
蒼乃「カイトくん、と言ったわね? よかったら話を聞かせてもらえるかしら?」
カイト「OKだ」
蒼乃「じゃ、着いてきて」

ドラゴニュート達は再び会議室に戻った。このカイトと言う少年、一部のクロストライアルメンバーの事を知っていた、もしこの少年が別の世界の人間なら、別の世界にも一部のクロストライアルメンバーと似たような存在がいると言う事になる、果たしてその人物たちはどんな人物だったのだろうか…。

蒼乃「まず最初に、君は何であそこにいたの?」
カイト「それは俺が聞きたいぐらいだぜ、何であんな場所にいたのか、俺にも分からないよ」
デスティニー「じゃあ、質問を変える、君の覚えてる最後の記憶はどんなだった?」
カイト「えっと確か…カイスマ界に現れた謎のワームホールの調査をしてたらそれに飲み込まれて…あっ!」
ドラゴニュート「それであそこにワープしたって事か…」
流羽「じゃあ、この人達は異世界の人達なんだね」
カイト「ったく、最近流行りの異世界召喚物の主人公になった気分だぜ」
デスティニー「でもそれって、帰る方法が分からない、って事だよな?」
カイト「参ったなぁ…あのワームホールには他にも何人か飲み込まれたのに…」

ドラゴニュート「じゃあ、俺達が協力するよ」
カイト「え? いいのか?」
ドラゴニュート「もちろん!」
蒼乃「ちょっとドラゴニュート! 勝手に決めないでよ」
ドラゴニュート「いいじゃん、困った時は助け合いでしょ?」
蒼乃「た…確かにそうね…分かったわ、他の支部にも連絡を入れてイフィニアドと戦うついでに仲間を探してもらうわ」
ドラゴニュート「ありがとう姉ちゃん!」
カイト「助かったぜ、ありがとな」
蒼乃「その代わり、一緒にイフィニアドと戦ってくれるかしら?」
カイト「イフィニアドと…か、どんな奴らかは知らないけど、多分悪い奴なんだろうな、いいぜ! 協力するよ」
蒼乃「ありがとう、これからよろしくね」
カイト「おう!」

新しく仲間になったカイト、この少年は異世界人だが、中々面白くて頼りになりそうだ。そしてこの少年を吸い込んだワームホールの正体は何なのか。その事が気になりつつも、ドラゴニュート達は歓迎会を楽しむのだった…。

一方、フリーダムベース周辺以外では、戦争が激化の一途を辿っていた。2100年11月18日、雪国フォルフォルンにあるイフィニアド基地。この基地はそれほど戦いに影響のない小さな基地だった。しかし、この基地に今、異世界からの来訪者がやってきた。

キルシュ「うっ…ここはどこでしょうか…?」
ランス「寒いですね…雪でも降ってるんでしょうか?」
フリスト「そうですか? 私には普通に思えますが…」
ヴァンパイアス「氷使いのお前は寒さなんか感じないんだろうな」
ドレイク「ここにいるメンバーは俺以外全員女か」

このイフィニアド基地にいる5人は、全員カイスマ界からやって来た。カイスマ界は大乱闘の行われている世界で、普段は大乱闘をしているが、同時にダークシャドウと言う悪の戦士率いる軍勢と戦っており、ダークシャドウが攻めてくる度にカイスマメンバーはその刺客と戦っている。

キルシュはカイトの恋人であり、カイトの事を溺愛しているピンク髪の少女である。
ランスは名前の通り槍使いで、青髪と大きな胸が一番の特徴だ。
フリストは氷使いの少女で、女性カイスマメンバーでは貴重なロリキャラで、コアな人気がある。
ヴァンパイアスは名前の通りヴァンパイアであり、炎を使った戦いを得意とする。
ドレイクはケモ耳と尻尾の生えた男性であり、冷静な性格でここぞと言う時に頼りになる。
ドレイク達が異世界に来て困惑していると、どこからか足音が聞こえてきた。ドレイクたちの前に現れたのは、機械っぽい生物だった。かつてカイトがアルスマ界で出会った者の扱う機体に似ている。恐らく、その機体によく似た生物だろう。

ダナジン「お前ら、何者だ?」
ドレイク「俺達はカイスマメンバーの者だ」
レガンナー「カイスマ? なんだそりゃ」
キルシュ「やはりここは異世界ですね…」
エビル・エス「お前ら、異世界から来たのか?」
グーン「異世界から来たと言えば、この間この基地に同じような奴らが来て、そいつらもカイスマがどうとか言ってたな」
ドレイク「何っ!? そいつらはどこにいる」
ダナジン「暴れたから牢屋にぶち込んだよ」
キルシュ「そんな! 早く解放してください!」
グーン「駄目だ、俺達イフィニアドの邪魔になる奴は誰だろうと叩き潰すまでよ」
ドレイク「そうか、ならば俺達にも考えがある」
ゲイツR「何だ?」
ヴァンパイアス「武力行使するって事よ」
ダナジン「は?」
フリスト「粉吹雪!!」

フリストは粉吹雪で攻撃し、イフィニアドの部隊は一瞬にして凍り付いた。

ダナジン「ぐっ! お前ら、何を…」
ヴァンパイアス「次はこんがり焼いてやるよ、フレイム!!」

ヴァンパイアスはフレイムを放ち、イフィニアドの部隊を焼き尽くし、イフィニアドの部隊はきれいさっぱり燃え尽きた。

一方、基地の外ではクロストライアルの少数部隊が到着していた。

ストライクノワール「作戦エリアに入った」
ミゲル「しっかし、クロストライアルの司令も無茶言うな、俺達だけでイフィニアドの基地を潰せだなんて」
シホ「だが、これ以上イフィニアドの好きにさせない為にもこの作戦、必ず成功させなければ!」

クロストライアルの少数部隊は、ストライクノワールと言う黒いガンダム族とミゲルと呼ばれるオレンジ色のジン、そして、シホと呼ばれる女性のシグーディープアームズ、そして、ジェガン、ヘビーガン、ダガーLウィンダム、クランシェ、アデル等と言った地球統合軍のMS族で構成されていた。
ストライクノワールは前大戦ではファントムペインと言う組織に所属しており、遺伝子操作されて誕生したコーディネイターをひたすら抹殺していたが、スターゲイザーと言うコーディネイターガンダム族と宇宙を漂流した事でコーディネイターに対する考えを変え、今はコーディネイターと共にイフィニアドと戦っている。
ミゲルは4年前の地球統合軍とザフトの戦争の頃から戦っているザフト軍のエースであり、ナチュラルと呼ばれる遺伝子操作されていない人種を嫌っていたが、様々な戦いを得て徐々にその考えを変えていき、現在はナチュラルが多く所属するクロストライアルで戦っている。
シホも4年前の戦いの頃から戦っているザフト軍のエースであり、かつてはミゲルと共にデュエルガンダム率いるデュエル隊で戦っていた。現在はミゲルと共にストライクノワール率いるノワール隊で戦っている。

ストライクノワール「…ん?」
シホ「隊長、どうしました?」
ストライクノワール「基地の中から戦闘音が聞こえる…」
ミゲル「まさか! 俺達以外にも別動隊がいると言うのか?」
シホ「でも、そんな話は聞いていないわ」
ストライクノワール「…レジスタンスが基地を攻撃しているのか…?」

その基地の中では、ドレイクたちカイスマメンバーが仲間を奪還する為にイフィニアドと戦っていた。敵はイフィニアドに洗脳されている怪獣達であり、一撃一撃が重いものの、何とか戦えていた。

ランス「しかし、この世界にも怪獣がいるなんて…」
ドレイク「何でだろうな、それより、もう一体いるぞ」
キルシュ「あれは、メルバですね」
ヴァンパイアス「焼いたら旨そうだな、フレイム!!」
メルバ「ギャアアアッ!!」

メルバはヴァンパイアスのフレイムでこんがり焼けた。

ヴァンパイアス「おおお! 上手に焼けた!」
ドレイク「んなもん食ったら腹壊すぞ…」
ヴァンパイアス「いっただっきまーす!!」
ドレイク「はぁ…先に行ってるからな」
ヴァンパイアス「かしこま~」

一方、基地の司令室ではこの基地の司令官のドトール・レックスがドレイクたちの戦いの様子をモニターで見ていた。

ドトール「あいつら…一体何者なんだ…」
ネイル「あれだけの部隊をあっさりと…」

司令官のドトールは部下想いであり、人望が厚い。部下のネイルとは恋人同士であり、よくバカップルと言われている。
そのネイルは長い金髪と緑の瞳が特徴で、戦いはあまり得意ではないが、ドトールの事を溺愛している。
ドトールは部下のババルウ星人とザム星人が心配する中、部下を置いて逃げる訳にはいかないと、ネイルと共に最後まで戦い抜く事を決めていた。
一方、ドレイクたちは仲間が囚われていると思われる牢屋に到着した。

ドレイク「ここが牢屋だな」
フリスト「薄暗くて怖い…」
ダークカイト「お前ら! 来ていたのか!!」
ドレイク「お前…ダークカイトか! それにサルマンにレオナルドまで!!」

ダークカイトはカイトのクローンで、カイトの永遠のライバルである。髪の色は紫になっており、中二病全開の性格をしている。生み出したのはDr.Gayと言う科学者だが、既に故人である。
サルマンは猿の頭をした謎のヒーローであり、かつてカンキョーハカイ首領と戦い、倒したヒーローである。
レオナルドはスペースキラーの別名を持っており、怪獣殺しの専門家でもある。カイスマメンバーの中で一番プライドが高い雷使いで、鎌を使って戦闘する。
ちなみに、ダークカイトはテレポートと言う能力が使えるが、何故か使う事ができないようであり、困っている。その時、メルバを食べ終えてあまり旨くなかったと文句を言いながらヴァンパイアスがやって来た。ドレイクは、ヴァンパイアスの炎で鉄格子を溶かすよう頼んだ。ヴァンパイアスは全力で炎を放ち、鉄格子は見る見るうちに真っ赤になっていき、やがて溶けた。その後、フリストの氷で溶けた鉄を冷やし、脱出に成功した。その後、ダークカイトは自分に恥をかかせたドトールを潰しに向かう事を決めた。そして、ドレイクたちは基地の司令室向けて進んで行った。その様子をドトールは司令室のモニターで見ていた。

ネイル「あいつら…こっちに来てる…」
ドトール「そろそろ潮時か…ババルウ星人、ザム星人、お前達は部下を連れて脱出しろ」
ババルウ星人「おいおい、何言ってるんだよ」
ザム星人「俺達も最後まで戦う気でいるぜ?」
ドトール「駄目だ、お前達は脱出して他の部隊と合流するんだ」
ババルウ星人ドトール、お前…」
ドトール「お前達は生きて、異世界から来た者たちの危険性を他の部隊にも伝えるんだ」
ザム星人「つまり、俺達に生き証人になれって事か」
ドトール「そう言う事だ、頼めるな?」
ババルウ星人「ああ、任せろ」
ザム星人「ドトール、すまん!」

ババルウ星人とザム星人は大勢の部下と共に脱出用のシャトルへと向かった。その直後、ドレイクたちは司令室に到着した。そこにはドトールとネイルの2人しかいなかった。

ダークカイト「貴様…覚悟はできているな…?」
ドトール「勿論だ! かかって来い!!」

ダークカイトとドトールの決闘が始まり、ドトールは長い刀で斬りかかった、しかし、ダークカイトにあっさり切り払われた。続けてダークカイトは闇の球、シャドーボールで攻撃した。シャドーボールドトールの腹部に命中し、ドトールは吹っ飛び、壁にぶつかった。

ドトール「がはっ!!」
ネイル「ドトール!!」
ドトール「やはり…ババルウ星人たちを逃がして正解だった…あいつらは…危険だ…」
ダークカイト「さて…そろそろトドメを刺してやるか…」
キルシュ「待ってください!」
ダークカイト「何だ」
キルシュ「もう、いいんじゃないでしょうか? もう彼等に戦う力は残っていません、それに、今の状況だとどう見ても私達が悪役です」
ダークカイト「はぁ…ドトールとやら、命拾いしたな」
ドトール「お前ら…優しいんだな…」
ネイル「あ…ありがとう…」

戦いが終わった直後、司令室にはノワール隊が到着した。

ミゲル「おいおい、もう終わっちゃってるよ…」
シホ「私達が来るまでもなかったわね」
ストライクノワール「全てが終わった後、と言う訳か」
レオナルド「あぁん!? 何だてめえらは!?」
ダークカイト「その見た目…お前らも敵か…?」
ミゲル「落ち着け! 俺達は戦うつもりはない」
シホ「私達はただ、ここで起こった出来事を教えて欲しいだけよ」

ドレイクは自己紹介と自分達が異世界から来た事、これまでのいきさつ、自分達の所属をシホに教えた、すると、ストライクノワールは彼等が異世界から来た事を認めた。そして、ドレイク達は行く当てもない為、一時的にノワール隊のメンバーとして同行してもらう事になった。また、ドトールとネイルは戦闘の意思がない為、捕虜となった。こうして、フォルフォルン基地は制圧されたのである。

所変わって、2100年11月20日、日本の降星町でも、大きな争いが起きようとしていた。ここはイフィニアドの支配も及んでいない平和な街だ。しかし、この町に脅威が迫っている事はこの町に住む誰も知らなかった…。

翼「みんな、今日も頑張るぞ!」
瑠依「うん! 頑張ろ!」

翼は正義感の強い好青年で、将来は地球統合軍に入るのが夢らしい。また、同じ学校の瑠依とは仲が良い。
瑠依は小さな村から降星町にやって来た少女で、体を動かす事が大好きな少女だ。同じ村から来た翼とは仲が良い。

ギンガ「そうだな! やっぱリーダーはこれぐらい頼もしくないと!」
タロウ「ギンガの言う通りだ、リーダーと言うものはみんなに頼られる存在でなければならない、そう、私の父さんやゾフィー兄さんのような…」
瑠依「ストップ! それ以上は長くなるから…」
アリア「大体、あんたは話始めると長いのよ!」
タロウ「そ…それはすまなかった…」

ギンガはウルトラ族であり、高校生として暮らすと同時に降星町の平和を守っている新人ウルトラマンだ。しかし、謎の多いウルトラマンであり、その存在についてはタロウも知らない。
タロウはかつて地球を守ったウルトラマンだが、ダークルギエルと言う存在によってスパークドールズと言う人形に変えられている。
アリアは武偵と呼ばれる武装した特殊な探偵をやっており、現在はこの降星町で学生をやりながら活動している。
これから学校に通おうとしていたギンガ達だったが、その時、上空から何かが降下してきた。

ギンガ「おい、何か来るぞ?」
アリア「あれは…! ヴェイガンよ!!」
瑠依「嘘でしょ!? ヴェイガンって、あのヴェイガンだよね!?」
翼「50年近く前から地球統合軍と戦争しているあいつらか…まずいな…」

葵「翼くん達! 何してるの! 早く逃げて!!」
翼「葵さん!」

葵と呼ばれる女性はこの近くに住んでいるOLで、今日は有休を取って会社は休みだった。翼やギンガなど、降星町の学生たちと関わる事も多い優しい女性だ。

葵「こっちよ! 早く!」
翼「分かりました! って、ギンガ! アリア! どこ行くんだ!?」
アリア「分かんないの? あんた達が逃げる時間を稼ぐのよ」
葵「そんな無茶な! 相手は軍人なのよ?」
ギンガ「大丈夫だ! 任せろ!」
瑠依「ど…どうなっても知らないからね!」

翼たちが完全に視界から消えた事を確認すると、ギンガとアリアはヴェイガンの部隊と対峙した。

ダナジン「こんな辺境の片田舎とはいえ、いるわいるわ有象無象の地球種どもが」
ギンガ「ヴェイガンか何か知らねえが、みんなのが平和に暮らす町を壊させはしない!」
ドラド「我らのエデンを穢す地球種ども! この地上に貴様らの住む場所はない!」
アリア「何がエデンよ! 勝手な事言ってんじゃないわよ!」
ガフラン「さっきから偉そうな事を言っているが、たった2人で何ができる!」
ギンガ「そのたった2人を舐めると痛い目見るぜ! ヴェイガン!」
レガンナー「そうか、ならば全力で叩き潰してやる!」
アリア「来るわよ! ギンガ!」
ギンガ「OKだ! アリア!」

ギンガとアリアはヴェイガンのビーム攻撃を素早くかわした。そして、ギンガはヴェイガンのMSに接近し、ギンガセイバーで攻撃した。ヴェイガンのMSは次々と真っ二つになり、爆散していった。
一方のアリアは攻撃を回避しつつ武器のコルト・ガバメント・クローンでヴェイガンのMSを射撃した。アリアの射撃の腕は確かであり、ヴェイガンのMSの弱点を次々と撃ち抜いていった。

ダナジン「中々やるようだな、地球種!」
アリア「おだてても何も出ないわよ、ヴェイガン」
ギンガ「そんな事より、さっさとこの町から出て行け!」
ドラド「残念だが、そう言う訳にはいかんのだよ」
ダナジン「イフィニアドから貰ったあの兵器を出せ!」

ダナジンの合図で空中に待機していたイフィニアドの輸送艦ブロザードから何かが落下してきた。それは、イフィニアドの主力機動兵器デストルクシオンだった。その悪魔の様な姿をした兵器は多数の弾薬を積んでおり、命を奪う為だけに作られた大量殺戮兵器だ。更に、装甲も堅く、並大抵の攻撃は全く通用しない厄介な相手でもある。

アリア「イフィニアドの機動兵器ね、相手にとって不足はないわ」
ギンガ「どんなに強くても、俺はその上を行くぜ!」
ダナジン「身の程知らずめ、やれ!」

デストルクシオンは腕部の高出力ビーム砲を放ち、ギンガたちを攻撃した。攻撃は外れたものの、その爆発の威力は凄まじく、ギンガとアリアは吹っ飛ばされた。

ダナジン「見たか地球種! これがイフィニアドの機動兵器の力だ!」
ギンガ「何て力だ…圧倒的じゃねえかよ!」
アリア「まだ負けたわけじゃないわ! 食らいなさい!!」

アリアはコルト・ガバメント・クローンを発砲したが、デストルクシオンの重装甲の前には通用しなかった。

アリア「あたしの武器じゃ通用しないようね…ギンガ! あんたの番よ!」
ギンガ「OK! 任せろ! ギンガクロスシュート!!」

ギンガは必殺光線のギンガクロスシュートを放った、その光線はデストルクシオンの弱点である頭部に命中し、デストルクシオンは爆散した。

ギンガ「よっしゃあ! 見たか!!」
ダナジン「馬鹿な…! くっ! こうなったら、この町を爆撃で焼き払ってやる! やれ!!」

ダナジンの合図で上空のブロザードから爆撃が行われた。その爆発で降星町は火の海と化していく。

ギンガ「やっ…やめろ!!」
アリア「ギンガ! 早くあの戦艦を止めるわよ!!」
ダナジン「そうはさせん!!」

ヴェイガンのMSはここぞとばかりにビーム兵器を連射した。ギンガ達はかわすのに精いっぱいでブロザードを攻撃できない。

アリア「ちょっ…あんたたちねぇ!!」
ギンガ「このままじゃ降星町が…!!」

すると、どこからかビーム射撃が放たれ、ブロザードは轟沈した。

バクト「ブロザードが!!」
ダナジン「くそっ! どこからの攻撃だ!?」

雲の間から現れたのは、地球統合軍所属の戦艦ディーヴァだった。ディーヴァは50年近く前に建造された老朽艦だが、今も改修を繰り返され、地球統合軍にて運用されている戦艦である。

ダナジン「あの戦艦は、ディーヴァか!」
ガフラン「おのれ、ディーヴァめ! 我々ヴェイガンの邪魔をしやがって!!」

すると、ディーヴァのカタパルトから1機のMSが発進した。

ギンガ「あれは…ガンダム?」
アリア「でも、見た事がないわね」
???「ヴェイガン! ヴェイガンは僕がやっつけるんだ!!」
ドラド「ガンダムだと!?」
バクト「おのれガンダム! また我らの邪魔をするのか!!」
ダナジン「総員、あのガンダムを撃ち落とせ!!」

ヴェイガンのMSは一斉にガンダムに射撃を仕掛けたが、ガンダムはその攻撃を華麗に回避し、地面に着地した。

ギンガ「お前…一体…」
???「僕は、ガンダムAGE-3です、この町の人たちを助けに来ました」
アリア「ガンダムAGE-3…」
AGE-3「みんなを悲しませるヴェイガン! これで一気に倒してやる!」

ガンダムAGE-3はブラスティアキャノンを発射した。ブラスティアキャノンはシグマシスライフルの出力を上げる小型のフォトンリングレイを装着しており、圧倒的な火力を誇る。

ダナジン「おのれガンダムゥゥゥッ!!!」

20体以上いたヴェイガンのMSは一瞬にして消し炭になった。ギンガとアリアはブラスティアキャノンの威力を目の当たりにし、驚いていた。

ギンガ「凄ぇ…凄ぇよ! あのヴェイガンの部隊を一瞬で!」
アリア「ガンダムはここまで進化したのね、凄いじゃない」

戦闘終了後、ディーヴァが降星町に着艦し、避難民の救助などにあたった。降星町はヴェイガンの攻撃とブロザードの爆撃によってかなりの被害を受けていた。辺りには人の死体が転がっており、物や人の焼ける匂いが辺り一帯を覆っていた。

瑠依「何とかヴェイガンに勝てたけど…」
翼「こいつは酷え…」
AGE-3「じいちゃん…町が燃えてるよ」
AGE-1「この光景を忘れるな、AGE-3、今の地球はこのような光景で溢れている、そして、その元凶の一つが、地球を滅ぼす悪魔ヴェイガンだ」
AGE-3「…僕、倒すよ、こんな事をするヴェイガンの奴らや、イフィニアドを絶対に倒す!」

AGE-3がそう決意すると、AGE-1は艦の方へと去って行った。そして、ギンガたち学生はAGE-3の話をしていた。

瑠依「あの人がギンガたちを助けてくれたガンダムAGE-3くん?」
ギンガ「そうだよ、すっげえんだよな、ヴェイガンの部隊を一瞬で倒したんだから!」
葵「そして、さっきまで隣にいたのがガンダムAGE-1さん…確か、地球統合軍の元司令官ね…」
翼「でも、やたらヴェイガンに対しての憎しみが強いような気がします」
葵「確かにそうね…」

ギンガ「なあ、AGE-3! お前凄えな! どうやったらあんな戦い方ができるんだ?」
AGE-3「じいちゃんが昔からやらせてくれたゲームで戦い方を学んだんです」
アリア「ゲーム…?」
AGE-3「そのゲームはじいちゃんがヴェイガンと戦う為に僕に戦い方を教えてくれるシミュレーターとして買ってくれたんです!」

AGE-3が喜んでいると、町の方から一人のクランシェが歩いてきた、ディーヴァのアビス隊所属のシャナルアと言う女性隊員だ。

シャナルア「…ずいぶんと嬉しそうだね?」
AGE-3「だって、敵を一気に20体ぐらい倒せましたから! これで僕もじいちゃんの役に…!」
シャナルア「敵を倒せたことがそんなに嬉しいかい?」
AGE-3「え?」
シャナルア「敵にだって家族はいるんだ! 戦争は喜んだり、嬉しくなったりするような…そんなもんじゃないんだよ…!」
AGE-3「ヴェイガンにも…家族…」
シャナルア「AGE-3、これだけは忘れないで、戦いは生命のやり取りをしているの、それはあんたが子供でも変わらない」
AGE-3「はい…」

そう言うと、シャナルアはまた町の方へ去って行った。

翼「いい人だけど、ちょっと厳しそうだったな、あの人」
葵「あれはあの人なりの優しさの表れよ、翼くん」
翼「そうなんですか? 俺には分かんないよ」
葵「あなたにもきっと分かる日が来るわよ」

AGE-3「………」
ギンガ「あんまり気に病みすぎるなよ、AGE-3、お前は凄え奴だよ!」
AGE-3「ありがとうございます、えーっと…」
ギンガ「ギンガ! ウルトラマンギンガだ!」
AGE-3「ギンガさんですか…ありがとうございます!」

アリア「ところでこれからどうするのよ?」
翼「どうするもこうするも帰る場所を失っちまったし…」
ギンガ「学校も破壊されちまったしな、はぁ…これから野宿かぁ…」
セリック「いや、君達は避難民として、この艦に乗艦する事ができるぞ」

そう言ったのは、アビス隊の隊長のセリックと言う名のクランシェカスタムだった。その独自の観察眼から戦場のホームズとも呼ばれている。

ギンガ「それはほんとか!?」
セリック「本当さ、こんなご時世だからね、帰る場所がない人を放置するわけにもいかないだろ? 後、俺の名前はセリックだ」
ギンガ「ありがとう、セリックさん!」
セリック「例には及ばないさ、困った時は助け合いだからね」

そして、ギンガたちと降星町の生存者はディーヴァに乗り込んだ。

瑠依「そう言えば、これからどこに向かうんだろ…」
シャナルア「日本の首都、東京に行くらしいわよ」
翼「東京か…あそこも今大変な状況じゃなかったっけ?」
葵「そうね、一応大勢のヒーローが戦ってるけど…」
セリック「できればオーブ連合首長国辺りに避難民を降ろせるといいんだけどね」
オブライト「大変な思いをした避難民をこれ以上危険な目に合わせたくないしな」

そう言ったのはオブライトと言う名のジェノアスIIだ。体にパーツを多数取り付けており、カスタム仕様になっている。23年前のヴェイガンとの戦いの頃から戦っているベテランだ。

ギンガ「オーブって確か、あの中立国だよな」
葵「そうよ、ストライクルージュ代表の治めている国ね」
シャナルア「あそこならきっと避難民を受け入れてくれるはずよ」
セリック「だが、あの国も時々イフィニアドに攻撃を受けているらしい」
オブライト「今はストライクフリーダムたちが防衛に回っているが、それもいつまでもつか…」
翼「今はどこも大変なんだな、中立国でさえ攻撃を受けるなんて…」
葵「中立国だろうと何だろうと、イフィニアドにはただの攻撃対象にしか見えないのよ」
セリック「だから、俺達が戦ってるんだ、安心してくれ」
翼「はい!」

セリック「おっと、そろそろディーヴァが発進するみたいだな」
瑠依「降星町を離れて、東京に行くんだね」
オブライト「安心しろ、君達は絶対に我々が守ってみせる」
セリック「さあ、行くぞ!」

こうして、ギンガたちはディーヴァに乗り込み、降星町を離れて東京に向かうことになった。彼らの行く末に一体何が待っているのか…。

2100年11月22日、クロストライアル上層部からセイバークルーザー隊に観光都市アロイスにイフィニアドが潜入しているから討伐しろと直々の命令が下った、ドラゴニュート達は調査舞台を結成し、目的地の調査を開始した。その後、蒼乃の命令でドラゴニュート、カイト、イオナ、蒼乃の4人は解散し、怪しそうな場所をくまなく探す事になった。

ドラゴニュート「とは言っても、どこを探せばいいんだよ…うちの姉ちゃんもいい加減だな…」

その時、ドラゴニュートの目の前で少女が青いエレカに轢かれそうになっていた。それを見たドラゴニュートは思わず飛び出し、間一髪で轢かれそうになっていた女の子を救出した。と言っても、あと一歩遅れていれば2人ともただでは済まなかったかもしれない。

ドラゴニュート「君…大丈夫…?」
女の子「は…はい…」
ドラゴニュート「無事でよかった…」

すると、さっきのエレカから一人の男性が降りてきた。

男性「ごめんごめん! 君、大丈夫だったかい?」
女の子「は…はい、大丈夫です」
ドラゴニュート「ったく、もっと気を付けて運転してくれよな!」
男性「ごめんね、今度からは気を付けるよ」
ドラゴニュート「頼むぜ」

男性は再びエレカに戻り、エレカを走らせて去って行った。

女の子「すみません、私の為に…私、アイラと言います」

アイラと言う少女は綺麗な金髪でその髪をツインテールにしていた。顔は非常にかわいらしく、ドラゴニュートの好みの顔だった。服装から察するに、この辺りの学生だと思われる。ドラゴニュートはとりあえず自己紹介を返す事にした。

ドラゴニュート「アイラか、俺はドラゴニュートだ」
アイラ「助けていただいてありがとうございます!」
ドラゴニュート「なに、当然の事をしたまでさ」

その時、ドラゴニュートは何かの縁だからと一緒に行動する事を考えた。一応、現在は仕事の最中ではあるが、ばれなきゃ大丈夫だろうと思い、アイラに提案をした。

ドラゴニュート「なあ、これも何かの縁だし、一緒に出掛けないか?」
アイラ「もちろんいいですよ、これも何かの縁ですしね」
ドラゴニュート「OK! じゃ、行こうぜ!」

ドラゴニュートとアイラは観光都市アロイスを巡って回った。流石、観光都市と言うだけはあり、綺麗な街並みに、大きな噴水、色んな店があった。アイラは、どこに行っても楽しそうで、嬉しそうだった。その様子を見て、ドラゴニュートも嬉しくなった。ドラゴニュートはイフィニアドの事から解放され、存分に楽しんだ。その後、ドラゴニュートはアイラを連れ、クレープ屋に向かった。クレープ屋はかなりあった為、とりあえず一番近くにあったクレープ屋に向かった。すると、そこには懐かしい人物がいた。

サイン「おっ! ドラゴニュートじゃん!」
ドラゴニュート「お前、サインか!? 久しぶりだなぁ! どうしたんだよ、こんな所で」
サイン「クレープ屋のバイトだよ、そんな事より、お前は女の子連れてデートか?」
ドラゴニュート「ち…ちげーよ馬鹿!」
アイラ「あの…この方は…?」
ドラゴニュート「ん? ああ、俺の昔の友達だよ、俺の故郷がイフィニアドに襲撃された時に離れ離れになったけど、こうして生きててくれて本当に良かった…」
サイン「俺も、久々にお前に会えて嬉しいぜ」

サインはドラゴニュートの故郷で仲が良かった友人で、よく一緒に遊んでいた人物だ。時には近所で有名なタイショーと言うガキ大将怪獣を冬の池に突き落としたりした。もちろん、その後サイン共々半殺しにされたようだ。

ドラゴニュート「そう言えば、他のみんなはどうしてる?」

サイン以外の友人たちはあの日以来音沙汰がなく、クールな性格のロンや、後輩キャラのレイフィルなどはどこで何をしているか不明である。その為、情報を仕入れてそうなサインに聞く事にした。

サイン「ん~、分っかんない、みんなあの時から会ってないからな~、まあ、でも大丈夫だろ」
ドラゴニュート「いい加減な奴だな…」
サイン「わりいわりい、代わりにクレープはサービスしてやるよ」
ドラゴニュート「いいのか?」
サイン「ああ、いいぜ! お前も元気でな!」
ドラゴニュート「ああ!」

ドラゴニュートはサインに貰ったクレープを持ってアイラと共に外に出た。

ドラゴニュート「ほら、アイラ」
アイラ「あの…私、ちょっとトイレに行ってきます」
ドラゴニュート「ん、分かった」

アイラは街の奥の方に向かって行った。だが、アイラはトイレに行くふりをして街の人目に付かない路地裏に来ていた。

アイラ「目標との接触に成功しました」
???「ご苦労だったね、じゃあ、そのまま指定の位置まで誘導よろしく」
アイラ「はい」
???「もちろん、怪しまれないようにね?」
アイラ「はい、分かりました」
???「このミッション、失敗は許されないからね?」
アイラ「承知しております、私の命に代えても、必ず成功してみせます」

しばらくして、アイラが帰ってきた。

アイラ「すみません、待ちましたか?」
ドラゴニュート「ん? 全然待ってないよ」
アイラ「そうでしたか、それはよかったです」
ドラゴニュート「はい、クレープ」
アイラ「ありがとうございます」

アイラはクレープを美味しそうに食べていた。クレープを食べる時のアイラの笑顔を見て、ドラゴニュートも笑顔になった。アイラがクレープを食べ始めて、ドラゴニュートもクレープを食べる事にした。味はそれなりに甘いが、甘すぎず、手ごろな甘さが癖になった。

アイラ「あの…ちょっといいですか?」
ドラゴニュート「ん? 何だ?」
アイラ「ドラゴニュートさんと、二人で一緒に行きたい所があるんです」
ドラゴニュート「行きたい所? アイラが行きたい所なら、どこでもいいぜ、さ、行こ」
アイラ「はい!」

アイラが連れて来た場所は、観光都市アロイス周辺の草原だった。人工物が全くなく、綺麗な場所だった。空気も美味しく、心が落ち着いた。

ドラゴニュート「ここは…?」
アイラ「ここは、私のお気に入りの場所なんです、私、都会生まれで、ずっと都会で暮らしていたので、こういった自然の多い場所が大好きなんです」
ドラゴニュート「そうなんだ、確かに、自然の多い場所は暮らしやすいもんな」
アイラ「ドラゴニュートさんも都会生まれなんですか?」
ドラゴニュート「いや、俺は田舎生まれだよ、幼い頃からずっと田舎で暮らしてたんだ、都会は何でも売ってて凄く便利なんだけど、やっぱり自分の暮らしていた環境が一番落ち着くんだよな、自然の中で採れる食べ物はどれも美味しいんだ、アイラもきっと喜んでくれるよ」
アイラ「いつか私も、連れて行ってくれますか?」
ドラゴニュート「もちろんだよ、いつか必ず連れて行ってあげるさ」
アイラ「ありがとうございます、ドラゴニュートさん」

そんな話をしている内に、2人はアロイス峡谷に着いた。アロイス峡谷は、眺めが綺麗な事で有名な観光スポットである。

アイラ「着きました、この眺めを見せたかったんです」
ドラゴニュート「綺麗だ…」

峡谷の奥に見える青空は非常に綺麗で見ているだけで心が癒された。イフィニアドに故郷を襲撃されて以降、全く落ち着ける時間はなかったが、この景色のおかげで久々に心が落ち着いた気がした。

アイラ「綺麗ですよね、私が初めてこの景色を見た時、凄く感動しました、なので、いつか誰かに見せたいなとずっと思ってたんです」
ドラゴニュート「だから、俺に見せてくれたのか?」
アイラ「はい」
ドラゴニュート「ふふっ、ありがとな」
アイラ「どういたしまして」

ドラゴニュートとアイラは2人で寄り添ってきれいな景色を眺めていた。ずっとこんな時間が続けばいいと思えた、だが、自分がクロストライアルにいる限り、それは許されない。そろそろ蒼乃たちがイフィニアドを捕まえるか倒すかしている頃だろう、ドラゴニュートはこの幸せな時間を終わらせ、仲間の元に戻る事にした。

ドラゴニュート「…そろそろ帰ろう、アイラ」
アイラ「………」
ドラゴニュート「…アイラ?」
アイラ「ごめんなさい、ドラゴニュートさん…死んでもらえますか?」
ドラゴニュート「…え?」

その瞬間、ドラゴニュートの目の前に光るものが走った、ナイフだ。ドラゴニュートは間一髪回避したが、右腕をざっくり切ってしまった。その傷口から出てきた血が服に滲み、地面に血がボタボタと滴る。そして腕をざっくりと切った事で激しい痛みがドラゴニュートを襲った。

ドラゴニュート「ぐっ! アイラ、何すんだよ!!」
アイラ「まだ分からないんですか? 私が観光都市アロイスに潜入したイフィニアドの兵士ですよ」
ドラゴニュート「な…何言ってんだよ…冗談だよな? な?」
アイラ「冗談な訳ないでしょ!!」
ドラゴニュート「!!」
アイラ「冗談だったらこうして好きな人を殺すような真似しません…したくないですよ!!」

アイラは鋭いナイフを振り回してドラゴニュートを攻撃した。左腕、右足、左足とどんどん傷が付いていく。だが、ドラゴニュートはどうしてもアイラを攻撃できなかった。

アイラ「ど…どうして…どうして攻撃しないんですか!? このままじゃあなた死にますよ!?」
ドラゴニュート「できるかよ…そんな事できるかよ!!」
アイラ「何で…何でですか! 私はあなたを殺そうとしてるんですよ!?」
ドラゴニュート「好きだからだよ!!」
アイラ「えっ!?」
ドラゴニュート「俺はアイラが…アイラの事が好きだから! だから攻撃できないんだよ!!」
アイラ「そんな…私はあなたの敵なのに…」
ドラゴニュート「だからどうした! 正義の味方が敵を好きになっちゃいけないのかよ!! もしそれを駄目って言う奴がいるなら、俺がぶん殴ってやるよ!!」
アイラ「でも…私はあなたを…あなたを傷つけてしまった…今更あなたの事を好きになる権利なんて…」

アイラは涙を流し、持っていたナイフを落とした、よほどドラゴニュートを傷つけた事に罪悪感を抱いたのだろう。ドラゴニュートはそんなアイラを傷ついた腕で抱きしめた。

ドラゴニュート「いいんだよ、アイラ、こんなのただのかすり傷さ」
アイラ「バカ…かすり傷な訳ないじゃないですか…そんなに血を流して…」
ドラゴニュート「大丈夫さ、すぐに仲間に治療してもらうよ」
アイラ「ドラゴニュートさん…ごめんなさい…そして、こんな私を好きと言っていただいて、本当にありがとうございます…」

アイラが攻撃をやめ、一件落着だと思ったその時、ドラゴニュートの後方から何かが飛んできたことにアイラが気付いた。

アイラ「!! ドラゴニュートさんッ!!」

アイラはドラゴニュートを突き飛ばした。その後、アイラの右肩に先の尖った金属の棒が刺さった、恐らくボウガンの一種だ。アイラの肩から血が噴き出し、アイラは倒れ込んだ。

ドラゴニュート「アイラッ!!!」
アイラ「あっ…うぐっ…」
男性「やれやれ…お前はとことん役立たずだね、アイラ」

そこに現れたのは、アイラを敷きそうになっていたエレカの運転手だった。

ドラゴニュート「お前! さっきのエレカの運転手…一体何者だ!!」
男性「僕は黒咲悠人、イフィニアドの幹部の一人さ」
ドラゴニュート「イフィニアド…そうか! お前も観光都市アロイスに潜入したイフィニアドだったのか!!」
悠人「ピンポーン、せいかーい」
ドラゴニュート「一体、何を企んでいたんだ!!」
悠人「まあ、簡単に言うと、あの街にイフィニアドの前線基地を作るつもりだったんだ、結局君の仲間に邪魔されちゃったけど…だから、僕は部下のアイラを使ってちょっと遊んであげたんだ、ドラゴニュート、君がアイラを助けた時から全ては始まってたんだよ」
ドラゴニュート「俺がアイラを助けた時から…? じゃあ、あのエレカはお前が仕組んだものだったのか!?」
悠人「そうだよ」
ドラゴニュート「お前…! あんな作戦を執って…部下を犠牲にするつもりなのか!!」
悠人「大丈夫さ、アイラの身体能力なら余裕で避けられるし、それに、僕にとって部下なんてただの捨て駒さ」
ドラゴニュート「貴様ぁぁぁッ!!」

悠人「さて、そろそろ君に止めを刺してあげるよ、アイラのおかげで弱体化してるし、楽に殺せるね」
アイラ「…悠人様…お願いです…ドラゴニュートさんだけは殺さないでください…」
悠人「だ~め、第一、役立たずの君の意見は聞かないよ」
アイラ「悠人様…」
悠人「それに、敵に恋をするなんて馬鹿馬鹿しい、こいつを始末したら君も始末するよ、アイラ」
アイラ「あぁ…そんな…」
ドラゴニュート「くっ! この腕じゃ剣をまともに振る事も出来ない…!!」
悠人「死ね、ドラゴニュート
???「破壊ブラスター!!」

悠人が剣を振り下ろそうとしたその時、どこからかビームが飛んできた。悠人はそのビームを回避し、直後、ビームが飛んできた方向を振り向いた。

悠人「何だ!?」
カイト「ドラゴニュート、大丈夫か?」
ドラゴニュート「カイト!!」

カイトは周りを見回した後、ある程度状況を把握したようだった。

カイト「とりあえず、あの野郎を叩きのめしたらいいんだな?」
ドラゴニュート「そう言う事だ、頼めるな?」
カイト「おう! 任せろ!!」
悠人「くっ! まさかこんなに早く援軍が来るとは!!」
カイト「覚悟しろよ…今の俺はかなり気が立ってるぞ!!」

そう言ってカイトは悠人に向かって突撃していった。カイトは雷を纏った拳、スパークパンチで悠人を殴り飛ばし、悠人は近くにあった岩に背中を強くぶつけた。更に、カイトは続けて炎を纏った飛び蹴り、ファイヤーキックを悠人に食らわせ、悠人は岩ごと吹っ飛び、地面に倒れこんだ。

カイト「トドメだ! 破壊ブラスター!!」

カイトはマスターガンから巨大なビームを放ち、攻撃した。

悠人「うわああああああっ!!!」

破壊ブラスターを食らった悠人は爆散し、死亡した。

カイト「これにて、一件落着だな!」
ドラゴニュート「ありがとう、カイト、助かったよ」
カイト「友達だからな、助けるのは当り前さ」
ドラゴニュート「そうだな、そう言えば、何でここにいる事が分かったんだ?」
カイト「蒼乃さんにどうせドラゴニュートはサボってるから様子を見てこいって言われたから必死に探したんだ」
ドラゴニュート「サボってたのは事実だから何も言い返せない…」

少し遅れて蒼乃とイオナが来た。

蒼乃「ドラゴニュート、大丈夫? って、その傷…」
ドラゴニュート「俺の事はいい、アイラを…アイラを助けてやってくれ!」

アイラは肩から大量の血を流し、かなり衰弱していた。

蒼乃「参ったわね…かなり傷が深いから回復魔法じゃどうしようも…」
イオナ「いえ、何とかなりそうです」
ドラゴニュート「本当か? イオナ
イオナ「はい、こんなこともあろうかとヴィオレッティさんに秘薬を貰っておきました」
カイト「イオナイス!」
イオナ「馬鹿な事言ってないで、早く治療しますよ」
カイト「お…おう…」

イオナは液体状の秘薬をアイラの肩にほんの2滴ほど垂らした。すると、不思議な事にアイラの傷口はみるみるうちに塞がっていった。

ドラゴニュート「凄いな…」

一方、ドラゴニュートの傷口は蒼乃の回復魔法であっさり塞がった。

イオナ「もう動いて大丈夫だと思います」
ドラゴニュート「アイラ!!」
アイラ「う…うぅん…ドラゴニュート…さん…」
ドラゴニュート「大丈夫か?」
アイラ「はい…」
ドラゴニュート「アイラ…アイラッ!!」

ドラゴニュートはアイラを抱きしめた。本当に無事でよかったと、心の底からそう思えた瞬間であった。

アイラ「ドラゴニュートさん…」

アイラもドラゴニュートの事を抱き返してきた。

カイト「本当によかった…よかった…」
蒼乃「ドラゴニュートったら、いつの間にこんな彼女を作ったんだか…」
カイト「あ、でもこの子ドラゴニュートによるとイフィニアドの兵士らしいけど、どうする?」
蒼乃「別に関係ないわよ、愛は所属組織すら超えるものよ」

ドラゴニュートは初めて人を好きになった、それが敵の兵士だろうと関係ない。ドラゴニュートとアイラの関係がこれからどうなるかは分からないが、2人で最後までこの戦いを生き抜く、それだけできればいいと思えた。

2100年11月26日、この日は地球にとって大きな争いが起きた日である。イフィニアドの本拠地である超巨大戦艦インペリアルフォートレスは太陽系の冥王星付近で待機している。この世界では宇宙開発は発展していない為、地球人はインペリアルフォートレスまで辿り着く事ができずにいた。そのインペリアルフォートレスの会議室では、イフィニアドの幹部や四天王が作戦会議をしていた。

ルシファー「皇帝陛下によれば、イフィニアドの侵略の計画が第二段階へ以降したとの事だ」

こう喋っているのは四天王の一人、ルシファーだ。太ももの辺りまである長い金髪の長髪と中性的な見た目からよく女性と勘違いされるが、れっきとした男性である。クールな性格で、何を考えているか分からない所がある。

ヒート「おっ、遂にか! で、どんな感じなんだ?」

この血の気の多そうな男性は幹部のヒートだ。非常に短気で頭が悪く、攻撃的な性格であり、炎使いである。幼少期に女性に虐待を受けた事から女性を嫌っており、女性をいたぶって殺す事に快楽を覚えるサイコパスでもある。過去には実の妹をいたぶって殺したことがあると言う噂がある。

ルシファー「簡潔に言うと、地球への攻撃の手を激しくしろとの事だ」
ヒート「まあ、確かに最近はクロストライアル? とか言う奴らが邪魔しまくってるもんな」
シャドームーン「奴らは地球全域で活動していて中々我々を活動させようとしない」

この全身銀色の仮面ライダーはシャドームーン、1年前のクライシス帝国との最終決戦の最中に突如現れ、栄光の10人ライダーを殺害し、更にクライシス皇帝との戦いで消耗していた仮面ライダーBLACK RXに重傷を負わせ、仮面ライダーBLACKに弱体化させたBLACKのライバルのライダーであり、現イフィニアドの四天王の一人である。かつてはBLACKの親友だったが、ゴルゴムと言う組織によって洗脳された哀しき悪役である。

ベリアル「フン、まだ手こずってやがったのか、イフィニアドとやらも大した事ねえな」

こう語るのはウルトラマンベリアル、イフィニアドの四天王の一人であり、ウルトラ族の故郷である光の国から誕生した唯一の悪のウルトラマンである。つい最近、ギガバトルナイザーを手に入れ、光の国を襲撃し、滅ぼした凄まじい力の持ち主である。

ルシファー「ベリアル、あまりイフィニアドを侮辱しない方がいいぞ」
ベリアル「チッ、分かったよ」
ルシファー「で、問題は誰が攻撃するか、と言う点だ」
ベリアル「この間馬鹿みたいに逃げ帰ってきたババルウ星人とザム星人を行かせりゃいいだろ」
ルシファー「もちろん彼らも行かせる予定だが、それでは少し足りない、他に誰か行くものは…」
ヒート「じゃあ、俺が行くぜ、地球を火の海に変えるのは楽しそうだしな」
ルシファー「分かった、頼む、後は…」
???「俺に行かせろよ…」
シャドームーン「お前は…仮面ライダー王蛇か…」

仮面ライダー王蛇は地球上で数々の殺人を繰り返し、死刑囚となっていた所をイフィニアドに利用価値があると見いだされ、救助されていた。しかし、イフィニアド側でも流石に危険すぎた為、牢獄に入れられていたのだ。

ルシファー「貴様…どうやって牢獄から脱出した?」
???「僕が解放してあげたのさ」

そう言って現れたのは、戦死したはずの黒咲悠人だった。

ヒート「お前、この間死んだはずだろ!? 化けて出てきたのか!?」
悠人「確かに、僕は一度は死んだ身さ、けど、邪神に魂を売ってるから2回までは死んでも大丈夫なのさ」
ヒート「ケッ、お前はどこか食えねえ奴だよな」
王蛇「悠人、感謝するぜ、お前のおかげでまた戦える…」
悠人「王蛇、これからは存分に戦ってもらうよ」
王蛇「存分に戦う…か、ハッハッハ、ゾクゾクするぜ…」
シャドームーン「相変わらず、恐ろしい奴だ…」
ルシファー「では、今回はババルウ星人、ザム星人、ヒート、悠人、王蛇の5名が部隊を率いて地球に攻撃を仕掛ける、これで決まりだな、それでは、現時刻より、地球総攻撃作戦を開始する!」

一方、フリーダムベースでは地球での戦火が更に広がる事など知らず、平穏に過ごしていた。最近のイフィニアドもヴェイガンは、各地で少し戦っては撤退を繰り返しており、以前のように活発に活動はしていなかった。恐らく、何か大きな作戦を実行しようとしているのだろう。

ドラゴニュート「なあアイラ、一つ聞きたいんだけど、何でイフィニアドは一気に攻めてこないんだ? イフィニアドの戦力なら地球なんて簡単に攻め落とせるだろ?」
アイラ「それはですね、じわじわと攻撃して恐怖を植え付けつつ侵略するのがイフィニアド皇帝の趣味だかららしいです」
フォースインパルス「うわ…凄く悪趣味ね…」
デスティニー「つまり、イフィニアドは皇帝の一存で動いている組織って訳か」
ネクサス「でも、それは逆に皇帝の気分次第で一気に攻め込んでくる可能性もあるって訳か…」
イオナ「決して油断できる状況ではないと言う訳ですね…」

ドラゴニュート達がこんな話をしていると、突然オペレーターの穂乃果が会議室に駆けこんできた。穂乃果は息切れしており、ハアハア言っていた、かなり深刻な状況と言うのはすぐ分かった。しばらくして息を整え直した穂乃果は何が起こったのか話し出した。

穂乃果「イフィニアドとヴェイガンが地球全土で一斉に侵略活動を開始しました!!」
ドラゴニュート「何だって!?」
蒼乃「…恐れていた事態になったわね…場所は!?」
穂乃果「エスプランドル聖王国、オーブ首長連合国、東京、エリア・プラント、あけぼの町、オベリスク島、キノコ王国の七か所です!!」
デスティニー「あいつら…オーブやエリア・プラントを攻撃するつもりかよ!!」
フォースインパルス「やっと前大戦が終わって復興し始めた所なのに…」
穂乃果「現在、オーブ首長連合国ではオーブ軍とアークエンジェル隊が、エリア・プラントではデュエル隊率いるザフト軍が応戦しています!!」

そのオーブ首長連合国では、オーブ軍とアークエンジェル隊がイフィニアドやヴェイガンと交戦していた。

レギュラン星人「オーブを攻め落とせば、俺だってイフィニアドの幹部だ!!」
ストライクフリーダム「イフィニアド! あなた達の好きにはさせない!!」
インフィニットジャスティス「オーブには指一本触れさせない!!」

ストライクフリーダムインフィニットジャスティスは同時にビームを放ち、イフィニアドの量産機であるレギオノイドやキングジョーブラックを撃墜した。

ストライクルージュ「フリーダム、そっちの状況はどうだ?」
ストライクフリーダム「こっちは大丈夫、そっちは?」
ストライクルージュ「こっちもムラサメ部隊やM1アストレイ部隊のおかげで何とか食い止めてる」
インフィニットジャスティス「でも、ほんとによかったのか? オーブのトップが出てきて」
ストライクルージュ「こんな状況なんだ、仕方がないだろう」
アカツキ「大丈夫だ、お嬢ちゃんには指一本触れさせないよ」
ストライクルージュ「おい! お嬢ちゃんと言うな!」

ドラド「くそっ! 流石は前大戦を終わらせた英雄達だ! そう簡単には攻め落とさせてくれないか!!」
レギュラン星人「だがな、こっちにはレギオノイドやキングジョーブラック、ガメロットにインペライザーと言ったロボット部隊がいる」
ウルフ星人「更に、クライシス帝国の怪魔ロボット部隊も多数配備しているんだ、その強がりもいつまで持つかな?」
カーリー星人「やれ! ロボット部隊よ!!」

カーリー星人の合図で300機以上いるロボット部隊がビームをまき散らしながら侵攻した。

ヘルベルト「ちっ! いい加減諦めろよ!!」
マーズ「好き勝手やってくれるじゃねえか!!」
アサギ「でも、これ以上は持たないわ!!」
マユラ「このままじゃやられちゃう!!」
ジュリ「どうすればいいのよ~!!」
ヒルダ「諦めてんじゃないよ! アタシらの後ろにはオーブ国民がいるんだよ!?」
バルトフェルドヒルダの言う通りだ、俺達は命を懸けてこのオーブを守り抜く、それが俺達の務めだ」
ストライクフリーダム「イフィニアド! あなた達の好きにはさせない! オーブは絶対に守ってみせる!!」

一方、エリア・プラントでは、デュエル隊率いるザフト軍がイフィニアドやヴェイガンと交戦していた。

デュエル「イフィニアドめ! プラント本国には絶対に入れさせない!!」
バスター「しっかし、流石にこの数を相手にするのは骨が折れるぜ…」
デュエル「怖気づいてる場合か! 俺達がやられたら、プラント国民は皆殺しにされるのだぞ!!」
ハイネ「しっかしこの数…冗談じゃないぜ…」
オロール「ざっと100…いや、300と言った所か?」
マシュー「1人で10体ぐらい倒せれば行けそうだな」
ミハイル「よし…まとめて消毒してやろうか」

デュエル隊の面々が話をしていると、イフィニアドの怪獣、怪人部隊やヴェイガンのMSの大群が接近していた。その中にはペスター、ガゾート、ダンカン、ロックイーター、カマキラス、エビラ、カメーバと言った怪獣や、ディスパイダーやレイドラグーンと言ったミラーモンスターやコウモリ男やクモ女と言った怪人たち、デナン・ゾンデナン・ゲー、ウロッゾやゴメルと言ったMSやイフィニアドに寝返ったジンやシグーなどがいた。

ハイネ「敵さんの中には元プラント国民もいるみたいだな…」
デュエル「元プラント国民だろうと何だろうと、今は本国を攻めてくる敵だ! 容赦はするな!!」
ミハイル「了解した…」
バスター「それじゃ、いっちょやりますか!!」

かつて魔人軍団ジャマンガに襲われた後、平和を取り戻したあけぼの町では、ゴッドリュウケンドーたち魔弾剣士が戦っていたが、圧倒的な戦力差で苦戦していた。

マグナリュウガンオー「くそっ! 数が多すぎる!!」
ゴッドリュウケンドー「ゴッドレオンも、バーニングコングもブリザードシャークも、ライトニングイーグルもやられちまった!!」
マグナリュウガンオー「こっちもだ、マグナウルフもイフィニアドに破壊された」
リュウジンオー「俺のデルタシャドウも同じだ、もう戦えそうにない」
ツルク星人「どうやらそちらのサポートメカは全機破壊されたらしいな、もう諦めろ」
ゴッドリュウケンドー「ふざけんな! 誰が諦めるか! 俺達には守るべきものがあるんだよ!!」
ベル星人「守るべきもの? たかがド田舎の町じゃねえか! そんなもの守る必要あるのか?」
ゴッドリュウケンドー「うるせえ! この町の人たちはな、いい人ばかりなんだ! 俺の命に代えても守ってやる!!」
ゴッドゲキリュウケン「そうだ、私達はこの町の人たちを絶対に守る」
マグナゴウリュウガン「気合十分120%」
ザンリュウジン「遠慮も情けも無用だぜ!!」

ツルク星人「貴様らを倒してその意思のある武器も奪ってやる!!」
ゴッドリュウケンドー「冗談じゃねえ! 誰がてめえらに俺の相棒を渡すかよ!!」
マグナリュウガンオー「例え死んでも相棒はお前達に渡さない!!」
リュウジンオー「イフィニアド、貴様らの好き勝手にはさせない」
ベル星人「偉そうに! 者ども、やれっ!!」
ゴッドリュウケンドー「来やがれイフィニアド! 最後の最後まで戦ってやる!!」

大魔王クッパに襲撃された後、平和を取り戻したキノコ王国にもイフィニアドの魔の手は迫っていた。

ケムール人「キノコ王国も中々やるものだな、簡単に攻め落とせると思ったが、考えが甘かったか…」
マリオ「残念だったなイフィニアド! 今のキノコ王国クッパ軍団と同盟を結んでいるんだ!!」
クッパキノコ王国が攻め落とされたら、吾輩がリベンジできないからな!!」
ルイージ「また攻めてくるつもりだったの!?」
クッパ「もちろんだ! 吾輩はまだピーチ姫を諦めてはおらんぞ! ガッハッハ!!」
マリオ「お前も懲りないな、クッパ

ケムール人「貴様ら! 何を盛り上がってる!!」
マリオ「おっと、忘れてた、とにかく! こっちには大勢のキノピオクリボー、ノコノコがいるんだ! お前達には負けないぞ!!」
ケムール人「フフフ…ハハハハハ!!」
ヨッシー「あの人、何で笑っているんでしょうか?」
ルイージ「さあ?」
ケムール人「こっちだって当然数を揃えている! 来い! ロボット部隊!!」

ケムール人の合図で現れたのは、イフィニアドの巨大輸送車両グランタンカーだった。500mほどの大きさの巨大輸送車からはレギオノイドやキングジョー、インペライザー、サタンファイバス、クレージーゴンと言ったロボット怪獣やクライシス帝国の怪魔ロボット、魔人軍団ジャマンガの魔的メカ等が降りてきた、どれもイフィニアドの作った複製である。

マリオ「な…何だこの数は!?」
ヨッシー「ざっと100体はいますね」
ルイージ「こんなの勝てっこないよ~!!」
マリオ「諦めるなルイージ! 数ならこっちだって多いんだ!!」
クッパコクッパ七人衆もいる! まだ諦めるには早いぞ! 緑のヒゲ!!」
ケムール人「諦めの悪い連中だ、ならば、力づくで粉砕してくれる! やれ!!」

ケムール人の合図でロボット軍団が一斉に侵攻した。

マリオ「来る! みんな行くぞ!!」

キノコ王国クッパ軍団連合軍も負けじと一斉に突撃した。一方、フリーダムベースではモニターで今現在地球上で起こっている戦いを見ていた。

カイト「なあ蒼乃さん、俺達に何とかできないのか? 俺達が助けに行けば、ちょっとは手助けになるだろ?」
蒼乃「とは言っても、移動手段が戦艦しかないし、目的地が遠いからね…」
エクセリア「しかも戦艦って結構足が遅いのよ?」
ソウル「ワープ機能はあるが、かなりエネルギーを食うからな、今後の戦いを考えるなら、現地の部隊に任せるのが得策だろう」
カイト「くっ! 指をくわえて見てるしかないってのかよ!!」

その時、蒼乃の持っている携帯端末に機密回線で通信が送られてきた。その通信は総司令からであり、蒼乃はその通信をモニターに繋いだ。

総司令「やあ、セイバークルーザー隊の諸君、僕はクロストライアル総司令のシンヤ・アマギリだ」

クロストライアルの総司令は20代程の若い男性だった。かなり甘いマスクをしており、人気アイドルグループに所属していてもおかしくない顔をしている。

ドラゴニュート「この人が…クロストライアルの総司令?」
カイト「ただのイケメン俳優や人気アイドルにしか見えないな」
蒼乃「ちょっと! 失礼でしょ!」
シンヤ司令「ははは、別に構わないよ、一般的に総司令と言えばひげ面のおじさん的なイメージがあるからね、それはさておき、君達に連絡を入れたのは他でもない、今回のイフィニアドの行動についてだ、奴らは地球全土に部隊を送り込んでおり、今地球のあらゆる所でイフィニアドが現れている」
蒼乃「司令、我々はどうすればいいでしょうか? できる事なら何でもしますが…」
シンヤ司令「そうだね…このアグリッサ平原近くにイフィニアドが現れてもおかしくはない、とりあえず、君達はこのアグリッサ平原の近辺でイフィニアドの警戒に当たってくれたまえ」
デスティニー「アグリッサ平原近辺の警戒任務ですね、了解であります!」
カイト「けど、他の地域に現れている奴らはどうするんだ?」
シンヤ司令「心配には及ばないよ、イフィニアドの出現場所の近くにいる部隊を向かわせている、オベリスク島にはノワール隊、東京にはディーヴァ隊と言った感じで」
カイト「なるほど、それなら何とかなりそうだな!」
シンヤ司令「とりあえず、君達はアグリッサ平原近辺の警戒任務、頼んだよ」
セイバークルーザー隊「了解です!」

シンヤ司令は要件が済んだ後、蒼乃たちに一つ訪ねた。

シンヤ司令「そう言えば、何人か見ない顔がいるんだが…」
カイト「俺の事か? 俺はカイスマ界から来た、簡単に言えば、異世界人だな!」
シンヤ司令「異世界人ねぇ…、じゃあ、後ろの金髪ツインテールの子は?」
アイラ「!!」
ドラゴニュート「え…えっと…この子は…」
シンヤ司令「できれば隠さずに言って欲しいかな」
ドラゴニュート「………」

もし隠すとばれた時にアイラの身に悪い事が起こる可能性がある、ドラゴニュートは仕方なく隠さずに本当の事を言う事にした。

ドラゴニュート「…この子はアイラ、元イフィニアドの兵士だ、けど、今は俺達の仲間です」
シンヤ司令「元イフィニアド? それは本当かい?」
アイラ「本当です、私は元々戦災孤児で、イフィニアドに拾われて兵士にされたんです、けど、今はドラゴニュートさんやクロストライアルの人と一緒に戦っています!」
シンヤ司令「ふ~ん、なるほどねぇ…」
ドラゴニュート「アイラはもう改心して俺達の仲間になったんだ、だから、手は出さないでくれ!!」
シンヤ司令「え? 別に何もしないよ? ただ気になって聞いてみただけ」
ドラゴニュート「…へ?」
シンヤ司令「やだなぁ、もしかして僕の事をイフィニアド絶対殺すマンだと思ってた? そんな事しないよ、平和の為にイフィニアドと戦う人はみんなクロストライアルの仲間さ」
ドラゴニュート「シンヤ司令…」
シンヤ司令「それに、その子からは悪意なんて全く感じない、僕の感がそう告げてるよ」
アイラ「クロストライアルって、いい組織なんですね…」
シンヤ司令「まあね、まあ君もクロストライアルに早く溶け込んでね」
アイラ「はい!」
シンヤ司令「それじゃあ、またね」

そう言ってシンヤ司令からの通信は終わった。アイラに対して、特に何もされないと安心したドラゴニュート達は、アグリッサ平原近辺の警戒任務を行う事となった。

一方、イフィニアドが出現したオベリスク島の近辺にいたノワール隊は、シンヤ司令の命令でミネルバJr.でオベリスク島に急行していた。オベリスク島はかつてガッパと言う大巨獣が暴れた際に島の住民は全滅し、現在は多数の怪獣が住み着いている多々良島や荒神島も顔負けの怪獣島である。そこにノワール隊は向かっているのである。現地では、先に待機しているGフォースと合流し、作戦に当たる事となった。何と、1年前にガメラによって撃退されたゴジラオベリスク島近海で目撃されたのである。ノワール隊は、ゴジラと出くわさない事を祈りながら、オベリスク島へミネルバJr.をオベリスク島の海岸に着陸させた。ストライクノワール達はノワール隊の部隊の一部をミネルバJr.の護衛として残し、外に出た。島の住民が全滅してかなりの時が経っていたのだろう、島の中は草木で生い茂っていた。ストライクノワール達は開拓されていない密林を少しづつ進んだ。道中、スフランに攻撃を受けたが、ミゲルの重斬刀やキルシュの剣で斬り裂く事で大事には至らなかった。約10分程歩くと、そこには先に待機していたGフォースの姿があった。

機龍「やっと来たわね」
ストライクノワール「遅れてすまない、ノワール隊のストライクノワールだ」
機龍「Gフォースの3式機龍改です」
MOGERA「同じくGフォースのMOGERA、で、こいつはジェットジャガーだ」

3式機龍改は1954年に出現し、芹沢博士の作ったオキシジェンデストロイヤーによって倒されたゴジラの骨をフレームにして作られた対ゴジラ兵器だ。1年前のゴジラとの戦いで中破し、改修された姿が今の姿である。
MOGERAはGフォースが開発した対ゴジラ兵器であり、今まで作られた対ゴジラ兵器やかつて出現した怪遊星人ミステリアンが開発した侵略ロボット、モゲラのデータを元に開発された対ゴジラ兵器である。
ジェットジャガーGフォースが新しく開発する予定の対ゴジラ兵器だ。次世代の対ゴジラ兵器のプロトタイプとして開発され、ロクな武装はないものの、戦闘データの収集の為にGフォースに配備されている。

ストライクノワール「やはり、このオベリスク島にゴジラはいるのでしょうか?」
機龍「間違いないわ、ここ最近オベリスク島近海でゴジラの反応が確認されている」
MOGERA「オベリスク島にいる怪獣と交戦した記録も確認されている」
機龍「実際私達がここに来るまでにカメーバやマンダの死骸を確認したわ」
ミゲル「今はイフィニアドの相手で手一杯だと言うのに、ゴジラまで来たら…」
機龍「せめてガメラがいてくれればいいのだけど…」
シホ「だが、ガメラは1年前のゴジラとの戦いの後、行方をくらましている…」
MOGERA「いないもんを当てにしても仕方ねえ、今は俺らだけで何とかしねえと」

すると、草むらからガサゴソと音がした。どうやら、誰かが隠れているようであり、その者は気づかれるとすぐさま飛び出してきた。

ヘルベロス「よう」
ルクレシア「えへへ、こんにちは~」

飛び出してきたのは怪獣と女の子だった。ヘルベロスは怪獣の一種であり、体中の刃が武器で、必殺技はヘルスラッシュやヘルホーンサンダーなどである。過去に出現した個体と違い、何故か会話能力を持っている。
ルクレシアは青髪の長髪と緑の瞳が特徴の美少女だ。特に民族的な衣装でもないので、遭難でもしたのだろうか?

MOGERA「お前らは?」
サルマン「ヘルベロスとルクレシアじゃないか!」
キルシュ「まさかあなた達もこの世界に?」
ヘルベロス「何だ、お前らもか、実は俺らもなんだ」
ルクレシア「変なワームホールに吸い込まれて、気付けばここに…」
ヘルベロス「で、脱出するのも面倒だからここで暮らしてたんだ」
ダークカイト「そうか、お前らも大変だったんだな…」

ストライクノワール達はこの島にいるイフィニアドを倒すようヘルベロス達に頼まれた。その後、彼等に案内され、イフィニアドの基地に向かった。道中、何故怪獣なのに喋れるのか気になった機龍たちは、ヘルベロスにその事を聞いた。ヘルベロスはかつてマスターウルトラマンと言う存在に人の言葉を与えられ、普通に人間の言葉を話せるようになった事を伝えた。その話を聞いた機龍たちはヘルベロスに対し、少し興味が湧いてきた。ちなみに、ルクレシアはヘルベロスの数少ない仲間である。そんな話をしていると、目的地のイフィニアド基地に到着した。

ルクレシア「ここです」
ミゲル「ここか、腕が鳴るぜ! 黄昏の魔弾の実力、見せてやる!」
ストライクノワール「よし、作戦開始だ!」

こうして、ストライクノワール達はイフィニアドの基地に侵入した。だが、内部には人がおらず、ほぼ無人と言ってもいい状態だった。

MOGERA「おいおい、誰もいないじゃねえか、無人か?」
シホ「少数で構成された部隊か、それとも何かの研究施設か…」
ストライクノワール「どちらにしても、これだけ防衛に手を抜いていると言う事は、よほどの実力の持ち主が司令官をやっている事は間違いないだろうな」

すると、怪獣の大群が出現した。オベリスク島にいた怪獣を片っ端に洗脳したのだろう、かなりの数がいた。

サルマン「何だ! この怪獣の大群は!!」
ランス「ケムラー、パゴス、マグラー、ネロンガガボラ、ガイロス、アーストロン、シルドバン、レイロンス、デスドラゴ…」
機龍「ゲゾラ、ガニメ、カメーバ、バラゴン、カマキラス、クモンガ、バラン、エビラ、大コンドル、グリホン…」
レオナルド「ベキラ、モングラー、ギマイラ、ムカデンダー、ゴメスか! 腕が鳴るぜ!!」
シホ「ゴジラやガッパはいないみたいだな」
ミゲル「しっかし、この数は流石に骨が折れるぜ…」
ストライクノワール「だが、やるしかない、行くぞ!!」

ストライクノワールの合図で一斉に怪獣の大群に攻撃を仕掛けた。一方、司令室ではオベリスク島のイフィニアド基地の司令官になったヒートが様子を見ていた。

ヒート「あいつら、確か報告にあったドトールの基地を潰した奴らだな?」
デフェール「そのようですね、ヒート様」

このデフェールと言う名の人物は、ヒートの部下の女性だ。有能な人物であり、女性嫌いのヒートも彼女の事は信頼しているようだ。

ヒート「ところでデフェール、この戦い、どちらが勝つと思う?」
デフェール「え? それは私達の方が勝つのでは…」
ヒート「甘いな、デフェール、あんな雑魚怪獣じゃあいつらは倒せない」
デフェール「じゃあ、どうするんですか?」
ヒート「戦闘後はある程度消耗してるだろう、そこを俺が一気に叩き潰す! それだけだ」
デフェール「流石です! ヒート様!」
ヒート「だが、もし俺でも倒せなかった場合は…分かってるな?」
デフェール「勿論です、ヒート様」

ヒートはそう言って出撃し、ストライクノワール達は圧倒的な数の怪獣達を倒していた。MOGERAはスパイラルグレネードミサイルを発射し、ムカデンダーに着弾、ムカデンダーは爆散した。続けて機龍は4式3連装ハイパーメーサー砲を放った。その攻撃を食らったゲゾラ、ガニメ、カメーバは爆散した。更に続けてストライクノワールビームライフルショーティーを乱れ撃った。その射撃は怪獣達に全弾命中し、ダメージを与えた。追撃にダークカイトがシャドーボール、続けてヴァンパイアスがフレイムで攻撃した。それを食らった大コンドル、バラン、ガイロスは爆散した。最後にヘルベロスの放ったヘルホーンサンダーはアーストロンに直撃した。ヘルホーンサンダーをモロに食らったアーストロンは爆散した。

敵を倒して安心したダークカイト達だったが、ドレイクの合図で全員が回避態勢を取った。すると、さっきまでストライクノワール達がいた場所に強力な炎ビームが飛んできた。

ミゲル「危なかった…助かったぜ、ドレイク」
ドレイク「礼には及ばない、しかし、この攻撃…」
ヒート「俺のヒートブラスターをかわすとは、中々やるな…」
ダークカイト「お前は! 灼熱のヒート!!」
ヒート「灼熱のヒート? そんな肩書はないが、その肩書いいな、気に入ったぜ!」
ダークカイト「やはりこいつもアルスマ界で戦ったヒートとは別人か…」
ヒート「一応、お前達の事はドトールから報告を受けている、異世界から来たんだってな」
ダークカイト「ああ、そうだ、俺達はカイスマ界から来た」
ヒート「お前の言ってる灼熱のヒートってのも異世界の俺なんだろ?」
ダークカイト「そうだ、お前とほぼ同じ姿をしていた」
ヒート「そうか…異世界にも俺に似た奴が…なるほどな…フフッ」

ストライクノワール「貴様がこの基地の司令官か」
ヒート「そうだ、俺がこのオベリスク島のイフィニアド基地の司令官だ」
ルクレシア「何で怪獣達を洗脳するんですか!!」
ヒート「何でかって? そりゃ、この島の怪獣は無駄に数が多い上強いからイフィニアドの手駒として有用に扱ってやってるだけだよ」
ヘルベロス「手駒って…! 怪獣だってなぁ! 人間と同じで心を持った生き物なんだよ! 人間と同じ暖かい血の流れる命なんだよ!!」
ヒート「そうなの? ただ単に知性の無い狂暴な獣だと思ってたよ」
ヘルベロス「ッ!! 貴様ァァァッ!! 久々にカチンと来たぜ! 叩き殺してやる!!」
ルクレシア「ヘルベロスさん、行きましょう! あんな奴、野放しにしてはいけません!!」
ヒート「フン! 束になってかかって来いよムシケラが!!」

ヘルベロスは背中のトゲからヘルエッジサンダーを放った。しかし、ヒートは炎のバリア、ファイヤーウォールを張り、ヘルエッジサンダーを防いだ。反撃にヒートは上級炎魔法のヘルファイアを唱えて攻撃した。強力な炎がストライクノワール達を襲う。更に、ヒートは炎で作ったドラゴン、サラマンダーチルドレンを2匹作り出し、攻撃した。炎のドラゴンは自らの意思を持ち、ストライクノワール達を襲った。

ミゲル「このドラゴン、ファンネルと違って自らの意思を持っているのか!?」
ダークカイト「安心しろ! そいつは攻撃を当てれば消滅する!!」
ストライクノワール「了解だ!」

ストライクノワールビームライフルショーティーでサラマンダーチルドレンを撃った。すると、サラマンダーチルドレンは消滅した。

ヒート「なるほどな、異世界の俺で対応策は知っていると言う訳か…」
ストライクノワール「ダークカイト、参考までに異世界の奴はどうやって倒したんだ?」
ダークカイト「アルスマ界の仲間と俺とカイトの合体攻撃で倒した」
シホ「つまり今はその時の手段は使えないと言う訳か…」
ダークカイト「だが逆に考えればその時とは違った戦法を取れる」
ストライクノワール「具体的にどうすればいい?」
ダークカイト「さあな、とりあえず攻撃すれば死ぬだろ」
シホ「無茶よ! 死にに行くようなものなのよ!!」
ダークカイト「だが、守ってるばかりじゃ勝てないだろ? だから攻撃するんだよ」

そう言ってダークカイトは突撃して行き、ダークカイトは闇の破壊光線ダークネスバスターを放った。ヒートも負けじと炎の破壊光線ヒートブラスターを放った。2つの光線は相殺し、大爆発を起こした。

ダークカイト「ヘルベロス! 頼んだ!」
ヘルベロス「応よ! ヘルホーンサンダー!!」

ヘルベロスはヘルホーンサンダーを放ったが、ヒートは回避した、だが、その回避した先にはサルマンがおり、サルマンの必殺パンチでありクッサイパンチがヒートに炸裂。ヒートは吹っ飛ばされた。ルクレシアは続けて、フェンリルの力を宿したジャンプ斬り、フェンリルクラッシュをヒートに叩き付けた。ヒートは間一髪回避したが、剣を叩きつけた時の衝撃で吹っ飛ばされた。そして、ダークカイトは再びダークネスバスターを放った。それを食らったヒートは大爆発を起こした。

ヒート「ぐっ…うぅっ…」
ヘルベロス「まだ生きてたか」
ダークカイト「アルスマ界のヒートと一緒でゴキブリみたいにしぶといな」
ヒート「ふっ…ふははははははっ!!」
レオナルド「こいつ、何笑ってんだ? 頭のネジが飛んだか?」
ヒート「俺にはまだ、最終兵器のゴジラが残ってんだよ!!」
機龍「何ですって!?」
MOGERA「イフィニアドの奴ら、ゴジラ支配下に置いたのか!?」
ヒート「俺達イフィニアドはゴジラ支配下に置く為にオベリスク島に来た、そして遂に、ゴジラ支配下に置いてやったんだ!!」
ヘルベロス「何て奴らだ…あの怪獣王を支配下に置くとは…」
ルクレシア「でも、まだガメラとガッパがいますよ!!」
ヒート「あんなノロマな亀と烏天狗なんざどうだっていい! 俺達の目的は、最強の怪獣ゴジラ支配下に置く事だ!!」
機龍「つまり、他の怪獣はどうでもいいと言う訳ね」
ヒート「そう言う事だ!」

ヒートは手に持っていた機械のボタンを押した。これでゴジラを呼んだのだろう。すると、デフェールが焦った様子でヒートの所まで走ってきた。

デフェール「ヒート様! 大変です!!」
ヒート「どうした、デフェール」
デフェール「それが…ゴジラがこちらの言う事を聞きません!!」
ヒート「何!?」

危機を感じたストライクノワール達は、慌ててイフィニアド基地から脱出した。ヒート達も撤退しようとしたが、そのヒート達の所にゴジラが現れた。1954年に出現したゴジラとほぼ同じ見た目をしたゴジラはヒート達をギロッと睨んだ。

ヒート「くそっ! 俺を殺すつもりか!!」
デフェール「あっ…あぁっ…!!」
ゴジラ「ギャアオオォォォン!!」

ゴジラはヒート達に向かって放射熱線を吐いた。

ヒート「くそっ! 俺は…こんな所で…うわあああああっ!!!」

イフィニアド基地を脱出したストライクノワール達は、基地内から爆発音がしたのを聞いていた。自分達もヒートみたいにならない為、ノワール隊はミネルバJr.に、Gフォースは新・轟天号に乗り込み、オベリスク島から脱出する準備を整えた。

ストライクノワールミネルバJr.発進だ! オベリスク島から脱出するぞ!」
剛紀「りょーかい!」

ミネルバJr.の操舵手である剛紀はミネルバJr.を急速発進させた。イフィニアド基地を破壊して地上に現れたゴジラは近くにいたミネルバJr.に狙いをつけ、放射熱線を吐いた。

由美「ゴジラ、放射熱線で攻撃してきます!」

オペレーターの由美の話を聞いたストライクノワールは操舵手の剛紀に回避命令を出す。

ストライクノワール「絶対に当たるなよ! ミネルバJr.にはラミネート装甲はあるが、そう何発も耐えられないからな!」

ラミネート装甲は対ビーム用特殊装甲であり、当然ゴジラの放射熱線にもある程度は耐えられるが、ゴジラの放射熱線はあまりに高温すぎる為、数発しか耐えられない。かつて作られたGフォースの対ゴジラ兵器スーパーXシリーズもゴジラの放射熱線に耐えられるように作られていたが、高温すぎる為装甲が溶けてしまった程だ。すると、ゴジラの出現を察知したのか、モスラがインファント島の方から飛んできた。モスラはかつて何度もゴジラと交戦した蛾の怪獣だ。1年前のゴジラとの戦いで先代モスラは死亡したが、幼虫モスラが2匹残っていたのでそのどちらかだろう。

モスラ「シギャァァァ!」
ゴジラ「ギャアァオオォォォォン!!」
ストライクノワール「あの怪獣はモスラか、かつてゴジラキングギドララドンと言った怪獣達と戦った巨大な蛾の怪獣だな」
ヘルベロス「俺達を助けてくれるみたいだな」
ミゲル「モスラは人類に友好的な怪獣だからな」
シホ「一度日本で暴れた事はあったけど、あれは悪い人間が小美人を攫ったのが原因ね」

ゴジラモスラに放射熱線を吐いた、だが、モスラはそれを回避し、ゴジラの頭にしがみついて攻撃した。

ストライクノワール「よし、今のうちだ! 急げ!」
???「そうはいくか!」

ミネルバJr.は何者かから火球で攻撃を受けた。そこに現れたのは、漆黒の巨大な龍だった。全長120メートルほどの大きさを誇るその龍はモニター越しに憎悪が伝わっていた。

???「異世界からの来訪者! 俺の事を忘れたとは言わさんぞ!!」
ダークカイト「まさか、ヒートか!?」
龍神ヒート「その通りだ! 貴様らに復讐する為、地獄から帰ってきたぜ!!」

どうやらヒートの今の姿はヒートのマイナスエネルギーが増幅して誕生した暗黒龍のようだ。意識などはヒート側にあるようだが、肉体はマイナスエネルギーの集合体と言った所だろう。

ダークカイト「ったく! しぶとさが天元突破してやがるな! はっきり言って引くぞ!!」
龍神ヒート「うるせえ! 今からぶっ殺してやる!!」

龍神ヒートは長い尻尾でミネルバJr.を薙ぎ払ったが、間一髪のところで回避した。

ストライクノワールゴジラの次はヒートか、一難去ってまた一難とはこの事か!」

その時、新・轟天号から通信が送られてきた。

機龍「ノワール隊長、ここは奴と戦うしかないようね」
ストライクノワール「どうやらそのようだ、逃げる為には、戦うしかない」
ダークカイト「勝てる見込みはあるのか?」
ストライクノワール「もちろんだ」
機龍「よし、作戦決行ね」

そう言って新・轟天号は邪龍神ヒートの元へ向かって行った。

ストライクノワール「ミサイル発射!」

ミネルバJr.はミサイルを発射した。ミサイルは邪龍神ヒートに直撃し、大爆発を起こした。だが、邪龍神ヒートには傷一つ付いていなかった。

龍神ヒート「アァン? 蚊に刺されるほども感じねぇな?」
ストライクノワール「まだだ! トリスタン、撃て!!」

ミネルバJr.は甲板前方に2基設置されたビーム砲、トリスタンを撃った、だが、こちらも傷一つ付かなかった。

龍神ヒート「効かねえんだよ! ザコが!!」

龍神ヒートは体当りを食らわせ、ミネルバJr.と新・轟天号を弾き飛ばした。

由美「キャアーーーッ!!」
機龍「くっ!!」
龍神ヒート「よし、そろそろトドメを刺してやるぜ!!」

龍神ヒートが2隻の戦艦にとどめを刺せようとしたその時、見覚えのある怪獣2体が体当りを食らわせ、邪龍神ヒートを弾き飛ばした。

龍神ヒート「くっ! 何だ!?」
ストライクノワール「あの怪獣達は…」
機龍「ガメラ!」
MOGERA「そしてガッパ!」

ガメラは名前から分かるように巨大な亀の怪獣であり、人類に友好的な怪獣として知られている。得意の火炎放射や火球で幾度となくゴジラと激しい戦いを繰り広げた。
ガッパはオベリスク島に生息する怪獣であり、烏天狗のような姿をしている。かつてとある週刊誌の記者が子ガッパを攫ってそれに怒った親ガッパが日本を火の海にした事は当時話題になった。

機龍「ガメラ…1年ぶりに私達の前に姿を現したわね」
ストライクノワール「幾度となくゴジラと激戦を繰り広げた怪獣か…」
ヘルベロス「その実力は折り紙付きだぜ」
MOGERA「しかしガッパの奴、何で俺達を助けてくれるんだ?」
ヘルベロス「オベリスク島に侵入したイフィニアドを追い払ってくれたお礼だろう」
ルクレシア「ガッパ1匹だけじゃ対応できなかったみたいですからね」
MOGERA「1匹? 他の2匹はどうしたんだ?」
ヘルベロス「俺らがオベリスク島を探索した時に見かけたが、結構歳取ってたぞ」
ルクレシア「一応生きてましたけど、かなり歳を取ってて戦う事はできなさそうでしたね」
MOGERA「じゃあ、あのガッパはあの時の子供か?」
ルクレシア「そうですよ」
MOGERA「はは~、なるほどねぇ…」
龍神ヒート「チッ! ムシケラ風情が邪魔しやがって! 先にてめえらから殺してやる!!」

ガメラとガッパは邪龍神ヒートの吐く火球を飛行して回避しつつ、ガメラは回転飛行しつつ体当り、ガッパは熱光線を吐き、攻撃した。その攻撃は邪龍神ヒートにある程度は効いていた。

龍神ヒート「この野郎…! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

龍神ヒートは口から高熱火炎ビームを放った。そのビームはガメラとガッパに直撃し、ガメラとガッパは海中に墜落した。

龍神ヒート「この俺に逆らうからいけないんだよ、雑魚が、ハッハッハ!! さてと…もう二度と邪魔できないよう、俺の炎で全てを焼き尽くしてやる!!」
ヘルベロス「おい隊長さん! このままじゃガメラとガッパがやられちまうぞ!!」
ストライクノワール「とは言っても、墜落の衝撃で航行不能だ、今は海面に浮上するのがやっとな状態なんだ」
機龍「こちらもそちらと同じく、航行不能な状態です」
ドレイク「万事休すか…」
ヘルベロス「くそっ! ガメラ…ガッパ…」

その時、邪龍神ヒートが熱線で吹き飛んだ。ゴジラが放射熱線を吐いたのだ。

龍神ヒート「グアアッ!! な、なんだ!?」

ゴジラモスラガメラ、ガッパの4大怪獣は邪龍神ヒートの事を共通の敵と認識したのか、邪龍神ヒートと対峙した。共通の敵を前にもはや敵も味方もなかった。

ヘルベロス「ゴジラモスラガメラ、ガッパの4大怪獣が、集結してるだと!? くぅ~!! これはウルトラスーパーデラックスかっこいいぜ!!」
機龍「奴の事を共通の敵と認識しているのね」
ダークカイト「こう言う展開、嫌いじゃないぜ」
龍神ヒート「何故てめえらが協力する!? てめえらは怪獣同士、戦っていればいいんだよ!!」

龍神ヒートは4大怪獣目掛けて強力な破壊光線を放った。しかし、ゴジラの放射熱線、モスラのビームパルサー、ガメラのプラズマ火球、ガッパの熱光線で押し返し、邪龍神ヒートにダメージを与えた。だが、邪龍神ヒートは長い尻尾で4大怪獣を薙ぎ払い、吹き飛ばした。続けて邪龍神ヒートは全身からビームを放ち、4大怪獣を攻撃した。4大怪獣は抵抗できないまま攻撃を受けていた。その時、ゴジラが邪龍神ヒート目掛けて放射熱線を放った。放射熱線は邪龍神ヒートの顔に命中した。

龍神ヒート「痛ってぇなこの野郎!!」

龍神ヒートは仕返しにとゴジラに強力な破壊光線を放った。

ゴジラ「グォォォォォ…」

そして、ゴジラは力尽き、海面に倒れ込んだ。怪獣王であるゴジラが死んだことで、誰もが負けを確信した、しかし、Gフォースの面々は諦めていなかった。

機龍「…まだよ、ゴジラはこの程度じゃ死なないわ」
MOGERA「この程度で死ぬんじゃ、怪獣王なんて大層な異名は付けられないはずだ」
龍神ヒート「うるせえぞてめえら! そろそろトドメを刺してやる!!」

すると、死んだはずのゴジラの全身が眩く光り始めた。そして、ゆっくりと立ち上がり、やがて体を作り替え始めた、進化だ。そして、しばらくして光が収まった後、ゴジラの姿は変わっていた。体色は灰色から黒に近くなり、顔は凶悪な顔になっていた。

ルクレシア「ゴジラが…進化した…!?」
機龍「蘇ったゴジラ…復活ゴジラと言った所かしら?」
龍神ヒート「姿が変わった程度でこの俺に勝てると思うなよ!!」

龍神ヒートは復活したゴジラ目掛けて破壊光線を放った。しかし、4大怪獣でやっと押し返したあの破壊光線をゴジラは放射熱線一発で押し返し、ダメージを与えた。

龍神ヒート「何…だと…?」

更にゴジラは間髪入れずもう一発放射熱線を放った。全力で放った放射熱線は、邪龍神ヒートを空の彼方まで吹き飛ばした。

龍神ヒート「ぐああああああっ!! 俺が…こんな所で死ぬ訳が…ぐわあああああっ!!!」

空の彼方まで吹き飛ばされた邪龍神ヒートは、大爆発を起こして塵になった。その後、ゴジラは勝利の雄たけびとばかりに大きな咆哮を辺り一帯に轟かせた。その後、ゴジラは他の3大怪獣をしばらく見つめた後、立ち去った。敵とは言え、一時的に共闘した為、情けをかけたのだろう。ゴジラが立ち去った後、モスラガメラ、ガッパも立ち去った。その後、ヘルベロスとルクレシアはこのままノワール隊に同行する事にしたが、肝心の戦艦は航行不能となっていた。その時、一隻の戦艦が接近していた為、通信を繋ぐと、そこには若い女性の姿があった。長い茶髪と赤い瞳が特徴で、顔は幼さの残ったかわいらしい顔だった。

ストライクノワール「こちらはクロストライアル所属、ノワール隊隊長のストライクノワールだ」
機龍「同じく、クロストライアル所属、Gフォース隊長の機龍です」
シュナ「こちらは地球統合軍所属艦、グレイシア艦長のシュナ・フレイニールだ」
ストライクノワール「我々の乗艦している艦が航行不能になった、すまないが手を貸してもらえないだろうか?」
シュナ「了解した、こちらのメカニックをそちらに回す、しばらく待っていてくれたまえ」

そう言ってグレイシアと呼ばれる氷のような船体を持った美しい艦が向かって来た。その後、グレイシア隊のメカニックの協力もあり、誰一人犠牲が出る事もなく、1時間ほどで無事にミネルバJr.と新・轟天号の修理は完了した。その修理の際に色々な事を聞いた。このグレイシアと言う艦は地球統合軍の新造艦であり、イフィニアドとの戦いの為に建造した事、グレイシア隊がオベリスク島近辺にいたのは哨戒任務の為など、様々な事を聞かせてもらった。一つだけ分かった事は、イフィニアドの攻撃が激しさを増している事であった。

ストライクノワール「色々と助かりました」
シュナ「こちらこそ、前線でイフィニアドと戦っている君らと関われてよかったよ」
ミゲル「シュナ艦長はクロストライアルに入らないのか?」
シュナ「私は今の状態で満足している、入るつもりはないさ」

その後、シュナはダークカイト達の方をちらっと見た後、ストライクノワールに問いかけた。

シュナ「ところで、ノワール隊長」
ストライクノワール「何でしょうか?」
シュナ「最近異世界からの来訪者が増えているらしいが、君はどう思う?」
ストライクノワール「…何とも言えませんが、一時的なものではないかと…」
シュナ「私はね、これから増えると思っているよ、いや、むしろ大変な事になりそうで怖いんだ、今の所はいい来訪者ばかりだが、とても悪い来訪者が来る可能性もありそうでね…」
ダークカイト「そんな奴ら、来たら俺達がぶっ潰してやるよ」
シュナ「ふふふ、君は頼りになるね、これからも頑張るんだよ」

その後、シュナ達グレイシア隊は哨戒任務の為、去って行った。そして、ミネルバJr.と新・轟天号は一つの任務を終え、それぞれの目的地であるイフィニアドの出現地へ向かった。

一方、イフィニアドが出現したエスプランドル聖王国には、スペースアーク隊が急行していた。

ビギナ・ギナ「エスプランドル聖王国は平和で美しい国なのに、そこに攻め込むなんて…」
F91「仕方ないよビギナ、イフィニアドはこちらの事なんて考えてないのさ」
ビルギット「俺達の任務はイフィニアドの討伐か…」
F91「2年前みたいに大怪我するなよ、ビルギット」
ビルギット「大丈夫さ、今の俺はあの時とは違うんだ」

ビギナ・ギナはコスモ・バビロニア軍の最高司令官ラフレシアの娘だ。2年前の大戦ではコスモ・バビロニア軍に攫われるが、最終的にはF91と共に戦っている。
F91は2年前のコスモ・バビロニア軍との戦いで活躍したガンダム族だ。現在はクロストライアルに所属し、ビギナと共にイフィニアドと戦っている。
ビルギットはヘビーガンの青年であり、F91程ではないが、前大戦で活躍した。2年前の大戦ではバグの攻撃で重傷を負ったが、現在は無事回復している。

ビルギット「そう言えば、イフィニアドはエスプランドル聖王国の攻撃に巨大兵器を使っているらしいぞ」
F91「巨大兵器? デストルクシオンとかじゃないのか?」
ビルギット「報告によると、どんな攻撃も通じない巨大戦車らしい」
ビギナ・ギナ「巨大戦車とは、また前時代的な物を投入するわね」
F91「だが、どんな攻撃も通じないとは…陽電子リフレクターか何かか?」
ビルギット「分からん、まあ、現場に着くまでのお楽しみって事か?」
F91「あまり嬉しくないお楽しみだな」

その時、F91達の乗艦しているスペースアークが敵の砲撃を食らって墜落、エスプランドル聖王国の城壁に衝突した。幸い爆発はしなかったが、スペースアークの船体は大きくゆがんでしまった。そのスペースアークにイフィニアドの巨大兵器ジェノサイドタンカーがゆっくりと向かってくるのだった…。イフィニアドの巨大兵器ジェノサイドタンカーは、墜落させ航行不能になったスペースアークにとどめを刺す為、ゆっくりと車体を走らせた。その様はまるで獲物に仕留めようとする獣のようだった。F91達スペースアークの乗組員は急いで脱出したが、ジェノサイドタンカーは少しずつ迫っていた。それを見たF91は少しでも時間を稼ぐ為、出撃した。

F91「僕があいつの気を引く! ビギナ達は脱出を急がせるんだ!」
ビギナ・ギナ「分かったわ、気を付けて、F91
F91F91、行きます!!」

F91ヴェスバーを撃ち、ジェノサイドタンカーの気を引いた。気は引けたものの、攻撃は強力なバリアで弾かれた。

F91「こいつのバリアは無敵なのか!?」

ジェノサイドタンカーに有効打は与えられなかったものの、脱出の時間は稼げたようで、後ろからビギナの声が聞こえた。

ビギナ・ギナ「F91! みんな脱出完了したわ!」
F91「分かった! 僕がもう少し時間を稼ぐ! みんなは早く逃げてくれ!」
ビルギット「死ぬなよ! F91!!」

スペースアークの乗組員はエスプランドル聖王国の方へ急いで逃げて行った。それを確認したF91はジェノサイドタンカーと対峙した。

F91「さて、僕一人でどこまで時間を稼げるか…」

その時、F91とジェノサイドタンカーの間の空間が歪んだ。

F91「な…何だ!? これもあいつの武装か!?」

歪んだ空間は眩い光を放った。しばらくするとそこにはMS族に似た人物が3人現れた。どれもMS族に似ているが、似て非なるものだった。

ビルバイン「うっ…ここはどこだ…?」
ダンバイン「地球のようだけど、何か雰囲気が違うわね…」
サイバスター「ここはラ・ギアスじゃねぇな? どこだ?」

ビルバインは虫とMS族を足して二で割ったような姿をしており、オレンジの体色が特徴的だ。
ダンバインはカブトムシのような姿をしており、薄紫の体色が特徴的である。
サイバスターはニワトリを人型ロボットにしたような姿をしており、全体的に尖ったした見た目をしている。

F91「何だあのMS族は! どこの所属だ?」
ビルバイン「MS族? 何だそれは、俺とダンバインオーラバトラーだ」
サイバスター「俺は風の魔装機神サイバスターだ」
F91オーラバトラー魔装機神? 聞いた事のない種族だな…」
ダンバイン「どうやらここは私達のいた地球とは違う地球らしいわね」
ビルバインバイストン・ウェルとも違う異世界と言う訳か」
サイバスターラ・ギアスとも雰囲気が違うしな」

すると、ジェノサイドタンカーがいきなり砲撃を放った。3人はその砲撃を間一髪で回避した。

サイバスター「あぶねえじゃねぇか! 何すんだ!!」
F91「その巨大兵器は敵だ、気を付けろ」
ビルバイン「どうやらさっきまで様子を見ていたらしいな」
サイバスター「あいつからすれば異世界人の俺達も敵って事か」
F91「! そうだ、だれかこの中で強力な武器を持っている人はいないか?」
サイバスター「強力な武器? 一応アカシックバスターがあるぜ」
F91「それをあいつに向かって放ってくれ!」
サイバスター「よく分からねえが、やればいいんだな!」

サイバスターはサイバードに変形し、アカシックバスターを放った。

サイバスター「くらえっ! アァァカシック! バスタァァァッ!!」

アカシックバスターはジェノサイドタンカーのバリアを少しずつ貫き、遂にバリアを破壊した。

F91「よしっ! 一斉攻撃であの戦車兵器を破壊するぞ!!」
ビルバイン「分かった!」

ビルバインダンバインはオーラソードにオーラを纏ってジェノサイドタンカーを斬りつけた。ジェノサイドタンカーは切断部から激しく火花を散らした。続けてF91ヴェスバーを撃ち、ジェノサイドタンカーを攻撃した。ヴェスバーはジェノサイドタンカーの機体を貫通し、ジェノサイドタンカーは爆発四散した。

F91「3人とも、ありがとう」
サイバスター「礼には及ばねえ、ところで、あの馬鹿でかい戦車はどこが作ったんだ? 見た所DC製でもなさそうだが…」
F91「あれは僕達の地球を襲っている宇宙帝国イフィニアドのものだ」
サイバスター「宇宙帝国イフィニアドねぇ…この地球はそんな奴らに襲われているのか…」
F91「イフィニアドはこの地球上の人が住む場所を無差別攻撃して沢山の死者を出しているんだ、もしよければ、君達にも協力して欲しい」
サイバスター「俺は構わないぜ、どうせ行く当てもないし」
ビルバイン「俺も構わない」
ダンバイン「私もOKよ」
F91「ありがとう、3人とも」
サイバスター「そう言えば、お前らは何て名前なんだ?」
F91「僕はF91ガンダム族だ」
ビルバイン「俺はビルバイン、日本出身のオーラバトラーだ」
ダンバイン「私はダンバインアメリカ出身のオーラバトラーよ」
サイバスター「俺はさっき自己紹介したけど、もう一回しとくか、俺は風の魔装機神サイバスターだ」

4人は自己紹介を済ませ、互いを仲間として認め合った。全く違う世界出身の者同士だったが、1つの戦いを得て分かり合う事ができた。その時、サイバスターは大きな腹の虫を鳴らした。ずっと何も食べてなかったのだろう、その音は周りにも完全に聞こえていた。

サイバスター「…しっかし腹減ったな…どっかで何か食えないか?」
F91「丁度近くにエスプランドル聖王国があるから、そこで何か貰おう」

F91達は本来の目的地であるエスプランドル聖王国に向かった。そこでは、先に避難していたビギナ・ギナ達がいた。サイバスター達はビギナ達に自己紹介を済ますと、何か食べ物がないか聞いた。

サイバスター「なあ、腹減ったんだが、何か旨そうな物ないか?」
アエリス「今は非常時だからあまり贅沢な物はないけど、ありますよ」
サイバスター「それはよかったぜ…って、誰だ?」
アエリス「エスプランドル騎士団のリーダーのアエリス・クリステナです」

そのアエリスと言う女性は水色の長い髪と青い瞳が特徴だった。エスプランドル騎士団のリーダーは思ったより美人だ。

F91「こんな綺麗な女の人が騎士団のリーダーなのか…」
アエリス「意外だとよく言われます」
エルフリーデ「けど、私達の自慢のリーダーなのよ?」
エルマー「そうそう、戦闘時は頼りになるんだ」
セアル「で、私が副リーダーのセアル・セフィードです」
サイバスター「へぇ…エスプランドル騎士団って美人揃いだな…」

その後、何人かの騎士団のメンバーが集まって食事を始めた。スペースアーク隊と異世界からの来訪者はジェノサイドタンカーを倒した事の礼なのか食べ物を多く貰っていた。

サイバスター「おっ! 旨いな! この野菜スープ!」
ビルバイン「具が沢山入ってて食べ応えがある…」
エーリカ「褒めてもらえて嬉しいです! 私も調理のお手伝いをしたんですよ!」
ビギナ・ギナ「でもあなた、騎士団の服装をしてるけど…」
アエリス「エーリカは騎士団メンバーでありながらよく料理をするんです」
テオドール「エスプランドル騎士団って、結構自由な人達が多いんだよね…」
ソフィア「ま、それが魅力の一つなんだけどね」

アビゲイル「そう言えば、サイバスターさん達はどこから来たんですか?」
サイバスター「俺か? 俺はラ・ギアスと言う異世界から来た」
ソフィア「異世界ねぇ…ビルバインさん達は?」
ビルバイン「俺はこことは別の地球から来た」
ダンバイン「私も同じよ、一時期はバイストン・ウェルと言う異世界にいたけどね」
カリスト異世界か…本当にそんなものが実在するんだな…」

ジェズアルド「いや、異世界と言う物は存在してもおかしくはないぞ」
エルマー「えっ? そうなの?」
ジェズアルド「この宇宙は広い、我々のいるこの宇宙の外に別の地球があってもおかしくはなかろう」
F91「それって確か、マルチバースですよね」
ジェズアルド「若い者はそう言うらしいな」
サイバスター「なんだよそのマルチなんちゃらってのは」
F91マルチバースな、マルチバースってのは、多世界宇宙の事で、僕達のいる宇宙の外には無数の宇宙が粟粒の様に広がっているらしいんだ、でも、あくまで噂だけで確認した人は誰もいないんだけどな」
サイバスター「なーんだ、噂かよ」
ビルバイン「まあ、そんな事確認できる人は誰もいないだろうな」
???「だが、我々宇宙帝国イフィニアドならできるかもしれないぞ?」

宇宙帝国イフィニアドの名前を聞いた一同は一斉にその声の主の方に振り向いた。発言者は平凡な姿の一般男性だった。服装からしエスプランドル聖王国の住民だろう。

ビギナ・ギナ「あなたは!?」
男性「俺はエスプランドル聖王国の住民であり、イフィニアドのメンバーでもある」

そう言って男性は胸元からナイフを取り出した。

セアル「あなた何をしているの! やめなさい!!」
男性「おっと~、俺を殺す気? まさか善良な騎士団さんが国民を殺したりはしないよね~?」
アエリス「イフィニアドの所属で私達を殺そうとするなら、私達は戦います!」
男性「チッ、そう簡単にはいかねえか…」

すると男性は宇宙人の姿へと変わった、かつてアストラやウルトラマンヒカリに化けた暗黒星人ババルウ星人だ。

エルフリーデババルウ星人が化けていたのね!」
ババルウ星人「そうさ、人間で国民と言っときゃ安心しててめえらを殺せると思ったんだがな」
ビルバイン「考えが甘かったな!」
ババルウ星人「うるせえ! かえって楽になったってものよ!!」

そう言ってババルウ星人は撤退した。しかし、ババルウ星人が撤退してしばらくすると、エスプランドル聖王国の外から機械音が聞こえてきた。その音を聞いてF91達が外に行ってみると、そこには6メートルほどの白い巨大兵器があった。

ビルギット「あれは…! 何だっけ? 過去に出現したロボットだよな」
F91「ザムリベンジャー、ザム星人の作ったロボットだ」
ザム星人「その通りだ、愚かな地球人よ!!」
ババルウ星人「今からこのザムリベンジャーで貴様らを血祭りにあげてやる!!」
ビルギット「今更100年近く前に出現した骨董品を引っ張り出してきて何ができるってんだよ!!」

そう言ってビルギットはビームライフルを撃った。続けてF91やビギナ・ギナもビームライフルで攻撃したが、ザムリベンジャーの光波バリアで防がれた。

ビルギット「そうだった、こいつはウルトラマンネオスのネオスラッシュを防いだんだった」
サイバスター「このバリアの感じ…あの巨大戦車に似てるな…」
ザム星人「よく気付いたな! あのジェノサイドタンカーやこのザムリベンジャーのバリアは色んなバリアを研究して開発したのだ! キングザウルス三世のバリアやデストロイガンダム陽電子リフレクター、ガギのバリヤーなど様々なバリアを研究してな!」
サイバスター「へっ! だったらこいつのバリアも簡単に壊せるじゃねえか!!」

サイバスターアカシックバスターを放ってザムリベンジャーを攻撃した、しかし、ひらりと回避されてしまった。続けてビルバインダンバインはオーラソードにオーラを纏って斬りかかった。だが、ザムリベンジャーはフィンガーミサイルを放ってビルバインダンバインを吹き飛ばした。

ビルバイン「くっ!!」
F91「…おかしい、明らかにこの機体は過去に出現した物より遥かに強力になっている!!」
ザム星人「貴様、賢いな! このザムリベンジャーはイフィニアドの技術で強化されている!!」
ババルウ星人「その性能は過去のザムリベンジャーの10倍だ!!」
ビルギット「何て事だ…そんな奴に勝てるのかよ!!」
ビギナ・ギナ「諦めてはいけないわ! 絶対に勝つのよ!!」
サイバスター「…しゃーねーな、あれを使うしかないか…」
ビルバイン「あれとは何だ?」
サイバスター「まあ、見てな、俺の最強必殺技さ」
ババルウ星人「最強必殺技だと!?」
サイバスター「要するに、最後の切り札さ、これなら、お前の自信作も一撃だぜ?」
ザム星人「舐めた真似を! 俺のザムリベンジャーが負ける訳がない! やれ!!」

ザムリベンジャーはサイバスター向けて走ってきた。

サイバスター「いっけぇぇぇ、コスモノヴァ!!」

サイバスターはコスモノヴァを放った、ザムリベンジャーは回避行動と共にバリアを張ったが、コスモノヴァは見事命中し、バリアを貫通して大爆発を起こした。その威力は凄まじく、流石のザムリベンジャーも木っ端微塵となった。

ザム星人「あぁっ! ザムリベンジャーが!!」
ババルウ星人「馬鹿な! 何故命中したんだ!!」
サイバスター「簡単な話さ、最強必殺技が命中しなかったら面白くねえだろうが」
ババルウ星人「くそっ! ここは退くしかない!!」
ザム星人「戦術的撤退と書いて、逃げる!!」

ババルウ星人とザム星人は目にも止まらぬ速さで逃げた。F91達も追おうとしたが、2人の宇宙人はすぐ見えなくなった。

サイバスター「チッ! 逃げ足だけは早い野郎だ」
F91「なあ、サイバスター
サイバスター「何だ?」
F91「あんな素早い相手にどうやって命中させたんだ?」
ビルバイン「俺も気になるな」
エーリカ「あんな早い相手に命中させるなんて、凄いです!!」

サイバスターは質問攻めにあって困っていた。しばらく困った後、サイバスターは理由を語った。

サイバスター「実はあれ、結構適当に放ったんだよな…」
ダンバイン「そうなの?」
サイバスター「開発者が結構な自信家だったから、少し煽ってやれば回避せずに突っ込んでくると思ったんだ」
ビルバイン「そして見事命中した、と」
サイバスター「そう言う事だ」

えらく適当な真実に一同は呆れかえっていた。すると、エスプランドル聖王国の離れにある草原にまばゆい光が放たれた。それは、ビルバインサイバスターが現れた時と同じだった。

F91「あれは…! また何かが転移してくるのか!?」
ビギナ・ギナ「転移?」
F91「ああ、このサイバスター達が転移してきた時と同じ状況だ」
サイバスター「なら、行ってみようぜ」
アエリス「そうね」
テオドール「その間の王国の防衛は任せてください」

F91達は、一部の騎士団員を残し、光が放たれた方に向かった。一方、光の中からは2人の人間が現れた。

カムイ「うぅん…ここはどこでしょうか…?」
アルス「ここはどこだ? それに、みんなはどこに行ったんだ?」

異世界から来たこの2人はそれぞれ違った特徴があった。カムイは白い鎧とベージュがかった長い髪、尖った耳が特徴で、金の刀「夜刀神・終夜」を持った優しそうな見た目の女性だ。
アルスは冒険者のような服装と逆立った髪型をしており、いかにも勇者と言った風貌の少年だ。

カムイ「あら? あなたは誰ですか?」
アルス「俺はアルス、大魔王ゾーマ討伐の途中で変な旅の扉に吸い込まれて、気付けばここにいた」
カムイ「私はカムイと言います、私も謎の穴に吸い込まれて、気付けばここに…」
アルス「一瞬ゾーマの仕業かと思ったが、これはゾーマの仕業ではないな、一体誰が…」
カムイ「おや? あっちから誰か来ますね…」

カムイが指刺した先にはF91達がいた。

アルス「奴らの姿…魔物か? だが、あんな魔物は見た事がない…」
カムイ「ノスフェラトゥ…ではありませんね…」
アルス「お前達、何者だ!」
F91「落ち着くんだ! 僕達は敵じゃない!!」
アルス「いや、明らかに怪しい姿をしてるだろ…」
サイバスター「お前達も、この世界に転移してきたんだろ?」
カムイ「!! 何故それを…」
ビルバイン「俺達の中の何人かもこの世界に転移してきたんだ」
カムイ「あら、あなた達も、私達と同じなんですね…」
アルス「敵じゃないようだな、なら、俺達にも話を聞かせて欲しい」
サイバスター「分かった、じゃあ、行こうぜ!」

そう言ってF91達はエスプランドル聖王国の方へ向かって行った。次々と現れる異世界からの来訪者、彼らはこの世界に一体何をもたらすのか…。

月白のエレメティア

「あなた、この機体に乗って」

オレンジ色の長い髪と透き通ったオレンジの瞳の美少女は、学校帰りの僕の前に一機の見た事のない白いオートマシンに乗って現れ、胸部のコックピットの中からそう語り掛けた。

「ぼ…僕…が…?」
「ええ、そうよ、あなたならきっと、このオートマシンを動かせるわ、私じゃ上手く動かせないのよ」

そう言って、少女は謎のオートマシンの持っていた白い戦闘機を地上に置いた。

「さあ、早く!!」
「もう! どうなっても知らないからね!!」

そもそも、何でこんな事になったのだろうか…。西暦2253年、幾度とない争いや宇宙人災害を解決し、争いが無くなった世界で、人々は平和を謳歌していた。しかし、その平和も長くは続かず、本日、僕の住むこのウィットタウンに2機のオートマシンが落下した、しかも、僕が学校から帰る帰り道で。1機はこの白いオートマシン、もう1機は黒い紫色のオートマシン。ちなみに、オートマシンって言うのは、人型の兵器、所謂ロボットだね。僕が乗った白いオートマシンはとても綺麗な姫騎士みたいな見た目、もう一機のオートマシンは悪魔みたいな見た目で、ウイングが装着されてる敵メカみたいな見た目。そして、僕はロボットアニメの主人公みたいにいきなりロボットに乗り込む事になったんだ。

「ところで、君、名前は?」
「私ですか? 私の名前は戦闘人間No.271です」
「何その名前…呼びづらいからさ、最初の2から取ってツヴァイでいい?」
「ええ、構いませんが、あなたの名前も聞かせてくれませんか?」
「僕は天川奏斗(あまかわ かなと)、私立ウィット学園の2年A組所属だよ」
「では、奏斗、このエレメティアの操縦はお願いします、私は下にある支援戦闘機のエレスティアに乗り込みますので」

そう言ってツヴァイはエレメティアと呼ばれたオートマシンのコックピットから飛び降り、エレスティアと呼ばれた支援戦闘機のコックピットに乗り込み、浮上した。

「何をしているんです、奏斗、早く戦いますよ」
「無理だよ! 僕、オートマシンの操縦なんてしたこと…」

その時、僕の脳裏にオートマシンの操縦方法が浮かんできた。とても不思議な感覚だ、機械音痴でオートマシンの操縦なんてできっこない僕が、オートマシンの操縦方法を知っているのだから。

「な…何で…? 僕…このオートマシンを動かせる…!!」
「そのオートマシンは普通に生まれた人間にしか動かせないものです、私みたいに培養されて誕生した戦闘人間には動かせません、そして、普通に生まれた人間のみ、エレメティアに乗った瞬間に操縦方法が脳裏にインプットされます」
「何だか知らないけど、僕はこのオートマシンであいつを倒せばいいんだよね?」
「はい、あの機体はマッドサイエンティストのDr.バイオの世界征服の尖兵、ヴァルガーです」
「ヴァルガー…いかにも悪役っぽい名前…でも、Dr.バイオって?」
「それは後です! 来ますよ!!」

ヴァルガーはウイングを展開し、飛行した。僕はすぐさま胸部のコックピットを閉じ、肩部に内蔵された牽制武器のプラズマバルカンを放って攻撃した。だが、ヴァルガーは素早い動きで回避し、所謂ビームライフルのエネルギーシューターを構え、僕を狙って撃った。

「危ないっ!」

僕はそう言いながら後方へ跳んで攻撃を回避、しかし、ヴァルガーは攻撃を続けてくる為、僕はとっさに防御する事にした。

「防御兵装は…レーザーシールド…これかっ!!」

エレメティアの両腕にはレーザーシールド発生装置がある、僕はエレメティアの両腕にレーザーシールドを展開させ、ヴァルガーのエネルギーシューターを防いだ。

「やった!」
「奏斗、レーザーシールドは様々な攻撃を防御できますが、エネルギー消費が激しいのでできるだけ回避してください」
「分かった!」

エレスティアに乗っていたツヴァイは両翼に装備されたレーザーシューター、シューティングゲームにおける所謂ノーマルショットでヴァルガーを攻撃、ヴァルガーのエネルギーシューターを破壊した。

「今だ!」

僕はエレメティアの太腿部のアーマーを展開し、その中に入っていたレーザーセイバー、所謂ビームサーベルを装備し、レーザーの刃を展開、そのまま大空へ飛翔した。

「はあぁぁぁっ!!」

エレメティアは大きく振りかぶり、ヴァルガーの胴体をビーム刃で溶断した。ヴァルガーを切り裂いたエレメティアは地上に着地し、ビーム刃をしまった。直後、ヴァルガーは爆発四散した。初めての戦いを終えた僕は、戦いに疲れて息切れしていたが、不思議と恐怖心はしなかった。どうやら、エレメティアには恐怖を和らげるシステムがあるようだ。

「奏斗、お怪我はありませんか?」
「大丈夫、ピンピンしてるよ」
「それは良かったです、ですが…」

僕の周りには、いつの間にか到着していた統合軍の量産型オートマシン、バーテルが僕達を取り囲んでいた。バーテルは所謂味方側の量産型雑魚メカみたいな見た目をした弱そうな機体で、ここ数年は大きな争いも無かった事から、特に新型機の開発もされておらず、既に旧式化している。そんな機体がこのエレメティアに勝てる訳は当然ないのだが、流石に民間人の僕と素性の分からないツヴァイが正規軍の人達に手を出すわけにはいかなかった。もし下手に手を出せば重罪、つまり大変な事になってしまうのだ。

「奏斗、どうします?」
「どうって…流石に正規軍には手を出せないよ…」

その時、2機のカスタムされたバーテルが僕達に近づいてきた。片方はブースターを装着した高機動型、もう片方は大きなスナイパーライフルを持ったスナイパー型であった。すると、高機動型のバーテルがエレメティアの肩に手を当て、接触回線で通信を送ってきた。

「うちは地球統合軍ウィット防衛軍所属、皇栞奈(すめらぎ かんな)少尉、あんた達の所属は? そのオートマシンはどこの所属?」
「え…えっと…僕達は…」

すると、エレメティアの上空に待機していたエレスティアがエレメティアにアンカーを放って接触した。

「私達はあなた達の敵ではありません、あなた達の味方です」
「はぁ? 何なのあんた? もしかして、宇宙から来た正義の味方? まさか、地球は狙われている! とでも言う気?」
「詳しい話は基地の方でします、一旦基地に戻りませんか?」

ツヴァイのその言葉を受け入れた栞奈少尉は、僕達と共にウィット基地に帰投した。ウィット基地はウィットタウン唯一の軍事基地であり、ウィットタウン自体が非常に平和な地域である為、兵士の練度も低く、合同演習ではいつも下の方にいる。そのウィット基地に来た僕とツヴァイだが、僕がコクピットから降りると、兵士達は驚いていた。そりゃそうだ、僕は善良な一般市民、ただの学生である。

「驚いた、まさかただの学生がこんなオートマシンを乗りこなしているなんてね…」

栞奈少尉の声がしたので、振り向くと、赤い髪をボブカットにした女性であった。左目は髪で隠れているが、その瞳は紫色で、キリッとした目をしている。すると、今度はもう一人の女性兵士やってきた。

「あなたがやった事はオートマシンの無断所持…市街地での勝手な戦闘…更に一個人が兵器を所持…普通ならありえないくらいの罪状だらけね…」
「やめとけって愛梨、あ、こいつは猫崎愛梨(ねこざき あいり)少尉、あまりやる気はなさそうだが、オートマシン操縦の腕前は確かだ」
「よろしくピース…」

天音愛梨少尉は青く綺麗なロングヘアが目を引く女性で、目は綺麗な黄色であった。正直、人形にしか見えないぐらい整った顔であるが、これでも軍人なのだから驚きである。

「あ、ちなみにうちら偉そうな事言ってるけど、これでもまだ17なんだよね」
「そ…そうなんですか!?」
「そだよー…ちなみに私達は親友なんだよ…」

すると、エレスティアを着陸させたツヴァイがエレスティアのコックピットから降り、僕達の近くにやって来た。

「お待たせしました、これからあなた達に重要な話をします、よく聞いててくださいね」

ツヴァイの話した事は以下の通りである。大気圏外にあるかつての争いで廃棄された宇宙ステーションがDr.バイオと言うマッドサイエンティストの研究施設にされており、そこで地球統合軍のオートマシンの実に15倍もの性能を誇るオートマシンを独自に開発、更に、そのパイロットとなる戦闘人間を培養技術で次々と誕生させていると言う事である。Dr.バイオはかつては軍の科学者だったが、あまりに非人道的な実験をする為、軍を首にされた経緯があり、バイオはその復讐の為、この世界を自身の作ったオートマシンで滅茶苦茶にしようとしているのである。戦闘人間はDr.バイオの手駒として働くただの消耗品なのだが、そのバイオのやり方に従えないと感じたたった一人の戦闘人間No.271ことツヴァイはその宇宙ステーションを脱走し、それと同時に最新鋭機体のエレメティアと支援戦闘機のエレスティアを奪取し、その設計図を破棄して地球へと降下した。そして、ツヴァイの追手としてDr.バイオの差し向けたヴァルガーとウィットタウンに着陸し、そこで奏斗と出会ったのである。この事実を聞いた奏斗たちは、どうするべきか悩んでいた。

「ツヴァイの言ってる事って、相当大変な事だよね? 統合軍のオートマシンの15倍の性能って…」
「そんなの、うちらのカスタムバーテルでも対応できねーじゃん!」
「15倍の性能…そんなのと戦ってたら命捨てるだけ…私は負ける戦いはしない主義…」
「だから、今Dr.バイオと戦えるのは私達だけなんです!」
「ツヴァイ、そのバイオ一派の戦力ってどれぐらいなの? まさか、1万とか言わないよね?」
「そうですね、宇宙ステーションは狭く、生産性も優れてないですし、戦闘人間も生み出すのに時間がかかる割には役立たずとして処分された子もいましたから…ざっと数十機程度でしょうか?」
「数十機程度なら、僕らだけでも対応できるんじゃないですか?」
「そうだな、どうせ今の堕落しきった統合軍じゃ役に立たねーし、他の基地からの応援も期待できねーし、うちらだけでやるっきゃないか!」
「ほんとにやるの…? 私は嫌…普通に嫌…死にたくないし…」
「いいからあんたもやるの! ささ、そうと決まれば飯だ飯」
「栞奈って…普通に鬼…親友なら優しくして…」

その後、僕達は戦いの前の腹ごしらえとしてウィット基地で食事をした。軍の料理を食べるのは初めてだが、普通に美味しいと感じた。と言うか、こんな経験、普通の学生なら絶対にしないであろう、そう考えると、この経験は貴重であると感じた。その時だ、僕達が食事をしていると、大きな音がした。音からして、何か重たいものが墜落した音であろう。

「何だよ、うちらが飯食ってんのに! 愛梨、モニター!」
「今やってる…急かさないで…」

愛梨少尉が着陸地点の映像をモニターに映し出すと、そこにはウイングを取り外し、重装甲、重武装になって下半身がキャタピラになったヴァルガーがいた。この場合、ロボットアニメだとヴァルタンクになるんだよな…。

「あれは…! 地上用機体のヴァルタンク!!」
「いや、ほんとにヴァルタンクって名前だったの!?」

すると、他にも6機が地上に着陸してきた。内4機はヴァルガーだったが、後の2機はヴァルガーのウイングを取り外し、肩にキャノン砲を取り付けた機体であった。これもロボットアニメだとヴァルキャノンなのだが…。

「地上用機体のヴァルキャノン…! あれも完成していたなんて…!!」
「あれもヴァルキャノンって名前なの!? Dr.バイオ、結構ネーミングセンス普通!?」
「こうしちゃいられねえ! 愛梨! 行くぞ!!」
「嫌だ…私はベッドで寝たい…ふかふかのベッドプリーズ…」

栞奈少尉が愛梨少尉の首根っこを掴んで無理やり連れて行ったのを確認すると、僕とツヴァイもそれぞれの機体の所へ向かった。そして、コックピットに乗り込むと、出撃の準備を整えた。

「皇栞奈、バーテルアサルト、行くぜ!!」
「猫崎愛梨…バーテルバスター…行くよ…」
「天川奏斗、エレメティア、行きます!」
「ツヴァイ、エレスティア、発進します!」

僕達4人はそれぞれの乗機に乗って発進した。ちなみに、他の隊員たちは練度も低く、戦っても死ぬ可能性が高い為、街の防衛に当たらせている。その移動の途中、ツヴァイは栞奈と愛梨にある事を聞いた。

「栞奈さん、愛梨さん、あなた達のカスタムバーテルは通常の機体と比べてどれぐらいの性能ですか?」
「ああ、うちらのカスタムバーテル? これは一般のバーテルの3倍程度だよ」
「つまり、ほぼ戦力外…私は死にに行くだけ…ほんと最悪…隙を見て逃げようかな…それとも命乞いしようかな…」
「あんたは戦う気ないんかい!!」
「大丈夫です、二人共後方で武器を撃ってくれればいいので」
「つまり、砲台役ね…それなら任せて…学習発表会で木の役ならやり慣れてるから…」
「それはあんたがやる気を見せなかったからでしょ!」
「目立つのは嫌…私は空気程度の扱いでいい…」
「栞奈さん、愛梨さん、もうすぐ目的地です、作戦通りお願いしますね」

その後、僕達は目的地に到着した。既に市街地は破壊されており、破壊された建物や人の死体であふれかえっていた。

「そんな…こんなのただの虐殺だよ!」
「Dr.バイオは戦闘人間たちに虐殺を命じているんです、地球でぬくぬく暮らしている愚かな人間を皆殺しにしろって」
「なんだよそりゃ、みんな頑張って生きてるのに!」
「久々にカチンときた…私、本気出す…!」

愛梨少尉の乗るバーテルバスターはレーザースナイパーシューターと言うビームスナイパーライフルを構え、ヴァルガーのコックピットを狙い、撃った。そのレーザーはヴァルガーのコックピットを貫通し、一機撃墜、続いてもう一機狙い撃って撃破した。

「うわぁ…愛梨少尉、凄いですね…」
「えへん…この程度、朝飯前…私はやればできる子…いぇい…」
「こりゃ、うちも負けちゃいられねえな!」

栞奈少尉の乗るバーテルアサルトは両腕のミサイルポッドからミサイルを1発ずつ発射した。その攻撃はヴァルガーに迎撃されたが、その爆風の中からバーテルアサルトが現れ、エネルギーブレードと言うビームの刃でヴァルガーを切り裂き、立て続けに2機撃破した。

「どうよ! うちらの旧式だって、頑張ればこれぐらいできるんだぜ!」
「凄いです! 栞奈少尉! 愛梨少尉!」
「これは私達も負けてられませんよ、奏斗!」
「分かってるよ、ツヴァイ! 僕達も続こう!!」

ツヴァイののるエレスティアは機体上面からミサイルランチャーを発射し、ヴァルキャノンを攻撃したが、ヴァルキャノンは両肩のハイパーキャノンを発射。ハイパーキャノンは実弾兵器だが、その火力は凄まじく、大爆発が発生した。恐らく、この辺り一帯を滅茶苦茶にしたのもこれの仕業だろう。

「うはー、すげー火力だな…」
「あんなのに当たったら…私達はバラバラになる…そんなの嫌…棺桶には綺麗な姿で入りたい…」
「大丈夫です! ここは僕達に任せてください!!」

僕はエレメティアの腰に装備されたレーザーシューター、所謂ビームライフルを装備し、ヴァルキャノンを攻撃した。しかし、ヴァルキャノンはその攻撃を回避し、同じくビームライフルのエネルギーカノンで攻撃を仕掛けた。僕はその攻撃を回避し続けたが、流石に技量の面で僕は負けていた。


「くっ! 攻撃が厄介すぎる!」

そんな話をしていると、上空からヴァルガーが追加で2機降下してきており、上空のエレスティアを狙っていた。

「ツヴァイ!」
「大丈夫です! ここは私に任せて奏斗たちはヴァルキャノンとヴァルタンクを!!」
「うちらが援護に行く!」
「ここは任せて…」

しかし、栞奈少尉と愛梨少尉を近づけさせまいと、ヴァルタンクは両肩のツインキャノン、両腕のダブルアームキャノンで辺りを砲撃した。

「くっ! これじゃ近づけねえ!」
「三十六計逃げるが勝ち…そろそろ逃げるか命乞いするしかないわね…」
「馬鹿! 諦めんな!!」

僕は一刻も早くこの敵を片付けてみんなを、この街の人達を助けたいと思った。

「ツヴァイ! 何か強力な武装は!?」
「背面に装備された二門のレーザーブラスターがあります!」
「分かった! これだな!!」

僕はエレメティアの背面のレーザーブラスターを前面に展開した。レーザーブラスターは強力なビーム砲であるらしく、その威力は確かであろう。僕はレーザーブラスターのトリガーを引いた。

「食らえっ! レーザーブラスター!!」

レーザーブラスターの砲門から放たれた強力なビームは素早く放たれ、ヴァルキャノンの胴体を上下分離させた。上下分離したヴァルキャノンは爆散し、続けてもう一機のヴァルキャノンにも砲門を向けた。

「もういっぱーつ!!」

再び放たれたレーザーブラスターは、ヴァルキャノンの胴体を貫き、ヴァルキャノンは爆発四散した。

「よし!」

一方で、上空にいるツヴァイも、ヴァルガーとの決着を付けようとしていた。

「エレスティアをただの支援機と思わない事です! エレスティアには、エレメティアのレーザーブラスターにも負けない威力の兵器が積まれているんですよ!」

ツヴァイの言う強力な兵器とは、機首の下部に装備された強力なビーム砲、レーザーバスターである。ツヴァイはヴァルガーが一列に並んだ瞬間、レーザーバスターのトリガーを押した。

「今です! レーザーバスター!!」

エレスティアから放たれたレーザーバスターは、一列に並んだヴァルガーのコックピットを同時に一瞬で貫通し、直後、2機のヴァルガーは爆発四散した。

「どうです? これがエレスティアの性能ですよ」

そして、残すはヴァルタンク1機のみとなった。下半身がキャタピラの相手は弱いと言うのはロボットアニメではよくある事だが、こいつはどうもそうは見えなかった。明らかに弾薬を大漁に積まれている、下手すればこちらがやられるかもしれない。

「奏斗、一気に決めますよ!」
「OK! ツヴァイ!」

エレメティアとエレスティアは同時にレーザーブラスターとレーザーバスターを撃った。しかし、その攻撃はヴァルタンクの周囲を覆う電磁バリアで防がれた。

「そんな…! レーザーバスターが…!」
「レーザーブラスターも防がれちゃったよ…どうしよう…!」
「ねえ、ツヴァイ、これより強い武装はないの?」
「…ありません」
「そんな…もうこの世界はおしまい…私は結婚する事なくこの世を去る…来世はいい人生を送りたい…」
「馬鹿! 諦めんなって!!」

最強武器が効かず、誰もが諦めたその時、ツヴァイが一つの可能性を挙げた。

「…一つ可能性があるとすれば、それは、エレメティアとエレスティアが合体する…ですかね…」
「合体!? そんな事が出来るの?」
「合体自体はできますが…合体プログラムが未完成で、上手く合体できない可能性があるんです…」

上手く合体できない、恐らくそれは合体の際に機体を一度分解した際、パーツがバラバラになってしまうと言う事だろう、その場合、墜落してパーツが壊れてしまうかもしれない、でも…。

「今はそれしかあいつを倒す方法がないんだよね? じゃ、やってみようよ!」
「何で…何でそんなに前向きになれるんですか…?」
「人間ってさ、前向きに生きてた方が何かしら特なんだよ、それは戦闘人間である君も同じさ、ツヴァイ」

僕のその言葉に、ツヴァイは少し黙り込んだ、僕のこの言葉が嬉しかったのか、可笑しかったのかは分からない、でも、次にツヴァイが口を開いた時、ツヴァイは元気のある声で返事を返した。

「分かりました! ダメもとで合体をやってみましょう!」
「ダメもとじゃないさ! 必ず成功させよう!!」
「無理だったら、うちらがパーツをパズルみたいにくっつけてやっから安心しな!」
「凄く面倒そうだけど…協力ぐらいはしてあげる…その代わり、後でスイーツ食べ放題よろしく…」
「合体コードはフォーメーション・エレメティオーラです!」
「OK! フォーメーション・エレメティオーラ!!」

僕がそう叫ぶと、エレスティアの本体とウイング、レーザーシューターが分離した。その後、レーザーシューターがエレメティアの肩に合体、続けて、エレメティアのレーザーブラスターが分離し、そこにウイングが合体、その後、ウイングにレーザーブラスターが合体した。最後に残ったエレスティアの本体だったが、ここで合体プログラムがおかしくなって本体が真下に落下した。

「危ないっ!!」

僕はとっさにエレスティアの本体を手に取った。

「奏斗、本体をエレメティアの左腕に合体させて!」
「分かった!」

僕は言われた通り、エレスティアを左腕に合体させた。こうして、合体オートマシン、エレメティオーラが完成した!

「ほえ~、エレスティアがブロックみたいに分離してエレメティアに合体しやがった…」
「結構…カッコいい…かも…私は…好き…」
「奏斗、エレメティオーラの火力なら、ヴァルタンクの電磁バリアを貫通できるはずよ!」
「分かった! 一番強い武装は!?」
「レーザーブラスターとレーザーバスターの同時攻撃! 分離時より出力が上がっているから、必ず貫通できるわ!」
「OK!」

そう言ってレーザーブラスターを前面に展開、レーザーバスターの砲門をヴァルタンクに向けた。ヴァルタンクは迎撃の為、車体に装備された巨大ミサイル、ハイパーミサイルと肩部に内蔵されたミサイルランチャー、両肩のツインキャノン、両腕のダブルアームキャノンを一斉射したが、こちらもレーザーブラスターとレーザーバスターの同時攻撃で返した。

「レーザーブラスター、レーザーバスター、最大出力! 行っけぇぇぇっ!!」

同時に放たれた3つのビームは、ヴァルタンクの撃った弾丸を迎撃し、ヴァルタンクの張った電磁バリアを貫通、更に重装甲のヴァルタンクの胴体を貫いた。そして、ヴァルタンクは大爆発を発生させて消滅した。

「やりましたね、奏斗!」
「ああ!」
「さて、これで残すは宇宙にいるDr.バイオだな!」
「今の私達に宇宙に行く手段はない…つまり私はお役御免…さよなら…」
「おめーはまだ街の防衛って仕事があるだろーが!」
「エレメティオーラの出力と性能なら、このまま宇宙まで行けます!」
「じゃあ、僕とツヴァイは宇宙に行ってきますので、栞奈少尉と愛梨少尉はここで待っててください」
「オーケー! 必ず倒して来いよ!」
「私…応援してる…ふれーふれー…」

その後、僕とツヴァイはエレメティオーラに乗って宇宙へと向かった。どんどん地上から離れていき、僕は生きて帰れるのかと少し心配になったが、今の僕達ならどんな相手が来ても勝てる気がした。そして、僕達が大気圏外に出ると、Dr.バイオの宇宙ステーションがあった。

「あれがDr.バイオの宇宙ステーションだな!」
「その通りだ、裏切り者No.271と小僧!」

Dr.バイオはエレメティオーラのモニターにその姿を映した。Dr.バイオは普通の白髪の老人で、髭を生やし、白衣を着たいかにも科学者と言う見た目をした人物であった。表情は常に狂気の顔で、まさにマッドサイエンティストと言う言葉が正しかった。

「Dr.バイオ…! あなたの野望はもう終わりです!」
「ほざけ! まだわしには最終兵器がおるわ!」

そう言って宇宙ステーションから出撃したのは、ヴァルガーとエレメティアのデザインを合わせたようなオートマシンだった。

「何だこのオートマシンは!? エレメティアに似ている…!?」
「こいつは設計図が失われたエレメティアを再現する為、ヴァルガーをベースにカスタムしたオートマシン、ヴァルスティアだ! その性能はエレメティアに匹敵するぞ!」
「エレメティアに匹敵? でも今の僕達のエレメティオーラはエレメティアより強いんだ!」
「舐めるなよ、小僧、ヴァルスティアのパイロットはわしの生み出した戦闘人間の中でも最高傑作である戦闘人間No.31だ!」
「戦闘人間No.31ですって!?」
「そんなに強いの? ツヴァイ」
「ええ、彼女は根はとてもいい子で争い事が苦手なんだけど、その潜在能力は非常に高く、Dr.バイオによって非人道的な洗脳をされてしまったの、だから今の彼女はただの人殺しの道具なのよ」
「戦いを望んでない子を無理やり…Dr.バイオ! 僕はお前を許さない!!」
「ふん、そんな事、知った事か!」

すると、Dr.バイオは宇宙ステーションから何か発進させた。それは巨大ミサイルであり、その進路は地球に向かっていた。

「今度はミサイル!?」
「あれは…核ミサイルよ!」
「核ミサイル!? それって今は保有が禁止されているんじゃ…」
「フフフ…最終手段として、裏ルートで手に入れたのだよ」
「Dr.バイオ! お前はどこまで…!!」
「奏斗、早くあのミサイルを止めないと…!!」
「でも、どうすれば…!!」
「エレメティオーラの掌には反重力フィールド発生装置が備わっています、それで跳ね返すんです!」
「分かった! でも…」

核ミサイルを止めようにも、ヴァルスティアが僕達を妨害していた。ヴァルスティアはエネルギーブレードとエネルギーバスターで攻撃を仕掛け、僕はその攻撃をレーザーセイバーで切り払っていた。だが、根は優しい彼女を殺す事はできない、かと言って、核ミサイルも止めないといけない、何とか説得できないものか、エレメティオーラとヴァルスティアは元々Dr.バイオが開発した機体、なので通信回線も同規格のはずだ。僕は通信回線を開いた。

「No.31! もうやめてくれ! あのミサイルが地球に落下したらおしまいなんだ! 多くの人が死ぬんだよ!?」
「ひと…しぬ…ばいお…それをのぞんでる…」
「バイオは望んでるよ、けど、君はどうなの!?」
「わたし…ひとしぬ…きらい…でも…ばいおが…それをのぞんでる…」
「君がそれを嫌いなら、無理してやらなくていいんだ!」
「No.31! 優しい心を思い出して!!」
「なんばーにひゃくななじゅういち…うらぎりもの…まっさつする…」

何を言っても通じない、ミサイルが落下危険地域に達するまではまだ時間がある、でも、このまま彼女を放っておいたら妨害される、そろそろ覚悟を決める時が来たと感じた。

「…ツヴァイ…僕…彼女を殺したくない…」
「大丈夫よ、奏斗、今まで私達が殺してきた戦闘人間と同じだと思えばいいから…」
「ツヴァイ…」

その時、No.31の方から僕に通信が送られてきた。

「つう゛ぁい…? つう゛ぁいって…何…?」

僕とツヴァイはその言葉に驚いた。彼女は恐らく、僕とツヴァイの通信回線で僕が付けたツヴァイと言う名前に興味を持ったのだろう。

「ツヴァイって言うのはね、No.271の名前、僕が付けたの」
「な…まえ…?」
「うん、もし良かったら、君にも付けてあげようか?」
「おね…がい…」

僕は考えた、彼女に良さそうな、似合いそうな素敵な名前を。31…3と1の頭文字を取って、その後に響きの綺麗な文字を入れて…。

「サイリー…はどうかな…?」
「さい…りー…? いいなまえ…わたし…さいりー…」

すると、ヴァルスティアは攻撃を止め、Dr.バイオの宇宙ステーションの方へと向かって行った。

「No.31! 何をしている! 奴らを殺せ!!」
「わたしは…私の名前は…No.31じゃない! サイリーって言う素敵な名前がある!」
(サイリー、まさか、自我を取り戻したの…?)
(これって奇跡じゃ…)
「馬鹿な…! お前達戦闘人間はわしの世界征服の道具だ! 道具が主に逆らうのか!!」
「違う! 私達は、道具なんかじゃない! 一人一人が命を持った、立派な命よ!!」

そう言ってヴァルスティアはエネルギーバスターを放ち、宇宙ステーションを攻撃した。

「うおおおっ!!」
「エレメティオーラのパイロットさん! 早くミサイルを!」
「分かった!!」

僕は核ミサイルの正面に立つと、両掌から反重力フィールドを発生させ、核ミサイルを宇宙ステーションの方に押し返した。

「馬鹿な…わしの…わしの野望が…」

直後、宇宙ステーションに核ミサイルが衝突し、宇宙ステーションは大爆発。Dr.バイオは宇宙の塵となって消え、こうしてDr.バイオの反乱は終わった。

「終わったんだね、ツヴァイ」
「ええ、サイリーも、ありがとう」
「はい、ご迷惑をおかけしました、でも、エレメティオーラのパイロットの方に付けて頂いた素敵な名前のお陰で何とか正気を取り戻せました」
「気に入ってくれたなら嬉しいよ、ありがとう、でも、何でサイリーは正気を取り戻せたのかな?」
「多分だけど、戦闘人間はみんな名前に飢えていたのよ、No.なんとかって感じの無機質な名前が嫌で、みんなどこかで名前を欲しがってたんだわ、だから、サイリーは素敵な名前を貰えて嬉しくて、そのショックで我に返った、とかじゃない?」
「なるほど…それって、とっても素敵だね」

その後、僕達はサイリーと共に地球に帰還した。地球に帰ると、栞奈少尉と愛梨少尉が僕達を歓迎してくれて、サイリーも仲間として受け入れてくれた。その後、僕達5人は世界を救った英雄として、何か凄い勲章を貰って、エレメティオーラとヴァルスティアは軍に引き取られたんだ。オートマシンは今の僕達には必要のない物だけど、またどこかで争いが起きたら、僕達は再び乗り込むかもしれない。そして、あっという間に一週間が過ぎた。

「ツヴァイ、学校遅れるよ、サイリーも早く起きて」
「ごめんなさい、奏斗、私まだこの制服って言う服の着方が分からなくて…ボタンの留め方とか…」
「分かった、手伝うから…サイリー起きて!」
「う~ん…むにゃむにゃ…あと5分…」
「ありがとう、奏斗、先ご飯食べてますね」
「分かった、僕はサイリーを起こしてくるね」

その時、インターホンが鳴った。

「あーもう、こんな時に何…?」

ドアを開けると、栞奈少尉と愛梨少尉がいたが、何故か僕と同じ学校の制服を着ていた。

「よっ、奏斗~」
「おはようございます…私の制服姿、可愛いでしょ…? 惚れちゃっても、写真撮ってもいいですよ…? 但し、お金はきっちり貰う主義…」
「馬鹿! 変な事言うな!」
「…二人共、何で制服なんですか…?」
「いや、実はあの後エレメティオーラとヴァルスティアに興味本位で乗ってみたらあまりのスペックの高さに上手く操縦できなくってさ、施設ぶっ壊しちゃって、しばらく仕事に来るなって言われてさ…で、奏斗のいる学校にでも通うかってなって今に至る訳」
「私と栞奈なら動かせると思ったんだけど…やっぱり私達には動かせなかったみたい…これって何だろう…主人公補正…? 普通にムカつく…」
「色々大変だったんですね…」

その後、サイリーが起きてきて、栞奈少尉と愛梨少尉が来てせっかくだからと5人で朝食を取って学校に通った。

「学校って、どんなところなんでしょう…」
「一日中勉強させられる恐ろしい施設…引きこもりには辛い施設…つまり牢獄と同じ…」
「馬鹿! サイリーに変な事吹き込むな!」
「奏斗、平和になったこの世界で、これからもよろしくね」
「勿論! こちらこそよろしく!」

僕達はこれからも大変な出来事に遭うとは思う、それでも、みんなが居ればどんな困難だって乗り越えられる気がする、だって僕は、この戦いを乗り越えられたのだから、どんな困難が立ち塞がっても、絶対に乗り越えてみせる。

闇夜と白昼の系譜 特別編「サプライズ大作戦!」

ネオシュヴァルツゼーレとの戦いもすっかり過去の話となり、平和を謳歌するニューエデンシティの市民たち。あれから色々あり、リヒトとミハルは付き合う事となった。だが、お互いに照れてしまい、いまいち進展のない二人。そんな二人の関係を進展させる為、ミハルの部下であるシャオ、グレイス、フロスの3人がある作戦を立てた。その作戦はサプライズ大作戦、二人の関係を進展させる為の最終手段であった。

「みんな、作戦内容は分かってるよね?」
「もっちろん! ミハル隊長とリヒトくんの関係を進展させるサプライズ大作戦を行うんだよね?」
「この作戦…必ず成功させる…」

三人は二人の仲を進展させる為に取った最初の行動、それは映画のチケットを渡す事であった。リヒトとミハルの好きそうな映画をシャオが選び、そのチケットを渡したのである。当然、三人も関係の進展を確認する為、チケットを購入し、潜入した。しばらく、シャオの選んだ映画の上映が始まった。シャオが選んだ映画はヒーロー物の映画であり、こういう場合は恋愛映画が定番なのだろうが、シャオはせっかく自分達も観るんだからと、自分が観たくて仕方ないヒーロー映画を選んだのである。

「ねえ、シャオ…これって…」
「うん! ボクが観たかった裂空騎士マッハブレードの劇場版だよ」
「いやいや、そうじゃなくて! 普通ここは恋愛映画とか選ぶでしょ…」
「ゴメン! ボクどうしてもこの映画が観たくって…つい選んじゃったんだ…」
「あなたが観たいもの選んでどうするのよ…」
「ゴ…ゴメン…」
「シャオ…グレイス…見て…」

リヒトとミハルは楽しんで映画を観ており、恋愛どうこうよりも映画そのものを楽しんでいた。二人が楽しんでいる様子を見て、三人は安心した。

「シャオが選んだ映画…結構良さそうじゃない」
「でしょ? マッハブレードはアクションが凝ってるからね~」
「二人はアクション系が好きみたいね…」

映画を観終えたリヒトとミハルは外に出た。二人はシャオの選んだ映画は面白かったと二人で話しながら手をつないで歩いていた。それをこっそり見ていた三人は、とりあえず第一作戦はクリアしたと喜んだ。続いて、三人は第二作戦を開始した。それは、映画のチケットと一緒に渡したグレイスの行きつけである喫茶店のカフェオレ無料チケットである。この喫茶店は若い人に人気で、ニューエデンシティでも特に人気のある喫茶店である。更に、ここのカフェオレは美味しいと評判であり、二人が喜ぶ事は確実だと思えたのである。

「さてさて、私の行きつけである喫茶店で二人はどこまで進展するかな~?」
「私達…ストーカーみたい…」
「大丈夫だよ、ボク達みんな変装してきちんと店の中に入って注文までしてるんだから」

二人はカフェオレを注文すると、運ばれて来たカフェオレを飲みながら近況報告をしていた。リヒトは家にシレーヌ、フェルネ、エフィが遊びに来た事、アインベルグ大陸に旅行へ行ったらエスカとレニーと会った事、家に遊びに来たルージュが遊びに来ただけなのにそのまま3日も泊まった事を話した。一方のミハルはフライハイト号の修理が終わった事、エルフィナとアミアが子猫に引っ掻かれた事、元ネオシュヴァルツゼーレのメンバーが防衛隊の隊員になった事を話した。二人の話は盛り上がり、仲が深まっている事を見ていて感じていた。

「ねえねえ、二人共結構良さそうじゃない?」
「確かに…いいかも…」
「ボク達の作戦、上手く行ってるね!」

その後、カフェオレを飲み終えた二人は店を出た。三人も後を追うように支払いを終え、後を追った。そして、三人は第三作戦を決行した。その作戦は、三人が悪人役を演じ、ミハルを攫い、そこをリヒトに倒させる作戦であった。これはフロスが考えた作戦であり、彼女曰く、一番手っ取り早い作戦との事。

「ねえねえ、この作戦、ほんとにやるの…?」
「ボク、怖いからやりたくないんだけど…」
「やるしか…ない…」

グレイスとシャオは覚悟を決め、作戦を決行することにした。その時、空中から一匹の巨大生物が現れた。その生物はグリフォンであり、かつてこの世界に多くいた強力な魔物である。鷲の上半身とライオンの下半身を併せ持つこの魔物は、とても強力で、一般人程度なら軽く殺してしまい、訓練を積んだ兵士でも立ち向かうのは難しい恐ろしい魔物である。グリフォンは口から火球を吐き、リヒトとミハルを攻撃した。二人はとっさに回避行動を取ったが間に合わず、火球の爆発に吹き飛ばされた。

「きゃあぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁっ!!」

二人は爆発で吹き飛ばされた際、足を負傷してしまった。その為、まともに立ち上がることが出来ず、この状態でグリフォンと戦う事は困難であった。

「ねえねえ、どうしよう? 大変な事になったよ?」
「二人が危険ってのもあるけど、このままじゃ街に被害が出てしまうわ」
「なら、あのグリフォンを倒すしかないわね…」

シャオ、グレイス、フロスの三人はそれぞれ武器を別空間から取り出した。シャオは黒いブーメランのブラックバードを、グレイスはショットガンを、フロスはスナイパーライフルを取り出し、攻撃を開始した。手始めにグレイスがショットガンでグリフォンの翼に風穴を空け、飛行できないようにして動きを封じた。続けてシャオが風の魔力を込めたブラックバードを投げ、グリフォンの体を切り裂いた。グリフォンは傷口から深紅の血を流していたが、なおも活動を続け、火球を何度も吐き、辺りを破壊した。その爆風でシャオとグレイスは吹き飛ばされ、軽傷を負った。

しかし、フロスは辺りが破壊されてもなお、スナイパーライフルをグリフォンに向け続けていた。彼女はグリフォンが隙を見せた瞬間を狙い、頭部を撃ち抜こうとしているのである。フロスの持つ武器はスナイパーライフル、一撃で相手を仕留める為の武器なのだ。今、グリフォンを止めるには頭部を撃ち抜き、即死させるしかない。フロスの目的を知ったシャオとグレイスは、グリフォンの動きを止める為、試行錯誤した。

「ほらっ! これで転んで!!」

シャオはブラックバードグリフォンの足元目掛けて投げた。ブラックバードは上手くグリフォンの前足に命中し、グリフォンはバランスを崩して倒れ込んだ。そこにグレイスが指を鳴らし、自身の家系に伝わる奥義、フリーズ・エンドを発動させた。この奥義はグレイスの家系であるセシル家に伝わる奥義であり、今から100年ほど前にこの技を悪用した者がセシル家から出たと言う。しかし、グレイスはこの技をニューエデンシティの人達を、リヒトとミハルを守る為に使ったのである。グレイスの放ったフリーズ・エンドはグリフォンの前足を一瞬で凍結させ、動きを封じた。

「今よ! フロス!!」
「言われなくても…!!」

フロスはスナイパーライフルの引き金を引き、スナイパーライフルを撃った。放たれた銃弾はグリフォンの頭部を貫通した。グリフォンは頭部を撃ち抜かれ、そのまま地面に崩れ落ちた。ミハルの部下である三人は連携して戦い、無事、ニューエデンシティの人々とリヒト、自身の上司を守り抜いたのである。

「ミハル隊長! リヒトさん! 大丈夫ですか!?」
「シャオ…それに、グレイスにフロス…あなた達…あの魔物を倒してくれたのね」
「はい、たまたま街を歩いてたらあの怪物が現れて…」
「私達がやらないと…多くの人が死ぬと思ったから…」
「ありがとう、頑張ってくれたのね、三人共偉いわ、でも、あなた達が私とリヒトくんのデートを覗き見してた事はバレバレよ?」
「えっ!? バレてたの!? おっかしいなぁ…ボク達の変装は完璧だったのに…」
「いや、視線が凄くてさ、僕とミハルちゃんがデートに出発した時には気付いてたよ」
「気付いてないふりして、最後の最後に実は気付いてましたってドッキリしようと思ったのにね~」
「何それ~」
「二人共…いじわる…」

三人はかなり落ち込んだが、結果的に二人はデートを満喫してくれた事に三人は喜んだ。戦えない二人を守る為、三人が戦ってくれた為、住民に死傷者は一人も出ず、再びニューエデンシティに平和が訪れた。リヒトとミハルはその後トルトゥーガの治癒魔法で完治した為、すぐ歩けるようになった。しかし、肝心の二人の関係はあまり進展しておらず、二人が付き合うのはまだまだ先になりそうである。だが、三人はまた次のサプライズ大作戦の計画を立てていた。

「ねえねえ、第二回サプライズ大作戦は何にしようかな?」
「そうね…水族館とか良さそうじゃないかな?」
「動物園も…いいかも…」

デートをする本人であるリヒトとミハルより楽しそうにしている三人。彼ら彼女らにとって一番楽しみなのはリヒトとミハルが付き合う事より、サプライズを考える事なのかもしれない。三人のサプライズはリヒトとミハルの仲が進展し、結婚することになったとしても、サプライズを続けるだろう。一番の楽しみがサプライズの三人は防衛隊の仕事をしっかりこなす有能な人材である。だが、上司に対しての敬意も忘れない有能な人材なのである。

闇夜と白昼の系譜 後編「白昼の救世主編」

ナハトとその仲間達がシュヴァルツゼーレを撃破し、17年が経過した。シュヴァルツゼーレの残存勢力は撤退を始め、組織は事実上壊滅し、大きな争いが起きる事もなく、人々は平和な日々を謳歌していた。エデンシティは過去の大きな戦いを生き抜いた奇跡の街として、街の名前をニューエデンシティに改め、世界の平和の要として先導していた。ナハトが残した子供であるリヒトは17年の時を得て立派に成長し、ニューエデン私立学園に通う高校生になっていた。トルトゥーガが愛情を込めて育てた為、心優しい少年に成長しており、かつてのナハトの仲間達もたまに様子を見に来ては笑顔を見せていた。リヒトは休みの日と祝日以外は学業に専念している為、今日も母親であるトルトゥーガが愛情を込めて作った弁当を持って学校に通っていた。

「じゃ、行ってくるよ母さん!」
「気を付けてね、リヒト」

そう言って見送るトルトゥーガに手を振り、リヒトは学校に向かった。まだ始業までは時間がある為、リヒトはゆっくりと歩いていた。そのリヒトを呼ぶ少女の声が後ろから聞こえてきた。

「リヒトくん! おはよう!」
「あっ、おはよう、ミハルちゃん」

ミハルと呼ばれた少女は防衛隊の隊長であるミソラの娘であり、まだ若いながらも防衛隊のリーダーとして活動している。母親によく似た白く長い髪と、透き通った青い瞳が特徴の美少女であり、リヒトはこっそり彼女の事を可愛いと思っているのである。

「今日も平和だね」
「そうだね、ミハルちゃんや防衛隊の人達が一生懸命平和を守っているからだよ」
「リヒトくんも剣の腕前はあるんだから、防衛隊に入ればいいのに…」
「僕は争い事があまり好きじゃないからね、それに…」
「お父さんの事?」
「うん、僕が生まれる前に行方不明になった父さんを探しに行きたいんだ…」
「ナハトさん…だよね? 私のお母さんから何度も話を聞かされたから知ってるよ」
「17年前のシュヴァルツゼーレとの戦いで死んだって言われているけど、僕は信じてる、必ず生きてるって…」
「お父さん、見つかるといいね」
「うん!」

そんな話をしていると、目的地であるニューエデン私立学園に到着した。ニューエデン私立学園は全校生徒が1000人を超すマンモス校であり、クラスも複数のクラスに分けられている。だが、学問レベルは決して高いとは言えず、世界中にある高校の中ではレベルは中の下程度である。リヒトとミハルは自分のいるクラスに到着すると、朝の挨拶をした。

「おはよう」
「みんな、おはよう!」
「おはようございます…」
「おはよー!」

リヒトとミハルに挨拶を返したのは、友人のエルフィナとアミアである。エルフィナは物静かな性格をしているが、友人のアミアとは気が合うようで、よく一緒にいる。そのアミアは明るい性格であり、この4人の中ではムードメーカーである。

「おやおや、今日もお二人さんは揃って登校しているんだね、もしや恋人になったとか?」
「そんなんじゃないよ、ただ、登校時間が被ってるだけ」
「リヒトさんは今日もお母さんの作ったお弁当を持ってきているようですね…?」
「うん、お母さんが僕の為にいつも早起きして作ってくれてるんだ」
「いいなー、私もママに作って貰いたいけど、私のママったら、いつも起きるの遅いんだー」
「アミアのお母さん、いつも寝てばかりだもんね…」
「逆に、リヒトくんはいつも早起きだよね」
「まあね、早寝早起きは健康の源だよ!」

その時、外から大きな爆発音が響いてきた。続けて2回、3回と爆発音が響き、辺りから物の焼ける匂いが漂って来た。

「何、何!? 怖いよ~」
「何かのテロでしょうか…?」
「そんな! テロは17年前のシュヴァルツゼーレとの戦い以来起きてないのに!!」
「リヒトくん! 外に行ってみましょう!」
「そうだね、ミハルちゃん!」

そう言って2人はブルーセイバーと別空間から取り出し、学校の外へ向かった。学校の外ではゴブリンの群れが巨大な大砲を撃ち、ニューエデンシティの建物を破壊していた。ゴブリンたちは無差別に大砲を撃っており、その大砲から放たれた巨大な爆弾の爆発により、街の人々は吹き飛ばされていた。

「あれは…魔物? 私、魔物なんて生まれて初めて見た…」
「でも、魔物は過去に幾度となく起きた戦いで数を減らしてほぼ絶滅状態って聞いたよ、それがあんなに沢山…」

ゴブリンの群れはリヒトとミハルに気付くと、二人に向けて大砲を撃ってきた。だが、リヒトはサイクロンの魔法を素早く詠唱し、竜巻を放った。その竜巻は放たれた爆弾を押し返し、ゴブリンの群れに命中、ゴブリンの群れと大砲を爆散させた。

「よし! うまく出来た!!」
「安心するのはまだ早いよ、あれを見て!!」

続けて現れたのは、巨大なカマキリの魔物、カマキロンであった。カマキロンは人間の倍以上の体格を持ち、両手は切れ味鋭い鎌になっている大カマキリである。この鎌は岩石程度なら簡単に両断する事が出来、非常に強力である。

「こんな立て続けに魔物が来るなんて…なんかおかしいよ!!」
「考えるのは後、今は戦いましょう! リヒトくん!!」

マキロンは二人目掛けて鎌を振り下ろしたが、二人はそれを回避し、同時にカマキロンの鎌を付け根から斬り落とした。続けて、同時に回転斬りを放ち、カマキロンの頭部を刎ねた。頭部を失ったカマキロンは沈黙し、地面に倒れ、切り口から緑色の体液を流していた。

「何とか倒したけど…」
「かなりの被害が出てしまったわね…」

すると、後ろからエルフィナとアミアがやって来た。

「リヒトくーん! ミハルー!」
「大丈夫でしたか…?」
「ああ、僕達は大丈夫だよ…でも…」
「ここまで被害が出たのは、17年前のシュヴァルツゼーレとの戦い以来だよ…」

4人は破壊された街を見て、ただ立ち尽くすしかなかった。昨日まで平和だったこのニューエデンシティが再び戦火に巻き込まれてしまった。見慣れた街並みが再び炎に呑まれ、多くの人々が命を落としてしまった。

「ミハルちゃん、これから僕達、戦わないといけないんだよね?」
「そうだね、戦わないと、もっと多くの人が死んでしまう、だったら、戦った方がいいよ」
「そうだね、じゃあ、僕も戦うよ、少しでも戦える人がいた方がいいでしょ? それに、みんなが死んでしまったらお父さんを探すどころじゃないからね」
「ありがとう、リヒトくん、これから一緒に戦いましょう!」
「うん!」

リヒトは破壊された街並みを前に、戦う決意を新たにした。その様子を、建物の上から見つめている一人の青年がいた。

「あいつが、ナハトの息子であるリヒトか…大した奴ではなさそうだな…」

その青年は、リヒトの事をしばらく見ると、その場から立ち去った。一方その頃、かつてナハトと共に戦ったシレーヌは、娘のフェルネとその友人のエフィと共に久々にニューエデンシティに足を運んでいた。だが、ニューエデンシティの方角から煙が上がっており、シレーヌ達は違和感を覚えていた。

「ねえ、お母さん、ニューエデンシティっていつもあんな感じなの?」
「まさか、17年前ならまだしも、平和になった今はこんな事まずないわよ」
「フェルネ、何か危険な気配がするね」
「そうだね、エフィ」

彼女たちがそんな話をしていると、ニューエデンシティに到着した。ニューエデンシティの煙が上がっている方角を見ると、炎が燃え上がっており、救急車で運ばれている人々が多数存在した。

「一体何があったって言うの? こんなの17年前と一緒じゃない」

そんなシレーヌの前をよく知る人物が横切った、トルトゥーガである。トルトゥーガは慌てた様子でニューエデン私立学園の方に走っており、シレーヌはそれを呼び止めた。

「トルトゥーガ! 久しぶり!」
シレーヌ! 久しぶりだけど、ごめんね、今、急いでるから!」

そう言ってトルトゥーガは去って行った為、シレーヌ達も後を追いかけた。

「ねえ、トルトゥーガ、一体何よこの騒ぎは!」
「分からないよ、こんな事、シュヴァルツゼーレが滅んでから一切なかったから…」
「で、この方角…リヒトくんの通う学校ね?」
「うん…心配で心配で…だから急いでるの…」

すると、トルトゥーガ達の前からリヒトとミハルが一緒に歩いて帰って来た。それを確認したトルトゥーガは、リヒトの方に駆け寄り、抱きしめた。

「リヒト…無事でよかった…!」
「お母さん…僕は大丈夫だから…」
「でも…死んじゃってたらどうしようかと思って…」
「大丈夫だよ…僕は死なないから…あ、シレーヌさん、お久しぶりです…」
「お久しぶりです、じゃないわよ…一体何? この騒ぎは…」
「何か、魔物が街を攻撃してて…全部僕とミハルちゃんが倒したんですけど、学校は臨時休校になっちゃって…」
「なるほどね…魔物かぁ…今は魔物なんてほぼ絶滅状態よ…1000年以上前はよく活動してたらしいけど、今の世の中魔物なんてそういないわよ…トルトゥーガは何か知ってる?」
「私もあまりよく分からなくて…天上界に帰れば何か情報が得られるかもしれないけど、あいにく私は出禁状態だし…」
「なら、結局は何も分からないって事ね…」

「ところで、シレーヌさんは何でニューエデンシティに来たんですか?」
「私? 私は娘のフェルネとその友達のエフィを連れて観光に来たのよ…そしたら大変な事になってて…もう何が何だか…」
シレーヌとは1年ぶりに会うけど、17年前からあまり変わってないよね」
「老けないように努力してんの、ほら、二人共、自己紹介しなさい」

「フェルネ・レーデです、よろしく」
「私はエフィ・アーネルだよ、よろしくね!」
「僕はリヒト・ザラームです、エフィとは初めてだね、よろしく!」
「私はミハル・アートランド、よろしく」

フェルネは金髪ロングの少女で、緑色の透き通った瞳が特徴であった。武器は二丁拳銃らしく、腰にホルスターを携えていた。正直、母親であるシレーヌにはあまり似ていない為、父親似なのだろう。

一方のエフィは長い金髪の左側をサイドテールにしており、フェルネと違い、青色の透き通った瞳が特徴の少女であった。エフィは名の知れた弓使いの子孫らしいが、本人も詳しくは知らないらしい。ちなみに、フェルネと違って武器は拳銃一丁のみである。

「そうだ、あなた達、防衛隊に入らない?」
「ミハルちゃん…誰でもすぐに防衛隊に勧誘するのやめようよ…」
「防衛隊ねぇ…入りはしないけど、協力ならしてもいいかな、エフィはどう?」
「私も協力ならしてもいいよ!」
「二人共、ありがとう」

その時、トルトゥーガは殺気を感じ取り、魔導障壁を展開した。直後、銃弾の雨が魔導障壁に直撃し、銃弾は辺りに飛び散った。

「あなた達、一体何者?」
「我々はネオシュヴァルツゼーレの刺客だ」
「つまり、私達の計画に邪魔なあなた達を始末しに来たのよ」

現れたのは、銀髪で美形の男性と、血の様に赤く長い髪の女性だった。どちらもアサルトライフルやナイフで武装しており、シュヴァルツゼーレの再来と言われてもおかしくなかった。かつてシュヴァルツゼーレと戦ったトルトゥーガは、ネオシュヴァルツゼーレの名前を聞き、真っ先に反応した。

「ネオシュヴァルツゼーレ…? またシュヴァルツゼーレが復活したの?」
「分かりやすく言えばそうだ、シュヴァルツゼーレの残党は魔族と結託し、新たな組織、ネオシュヴァルツゼーレとして復活したんだ」
「で、復活して今度は何を企んでるの? 世界征服?」
「目的は以前と同じ、堕落に満ちた世界を変える、革命をしているのよ」
「あなた達は17年経っても同じことをするつもりなの!?」
「それだけデロリア様の掲げた目的が偉大だったのだ! だから、俺達の様な若い人材も集まっている!!」
「平和を謳歌し、世界を堕落させる人間なんていらないのよ! そう言う人間はここで死ねばいいわ!!」

そう言い、二人はアサルトライフルを発砲したが、トルトゥーガが再び魔導障壁を展開し、防いだ。他の仲間達はトルトゥーガの後ろに隠れ、反撃の機会をうかがっていた。すると、フェルネがトルトゥーガにある事を提案した。

「トルトゥーガさん、私が3つ数えた後、トルトゥーガさんの頭の上の魔導障壁を消してください」
「何をするつもりなの?」
「まあ、ここは私に任せてくださいよ」
「エフィは? エフィは何をすればいい?」
「エフィは敵の後始末をよろしく!」
「了解!」

その後、フェルネはトルトゥーガに聞こえる声で一つ、二つと数えた。そして、三つと数えた瞬間、フェルネは高く跳び、トルトゥーガの頭の上から銃弾を二発撃った。放たれた銃弾はアサルトライフル銃口に命中し、アサルトライフルは暴発した。アサルトライフルが駄目になった二人組はアサルトライフルを捨て、コンバットナイフを手に取った。だが、エフィの放った二発の銃弾で、コンバットナイフは弾き飛ばされてしまった。

「お二人さん、今回は見逃してあげるからさっさと帰ったら?」
「そうそう、帰った方が身の為だよ」
「くっ…! ここは撤退するよ、アンナ!」
「ハイネの言う通りだね、あんたら、今度会ったら覚えときなさいよ!」

そう言って二人組は走り去っていった。その後、フェルネとエフィの射撃技術を近くで見ていたリヒト達は、二人の射撃技術を褒めていた。

「フェルネちゃんとエフィちゃん、凄い射撃技術だね!」
「あの距離から敵の武器を無力化させるなんて…凄いわ!」
「褒めてくれてありがとう!」
「えへへ…そう言われると照れるなぁ…」
「ねえ、シレーヌ、この二人、あなたより銃の腕前が凄いんじゃない?」
「うっ!そう言われたら母親である私の立場が…!」

こうして、ネオシュヴァルツゼーレを追い払ったリヒト達であった。一方、ニューエデンシティの周辺では一人の少女が道を彷徨っていた。

「ここ…どこかなぁ…? お腹すいたなぁ…」

その少女は黒く長い髪を持った赤い瞳の少女であった。そして、その少女の腰には鞘だけの剣が携えられていた。少女はしばらく彷徨った後、ニューエデンシティの入り口に到着した。

「やっと着いた…待っててくださいねぇ、リヒトくん、トルトゥーガさん」

迷いに迷った末、ニューエデンシティに到着した黒髪ロングの少女は、近くを通りかかったトルトゥーガに話しかけた。

「そこの女の人、あなたがトルトゥーガさんですかぁ…?」
「え…そうだけど…あなたは誰?」
「私、ラーナ・レニーと言いますぅ…」
「レニーって…あなた、エスカの娘さん?」
「そうですよぉ、お母さんがぁ、ニューエデンシティに到着したらぁ、トルトゥーガって名前の女の人に挨拶しろって言ってたからぁ…」
「そうなんだ…エスカは元気でやってる?」
「はい、勿論…今はお父さんと一緒に世界を巡る旅をしていまぁす…」
「じゃあ、しばらくは会えないのか…とりあえず、みんなで私の家に来る?」
「はい、お邪魔させてもらいまぁす…」

トルトゥーガは息子や友人、友人の娘たちを連れ、自宅に向かった。現在トルトゥーガの住む家は一戸建ての住宅であり、防衛隊前隊長のミソラにシュヴァルツゼーレ壊滅のお礼として貰ったものである。トルトゥーガはナハトのいない間、一人でリヒトの世話をして今まで育ててきたのである。ちなみに、定期的にシレーヌエスカ、ミソラが遊びに来ていたが、ココはシュヴァルツゼーレが壊滅してしばらくしてから誰も姿を見ておらず、実質行方不明である。

「ねぇ、シレーヌ
「どうしたの?」
「あれからココがどこにいるかの情報は掴めた?」
「ぜ~んぜん! あの子、どこにいるか誰も知らないんだもん!」
「そう…久々に会いたいなぁ…」
「まあ、あの子の事だから死んではいないんだろうけどさ…心配よね…」

「前防衛隊隊長の私のお母さんも行方は探してるんだけど、未だに行方が掴めてないようです」
「本当にココはどこで何してるんだろう…」
「ねぇ、トルトゥーガ、マカロンはある?」
「こんな時でもシレーヌはのん気だね…冷蔵庫の中に3袋ぐらいあったはずだよ」
「サンキュー!」

そう言ってシレーヌは冷蔵庫の方に向かって行った。一方のリヒト達はこれからの事について話し始めた。17年間平和だったニューエデンシティ、そのニューエデンシティが攻撃を受けたとなると、これは世界的な危機である。実際、TVを付けてみるとどこも臨時ニュースであり、どのニュースでもこの出来事を取り上げていた。17年間世界が平和だっただけあり、急にこんな事が起きると混乱してしまうのである。

現在、ニューエデンシティでは防衛隊が出動し、火事を鎮火させた後、各地の防衛についていた。ニューエデンシティは17年前より防衛力や戦力が向上しており、もし17年前の時の様に悪人が暴れても即鎮圧できる程度に戦力は上がっている。17年前は無能扱いされていたが、現在の防衛隊は有能なのだ。

そもそも、何故今になってシュヴァルツゼーレと魔族が結託し、ネオシュヴァルツゼーレとして活動を開始したのか。そんな事はまだ情報がほとんど出てきていない現在はよく分からない事だ。すると、リヒトはラーナに対し、ある事を聞いた。

「そう言えばラーナちゃん、君は何しにここに来たの?」
「えっとですねぇ…それはエスカお母さんが私に修行をさせたんですぅ…」
「修行…? 修行って何の?」
「私、凄い方向音痴でしてぇ…1人で無事にニューエデンシティにたどり着けるようにする為の修行なんですよぉ…」
「で、どれぐらいかかったの?」
「15日前にレクスシティからスタートしてぇ、着いたのが今日ですからぁ…大体15日は彷徨ってましたねぇ…」
エスカったら…ここまで極度の方向音痴を1人で彷徨わさせるとか、相当な鬼畜ね…今度注意しとかないと…」

エスカの鬼畜さに、リヒトとラーナの会話を聞いたトルトゥーガは呆れた。しばらくすると、シレーヌが冷蔵庫からマカロンを持ってきてソファに寝転がって1人で食べていた。話し合いには参加しそうになかったので、リヒト達はそのまま話し合いを続けた。真っ先に意見を出したのは、ミハルだった。

「ねえ、リヒトくん、ここにいる人達全員でニューエデンシティを防衛できないかな?」
「ニューエデンシティを防衛するのも大事だけど、こっちから攻めないといつまで経っても戦いは終わらないよ」
「でも、問題はどこに敵の本拠地があるかなのよね…」

ミハルの意見ももっともである。17年前に活動していたネオシュヴァルツゼーレの前身であるシュヴァルツゼーレはエデンシティに本拠地があったからまだ対応できた。だが、ネオシュヴァルツゼーレはどこに本拠地があるか分からない。下手をすれば海の中に本拠地があると言う可能性も考えられるのだ。ネオシュヴァルツゼーレはシュヴァルツゼーレと違ってニューエデンシティのみで対応できる相手ではない、世界が一つになる必要があるのである。

「とりあえず、今は私達だけでできる事をしましょう」
「そうですね、トルトゥーガさん」

その時、3人ほどの人物がトルトゥーガの家の窓ガラスを破って侵入してきた。その人物は、紫髪ロング、赤髪ポニーテール、緑髪ツインテールの3人組の女性であり、3人共黒い服を着ていた。

「私はネオシュヴァルツゼーレのターニャ!」
「私はネオシュヴァルツゼーレのミーナだよ!」
「私はネオシュヴァルツゼーレのノクトです…」
「ネオシュヴァルツゼーレ! いきなり僕の家に入ってきて、一体何が目的なの!?」
「先ほどはハイネ様とアンナ様がお世話になったようね!」
「2人に頼まれたの、あなた達を殺せってね!」
「だから、ここで死んでもらいます…」

3人はリヒト達に拳銃を向け、発砲した。その時、ラーナは鞘のみの剣を手に取り、魔力を込め、魔力の剣を生成した。そして、その魔力の剣で銃弾を斬り、蒸発させた。

「皆さん、大丈夫ですかぁ?」
「うん…大丈夫だけど…その魔力の剣って…」
「これはルーンブレード、エスカお母さんに貰った魔力で生成した剣で全てを切り裂く剣ですよぉ…」

直後、ターニャ、ミーナ、ノクトの3人は手榴弾を投げてきたが、ラーナはルーンブレードを振り、竜巻を発生させた。その竜巻で手榴弾を跳ね返し、3人の近くで手榴弾は爆発した。だが、3人はかろうじて爆風に呑まれておらず、後ろに後ずさったが、ラーナは追撃を開始していた。そして、ラーナはルーンブレードを伸ばし、そのまま振り下ろした。

「ルーンエッジ!!」

ラーナはルーンブレードで放つ奥義、ルーンエッジを放った。だが、その攻撃は3人には当たっておらず、3人は腰を抜かして震えていた。当てる気満々に見せかけて、あえて外していたのである。

「あなた達は人間だからぁ、私は殺すつもりはありませぇん、これに懲りたらぁ、もう来ない事ですねぇ…」
「はい…すいません…」
「もう来ないから許してよぉ…!!」
「任務失敗…」

3人はその場から即座に立ち去った。トルトゥーガの家は少し破壊されたものの、敵も味方も誰も死ななかった為、結果オーライである。だが、ラーナはその場でへたり込んだ。その様子を見ていたトルトゥーガは、ラーナに駆け寄った。

「ラーナちゃん、大丈夫?」
「すみませ~ん、このルーンブレードはとても強いんですけどぉ…魔力を大量に消費するからお腹が空くんですぅ…」
「あ~、そう言う弱点があるのか…ルーンブレードも最強じゃないのね…自分の娘にこんな欠陥武器を持たせるなんて、エスカは何を考えているのかしら…」

一方、敗走したターニャ、ミーナ、ノクトの3人は、ニューエデンシティの近くの森でハイネ、アンナと合流していた。

「申し訳ございません、ハイネ様、アンナ様」
「いいところまでは行ったんだけど、ルーンブレードとか言うチート武器を持ってる奴がいて…」
「そのせいで敗北してしまいました…」
「と、言ってるけど、どうする? ハイネ」
「問題ない、俺達も負けてしまったんだ、彼女たちを攻めるつもりはないさ」
「ハイネ様…」
「ありがとうございます!」
「流石、ハイネ様は私達の上司です」
「とは言ったものの、俺達はこれからどう攻めるか…」

その日の夜、一日の内にネオシュヴァルツゼーレの襲撃に何度もあったリヒト達は、静かに眠りについていた。そんなリヒトは、とある少女の夢を見ていた。その夢とは、水の様に美しい水色の長い髪を持つ白いワンピースの少女が悲し気な歌を歌っている夢であった。少女は涙を流しながら一人歌を歌っており、リヒトに気付くと涙を拭き、笑顔を見せ、消滅した。そんな不思議な夢を見たリヒトは、朝起きるとトルトゥーガや、リヒトの家に泊まっていたシレーヌ達にその話をした。

「水色の長い髪を持つ白いワンピースの女の子? リヒトくんはそんな変わった夢見たの?」
「そうなんです、その夢が僕にはどうも不思議で…」
「確かに、不思議な夢ね…」
「ですよね、シレーヌさん、僕は何の意味もなくこんな夢を見るとは思えないんだ」

「リヒトって、意外とロマンチストなのね、お母さんは感激だわ」
「もう、茶化さないでよ、母さん」

すると、トルトゥーガは蓄えておいたパンを全部使った事に気付いた。急にシレーヌやミハルが家に泊ると言ったので、蓄えておいた分を全部使いきってしまったのだ。

「リヒト、ちょっと食パンとコッペパンを買ってきてくれるかしら?」
「うん、いいよ、多分店は開いてると思うし」
「じゃ、頼んだわよ」
「あ、ついでにマカロン買ってきて~」
シレーヌさん…何か僕の家に溶け込んでますね…」
「伊達に17年前にナハトの住む宿に居候してないわよ」
「分かりました、マカロンですね? 一緒に買ってきますよ」

そう言ってリヒトは外に出た。外は防衛隊の活動によって瓦礫は撤去されており、街は事件の起きる前ほどではないが人が歩いていた。この様子だけ見ると、とても大事件が起きた後とは思えない。ちなみに、リヒトの通うニューエデン私立学園はしばらく休校となっている。あんな事件の起きた後なのだ、無理もない事である。

「待って~! リヒトく~ん!!」
「ミハルちゃん! どうしたの?」
「私も付いて行くわ、リヒトくんだけじゃ心配だもの」
「ありがとう、ミハルちゃんがいると心強いよ」

その後、リヒトはミハルと共に街を散策した。リヒトが普段買い物に使う店は平常通り開いており、そこで食パンとコッペパン、マカロンを購入した。こうして、目的の品を入手したリヒトとミハルは店の外に出た。

「目的達成、かな」
「そうだね、さあ、帰ろう」
「うん! じゃあ、僕の家に…」

その時、リヒトの前を通りかかった一人の少女がいた。その少女は水の様に美しい水色の長い髪の白いワンピースの少女、リヒトの夢の中に出てきた少女であった。リヒトは、その少女を見つけた時、知らぬ間にその少女の腕を掴んでいた。

「…え?」
「あ…えっと…」

二人はしばらく沈黙した。リヒトもまさか自分の体がとっさに動いて彼女の腕を掴むとは思わず、突然の事で困惑していた。あまりに二人が長い間沈黙していた為、ミハルがリヒトに語り掛けた。

「リヒトくん…どうしたの…?」
「あっ! あぁっ! ごめん…」
「いえ…大丈夫です…えっと…どこかでお会いしました?」
「あの…実は…変に思われるかもしれませんけど…今日僕が見た夢に、あなたに似た人が出てきて…」
「ふふっ…別に変じゃありませんよ、私も、今日見た夢の中にあなたによく似た人が出てきましたから…」
「えっ…? えぇーーーっ!?」
「驚きすぎですって…」
「いや、まさか僕達お互いに似たような夢を見ているとは思わず…」
「ですよね、なので、私もその話を聞いて驚いちゃいましたよ…」

二人が同じ日に似たような夢を見ていたと言う、まるで物語の様なこの出来事に、二人は一気に親近感が湧いていた。お互い、赤の他人であるにも関わらず急に二人は距離感が近くなった。ミハルは少女と仲良くするリヒトに対し、少しやきもちを焼いてはいたが。

「そう言えば、自己紹介がまだだったね、僕、リヒト・ザラーム、君は?」
「私はクリス・アクアマリン、よろしくね、後、あなたは?」
「私はミハル・アートランド、一応、このニューエデンシティ防衛隊の隊長だよ」
「え…じゃあ結構凄い人なんだ」
「別にそうでもないよ、前防衛隊隊長であるお母さんの後を継いだだけだから」

その時、近くで木が何者かに薙ぎ倒される音が聞こえた。直後、森を割って10m程もある巨大なカマキロンがその姿を現した。このカマキロンはオオカマキロンと呼ばれ、カマキロンの変異種の一体である。10m程もある巨体から繰り出される攻撃力は破壊力が高く、旧時代はオオカマキロンによって街一つが壊滅したと言う記録も残っている。突然現れたオオカマキロンに、リヒト達は驚いた。

「何だ!? あの大カマキリは!!」
「オオカマキロンだね、防衛隊のデータベースに載ってたよ、それより、このままじゃ街が破壊される!!」
「ミハルちゃんは人々の避難誘導を! 僕はあの大カマキリを引き付ける!!」

そう言ってリヒトはオオカマキロンと交戦を開始した。リヒトはオオカマキロンが振り下ろした鎌を回避し、そのまま鎌から登ってオオカマキロンを攻撃しようとしたが、オオカマキロンの体は固く、攻撃は効かなかった。直後、オオカマキロンは鎌を振ってリヒトを攻撃した。リヒトはブルーセイバーで防御したものの、あまりの力にブルーセイバーが破壊されてしまった。

「くっ! 何て力だ!!」

武器を失ったリヒトはオオカマキロンの攻撃を回避するしかなかった。時折様子を見てはファイアやライトニング、エクスプロージョンの魔法で攻撃したものの、全く効果はなく、リヒトは少しずつ追い詰められていた。

「あのままじゃリヒトさんが殺されてしまう…」

その時、クリスの体が眩く輝いた。そして、クリスの体から一つの光球が発生し、その光球はリヒトの右手に収束した。収束した光球は少しずつ剣の形を模っていき、光が収まった際、そこにあったのは水晶の如き輝きを纏った美しい剣であった。

「この剣は…!?」
「クリスタル…セイバー…」

そう言い残し、クリスは気を失って地面に倒れ込んだ。その直後、オオカマキロンが鎌を振り下ろしたが、リヒトはクリスタルセイバーで受け止めた。そして、そのまま押し返し、オオカマキロンが体勢を崩したのを確認すると、リヒトはクリスタルセイバーに風の魔力を収束させ、真空波として放った。真空波はオオカマキロンの首に命中し、しばらくするとオオカマキロンの首が地面に落ちた。クリスタルセイバーに収束させた真空波の切れ味があまりに高かった為、斬られた事に気付かなかったのである。こうして、無事オオカマキロンを倒したリヒトだったが、彼が夢の中で出会った少女であるクリスには謎の力がある事が判明した。

「ねぇ…リヒトくん…この子って…」
「うん…多分だけどクリスは人知を超えた力を持っているんだと思う、目を覚ましたら、色々聞いてみよう」

リヒトが出会った謎の少女クリスは、クリスタルセイバーを生成する謎の力を持っていた。彼女のその力の正体とは一体何なのだろうか? リヒトはその事を考えつつ、自分の家へと戻るのであった…。

リヒトとミハルは気絶したクリスをリヒトの家に連れて帰った。トルトゥーガ達は突然の出来事に驚いていたが、リヒトが説明するとすぐに受け入れ、トルトゥーガのベッドにクリスを寝かせた。クリスは静かに寝息を立てて眠っていたが、リヒト達は彼女が何者なのか気になっていた。真っ先に口を開いたのはトルトゥーガであり、彼女は息子であるリヒトに彼女が何者なのか聞いた。

「ねえ、リヒト、この子は一体何者なの?」
「分からないよ、僕がオオカマキロンに殺されそうになった時、この子から出てきた光の球がこの剣になったんだ、シレーヌさんは何か知ってます?」
「う~ん…よく分からないわね…過去にアインベルグ大陸で剣精霊の伝説があるのは知ってるけど…そもそもこの子は人間なのかしら? トルトゥーガは?」
「さあ、私もよく分からないの…多分だけど、精霊の類じゃないかな?」

リヒト達が頭を悩ませていた時、ニューエデンシティの外れの森の中では、ハイネ達がある部隊を待っていた。その部隊とは、ネオシュヴァルツゼーレ直属の殺し屋集団であり、名をセブンイレイザーズと言う。セブンイレイザーズは、魔族の生き残りによって殺し屋として育てられた孤児であり、殺しの技術を叩きこまれた精鋭である。魔族はネオシュヴァルツゼーレを結成するまでの間、このような方法で侵略の準備を整えていたのである。ハイネ達がしばらく待っていると、そのセブンイレイザーズはやって来た。

「セブンイレイザーズのアルメリア・フェアラム、以下6名、着任いたしました」
「君達がセブンイレイザーズか…噂には聞いていたが、全員若いな」
「ええ、私達が魔族に拾われた際は皆1歳か3歳でしたので」

ハイネと話をしているアルメリアはセブンイレイザーズのリーダーであり、闇を宿した剣、ヘルブラッドを装備している。黒く長い髪とオレンジ色の瞳の可愛らしい顔をした少女ではあるが、相手を殺す事に躊躇はしない。また、セブンイレイザーズのメンバーは全員黒コート、黒ズボン、黒ブーツと言う服装をしている。これはセブンイレイザーズメンバーの軍服ともいえる服装なのである。

「で、私達に殺して欲しい者達とは?」
「こいつらだ、場所はこの紙に書いてある」

そう言ってハイネはリヒト達の写真とリヒトの家の地図を渡した。リヒトの顔を見たメンバーの一人であるレスター・スムガイトは余裕そうな表情を見せていた。

「何だ、こんな奴らが抹殺対象かよ、俺一人で楽勝だな」
「レスター、お前が行ってくれるか?」
「おう、任せとけ任せとけ、すぐブッ殺してくるよ」

そう言ってレスターはその場を去って行った。レスターは短い金髪と赤紫の切れ長の瞳が特徴で、かなり口が悪いが、殺しのセンスは高い。武器は闇を宿した槍、デススパイラルで、これを使って数多くの相手の命を奪ってきた。

「リヒト・ザラームか…どんな相手かは知らないが、このセブンイレイザーズを前にして生き残れると思うなよ…!」

一方のリヒト達は、ずっとクリスの様子を見ていた。クリスは寝息を立てて寝ていたが、しばらく様子を見ていると、クリスは目を覚ました。

「おはよう、よく眠れたかい? クリス」
「あなたは…リヒト!」
「そうだよ、覚えててくれたんだ、嬉しいな」
「覚えてるよ、リヒトは私のお友達だもん」
「うん、そうだね、ところで一つ聞きたいんだけど、この剣って何か知ってる?」
「その剣は、クリスタルセイバー、世界を救う素質のある者だけが振るうことのできると言われる剣…」
「世界を救う素質…? いやぁ…僕なんかにそんな素質ないよ…でも、何でクリスはそれを持ってたの?」
「分からない…私、昔の記憶がないの…」
「昔の記憶がない…記憶喪失か…」
「うん、役に立てなくてごめんね、でも、何でリヒトはその剣を装備できたの? 本当に思い当たる事はない?」
「う~ん…強いて言えば、僕が人間の父さんと光精霊の母さんの間に生まれたハーフって事ぐらいかな?」
「ハーフかぁ…それがクリスタルセイバーを使える理由かもしれないね」
「そうだね、でも、結局僕はハーフでクリスタルセイバーを使えるだけの人間、ただそれだけだよ」
「いや、そこまで行ったらお前はただの化け物だ」

そう言ってハイネの部下との戦いで破壊され、応急補修した壁を破壊して入って来たのは、レスターだった。

「君…誰…?」
「俺はネオシュヴァルツゼーレ直属の殺し屋集団、セブンイレイザーズのレスター・スムガイトだ」
「セブンイレイザーズ…また新たな敵が現れたのか…」
「そう言う訳だ、とりあえず、リヒト・ザラーム、お前に暗殺命令が下っているんでな、死んでもらうぜ! 化け物!!」

レスターはリヒトに向かってデススパイラルを振り下ろし、竜巻を発生させた。リヒトはその竜巻に呑まれ、家の壁を貫いて外に吹き飛ばされた。そのリヒトに対し、レスターは更に追撃をかけ、リヒトのクリスタルセイバーと鍔迫り合いになった。

「お前は人間と光精霊の間に生まれたんだってな、だったらお前は人間じゃない、化け物だ!」
「何を…! 僕は人間だ! 血の色も人間と同じ赤だ!!」
「じゃあ、光精霊は人間と言うか? 言わないよな?」
「うるさい!!」

そう言ってリヒトは切り払おうとしたが、逆にレスターの力に押し込まれ、競り負けそうになっていた。その次の瞬間、レスターは背後から何者かに撃たれ、口から血を吐いた。撃たれた個所からは血が流れ出ており、地面には赤い血が滴り落ちた。

「誰だ…? 誰が撃ちやがった!?」

レスターを撃ったのは、フェルネだった。そして、フェルネの周りにはリヒトの仲間達が集まっていた。

「レスターと言ったね、これ以上リヒトくんの事を悪く言うなら、蜂の巣にするから!!」
「そうそう! 私も一緒に撃っちゃうよ!!」
「リヒトさんは優しい人ですぅ! あなたより何倍も!!」
「あなたなんかに、リヒトくんの良さは一生分からないでしょうね!!」
「リヒトさんは化け物なんかじゃない! ただの優しい人間で、私の大切なお友達です!!」
「まあ、うちの友人の息子の事を悪く言われちゃ許せないわよね」
「今すぐリヒトに謝って! 謝りなさい!!」

フェルネ、エフィ、ラーナ、ミハル、クリス、シレーヌ、トルトゥーガ、皆リヒトの事を大切に想っているリヒトの仲間達である。リヒトの事を悪く言い、よもや殺そうとしたレスターの事を、誰も許してないのだ。だが、レスターは急に撃たれた為、頭に血が上っており、彼女たちに襲い掛かろうとした。

「てめえら…! ぶっ殺してやるぅぅぅッ!!!」

だが、レスターはフェルネとエフィによって蜂の巣にされ、体から血を流して地面に倒れ、絶命した。リヒトの事を散々侮辱したレスターの最後は、あまりにあっけないものであった。直後、レスターとリヒトの戦いをどこかから見ていたアルメリアがレスターの亡骸の近くに着地した。

「馬鹿な…! レスターが死ぬとは…! くっ! お前達、覚えていろ! この借りは必ず返す!!」

そう言ってアルメリアはレスターの亡骸とデススパイラルを抱え、その場から立ち去った。アルメリアが去る事を確認したトルトゥーガは、リヒトの下に駆け寄った。

「リヒト…! 大丈夫?」
「母さん…僕って、人間だよね?」
「あなたは人間よ! 光精霊の血が流れただけの、ただの人間よ!」
「だよね…そうだよね…」

そう言ってリヒトはトルトゥーガの胸の中で涙を流した。例え光精霊の血が流れていようと、トルトゥーガやリヒトの仲間からすればれっきとした人間なのである。誰がその事を否定しようと、リヒトはれっきとした人間、その事に変わりはないのである。

仲間の一人であるレスターを失ったセブンイレイザーズのメンバーたちは、レスターの亡骸の近くで涙した。レスターは性格があまりよくなかったものの、メンバーにとっては幼い頃から共に訓練を積んできた大切な仲間であった。そのレスターを失った事で、セブンイレイザーズのメンバーは皆、リヒト達の打倒に燃えていた。

「リヒト・ザラームとその仲間達は危険だ、リヒトだけならまだしも、奴らの結束力は高い、下手をすればこっちがやられる」
「…意見、いいでしょうか?」
「言ってみろ、クレイユ」
「仲間が危険なら、リヒトだけを呼び出して始末すれば良いのでは?」
「そう簡単にリヒトを呼び出す手段などあるのか?」
「そうですね…リエージュ、何かある?」
「…あります、脅迫です」
「脅迫? 具体的にはどんな感じ?」
「…簡単です、1人で来ないと街の人間に危害を加えるって感じです」
「なるほど、アルメリア、これでどう?」
「いいんじゃないか? では、クレイユ、リエージュ、その作戦を実行しろ」

クレイユとリエージュは脅迫状を書き、リヒトの家のポストに投函した。翌日、リヒト達はその手紙を読んだ。当然、突然脅迫状が届いた事で慌てはしたものの、すぐに気を取り直し、冷静に対応をした。

「リヒト・ザラームへ、1人でニューエデンシティ北の埠頭に1人で来い、もし1人で来なければ街の人間に危害を加える…か、母さん、これ僕1人で行った方がいいよね?」
「でも…リヒトを危険な目に合わせるわけには…」
「だからと言って、街の人に迷惑をかける訳にはいかないよ、ミハルちゃん、もしもの時の為に、防衛隊の人達に警備を要請しといて」
「うん、分かった、防衛隊の人達でどこまで相手できるか分からないけど、シャオにグレイス、フロスと言った精鋭もいるから、多分大丈夫よね」

そう言って、ミハルは携帯端末を取り出し、防衛隊に警備を厳重にするよう要請した。その間、リヒトはクリスタルセイバーを持って外に出る準備をしていた。

「リヒト…本当に行くの…?」
「大丈夫だって、母さん、僕は死なないから、安心して」

そう言い残すと、リヒトは外に出た。セブンイレイザーズと戦い、人々を守る為。立派になったリヒトのその背中に、トルトゥーガは自分の夫であるナハトの姿と重ね合わせていた。
その一方で、リヒトもナハトと同じ様に戦いに行って帰ってこないのではないかと心配した。いくら立派になったといえど、リヒトはまだ17歳、まだ未成年だ。おまけにナハトと違って人を殺した事がない、そんなリヒトが人間相手に戦える訳がない。そう考えると、トルトゥーガは心配で心配で仕方なかった。

「リヒト…大丈夫かしら…心配だわ…やっぱり私達も…」
「トルトゥーガ…気持ちは分かるけど、あいつらはリヒトに1人で来いと言ったのよ? 私達が行ったら街の人に何されるか…」
「あのセブンイレイザーズって人達、卑怯すぎます! 私達全員が居たら都合が悪いからって、人質を取って、リヒトくんだけを呼び出すなんて!!」
「…大丈夫です、もしもの時には、私に考えがあります」

クリスのその言葉に、トルトゥーガ、シレーヌ、ミハル、そして他のメンバーはクリスの作戦に注目した。この状況で得策などがあるはずない、だが、クリスはいい方法を思いついたらしく、自信満々だった。

一方のリヒトは魔導バイクに乗り、ニューエデンシティ北の埠頭に到着していた。そこでは、クレイユとリエージュが武器を構えて待っており、リヒトは彼女たちから漂う殺気に身震いしていた。

「セブンイレイザーズのクレイユ・ベルフォールよ」
「…セブンイレイザーズのリエージュバーンズリーです」
「僕はリヒト、リヒト・ザラームだ」

クレイユは深い海の様に青く長い髪と毒々しい色の紫の瞳を持った少女である。冷静な性格で、現在の戦況を瞬時に判断する優秀な人材である。武器はデモンファングと言う紫色の短剣で、これを使って多くの人間を暗殺したと言う。

一方のリエージュは毒々しい色の短い髪とエメラルド色の瞳を持ったクールな表情の少女である。クールな性格をしており、戦闘よりは偵察などの任務を得意とするセブンイレイザーズを陰から支える縁の下の力持ちである。武器はカオスサークルと言う群青色のチャクラムで、この武器は遠距離から近距離まで対応できる優秀な武器である。

「レスターの仇だ、可哀想だが、お前にはここで死んでもらう」
「…レスターの仇、覚悟…」

そう言ってクレイユとリエージュは武器を手に取り、同時にリヒトを斬りつけた。だが、リヒトはクリスタルセイバーで攻撃を受け止め、そのまま切り払った。直後、リエージュはカオスサークルをリヒト向けて飛ばし、それと同時にクレイユがデモンファングで斬りつけた。リヒトはその攻撃を回避し、回避している間にサイクロンの魔法を詠唱し、クレイユに対して放った。しかし、クレイユはカオスサークルを振って竜巻を発生させ、サイクロンを相殺した。そしてその直後、リエージュの投げたカオスサークルによってリヒトはクリスタルセイバーを弾き飛ばされ、武器を失ってしまった。

「しまった!!」
「残念だったわね、リヒト、あんたは人を殺すって覚悟がないわ」
「だって…僕…人を殺したくないんだ…例えそれが悪人でも…僕には殺せない…」

それを聞いたクレイユは、リヒトを殴り飛ばした。リヒトは殴られた事で地面に倒れ、クレイユはそのリヒトに対し、デモンファングを向けた。

「その程度の覚悟で、私達と戦うつもりだったの? 少なくとも、あんた達に殺されたレスターはどんな相手とも戦う覚悟があったわ、戦う覚悟がない人間が、戦場に出てくるんじゃないわよ!!」
「…そうだね、僕、君に教えられたよ…甘えてた…死ぬ寸前に、君に教えられるなんてね…」
「そう…なら、ここで死ね」

クレイユがリヒトを刺そうとした瞬間、どこからともなく飛んできた銃弾がクレイユのデモンファングを弾き飛ばした。そして、その銃弾が飛んできた方角には銃弾を撃ったフェルネを始めとしたリヒトの仲間達がいた。

「みんな! 何故ここに!?」
「それはね、クリスちゃんの広域テレポート魔法でみんなここに移動してきたのよ」
「そう言う事です、リヒトさんを死なせる訳にはいきませんから、私の力を使いました」
「でも…みんなが来たら、街の人達が…」

リヒトのその言葉に、トルトゥーガが自信満々で答えた

「大丈夫よ、リヒトはちゃんと1人でここに来たんだもの、それに、街に何かあったら広域テレポート魔法ですぐに戻れる、だから、私達はたまたま通過した一般人って事で、いいわよね?」
「…どうする? クレイユ?」
「そうだな…あの手紙通りリヒトは危険を顧みず1人で来た、それに、今は圧倒的に私達の方が不利だ、そう言う事にしておこう」
「うんうん、物分かりのいい子達ね」
「ほんとそれ、それに比べてうちのフェルネと来たら…」
「あっ! お母さん酷い!!」
「嘘よ、冗談だって」

「とりあえず、今回は私達の負けにしておく、だが、次はないぞ」
「…じゃ、さよなら」

そう言ってクレイユとリエージュは去って行った。2人が去った事を確認すると、仲間達はリヒトの下に駆け寄った。真っ先にリヒトの下に駆け寄ったのは、ミハルである。ミハルはリヒトの事を一番心配していたようであり、目には涙がたまっていた。

「リヒトくん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ミハルちゃん、それにみんな、ありがとう」
「お礼ならこのクリスちゃんに言ってあげて、この子のおかげで私達はリヒトを助けに来れたんだから」
「本当にありがとう、クリスちゃん、おかげで助かったよ」
「いえいえ、私も、リヒトさんを助けられて嬉しいです」

その後、リヒトとその仲間はクリスの広域テレポート魔法でリヒトの家へと戻った。その様子をずっと埠頭の陰から見ていた一人の青年がいた。

「リヒト…今まで何度も様子は見ていたが、奴の真の強さは多くの人物を味方に付ける人柄の良さなのかもしれないな…」

青年はリヒト達が居なくなったことを確認すると、その場から立ち去った。リヒトは多くの仲間に囲まれている。だが、リヒトは誓った、いつか自分も仲間達や父親に負けないぐらい強くなると。今日の戦いで、リヒトはそう誓ったのであった…。

二度もリヒト達に手痛い目に合わされたセブンイレイザーズは、遂にリヒトの家に総攻撃をかけると決めた。その為、ニューエデンシティの外れの森でセブンイレイザーズとハイネ達は作戦会議をしていた。しかし、リヒト達二度も手痛い目に合わされたセブンイレイザーズは慎重に事を進める為、事を急がないようにしている。一体どうすればリヒト達を安全に始末する事ができるのだろうか。その時、彼等の前に1人の若い青年が現れた。

「大変そうだな、お前ら」
「見ない顔だな、私達に何か用か?」
「いや、お前達が色々困っているみたいだったから気になっただけだ」
「ああ、無関係のお前に言うのも何だが、実は私達はリヒトと言う男を抹殺しようとしているのだが、いかんせんそいつが手強いのだ」

謎の青年とアルメリアが会話している中、指揮官のハイネが現状を説明した。

「俺達ネオシュヴァルツゼーレは着々と侵略の手を伸ばしている、だが、このニューエデンシティの侵略は思うように進まないのだ」
「これも全部リヒト一派のせいよね、ハイネ」

ハイネとアンナの説明を聞いた青年は頷いた。

「なるほど、お前達の侵略の邪魔をするそのリヒトって奴を何とかして欲しいと…」
「何とかしてくれるのか? この無関係の俺達の為に…」
「ああ、俺もそのリヒトって奴には色々用があってな、とりあえず、俺が弱点を探してくるからお前達はそこで飴でも舐めながら待ってろ」

そう言ってその青年はハイネに飴を手渡し、歩きながら去って行った。残されたセブンイレイザーズの面々とハイネ達は自分達の代わりにリヒトの相手をしてくれる人物が現れて嬉しかった一方、その青年にはただならぬ気配を感じていた。不安に感じたハイネは、アルメリアに彼をどう思うか聞いた。

「…アルメリア、あの男、どう思う?」
「…不気味な気配がした、私の部下も皆、そう感じている」
「ねえ、ハイネ…あの男に任せてよかったのかしら?」
「今は利用できるものはすべて利用する、それがネオシュヴァルツゼーレの作戦達成の為に必要なものだ」

一方、自分に命の危険が迫っている事を知らないリヒトは、フェルネと共に特訓をしていた。自分も仲間達と同じかそれ以上に戦う為、特訓を始めており、今日は銃弾を剣で切り払う特訓をしていた。と言っても、流石に実弾を使うわけにはいかず、ゴム弾を使い、それを鉄の棒で切り払うと言う特訓だった。あまり慣れない特訓ではあったが、リヒトは一度もミスする事なく、ゴム弾を的確に切り払っていた。その様子を見ていた仲間達は、リヒトのその的確な剣の腕前に驚いていた。約1時間の特訓を終え、疲れ果てたリヒトはクリスからスポーツドリンクを貰い、くつろいでいた。

「お疲れ、リヒトくん」
「ありがとう、クリスちゃん、あ~、疲れた~」

トルトゥーガは特訓で疲れたリヒトの頭を撫でながら、リヒトに話しかけた。

「でも、珍しいじゃない、リヒトが自分から特訓したいなんて言い出すなんて」
「僕、今までいろんな人に助けられてばかりだったから、僕も役に立ちたくてさ」
「とは言ったって、リヒトくんは私の撃った弾を全部切り払ってたわ、普通ならできない芸当よ?」
「それは、フェルネの銃の腕前が大した事ないからじゃないの?」
「あ! お母さんったら酷いんだ~! 私の銃の腕前を馬鹿にしてるでしょ~!!」
「ごめんごめん、冗談よ」

「でも、フェルネちゃんの二丁拳銃の特訓は疲れたよ、今度はエフィも入ってね」
「分かりました!」

やる気になったリヒトを前に、ラーナもやる気になったようで、鉄の棒を手に取った。

「じゃあ、その次は私と剣の特訓しましょ~」
「うん!」

「やれやれ、リヒトがどんな奴かと思ったら、女共と戯れているアホとはな」

そう言って現れたのは、謎の若い青年だった。黒い髪を首の根元辺りまで伸ばしたその青年は、切れ長の目をしており、服はブラウンのコートを着ていた。その青年の武器は伝説の金属であるミスリル製の剣であり、その剣を腰に携えていた。そして、その青年はミスリル製の剣を抜くと、その剣をリヒトに向けた。

「リヒト、貴様の様子はネオシュヴァルツゼーレが初めてこの街に侵攻した時から見させてもらっていた!」
「ネオシュヴァルツゼーレが初めて侵攻した時って…僕とミハルちゃんがゴブリンやカマキリを倒したあの時?」
「嘘!? あの人ストーカーじゃん!!」

ミハルのその言葉に、青年は困った様子で顔を掻いた。

「いや…ストーカーではなくただリヒトの様子を見ていただけだが…」
「いや、ミハルちゃんの言う通りだよ、お前はストーカーだ! それに、僕の様子を見て何を企んでいたんだ?」
「それをお前に教える事はできん、とりあえず、まずは俺の相手をしてもらう!!」

そう言って青年はリヒトに剣を振り下ろした。剣を振り下ろされる瞬間、リヒトは別空間からクリスタルセイバーを取り出し、刃を受け止めた。だが、その青年はリヒトの腹部に膝蹴りを浴びせ、怯んだ隙に足に風の魔力を集め、そのままリヒトを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたリヒトはそのまま吹き飛ばされ、壁に激突して地面に倒れ込んだ。青年はなおもリヒトを攻撃しようとした為、リヒトは痛む体に鞭打って立ち上がり、攻撃を受け止めた。

「ふむ…根性はあるようだな…」
「お前…! 何のつもりだ!?」
「さあな、自分で考えてみろ!!」

そう言って今度は足に炎の魔力を集め、リヒトを蹴り飛ばした。あまりに強く蹴り飛ばされたリヒトは口から血を吐いた。蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられた際の衝撃で意識が朦朧とする。地面に倒れ込んだリヒトに接近する青年を前に、セインスピアードを装備したトルトゥーガが立ち塞がった。

「リヒト! 大丈夫!?」
「邪魔をするな、邪魔をしたらお前も殺す」
「勝手に殺せば? 私は自分の息子であるリヒトが何よりも大切なの! 自分の命よりもね!!」
「なら、お前から殺してやる」
「やめろ…母さんに…手を出すな…!!」

その時、リヒトの周りの時間が止まった。時間の止まった空間で動いていたのは、リヒトとクリスだけであった。クリスはリヒトのいる場所まで歩くと、リヒトのクリスタルセイバーに同化した。クリスが同化すると、クリスタルセイバーは眩く輝いた。

「クリスちゃん…これは一体…?」
「これは私が作り出したあなたのイメージの世界…ここにいる限り現実世界は1秒も時間が進まないし、ここでの出来事は現実世界に何も影響を与えない…でも、ここでなら今やったように私はあなたに力を与える事ができる…私はあなたに力を与えに来たの…」
「ありがとう…クリスちゃん…」
「リヒトくん! お母さんを助けてあげて!!」
「うん! 絶対に助けるよ! 君がくれた、この力で!!」

再び元の世界に戻って来たリヒトの持つクリスタルセイバーは、イメージの世界と同じ様に眩く輝いていた。その光に驚いた青年は、驚愕し、再び戦闘態勢を取った。先ほどは立てないぐらい痛めつけたリヒトが再び立ち上がり、剣は眩い光を放っていた。この状況に驚いた青年は、リヒトを再び戦闘不能にする為、剣を取った。

「一体何だその光は!!」
「これは…お前を止める為に仲間が僕にくれた光だぁぁぁッ!!!」

リヒトはクリスタルセイバーを振り、剣に集まった光エネルギーを真空波として放った。青年はその真空波をミスリル製の剣で受け止めたが、真空波が命中すると、真空波は大爆発を起こした。だが、青年は事前に魔導障壁を展開していった為、服がボロボロになっただけで軽傷であった。

「くっ…! リヒト・ザラーム…奴は危険だ…!!」
「危険…? 僕のストーカーをしたり、僕の母さんを殺そうとしたお前の方がよっぽど危険だ!!」
「ヴァンレル! ヴァンレル・スティンガー、それが俺の名だ、覚えとけ!」

そう言ってヴァンレルと名乗った青年は去って行った。ヴァンレルとの戦いの後、疲れ果てたリヒトは地面に膝を付いた。そのリヒトに手を差し伸べたのが、クリスであった。

「お疲れ様、リヒトくん」
「ありがとう、クリスちゃん」

その後、ニューエデンシティ外れの森に戻って来たヴァンレルは、ハイネ達に分かった事報告した。先ほどのリヒトとの戦いで、ヴァンレルはリヒトの弱点を把握した為、その弱点をハイネ達に教えていたのである。

「リヒトの弱点だがな、俺は分かったぜ」
「リヒトの弱点? それは何だ?」
「簡単な話さ、水色の髪の白いワンピースの女だ、その女が奴らに力を与えているのさ」
「なるほど、それが奴の弱点か…感謝する、で、今更だが、お前の名前は…?」
「フン…名乗るほどの名前なんて持ってないさ、じゃあな」

そう言ってヴァンレルは去って行った。ヴァンレルが去った後、ハイネはセブンイレイザーズにリヒト抹殺の命を下した。

「では、あの男の言った通り、リヒトの抹殺の前にその女を始末、または捕獲する、これが最重要任務だ」
「了解、このセブンイレイザーズ、命に代えても任務を達成します」

謎の青年ヴァンレルにリヒト達の弱点を調べてもらったセブンイレイザーズのメンバーは、夜間リヒトの家に襲撃を仕掛ける事にした。目的はリヒト達反乱分子の抹殺、そしてもう一つはこれからの戦いで邪魔になるクリスの抹殺である。この目的の為、セブンイレイザーズのメンバーは作戦を開始する事を決めた。そして日が沈み、人々が寝静まった夜、セブンイレイザーズのメンバーは集まった。

「いいな、我々は命に代えてもこの任務を成功させねばならない、分かっているな?」
「ええ、それは勿論、ネオシュヴァルツゼーレの為なら命さえ投げ出せ、だものね」
「できれば私は死にたくないですが…」
「死にたくないのは私も同じだ、だから、何としても奴らを抹殺して、皆で生きて帰って来るのだ、いいな?」

アルメリアの言葉に、他のメンバーは全員「了解」と返事をした。そして、セブンイレイザーズのメンバーは散開し、各方面からリヒトの家に向かった。ネオシュヴァルツゼーレの為、自分達の命の為、必ずこの作戦を成功させねばならないのである。

その内の一人であるカーライル・ギルドフォードは、森の中を侵攻していた。棍使いであるカーライルは、深緑の髪が特徴で、キリッとした紫の瞳の右側が髪で隠れている。愛用する棍の名前はアビスクラッシュと言う名前で、破壊力が高いのが特徴である。

カーライルが森の中を侵攻していると、一人の少女が目の前に現れた。その少女は10代後半ぐらいの見た目であり、深紅の長い髪をツインテールにしていた。右手には青い鉱石で作られた剣を持っており、自分に敵対してくることは明白であった。

「そこのお前、俺に何の用だ?」
「あたしの名前はお前じゃないわ、ルージュ、ルージュ・ラフレーズよ、覚えときなさい!」
「何故お前の名前など覚えなければいけない、それより、何の用だと聞いている」
「何の用…ねぇ…あんた、今から人を殺す気でしょ? あたしさ、勘で分かるのよね…」
「だからどうした、そこをどけ、俺には殺さないといけない相手がいる、お前に構っている暇はない」
「まあ、別にあんたが誰を殺そうが勝手だけどさ、ここであんたを逃がしたら、多くの人が死ぬ気がするって訳よ」
「どうしても…通してはくれないんだな?」
「そうね…ここは何かの漫画らしく、あたしを殺してから行きなよ、そうすれば行かせてあげるわ」
「フン、後悔するなよ?」
「勘違いしないでよね、あたしは強いんだから!」

ルージュが言い終わる前に、カーライルはアビスクラッシュでルージュに殴りかかった。しかし、ルージュは風魔法を転用した高速移動でカーライルの攻撃を回避した。続けて一発、二発と攻撃を仕掛けるが、カーライルの攻撃は全て回避された。

「あんたの実力、こんなもんなの? ダッサ」
「黙れ!!」

カーライルはアビスクラッシュを地面に叩き付けた。すると、地面から尖った石柱が広範囲に生え渡った。だが、ルージュは風魔法を転用して高く跳びあがり、石柱の先端に着地した。

「ふぅ…今のは危なかったわね…」
「くっ! まだだ!!」

続けてカーライルはその石柱を念力でバラバラに砕き、その破片をルージュに放った。だが、ルージュは風魔法のフィールドを自身の周囲に展開し、自分の身を守った。石柱の破片はルージュの周りの風のフィールドに巻き上げられ、全て地面に落ちた。あまりに味気のない攻撃をしてくる為、ルージュは風のフィールドの中であくびをしていた。

「ふわぁぁ…もう終わりかしら?」
「この…! 女がぁ…!!」

カーライルは掌にごつごつした石を生成し、ルージュに向けて飛ばした。この魔法はロックシュート、カーライルの一番の得意魔法であり、連射する事も出来る。カーライルは連続してルージュに石を飛ばしたものの、ルージュは全て軽々とした動きで回避した。自身の攻撃がことごとく通用しない為、カーライルは驚愕するしかなかった。

「もう飽きたからさ、今度はこっちから行っていい?」
「その前に一つ聞かせてくれ…お前は一体何者なんだ…?」
「そうね…あたしは17年前に世界を救ったナハトって人の仲間であるココさんと少し関係があるの、何だと思う?」
「…師弟関係か?」
「まあ、そんな感じね、ココさんは盗賊に襲われて殺されかけてたあたしを助けてくれたの、それからしばらくの間そこで暮らして、戦う方法を学んだの、でも、この戦い方はほとんどあたしの独学ね」
「そんな馬鹿な…! 独学でそこまで強くなれる訳が…!!」
「ま、死に物狂いで特訓したってワケ、あんたみたいな奴に負けないようにする為にね!!」

ルージュは剣に風の魔力を纏った。そして、カーライルの方に足を走らせた。

「行くわよ! 旋風刃!!」

ルージュはコマの様に高速回転しながら剣を振った。この高速回転のポイントは体に風の魔力を竜巻の様に纏う事で為せる業である。ここまで無茶苦茶な事はこの世界に住む人間の大半が行わない事であり、こんな離れ業ができるルージュは相当特訓したのであろう。ちなみに、訓練を積んだルージュは高速回転しても目が回らない為、この技を連続して放つ事も可能である。

カーライルはルージュの旋風刃をアビスクラッシュで防御した。アビスクラッシュはミスリル製、ルージュの剣はブルーメタル製であり、強度はほぼ同じである。だが、そのほぼ同じ強度であるはずのアビスクラッシュは、ルージュの旋風刃を食らって少しずつひびが入っていき、最終的に折れてしまった。

「な…! 馬鹿な…! ミスリル製のアビスクラッシュが…!!」
「それ、ミスリル製だったの、通りで中々壊れなかったわけだわ」
「貴様…! どんな方法でミスリル製のアビスクラッシュを…!!」
「簡単よ、私お得意の風の魔力で刀身を保護すると同時に、切れ味も高めたワケ、それに私の旋風刃も加わった事でパッキリ行っちゃったワケね」
「く…! こいつには勝てない…! うわあああっ!!」
「おっと、逃がすワケないじゃん」

ルージュは逃げようとするカーライルの首を後ろから刎ねた。頭を失ったカーライルは地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった。

「ふぅ…嫌な気配がしてここまで来たけど、どうやらこいつじゃなかったみたいね…じゃあ、一体誰なんだろう…」

一方その頃、リヒトの家ではクリスがセブンイレイザーズの気配を察知し、飛び起きていた。そして、リヒトを叩き起こすと、その事をリヒトに話した。

「何だって!? セブンイレイザーズが来る!?」
「そう! そうなの! さっきまで6人だったんだけど、今は5人に減ってるわ」
「でも、どっちにしろ危険だよね…」
「うん! だから、急いで戦闘準備して!!」
「分かった! じゃあ、僕はみんなを起こしてくる!!」
「急いで! セブンイレイザーズはもうすぐここに来るわ!!」

リヒトは急いで仲間を起こすと、セブンイレイザーズが来ると言う説明をした。その説明を聞いた仲間達は慌てて着替え、武器を装備した。そして、家の外に各自散開し、クリスは家の中で待機していた。

「セブンイレイザーズ…来るなら来い! 僕達が相手だ!!」

セブンイレイザーズのメンバーの中で一番最初にリヒトの家に着いたのは斧使いのディクソン・テムニコフだった。ディクソンはオレンジ色の髪をした少年で、前髪で目が隠れていると言う髪型が特徴である。マイペースな性格だが、その内に秘めた感情は残忍で、人殺しをメンバーの誰よりも楽しんでいる。武器はカースマーダーで、これの破壊力はセブンイレイザーズメンバーの専用武器の中で一番である。

そんなディクソンと対峙したのは、ルーンブレードの使い手の少女、ラーナであった。ラーナはディクソンと対峙した時、彼の秘めた残忍さに気付き、少し身震いした。だが、ラーナは大切な仲間を守る為、彼と戦うことを決意したのである。

「僕の邪魔をするのは君だね? 見た感じか弱い女の子みたいだし、僕のカースマーダーでバラバラにしてあげよっと」
「恐ろしい人ですねぇ…でも、私は仲間を守る為なら、あなたと戦えますぅ!!」
「そっか~、でも僕は君に負ける訳にはいかないんだよね、ネオシュヴァルツゼーレの目的達成の為、君を殺さなきゃなんないんだ」
「ネオシュヴァルツゼーレの目的? それの為なら人を殺してもいいんですかぁ?」
「僕はいいと思ってるよ~、だって、この世界には無能な人間が多いんだ、そんな人間は全部殺しちゃって、有能な人間だけ残せばいい、後は要らないよ」
「そんなの…間違ってますぅ! どんな人でも、命は平等ですぅ! 要らない人なんて存在しません!!」
「何? 小動物の雌の分際で僕に口答えするの? やっぱり君はここで殺さないと駄目みたいだね…!!」

すると、ディクソンはカースマーダーを地面に叩き付け、衝撃波を発生させた。その衝撃波は地面のコンクリートを破壊しつつ直進したが、ラーナは回避してルーンブレードに魔力の刃を生成した。ラーナはルーンブレードでディクソンを斬りつけようとしたが、ディクソンは雷の魔力をカースマーダーに纏い、雷球を発生させ、カースマーダーをラーナに向けて振り、雷球を飛ばした。雷球はラーナ目掛けて一直線に飛んでいた為、ラーナは雷球をルーンブレードで両断しようとした。しかし、ルーンブレードの刃が雷球に当たった瞬間、雷球は激しくスパークし、ラーナはダメージを受けた。

「その雷球は僕の得意技のスパークボール、何かにぶつかると激しくスパークして相手にダメージを与える強力な技さ!」
「そんな技があるなんてぇ…ちょっと油断してましたぁ…」
「さて…このスパークボールだけど、実は連続で放てるんだよね~」

そう言ってディクソンはカースマーダーに雷の魔力を纏い、スパークボールを複数発生させた。そして、再びカースマーダーをラーナに向けて振り、複数のスパークボールを飛ばした。スパークボールは地面やラーナの体にぶつかり、激しくスパークし、ラーナにダメージを与えた。一斉にスパークしたスパークボールはまるで、電撃で作られた網のようにも見え、文字通り、ラーナは電撃の網に囚われていた。

ディクソンのスパークボールの攻撃によってラーナはかなりのダメージを受けた。だが、ルーンブレードの刃はまだ生成したまま、まだ戦う事はできた。ラーナは痛む体に鞭打って立ち上がり、どうすれば勝てるかを本気で考えた。

ディクソンのカースマーダーの破壊力は高く、近づこうにもスパークボールで範囲攻撃を行って来る。ならば、一瞬で相手に近づき、接近戦を行うしかない。そうこう考えていると、ディクソンが再びスパークボールを放ってきた為、ラーナはルーンブレードを振って竜巻を発生させた。その竜巻はスパークボールを巻き込み、一か所に集まったスパークボールは大きなスパークボールとなり、大きくスパークした。

ラーナはその隙にディクソンに急接近し、攻撃を仕掛けようとした。しかし、ディクソンはカースマーダーを地面に叩き付け、衝撃波を発生させた。その衝撃波でラーナは吹き飛ばされ、壁に背中を強く打ち付けた。背中を強く打ち付けた事で、意識が朦朧とし、気を失いそうになったラーナ。そのラーナにトドメを刺す為、ディクソンがカースマーダーを振り上げているのが何となく見えた。だが、ラーナは意識が朦朧としていた為、立ち上がる事すら困難であった。とうとう自分も死ぬ時が来たのか…そう思ったその時、1人の人物の声が聞こえた。

「私はこんな所で諦めるように教えたつもりはないわよ!!」

その言葉で我に返ったラーナは、素早く立ち上がり、ルーンブレードを振って真空波を放った。ディクソン目掛けて放った真空波はディクソンの左腕に命中し、攻撃を中断させた。

「くっ! まさか、まだ立ち上がれる気力があったなんて…!!」
「勿論! だって、ラーナは私の自慢の娘だもの!!」

そう言って現れたのは、かつてナハトと共にシュヴァルツゼーレと戦った仲間、エスカ・レニーだった。エスカはラーナの母親であり、年齢は37歳になっていたが、顔も服装も17年前とあまり変わっておらず、若々しい見た目であった。せいぜい変わった点と言えば髪が伸びている程度であり、17年前はショートカットだったが、今は背中まで髪を伸ばしている。

「お母さん!!」
「久しぶりね、ラーナ、無事にニューエデンシティに到着できたみたいね、偉いぞ~」
「でも、何でお母さんがここにいるの?」
「いや、そろそろラーナもここに到着したかなと思って様子を見に来たのよ、そうしたら、トルトゥーガの家の所で激しい戦闘音が聞こえたから来てみれば、何よこの騒ぎは」
「お母さん、実はネオシュヴァルツゼーレって連中が私の仲間やこの街を襲っているの、だから、一緒に戦って!!」
「分かったわ、可愛い娘の為だもの、任せて!」
「お母さん…ありがとう…」

「くっ! お前がエスカ・レニー、17年前にナハトと共に戦ったと言う女か!!」
「ええ、そうよ、最近はあんた達ネオシュヴァルツゼーレのせいで私達が掴み取った平和も壊されてるけどね」
「これも僕達の目的の為さ! それに、いくらナハトと共に戦ったといえど、今はただの年増女、僕の敵じゃないね!!」
「あ? 今何つったこのガキ? 確かに私はもうすぐ40代だけど、まだ37歳! ギリ30代だかんな!?」
「37歳ならもう年増女じゃん、きっと17年前より腕前も落ちてるね!!」
「このクソガキ…!! 私の腕が落ちてるかどうか、すぐに分からせてあげるわ!!」

「お母さん…落ち着いて…」
「大丈夫、落ち着いてるわよ、それよりラーナ、ルーンエッジの準備をしておきなさい」
「ルーンエッジだね、分かった」
「で、私が合図したらあいつに向けて振るのよ、いいわね?」
「うん!!」

ラーナにそう告げると、エスカは体に風の魔力を纏い、高速移動した。この技はエスカが新たに生み出した技の一つ、ソニックムーブである。ソニックムーブは目にも止まらぬ速さで高速移動する技であり、その速度は200㎞に及ぶ。エスカは高速移動中に自身の愛剣であるマジックソードに風の魔力を纏い、ディクソンのカースマーダーを切断、更に、ディクソンの背後に回り込んだ。そして、エスカはディクソンの背中目掛けて零距離で風魔法のサイクロンを放ち、上空に吹き飛ばした。

「今よ! ラーナ!!」

エスカの合図でラーナはルーンブレードを伸ばし、ルーンエッジの準備を整えた。そして、ルーンブレードの刀身でディクソンを叩き斬った。

「そん…な…僕…が…あんな…奴ら…に…」

一瞬の内に敗北した事にディクソンは驚きを隠せないまま、ディクソンは地面に墜落した。そして、上半身と下半身が分離した状態でディクソンは息絶えた。親子の連携攻撃に、ディクソンは敗北したのである。何とか勝利を収めたものの、体はボロボロ、ルーンブレードを使いすぎて体力を使い果たしたラーナは、大の字になって地面に倒れ込んだ。

「何とか勝ったけど…お腹すいたぁ…疲れたぁ…」
「お疲れ、ラーナ」
「ありがとうお母さん…お母さんが居なかったら、私死んじゃってたよぉ…」
「ふっふっふ…お母さんの事をもっと頼ってもいいのよ?」
「うん! これからはもっとお母さんの事を頼るね!」
「ラーナは偉いぞ~、そんなラーナには、ジャムパンをあげるね~」

そう言ってエスカはコートのポケットに手を突っ込んだが、ジャムパンがない事に気付いた。その代わり、ポケットの中にあったのはジャムパンの袋だった。

「あ、ごめ~ん、ジャムパンは私がここに来る際にお腹空いて食べちゃったんだった…」
「もう! お母さんの馬鹿ーーーっ!!!」

エスカとラーナ、この2人は親子である。親子である2人は強い絆で結ばれており、その絆は何よりも強いのだ。これから先、どんな強敵が現れても、きっと2人は乗り越えてゆくだろう。親子の絆は2人のみの特別な絆だからだ。

一方その頃、リヒトの家の周辺にセブンイレイザーズのメンバーが3人到着した。短剣使いのクレイユ、チャクラム使いのリエージュ、そして鎌使いのファーノだ。クレイユとリエージュは以前リヒト達と戦った事があったが、ファーノは初めてである。ファーノは海の様に透き通った大きな瞳が特徴で、赤紫の髪をツインテールにしている。勝気な性格の彼女だが、根は優しい性格であり、仲間から好かれている。武器は身の丈程もある大鎌、デスカッティングであり、ファーノの黒い服装も相まってその様は死神のようにも見えた。

そんなファーノを始めとするセブンイレイザーズの面々は、リヒトの家の前に待機していた人物達と対峙した。そのメンバーはミハル、フェルネ、エフィ、シレーヌの4人であった。4人は待っていたと言わんばかりにファーノ達を見つめており、まさに一触即発の状態であった。そして、ファーノとミハルの2人は対峙し、言葉を交わした。

「あ~らら~、やっぱ待機されちゃってたか~」
「そりゃ待機ぐらいするわよ、リヒトくんやクリスちゃんが危ないんだから」
「ねえねえ、大人しくどいてくれたら危害は加えないよ?」
「どけないわ! 私達の後ろには、大切な仲間がいるんだもん!!」
「チッ、やっぱ戦うしかないか~、じゃ、覚悟してね?」
「来るっ! みんな! 戦闘準備を!!」

ミハルが剣を取ると同時に、ファーノはデスカッティングを振り、ミハル目掛けて赤黒い真空波を放った。この真空波はデスリッパーと言い、ファーノの主力攻撃である。ミハルはそのデスリッパーを切り払ったが、次から次へと放たれるデスリッパーに対し苦戦していた。耐えかねたミハルはサイクロンの呪文を詠唱しながらデスリッパーを相手し、詠唱終了と同時に竜巻を放った。その竜巻はデスリッパーを全て吹き飛ばしたが、ファーノには避けられた。

すると、ファーノはデスカッティングを構えた状態で闇に姿を同化させ、姿を消した。これはファーノの能力の一つであり、シャドーステルスと言う。文字通り闇に姿を同化させる事が出来るが、周りが暗くないと使えない上、短時間しか使う事はできない。ファーノが姿を消した事でミハルは動揺したが、ミハルは目をつぶり、周りの状況を感じ取った。

母親に何度も言われた事、それは見るのではなく、感じる事。すると、ミハルは後方から殺気が伝わってくるのを感じていた。そこにファーノがいると確信したミハルは、そこを剣で貫いた。剣先に刺さっていたものはファーノの左肩、そこを貫かれたファーノはあまりの激痛に地面に蹲った。

「痛い…! 痛いよぉ…!!」
「…退いてください、命まで奪いたくはありません」
「…この借りは必ず返すわ、覚えときなさいよ!!」

そう言ってファーノはその場から去って行った。どうせまた来る事は分かり切っていた、だが、やはり自分には命を奪う事はできない。命を奪わないでも解決できる方法があると、どこかで感じていたからである。

一方のフェルネ、エフィ、シレーヌの3人は、クレイユとリエージュの2人と戦っていた。フェルネ達3人の銃での攻撃を、クレイユとリエージュはデモンファングとカオスサークルで迎撃する。それに対し、クレイユとリエージュはそれぞれの得意技を放って攻撃を仕掛けてきた。まず、クレイユは7本の魔力のデモンファングを生成し、投げナイフの様に飛ばして攻撃した。この技の名称はエーテルダガーと言い、威力はそこそこだが、切れ味がとても高く、鉄を斬り裂く事も出来る。クレイユがここまで生き残ってこれたのはこの技のおかげと言っても過言ではない。一方のリエージュは風の魔力を纏ったカオスサークルを飛ばす技、サイクロンチャクラムを放った。この技は風の魔力で回転力と切れ味を増したカオスサークルを飛ばす技であり、鉄の塊をあっさりと切断する事が可能である。戦闘が得意ではないリエージュにとって、一番の攻撃力を備えた技である。その攻撃に対し、フェルネとエフィはエーテルダガーを銃弾で迎撃し、サイクロンチャクラムは間一髪で回避した。何とか凌いだフェルネ達であったが、クレイユ達は第二波を放つ準備をしていた。このままではこっちが不利と睨んだシレーヌは、フェルネにある物を渡した。

「フェルネ、これを使ってみなさい」
「これ…何? 普通の銃弾じゃないみたいだけど…」
「その2つの銃弾は私お手製の特殊弾頭よ、まあ、試しに撃ってみる撃ってみる」
「…変な物じゃない事を祈ってるわ」

そう言ってフェルネはしぶしぶ2つの特殊弾頭を拳銃に込めた。そして、フェルネはその2つの銃弾を発砲、銃弾はクレイユ目掛けて一直線に飛んで行った。クレイユはその攻撃に対し、エーテルダガーを盾の代わりにして防ごうとした。だが、エーテルダガーで攻撃を防いだ瞬間、その銃弾はクレイユの近くで大爆発を起こした。その爆風によってクレイユは両手を負傷、戦闘継続が不可能となった。

「ぐあぁぁぁっ!! な…何をした!?」
「これは私お手製の爆裂弾、早い話が銃弾を超小型爆弾にしたシロモノね」
「こんなものを…個人で開発したのか…?」
「そうよ、17年前はニードルガンの銃弾を自作していたんだもの、このぐらい楽勝よ」
「何て奴だ…!!」
「よくもクレイユを…! 許さない…!!」

そう言ってリエージュは再びサイクロンチャクラムを放った。だが、その攻撃をミハルがブルーセイバーで切り払った。その間に、シレーヌはエフィにも特殊弾頭を渡した。

「エフィ、私はあんたの腕前を信じるわ、この銃弾をあいつに当ててみて」
「これ、ですか…?」
「そうよ、これが当たればあいつに大きなダメージを与えれるはず!」
「分かりました! 任せてください!!」

そう言ってエフィは特殊弾頭を拳銃に込め、リエージュ目掛けて発砲した。それと同時にリエージュは再びサイクロンチャクラムを放ったが、エフィの撃った特殊弾頭が命中した事で角度が変わって地面に墜落。一方のエフィが放った特殊弾頭はサイクロンチャクラムの跳弾によってリエージュの右肩に命中、貫通した。右肩を貫かれたリエージュは、あまりの激痛に地面に蹲った。

「うっ…! あぁっ…!! あぁぁっ…!!」
「凄い貫通力…シレーヌさん、あの銃弾は…?」
「貫通弾! 文字通り、貫通力を上げた弾丸よ、それよりエフィ、さっきの攻撃…」
「はい! 跳弾を利用する事でチャクラムを迎撃すると同時に相手に命中させたんです!」
「何て離れ業…私も負けてられないわね…」

すると、クレイユは墜落したカオスサークルを拾い、リエージュを背中に背負ってその場を立ち去ろうとした。だが、ミハル達はあえて攻撃を仕掛けなかった。いくら悪人といえど、弱っている相手を攻撃する気にはなれなかったのである。

「…何故、攻撃しない?」
「今の状況で攻撃したら、私達が悪人みたいじゃない」
「甘いな…その甘さ、いつか後悔させてやる…」

ミハルの言葉に、クレイユはそう返し、クレイユとリエージュはその場から立ち去って行った。無事にセブンイレイザーズのメンバーを撤退させたミハル達であったが、まだセブンイレイザーズのメンバーはもう1人残っていた。そう、セブンイレイザーズのリーダーであるアルメリアの存在である。アルメリアは他のメンバーを囮に、既にリヒトの家の中に侵入していたのである。リヒトは突然家の中に入って来たアルメリアに対し、クリスタルセイバーを向けた。

「君…あの時の…!」
「覚えてくれていて嬉しいよ、リヒト・ザラーム、英雄の息子よ」

アルメリアはリヒト、トルトゥーガ、クリスと対峙し、一触即発の状況になっていた。アルメリアはヘルブラッドを、リヒトもクリスタルセイバーを構え、お互いが様子を伺っていた。

「私はネオシュヴァルツゼーレの目的の為、お前達をここで殺す」
「僕は、できれば人間である君とは戦いたくない…」
「甘いな、敵を前にして敵の心配とは…」
「僕は殺したくないんだ、例え悪人でも、みんなこの世界に生まれた命なんだから…」
「そうか、ならば、お前が死ね!!」

そう言ってアルメリアは剣に雷を纏い、その雷を真空波として放った。アルメリアの得意技の一つ、サンダーリッパーである。その攻撃に対し、リヒトは魔力のバリア、魔導障壁を展開し、身を守った。だが、アルメリアは続けて電撃を放って攻撃する雷魔法、ライトニングを唱え、攻撃した。リヒトはそれも魔導障壁で防御し、無力化した。アルメリアの攻撃魔法に対し、リヒトはただ防御を続けるだけで戦おうとしない。その様子を後ろから見ていたトルトゥーガは耐えかねてセインスピアードを召喚し、リヒトの前に立った。

「お母さん!!」
「リヒト、後は私に任せて下がってなさい、あなたはやはり人間と戦わない方がいいわ」
「でも…!!」
「大丈夫! これでも私は17年前の激戦を生き抜いたんだから!!」

そう言ってトルトゥーガは背中に翼を生やし、セインスピアードを構えて高速で飛行しながらアルメリア目掛けて突進した。アルメリアは防御したが、そのまま家の外まで吹き飛ばされ、芝生の生えた地面に着地した。そのアルメリアに対し、トルトゥーガはセインスピアードから放つ竜巻、ハリケーンスピアードで攻撃を仕掛けた。竜巻は地面をえぐりながらアルメリアを襲ったが、アルメリアは攻撃を回避、当たる事はなかった。アルメリアは反撃にと炎魔法のヘルフレイムを唱えた。ヘルフレイムは地獄の業火で相手を焼き尽くす上級炎魔法である。とても難度の高い魔法ではあるが、幼い頃から過酷な訓練を積んでいたセブンイレイザーズのリーダーであるアルメリアは難なく唱えることが出来た。トルトゥーガはヘルフレイムを魔導障壁で防御したが、ヘルフレイムの威力は高く、大きく吹き飛ばされてしまった。だが、吹っ飛ばされる際にカウンターとしてハリケーンスピアードを放って攻撃を仕掛けていた。その竜巻はアルメリアを巻き込んで吹き飛ばし、壁に体を強く打ち付けた。

「どうよ!!」
「くっ…! 中々やるな…! だが、セブンイレイザーズのリーダーであるこの私の実力はこんなものではないぞ…!!」

アルメリアは目をつぶり、意識を集中させた。すると、トルトゥーガの周りにアルメリアの分身が10体ほど現れた。直後、アルメリアの本体は高速移動し、分身もトランプのシャッフルの如く高速移動する事でどれが本体か分からなくなった。本体がどれか分からず、混乱するトルトゥーガは、ヤケになって自身の周りに竜巻を発生させ、分身をかき消した。当然、この攻撃でアルメリアの本体も吹き飛ばされたとは思ったが、一応と思ってトルトゥーガは辺りを見渡した。

「本体は…どこにもいないわね…吹っ飛んだのかしら?」
「残念だったな、先ほどの攻撃に私は含まれていなかったのだ」
「どこ…!? どこに…!!」

直後、アルメリアはヘルブラッドで背後からトルトゥーガの腹部を突き刺した。トルトゥーガは何が起こったのか分からないまま地面に倒れ込み、意識を失った。腹部を突き刺されたトルトゥーガは、傷口から血を流していた。

「母さん!!」

この時、リヒトは取り返しのつかない事をしてしまったと感じた。あの時、身を守ってばかりでなく、自分が戦っていれば、母親を自分の代わりに戦わせなければ。自分が戦わなかったから、相手と本気で戦おうとしなかったから。人間と戦えないと言う優しさが、自分の母親を敵に傷つけさせることになってしまった。リヒトは怒った、優しすぎる自分に、そして、大切な存在を傷つけたアルメリアに…。

「…さない…!!」
「ん? 今、何と言った?」
「許さない…!! 母さんを傷つけたお前を絶対に!!」

その時、リヒトは怒りのあまり我を忘れていた。リヒトの周りには青白い稲妻の様なオーラが発生しており、装備したクリスタルセイバーは青白く輝いていた。その異常な状況に、アルメリアも、後ろでリヒトを見守っていたクリスも驚くしかなかった。

「な…何だあいつは…!?」
「あのオーラ…まさかリヒトくんに宿る光精霊の血が覚醒したもの…!?」

リヒトはアルメリア向けてクリスタルセイバーを振った。すると、青白い巨大な真空波、クリスタルリッパーが放たれた。アルメリアはヘルブラッドで防御したものの、クリスタルリッパーが命中した瞬間、大爆発が発生し、ミスリル製のヘルブラッドが砕け散った。クリスタルリッパーの計り知れない威力に、アルメリアは驚愕するしかなかった。

「な…! ミスリル製のヘルブラッドが…!!」

流石のセブンイレイザーズでも、武器を失っては戦えない。それに、今の状況でリヒトを抹殺するのは不可能に近い。アルメリアは仕方なく撤退すると言う手段を取った。

「リヒト・ザラーム! 今回は撤退する、だが、次は必ず貴様を殺す! 覚えておけ!!」

そう言ってアルメリアはリヒトの家から去って行った。アルメリアが去った事を確認すると、リヒトの周辺に発生していた青白い稲妻のオーラは消えていた。

「おわっ…た…」

そう言い残し、リヒトは意識を失った。意識を失う直前に見えたものは、倒れたトルトゥーガの周りに集まった仲間達の姿であった。その後、リヒトの目の前は真っ暗になり、意識が途絶えた。

リヒトの家から撤退したアルメリアは、同じく撤退していたクレイユ、リエージュ、ファーノと合流していた。4人全員が体にかなりのダメージを負っており、4人は拠点であるニューエデンシティの外れの森に戻った。

「生き残ったのは私達だけか…」
「他はみんな死んでしまったわ」
「レスター…カーライル…ディクソン…」
「あーもう! ムカつく!! 何でネオシュヴァルツゼーレの精鋭である私達がこんな目に合わないといけないのよ!!」

アルメリア、クレイユ、リエージュ、ファーノの4人がそんな話をしていると、ハイネがアルメリア達の前に現れた。

アルメリア、ちょっといいか?」
「何だ?」
「実はな、戦死したレスターの妹がここに向かっているらしいんだ」
「ああ、ティラナか…奴はまだ若いが、優秀な奴だ、必ず頼りになるはずだ」
「そうか、とりあえず、今はゆっくり傷を休めておけ」
「ああ、しばらく休ませてもらう事にする」

無事セブンイレイザーズのアルメリアを撃退したリヒト。だが、自分が戦わなかったせいでトルトゥーガは重傷を負ってしまった。すぐにニューエデンシティの病院に救急搬送されたトルトゥーガは、何とか一命を取り留め、今はすやすやと眠っている。母親の無事を確認し、安堵するリヒトだったが、それと同時に自分が戦わなかった事で母親に重傷を負わせたことを深く後悔していた。

「僕のせいだ…僕が戦わなかったばっかりに母さんをこんな目に合わせてしまったんだ…」
「違うよ、リヒトくん、悪いのはあのセブンイレイザーズって人達だよ、リヒトくんは悪くないって」
「そうですよ、だから、あまり自分を責めないで…」
「ミハルちゃん、エフィちゃん、ありがとう…でも、僕が戦わなかったのが一番悪いんだ」
「う~ん、ナハトとは違ってかなり自分を責めるタイプなのね…」
「お母さぁん、リヒトさんを虐めないでくださぁい…」

そんな話をしていると、トルトゥーガの病室に一人の少女が入って来た、ルージュである。ルージュはリヒト達とは初対面であり、当然そんな人物が入って来たら誰もが警戒するはずである。だが、ルージュはそんな事はお構いなしにリヒトに近づいた。

「君…誰…?」
「あたしはルージュ、ルージュ・ラフレーズ」
「僕達、初対面…だよね…?」
「まあね、でも私はあんたの父親であるナハトと共に戦ったココ・ルーって人とちょっとだけ関わった事があるの」
「ココの奴、情報屋の私でもどこにいるか知らなかったけど、一応生きてたんだ、で、あいつは今どこにいるの?」
「それは秘密ってココさんに言われてるわ、それよりあんた、あたしと特訓してみない?」
「特訓…?」
「そうよ、それも命懸けの特訓、どう?」
「…やるよ」
「OK! じゃ、あたしに付いてきて」

ルージュはリヒトの腕を引き、半ば強引にリヒトを連れて行った。当然、リヒトが命懸けの特訓をするとの事で周りは反対しようとしたが、ルージュのあまりの強引さには誰も声が出なかった。そして、ルージュはリヒトをニューエデン私立学園の運動場へと連れてきた。学園は現在休校中であり、誰もいない為、ルージュは特訓の場としてここを選んだのである。運動場に到着すると、ルージュは剣を取り、リヒトも剣を取った。

「さあ、準備はいいわね? 言っとくけど、あたしは本気で行くわよ?」
「うん! 分かったよ!」

リヒトが武器を構えた事を確認すると、ルージュは旋風刃を放った。コマの様に高速回転して放つこの回転斬りを、リヒトはクリスタルセイバーで受け止めたが、高速回転による振動で腕が少し痺れた。だが、ルージュは間髪入れずに再び旋風刃を放ってきた。リヒトは再びクリスタルセイバーで受け止めようとしたが、今度は受け止めきれずに吹っ飛ばされた。

「ほらほら! どうしたの? 強くなりたいんじゃないの?」
「強くなりたいよ…でも、怖いんだ、僕は人を傷つけるのが…」
「人を傷つけるのが怖い…?」

ルージュはリヒトの方に向けて歩いてきた。すると、ルージュは突然リヒトの腹を蹴り飛ばし、リヒトに剣を向けた。

「甘ったれるんじゃないわよ! 人を傷つけるのが怖いと思うのは勝手だけどね、あんたが戦ってるのは敵よ? 敵なのよ!?」
「分かってる…でも…!」
「でもじゃないわよ! その敵があんたを、あんたの大切な人を殺そうとして、あんたは黙って見てるだけなの!?」

ルージュはリヒトに対し、剣で斬りかかった。2度、3度と振られる剣を、リヒトは全てクリスタルセイバーで受け止めた。だが、ルージュは剣を打ち付けた際にクリスタルセイバーの向きを逸らしており、その隙を見てルージュはリヒトを蹴り飛ばした。

「あんたは一度でも本気で戦おうって思った事があるの? あんたがそんなんだからあんたの母親も傷ついたのよ!?」
「…分かってる…分かってるさそんな事! 僕だって人間の相手と戦わなきゃいけないって…! でも、いざ対峙してみると怖くて…相手にも家族がいて、その家族から恨まれるんじゃないかと思うと怖くて…」
「そんな事、当たり前でしょ、あたし達は生きるか死ぬかの命懸けの戦いをしてるんだから」
「でも、何かあるはずなんだ! 相手を殺さずに戦いを終わらせる方法が!!」
「なら、やってみなさいよ! 今、ここで!!」

ルージュは剣に風の魔力を集め、剣を振る事で強力な真空波として放った。この技はルージュの得意技の一つ、旋風波である。リヒトはエクスプロージョンの魔法を唱え、旋風波を迎撃したが、ルージュは追い打ちにと再び旋風波を放ってきた。この攻撃に対しては流石に対応できず、クリスタルセイバーで防御するも大きく吹き飛ばされ、壁に体を打ち付けた。

「…これが最後のチャンスよ、相手を殺さずに戦いを終わらせる方法、やってみなさい、できなければあたしはあんたを殺す」
「ぐっ…!」

その時、リヒトは薄々感じてはいた。相手を殺さずに戦いを終わらせる方法、そんなものはない、存在しない。そんなものがあれば、この世から争いという存在は消え、人類は平和を謳歌していたはずである。だが、この世に争いがある以上、相手を殺さずに戦いを終わらせる方法などという夢物語みたいなものは存在しないと言う事が明白であった。なのに、自分はそんな夢物語みたいなものを望んでいた。誰も殺したくない、誰かが傷つくところを見たくないからである。そして、その時リヒトは強く願った、相手を殺さずに戦いを終わらせる力を自分に与えて欲しいと。その時、クリスタルセイバーが眩く輝いた、まるでリヒトに呼応するかのように。

「何…!? 何なのあの光は…!?」
「クリスタルセイバー…君は僕の想いに応えてくれてるのか…? ありがとう…やってみるよ!!」

リヒトは立ち上がると、クリスタルセイバーに光を集めた。直後、剣を振り、その光を光球としてルージュ目掛けて飛ばした。すると、その光球はルージュの持つ剣に命中し、直後、その剣は消滅した。

「あたしの剣が…!」
「この技は相手の武器を奪う技なのか…?」
「…ねえ、あたしって何であんたを攻撃してたんだっけ?」
「え!? 忘れたの? 特訓って言ったじゃん」
「あ、言われてみればそうだったわね、忘れてたわ」

(なるほど、この技は相手の武器を奪うと同時に相手の争いの元となった記憶を奪う技なのか…)

「ねえ、ところであたしの剣知らない?」
「剣? そう言えば、僕の別空間に何か入ってるっぽいな…」

そう言ってリヒトが自身の別空間を確認し、コネクトの魔法で取り出すと、ルージュの剣が現れ、リヒトはその剣をルージュに返した。

「ありがと」
「お礼を言うのは僕の方だよ、ルージュのおかげで僕は新しい技を覚えれたんだ」
「フン! 勘違いしないでよね、あたしはあんたの為に特訓に付き合ったわけじゃないわ、ココさんに言われたの」
「ココさんに?」
「そう、トルトゥーガはどうせロクな特訓積ませてないだろうから少し特訓に付き合ってやれってね」
「そうだったんだ…ココさん、会った事ないけど、もし会えたらお礼言っとこう」

ルージュとの命懸けの特訓の末、新たな技を編み出したリヒト。リヒトとルージュはトルトゥーガの病室に戻ろうと帰路についていた。帰りの2人は特に話す事もなく、ただ無言であった。地味に気まずいその雰囲気を前に、リヒトは何か話す事はないかと考えていた。その時、リヒトいる場所の近くに落雷を発生させる雷魔法のドンナーが落ちてきた。幸い、その攻撃は外れたが、リヒトとルージュはすぐに戦闘態勢を取った。

「どこからの攻撃だ!?」
「それはあたし達の仕業って事ね!」
「あんたら、誰よ?」
「私はネオシュヴァルツゼーレのウィシア・フーガ、母は旧シュヴァルツゼーレの偵察兵ラフ・フーガ」
「で、あたしはローズマリー・クランドゥイユ、よろ~」

ウィシアという少女は黄緑色の長い髪に、空色の透き通った瞳が特徴であった。可愛らしい顔付きではあったが、両手にナイフを装備しており、彼女も戦闘慣れしている事が伺えた。ちなみに、彼女の母親であるラフと言う人物はかつてナハトとの戦いで命を落としている。一方のローズマリーという少女はピンク髪ツインテールの髪型と、血の様に赤い瞳が特徴であった。キリッとした目つきの少女ではあったが、低い背が可愛らしさを醸し出していた。武器は身の丈程もある超硬質ブレードであり、これで戦場を生き抜いてきたのだろう。

「さて、あたしらがここに来たって事は、あんたらを始末する任務を受けたって訳」
「ネオシュヴァルツゼーレは着々と他の地域を侵略している、でも、未だにニューエデンシティの侵略は手間取っている」
「全く、セブンイレイザーズも頼りにならないわね~」
「つまり、君達は仲間の侵略を手伝いに来たって事?」
「そゆこと~、だからさ~、死んでよ」

そう言うと、ローズマリーは超硬質ブレードでリヒトを攻撃したが、リヒトはクリスタルセイバーで攻撃を切り払った。一方のウィシアは2本のナイフでルージュを攻撃したが、ルージュは軽々と攻撃を回避した。すると、ローズマリーは落雷を発生させる雷魔法、ドンナーを連続で唱えた。ドンナーは立て続けにリヒト達の周りに着弾し、その度に爆発が発生する。幸い、リヒトとルージュに命中はしなかったが、爆発が発生した際に地面の瓦礫が飛び散り、リヒト達に命中した。その瓦礫はかなり尖っていた為、リヒトとルージュはそれなりにダメージを受けた。一方のローズマリーとウィシアはウィシアが魔導障壁を展開する事で瓦礫を防いでおり、ダメージを受けていなかった。

「くっ…! 瓦礫で攻撃してくるなんて…!!」
「どう~? あたし賢いでしょ~? こう言う攻め方もあるんだよ~!」
「あんた達、もっと正々堂々と攻撃したらどうなの?」
「うっさいわね! これは命懸けの戦いなんだから、どんな攻め方でもいいでしょ!!」

そう言うと、ローズマリーは再びドンナーを連続で唱えた。先ほどと同じ様に、ドンナーがリヒト達の周辺に着弾する事で爆発が発生、リヒト達に瓦礫が飛び散った。だが、リヒト達は既に対策を取っており、ドンナーが地面に着弾する前に魔導障壁を展開する事で瓦礫を防いでいた。

「ふぅん、考えたわね~、でも!!」
「既にかなりのダメージを受けたはずです! 正攻法ならこっちが有利なはず!!」

ウィシアは一気に距離を詰め、2本のナイフでリヒトを切り裂こうとした。突然の出来事に対応ができなかったリヒトは、絶体絶命の危機に陥った。

「私の母の恨み、思い知れ!!」

その時、どこからともなく放たれた2発の銃弾がウィシアのナイフを2本とも弾いた。ウィシアのナイフが弾かれた事を確認したリヒトは、ウィシアの鳩尾を殴り、気絶させた。

「ウィシア! 誰よ! あたしらの邪魔をしたのは!!」

銃弾が飛んできた先にいたのは、フェルネとエフィであった。

「リヒトくんとルージュが中々帰ってこないから様子を見に来てみれば…まさかネオシュヴァルツゼーレがいるなんてね!」
「ネオシュヴァルツゼーレ! 私達の仲間を傷つけたあなた達の事、許しません!!」

フェルネとエフィは銃をくるくると回転させた後、銃口ローズマリーに向けた。すると、ローズマリーは剣先をフェルネとエフィに向けた。

「何であんたらなんかに許されないといけないの? 何様のつもり?」
「そっちこそ、人々の平和を壊すその悪行、決して許しはしないわ!!」

フェルネは喋り終えると、エフィに1発の銃弾を手渡した。その銃弾は、フェルネの母親であるシレーヌが作った特殊弾頭であった。

「エフィ! この銃弾を撃って! あいつか武器のどっちかに当てればいいから!」
「うん! 分かった!!」

エフィは特殊弾頭を銃に込めると、それをローズマリー目掛けて発砲した。ローズマリーはその特殊弾頭を超硬質ブレードで一刀両断にした。すると、見る見るうちに超硬質ブレードが凍り付いて行った為、ローズマリーは超硬質ブレードを地面に投げ捨てた。

「な…何よこれ…!? あたしの超硬質ブレードが…!!」
「それは私のお母さんお手製の冷凍弾、当たった物を瞬間冷凍する夏にはもってこいの銃弾よ」
「な…何て事…! ともかく、武器が無くなったらこっちが不利ね、逃げなきゃ」

ローズマリーはその場から逃走しようとしたが、先に回り込んでいたリヒトがローズマリーの鳩尾を殴った事でローズマリーは気を失った。こうして、リヒト達はウィシアとローズマリーの命を奪う事なく、戦闘不能にしたのであった。

「よし、何とかこの人達を殺さずに戦闘不能にできた…、フェルネ達のおかげだよ、ありがとう」
「全く…この状況でも敵の事を心配するなんて…とんだお人よしね、リヒトくんは…」
「でも、そんなリヒトさんの事が、私達は好きですよ!」
「まあ、そう言う優しい所はあたしも認めてるわ…」

フェルネ、エフィ、ルージュの3人に褒められたリヒトは少し恥ずかしそうに目を逸らした。一方のフェルネはある事を思いつき、それをこの場で話した。

「ところでだけどさ、この2人からネオシュヴァルツゼーレの事を聞き出せば色々と分かるんじゃない?」
「それって、僕の父さんの事とか?」
「うん、それも多分分かると思うんだ」
「聞いてみる価値は十分にあるね、連れ帰って聞いてみよう!」
「そうはいきませんよ、リヒト・ザラームとその仲間達」

そう言って現れたのは、金髪ショートカットのオレンジの瞳をした小柄な少女であった。黒コート、黒ズボン、黒ブーツと言う服装をしていたほか、以前倒したレスターの装備していた槍、デススパイラルを所持していた事から、セブンイレイザーズなのだろう。すると、その少女はリヒト達に自分が何者なのかを語り出した。

「私はティラナ・スムガイト、あなた達に殺されたレスター・スムガイトの妹であり、新たなセブンイレイザーズのメンバーです」
「新たなセブンイレイザーズのメンバー?」

突然リヒト達の前に現れたティラナという少女は、レスターの妹であった。非常に可愛らしい見た目の彼女であったが、ただ者ではないオーラが漂っていた。兄が愛用していた武器、デススパイラルを携えた彼女は、そのデススパイラルをリヒト達の方に向けた。

「兄は、あなた達との戦いで命を落としたと聞きました、兄の仇は、妹である私が取るつもりです!」
「待ってよ! 君の気持ちは分かるけど、僕達は君と戦いたくないんだよ!」
「問答無用です! ライトニング・レーザー!!」

ティラナはデススパイラルに電撃を収束させると、それをレーザーの如く撃ち出した。ライトニング・レーザーはリヒトに向かって一直線に飛んで行ったが、リヒトはクリスタルセイバーで防御した。だが、ライトニング・レーザーの威力は高く、リヒトは後方に吹っ飛ばされてしまった。

「ぐっ!!」
「リヒトくん! 大丈夫?」

そう言ったのはリヒト達の様子を見に来たミハルであった。ミハルの他にも、クリス、ラーナ、シレーヌエスカが一緒にやって来た。

「僕は大丈夫…でも…」
「仲間達が来ましたか…なら、一掃します!!」

ティラナはデススパイラルに闇のエネルギーを収束させ、それをレーザーの如く撃ち出した。この技はティラナの得意技の一つ、デストロイランスである。リヒト達はデストロイランスのレーザーを回避したが、レーザーは地面に着弾し、大爆発を起こした。その爆風によってリヒト達は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。ティラナはなおもライトニング・レーザーの構えを取った。

「そうはさせないわ!!」

ライトニング・レーザーを放とうとするティラナに対し、フェルネとエフィは銃撃で応戦した。だが、ティラナはライトニング・レーザーの電撃を収束させながらその攻撃を回避した。そして、ライトニング・レーザーの収束が完了すると、そのレーザーをリヒト目掛けて放った。リヒトはそのレーザーをクリスタルセイバーで防御したものの、その反動で吹っ飛ばされた。その時、クリスタルセイバーにひびの入った音が聞こえた。その音が聞こえた瞬間、クリスが苦しむような声を発した。どうやらクリスタルセイバーとクリスは痛覚か何かが連動しているようであり、これ以上クリスタルセイバーで防御するのは危険であった。

「そんなに僕を殺したいのか? 君は!!」
「ええ、もちろん、私にとってお兄さんは唯一残った大切な家族でした、それを、あなた達は…!!」

ティラナは地面にデススパイラルを突き刺した。すると、地面から一直線にマグマが噴き出し、リヒトに向かって来た。この技はティラナの技の一つ、マグマバーストである。そのマグマに対し、フェルネは冷凍弾を撃ち込み、マグマを凍結、無力化した。

「リヒトくんは、やらせないよ!!」
「ありがとう、フェルネちゃん!」
「これも仲間の協力あってのものですか…でもいいです、そろそろあなた達にトドメを刺してあげましょう」

そう言ってティラナはデススパイラルに闇のエネルギーを収束させた。それは先ほどのデストロイランスを遥かに超える程強大なエネルギーであった。危機感を感じたルージュは旋風刃を放ってティラナに攻撃を仕掛けたが、ティラナはデススパイラルを持った右手とは逆の左手からライトニングを放ち、ルージュを吹き飛ばした。そして、エネルギー収束が完了すると、ティラナはそのエネルギーを撃ち出した。

「これでトドメです! ウルティメイト・デストロイランス!!」

ティラナの撃ち出した闇のエネルギーは地面に着弾し、大爆発を発生させた。その爆風はリヒト達を吹き飛ばし、地面や壁に体をぶつけ、地面に倒れ込んだ。リヒト達はかなりのダメージを受け、戦闘不能となったものの、まだリヒトだけは立ち上がっていた。

「…まだ立ち上がりますか、しつこいですね…」
「君が僕達を憎むのは分かる…でも! 本当に復讐で君の気が楽になるのか!?」
「もちろんです、その為だけに、私はここに来たのですから!!」
「そうか…」
「さて、そろそろあなたにトドメを刺してあげましょう」

そう言ってティラナはライトニング・レーザーを放つ態勢を取った。それに対し、リヒトはクリスタルセイバーでの防御態勢を取った。

(クリスちゃん…無理をさせるかもしれないけど、我慢してくれないか…?)
(大丈夫です…私はリヒトさんとどこまでも一緒ですから…)
(…すまない、クリスちゃん…)

クリスタルセイバーを介して意思疎通した2人だったが、ティラナはライトニング・レーザーをリヒト目掛けて放った。その攻撃をクリスタルセイバーで防御するリヒト。しかし、ライトニング・レーザーはひびの入っていたクリスタルセイバーを破壊、ライトニング・レーザーはリヒトの胸を貫いた。胸を貫かれたリヒトは地面に仰向けに倒れ、動かなくなった。それと同時に、クリスタルセイバーとダメージが連動していたクリスも口から血を吐き、地面に倒れ、動かなくなった。

「リヒトくん! クリスちゃん! どうしたの? 死んじゃったの…?」

ミハルの投げかけた言葉も、もう2人には通じない。何故なら2人は命を落としたのだから。

「これで…私はネオシュヴァルツゼーレの一番の脅威であったリヒトを倒した! これでこの世界はネオシュヴァルツゼーレの物!!」

すると、ニューエデンシティの上空に巨大な島の様な要塞が出現した。これこそが、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地である巨大要塞である。巨大要塞はニューエデンシティの上空に制止すると、そこから数多くの魔物が箱舟の様な乗り物に乗って降下してきた。

「リヒトのいないニューエデンシティなど、軽く捻り潰す事でしょう」
「そんな事はないわ!!」

ニューエデンシティの防衛隊隊長であるミハルは強く叫んだ。リヒトがいない今、この町を守れるのは自分達しかいない。今までリーダーとして自分達を纏め上げていたリヒトやトルトゥーガの代わりに、今度は自分がみんなを纏め上げる番だと、彼女は感じていたのだ。

「リヒトくんが居なくても、私達や防衛隊のみんながいる! あなた達の好きにはさせない!!」
「そうよ! 今度は私が守る番なんだから!!」
「リヒトさんの代わりに、今度は私達が守ります!!」
「私達だってぇ、やればできるんですよぉ!!」
「そう言う事、勘違いしないで、この場にいないココさんの代わりにあたしが守ってやるってだけなんだから」

子世代のミハル、フェルネ、エフィ、ラーナ、ルージュの5人が戦う意思を見せると、親世代のシレーヌエスカも子供達に負けない程の戦う意思を見せた。

「今戦えないトルトゥーガの代わりに、友人の私が戦うしかないのね…」
「でも、悪くはない! もしナハトがここにいたら、きっとこうしてたと思うから!!」

諦めの悪いミハル達を見たティラナは、ため息をつき、デススパイラルを構えた。

「無駄に命を散らすつもりのようですね…いいでしょう、相手をしてあげます」

ニューエデンシティに侵攻開始した魔物たちの迎撃の為、防衛隊は総動員していた。その中でも特に魔物の数が多い中心区では、防衛隊の精鋭が出動して対応に回っていた。ブーメラン使いの男の娘であるシャオ、ショットガン使いの少女グレイス、スナイパーライフル使いの少女フロスの3人はミハルの部下であり、精鋭であった。この3人は今、人々を守る為命を懸けて全力で戦っているのであった。

「この数…とてもボク達だけじゃ太刀打ちできないよぉ…!!」
「諦めないの! ミハルさんだって今、一生懸命戦ってるはずだから!!」
「そう言う事、私達はただ、敵を狙い撃つだけ…」

3人は部下の防衛隊員複数人と共に魔物を次から次へと倒していた。だが、オオカマキロンやアーマースネーク等、大型の魔物まで現れ、対応しきれずにいた。守り切れずに魔物に殺されてしまう市民も現れる中、防衛隊員は命懸けで戦った。ちょっとした暴動ならすぐ鎮圧できるほどの力を持っており、平和な中も訓練は欠かさずにいた防衛隊。だが、それさえもこの数を前には無力であった。

「どうしよう…! もう手に負えないよぉ…!!」
「くっ…! どんだけ現れるのよぉ!!」
「流石に…これ以上は無理かも…でも…諦めない…!!」

ミハルの部下3人が命を懸けている中、ミハル達も命を懸けていた。リヒトを殺したティラナを相手にミハル達は戦っていた。手始めにラーナが全力のルーンエッジを放ったが、ティラナは左手に魔導障壁を展開し防御。剣に冷気を纏って切り裂く技、コールドブレードで攻撃を仕掛けたミハルを右手に装備したデススパイラルで切り払う。続けてエスカは剣に炎を纏って切り裂く技、ファイアブレードで攻撃を仕掛けるが、ティラナはデススパイラルで薙ぎ払ってエスカを吹き飛ばした。直後にフェルネ、エフィ、シレーヌが銃弾の雨を放ったが、ティラナは風魔法のサイクロンを唱え、銃弾ごと3人を吹き飛ばした。更に続けてルージュが旋風刃を放ったが、ティラナはデススパイラルでルージュを殴って吹き飛ばした。

「もう諦めたらどうですか? あなた達が束になっても私には勝てませんよ?」
「絶対に諦めないわ! リヒトくんやトルトゥーガさんが居なくても、私達だけで何とかしてみせる!!」

ミハルは絶望的な状況でもなお、戦う意思を見せており、それは他の仲間達も同じであった。ミハル達や防衛隊の人達が戦っている様子を、魂だけとなったリヒトとクリスは眺めていた。仲間達が傷つき、多くの人が死んでいるのに何もできない自分が歯がゆかった。だが、今の自分にはどうする事も出来ない、そう考えると、ただただ悔しかった。

「ミハルちゃん達や、防衛隊の人達が頑張ってるのに…! 僕には何もできないのか…!!」
「…一つだけ方法があるとしたら…?」
「そんな方法があるなら、僕は絶対に試すよ」
「その方法は、私と一心同体になる事、そうすれば再び戦える…でも、それは私生活でも私と一心同体になると言う事…どうする…?」

リヒトはしばらく考えた、私生活でクリスと一心同体になれば、自分のプライバシーと言う物が無くなる。ひょっとしたら、これからの人生で色々と大変なことに会うかもしれない。だが、リヒトは今目の前で起きている事を放置する事の方がずっと嫌だった。しばらく考えた後、リヒトは決意し、答えを出した。

「…分かった、君と、一心同体になるよ」
「本当にいいの? 私、あなたの私生活の邪魔するかもしれないよ?」
「いいよ、別に、僕は今目の前で起こっている事を放置できない、みんなを守りたいんだ! その為なら、僕の人生なんてくれてやる!!」
「…決意は固いみたいね…なら、あなたの左手を私の右手に合わせて」

リヒトは言われた通り、左手を出し、クリスの右手に合わせた。すると、まばゆい光が発生し、目の前が真っ白になった。そして、次に目が開いた瞬間、元の世界に戻り、立ち上がっていた。リヒトが復活した事で仲間達やティラナは当然驚いていた。

「リヒトくん…? 本当にリヒトくんなの…?」
「もちろんだよ、ミハルちゃん! でもまずは、あの子を止めないと…!!」
「生き返りましたか…ですが、また再び地獄に落としてあげましょう! ライトニング・レーザー!!」

ティラナはデススパイラルからライトニング・レーザーを放った。だが、リヒトは再生したクリスタルセイバーでライトニング・レーザーを切り払った。再生したクリスタルセイバーは強度が以前の倍以上になっており、その強度は伝説の金属であるオリハルコンに匹敵するレベルであった。リヒトはライトニング・レーザーを切り払うと、一瞬でティラナに接近し、デススパイラルを切断した。

「お兄様のデススパイラルが…!!」

リヒトはクリスタルセイバーに光を集め、光球を生成すると、剣を振って光球を飛ばした。その光球はティラナに命中し、ティラナから争いの元となった記憶を消し去った。しばらくすると、そこには無垢な性格の少女となったティラナがきょとんとした表情を見せていた。

「あの…私…何でこんな所に…」
「君は魔物の群れから逃げてきたんだよ、さあ、あっちへお逃げ」
「はい…ありがとうございました…」

そう言ってティラナはリヒトに教えられた方角であるニューエデン私立学園の方へ逃げて行った。ニューエデン私立学院には緊急のシェルターがあり、そこに逃げれば大体は安全であった。ティラナは丁度いいタイミングでやって来たリヒトの学友、エルフィナとアミアに連れられ、学園内に入って行った。ちなみに、エルフィナとアミアはリヒト達の事に気付いていたのか、手を振っていた為、リヒトとミハルも手を振り返した。戦いが終わった後、ミハルはリヒトの方に駆け寄ってきた。

「リヒトくん…本当に大丈夫なの…?」
「うん! クリスちゃんと一心同体になったから、僕はこうして生き返ることが出来たんだ!」
「そう…よかった…本当によかった!」

そう言ってミハルはリヒトに抱き着き、リヒトの胸の中で涙を流した。リヒトはミハルの頭を撫でてミハルの心を落ち着かせていた。しばらくそのままの状態が続き、ミハルが落ち着くと、これからネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する作戦を立てる事になった。

「で、あの移動要塞だけどさ、どうやって入ればいいんだろう?」
「その事なら問題ないわよ」

そう言ってやって来たのは、ミハルの母であるミソラ・アートランドとルージュの師匠に近い存在であるココ・ルーであった。2人共17年前と比べてそれほど変わっておらず、ミソラは若干髪が短くなっており、逆にココは髪が伸びていた。

「お母さん!」
「ココさん! 久しぶりね」
「ミハル、頑張ってるみたいね、私もこんな状況だから、戦わずにはいられないわよね…」
「ルージュか…嫌な気配がしたから久々にエデンシティに来てみれば、何だこの状況は…」
「何だ、じゃないわよ、あんた17年間どこに行方くらましてたのよ」
「そうそう! おかげであんた以外全員子供生まれてるわよ?」

ココはシレーヌエスカに駆け寄られ、少し戸惑っており、辺りを見渡した。すると、フェルネとラーナがそれぞれ自身の親を指差した後、自分を指差す事で誰が誰の娘かを教え、かつての友人に子供ができた事を認識したココは今までの事を話した。

「私はあの後ずっと獣人族の村で暮らしていた、ちなみに、私は生涯独身を貫くつもりだ」
「あらそう、まあ、たまには顔見せなさいよ?」
「ああ、分かった」

シレーヌ達はずっと顔を見せなかった自分の事をずっと覚えていてくれた、そう思うと、少し嬉しく思えた。その後、ミソラが今後の作戦を話した。

「で、あのネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する手段だけど、防衛隊が密かに開発していた飛行船を使用します」
「最近お母さん姿見せないと思ったら、飛行船を開発してたんだ…」
「まあね、凄いでしょ、とりあえず、みんな一旦防衛隊の本部まで行きましょう!」

こうして、ネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する手筈は整った。リヒト達は、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地である移動要塞に乗り込む為、飛行船を使うことになった。飛行船は防衛隊の本部にあると言い、リヒト達はそこへ向かった。本部に到着したリヒト達は、防衛隊の隊員が使う兵器を置いてある格納庫に入った。すると、そこには全長約50m、全高10mほどの飛行船がその巨体を構えていた。この世界には空を飛ぶ乗り物は気球と上昇高度に限度があるシエルプランシュと言うサーフボードの様な乗り物程度しかなく、リヒト達は飛行船を見た瞬間驚いていた。

「こ…これが…! 飛行船…!! かっこいい…!!」
「飛行船フライハイト号よ、ニューエデンシティの技術を使って開発した、世界初の高速飛行船よ」
「ねえ、お母さん、本当にこれ空飛ぶの?」
「ええ、飛ぶわよ、このフライハイト号は風の魔力を蓄えた魔力炉によって空を自由自在に飛行する事ができるのよ、その飛行速度は時速350㎞にも及ぶわ!」
「凄いよ! 父さんの乗ってた魔導バイクよりずっと早いじゃん!!」
「でしょ? このフライハイト号に乗って、私達はあの移動要塞に向かいます!」
「待ってミソラ! 私も…移動要塞に連れて行って!!」

そう言って現れたのは、病院で寝ているはずのトルトゥーガであった。トルトゥーガはアルメリアに体を突き刺され、病院で入院しているはずであった。そのトルトゥーガが今、怪我が完全に治癒した状態でリヒト達の前にいるのである。

「お母さん! もう傷は大丈夫なの?」
「私は光精霊だからね、わりとすぐに傷は塞がったわ、でも…」
「体の中までは直ってないんでしょ? 無理しないで、あなたは休んでて」

ミソラはトルトゥーガの事を心配してくれたが、自分の息子が戦ってるのに自分だけ大人しくしている場合ではない、そして何より、トルトゥーガには譲れないものがあった。

「駄目よ! もしかしたらあの移動要塞にあの人が…ナハトがいるかもしれない…! こんな所で休んでいられないわ!!」
「…どうせ駄目って言ってもあなたは飛べるんだから飛んで来るわよね、分かったわ、でも、無茶はしないで、いいわね?」
「ありがとう、ミソラ!」

そして、リヒト達はフライハイト号に乗り込もうとした。その時、リヒト達目掛けて数発の銃弾が飛んできたが、トルトゥーガがとっさに魔導障壁を発動させ、銃弾を防いだ。銃弾が飛んできた先には、ハイネ、アンナと部下のターニャ、ミーナ、ノクトの3人、セブンイレイザーズのアルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュの合計9人が現れた。最期の手段であったティラナでさえもリヒト達に敗北した為、全員で攻めてきたのだろう。

「残念だが、お前達をそれに乗せる訳にはいかない」
「ハイネの言う通りよ、残念だけど私達、ネオシュヴァルツゼーレだから」
「セブンイレイザーズは常にネオシュヴァルツゼーレと共にある! 組織の邪魔になるお前達はここで始末する!!」

ハイネ、アンナ、アルメリアが喋り終えると、他のメンバーと共に武器を構えた。

「あらあら…今まで私達に負けた人たちが一斉に来たって訳か~」
「あの生意気なガキの仲間、あの女の子以外だと初めて見たけど、こんな奴らだったのね…」
「まだ若いのに…人殺しに人生を費やしたのね…可哀想…」
「うるさいわよ! 年増女! 私達はネオシュヴァルツゼーレのおかげでこうして生きてるの!!」
「その組織の為ならば、私達は命すら投げ打つ、それだけよ」
「だから…邪魔者のあなた達は全員殺す…」

そう言ってファーノ、クレイユ、リーエジュは同時にシレーヌエスカ、ココに攻撃を仕掛けようとした。だが、リヒトは彼女たちの武器に対し、光の真空波クリスタルリッパーを3発放った。クリスタルリッパーは凄まじき切れ味を誇る真空波であり、ミスリル製の武器を軽々切り裂くことが出来る。ファーノ、クレイユ、リーエジュの持つ武器はクリスタルリッパーによって斬り刻まれ、バラバラになった。一方、ハイネ達の持つ銃もフェルネ、エフィの放った銃弾が銃口に命中し、暴発、破壊された。こうして、武器を持っているのはアルメリアだけとなった。

「リヒト…貴様、知らない間に腕を上げたな…」
「僕はティラナの攻撃で一度は命を落とした…でも、クリスちゃんのおかげでこうしてまた戦えている…その想いを、無駄になんてできない!!」

そう言ってリヒトはクリスタルセイバーに光を纏い、3回振った。すると次の瞬間、アルメリアが装備していたヘルブラッドを修復した剣、ヘルブラッドリペアはバラバラになった。リヒトの放った攻撃はクリスタルスラッシュ、高い切れ味を誇る剣技である。武器を失ったアルメリア達セブンイレイザーズのメンバーは諦めるかと思われたが、まだ諦めていなかった。

「こうなったら、奥の手だ」
「あれ、やっちゃう?」
「あれは威力がありすぎる為控えたかったが」
「任務の遂行には代えられませんね…」

そう言ってアルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュの4人は右手を一か所に集め、魔力を収束させた。一か所に収束された魔力は、膨大な魔力となり激しく渦巻いた。

「秘技! クワトロフォーメーション!!」

4人は協力し、強力な魔力のレーザー、クワトロフォーメーションを放った。クワトロフォーメーションはリヒト目掛けて一直線に飛んで行ったが、リヒトはクリスタルセイバーを構え、光のバリアを展開した。そして、その光のバリアであるクリスタルバリアにクワトロフォーメーションを吸収させ、無力化させた。

「何っ!?」
「私達のクワトロフォーメーションがぁ…!」
「無力化された…!?」
「ありえない…!」

自身の最終奥義を吸収された事に、アルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュは驚愕した。

「敵とは言え…僕は君達を傷つけたくない…だから…!!」

リヒトはクリスタルセイバーを構えると、クリスタルセイバーから眩い光を放った。その光はアルメリアやハイネ達を包み込み、光が収まった瞬間、彼女たちは戦闘態勢を解いていた。リヒトが相手を大人しくさせる為に使用する鎮静光球の広範囲版の技である。

「私達は…一体何を…?」
「君達は魔物に襲われてここまで逃げ込んできたんだ」
「そうか…助けてくれた事、感謝する」

その後、リヒト達は戦いの記憶を失ったアルメリア達を防衛隊基地で保護した後、フライハイト号に乗り込んだ。フライハイト号に乗り込むと、手始めに格納庫の天井を開き、その後、艦長兼操縦士のミソラは魔力炉のエンジンを入れた。すると、フライハイト号の船体が浮き上がり、大空へと飛翔した。

「行こう! ネオシュヴァルツゼーレの本拠地へ!!」

一方その頃、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地では、17年間時の檻で眠り続けたナハトとデロリアが目を覚ました。

「う…俺達は…眠っていたのか…?」
「よく眠れたか? と、言っても、その時の檻の中の時間は1日程度だ、こっちでは既に17年過ぎている」
「あなた、こんな事をして、一体何が目的なの!?」
「目的…か、それはいつまで経っても争いや迫害を続ける愚かな人類を力で支配する事だ!」
「力による支配…だと…!?」

すると、ナハトとデロリアの2人と会話していた謎の存在は、自身の過去の話を始めた。

「俺は人間と魔族の混血児だ、幼い頃はそれが理由でよく迫害されていた、おまけに人間の父は魔族と子供を作った事が原因で親族に殺され、魔族の母は人間によって虐待され殺された…」
「酷い…」
「そんな酷い事をしたのがお前達人間だ! だから、俺はそんな愚かな人間を力で支配する! その為に魔族や魔族側の人間の力を借りた! シュヴァルツゼーレの残党も取り込んだ!」
「でも、そんなやり方では人間は変わらない!!」
「かと言って、放っておいても人間は変わらないだろ? だったら、俺が変えてみせる、この圧倒的な力で、手始めに世界平和の要であるこのニューエデンシティを潰せば世界は震撼するだろう」

ニューエデンシティの名前を聞いたナハトは、トルトゥーガの存在を思い出した。

「ニューエデンシティ…? まさか、トルトゥーガが…!!」
「ああ、貴様の嫁であるトルトゥーガも、息子であるリヒトも、かつての仲間達もいる、今からそいつらを全員殺してやる、ゆっくり楽しむがいい、ハッハッハ!!」
(トルトゥーガ…それに知らない間に生まれていたリヒト…みんな…無事でいてくれ…俺も今、ここから脱出する…!!)

一方、フライハイト号に乗り込み、浮遊要塞に向けて飛翔したリヒト達。素早いスピードで上空へと上昇していき、少しずつ浮遊要塞に近づいて行った。敵の襲撃に会うと思われたが、特にそんな事はなく、無事に浮遊要塞へと着陸した。浮遊要塞に着陸すると、リヒト達は全員フライハイト号から降りた。浮遊要塞は荒廃した城下町の様な外観をしており、不気味な雰囲気が漂っていた。魔物やネオシュヴァルツゼーレの兵士がいるかと思われたが、大半がニューエデンシティに降下しているようであり、特にそれらしきものはいなかった。

「ここがネオシュヴァルツゼーレの本拠地か…」
「リヒト、敵が潜んでいるかもしれないから気を付けるのよ」

すると、ブルーセイバーを握り、戦闘態勢を取ったミハルがトルトゥーガに語り掛けた。

「大丈夫ですよ、リヒトくんも私達も強いですから、そう簡単にはやられませんよ」
「そうね、ミハルちゃん達が居れば安心ね」

すると、シレーヌがトルトゥーガの肩に手を置き、ちょっとした冗談を口にした。

「まあ、病み上がりのトルトゥーガよりは頼りになるわよね」
シレーヌ…あなたこの戦いが終わったら一発殴らせてね」

リヒト達はそんな話をしながら浮遊要塞の中枢と思われる中心部へと向かった。中心部は城の様な建物であり、その見た目は漆黒の城そのものであった。リヒト達が建物の中に入ろうとしたその時、中から一つ目の大柄な人型の魔物、サイクロプスが現れた。サイクロプスは一つ目の巨人であり、その体色は朱色であった。巨大な金棒を持ったサイクロプスの攻撃力は非常に高く、その腕から放たれる攻撃は巨大な岩石を一撃で叩き割る破壊力を秘めている。そのサイクロプスがリヒト達の前に合計5体出現した。

「あれは、サイクロプスね、でも、あたし達の相手じゃないはずよ」
「ルージュ、油断はしない方がいいわ、どんな力を秘めているか分からないから」
「ココさんが言うなら気を付けた方がいいみたいね」

そう言ってルージュは剣を握ったが、先手を取ったのはフェルネとエフィであった。

「とりあえず、ここは私とエフィに任せて!!」

フェルネとエフィは先手必勝とばかりに拳銃を発砲した。まずは特徴的な一つ目目掛けて放ったが、サイクロプスは素早く金棒で目を防御した。いくら知能の低いサイクロプスといえど、自身の大事な一つ目を攻撃されると直感で感じ、防御行動に移ったのだろう。一つ目が無理だと感じたフェルネとエフィは、サイクロプスの胴体を銃撃した。だが、サイクロプスの皮膚は非常に硬く、銃弾を弾いた。その防御力に、フェルネとエフィは驚愕した。

「何て硬い皮膚なの…!?」
「銃弾を弾く皮膚…こんな魔物がこの浮遊要塞には沢山いるの…!?」
「大丈夫ですよぉ! だってぇ、私達は強いんですからぁ!」

そう言ってラーナはルーンブレードに魔力の刃を生成した。ラーナは高く跳ぶと、サイクロプスの首目掛けてルーンブレードを振った。サイクロプスは金棒で防御したが、金棒ごと首を切断された。ラーナが地面に着地した瞬間、首が地面に落ち、残った体は地面に崩れ落ちた。

「ほら! 頑張れば私達でも倒せるでしょぅ?」
「…うん! そうだね! お母さん! 爆裂弾ちょうだい!!」
「ええ、分かったわ」

フェルネはシレーヌから爆裂弾を貰うと、それを拳銃に装填し、サイクロプスの顔目掛けて放った。当然、サイクロプスは金棒で防御したが、その金棒に爆裂弾が着弾、爆発を起こして金棒は砕け散った。フェルネは砕け散った金棒の破片が顔に刺さって苦しむサイクロプスの一つ目目掛けて銃弾の雨を撃ち込んだ。すると、サイクロプスは地面に崩れ落ち、動かなくなった。

仲間を2人も倒されて危機感を覚えたサイクロプスは、地面に金棒を振り下ろし、衝撃波を発生させた。だが、リヒト達は散開し、衝撃波を回避した。その直後、ルージュは旋風刃を放ち、サイクロプスを攻撃した。サイクロプスは金棒で防御したが、鋼より硬いブルーメタルで作られたルージュの剣による高速回転斬撃を前に鋼で作られた金棒は意味をなさず、金棒ごとサイクロプスの体は切断された。

一方、ミソラミハル親子はサイクロプスと交戦していた。サイクロプスは金棒を振り回し、二人を攻撃したが、二人は攻撃を軽々と回避した。そして二人は同時に雷魔法のライトニングを放ち、サイクロプスを感電させた。その直後、二人はブルーセイバーで同時にサイクロプスの体を切り裂き、サイクロプスを倒した。

残った1体はトルトゥーガリヒト親子が相手をしていた。金棒を振り回すサイクロプスの攻撃を軽々とかわすリヒトとトルトゥーガ。そのサイクロプスの金棒を、リヒトはクリスタルセイバーの一振りで切断した。武器を失って動揺するサイクロプス目掛け、トルトゥーガは飛行しながらセインスピアードを突き刺した。そして、トルトゥーガは突き刺したサイクロプスを壁に叩き付けた。壁に叩き付けられたサイクロプスはピクリとも動かなくなった。こうして、リヒト達は全てのサイクロプスを撃破したのであった。

「片付いたね、お母さん」
「そうね、今の私達にこの程度の魔物は足止め程度にしかならないって訳ね」
「でもまだ分からないわ、城の中にはもっと強力な魔物がいるかもしれないし…」
「ミソラの言う通りね、ここからは気を付けて行きましょう」
「そうだね、お母さん」

その時、リヒトはある事を感じ取った。それは、知らないのに何故か知っている存在、自分の父親であるナハトの事である。リヒトが生まれた時、ナハトは行方不明になっていた為、当然ながらリヒトはナハトの事を知らない。写真でしか見た事のないナハトの事を、リヒトは感じ取っていたのである。知らないはずなのにどこか懐かしい自分の父親の事、それを考えた瞬間、リヒトは居ても立っても居られなくなった。

「…お父さん…」
「え? ナハトがいるの?」
「うん! お父さんはこの城の中にいるよ!!」
「どこにいるか分かる?」
「僕に付いてきて!!」

そう言ってリヒトとトルトゥーガは仲間達とは別行動を取った。突然の二人の行動に、仲間達は驚きを隠せなかった。

「あっ! 二人共…!!」

二人だけでは心配だと感じたミハルは、二人の後を追った。後の仲間達もリヒト達を追おうとしたが、彼女たちの前に大型の魔物が現れた。様々な魔物の強い所を合わせた合成魔獣キマイラである。キマイラは凶悪な獣の顔と体、龍の翼と尻尾、そして鋭い龍の爪を備えた怪物であり、高い生命力と攻撃力、防御力を持つ。口から火炎を吐く事もできるが、一番の武器は鋭い爪である。この爪は鉄を軽々と引き裂く程の切れ味を持っており、一度でもこれで引っ掻かれればひとたまりもない。キマイラの誕生には旧シュヴァルツゼーレにいた科学者、Dr.バイオが関わったとされている。Dr.バイオの研究成果は全て防衛隊によって処分されたが、一部の研究成果がシュヴァルツゼーレの本部辺りに残っていたのだろうと思われる。

「厄介な相手が来たわね…」
「ルージュ、命を懸ける覚悟はできてるな?」
「嫌だけど、一応その覚悟はしておくわ、ココさん」

目的を果たす為、二手に分かれたリヒト達。リヒトとトルトゥーガ、ミハルの3名はこの浮遊要塞にいると思われるナハトの救出の為、残ったメンバーは突然現れたキマイラと戦っていた。キマイラは攻撃力が高いのはもちろんであったが、防御力も高かった。フェルネ、エフィ、シレーヌの銃撃は一切効かず、ルージュやエスカの剣攻撃もあまり効いていなかった。唯一、ラーナのルーンブレードでの攻撃はある程度剣が通っていたが、キマイラは知能も高く、ルーンブレードが危険と分かるとその攻撃を最優先で回避するようになった。一方で、キマイラ一番の武器である鋭い爪での攻撃はかすり傷でさえも致命傷になる可能性があった為、彼女たちは回避していた。だが、キマイラは長い尻尾での薙ぎ払い攻撃や口から吐く火炎攻撃で徐々に彼女たちを追い詰めていった。

「くっ…! あたし達の武器じゃあいつに有効打を与える事はできないわ!!」
「私のルーンブレードは当たらないようですしぃ…どうしましょう…」
「ルージュ、私は諦めると言う事は教えたつもりはないぞ」
「私だって、娘であるあなたに諦めると言う事は教えたつもりはないわよ?」

「分かってる、分かってるわよ、ココさん、でも、あいつは強い…! 悔しいけど、それは認めるしかないわね…」
「私も、諦めたくはないですよぉ…キマイラを倒す手段はどこかにありますぅ…それを探さないとぉ、勝てないかもですねぇ…」
「ったく! リヒト、さっさと帰って来てこいつを倒す手伝いをしなさいよね!」

一方のリヒト、トルトゥーガ、ミハルの3名は浮遊要塞内部を進んでいた。進むべき場所はリヒトとトルトゥーガが感じ取っている為、ミハルは2人に合わせて進むだけであった。浮遊要塞城の内部は17世紀の城の様な造りになっており、リヒト達は時折ゴブリンやコボルド、スケルトンと言った魔物に襲われたが、今の彼らの敵ではなく、軽く蹴散らし先へ進んで行った。リヒト達が到着した場所は、一つの大広間であった。そこの天井には水色のキューブみたいなものがぶら下がっており、それが何なのか確認する為、よく目を凝らすと、中にはナハトとデロリアがいた。

「ナハト…! それに、デロリア…!」
「あれが…僕のお父さん…? それに、デロリアさんと言えば…」
「お母さんから聞いた事があるわ、17年前にシュヴァルツゼーレを率いて旧エデンシティや世界を震撼させた人ね」
「でも、あそこにデロリアがいるって事は、分かり合えたのね、ナハト…」

すると、天井に立体映像が映し出された。そこには、以前リヒトが戦った人物、ヴァンレルが映っていた。

「よくここまで来たな、リヒト・ザラーム」
「君は…ヴァンレル! 何でここに!?」
「何でかって? それは俺がネオシュヴァルツゼーレのリーダーだからだ」
「君が…ネオシュヴァルツゼーレの…! 何でこんな酷い事をするんだよ! 今すぐこんな事はやめるんだ!!」
「やめる訳ねーだろ、こんな腐った世界、一度壊滅させて作り直すべきだ、だから俺はネオシュヴァルツゼーレを率いてこの世界に革命を起こそうとしているんじゃないか」

トルトゥーガはヴァンレルに対し、疑問に思っていた事を問うた。

「ナハトとデロリアをあそこに閉じ込めた理由は何?」
「ただ単に邪魔だからだよ、だから17年間時の檻に閉じ込めた、まあ、彼等からすれば1日間あそこで眠っていただけなんだがね」

ヴァンレルのその言葉に、リヒト達は怒りを覚えていた、だが、ひょっとしたら他にも理由があるかもしれない、そう思ったリヒトは、ヴァンレルにその事を聞いた。

「君は…本当に世界を革命させる為だけにこんな事をしたの? 多くの人を死なせたの?」
「そうだ、この世界には争いや差別を続ける人間が未だに多くいる、そう言った愚かな人間を変える為には恐怖を与え、変えるしかないと思ったんだ」
「おかしい…! おかしいよこんな事!! みんな一生懸命生きてるのに…! そんな人達が死んじゃってもいいの? 傷ついてもいいの? 僕はやだよ、誰にも死んでほしくないよ!!」
「確かにそう言った人物は未だに多くいるわ、でも! 全員がそんな人ばかりじゃない!!」
「あなたがしている事は独裁! そんなやり方では、人は変わらない!!」

リヒト、トルトゥーガ、ミハルは怒りの言葉をヴァンレルに言い放った、だが、ヴァンレルはほとんど聞く耳を持っていなかった。

「ああ、そうかよ、だったら、そこにいるナハトを助けてみろ、言っとくが、この時の檻は簡単には壊れないぞ?」
「分かったよ、母さん! 力を貸して!!」
「ええ、分かったわ!」

トルトゥーガはリヒトを掴んで飛翔した。そして、リヒトは時の檻に近づくと、時の檻を四角の形に斬った。簡単に壊れるはずのない時の檻ではあったが、リヒトの装備したクリスタルセイバーは魔力を切り裂く力を持っている為、魔力で作られた時の檻を簡単に切り裂くことが出来た。時の檻が壊れ、解放されたナハトとデロリアはそこから落下したが、寸前の所でナハトがケイオスブラスターから風の魔力を撃ち出した事で風がクッションとなり、無事に着地できた。

(あの剣…やはりあの女の…! くっ…、なぜあの女が、あんな人間に力を貸したんだ…!!)

そう言ってヴァンレルは立体映像を消した。その後、ナハトは着地したトルトゥーガに対し、愚痴を言った。

「ったく、もうちょっとで俺とデロリアが死ぬところだったぞ、もうちょっと安全に着地させろよ…」
「あなたなら大丈夫だと思ってね」
「そうかいそうかい…」

「父さん…」
「お前が…リヒトか…その髪の色…その目の色…確かに俺とトルトゥーガの子だな…」
「会いたかった…僕…ずっと…父さんに…!!」

リヒトは生まれて初めて会った自分の父の胸の中で涙を流した。生まれた時からずっと会った事のなかった自分の父、その父とようやく再開できた。それが、リヒトにとって一番の喜びであった。

「で、ナハト、デロリアとは和解できたの?」
「ああ、彼女はもうシュヴァルツゼーレのリーダーではない、ただの女性だ」
「そう言う事です、私のした事は決して許される事ではない、でも、今はせめて、償いだけでもさせてください…」
「なら、私が今作った武器、セインセイバードをあげるから、これであいつと戦って」

セインセイバードは白銀色の美しい剣で、各部は白鳥の羽根の様な装飾がなされ、刃先は宝石のように輝いていた。武器とは思えない美しさを持ったその剣は、トルトゥーガのセインスピアード同様、装飾品のようにも思えた。

「分かりました、この剣を使い、あの日から始まった宿命に決着を付けます」
「じゃあ、みんなの所に戻ろう!」

リヒトはナハト達と共に仲間の所へ急いだ。その仲間達はキマイラの攻撃でかなりのダメージを負っており、あと一歩のところまで追い込まれていた。そして、キマイラがトドメを刺そうとした瞬間、リヒトがクリスタルリッパーを、ナハトがライトニングアローを同時に放ち、キマイラを一撃で爆散させた。その様子に、リヒトの仲間達は驚いていた。

「みんな! 間に合ってよかった…」
「もう! 遅いわよ! リヒト! …心配したのよ」
「ごめん、ルージュ、みんな、でも、お父さんとデロリアさんは助けられたよ」

「よう、シレーヌエスカ、ミソラ、ココ、無事か?」
「ナハト! あんたやっぱり無事だったのね!」
「ナハトってば、ほとんどあの時のまま…!」
「懐かしいわね…あれから17年だものね」
「こっちはあれから色々あったのよ」

かつての仲間達との再会を果たしたナハトだったが、ナハトは17年前とあまり変わってない彼女たちに対し、違和感を感じていた。

「でも、お前ら、何だ、あの時から髪型とか服装以外あんま変わってないな」
「あんたに老けたなとか言われるのが嫌で努力したのよ!! でもあんた、あんま変わってないわね…」

シレーヌのその言葉に対し、ナハトは女性とは大変なものだなと感じた。

「まあ、時の檻に閉じ込められてあれから1日しか経ってないからな」
「所謂コールドスリープって奴ね、羨ましいな~」

エスカのその言葉は恐らく若さを保てて嬉しいと言う事なのだろうが、正直あまり嬉しくないとナハトは感じたが、色々面倒になりそうだからと黙っておいた。一方、ナハトは見た事のない少女達に興味が移っていた。

「それより、この若い女の子達は誰だ?」
「僕の友達で、シレーヌさんやエスカさん達の子供やその関係者だよ」
「そうか…17年経ったんだから、シレーヌ達に子供ができて、その子供もお前ぐらいになっててもおかしくないもんな」
「うん! で、僕達の倒すべき相手も見つかったんだ、みんなで倒しに行こう!」
「ああ、俺達が倒す相手、それは、あのヴァンレルって奴だ!!」

父親であるナハトとナハトの元カノであるデロリアを救出したリヒト。リヒトはナハトと協力し、全ての元凶であるヴァンレルを倒す決意をした。リヒトとナハトはヴァンレルを倒し、宿命の戦いを終わらせる為に、浮遊要塞の内部を進み、ヴァンレルがいると思われる城の頂上へと向かっていた。階段は何段もあり、先が見えずにいたが、リヒト達はただひたすらに進んだ。すると、リヒト達は大広間へと到着した。そこにヴァンレルはいなかったが、代わりにアンデッド系のモンスター1体が立っていた。

「貴様、一体何者だ?」
「俺の名はリッチ、世界最強のアンデッドモンスターと言えば話は早いかな?」

ナハトの問いにリッチと名乗ったモンスターはガイコツの見た目に黒いローブを身に纏ったモンスターで、赤い宝玉のはめられた杖を持っていた。リッチは魔法などの手段を使い、アンデッドとなった強大な魔法使いであり、その多くは長い年月を生きた知識を兼ね備えている。ちなみに、この世界では過去にも幾度かリッチの出現が確認されている。

「リッチと言ったね、僕達はヴァンレルを倒す事だけが目的なんだ、君とは会話ができるんだし、できれば戦いたくないな」
「残念だったな、俺はヴァンレル様に貴様らを殺せと命令を受けているんだ、だから、貴様らには死んでもらう!!」
「やはり戦うしかないのか…!!」

リッチとの戦いは避けられないと悟ったリヒトとその仲間達は戦闘態勢を取った、すると、リッチは素早くエクスプロージョンの魔法を詠唱した。だが、そのエクスプロージョンの魔法は20個ほどに分裂し、一斉にリヒト達を襲った。エクスプロージョンの魔法の群れはリヒト達の近くに着弾し、連鎖爆発を引き起こした。幸い、リヒト達の回避は間に合った為、大きな被害は出なかったが、リッチは続けてアイシクルアローの魔法を詠唱した。そして、そのアイシクルアローの氷柱は約30個ほどに分裂し、一斉にリヒト達を襲った。

「嘘でしょ!?」

あまりの数にミハルは驚愕したが、臆することなく、剣で氷柱を破壊した。他のメンバーも同じで、フェルネ、エフィ、シレーヌの3名は銃撃で氷柱を破壊。トルトゥーガは魔導障壁で防御、ナハトはケイオスブラスターで迎撃、リヒト達剣使いは剣で氷柱を破壊していた。だが、その努力も空しくリッチはアイシクルアローを50個に分裂させて再び放ってきた。

「あいつ…!! 今度は倍近くに増やして俺達を攻撃してきた!!」
「父さん、このままじゃやばいよ!!」
「くっ…! トルトゥーガ! しばらく俺達を守ってくれ!!」
「分かったわ! 任せて!!」

ナハト、リヒト親子の前にトルトゥーガが立ち、魔導障壁で防御してナハトとリヒトは作戦会議を始めた。その作戦会議にはフェルネ、エフィの2人も参加しており、一緒にリッチを倒す手段を考えていた。

「父さん、あいつを倒す方法ってあるの?」
「守ったら負ける、ここは攻めるしかない」

ナハトのその言葉に、トルトゥーガは無茶だと感じた。それももっともである。リッチの魔法の物量はとんでもなく、下手な部隊程度なら簡単に壊滅させる程の物量だからだ。

「でも、あいつの攻撃の物量が半端なさ過ぎて攻められないわよ」
「そうですよ、攻められるならみんなで袋叩きにしてますよ」

トルトゥーガとフェルネのその言葉に、ナハトは自身の考えた作戦を伝えた。

「何、別に全員で攻めなくてもいい、攻めるのは俺達4人だけでいいんだ」
「父さん、それってどう言う事?」
「俺達4人で攻める、他は俺達の援護、そう言う事だ」

リッチを攻めるのは少数のメンバー、残りはリッチの魔法の迎撃、または少数メンバーの防衛をする事でリッチを倒そうとナハトは考えた。その作戦に、トルトゥーガは賛同した。

「なるほど! そうすればあいつを倒せなくとも一撃は浴びせられるって訳ね!!」
「一撃を浴びせる? 倒すんだよ」

その後、作戦会議を済ませたナハト達4人と作戦を聞いていたトルトゥーガはリッチのいる方へ飛び出した。案の定、リッチは無数のアイシクルアローを飛ばしてきたが、トルトゥーガの魔導障壁やフェルネ、エフィの銃撃で全て破壊。他の方角に飛んだアイシクルアローも他のメンバーによって全て破壊された。

「このままではまずい…!!」

まさかアイシクルアローを全て迎撃されると思ってなかったリッチは慌ててアイシクルアローの魔法の詠唱を始めた。だが、詠唱が終わる前にフェルネとエフィは自身の持つ拳銃にシレーヌ特性の特殊弾頭を装填し、撃ち出した。発射した特殊弾頭3発は全てリッチに命中し、リッチの体を凍結させ、動きを封じた。

「な…何じゃこりゃぁぁぁ!?」
「私のお母さん特性の冷凍弾よ」
「命中した物を一瞬で氷漬けにする効果を持っています」
「それが合計3発、あなたはもう動けないんじゃない?」
「くそっ…! 動けぬ!!」
「なら、解凍させてやるよ、フレイムバレット!!」

ナハトはケイオスブラスターに炎の魔力を収束させ、それを撃ち出した。撃ち出された炎の弾丸は氷漬けになったリッチに命中し、大爆発を起こした。爆風に巻き込まれてもなお生きているリッチを、リヒトは装備したクリスタルセイバーで一刀両断にした。

「お…おのれぇ…! ヴァンレル様…俺の仇を必ず、討ってくださ…!!」

クリスタルセイバーで一刀両断にされたリッチの体は灰となって崩れ去った。リッチは強敵ではあったが、ナハトの利かせた機転によって無事、倒されたのであった。

「さて…何とかあの骨野郎を倒したな、先へ進むか…」
「そうだね、父さん」

ヴァンレルのいる場所を目指し、先に進むリヒト達。リヒト達はただひたすらに階段を駆け上り、ヴァンレルのいる場所を目指した。すると、リヒト達はまた大広間に到着した。その大広間には、体長約8mほどのドラゴンがおり、リヒト達を見下ろしていた。

「ド…ドラゴンだぁ!!」
「大丈夫だよ、ミハルちゃん、今の僕達にはドラゴンなんて敵じゃないよ!」
「いや、それはどうかな?」
「どういう事? 父さん?」
「ドラゴンの体表、特に鱗は硬くてな、まあ、物は試しだ、フェルネ、あいつを撃ってみろ」

フェルネが二丁拳銃でドラゴンを狙い撃つと、その銃弾が全て弾かれてしまった。ナハトの言う通り、ドラゴンの体表は非常に硬く、旧時代ではドラゴンの鱗は防具の素材にされていたと言う。しかもドラゴンの鱗は魔法にも強く、並大抵の攻撃では致命傷はおろか、ダメージを与える事すらできない。

「と、まあ、ドラゴンの皮や鱗は非常に硬いと言う訳だ、魔法もロクに効かんし、ミスリル製の武器でようやくまともにダメージを与える事ができるぐらいだ」
「なら、ここは僕のクリスタルセイバーや父さん母さんデロリアさんの武器、ルージュちゃんの武器の出番だね!」
「分かったわ! 任せて!」
「うん…私、絶対役に立つね」
「仕方ないわね…この戦いが終わったら、何か食べ物奢りなさいよ!」
「うん! ルージュちゃんの好きなもの奢るね!」

そう言って、リヒト、ナハト、トルトゥーガ、デロリア、ルージュの5名が攻撃を仕掛けた。リヒトの持つクリスタルセイバーは水晶の様な素材でできているが、材質は不明である。それでも、ミスリル以上の硬度を誇っている為、ドラゴンの鱗にダメージを与えることが出来るのだ。ナハトの持つシャドウエッジとケイオスブラスターはミスリル製、トルトゥーガのセインスピアードとデロリアのセインセイバードは聖なる金属で作られており、ミスリルに匹敵する硬度を持っている。そして、ルージュの持つブルーメタルの剣はミスリル以上の硬度を誇る伝説の金属、ブルーメタルで作られている。この5名の武器が、ミスリル以上の硬度を誇る武器なのである。

一方、ミソラミハル親子の持つブルーセイバーやエスカのマジックソードは魔法鉱石で作られており、硬度は銀と同程度、銃は先ほどの様に効果がない。ラーナの持つルーンブレードは一見効果がありそうだが、相手は魔法に耐性のあるドラゴンなので、仮に効いたとしてもミスリル製の武器で斬った方が早い。その為、リヒト達は望んで攻撃を仕掛けたのである。

そのリヒト達はドラゴンに一斉攻撃を仕掛けていた。リヒトがクリスタルセイバーでドラゴンの身体を切り裂き、ナハトがドラゴンの背中に乗り、シャドウエッジを突き刺した。トルトゥーガはナハトが付けた傷口にセインスピアードを突き刺し、デロリアも同じ様にリヒトの付けた傷口を斬りつけていた。そして、ルージュは旋風刃を放ち、ドラゴンに大きなダメージを与えていた。しかし、ドラゴンは一向に倒れる気配を見せず、むしろ痛みを感じ、暴れていた。身体をのたうち回し、尻尾を振り回し、口からは火球のブレスを吐き、各所を破壊し尽くしていた。その様はまさに破壊神と言う言葉が似合っていた。意外な展開となった事で、ルージュはナハトにこの状況について説明してもらう事にした。

「ちょっと! ナハトさん、何か暴れまわってるんだけど?」
「これは少し計算外だったな、ドラゴンの生命力を舐めていた…」
「どうするの…? ナハト…」

デロリアのその言葉に、ナハトは少し考えた。自身の今までの旅や戦いの経験で、この状況に対する対応策はおのずと出てくる為、ナハトはすぐに答えを出した。

「そうだな…トルトゥーガ! 俺とリヒトの前に魔導障壁を張ってくれ!」
「うん! 分かった!!」
「あたしとデロリアさんは?」
「ルージュとデロリアの二人はドラゴンの目を潰してくれ!」
「うん…ナハトがそう言うなら、頑張るね…」
「ったく! リヒト! あたしに奢るものは奮発してよね!」
「うん…僕のお小遣いで払えるものなら…」

その後、デロリアとルージュはドラゴンの方に向かって行き、二人は真っ先にドラゴンの両目を潰した。当然、ドラゴンは目を潰された痛みと暗闇の恐怖で暴れまわった。その間に、ナハトはケイオスブラスターに雷の魔力を収束、リヒトはクリスタルセイバーに光の魔力を収束させていた。そして、トルトゥーガはいつ攻撃が来てもいいように魔導障壁で二人を守っており、他のメンバーはナハト達に攻撃が行かないように銃撃などで気を引き付けていた。

「父さん、魔法攻撃はあいつに効かないんじゃないの?」
「あれだけ傷を付けたんだ、ある程度は効くはずだ、それに、俺が放つ攻撃はちょっと特殊でな…威力がありすぎて未だに放った事がない技なんだ…」

そう話している内に二人の魔力の収束が完了した。それと同時にドラゴンがナハト達の方に向かって来た。

「今だ! トルトゥーガ! 離れろ!!」

ナハトの声を聞き、トルトゥーガは後方に跳んだ。その直後、リヒトはX字を描くようにクリスタルセイバーを放った。放たれた二つのクリスタルリッパーはドラゴンの胸部にX字の傷を与えた。リヒトは頭の中でこの技の名前はクロッシングクリスタルリッパーにしようと思った。そして、ナハトはケイオスブラスターの銃口をドラゴンに向けた。

「こいつで砕け散ってしまえ! ライトニングレールガン!!」

ナハトが放った電撃の弾丸は凄まじい速度で飛んで行き、ドラゴンの胸部に直撃、そのままドラゴンを城の外まで吹き飛ばし、体を貫いた。その直後、ドラゴンは爆発四散し、文字通り砕け散ってしまった。

「凄い威力だ…父さん、今の技は?」
「ライトニングレールガン、雷の魔力を目に見えない程の速度で撃ち出す技だ」
「そんな強い技、何で今まで使わなかったの?」
「単純に威力がありすぎるからだ、周りに被害が出る可能性があったし、下手をすればケイオスブラスター自体が砕け散ってしまう可能性もある」
「だから…ナハトくんはシュヴァルツゼーレの戦いや私との直接対決でも封印して、今の今まで使わなかったんだね…」
「そうだ、この技自体は17年前のシュヴァルツゼーレとの戦いで、特訓の最中、かなり初期の段階で身につけた技なんだが…まあ、人間相手に使ったらあれだからずっと封印していたんだ」
「でも、僕達が今戦ってる相手は人間じゃなく魔族だから使う、そうだよね? 父さん」
「ああ…まあ、ケイオスブラスターに負担がかからない程度でなら使えるがな」
「頼りにしてるよ、父さん」

その後、リヒト達は階段のある方へと向かって行った。この先にヴァンレルがいるかもしれない、そう思うと身震いしたが、人々の平和の為、戦うしかないと感じた。

(ヴァンレル…君がどんなに強くても、僕達は絶対に負けない…! 君と決着を付けて、必ず平和を勝ち取ってみせる…!!)

リヒトはそう思いながら階段を上って行った。全てはネオシュヴァルツゼーレとの決着を付け、17年の因縁を終わらせ、平和を勝ち取る為…。そして、家族や仲間達と共に生きて帰り、平和な世界で暮らす為…。数多くの難関を突破し、長い階段を上り、リヒト達は遂にヴァンレルと対峙した。ヴァンレルは玉座に座っており、リヒト達が来てもなお余裕を持った様子であった。リヒト達が来た事を確認すると、まるでリヒト達を待っていたかの様に玉座から降り、リヒト達の方へ向かって来た。

「待っていたぞ、リヒトとその仲間達、お前達がここに来たと言う事は、俺を殺すつもりなんだな?」
「君がこんな事をやめてくれるなら、命を奪うつもりはない! だからヴァンレル! 今すぐこんな事はやめるんだ!!」
「やめてどうなる? この腐りきった世界が変わる保証でもあるのか?」
「世界を変える方法なんていくらでもある! 力で変えなくても! 君のやり方は間違ってるんだよ!!」
「じゃあ、何で未だに争いは、差別は、貧困は無くならない!?」
「それは…」

ヴァンレルは自身の魔力を使い、玉座の真上の壁に映像を投影した。その映像は、紀元前が終わり、聖歴と言う新たな時代が始まってからの人類と魔族の争いや、人類同士の争い等、様々な映像が映し出されていた。ヴァンレルは恐らく、何かしらの古魔法を使い、このような過去の出来事を映像として映し出しているのだろう。その映像を見たリヒト達は、過去の争いの激しさを目の当たりにして、自分達がいかに平和な時代に生きているのかと感じていた。過去の人間たちは今よりもずっと理不尽な理由で死んでいった、その事実を今、認識したのであった。

「これがこの世界で起こった主な争いだ、これだけ多くの争いを乗り越え、多くの命を落としてもなお、人類は一つになれていない、そのせいで俺の家族も死んだんだ」
「ヴァンレルの家族も…?」
「ああ、俺が人間と魔族のハーフと言うだけで俺の家族は人間共に殺された、生き残った俺は一人で必死に生き延びた、泥をすすってまでもだ!!」

ヴァンレルはある意味リヒトの影のような存在なのであろう。人間と光精霊のハーフで幸せな人生を過ごしたリヒトと人間と魔族のハーフと言うだけで悲惨な目に合ったヴァンレル。同じハーフと言うだけで何故ここまでの差があるのだろうか、人類が愚かなせいなのか。これがヴァンレルが世界を力で変えようとする理由なのだと知ると、リヒトは何とも言えなかった。

「人類の歴史は2000年以上の歴史を持っている、それでもなお争いや差別をやめない人類を変えるにはもう、力しかないんだ!!」
「それは違う! そんなやり方では、人間は変わらない!! また第二第三の君の様な存在が生まれるだけだ!!」
「そう言った存在は鎮圧すればいいだけの話だ!!」
「そんなのただの、独裁じゃないか!!」
「黙れ! お前の仲間にも、この世界が愚かなせいで人生を狂わされた人間がいるだろう! ナハト! そしてデロリア! お前達二人は愚かな人間のせいで人生を狂わされた! そして、デロリアはシュヴァルツゼーレを率いて世界を革命しようとした! 人間が変わらない限り、このような争いは繰り返される! リヒト! お前は何が正しいと思う!?」
「…分からない…何が正しいかなんて僕にはわからない…でも! お前のやり方は間違っている! それだけは正しいと思う!!」
「…結局分かってはくれないか…なら、俺はお前達を殺す」

そう言ってヴァンレルは宝石で飾られたオリハルコンの剣を鞘から抜いた。そしてその剣の矛先をリヒト達に向けた。

「お前達の中で一番厄介なのは、リヒト! お前と同化している女だ」
「クリスちゃんの事…? 君はクリスちゃんの正体を知っているの?」
「ああ、クリスは人類の長い争いの歴史の中で戦って来た者達の正義の心、そして平和を願う人々の想いが一つになり、具現化した存在だ」
「そうだったんだ…」
「そして、その力は世界を平和にする可能性を秘めた者だけに与えられると言う…人間と光精霊のハーフであるリヒト! お前だ!!」

そう言ってヴァンレルは一瞬でリヒトに接近し、剣を振り下ろした。だが、リヒトは寸前の所でクリスタルセイバーで受け止めた。

「リヒト…お前はいいよな? 仲間や力に恵まれて…俺はそんな君が憎くて仕方ない…家族以外の誰からも愛されなかった俺からすればな!!」

リヒトを殺そうとするヴァンレルを止める為、フェルネ、エフィ、シレーヌの三人は銃を発砲した。だが、ヴァンレルは左手で風の防御膜を発生させる魔法、サイクロンストームを放った。放たれた銃弾は風に巻き込まれ、そのまま三人の方へと飛んで行った。そして、その銃弾は三人の腕や足に命中し、三人は痛みのあまり地面に倒れ込んだ。

「フェルネちゃん! エフィちゃん! シレーヌさん!!」
「ほらほら! よそ見している場合か!?」

ヴァンレルは連続でオリハルコンの剣を振り、少しずつリヒトを追い詰めた。リヒトは反撃に出ようとしたが、その素早い剣さばきを前に手も足も出なかった。そんなリヒトを助ける為、ラーナとエスカが剣を取った。

「リヒトさぁん! すぐ助けますぅ!!」

ラーナはルーンブレードを最大まで伸ばし、奥義のルーンエッジを放った。だが、そのルーンエッジはオリハルコンの剣に受け止められ、ヴァンレルはラーナにトルネードの魔法を至近距離で放った。ラーナは大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。ヴァンレルの攻撃の隙を狙ってエスカはマジックソードに風の魔力を纏って斬りつけるウインドブレイカーの技を放った。だが、ヴァンレルはオリハルコンの剣で軽く切り払い、エスカにサイクロンの魔法を至近距離で放った。エスカはラーナと同じ様に大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかり、そのまま倒れ込んだ。

「ラーナちゃん! エスカさん!!」
「やれやれ…どいつもこいつも弱すぎる」

邪魔者を片付けたヴァンレルは再びリヒトを攻撃した。この状況を変える為、ココとルージュは作戦を立てていた。

「ルージュ、私が隙を作る、その隙にお前は未完成のあの技を放て、いいな?」
「えっ? でもあの技はまだ成功した事がないわ」
「その技じゃないと、奴は倒せない、ぶっつけ本番だ、いいな?」
「…分かりました、絶対に成功させるわ」

そう言うと、ココはヴァンレルに剣を振り下ろした。ヴァンレルはその攻撃を回避し、ココの腹部に剣を突き刺した。

「ぐっ…!!」
「ココさん!!」
「いい加減邪魔だよ、弱いんだから邪魔すんなよ」
「ふっ…ルージュ! やれ!!」
(ココさんが命を懸けたんだ、ここで成功させなきゃ、あたし、格好悪いじゃない!!)

ルージュは旋風刃の構えを取り、コマの様に高速回転した。だが、その回転力は通常の旋風刃の3、4倍以上になっており、目にも止まらぬスピードで高速回転していた。この技はルージュが100回以上挑戦して一度も成功しなかった幻の技、多重旋風刃である。そして、そのままヴァンレルの周りを回転し、ヴァンレルを攻撃していたが、ヴァンレルはギリギリその攻撃を防いでいた。

(この男…私の多重旋風刃に対応している…!? でもね、こっちだって必死なのよ!!)

ルージュは更に回転数を上げた。そして、そのスピードのまま一気にヴァンレルの背後に回り込み、剣を突き刺した。それと同時にヴァンレルもルージュに剣を突き刺した。結果、ルージュの剣はヴァンレルの心臓を貫いており、ヴァンレルの剣はルージュの左肩を貫いていた。二人は同時に地面に仰向けに倒れた。

「ハァ…ハァ…どうよ、これがあたしの本気よ…」
「お疲れ、ルージュちゃん、ありがとう、ココさん…お母さん! 早く治癒魔法を!!」
「はいはい、まずはココから回復させるわね」
「早くして頂戴よ、あたし、痛いの苦手なんだから…」

ネオシュヴァルツゼーレのリーダーであるヴァンレルは倒れ、世界に平和が訪れた。そう思った矢先、ヴァンレルの遺体に影の様なものが集まっていた。

「ねえ、お母さん、あれ、何…?」
「…何が起こってるの…?」
「嘘でしょ…ヴァンレルは確かに死んだはずよ…だってあたし、確かに心臓を…」

ルージュの渾身の多重旋風刃の一撃を受け、戦死したヴァンレル。ネオシュヴァルツゼーレのリーダーを倒した事で戦いが終わったと感じ、安堵するリヒト達。しかし、まだ戦いは完全に終わっていなかった。ヴァンレルの死体は赤黒いオーラに包まれ、その姿を変貌させていき、ヴァンレルは赤黒いオーラに包まれたままその体を巨大化させていった。その直後、大きなエネルギー爆発が発生した。爆発が収まった後、そこにあったのはカニとクモが合わさったような姿の怪物であった。

「あれがあの野郎の奥の手か…自分の体を変貌させるとは、悪趣味な野郎だ…」
「俺はまだ終わってない…古の呪文から入手した過去の邪神や魔王の残留思念…これを使って、俺は神に近い力を手に入れた…これで俺はこの世界を革命させる…!!」
「ヴァンレル!! 君はそこまでしてこの世界を革命させるつもりなのか!?」
「もちろんだ! こんな腐りきった世界、一度灰にしてから作り直した方がいいと感じたんだ!! だから、手始めにお前達を地獄に送ってやる!!」

そう言ってヴァンレルは体に生えているカニのような前足を伸ばし、ミソラを薙ぎ払った。ミソラは壁に強く衝突し、気を失った。

「お母さん!!」
「ミハルちゃん、今はあいつの攻撃に専念して!!」

トルトゥーガのその言葉ですぐさまヴァンレルの攻撃に専念したミハル。しかし、ヴァンレルは続けて前足や後ろ足を伸ばしてリヒト、ナハト、ミハル、トルトゥーガ、デロリアの5人を攻撃した。リヒト達はそれぞれ剣で攻撃を切り落とし、ナハトはシャドウエッジやケイオスブラスターで迎撃していた。だが、ヴァンレルの足は切り落とそうが破壊しようが無尽蔵に生えてきていた。

「ハハハハハ!! 俺は神だ!! この力は神の力なんだ!!」
「あの野郎…! 完全に狂ってやがる!!」
「ヴァンレル! その力は神の力じゃない!! 悪魔の力だよ!!」
「そんな事知った事か!! この世界を灰にできるなら、俺は…!!」

ナハトとリヒトはもう既にヴァンレルは人である事を捨てていると感じた。既に人の心を失ったヴァンレルに対し、ミハルとトルトゥーガは哀れみを感じていた。

「ヴァンレルさん! 本当にこんなやり方で世界が変わると思ってるの!?」
「この世界で必死に生きているのはあなただけじゃない! みんなが必死に生きているの!! それを壊すなんて、私達は許さない!!」
「うるさい! うるさいうるさい!! 俺はこの神の力で、世界を革命させるんだぁぁぁッ!!」

かつて世界を変えようとして変えられなかったデロリアもまた、ヴァンレルに対し、哀れみを感じており、彼女はヴァンレルに17年前の戦いで自身が感じた事を伝えた。

「ヴァンレル…! 人間は神にもなれないの…、かと言って悪魔にもなれない…、どんなに頑張っても、人は人なのよ…!!」
「黙れ…!! 黙れ黙れ黙れぇぇぇッ!!!」

ヴァンレルは体からカニのハサミのような物を生やした。そして、そのハサミを開き、そこから強力なエネルギーを放ち、リヒト達を攻撃した。

「危ないッ!!」

トルトゥーガは魔導障壁を全開にし、リヒト達を守った。危うく魔導障壁を貫かれそうにはなったものの、何とか守り切った。だが、ヴァンレルは既に二発目の準備を整えていた。このままでは負けてしまう、リヒトがそう思った瞬間、クリスの声が頭の中に響いてきた。そのクリスの声は、仲間全員に届いていた。

「皆さん、リヒトくんに皆さんの力を与えてください!」
「クリスちゃん! みんなの力が僕に集めた後は、どうすればいいの?」
「いつも通りクリスタルリッパーを放って、それなら何とか勝てるはずです!!」
「分かったよ!!」

クリスの言葉を聞いた仲間達は、リヒト向けて手を伸ばし、魔力を与えた。リヒトは仲間の魔力を貰うのに専念し、ナハト、トルトゥーガ、デロリア、ミハルの4人は魔力を与えながらヴァンレルの足を相手していた。絶対にリヒトを守る、その一心で4人は戦っていたのである。そして、ヴァンレルのエネルギーチャージより先に、リヒトに魔力が集まった。

「集まった! 行くよ! クリスタルリッパースペシャル!!」

リヒトは剣を振って特大のクリスタルリッパーを放った。クリスタルリッパースペシャルと名付けられたこの技は、クリスタルリッパーの実に10倍の威力を誇っている。ヴァンレル目掛けて一直線に飛んで行ったクリスタルリッパースペシャルに対し、ヴァンレルは強力なエネルギーを放って迎撃した。しかし、クリスタルリッパースペシャルはそのエネルギーを容易く切り裂き、そのままヴァンレルの胴体を一刀両断にした。胴体を一刀両断にされたヴァンレルはそのまま地面に倒れ込んだ。

「馬鹿…な…俺は…神…に…なった…んだ…こんな…はず…は………」
「ヴァンレル、君は神でも、悪魔でもないよ、革命のやり方を間違えた、ただの人間さ」

直後、ヴァンレルの体は灰となり崩れ去った。これで本当に戦いは終わった、そう思った矢先、灰の中から分離した赤黒いオーラが一か所に集まり始めた。

「おいおい…まだ現れるってのか…?」
「ナハト、ここまで来たら最後まで警戒は解かないでおきましょう」

赤黒いオーラはそのまま人の姿を形どった。実体を持たない煙のような存在であったが、その状態でも強大な力を感じさせた。

「あの小僧は結局使えなかったか…まあいい、貴様達の相手は、我がする…」

ヴァンレルの灰から分離したのは、赤黒い霧のような姿の謎の存在であった。その存在は実態を持ってないにも関わらず、圧倒的な威圧感を持っていた。対峙するだけで感じるその強大さ、リヒト達はその存在に対し、身震いしていた。

「お前は、一体何者だ?」
「我は今まで人間共に滅ぼされた邪神や魔王の残留思念、そうだな、今はダークミストとでも名乗っておこうか…」
「まさかとは言わんが、貴様があのヴァンレルを操っていたのか?」
「ああ、奴は人間に対する憎しみの余り、禁断の古呪文を使い、我を復活させた、そして、我は奴と契約したのだ」

ナハトは自身が今まで旅をした中で、今まで人間に倒された邪神や魔王の伝説を聞いていた。どれも強大な力を持っていたが、最後は勇敢な人間に滅ぼされたと言う。それらの残留思念と今、対峙してるとなると、少しだけだが恐怖を感じていた。

「じゃあ、ヴァンレルはずっと君に操られていたのか?」
「いや、我は奴と契約し、力を貸していたに過ぎん、だが、奴が目的を達成させた時に我はすかさず奴の体を支配するつもりでいたのだ」

リヒトは思った、仮にヴァンレルが自分達に勝ったとしても、どの道ヴァンレルはこのダークミストに支配され、思うがままに操られたのだろうと。すると、今度はトルトゥーガがダークミストに質問をした。

「じゃあ、あのヴァンレルって子は、ずっとあなたに裏で操られていたって言うの?」
「そうだ、そして、我の真の目的は、人間を根絶やしにし、この世界を闇の世界に作り変える事だ!!」

リヒトはダークミストに対して怒りを覚えた。いや、この場にいる全員がダークミストのその凶悪さに怒りを覚えたであろう。こいつのせいで多くの人間の人生が狂わされたと思うと、怒りが込み上げてきた。

「ふざけるな! ヴァンレルはヴァンレルなりに世界の平和を願っていた! なのにお前はただ人を殺す事しか考えてない! 辛い思いをしたヴァンレルを利用して…!! 僕は、お前を絶対に許さない!!」
「よく言った、リヒト、奴は俺とデロリアを17年間もあんな狭い所に閉じ込めた元凶だ、奴は必ずこの手で叩き潰す!!」
「できるかな? 貴様らに」

ダークミストは体中から濃い紫色の毒霧を放出した。その毒霧は少しずつリヒト達に向かって来ていた。だが、リヒトはクリスタルセイバーを掲げ、眩い光を発生させた。すると、その毒霧はきれいさっぱり消え去った。

「なるほど、これが噂に聞いたクリスの力か、なら、これはどうだ!?」

ダークミストは辺りを一瞬暗くすると、リヒト達の周りに高重力を発生させた。その途端、リヒト達は立つことが出来ず、地面に膝を付いた。続けてダークミストは再び毒霧を発生させ、リヒト達を毒殺しようとした。

「これが…ダークミストの力なの…」
「リヒトくん!!」
「大丈夫、任せてよミハルちゃん」

リヒトは腕に力を込め、何とかクリスタルセイバーを持ち上げて掲げると、再び眩い光を発生させた。その光は毒霧を消滅させると同時に、重力を元の状態に戻した。クリスタルセイバーから発生する光のあまりの万能さに、ダークミストもかなり驚いていた。

「ほう…その光はかなり万能なのだな」
「今度はこっちから行くぞ!!」

そう言ってリヒトはクリスタルセイバーでダークミストを攻撃した。だが、ダークミストは実態を持たぬ存在である為、攻撃が全く通用しなかった。続けてトルトゥーガ、ミハル、デロリアも攻撃を仕掛けたが、当然攻撃は通用しなかった。更に、ナハトが炎の魔力を収束させ、ケイオスブラスターからフレイムバレットを撃ち出したが、これも通用せず、逆に吸収されてしまった。

「魔法は全て吸収、物理攻撃は通用しない、これは厄介だな」
「諦めよ、人間の力では、我を倒す事はできぬ」

その時、クリスが再び仲間達に語り掛けた。それは、怪物化ヴァンレルを倒した時同様、リヒトに力を与えると言う物であった。

「皆さん、再びリヒトくんに力を与えてください、今度はあの時よりももっと多い力を…!!」

「…分かったわ、ナハト、あなたの息子だからちゃんと与えてあげるのよ?」
「分かってるよ、シレーヌ、全く、世話の焼ける子だ、トルトゥーガ、お前もいいな?」
「ええ、勿論よ、ミソラ、エスカ、ココ、あなた達も頼んだわよ?」
「分かってるわよ、できるだけ多くの力を与えるから!!」
「力…ねぇ、とりあえず、魔力を多く与えるわ!!」
「…これが終わったら、しばらく休もう…」

「みんな! リヒトくんの為に力を!!」
「分かった! エフィ! 私の持つ魔力を全部与えましょう!!」
「うん! 全部持って行っていいよ! リヒトくん!!」
「リヒトさんの為にぃ、私の魔力を全部与えまぁす!!」
「ったく、こんなサービス、滅多にしないんだからね、受け取んさない! リヒト!!」

その後、仲間の力を受け取ったリヒトは、クリスタルセイバーにその魔力を収束させた。しかし、あまりに多くの力を受け取った為、受け取り切れない力が溢れ出ていた。
すると、ナハトはその力をケイオスブラスターに吸収させていた。

「父さん…!!」
「ったく、最後まで世話の焼ける子だな」

直後、ダークミストがナハト、リヒト親子目掛けて暗黒光線を放ってきた。だが、それをトルトゥーガが魔導障壁で防御した。魔力を使い果たして防ぎきれないトルトゥーガに、デロリアとミハルが力を与え、何とか防いでいた。

「ナハト! リヒト! 行って!!」
「うん! 一緒に行くよ、父さん!!」
「言われなくても…!!」
「クリスタルバースト!!」
「クリスタルレールガン!!」

リヒトはクリスタルセイバーから光のビームを放ち、ナハトはケイオスブラスターから光のビームを放った。その二つの光のビームはダークミストを飲み込み、ダークミストの体を消滅させていった。

「ぐおぉぉぉ…!! 我の体が…! 消滅する…!! おのれ…! 人間共めぇぇぇぇぇッ………!!!」

直後、ダークミストの体は完全に消滅した。全ての元凶を倒したリヒト達は、戦いが終わった事に安堵した。しかし、ダークミスト撃破と同時に浮遊要塞の各所で爆発が起こった。

「爆発!? これって…」
「ああ、どうやらこの浮遊要塞の持ち主が死んだことで崩壊が始まったんだ」
「じゃあ、急いで脱出しなきゃ!!」

リヒトとナハトがそう話した後、崩れ行く浮遊要塞から脱出する為、リヒト達は慌てて階段を降りて行った。階段を降りると、フライハイト号のある場所まで全速力で走った。リヒト達は無事全員でフライハイト号に乗り込み、機体を発進させた。フライハイト号はすぐに宙に浮きあがり、そのまま浮遊要塞から脱出した。しかし、浮遊大陸はかなりの大きさを誇っており、このままではニューエデンシティにかなりの被害が出てしまう。このままではまずい、そう考えたその時、ミソラがあるアイデアを出した。

「よし、あまり気は進まないが、主砲のフライハイト砲を使うしかない!」
「おい、ミソラ、何だそのフライハイト砲ってのは」
「このフライハイト号に装備されている超魔力砲だよ、でも、未完成だから下手するとフライハイト号のエンジンがオーバーヒートして墜落してしまうかもしれない…」
「何でそんな欠陥装備を…って、それどころじゃない、今はあの浮遊要塞を破壊するのが先だ!!」
「ミソラさん、ここはお父さんの言う通り、フライハイト砲を使いましょう!!」
「…仕方ないな…もう墜落しても知らないからな!!」

そう言うと、ミソラはフライハイト号を操縦するタッチパネルに手を置いて操作し、フライハイト砲発射の準備を取った。フライハイト砲は文字通りの欠陥装備である為、ミソラは正直撃ちたくないなぁ…と思ったが、多くの命には代えられない。発射準備を取ると、フライハイト号前面にある主砲に魔力が収束されて行き、フライハイト砲発射の準備が整った。

「フライハイト砲、発射!!」

ミソラはタッチパネルを操作し、フライハイト砲を発射した。フライハイト号の主砲からは大出力の魔力のビームが発射され、浮遊要塞をニューエデンシティの外れの海上まで押し出した。直後、浮遊要塞は大爆発を起こし、四散した。

「凄い威力ね…」
「ああ、もしミソラがこれを撃つ判断してたら、俺とお前死んでたな…」
「大丈夫よ、私はすぐに何でもかんでも撃つ性格じゃないから!!」

すると、フライハイト号のエンジン室から爆発音が聞こえた。その直後、フライハイト号は万有引力の法則に従って墜落した。

「あ、やっぱ駄目だったみたい…」
「ミソラァァァッ!! 後で覚えとけよぉぉぉッ!!」

フライハイト号はそのまま地面に墜落した。幸い、フライハイト号は頑丈に作られていた為、大破はしなかったが、エンジン室から火が出ていた。その後、リヒト達は慌てて外に出たが、幸い死者は1人もいなかった。

「よかった…みんな無事みたいだね…」
「全く、お母さんったら、こんな未完成な物作って!!」
「ごめんごめん、でも、おかげで街に大きな被害は出なかったわね…」

その後、防衛隊の隊員たちから街に現れた魔物たちを全て倒した事が報告された。こうして、ネオシュヴァルツゼーレとの全ての戦いが終わったのである。

「…これで全部終わったんだね…父さん…」
「ああ、そうだな…あの日から始まった因縁が…これで…」

あの日デロリアとの別れから始まったシュヴァルツゼーレとネオシュヴァルツゼーレの戦い。長きに及ぶ戦いであったが、この戦いはようやく終わりを告げたのである。辛く、苦しい日々であったが、これからは平和な世界で平和な日々を過ごせるのである。リヒト達は戦いが終わった事を祝杯し、自身の家で小さなパーティーを開く事にした。このパーティーは共に戦った仲間に感謝すると同時に、その仲間達との別れを意味していた。仲間達はこれから歩む道がそれぞれ違う、ネオシュヴァルツゼーレの戦いの間は共に過ごしていたが、それが滅んだ今、共にいる意味がない。一つの戦いを乗り越えた今、皆は新たな道を歩むことになるのだ。

「みんな…今まで本当にありがとう、乾杯!!」

リヒトの合図で、全員は持っていた飲み物で乾杯した。ずっと探していた父親と再会したリヒトは、日常の中で初めて父親と会話した。

「父さん…これからはずっと一緒に居れるんだよね…?」
「ああ、今まで一緒に居られなかった分、これからはずっと一緒に居てやる」
「ありがとう…父さん…」
「ナハト、これからは家事もやってよね? 私とリヒトだけでやるの、疲れたんだから」
「ああ、分かったよ、お前にも本当に迷惑かけたな」

すると、ミソラミハル親子がリヒト一家の元へやって来た。ミソラは酒が入って酔っている様子であり、ミハルが横で支えていた。

「リヒトく~ん? うちの子と仲がいいんだってね~? これからも仲良くしてやってよ~? 何ならお嫁さんにしてもいいのよ~?」
「な…何言ってるんですか!?」
「そうよお母さん! お酒飲みすぎ!!」
(酔ったミソラ、初めて見たぞ…こんな感じだったのか…)

一方のシレーヌ達は、これからどうするかを話し合っていた。今回の戦いではシレーヌの作った特殊弾頭頼みであった事から、フェルネとエフィはもっと銃の腕前を上げようとしていた。

「私、銃の腕前には自信があった…でも、結局はお母さんの特殊弾頭頼みだった…」
「そうそう、お母さんの特殊弾頭は強いからね」
「そう言う自身家な所は気に入らないけど、私はもっと腕を上げたい、エフィもそうでしょ?」
「うん! 私も、もっと腕を上げたいよ!」
「じゃあ、明日からエスクード大陸へ修行に行きましょうか?」
「うん! 私、いつか絶対世界一の銃使いになってみせるね!」

その頃、エスカとラーナはパーティーの食材を食べていた。特にラーナは最終決戦で魔力を使い果たした為、お腹を空かせていた。

「ラーナはよく食べるわよね~」
「だってぇ…ルーンブレードを使ったらぁ、お腹が空いてしまうんですぅ…」
「それは多分だけど、ラーナが魔力の調整をうまく出来ないからじゃないかな?」
「そうなんですかぁ?」
「うん、だから明日から、魔力の調整ができるようになる特訓をしましょう」
「はい! お母さん!」

仲間達が未来についての話をしている中、ココとルージュはデロリアと話をしていた。いくら改心して共に戦ったとはいえ、デロリアは17年前の戦いの元凶である。そんな人物を、簡単に許す事はできないのである。

「デロリア、お前はこれからどうするつもりだ?」
「今回は一緒に戦ってくれたけどね、あんたは17年前の戦いを起こした元凶なの、簡単には許せないわ」
「わ…私は…」

2人に問い詰められて困っているデロリアの下に、ナハトがやって来た。

「よせ、2人共、こいつは俺達と共に戦ってくれた」
「ナハト…」
「だが、ナハト、こいつがした事を忘れたわけではあるまい」
「そうよ、こいつのせいで多くの人が死んだのよ?」
「もちろん、それは許すつもりはない、だから、俺はデロリアに人生をかけて償う罰を与える」
「ナハト…それって…」
「デロリア、お前はこれから生きろ、どんなに辛い思いをしても、惨めに、あがいて、それがお前の為に死んだ人間にできる、せめてもの償いだ」
「うん…私…償うよ…この人生をかけて、償う…だから…ナハト…これでさよならだね…」
「ああ、辛くなったら、いつでも会いに来いよ、デロリア」
「うん…また会おうね…ナハト…好きだよ…ずっと…」

そう言ってデロリアはリヒトの家から去って行った。デロリアの作ったシュヴァルツゼーレと、それを引き継ぐネオシュヴァルツゼーレ。どちらの組織も滅びた今、デロリアは一人の女性として生涯を生きていくのである。彼女に待ち受ける運命がどんなに過酷でも、彼女は生きなくてはならない。それが彼女にできる、唯一の償いだから。

パーティーが終わった後、リヒト達はこれからどうするかを教え合っていた。これで本当にみんなと別れだと思うと、辛くもあった。

「僕と父さんと母さんはずっとここで暮らすけど、みんなはどうするの?」
「私はフェルネ、エフィと共にエスクード大陸に修行に行くわ、まあ、たまにここに立ち寄るかもね?」
「私はぁ、お母さんと一緒に修行の旅に出まぁす」
「私はまた獣人族の村に戻る、ルージュはどうするんだ?」
「あたしはしばらくニューエデンシティに残るわ、別に、この街が気に入ったとか、そう言うのじゃないから、勘違いしないでよね!」
「で、私とお母さんは防衛隊のみんなと一緒にニューエデンシティの復興作業に取り掛かるわ、リヒトくんも手伝ってよね?」
「うん! 僕達一家も、できる事はするよ!」

その夜、リヒトとその仲間達はリヒトの家に泊り、翌日、仲間達はそれぞれの道へ出発した。一つの戦いを終え、それぞれの道を歩んで行く仲間達は、皆、己の人生を歩んで行くのだ。

全ての戦いが終わって半年が経過した。多くの犠牲の上で成り立った平和である為、人々はこれを維持しようと努力した。世界はニューエデンシティを中心に国家が手を取り合う事で平和を維持することにした。当然、これから先も争いは起きる可能性はある、だが、世界はいつか必ず一つになれる。そう願いながら、人々は今日も生きていくことにしたのである。

全ての戦いを終え、普通の学生に戻ったリヒトは、今日もニューエデン私立学院に通っていた。今日はナハトが慣れない手つきで作った弁当を持って学校に向かった。ちなみに、ナハトが作った弁当は意外にも美味しいと好評である。

「じゃ、行ってくるよ父さん! 母さん!」
「気を付けてな」
「気を付けてね、リヒト」

そう言って見送るナハトとトルトゥーガに手を振り、リヒトは学校に向かった。まだ始業までは時間がある為、リヒトはゆっくりと歩いていた。暇なので辺りを見渡すと、まだ完全には復興してないが、かなり街が復興してきたのが分かる。終戦後は辺り一面が瓦礫だらけであったからだ。あの後、リヒト一家と防衛隊の隊員たち、そして、民間人やリヒトの力で記憶を失ったネオシュヴァルツゼーレの構成員と共に瓦礫の撤去作業を行ったのも既に過去の話である。ちなみに、元ネオシュヴァルツゼーレの構成員たちは皆、普通の仕事に就いて平和に暮らしている。若干乱暴かもしれないが、この方法が彼らにとって一番平和に暮らせる道なのかもしれない。すると、リヒトを呼ぶ少女の声が後ろから聞こえてきた。

「リヒトくん! おはよう!」
「あっ、おはよう、ミハルちゃん」

ミハルの他にも、エルフィナとアミア、そして何故か学園に入学したルージュも一緒であった。あの後、ルージュはなんだかんだでこの街を気に入り、この街で暮らすことになったのである。当然、住む場所などは持ってないので、現在は防衛隊に協力する事を条件に防衛隊基地に寝泊まりしている。

「おはよ、あんたも元気そうじゃない」
「いや、そうでもないよ、そうでも…ね…」

リヒトには今、一番の悩みがあった。以前命を落とした際、クリスと同化する事で蘇った。その際に同化したクリスが今、消滅しかけているのである。クリス曰く、本来ならもっと同化期間は長いはずであった。だが、最終決戦でクリスの持つ力を一気に使ってしまった事で、同化期間が一気に縮まったのである。クリスが消滅してもリヒトが死ぬ事はなく、クリスタルセイバーも残ると言う。しかし、リヒトにとってクリスは共に戦った大切な仲間、それが消えるのはとても悲しく、寂しい事である。

リヒトは最近学園生活の最中もその事ばかり考えている。いつかクリスは消えてしまう、それは今日か、明日か、明後日か、もしかすると今かもしれない。そう考えるだけで怖くなり、仲間と別れる事が怖くなってしまうのである。そんな日々が数日続いたある日の午後、リヒト一家とミハル、ルージュの5人がニューエデンシティの海岸に集まるよう、クリスに言われた。これはクリスとの別れの日が来たんだ、リヒトは直感でそう察した。

「今日、皆さんに集まってもらった理由、分かりますよね?」
「多分だけど、クリスちゃんとの別れの日が来た、そうでしょ?」
「はい、ミハルさんの言う通りです、遂に私の消滅の時が来たんです」

クリスはそう言うと、リヒトの体から分離した。分離したクリスの体は半透明で、体中から水色のオーラが抜け出していた。クリスに限界が近いのは確かなようであり、分離してすぐにクリスは地面に倒れ込んだ。

「クリスちゃん!!」

リヒト達はクリスに駆け寄った。クリスにまだ意識はあるようで、リヒト達に大切な事を語り掛けた。

「私が人々の正義の心や祈りが集まって生まれた存在って事は知ってますよね…?」
「当たり前だ、それぐらい、覚えてるさ」
「だから…私はいつか必ずこの世界に生まれます…それがいつになるかは分かりませんが…」
「馬鹿! だったら二度と会えないじゃないの! あんたが生まれるまで、何千年もかかったんでしょ!!」
「はい…そうですね…ごめんなさい…でも、私が消える時だけは、皆さんに笑顔でいて欲しいんです…」
「そんなの無理よ! クリスちゃんは、私達の大切な仲間、リヒトのお友達だもの!!」
「そうだよ! だから笑顔でいるなんて無理! ずっと一緒に居て欲しいよ…!!」
「トルトゥーガさん…ミハルさん…」

すると、クリスの体がどんどん薄くなっていった。どうやら、本当に限界のようである。別れが近づいている事に、リヒト達は焦りを見せ始める。だが、クリスは涙を流しながら、リヒト達に最後の言葉を残そうとしていた。

「皆さんと一緒に居れた事は、私にとって幸せでした…決していい事ばかりではありませんでしたが…それでも…私にとっては一番の思い出です…」
「クリスちゃん…それは僕達も一緒だよ…君と一緒に居れた事は、僕達にとって一番の思い出だよ…」
「俺も、お前と共に過ごした時間は少ないが、大切な家族みたいな存在だ」
「私も、まるで娘ができたような感覚だったわ…」
「ここにはいないけど、きっとフェルネちゃんやエフィちゃん、ラーナちゃんもクリスちゃんの事をお友達だと思ってるはずだよ」
「そうよ、だから安心して、あたしたちは、ずっと友達だから」
「皆さん…私は…皆さんと過ごすことが出来て…本当に…幸せでした…」

クリスの体は水色の粒子となって消えて行った。水色の粒子はすぐさま風に溶け込み、見えなくなった。これで完全にクリスとの別れが訪れた、そう思うと、涙を堪えきれなくなった。リヒト達は涙を流し、クリスとの別れを悲しんだ。共に過ごした仲間との別れ、その仲間との別れを悲しみ、涙を流した。

リヒト達はしばらく涙を流し、気持ちを落ち着かせた。クリスは自分達に笑顔でいて欲しいと言った、いつまでも泣いていては駄目だと。彼女と過ごした時間、それはかけがえのないものであった。リヒト達は、彼女と過ごした時間を大切な思い出にし、これからの人生を生きてゆくと誓ったのである。

「父さん、母さん、僕、父さんみたいに強くて、母さんみたいに優しい人になりたい…なれるかな?」
「フッ、なれるさ、お前なら」
「リヒトならきっとなれるわ、安心して」
「だよね、そうだよね」

「リヒトくんには、友達の私達がいるでしょ?」
「そうよ、だから、ひとりだけで頑張ろうとしちゃ駄目よ?」
「うん! 明日からも、みんなで頑張ろうね!」

リヒト達は一つの別れを経験した。だが、彼等にはこれから先、多くの別れが待っているだろう。それでも、彼等はその悲しみを乗り越え、一つ、また一つと成長してゆくのだろう。彼等の人生はまだまだ長い、その人生をどう生きていくのかは彼ら次第である。家族や仲間と共に、これからの人生を生きてゆく、それが彼らの人生なのだろう。そして、その人生はまだまだ始まったばかりなのである。

翌日、ニューエデンシティにネオシュヴァルツゼーレの残党と思われる魔物の群れが現れた。現れた魔物はカマキロンが2匹、タランチュラが2匹、コボルドが3匹、ゴブリンが5匹、アーマースネークが1匹であった。ミハルの部下の防衛隊が駆け付け、すぐに戦闘を開始したが、全身が鎧に覆われたアーマースネークが壁となった事で思うように攻撃ができなかった。アーマースネークは15mにも及ぶ体長を持っており、魔物の中でも特に強い部類である。防衛隊の隊員はアーマースネークの薙ぎ払い攻撃で吹き飛ばされ、負傷者が続出した。そこに、リヒト、ミハル、ルージュ、ナハト、トルトゥーガの5人が駆け付けた。

「シャオ、グレイス、フロス、みんな、遅れてごめん!」
「遅いよミハルさ~ん」
「私達、死ぬかと思ったよ?」
「ほんと…死ぬかと思った…」
「ごめんごめん! すぐに片付けるから!」

手始めに、ミハルが5匹のゴブリンを斬り捨て、ルージュが旋風刃で3匹のコボルドを倒した。続けてトルトゥーガがセインスピアードを振り、竜巻を発生させて2匹のタランチュラを吹き飛ばし、倒した。残った2匹のカマキロンとアーマースネークは、ナハトのスパークブラストとリヒトのクリスタルリッパーの同時攻撃で倒された。こうして、街に出現した魔物の群れは倒されたのであった。

「終わったね、父さん」
「案外あっけなかったな」
「でも、また来るはずよ、私達を始末する為に」
「大丈夫ですよ、トルトゥーガさん、私達なら、きっとやれます」
「そう言う事、だから、安心しなさいよ」
「そう…よね、大丈夫よね」

その頃、エスクード大陸で銃の腕前を磨いていたシレーヌ、フェルネ、エフィは半年の修行で銃の腕前が上がっていた。フェルネとエフィの特訓に付き合っていたシレーヌは、彼女たちの成長速度の速さに感心していた。それと同時に、もう自分に教えられることはないと感じていた。

「上出来よ、フェルネ、エフィ、もう私から教えられる事はないわ」
「何言ってるの、お母さん」
「まだまだシレーヌさんには教えてもらわないと困りますよ」
「だって、あなた達、特殊弾頭の製造方法も覚えちゃったじゃない、銃の腕前も上がってるし、もう教えられる事なんて…」
「それは違うよ、お母さん、お母さんには、人生の先輩として、教えてもらわないといけない事が沢山あるの!」
「銃以外の事だって、教えられますよね?」
「あなた達………分かったわ、私はあなた達の倍生きてるんだから、色々と教えてあげるわ、情報屋の実力、舐めないでよ?」
「それでこそお母さんだよ!」
「色々と、教えてくださいね?」

一方、アインベルグ大陸では、修行の旅に出たエスカとラーナが屋台で料理を食べていた。特訓で疲れていたのか、3人前の料理を平らげており、屋台の店主を驚かせていた。

「疲れましたねぇ…お母さぁん…」
「あぁ…本当に疲れた…どう? 少しは魔力の使い方、覚えれた?」
「もちろんですよぉ…半年前に比べて、半分ぐらいは抑えられるようになりましたぁ…」
「半分…半分…かぁ…」
「ど…どうしましたぁ…?」
「まだ足りないわね…ラーナ! 明日からはもっときつい特訓するわよ!」
「もっときつい…!? …分かりましたぁ、一人前になる為、私も頑張りまぁす!」
「OK! じゃ、今日はゆっくりと休みましょう」

ココが住んでいる獣人族の村では、1人の旅人が行き倒れていた。その人物は、シュヴァルツゼーレの元リーダーであるデロリアであった。あの後、デロリアは様々な所を渡り歩き、知らない間にここで行き倒れたのであろう。デロリアはココの家で介抱され、半日ぐらいで目を覚ました。

「…ここは?」
「私の家よ」
「ココさん…えっと…何で私はココさんの家に…?」
「知らないわ、あんたが獣人族の村の入り口で行き倒れていたからここに連れてきたの」
「あぁ…そう言えば、もう3日も何も食べてなかったんだ…えっと…何かあります?」
「クジラウサギのシチューならあるけど、食べる?」
「はい、それでいいです」
「OK、後、あんた、行く所ないなら、しばらくここに居なさいよ、ナハトには黙っていてあげるから…」
「大丈夫です、体力が回復したら、償いの旅に出ますので…」
「…偉いのね、あんた」

ニューエデンシティでは、ミソラを中心にフライハイト号の修理が行われていた。ネオシュヴァルツゼーレとしての記憶を失った元ネオシュヴァルツゼーレの構成員達と共に、フライハイト号の修理を行っていた。だが、ミソラには真の目的があり、それは空飛ぶ乗り物を一般化させる事であった。フライハイト号はその為の試作機及びベース機として開発しているのである。

「ミソラさん、エンジンの修理、終わりました」
「ご苦労だったね、アルメリア
「あの…ミソラさん、本当にできるんでしょうか? 空飛ぶ乗り物の一般化なんて」
「できるはずよ、それに、どこかで誰かがやらないと、一生できないじゃない?」
「そう…ですね、このフライハイト号の修理が完了したら、私も空を飛んでみたいです」
「その為にも、私達が頑張らないとね!」

その夜、リヒト一家は自宅で父親のナハトとこれからの事について話し合いをしていた。リヒトは今の自分はまだまだ未熟であり、どうすれば父親の様にたくましくなれるのかを気にしていた。

「ねえ、父さん、僕はどうやったら父さんみたいにたくましくて強い人間になれるかな?」
「いきなりどうした? お前は十分たくましいと思うが?」
「だって僕、気弱な所があるし…僕は父さんみたいにかっこよくなりたいんだ」
「別にそのままでいいんじゃないか?」
「…え?」
「リヒト、お前はそのままでいいんだ、別に俺の真似をする必要はない、敵の事を心配すると言うお前にはあって俺にはない心優しい所、それがお前の唯一無二の武器だと俺は考えている」
「父さん…ありがとう…僕は、僕なりに頑張ってみるよ」
「フ…まあ、頑張れ」

翌日の朝、リヒトはトルトゥーガの作った弁当を持ってニューエデン私立学院へと向かった。リヒトは学校に向かう前、ナハトとトルトゥーガに笑顔を見せた。

「じゃ、行ってくるよ父さん! 母さん!」
「気を付けてな」
「気を付けてね、リヒト」

そう言ってリヒトは家を出た。リヒトが出かけた後、ナハトとトルトゥーガは二人で会話をした。

「…こんな幸せな日々が来るとは思わなかったね、ナハト」
「ああ、そうだな…」
「ナハトは知ってるよね? 私達光精霊が、人間より長生きだって事…」
「知ってるさ、その事を覚悟して、俺はお前と結婚したんだから…」
「私…怖いの…あなたと…リヒトと…みんなといつかお別れしないといけない事が…!」
「別れはいつか必ず訪れる…トルトゥーガ、お前は光精霊と人間の寿命の違いで俺達が先に死別し、苦悩するはずだ、それでも俺は、君に生きて欲しい、だから、俺達の後を追うなんてことはするな、それが俺の願いだ…」
「分かった…私…ナハトが…リヒトが…みんながいなくなっても…頑張って生きるよ…それがナハトの…願いなら…」
「それでいい…それでいいんだ、トルトゥーガ…」

こうして、二世代に渡る物語は終わりを告げた。苦しい事も辛い事もあったが、彼等は無事に平和を勝ち取った。その平和がいつ終わるかは分からないが、彼等は今ある平和を生きてゆく事だろう。人間はその短い人生を頑張って生きて行かなくてはいけない。それが、人として生まれた宿命なのだから…。

闇夜と白昼の系譜 前編「闇夜の流浪者編」

聖暦2050年、科学と魔法が一般に流通したこの世界では、過去に幾度となく争いが起きたものの、人々は争いを捨て、科学と魔法を日常生活に利用し、平和に暮らしていた。しかし、ある日突然「シュヴァルツゼーレ」と名乗る組織が現れた。シュヴァルツゼーレは堕落に満ちた世界を変える為、武力を行使し、様々な都市に無差別攻撃を開始している。防衛隊はシュヴァルツゼーレの対応に追われ、世界は混乱に陥った。

だが、そんな状況でも構わず旅を続ける青年がいた。彼の名はナハト・ザラーム、通称 闇夜の流浪者である。闇のように黒い髪を首の根元まで伸ばし、水底のように暗い瞳に、刃物のような切れ長の目で、彼の表情は氷のように冷たい表情である。服装は漆黒のコートを深いグレーのシャツの上から着用し、ズボンもコートと同じく闇のように漆黒、靴はブラウンのロングブーツを履いている。

ナハトは夜が好きであり、静かな夜の街を散歩するのが日課である。昼もたまに出歩く事はあるが、ナハトは人付き合いが苦手であり、あまり昼間は出歩きたくないのが本心である。夜の街の風は肌寒く、特に冬はピリピリとするが、このご時世、夜は危険で誰も出歩かない為、人と関わる事が好きではない彼は夜が好きなのである。

誰とも関りを持とうとせず、一匹狼を貫く彼は休憩にと公園のベンチに座り、微糖のコーヒーを飲んでいた。そんな彼の前に突如空から女性が降ってきた。空から凄いスピードで振って来ていた為、そのまま地面に衝突するのではないかと思われたが、着地する寸前に背中から翼が生え、その翼をパラシュートのように使い、彼女は地面に華麗に着地した。

突然ナハトの前に現れた少女は美しい顔をしていた。サファイアのように透き通った大きく青い瞳を持った彼女は、この世の人間とは思えない程美しい顔をしていた。腰まで伸びた薄紫の長髪はツーサイドアップに整え、公園のライトの光を反射してキラキラと輝いていた。服装は水色のシャツの上から青いシャツを羽織り、下は黒のミニスカートに黒いニーソックス、靴はブラウンのローファーを履き、首にはエメラルドの首飾りをしていた。すると、彼女はナハトに気付き、話しかけてきた。

「こんばんは、私、トルトゥーガ・ネリンって言うの、あなたは?」
「…ナハト、ナハト・ザラームだ」

あまり人付き合いが得意ではないナハトはとりあえず自己紹介をした。人と会ったらまず自己紹介と死んだ母親がいつも言っていたからだ。

「ナハト…それって夜って意味だよね?」
「まあな、そう言うお前の名前も亀と言う意味だろ?」
「あ~、それ気にしてるんだから言わないでよ~」

その時、ナハトは考えていた、この突然空から降って来た得体のしれない女はいつまで俺に関わってくるのだろうかと。実際、この世界には獣人族や龍人族など、様々な種族が存在するが、突然空から降ってくる種族などは聞いた事がない。ナハトはとりあえず彼女が何者なのか聞こうとしたその時、2人目掛けて投げナイフが飛んできた。

「伏せろ!!」

ナハトの合図でトルトゥーガも地面に伏せた。すると、さっきまでナハトが座っていたベンチに3本の投げナイフが突き刺さった。

「助かったよ、ありがとう」
「別にお前を助ける為に言ったんじゃない、誰かが死ぬのを見たくないだけだ」

2人は立ち上がり、周りを警戒した。すると、ナイフを持った黒いスーツの男が3人現れた。男たちはナハトの周りを囲み、逃げ場を無くしていた。

「ねえねえ、こいつらが今地上界で暴れてる何とかゼーレって奴?」
「シュヴァルツゼーレな、奴らは罪のない人間を殺すクズの集まりさ」

すると突然、3人の内の1人がナイフでナハトに斬りかかった。ナハトはコートの裏に装着したシャドウエッジを抜き、攻撃を受け止めた。シャドウエッジは影のように漆黒のナイフであり、高い切れ味を持ったナハト愛用のナイフなのである。しかし、ナハトが1人の相手をしている間に、残りの2人にトルトゥーガが人質に取られてしまった。

「貴様ら、女に手を出すとは、聞いた通りのクズだな!」

男の1人は両腕で後ろからトルトゥーガの動きを封じ、もう1人はトルトゥーガの首元にナイフを構えていた。当然、こんな事をされてナハトは戦う事ができず、攻撃を仕掛けてくる男の攻撃を回避するしかなかった。もし攻撃を仕掛ければトルトゥーガの命はないからだ。

「くっ! その女を放せ!」
「この女を解放して欲しければ、大人しく死ね」

当然、ナハトが男の要求を飲むことはできない、だが、トルトゥーガを見殺しにするわけにはいかない。ナハトは攻撃を回避しながら時折男たちの様子を見ていた。すると、トルトゥーガが背中に翼を生やそうとしている事に気付いた。ナハトはトルトゥーガに対し、首を縦に振って合図をした。ナハトの合図を受けたトルトゥーガは、翼を一気に生やして後ろで動きを封じていた男を吹き飛ばし、そのまま一回転し、翼でナイフを構えていた男も吹き飛ばした。

トルトゥーガの無事を確認したナハトは、コートからもう1つの武器、ケイオスブラスターを取り出した。ケイオスブラスターは魔力を弾丸として打ち出す銃であり、炎や氷などの属性の弾丸を撃ち出す事も出来る優れものである。ナハトはケイオスブラスターを構え、引き金を引いた。

「くたばれ!」

ケイオスブラスターの銃口からは、闇属性の弾丸が放たれ、さっきまで攻撃を仕掛けて来た男の胸を撃ち抜いた。続けてトルトゥーガの動きを封じていた男の胸を、最後にナイフを構えていた男の胸を撃ち抜き、自分達を襲って来た刺客全員を倒した。

「何とか生き延びる事ができたか…」
「ナハトって強いんだね!」

トルトゥーガは目をキラキラと光らせ、ナハトの方を見ていた。ナハトはこの女と関わると面倒だからとさっさとその場を立ち去った。だが、トルトゥーガはナハトの後を付いてきた。しばらく無視していれば諦めて帰るだろうと思っていたが、あろうことか彼女はナハトの泊まっている宿まで付いてきたのである。

「…何故付いてくる…」
「私、ナハトに興味あるの」

この女には何を言っても無駄だと言う事に気付いたナハトは、せめて彼女が何者なのか聞く事にした。

「…じゃあ、これだけは聞かせてくれ、お前は何者なんだ?」
「私? 私は天上界にいる光精霊だよ」

光精霊は聖なる存在であり、滅多な事では人間の前に姿を現さないが、どうやらトルトゥーガは人間に興味をもってやって来たらしい。

「…分かった、宿代は俺が払うから、絶対に変な事はするなよ?」
「分かったよ、ナハト」

その後、宿に帰った二人はベッドで眠りにつき、一夜が明けた。ナハトは部屋に差し込んでくる太陽の光で目が覚めた。朝食を取る為、ナハトが寝ぼけ顔でリビングに向かうと、キッチンの方から食欲をそそる匂いがし、ナハトの眠気を覚ませた。

「あ、おはようナハト」

そう言ってトルトゥーガはキッチンの方からナハトに笑顔を見せた。トルトゥーガはキッチンで目玉焼きを作っていたようであり、じーっと様子を見ていると、もうすぐできるからねと優しく答えた。その後、ナハトは椅子に座り、目玉焼きができるのを待った。しばらくすると、トルトゥーガが出来立ての目玉焼きを持ってきた。

「できたよ、さあ、食べよう」

トルトゥーガも椅子に座り、朝食が始まった。目玉焼きの味はシンプルに塩コショウだけではあったが、焼き加減が丁度良く、黄身も半熟であり、普通に美味であった。少なくとも、ナハトが適当に焼いた目玉焼きよりは美味しく、この時、ナハトはトルトゥーガを拾って良かったと感じた。2人が目玉焼きを食べ終わると、ナハトは出発の準備を始めた。

「ナハト、もしかして今から出るの?」
「ああ、宿に泊まるのは今日までだからな、お前も早くしろよ」

ナハトは手早く準備を済ませ、荷物を魔法で別空間に転送した。その後は一足早く出発し宿代を払ってトルトゥーガを待っていた。トルトゥーガはその1分後ぐらいにやって来て、遅れてごめんと謝ったが、ナハトは別に待ってないと返した。そして、ナハトとトルトゥーガは2人旅に出た。

「やはり太陽の光と言うものは苦手だ…」
「太陽の光が苦手って…ナハトはモグラかな?」
「そうかもしれないな」

ナハトは日中に外出するのがあまり好きではなく、理由は太陽の光が眩しくて苦手と言う事、もう一つは人の多い場所が好きではないと言う事である。実際、現在の時刻は朝であるが、人が沢山いる、ナハトは人が多い場所だと落ち着かないのだ。

「朝からこんなに多く…一体何の用事があるってんだ…」
「まあ、それぞれ事情があるんだよ、きっと」

すると、ナハトは人混みに怪しい人物を見つけた。その人物は黒いスーツを着込んでおり、口にはマスク、目にはサングラス、頭には黒い帽子を被っていた。あからさまに怪しいその人物は、人混みの中で微動だにせず、ナハト達の方を見ていた。

「…トルトゥーガ、お前はゆっくりでいいから付いて来い」
「ゆっくりって…ナハト、どうするの?」
「俺はあいつを追う…!」

そう言ってナハトは怪しい人物を追った。すると、その人物は路地裏の方に向けて逃げ出したが、ナハトはうまく人混みの中を掻き分けながら追い、一度たりともその人物を見失う事はなかった。

ナハトの追う怪しい人物は、次第に街中から街外れの廃工場へと逃走場所を移していた。その廃工場はかつて銃や剣などの武器を生産していた工場であったが、数年前に機械の老朽化によって爆発事故が起こった為、廃工場となった。現在は犯罪者が怪しい取引をする為に使われる場所である為、防衛隊以外は近寄る事のない危険地域である。

怪しい人物を追っていたナハトは、廃工場内にその人物が入った事を確認し、自身も廃工場内に入った。どこかに銃を持った仲間が隠れていないか警戒しつつ、自身もケイオスブラスターを取り出し、周りを見渡した。

「よくここまで追って来たね、ナハト・ザラームくん」

そう言って現れたのは、マスクや帽子、サングラスを外した先ほどの怪しい人物であった。街中で会った時は性別が分からなかったが、素顔を見て声を聞いた事で女性と確信した。

「私はシュヴァルツゼーレのラフ、よろしくね」

長い深緑の髪と赤紫の瞳を持った彼女は、ナハトに対して銃を向けながらそう答えた。

「なるほど、昨日刺客を送って来たのはお前か」
「勿論よ、あなた達みたいに力を持った存在はシュヴァルツゼーレにとって邪魔だからね」

そんな話をしていると、トルトゥーガが廃工場の入り口にやって来た。かなり急いで走ってきたようであり、息を切らせていた。

「ナハト! 大丈夫!?」
「来るな! トルトゥーガ!!」

すると、ラフはトルトゥーガに向けて拳銃を発砲した。銃弾はトルトゥーガの右肩を掠め、傷口からは人間と同じ、深紅の血が流れた。

「貴様! 何故こんな事を!?」
「邪魔だからよ、あなたのように力を持った存在が」

ナハトはラフに対し、ケイオスブラスターを向けた。それを見たラフは死を恐れていないのか、微笑した。

「ケイオスブラスター、魔力を弾丸として放つ銃ね」
「それも把握済みか」

ナハトとラフは互いに銃を向け合い、膠着状態が続いた。30秒ほど経った頃、ナハトは口を開いた。

「一つ答えてもらおう、デロリア・ルーゼンナイトと言う女の居場所を」
「フ…、やはり貴様の目的はデロリア様か…」
「いいから答えろ!」

ラフは再び微笑した、まるでナハトの目的がくだらないとでも言うかのように。10秒ほど経つと、ラフはデロリアの居場所を答えた。

「デロリア様は今、人間の作った偽りの楽園、エデンシティにいる」
「…やはりあいつは変えるつもりか、堕落した今の世界を…」
「デロリア様の目的は偉大だ、その世界に、貴様の様な人間は必要ない!!」

そう言ってラフは銃の引き金を引こうとした、しかし、その前にナハトはケイオスブラスターの引き金を引き、発砲した。ケイオスブラスターの銃口から放たれた闇属性の弾丸は、ラフの胸を貫き、ラフは仰向けに倒れ、動かなくなった。

「…デロリア、お前はやはり…」

ナハトはケイオスブラスターをコートの裏にしまった。ずっと廃工場の入り口にいたトルトゥーガは、周りの安全を確認すると、ナハトに駆け寄ってきた。

「ナハト! 大丈夫だった?」
「ああ、問題ない」

ナハトはトルトゥーガの撃たれた右肩を見た。すると、傷口だけでなく、破れた服も元通りに修復されており、彼女が光精霊なのは事実なんだなと実感した。

「トルトゥーガ、俺達のいく場所が決まったぞ」
「エデンシティ…だよね…?」

エデンシティはナハト達の今いるレクスシティの北東に存在する街で、誰もが住みやすい楽園の様な街を謡ってはいるが、その裏では様々な犯罪が横行し、防衛隊でも手に負えない状況となっているのである。その為、一部からは偽りの楽園とも言われており、こういった街である為、シュヴァルツゼーレも活動しやすいのであろう。

「俺はデロリアと言う女と決着を付けなければならない、その為なら俺は…」
「分かった、行こう、ナハト」
「ああ」

ナハトとトルトゥーガは偽りの楽園、エデンシティを目指し、魔力で動くバイク、魔導バイクに2人で乗り、荒野を走っていた。魔導バイクは風の魔力でタイヤを回転させ、更に風を推進力とする事で走行するバイクである。その最高時速は100㎞近くに及び、長距離移動にはもってこいのバイクなのである。ちなみに、エデンシティではこの魔導バイクを使ったレースが開催されているらしい。

この魔導バイクはナハトの私物であるが、静かな夜を好む彼はあまり使用せず、かなりの長期間別空間にしまっておいたものである。だが、レクスシティからエデンシティまでは10㎞近くあり、歩くのが面倒な為、使用する事になった。2人は魔導バイクで荒れた荒野を駆け抜け、シュヴァルツゼーレの襲撃を受ける事もなく、無事、エデンシティに到着した。

「着いたね、ナハト、お腹すいたから何か食べよう」
「いや、そうはいかないみたいだ」

ナハトが駐車場に魔導バイクを止めていると、いつの間にかエデンシティの悪人数十名に囲まれていた。悪人たちは斧や刀、銃で武装しており、明らかにナハト達を殺す気満々であった。

「はぁ…この街の治安はどうなってやがる…」
「どうするの? ナハト」
「俺に任せろ」

そう言うと、ナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出し、速射モードにして闇属性の弾丸を数十発発砲した。それらの弾丸は全て悪人たちの首や胸に命中しており、悪人たちは次々と地面に倒れ、動かなくなった。ナハトの素早く的確な射撃を見たトルトゥーガは大変驚いており、声を出す事も出来ず、ただ目を丸くして驚いていた。

「喧嘩を売る相手を間違えやがって、馬鹿な奴らだ」

ナハトが悪人たちを全滅させた後、少し遅れてエデンシティの防衛隊が到着した。防衛隊は銃や剣で武装した軽装の隊員たちで構成されており、その名の通り、街を守る事が目的の部隊である。しかし、エデンシティには悪人があまりにも多く、防衛隊自体が逆に返り討ちに会う事も多く、市民からはもっぱら役立たず呼ばわりされている。防衛隊の隊員たちは自分達が到着する前に討伐対象の悪人たちが討伐されていた事に驚いていた。当然、こんな事は防衛隊の設立以来初めてであり、防衛隊のリーダーだと思われる女性は、現場にいたナハトに話を聞く為、近寄って来た。

「失礼、君がこの悪人たちを1人で?」
「ああ、やらなきゃ俺がやられてたからな」

その言葉に、防衛隊の隊員たちは更に驚いていた。エデンシティの悪人たちは防衛隊の手に負えないぐらい凶暴で、隊員数人がかりで鎮圧する事が主であるが、ナハトはそれをたった1人で全滅させたのだ。

「自己紹介が遅れたわね、私はミソラ・アートランド、防衛隊の隊長です」
「俺はナハト・ザラーム、で、こっちが仲間の」
「トルトゥーガ・ネリンです」

このミソラと言う女性は白く美しい長髪と、名前の通り、空のように美しい瞳が一番の特徴で、とても防衛隊の隊長をやってるようには思えない美しい顔立ちをしていた。武器は剣を使うようで、腰に剣を携えており、戦闘ではこれを振って戦うのだと思うと、とても凛々しい女性なのだなと感じた。

「すまん、もういいか? 俺達は先を急いでいるんだ」
「あ、ごめんなさいね、できればあなたを防衛隊に入れたかったんだけど…」
「悪い、人と関わるのはあまり好きじゃないんだ」

そう言ってナハトはトルトゥーガを連れ、その場を立ち去った。立ち去るナハトとトルトゥーガの後姿を見て、ミソラはある忠告をした。

「この街には、私達でも手に負えないとんでもない組織がいる、それに気を付けてね!」
「分かった、その忠告、受け取っておくよ」

その後、ナハトとトルトゥーガはエデンシティの廃工場にやって来た。こういった場所は犯罪者が潜伏している事が多く、きっとシュヴァルツゼーレもこういった場所にいると思ったのである。すると、廃工場の入り口に1人のスーツを着た女性が立っていた。こんな場所に女性1人でいる事はまずない。ナハトが警戒すると、その女性はナハトに話しかけてきた。

「君がナハト、そしてそっちがトルトゥーガかな?」
「俺達の事を知っているとは、シュヴァルツゼーレだな」
「ご名答、私はレイス・ヴァローナ、よろしく」

レイスと名乗った彼女は、グレーのショートヘアに、青い瞳の可愛らしい女性であり、とても悪人とは思えない人物であったが、以前のラフの事もあり、油断は禁物であった。

「ラフを殺ったのは君達らしいね」
「それがどうした」
「いや、どれほどの力を持っているか見させてもらおうと思ってね」

レイスが左手を挙げて合図をすると、ナハトとトルトゥーガの周りを数十人の男たちが包囲した。服装からして、シュヴァルツゼーレの構成員ではなく、エデンシティにいる悪人たちのようであった。恐らく、金か何かで雇われたのであろう。

「ナハト…! これ…!」
「ああ、どうせこんな事だろうと思ったよ」
「ナハト、そしてトルトゥーガ、ここで潰してあげるよ、やれ!」

レイスの合図で、剣や斧で武装した悪人たちが一斉に攻撃を仕掛けた。ナハトはコートの裏からシャドウエッジを手に取り、反撃の構えを取ったが、彼の後ろには無防備のトルトゥーガがいる事を思い出した。

「しまっ…! トルトゥーガ…!」

すると、トルトゥーガは右手に槍を召喚し、悪人たちを薙ぎ払い、吹き飛ばした。吹き飛ばされた悪人たちは、地面に倒れ込み、動かなくなった。

「セインスピアード…聖なる金属で作られたこの槍は…魔を断つ力を持つ…!」

セインスピアードと呼ばれたその槍は、白銀色の美しい槍で、各部は白鳥の羽根の様な装飾がなされ、刃先は宝石のように輝き、武器とは思えない美しさを持ったその槍は、装飾品のようにも思えた。

「トルトゥーガ…お前…」
「ナハトばかりに任せてられない! 私も戦うよ!」

そう言ってトルトゥーガは羽を生やし、上空に飛び上がった。そして、セインスピアードを振って真空波を放ち、悪人たち数人を一気に吹き飛ばした。

一方のナハトは、シャドウエッジで悪人たちの喉元を斬り裂き、1人、また1人と悪人の命を奪っていった。そして、いつの間にか残りはレイス1人となっていた。

「後はお前だけだな、レイス」
「残念、今日は戦う予定じゃないんだ」

そう言うと、レイスは煙玉を投げ、ナハトたちの視界を奪った。ナハトとトルトゥーガが煙を吸って咳き込み、周りの視界が奪われている間に、レイスはその場を立ち去り、煙が収まった頃にはレイスの姿はなかった。

「逃がしたか…」
「せっかくシュヴァルツゼーレに近づくチャンスだったのに…」

ナハトはコートの裏にシャドウエッジをしまい、トルトゥーガもセインスピアードを別空間に転送した。

「とりあえず、今日はどこかに宿を取って休むか」
「その前に、何か美味しい物食べようよ」
「…疲れてるから少しだけだぞ」

エデンシティに到着して1日が経った翌日。ナハトとトルトゥーガはエデンシティにある安い宿を取り、何事もなく、無事に一夜を開ける事ができた。そして翌日、トルトゥーガは朝早くから朝食の支度をしていたが、朝が苦手なナハトは、朝の9時になっても布団に籠っていた。いつまで経っても起きてこないナハトに対し、トルトゥーガは料理中ではあったものの、ナハトの部屋に突撃し、布団を引きはがした。

「ナーハートー! いつまで寝てるの!」
「うるせえな…眠いから寝させろよ…」
「駄目! 早く起きて!」
「分かったよ…ったく、うるさい光精霊だ…」

その時、キッチンの方から焦げ臭い匂いと、黒い煙が漂って来た。火を付けたままだったので、調理中の卵焼きが焦げていたのだ。トルトゥーガは慌ててキッチンの方へ向かい、ナハトはもうひと眠りしようと思ったが、どうせまた寝てもトルトゥーガに起こされるだろうと思い、ナハトはしぶしぶ起きる事にした。

今日はシュヴァルツゼーレに関する情報収集をする事を決めており、朝食を食べた後はすぐ調査に向かう予定である。その為、ナハトはいつでも出られるよう、準備をしていた。すると、キッチンの方からトルトゥーガの悲鳴が聞こえてきた為、ナハトは慌ててキッチンの方へ向かった。ナハトが到着すると、トルトゥーガは無事で、火は消されており、煙は窓の外に出ていっていたが、テーブルに一本の矢が刺さっており、よく見ると、矢には手紙が結ばれていた。

「ナハト…これ…」
「ああ、どうせシュヴァルツゼーレだとは思うが、読んでみるか」

ナハトは矢に刺さっていた手紙を読んだ。手紙には、エデンシティのB地区にある廃工場に来いとだけ書かれていた。それ以外は何も書かれておらず、差出人も不明であった。

「ナハト…どうする…?」
「行くしかないさ、デロリアの事が分かるかもしれないからな」
「じゃあ、せめてご飯食べてから行こう」
「その黒焦げか…まあ、いいだろう」

ナハトは黒焦げの卵焼きを朝食として食べた。黒焦げではあったものの、味付けがしっかりしていたのか、そこまで不味くはないようにも思えた。朝食を食べ終え、準備を終えると、2人は宿の前に止めていた。魔導バイクに乗り、宿の東側にあるB地区へと向かった。

B地区は港などがある場所で、貿易が盛んな場所であり、一般人も多く、悪人は他の地区に比べて少ないが、この地区には誰も近寄らない廃工場が一つだけある。そこは一年中閉まっており、中はどうなっているか分からないが、噂では処刑場があると言われている謎の場所なのである。防衛隊も前々から調査をしようとしているのだが、先ほど述べた通り、一年中閉まっており、壁を壊そうとしても頑丈過ぎて破壊不可能なのである。

「ここだな、廃工場ってのは」

ナハトとトルトゥーガは廃工場の前に到着し、魔導バイクを止め、廃工場の扉を開けた。一年中閉まっているはずの廃工場の扉は開いており、ナハトとトルトゥーガは中に入った。その時、突然廃工場の扉が閉まった。

「ようこそ、悪魔の廃工場に」

若い女性のその声と共に廃工場の電気が付いた。そこには回転ノコギリやボウガンのトラップなど、危険なトラップで武装された一本の橋があり、少しでも足を踏み入れれば命の危険があった。この様子はまさに悪魔の廃工場と言う言葉が似合っていた。

「貴様、シュヴァルツゼーレの兵士だな」
「勿論、私はライラ・レスポード、シュヴァルツゼーレの工作員だよ」

ライラと名乗った彼女は、桃色の長い髪と、青い瞳をした女性であり、その表情はナハト達が無残に死ぬ事を楽しみにしているのか、笑顔を見せていた。そのライラはナハト達のいる場所の橋の先に立っており、安全な場所からナハト達を眺めていた。

「ナハト、ここから出たければ、ここまで来て私を殺してみなよ」
「お前を殺してどうなると言うのだ」
「ここの扉は私の命と連動しているから、私を殺せば開くよ」
「なるほど、どのみちこのトラップを突破しないといけないと言う訳か!」

そう言ってナハトはトラップ群に足を踏み入れた。足元は回転ノコギリが等間隔に設置されており、まともに踏める足場は少なかったが、ナハトの身体能力で軽々と回転ノコギリトラップを回避した。続けて、ボウガンがナハトのいる場所目掛けて飛んできたが、ナハトはそれを回避し、ケイオスブラスターでボウガンの砲塔を破壊した。

「そんな…!」

橋の向こう側にいるライラの表情には焦りが見え始めたが、ナハトは表情一つ見せずトラップを回避し、最後のトラップであるトゲ付き振り子鉄球のトラップも、鉄球の上に乗り、跳んで移動する事でクリア。あっという間にナハトはライラの下へと到着したのである。

「言われた通り、来てやったぞ」
「ひっ! あんた、化け物よ!!」

そう言ってライラはナハトに拳銃を向けたが、ケイオスブラスターで拳銃を破壊され、ライラは丸腰となった。ナハトはそのライラにケイオスブラスターを向け、自身の目的であるデロリアの事について聞いた。

「答えろ! デロリア・ルーゼンナイトについて知っている事を!!」
「知らない! 私はただの工作員だもの!!」
「ならお前に用はない!!」

そう言ってナハトはライラの腕を掴み、回転ノコギリの方に投げ飛ばした。ライラは回転ノコギリに胴体を斬り裂かれ、遺体はそのまま橋の下に落下していった。その後、ライラの死をもって廃工場の扉が開いた為、ナハトは来た時と同じ要領で入り口まで戻り、トルトゥーガと共に廃工場の外に出た。

「結局、デロリアの事は分からずじまいって訳か…」
「骨折り損のくたびれ儲けだね、ナハト」
「そうだな」

偽りの楽園、エデンシティに到着し、悪魔の廃工場での戦いを終えたナハトとトルトゥーガ。だが、ナハトの目的はまだ達成されていないままである。しかし、ナハトは諦めずに情報収集を続けるのであった。悪魔の廃工場をナハトが攻略して1日が経過した。ナハトとトルトゥーガはエデンシティの街中を歩いていたが、悪人たちの活動場所として有名なエデンシティにしては珍しく、今日の街は平和そのものであった。そんな平和な街を歩くナハトとトルトゥーガは今日もシュヴァルツゼーレの情報を集めており、街中の怪しい所を探し回っていたが、途中でトルトゥーガがお腹を空かしてしまい、現在は近くの露店でホットドッグを購入し、近くのベンチで2人仲良く食べていた。

「ねえナハト、これ美味しいね、何て言う食べ物なの?」
「ホットドッグだ」
「ホットドッグかぁ…って! これ犬の肉なの!?」
「いや、そのドッグではない、ホットドッグと言う料理名なんだ」

その時、2人がホットドッグを食べていると、黒ずくめの男女に追われている女性がいた。長い茶髪に、黄色い瞳の少し気が強そうな女性で、ショートパンツスタイルの動きやすい服装をしていた。腰には銃を携えていた事から、多少の戦闘はできるのだろう。追われているその女性は、封筒を大事そうに抱えており、恐らく、何か大事な書類を奪って逃走しているのであろう。ナハトは、その女性に興味が湧いてきた。

「トルトゥーガ、俺は先に行く、お前は後から来い」
「えっ!? ちょっ…ナハト!?」

ナハトは食べていたホットドッグを飲み込むと、ベンチから立ち上がり、女性の後を追った。1人残されたトルトゥーガはまだ食べ終わってなかったが、ナハトからはぐれてはいけない為、慌ててナハトの後を追った。一方、黒ずくめの男女に追われていた女性は、エデンシティの埠頭に身を潜めており、息を切らせながらドラム缶の陰に隠れていた。

「ハァ…ハァ…あいつら、ここまでは追ってこないでしょ…」

女性は呼吸を整えると、封筒を開け、中身を見ようとした。その時、近くで足音がした為、女性は身構えた。もし追手が来たとすれば、戦闘は必須である。女性は、腰に携えたニードルで攻撃をする銃、ニードルガンを手にし、身構えた。

「待て、俺は戦うつもりはない」

そう言って現れたのは、ナハトとトルトゥーガであった。当然、彼女は2人の事を知らない為、怪しい人物としか思わない。

「黒い服…あんたらもシュヴァルツゼーレの追手?」
「違う、俺はシュヴァルツゼーレの情報を集めている者だ」
「シュヴァルツゼーレの情報を…?」

今の世の中でシュヴァルツゼーレに立ち向かおうとする者は少ない、いても大体が殺されてしまうので、誰も立ち向かわない。その為、シュヴァルツゼーレの相手は防衛隊がする事が多く、一般の人物がシュヴァルツゼーレに立ち向かう事は珍しい。

「自己紹介が遅れたな、俺はナハト、ナハト・ザラーム、で、こっちが…」
「トルトゥーガ、トルトゥーガ・ネリンだよ」
「私はシレーヌシレーヌ・レーデよ」

3人が自己紹介を終え、互いに敵ではない事を認識すると、シレーヌは自身が何者かを話し始めた。

「私は賞金稼ぎでね、普段は悪人を捕まえてお金を稼いでるんだけど、たまにこうやって情報を盗んでお金を稼ぐ事もあるのよ」
「何故そこまで命の危険を冒す? お前は賞金稼ぎだろ?」
「私はね、悪い人間が許せないのよ、それが例えシュヴァルツゼーレでもね」

ナハトは自分達以外にもシュヴァルツゼーレと戦う者がいる事に驚いた。大体の人物はシュヴァルツゼーレを恐れて戦おうとせず、どの人物も逃げ腰であった為、シレーヌの様な人物を見た事がなかったのだ。そして、シレーヌとならいい協力関係が取れると思った。

シレーヌ、お前が命がけで取って来た情報を俺にくれないか?」
「何でそんなにシュヴァルツゼーレの情報が欲しいの?」
「俺は追っている人間がいる、そいつは、シュヴァルツゼーレにいるんだ」
「そうねぇ…いいんだけど、追手をどうにかしてくれたら、ね?」

シレーヌの視線の先には、追手の男女が現れた。片方は銀髪ショートの男性、もう片方は茶髪ロングの女性で、2人は拳銃をこちらに向けていた。

「あいつらをどうにかすればいいんだな?」
「そう、何とかしてくれたら、これあげる、ね?」

ナハトは仕方なくケイオスブラスターを手に取り、追手の男女に銃口を向けた。

「お前は確か、シュヴァルツゼーレに逆らう…」
「ナハト、ナハト・ザラームだ」
「そうか、俺はシュヴァルツゼーレ所属のセロだ」
「同じく、シュヴァルツゼーレ所属のノルよ」

追手の2人はナハトに向けていた拳銃を発砲した。それと同時に、ナハトもケイオスブラスターから闇属性の弾丸を放った。ナハトの放った弾丸は、2人の放った銃弾を撃ち落とした。

「なっ!?」
「嘘っ!?」
「…もう終わりか…?」

追手の2人は続けて2発、3発と拳銃を撃った。しかし、どの銃弾も全てナハトに迎撃され、無力化された。そうこうしている間に、拳銃は弾切れとなってしまった。

「あいつの銃…無尽蔵なのか!?」
「生憎俺のケイオスブラスターは魔力を銃弾として放つ銃でな、魔力が枯渇しない限り弾切れは起きないんだよ」

そう言ってナハトはケイオスブラスターをセロに向け、引き金を引いた。銃口からは闇属性の弾丸が放たれ、セロの胸を撃ち抜いた。胸を撃ち抜かれたセロは仰向けに倒れ込み、動かなくなった。

「セロ!!」

ナハトは間髪入れず、続けてケイオスブラスターの引き金を引き、闇属性の弾丸を放ってノルの胸を撃ち抜いた。ノルは胸を撃ち抜かれ、しばらくは生きていたが、最後は力尽き、地面に倒れ込んで息絶えた。

「驚いた、ナハトって強いんだね」
「まあな」
「じゃあ、約束通りこの情報はあげるね」

シレーヌはナハトに封筒を手渡した。ナハトはシレーヌに感謝すると、封筒の中身を取り出した。中には3枚の紙が入っており、ナハトはトルトゥーガやシレーヌと共にそれを読んだ。すると、読んでいくうちに恐るべき事実が明らかとなった。

「…デロリア…お前は…エデンシティの市長を殺すつもりなのか…?」

封筒に入っていた紙には、明日エデンシティの市長を暗殺すると書かれていた。シュヴァルツゼーレは偽りの楽園であるエデンシティの市長を殺し、世界にその名前を轟かせるつもりなのである。エデンシティの市長が暗殺される事を知ったナハトは、その事を防衛隊に伝え、エデンシティ全域に警戒態勢を取った。市長のいる部屋の近くは多くの防衛隊隊員に護衛されており、流石のシュヴァルツゼーレも立ち入る事は難しくなっていた。ナハトもその護衛に参加しようとしたのだが、流石に一般人を市長の部屋の周りに配置する事はできず、ビルの入り口にトルトゥーガやシレーヌ共々配置されていた。

「で、何であたしも参加する事になってんの?」
「重要な情報を見つけてくれた人だかららしいです」
「だからって…こんな危険な事に参加させないでよね…」

そんな話をしていると、防衛隊隊長のミソラがやって来た。ミソラはエデンシティ全体を部下と共にパトロールしており、何度も同じ場所を行き来していた為か、顔に疲れが見えていた。

「やあ、ナハト、ちょっと代わってくれないか?」
「断る、面倒事は苦手だ」
「もう、ケチ、代わってくれたら入手困難な伝説のメロンパンあげようと思ったのにな」

ナハトは、ミソラが話している時に嫌な感覚に襲われていた。まるで今からとてつもなく恐ろしい事が起こる、そんな気がしていた。警戒は厳重で、猫一匹侵入を許す事がない完璧な警備に、トルトゥーガやミソラと言った大きな戦力がいるこの状況、恐ろしい事など起きるはずがなかったが、ナハトは感じていた。シュヴァルツゼーレはこの状況で必ず市長の暗殺を実行すると。

「もしもし? ナハト、大丈夫かい?」
「…嫌な予感がする」

ナハトがそう呟いた時、市長のいるビルの最上階が爆発とともに消し飛んだ。そこには当然、エデンシティの市長がおり、護衛の防衛隊隊員も数名が配置されていたが、彼らは先ほどの爆発で痛いと感じる間もなく一瞬で消し飛んだのだ。

「何だ今の爆発は…何が起こったと言うのだ…?」
「…恐らく、シュヴァルツゼーレの長距離攻撃だろう、奴らならそれが可能なはずだ」

ミソラにそう伝え、ナハトは先ほどの攻撃が放たれたと思う場所向け、走り出した。

「ナハト! どうする気だ?」
「俺は犯人を追う! ミソラ達はこの辺の警備を続けてくれ!」

そう言い残し、ナハトはその場を立ち去った。だが、そんなナハトの後をトルトゥーガとシレーヌが付いてきた。

「…何故お前らも付いてくる」
「いや、ナハト1人じゃ絶対無茶するからさ…」
「一応、あたしみたいな女でもいた方がマシでしょ?」
「…仕方のない奴らだな」

ナハト達が市長のいるビルを攻撃したであろう場所に向かうと、そこには黒いコートを着たオレンジ色の長髪の女性が立っていた。桃色の瞳を持つ彼女は、この世界に未練はないかのように無表情で、近くには射撃に使用したであろうライフル銃が落ちており、彼女自身は高周波で相手を斬り裂く長剣、高周波ブレードを握っていた。その彼女の事を、ナハトは誰よりも知っていた。

「…やはりお前か、デロリア」
「…ナハトか、来ると思って待っていたよ」

トルトゥーガとシレーヌは、彼女がナハトがずっと追っていたデロリアだと知り、驚愕すると同時に、シュヴァルツゼーレのリーダーが目の前にいる事に驚いていた。

「何故、市長を殺した? 別に殺さなくてもよかったはずだ!!」
「フフフ…甘いね、ナハト、奴はこの世に必要ない人間だ」

ナハトは人付き合いが苦手で、人と関わる事も得意ではないが、命の重さに関しては全員平等だと言う事を知っている。まして、かつての恋人である彼女が人の命を軽く見た言葉を発すると、心の底から怒りが込み上げてきた。

「考えてみろ、この世界の人間のほとんどは自分の事しか考えていない愚か者ばかりだ、そんな奴らに、いい世界が作れると思うか? 作れないさ」
「だから何だ! そんな人間は全員この世から消し去るって言うのか!?」
「正解だ、ナハト、君も私も、そう言った人間たちのせいで酷い目に会っただろ?」
「俺とお前が酷い目に会ったのは事実だ、だが、俺はそこまで人間の事を憎んでない!!」

ナハトが大声で自分の意思を伝えると、場は静まり返った。しかし、その間もデロリアはクスクスと笑っていた。

「じゃあ、どうすると言うのだ? 私を殺して正義のヒーローにでもなるつもりか? かつての恋人であるこの私を殺して?」
「デロリア! 俺は、お前を殺さない! お前を止めてみせる!」

ナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出し、発砲した。銃口から放たれた闇の銃弾はデロリア目掛けて一直線に飛んで行ったが、デロリアはその場を一歩も動かず、高周波ブレードで全て切り払った。ナハトは諦めずに2発、3発と撃ったものの、デロリアはその銃弾の全てを高周波ブレードで切り払い、無力化した。

「これがお前の実力か? ナハト」
「黙れッ!!」

ナハトはコートの裏にケイオスブラスターをしまい、シャドウエッジを取り出し、デロリアに斬りかかった。しかし、デロリアはその場から一瞬のうちに姿を消し、ナハトの後方に回り込んでナハトの右二の腕を斬りつけた。

「くっ! 高速移動か!?」

デロリアの高速移動は一瞬で姿を消し、攻撃の瞬間のみ姿を現して攻撃をすると言う物であったが、姿を現して攻撃をする動作があまりにも早く、おまけに現れる場所がランダムすぎる為、ナハトは対応できずに苦戦していた。

「ナハト、これが今の君の限界だ」
「くっ! まだだ! まだ…!!」

そうこうしている内に、ナハトの体は傷ついていった。このままではナハトが多量出血で死んでしまう。シレーヌはナハトを助ける為、自身の武器を使用する事にした。シレーヌの武器であるニードルガンは、様々な特殊弾頭を使用でき、その中には眠りニードルや痺れニードルなどがあった。シレーヌはその中から痺れニードルを装填し、動き回るデロリアに対し、銃口を向けた。

「お願いだから当たってよ…」

シレーヌは高速で動き回り、攻撃をする一瞬だけ姿を現すデロリアが現れる瞬間を狙ってニードルを発射した。発射されたニードルはデロリアの左太ももに刺さり、デロリアの動きを鈍らせた。

「くっ! 体が痺れる…!!」
「それはあたし特製の痺れニードルよ、10分もしない内にあなたの体は麻痺するはずよ」

その言葉を聞いたデロリアは、流石にこちらが不利と悟ったのか、高周波ブレードを別空間にしまい、落ちていたライフル銃を拾って撤退の準備を整えた。

「今回は私に負けにしておいてやる、だが、今度はこうはいかんぞ!」

そう言い残し、デロリアは高速移動でこの場から去って行った。シレーヌが機転を利かしたおかげで誰も死なずに済んだが、ナハトは心身共にボロボロになっていた。

「ナハト…大丈夫…?」

トルトゥーガが心配そうにナハトに話しかけたが、ナハトは無言で、返事がなかった。今の自分ではデロリアに勝てない事を知ったナハトは、次、デロリアに会った際にどうすればいいか悩んでいたのである。エデンシティの市長がシュヴァルツゼーレに殺害され、ナハトがデロリアに敗北したその夜のエデンシティは大混乱に陥り、ただでさえ悪い治安がさらに悪化、犯罪は多発し、一部では暴動も起きていた為、防衛隊はフルで出動し、悪人を鎮圧していた。そんな中、ナハトは宿の中で休んでいたが、今日の昼の事があまりにショックだった為、夜のエデンシティに出かけようとしていた。その時、トルトゥーガはナハトの事を心配し、話しかけた。

「ナハト…大丈夫?」
「…まあな」
「今から出かけるの…?」
「…ああ、俺の好きな夜の街を歩けば、少しは気が安らぐはずだ」

そう言い残し、ナハトは夜の街へ外出した。ナハトが外出した後、テーブルに座り、大好物のマカロンを食べていたシレーヌは、トルトゥーガに対し、ある事を聞いた。

「ねえ、ナハトって何で夜の街が好きなの?」
「前に聞いたところ、人付き合いが苦手だかららしいです」
「人付き合いが苦手…か…あたし達とは仲良くしてくれてるのにさ」

エデンシティの夜の街は治安が悪く、悪人たちは街中を徘徊し、暴れまわっては防衛隊の隊員たちに拘束されたり、始末されたりしていた。そんな中、路地裏では10代半ばの少女が5人程度の悪人に追い回されていた。悪人に追われていた少女は、少し髪の長い金髪の少女で、少し目つきの悪い赤い瞳の少女であったが、狐の耳と尻尾が生えていた。服装は闇に溶け込む為か黒一色の服装で、腰には護身用のサーベルが携えられていた。

「おい、女! どこまで逃げる気だ!」
「いい加減諦めて盗んだ金返せ!」

悪人たちはそう言い、少女を追い回した。だが、少女は息一つ切らしておらず、全然疲れた様子を見せていなかった。その後、少女と悪人は少し広い場所に出た。そこで少女は振り向き、腰に携えたサーベルを抜いた。そのサーベルは銀製であり、丈夫で切れ味が高く、かなりの値が張る高級品である。

「お? 俺らを殺す気か?」
「やれるもんならやって欲しいもんだな!!」

すると、少女は目にも止まらぬ速さで悪人たちに接近した。悪人たちが近くに現れた少女に気付いたのも束の間、悪人たちはサーベルで斬りつけられ、5秒も経たぬうちに悪人たちは全滅した。

「…これで追手は来ないはず」
「お前、中々やるな」
「誰!?」

その一部始終を見ていたのは、ナハトであった。彼は、少女の目にも止まらぬ剣の腕前を褒めていた。当然、お互いは見知らぬ存在であり、少女は警戒してサーベルをナハトに向けた。

「待て待て、俺はナハト、ナハト・ザラームだ、敵ではない」
「…私はココ、ココ・ルーよ」
「ココか…お前、獣人族だろ? 何故追われてる?」
「私は悪人たちから金品を奪って生計を立ててるの、今日も100万ゴールド程度を奪ったわ」
「えらく命がけの事をしているな」
「別にいいでしょう? 悪人なんてろくでもない人間なんだから」

すると、2人は人の気配を感じ取って身構えた。しばらくすると、ナハトの後方からアサルトライフルを持った悪人7人程度が現れた。

「エデンシティのバカ市長が死んだ! 今日は祭りだ!!」
「記念にお前らも死んで行けや!!」
「やれやれ…夜は静かにしなさいとお母さんに習わなかったか?」

そう言ってナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出した。その時、ココはケイオスブラスターを見て驚いた。

「あんた…その銃って…!」
「まあ、昔ちょっとな…」

ナハトはケイオスブラスターを悪人たちに向けたが、悪人たちは怯える事もなく、ただ大笑いしていた。

「こいつ、たった1人で俺らに盾突く気か!?」
「馬鹿な奴だ! 撃ち殺せ!!」

悪人たちは一斉にアサルトライフルを発砲したが、ナハトはケイオスブラスターに風の魔力を込め、そのまま引き金を引いて小型の竜巻を放った。小型の竜巻はアサルトライフルの銃弾を巻き込み、竜巻の消滅と同時に銃弾は地面に落ちた。

「何っ!? 何だあの銃は!?」
「この銃は特殊な銃でね、魔力を銃弾として放つ事ができるのさ」
「くそっ! 撃て! 撃ち殺せ!!」

悪人たちは諦めずにアサルトライフルを発砲したが、ナハトは先ほどと同じ要領で小型竜巻を放った。そして、小型竜巻でアサルトライフルの銃弾を無力化し続けた為、悪人たちのアサルトライフルは全て弾切れとなってしまい、ナハトはその隙にケイオスブラスターから闇の銃弾を撃った。闇の銃弾が命中した悪人たちは1人、また1人と死亡し、最終的に悪人たちは全滅してしまった。

「命を無駄にしやがって…馬鹿共が…」
「ナハトって言ったっけ? あんた、強いんだね」
「そんな事はないさ、今日はある人間に負けちまったしな」
「大丈夫、あんたはきっと将来凄い人間になるよ」

そう言い残し、ココはその場を去って行った。ナハトはココの言葉で少し気が楽になり、宿に帰った。

「おかえり、ナハト」

入り口でナハトを出迎えてくれたのはトルトゥーガであり、トルトゥーガはそのままナハトと共にリビングに向かった。リビングではシレーヌがテーブルでマカロンを食べながら漫画を読んでいたが、ナハトは特に気にせずトルトゥーガと共にテーブルに座ってトルトゥーガの作ったホットミルクを飲んでくつろいでいた。ナハトはふと今日出会ったココの事が気になり、自称情報屋のシレーヌにその事を聞いてみた。

「なあシレーヌ、ココ・ルーって獣人族の女の事知ってるか?」
「ココ? ああ、あの悪人から金品強奪してる子ね、有名な子だよ」
「そいつにさっき会ったんだが、あいつは何者なんだ?」
「ココに会ったの? あの子は幼い頃に両親を失って、今みたいな事をして生計を立ててるんだよ」
「そうだったのか…」
「まあ、悪い子じゃないみたいだし、今度会ったら話聞いてみなよ」
「ああ、そうしてみる」

獣人族の少女、ココに出会ったナハト、彼女の言葉によって少し気が楽になったナハトは、明日から再びシュヴァルツゼーレの情報収集を再開する事にした。そして、エデンシティの市長が殺害された事件から一夜が明けた次の日、いつも通りトルトゥーガは朝早くから朝食を作っており、完成すると同時にナハトと勝手に居座ったシレーヌを起こした。2人は眠そうな目でリビングに向かい、テーブルに座った。今日の朝食は卵焼きとサラダ、フレンチトーストであり、料理の得意なトルトゥーガが作った物だった為、美味であった。その味は初めてトルトゥーガの料理を食べるシレーヌも認めていた。

「あら、美味しいじゃない」
「だろ? トルトゥーガは少し口うるさい所もあるけど、料理は得意なんだ」
「ナハト! 口うるさいは余計でしょ」
「はは、悪かったよ、俺なりの褒め方さ」

3人は朝食を食べ終わると、シュヴァルツゼーレの事について話し合いを始めた。今の所、エデンシティの市長が殺害された事による暴動は防衛隊の活躍もあり、最小限の死者で抑えられている。しかし、一般市民や防衛隊隊員の犠牲も多く、いかにエデンシティの治安が悪いかが分かった。邪魔な市長を始末したシュヴァルツゼーレは、これからやりたい放題やる事であろう。そうなる前に、自分達のできる事は何か話し合っているのである。

「あのシュヴァルツゼーレのリーダー、デロリアって言ったっけ? とても強かったわよね」
「そうですね、ナハトの力でも勝てなかったし…」
「デロリア…あいつは変わってしまったよ…もう昔のあいつじゃないんだな…」

ナハトのその言葉を聞いたトルトゥーガとシレーヌはある事に気付いた。まだナハトとデロリアの過去に何があったのかを聞いていなかったからだ。ナハトがずっとデロリアを追っていた事から、何かがある事は事実で、2人の関係は元恋人と言う事も過去にナハトから聞いていた。だが、過去に何があったのか、これはまだ聞いていなかったのだ。

「ねえ、前から気になってたけど、ナハトとデロリアって女の人、過去に何があったの?」
「はいはーい、あたしもそれ聞きたいなー」
「…そう言えばその事はまだ話してなかったな、あれは3年前の冬の事だ…」

3年前…それはナハトとデロリアがまだ20歳だった頃である。当時のナハトは世界各地を旅しており、今ほど性格も暗くなかった。だが、旅だけで生活費が稼げるわけでもなく、たまに悪人をひっ捕らえては賞金を貰って生活をしていた。まだその時はケイオスブラスターもシャドウエッジも所持しておらず、武器は鋼のナイフと拳銃であり、これで旅をしていたのである。

ある日、ナハトが真冬の夜を散歩していると、3人の若い不良に絡まれている女性がいた。その女性こそがデロリアであり、まだ当時は清楚美人と言った見た目の女性であった。ナハトはデロリアを見て一目惚れしたのであろう、気が付けば3人の不良を殴って気絶させていた。困っていた所を助けてもらったデロリアは、ナハトに深々と頭を下げて礼を言った。

「あ…ありがとうございます! 私、デロリア・ルーゼンナイトと言います、あなたのお名前は?」
「え…? あ…あぁ、ナハト、ナハト・ザラームです、無事でよかった…」

当時のデロリアにはナハトの事が正義のヒーローに見えたのだろう、その日の夜はナハトが旅で稼いだお金で建設した新築の家に泊めてもらった。ナハトとデロリアはその際、様々な事を話して仲を深め、翌日、更にまた翌日と2人は会って話をした。次第に2人は心を惹かれ合っていき、交際する事になった。交際してからと言うもの、2人は様々な場所に出かけ、幸せな2人旅をする事で仲を深めていった。その様はまさに、運命の人同士が出会ったかのようであった。だが、幸せな日々は長く続かなかった。

ある日、ナハトはデロリアに用事ができたからと出かけ、その日の夜遅くまで帰ってこなかった。夜の10時を回ろうとした頃、ナハトが帰って来た為、デロリアは浮気をしたのではないかとナハトを疑った。

「ナハトくん? 一体どこに行ってたのかな?」
「…デロリア、もう別れよう」
「…え?」
「俺は、君を不幸にしたくない、不幸になるのは俺だけでいい」

ナハトが何を言っているのか分からず、デロリアはナハトに詳しく聞いた。すると、ナハトとデロリアが暮らしている家のある土地を、世界的な大富豪が無理やり買収したのである。そのせいで、ナハト達の暮らす家が取り壊される事になったのである。

「何それ…ならまたどこかで暮らしましょう、ね?」
「…駄目だ、俺には家をもう一軒買う金がないんだ」
「なら私も一緒に稼ぐから!」
「…俺なんかの為に君を不幸にさせたくない、君とはここでお別れだ」
「…そんな…ナハト…」

その後、ナハトとデロリアが暮らしていた家は取り壊され、取り壊された場所には別荘がたてられることになった。住む場所を失ったナハトとデロリアは離ればなれになり、ナハトは精神的なショックで人付き合いが苦手となってしまい、デロリアはどこかへと姿を消してしまった。

「…そして、あれから3年後、デロリアはシュヴァルツゼーレを率いて世界の革命に乗り出した」
「ナハト…そんな事があったんだね…」
「全く、その馬鹿な金持ちのせいで世界中大変な事になってるわよ!」
「シュヴァルツゼーレの初めての任務はその金持ちの抹殺だった、デロリアは本気だ」
「ナハトの話を聞く限り、元々は優しい女の人だったんだね…」
「それがあそこまで変わり果てるとは…俺があの時、別れるなんて言わなければ…こんな事には…」
「過ぎた事を悔やんでも仕方がないわ、今はシュヴァルツゼーレをどうするか考えるべきよ」
「ああ、そうだな…」

すると、ナハトはコートの裏からケイオスブラスターとシャドウエッジを取り出し、テーブルの上に置いた。

「これは俺があの後世界を旅して入手した高性能な武器だ」
「これって…どちらも凄い金額の武器よね?」
「ああ、俺が持ち主と交渉して貰った物だ、だが、これがあってもデロリアには勝てなかった…」

その言葉に、場は静まり返ったが、しばらくしてトルトゥーガがある事を呟いた。

「それで勝てないんだったら、私達に頼ってもいいんだよ」
「トルトゥーガ…」
「シュヴァルツゼーレと戦ってるのは、ナハトだけじゃないんだよ」
「そうそう! たまにはあたし達や防衛隊の人達も頼りなさい!」
「トルトゥーガ…シレーヌ…ありがとう」

ナハトとデロリアの過去を知ったトルトゥーガとシレーヌ。3年前から続くナハトとデロリアの因縁を終わらせる為、彼女たちはナハトに協力する事を誓ったのである。

エデンシティのどこかにあるシュヴァルツゼーレの基地では、街に設置された防犯カメラの映像を盗み、基地のモニターを介して街の様子が映し出されていた。現在のエデンシティは市長が殺害された事により、暴れ出していた悪人たちを防衛隊がほぼ鎮圧し、街にはある程度の平和が戻ってきていた。その様子を見ていたデロリアは、部下のレイスに語り掛けた。

「レイス、現在のエデンシティ防衛隊の隊長は誰か知っているか?」
「ミソラ・アートランド、23歳の若き女性隊長です」
「そのミソラと言う女は我々シュヴァルツゼーレにとって邪魔な存在だとは思わないか?」
「確かに、奴はエデンシティの防衛に一番貢献している人物です」
「では、レイスにはミソラ・アートランドの抹殺を命じる」
「了解です、それでは、部下を率いてその任務を遂行して参ります」

そう言い、レイスはモニターのある部屋を後にした。部屋に残されたデロリアは一人、ナハトの事を考えていた。

「仮にミソラが消えたとして、我々の一番の脅威はナハトに変わりない…早めに手を打たなければな…」

一方、そのナハトはソファーに寝そべって新聞を読んでいた。ナハトは普段、新聞などは読まない人間なのだが、シュヴァルツゼーレの情報を少しでも仕入れる為、頑張って新聞を読んでいるのである。一方のトルトゥーガとシレーヌは出かける準備をしており、そっちに興味が移ったナハトは2人に話しかけた。

「どこかに行くのか?」
「うん、今から買い出しに行くの」
「で、あたしはトルトゥーガちゃんのボディガード、この街は何かと物騒だからねぇ…」
「そうか、俺は新聞を読んで情報収集をする、そっちは任せたぞ」
「うん、じゃ、行ってくるね」

そう言って、トルトゥーガとシレーヌは買い出しに出かけた。外はかなり散らかっており、辺りにはゴミなどが散乱していた為、その様子は台風が去った後の街のようにも見えたが、地面や壁には血が付いている場所や火で焼け焦げた場所などもあり、かなりの規模の暴動が起きた事が伺えた。

「あらあら、こりゃよほど悪人が暴れたっぽいわね」
「私達、襲われないでしょうか?」
「大丈夫! もし私達を襲う奴がいればぶっ飛ばせばいいのよ」

その時、ここから300mほど離れた場所で、複数の銃撃音が聞こえた。音から察するにアサルトライフルの発砲音であり、それを盾か何かで防御する音が聞こえてきた。

「何々? まだ暴れてる奴がいたの?」
「防衛隊がほぼ鎮圧したと言っていたのに…」
「様子を見に行ってみましょう!」

そう言ってシレーヌとトルトゥーガは音のする方に向かった。銃撃音のする場所では、レイス率いる数十人のシュヴァルツゼーレ兵が、アサルトライフルを発砲しており、防衛隊の隊員たちは巨大な金属の盾であるビッグシールドで銃弾を防いでいた。隊長であるミソラはブルーセイバーと言う青い剣から発生させたバリアで銃弾を防いでおり、防衛隊は防戦一方の状態であった。

「ミソラ・アートランド、もう諦めたらどうだ?」
「我々は何があってもお前達に屈する訳にはいかない! エデンシティの市民の為なら、命を捨てる覚悟でいる!」
「そうか…この街に住むクズ共の為にご苦労な事だ…」

すると、レイスは突然呪文を詠唱し始めた。レイスが詠唱している呪文はエクスプロージョンと言う大爆発を発生させる呪文であり、呪文の詠唱を終えたレイスは防衛隊目掛けてエクスプロージョンを放った。エクスプロージョンの爆発は一撃で防衛隊の隊員たちを吹き飛ばし、ミソラも爆発に巻き込まれて大けがを負った。

「所詮、お前達の力はこの程度だったようだな、今楽にしてやる」

その時、トルトゥーガとシレーヌがレイスの前に現れた。防衛隊の惨状を見たトルトゥーガは怒りがこみ上げ、レイスの方をじっと睨みつけていた。

「お前は…ナハトと共にいた光精霊か…」
「何でこんな事を…! 許せません…!!」
「あんたらに言っても無駄だろうけど、力で相手を従わせるのは良くないわね」
「知った事か、我々シュヴァルツゼーレの目的達成のために、そいつらは邪魔なのだ」
「そんな自分勝手、許しません!!」

トルトゥーガは背中に白い翼を生やし、右手に聖なる金属で作られた槍、セインスピアードを装備した。それと同時にシュヴァルツゼーレの兵士達はアサルトライフルを発砲したが、トルトゥーガは前面に魔導障壁と言う魔力のバリアを展開し、全て無力化した。

「今のは…バリアか…!」
「お願いです、退いてください、敵とは言え、私はあなた達を殺したくありません」
「敵の心配をするとは、頭の中がお花畑だな!!」

レイスは再びエクスプロージョンを唱え、トルトゥーガを攻撃した。トルトゥーガの周りでは大爆発が発生したが、先ほどと同じ様に魔導障壁を前面に展開する事でほぼ無傷の状態であった。

「馬鹿な…! エクスプロージョンを無力化するとは…!」
「これでもまだ退きませんか?」
「我々の目的を果たすまで、退く気はない!」

その言葉を聞いたトルトゥーガは自身の体の周りに複数の竜巻を発生させた。この技の名前はスパイラルカッター、竜巻から真空波を放ち、相手を切り裂く技である。トルトゥーガの体の周りで高速回転する竜巻からは複数の真空波が発生し、切れ味鋭い真空波がレイス含めたシュヴァルツゼーレの兵士達の体を切り裂いた。

「デロリア様…お許しください…」

体を切り裂かれたレイス達は地面に倒れ込み、命を落とした。いくら悪人とは言え、尊い命を奪ったトルトゥーガは悲しい気持ちになり、一粒の涙を流し、殺した相手の亡骸を見つめていた。

「私…言ったからね…殺したくないって…」

その後、トルトゥーガに命を救われたミソラと隊員たちは、本来自分達が守るべき相手である市民に命を救われた事で、もっと自分達の力を磨かないといけない事を実感したと同時に、トルトゥーガに対し、礼を言った。

「ありがとう、トルトゥーガくん、君のおかげで私達は助かった」
「そんな…私だってたまたま買い出しの途中でここに来ただけですから」
「そうか…ならお礼と言っては何だが、5千ゴールドをあげよう、私のポケットマネーだ、使ってくれ」
「ありがとうございます! では、私達はこれで」

光精霊であるトルトゥーガの活躍により、市民を守る防衛隊の隊長ミソラと部下である隊員たちは助かった。だが、日に日に強くなるシュヴァルツゼーレの攻撃は更に強くなる一方である。そんなある日の昼下がり、トルトゥーガとシレーヌはナハトが何かのリストを見ているのに気が付いた。かなり真剣に見ている為、気になった2人はナハトに対して何を見ているのか聞く事にした。

「ねえ、ナハト、何見てるの?」
「ん? ミソラから貰ったシュヴァルツゼーレが活動していると思われる場所のリストさ」
「防衛隊ともあろう人達が、よくそんな重要機密をくれたわね」
「それだけ俺達を協力者として見てくれてたんだろう」
「言っちゃ悪いけど、防衛隊の人達、人手足りなさそうだしね…」

ナハトの見ていたリストには、怪しいと思われる場所がびっしりと記されていた。だが、それはほぼエデンシティの全域であり、いかにエデンシティの治安が悪いのかが一目で分かった。

「あ~、これほとんど怪しいじゃない…」
「そう言えば、シレーヌはどっからシュヴァルツゼーレの情報を盗んできたんだ?」
「エデンシティの外れにある廃工場よ、あの後行ってみたけど、見事に放棄されてたわね」

リストに記された怪しい場所は、100ヵ所以上あり、これらを全て探索するにはとてもではないが人手が足りなかった。ナハトにこのリストを託した理由も、防衛隊の隊員だけでは人手が足りないから手伝ってほしいと言うミソラの一存である。

「さて…これだけ怪しい場所が多いとどこから探索すればいいか迷うな…」
「あ、だったらこことかどう?」

そう言ってシレーヌが指差した場所は、エデンシティの北に位置する埠頭であった。この場所では悪人たちの怪しい取引がなされていると言う噂があり、取引される物の中には危険な薬品や、武器、弾薬、果ては奴隷や人間の臓器など、様々だと言われている。防衛隊の隊員たちもちょくちょく見回っているが、悪人たちは防衛隊の裏をかいて取引する為、中々悪人を確保できずにいるのだ。

「まあ、千里の道も一歩からと言うしな、行ってみるか」
「じゃあ、早速行きましょう」

ナハト達は早速北の埠頭に向かった。移動にはナハトとシレーヌが魔導バイク、トルトゥーガが翼を生やして飛行と言う形で行われた。その為、トルトゥーガは一般人から驚きの目で見られており、恥ずかしくなったのかしばらくしたら上空を飛行するようになった。ちなみに、かつてこの世界には精霊や魔物の類は多数存在したが、度重なる種族間での争いが勃発した事で個体数を減少させ、今では精霊や魔物はかなり数を減らしている。5分ほど移動すると、ナハト達は北の埠頭に到着した。北の埠頭は倉庫やコンテナが多数あるだけの場所で、人の気配はなかったが、もしかすると今もどこかで取引が行われているのかもしれない。

「…誰もいないな」
「まあ、取引って言うのは隠れて行う物だからね」

その時、遠くから足音が聞こえてくるのが分かった。ナハト達は身構え、足音の先に視線を向けた。

「誰だ!?」

現れたのは、黒髪に青い瞳の男性と、茶髪に緑の瞳の男性であり、兄弟なのかよく似た顔をしていた。2人の表情は温厚そうな表情ではあったものの、この場所にいるせいなのかは分からないが、不気味さがあった。すると、黒髪の男性からナハト達に自己紹介を始めた。

「僕は、レイク・レノルド、よろしく」
「弟のクレイ・レノルドだよ、よろしくね」
「貴様らもシュヴァルツゼーレか?」

その問いに、2人は頷き、肯定したかと思うと、別空間から超硬質ブレードを取り出し、戦闘態勢を取った。そして、今度はクレイから話し出した。

「僕らはただ散歩してただけなんだけどね」
「でも、敵を見つけたからには戦わないとね!」

そう言い、2人はナハトに攻撃を仕掛けた。ナハトはコートの裏からシャドウエッジを取り出し、向かって来たレイクの攻撃を受け止めた。だが、相手は長剣、大してナハトは短剣であり、力の入れ具合などを考慮するとかなり不利であった。

「トルトゥーガ! シレーヌ! 援護を頼む!」

ナハトのその言葉を受け、トルトゥーガは翼を生やし、セインスピアードを召喚し、ナハトを助けるべく、ナハトと鍔迫り合いになっているレイクに真空波を放ったが、レイクは真空波が命中する前にその場を離れ、命中することはなかった。一方のシレーヌも腰のニードルガンを抜き、クレイ目掛けてニードルを放った。クレイは超硬質ブレードでニードルを次々と切り払い、一発たりとも命中する事がなかった。

「奴ら、今までの相手とは違うようだな」
「そうみたいね、かなり手練れてるわ」
「ナハト、勝機はある?」
「もちろんだ」

そう言ってナハトはシャドウエッジをコートの裏にしまい、今度はケイオスブラスターをコートの裏から取り出した。その様子を見たレイクとクレイは、余裕の表情を見せていた。

「それは、魔力を弾丸として放つ銃だよね?」
「そんな弾丸、この超硬質ブレードで切り払っちゃうよ」
「そうか…なら、切り払われなければいいだけだ」

すると、ナハトはケイオスブラスターに雷の魔力を収束させ始めた。普段ならば収束などさせず、そのまま弾丸として放っていたが、今回は収束、俗に言うチャージをしていた。その様子は今まで見せた事がなく、レイクとクレイはもちろん、トルトゥーガとシレーヌも驚きを見せていた。

「トルトゥーガ、シレーヌ、こいつは危険だから気を付けろよ!!」
「うん、分かった!」
「ちょっとちょっと、巻き添えは嫌よ?」

そう言うと、トルトゥーガは前面に魔導障壁を張り、シレーヌはそのバリアの裏側に隠れ、防御態勢を取っていた。当然、レイクとクレイもナハトの攻撃に当たらないようにする為、攻撃の射線上から逃げていたが、ナハトは2人に標準を向ける事なく、チャージを続行していた。

「この攻撃は、どこに逃げようと無駄だ」

そう言うと、ナハトは高くジャンプし、地面目掛けて収束した雷の弾丸を放った。地表に命中した雷の弾丸は激しくスパークし、広範囲に電撃を放って周りの倉庫やコンテナを破壊した。射線上から逃げていたレイクとクレイは吹き飛んだコンテナの破片などが命中し、かなりの痛手を負ってしまった。

「くっ…! 中々やるな、クレイ、ここは撤退するぞ」
「うん、分かったよ、兄さん」

レイクとクレイの2人は、ナハト達に背を向け、撤退した。ナハトが今回放った大技は、とてつもない威力を誇り、辺り一帯は瓦礫の山と化していた。

「…流石にやりすぎたかな?」
「大丈夫でしょう、ミソラさんに説明すれば分かってくれるはずよ」
「それより、あの2人強かったね」
「ああ…レノルド兄弟…奴らは危険だ」

ナハトの大技により、危機を脱したものの、まだレノルド兄弟との決着は付いていない。次に彼らと会う時が来れば、激戦になる事は確定である。

ケイオスブラスターの奥義、スパークブラストによってレノルド兄弟を撤退させたナハト達。本日の目的は達成した為、帰路に就こうとしたその時、ナハトは海上の方から何かの気配を感じて振り向いた。すると、そこには一隻の戦艦があった。

「あれは…! シュヴァルツゼーレの戦艦か!?」
「どうやらそうみたいね、実際、こっちを狙ってるし」
シレーヌさん、それって本当?」

その時、戦艦からは艦砲射撃が行われ、弾丸は埠頭の至る所に着弾し、大爆発を起こした。ナハト達は爆風で吹き飛ばされそうになったが、何とか耐えて吹き飛ばされないようにしていた。

「おいおいおい! こんなの聞いてないぞ!」

ナハト達が撤退しようとしている間にも、戦艦からは艦砲射撃が続けられており、埠頭は艦砲射撃によって火の海と化していた。ナハト達は急いで魔導バイクに乗ったが、辺り一帯は瓦礫の山になっており、どこに逃げればいいかまるで分からなくなっていた。

「えっと…俺らどこから来たっけ?」
「忘れないでよぉぉぉ!!」
「これだけ瓦礫の山と火の海になってたら分かんねえよ!!」

その時、炎の向こう側から大きな声が聞こえてきた。声の主はどうやら女性のようで、ナハト達を助けようとしているようであった。

「こっちよ! 私を信じてこっちに来て!!」

今は彼女の言葉を信じるしかないと感じたナハト達は、助走を付けて一気に炎の中に突っ込んだ。魔導バイクには車体全体を風魔力のバリアで覆う機能が付いており、炎の中に突っ込む際にそのバリアを全開にした事で、ナハト達は焼ける事なく、無事炎を突破する事ができたのである。ナハト達が炎を突破した事を確認すると、シュヴァルツゼーレの戦艦は攻撃をやめたのか、一切の艦砲射撃は行われなくなった。

「ふぅ…トルトゥーガ! シレーヌ! 無事か?」
「わ…私は大丈夫…」
「こっちも大丈夫よ」
「無事で何よりだわ」

そこに立っていたのは、1人の女性であった。薄紫のロングコートを着込んでおり、髪型はピンクのショート、瞳は深い海の様な青で、明るい表情の彼女は、とても優しそうであった。実際、見ず知らずのナハト達を助けた事から、困ってる人は見捨てられない性格なのだろう。

「おっと、自己紹介が遅れたね、私はエスカ、エスカ・レニー」
「俺はナハト、ナハト・ザラームだ」
「私はトルトゥーガ、トルトゥーガ・ネリンだよ」
「あたしはシレーヌシレーヌ・レーデよ」

エスカ、お前は何故俺達を助けてくれたんだ?」
「私はね、困ってる人は見捨てられない性格なんだ」

「しっかし、よくこんな危険な所うろついてたわねあなた」
「私、街の治安を守るのが好きだからたまにこう言う所歩くんだ」
「それで、俺達と出会ったと…」

その時、ナハトは感じた、自分の持つ強運に。もしこの強運がなければ、今回は危なかったかもしれないからだ。

「ところで、あなた達は何で戦艦から攻撃受けてたの?」
「あぁ…俺達はシュヴァルツゼーレと戦ってるからな」
「シュヴァルツゼーレねぇ…たった3人じゃ無理だよ、もっと仲間集めよう?」
「仲間か…そう言うお前は協力してくれるのか?」
「相手が街の治安を悪くする相手だったらね」

その時、ナハトは考えていた、自分の知っている人物の中で、協力してくれそうな人物の事を。考えに考えた末、思いついたのが以前に一度だけ出会ったココであった。ナハトはシレーヌにココのいそうな場所の情報を貰い、その日の夜ココがいると言われている場所で待つ事にした。

「…ここは以前俺がココと出会った場所か…本当にいるのか…?」

シレーヌから貰ったココのいそうな場所は、以前にナハトがココと出会った路地裏であった。あの時は本当にたまたま出会っただけであったので、今度も本当に会えるのか心配であったが、しばらくすると、ココはナハトの前に姿を現した。

「…また会ったわね、ナハト」
「ココか…まさか本当に会えるとはな」
「で、あたしに何か用?」

ナハトはココにシュヴァルツゼーレと共に戦ってくれないかと頼んだ。当然、シュヴァルツゼーレと戦うと言う事は当然命がけであり、悪人から金を盗んで生計を立てているココには何のメリットも無い。だが、ナハトは頼める相手がココぐらいしかいない為、ダメ元でココに頼んでいるのである。

「シュヴァルツゼーレと戦ってほしい…か…じゃあ一つ聞いていいかしら?」
「何だ?」
「私がシュヴァルツゼーレと戦って何かメリットはある?」

ココがシュヴァルツゼーレと戦って得るものは当然、何もない。ただ命をかけた戦いをすると言う、とても危険なものである。当然、そんな命がけの事を望んでする人間はいないであろう。ナハトはココの問いに対し、しばらく悩んだ末、答えを出した。

「世界平和に一歩近づく為の手伝いができる、と言った所か」
「世界平和…ねぇ…もしそれが実現すれば、私みたいな仕事をする人って、減るかな?」
「完全には減らないだろうが、少しは減るかもしれない」

その言葉を聞き、ココはしばらく考えた。今から出す答えには、自らの運命が関わってくるからだ。ココは考えた末、ナハトに答えを出した。

「…分かった、あたしも手伝ってあげる」
「いいのか? 危険だぞ」
「いいのいいの、どうせ今の仕事も危険なことに変わりはないしね」
「感謝するぞ、ココ」
「ったく、あんたもたった一回だけ会ったあたしに頼りに来るなんて、変わってるわね」
「すまない」

翌日、シュヴァルツゼーレと戦う為の同盟を作り上げたナハト達は、エスカが怪しいと睨む街外れの研究施設へと向かった。そこはエデンシティの中でも特に街外れの場所であり、辺りには木々が立ち並んでいるいかにも怪しい場所であった。エスカは前々からこの研究施設に何があるのか気になっており、ひょっとしたらシュヴァルツゼーレの施設かもしれないと言う事で、今回ナハト達と共に調査する事になったのである。

「なあエスカ、やけに静かだがここには人がいるのか?」
「分かんないから今から調査するんじゃん」
「とりあえず、入っていいかどうか聞くか」

ナハトは辺りを警戒しながら研究施設の入口へと向かった。しかし、入り口にはインターホンらしきものは見当たらず、仕方なくドアをノックしてみたが、反応はなかった。もしかしたら本当に無人の研究施設なのかもしれない。そう考えるとますます怪しさが増していった。

「なあ、エスカ、ここ誰もいないんじゃないか?」
「だったら入っちゃおうよ」
「ちょっとエスカさん! 駄目ですよそんなの! 犯罪になっちゃいますって!」
「いいからいいから」

トルトゥーガの注意も聞かず、エスカは研究施設のドアを開けた。意外な事にドアに鍵などはかかっておらず、ナハト達は先に入ったエスカの後を追って中に入った。研究施設の中はシュヴァルツゼーレの兵士が使用するアサルトライフルや拳銃、ナイフ等が置かれており、その他にはミサイルや自走砲なども置かれていた。この事から、ここがシュヴァルツゼーレの研究施設だと言う事が分かった。

「こんな所にシュヴァルツゼーレの研究施設があったなんて…情報屋の私でも知らない事があるものね」
「あら、情報屋って何でも知ってるわけじゃないのね」
「茶化さないでよココ、私だって全知全能じゃないわ」

その時、トルトゥーガがある事に気付いた。どうやら、地下に降りる為の階段があったようだ。

「ねえナハト、あそこから地下に降りれそうだよ」
「地下への階段か…怪しいな…」

ここに降りろと言わんばかりに存在する地下への階段。この先にある物が何なのか気になったナハト達は、恐る恐る階段を降りて行った。すると、そこには目を疑うほど恐ろしい光景があった。巨大な培養液の中に浸された生物、その生物は頭や体がワニであったが、尻尾はアナコンダの物であり、ワニの頭部には鋭いサイの角があった。そして、背中には巨大なカラスの羽が生えており、それはまさに、キメラと言うべき存在であった。

「な…何だこれは…!?」
「色んな生物が合成されてる…? 私が調査しようって言いだしたけど、気持ち悪いわね、この研究施設」
エスカ…お前、とんでもない所に俺達を連れてきてくれたようだぞ」

その時、物陰から1人の人物が姿を現した。その人物は白衣を着た老人であり、左目に黒の眼帯をしていた。だが、その表情はどこか狂気に満ちた表情であり、まさにマッドサイエンティストと言う言葉が似合っていた。

「ようこそ、我が研究所へ」
「おいジジイ、お前がこの生物を作ったのか?」
「いかにも、こいつはこのわし、Dr.バイオの最高傑作であり、シュヴァルツゼーレの誇る最強のキメラ兵器だ」
「生き物を兵器扱いだなんて…酷すぎます!!」

トルトゥーガはDr.バイオに対し、怒りをあらわにした。しかし、Dr.バイオはむしろ嬉しそうに笑っていた。まるで、自分が悪い事をしている自覚がないように。

「何とでも言え! わしは世界で一番の天才、Dr.バイオ様だからな!!」

すると、Dr.バイオは培養液の入ったカプセルのスイッチを押し、中に入っていたキメラ兵器を解放した。キメラ兵器は巨大な咆哮を上げ、よだれを垂らしながらナハト達を睨みつけていた。

「やれ! No.28よ!!」

No.28と呼ばれたキメラ兵器はナハト達に襲い掛かった。手始めに鋭い爪を振り下ろしたが、それほど動きは早くなく、ナハト達は攻撃を回避した。キメラ兵器が次の攻撃を仕掛ける前にエスカとココは剣で攻撃したが、キメラ兵器の胴体は頑丈な鱗で覆われており、剣が全く通らず、逆に弾かれてしまった。

「残念だったな! No.28の体にはアルマジロの遺伝子を配合している! No.28の鱗はアルマジロの殻並の強度なのだ!」
「何よそれ! じゃあ、あたし達に勝ち目無いじゃない!」

キメラ兵器の恐るべき強さに、シレーヌはどうすればいいか悩んでいたが、そんなシレーヌに対し、ナハトがある作戦を立てた。

シレーヌ! お前のニードルガンで奴の目を狙え!」
「目? 分かったわ!」

ナハトとシレーヌはそれぞれ銃を構え、その銃口をキメラ兵器の目に向けた。他の仲間達が注意を引き付けている間に、2人はキメラ兵器の目に向けて雷の銃弾とニードルを放った。それらの攻撃はキメラ兵器の目を潰し、キメラ兵器は視界を失い、暴れ始めた。

「馬鹿な! No.28の唯一の弱点に気付くとは!!」
「目はどの生物にとっても弱点だ、それに気づかなかったお前のミスさ」

視界を失って暴走したキメラ兵器は滅茶苦茶に暴れ回り、尻尾を振り回して周りを破壊し始めた。

「よせ! No.28! 落ち着…!!」

Dr.バイオはキメラ兵器の尻尾に当たって吹き飛ばされ、壁に体を強くぶつけて命を落としてしまった。生みの親を殺してもなお暴れるキメラ兵器を止める為、ナハトはケイオスブラスターに炎の魔力を込めた。

「そんなに暴れなくても今楽にしてやる…! 一瞬でな…!」

ナハトはキメラ兵器に向かって行き、キメラ兵器が口を開いた瞬間、チャージしていた炎の銃弾をキメラ兵器の口目掛けて放った。キメラ兵器の口目掛けて放たれた炎の銃弾は、一瞬にしてキメラ兵器の体内を焼き尽くした。体内を焼き尽くされたキメラ兵器は倒れ込み、激しく燃え上がった。

「…これが奴の最後だ」
「兵器として生まれ、兵器として死ぬなんて…悲しいね、ナハト…」
「そうだな…二度とこんな奴が生み出されないよう、俺達が戦うしかない」

シュヴァルツゼーレの研究施設でのキメラ兵器との戦い、望まれず生まれた命との戦いで、ナハト達は絶対にシュヴァルツゼーレを倒すと誓った。二度とキメラ兵器を生み出させない為に…。

ナハト達の活躍により、キメラ兵器は倒され、シュヴァルツゼーレの研究施設は防衛隊に奪取された。結果、シュヴァルツゼーレは革命の為なら生き物の命すら平気で弄ぶ事が明らかとなり、今回の非人道的な研究は世界を大いに震撼させた。この件をきっかけに、世界はシュヴァルツゼーレに対抗する為、僅かながらもエデンシティに支援をした。これにより、防衛隊の戦力はアップし、以前よりもシュヴァルツゼーレや悪人たちに立ち向かえるようになった。だが、この件をきっかけにシュヴァルツゼーレも危機感を抱いた事は確かであり、革命の為に非人道的な研究を続けていたDr.バイオは死亡、研究成果も全て防衛隊に奪われてしまった。世界の革命からまた一歩遠のいたシュヴァルツゼーレは、革命を起こすならまず先にナハトを潰そうと考えた。シュヴァルツゼーレのリーダーであるデロリアは、側近のノレッジを連れ、ナハトが宿泊する宿へと向かった。

「ノレッジ、ナハトはどこに泊っている?」
「はっ、偵察班によると、3階との事です」
「よし、そこに爆裂弾を撃ち込んでやれ」

ノレッジは拳銃の銃口に特殊弾頭の一つである爆裂弾を装着し、宿の3階に狙いを定めた。シュヴァルツゼーレ製の拳銃は様々な特殊弾頭が装着可能であり、睡眠弾や冷凍弾など、様々な特殊弾頭があるのだ。今回使用する爆裂弾は周囲に大爆発を起こす弾頭で、その破壊力はエクスプロージョンと同等である。そしてノレッジは射程圏内ならほぼ必中と言うレベルの銃の腕前を持っており、狙った獲物は逃さない。その腕前を買われ、デロリアの側近を務めているのだ。ノレッジが宿の3階に爆裂弾を撃ち込むと、宿の壁に着弾、そのまま大爆発を起こした。結果、壁には大きな穴が開き、室内にあったベッドなどの家具は爆風で焼け焦げていた。しかし、そこにナハト達の死体はなかった。

「デロリア様、ナハト達の姿が見当たりません」
「何!?」

その時、デロリアの後方から数人の人物が姿を現した。彼らこそがナハト一派であり、先ほどの爆発で死んだわけではなかったのである。

「ナハト…! 何故…!?」
「残念だったな、デロリア、お前の行動は防衛隊の監視カメラで把握済みだ」
「そうか…防衛隊から連絡が行き届いていたからあの部屋を抜け出していたと言う訳か」
「まあ、防衛隊も無能じゃないって訳だな、俺達は多分宿追い出されるが」
「なら、ナハト! お前はここで私が殺してやる!!」

そう言ってデロリアは高周波ブレードを別空間から取り出し、ナハトにその矛先を向けた。その決闘を承諾したナハトは、コートの裏からシャドウエッジを取り出し、矛先をデロリアに向け、彼女に一言告げた

「デロリア! 俺はもう過去の俺じゃない! 今度は俺が勝つ!」
「黙れ! 私にはやるべき事がある! 世界の革命と言う役目が! その為に、ここで引き下がるわけにはいかない!!」

デロリアは高周波ブレードをナハト目掛けて振り下ろした。ナハトはシャドウエッジでその攻撃を受け止めたが、デロリアは高周波ブレードに力を込め、無理やり押し込んだ。刃の長さで圧倒的に劣っているシャドウエッジはどんどん押し込まれ、ナハトは危機に陥っているのだが、ナハトは顔色一つ変えていなかった。

「デロリア、お前はまだこの世界を変えようとしているのか?」
「当たり前だ! あの日の事、忘れてはいるまい? あの様なクズが1人もいない世界、私はそんな世界を作る為なら、どんな犠牲もいとわない!!」
「クズが1人もいない世界か…それは最高だな…」

そう話している途中、ナハトは素早くもう片方の手でケイオスブラスターを取り出し、デロリア目掛けて闇の弾丸を放った。ナハトの行動にいち早く気付いたデロリアは素早く後退し、高周波ブレードで闇の弾丸を切り払った。デロリアは非常に焦った為、感情が表情に出ていたが、またもやナハトは表情一つ変えていなかった。そして、ナハトはデロリアに先ほどの話の続きをした。

「だが…俺は犠牲の上に成り立った革命なんて必要としていない!!」
「何を…! お前はまたあの時のように幸せを奪われたいのか? それでいいのか!?」
「もちろん良くないさ、だが、俺はお前みたいな過激なやり方で世界を変えるつもりはない!!」

そう言ってナハトは一瞬のうちにデロリアに近づき、1秒間の内に6回斬りつけた。その6回の斬撃は、逆三角形と三角形を足した様な形で、ヘキサグラムスラッシュと呼ばれている。デロリアはその攻撃を高周波ブレードで防御したが、先ほどの攻撃の威力に耐えられず、バラバラになってしまった。

「私の高周波ブレードが…!」
「デロリア! お前が革命の為に犠牲を増やすなら、俺はそれを全力で止めてやる!!」
「ナハト…! お前と私は分かり合えない関係になってしまったのか…!!」

デロリアはナハトに背を向け、ノレッジと共にその場を去って行った。その背中を、ナハトはじっと見つめ、ある事を考えていた。何故、恋人だったあの日から、3年でこうも変わってしまったのか、またあの日の様な関係の戻れないのかと…。

ある日の昼下がり、この日は珍しく何の事件も起こらない平和な日常を過ごしていた。ナハト達は前回の戦いで泊まっていた部屋を破壊され、宿主からカンカンに怒られたものの、防衛隊が事情を説明した為、追い出されずに済んだ。その日の午前中、特に情報を見つけられなかったナハト達は、たまにはゆっくり休もうと休憩していた。そんな中、トルトゥーガはナハトに対し、もう少し過去の話を聞いてみようと考えた。

「ねえ、ナハト」
「何だ?」
「ナハトの過去は前に聞いたけど、デロリアさんと別れた後、ナハトは何してたの?」
「あ~…あんまり面白くないけど、聞くか?」

ナハトのその言葉に、トルトゥーガ達は目をキラキラさせながら頷いた。彼女たちの期待を裏切る訳にはいかず、ナハトは過去の話を始めた。

デロリアと別れた後のナハトは、ほぼ廃人と言ってもいい状態であった。日中は部屋に籠りっきりであり、買い出し以外で外に出る事はほとんどなく、近所の人とは全く関わらずにいた。食事はカップ麺か冷凍食品ばかり、一日の行動は食べて寝る程度であった。ナハトに家族はおらず、父親も母親も幼い頃に事故で失っている。頼れる親戚なども全くいない為、ナハトは1人で少しずつ精神を病んで行った。

幸せな日々から一転して絶望の日々になった事でナハトは何度も自殺を考えた。だが、彼に死ぬ勇気はなく、何度も途中でやめた。これからこの絶望な日々が続くのかと考えたその時、ナハトは考えた。また昔のように旅に出れば少しは気が晴れるかもしれないと。そう考えたナハトはほんのわずかに残った金と旅に出る為に必要な道具や護身用の武器を持ち、再び世界を巡る旅に出た。

最初は乗り気ではなかったこの旅であったが、旅を続ける内に少しずつ精神を回復させていき、半年ほどすれば自殺を考えなくなるほどには精神が回復した。そんなある日、ナハトは自身の相棒となる武器と出会った。それはナハトがアインベルグ大陸と言う場所を旅した時の事、とある国の露店にケイオスブラスターとシャドウエッジが飾られているのを見かけた。ナハトはその2つの武器に魅かれた、これは恐らくナハトがこの武器に運命を感じたのであろう。ナハトは早速その露店の店主に値段を聞いたが、その店主はこれは売り物ではないと答えた。だが、その武器を諦められなかったナハトは、アインベルグ大陸に1ヶ月間滞在し、1ヶ月に渡ってその店主に交渉した。その結果、その店主はナハトの武器に対する愛に負け、ケイオスブラスターとシャドウエッジを譲ってくれた。その店主にとってケイオスブラスターとシャドウエッジは亡くなった友人の形見だったようだが、ナハトなら大切に使ってくれるだろうからと言う事でナハトにその2つの武器を譲ってくれたのである。翌日、ナハトがその露店に向かうと、店主の姿は見えなかったが、ナハトは店主から貰ったケイオスブラスターとシャドウエッジを使いこなし、数多くの死線をくぐり抜けてきたのである。

そんなある日、ナハトの運命が変わる出来事が起こる。デロリアがシュヴァルツゼーレを率い、世界の革命に乗り出したのである。手始めにナハトとデロリアの運命を狂わせた世界的な大富豪を抹殺したデロリアは、この世界に変革をもたらす為、世界各地でテロ行為を行った。だが、ナハトが狙う相手はデロリアただ1人であり、その出来事からナハトはデロリアを追って旅を続けた。その中で彼はトルトゥーガと出会い、シレーヌと出会い、エスカやココと出会ったのである。

「と、まあ、こんな感じかな」
「ナハト…大変だったんだね…」
「まあな、今はお前らがいるけど、あの時は相談できる相手が1人もいなかったしな」

すると、シレーヌがナハトの肩を叩き、ナハトに対して笑顔を見せた。

「ナハト、もし辛くなったら、あたしらを頼りなよ?」
「そうですよ、私達は仲間ですからね」
「あたし達だけじゃない、ミソラたち防衛隊の人もいる…」

シレーヌに続き、エスカとココもナハトに笑顔を見せた。彼女たちが笑顔を見せた事でナハトも笑顔を見せ、最後にトルトゥーガがナハトに一言語り掛けた。

「ナハトはもう1人じゃない、今は私達がいるって事を忘れないでね」
「ああ!」

一時は廃人になりかけていたナハトだったが、今はトルトゥーガを始めとした多くの仲間が付いている。ナハトは仲間達と共にシュヴァルツゼーレと戦うのである。一方、ナハトに敗北したデロリアはノレッジと共に基地に帰還した。デロリアは椅子に座り込み、これからの作戦を考えていた。ナハトは今まで以上に力を付けてきている、レノルド兄弟だけではなく、自身も撤退に追い込まれた。これからは並大抵の相手では死にに行くようなものだろう。そんな相手をどうやって倒せばいいのか、彼女は分からずにいた。

その時、デロリアは自分が何故戦っているのかを思い出していた。自分が戦っている理由、それは忘れもしないナハトと別れた日、あの日、世界的な大富豪に家を潰された事が全ての始まり、あの出来事なければ、2人はずっと幸せでいられたのかもしれない。自分がなぜ戦っているのかを忘れ始めていたデロリアは、戦うきっかけとなったナハトと別れた日の事を思い出した。

ナハトから別れを告げられたその日、デロリアは敷地内からの退去を求められ、1人遠く離れた実家へと帰って行った。まだ20歳になったばかりのデロリアには辛い出来事であり、実家への帰り道、何度も入水自殺を考えたほどであった。これからナハトと2人で歩むはずだった未来、それを全く関係のない赤の他人に奪われたのである。この出来事はまだ若い彼女にとっては辛い物であった。

長い距離を歩き、足が痛んだデロリアは、誰もいない実家のソファーに顔を埋め、1人、大きな声で泣きじゃくった。誰もいない部屋の中にその泣き声は響き渡り、彼女は時間を忘れ、何時間も泣いた。あれから何時間泣いたであろうか、深夜に実家に帰ってきたデロリアは泣き続け、気が付けば朝になっていた。ナハトと同じで幼い頃に事故で家族を失ったデロリアには、頼れる人物はおらず、仲のいい友人もいない。

「このまま死んでしまおうかな」

デロリアは誰もいない部屋で1人、そう呟いた。もう死んでしまおうとキッチンから包丁を取り出し、首にあてがった。このまま力を入れればすぐに死ぬことができる。だが、本当にそれでいいのか? 自身を不幸にしたのは他の人間やこの世界、だったらこの世界に復讐するべきではないのか? 精神的に限界を迎えていたデロリアにはもはやそんな考え方しかできず、デロリアは世界に復讐する事を誓った。

世界に復讐を誓ったデロリアはまず、武器屋で剣を買い、それを振って剣の練習をした。今まで武器を取った事のなかった彼女であるが、世界に復讐を誓った今、そんな事は言ってられない。毎日何回も剣を振り続け、剣の腕前は次第に上がって行った。

だが、デロリアは薄々感じてはいた。1人でできる事には限界がある、たった1人でこの世界に復讐する事などできない。1人がどんなに突出していても、集団で攻撃を受ければ負けてしまう。そうならない為には、仲間を増やすしかないと。

だが、デロリアに協力してくれそうな人はいない。友人もロクにいないデロリアには人脈も無い。だったら、今から作ればいいだけだと思ったデロリアは、1人、危険を顧みず犯罪組織の基地へと向かった。下手をすれば殺される危険な行為であるが、今のデロリアにとって命など不必要な物同然であった為、こう言った危険な行為ができたのである。

犯罪組織の基地に向かったデロリアは、悪人たちを言葉巧みに操り、自身への協力を誓ったのである。こうして、少しずつ犯罪者や不良を取り込んで行き、いつの間にかデロリアの仲間は組織と呼べるほどの人員を獲得したのである。その後、デロリアは組織名をシュヴァルツゼーレと命名し、復讐の為、運命を狂わせた大富豪のいる場所へと向かった。まず、大富豪の家を取り囲み、一斉に大富豪の家に突入した。そして、そこにいた使用人や大富豪の家族を皆殺しにし、デロリアは運命を狂わせた大富豪の下に降り立った。

「た…助けてくれっ! お願いだっ!!」
「クックック…死ねッ! 死ねぇぇぇッ!!」

デロリアは狂ったような表情で大富豪の首を刎ねた。その後、デロリアは大富豪の死体を元が分からなくなるほど切り刻んだ。彼女が正気に戻った時には、彼女の体は返り血で真っ赤に染まっており、それを見た彼女の部下はデロリアに恐れをなしたようだ。これにより、復讐を達成したデロリアであるが、今の彼女にとってこの程度ではまだ飽き足らず、デロリアはシュヴァルツゼーレを率い、世界に革命を起こそうとしたのである。そう考えたデロリアは部下をエデンシティに集め、ここで密かに活動して兵力を増強しようと考えたのである。だが、彼女の前にはかつての恋人であるナハトが立ち塞がり、作戦はことごとく失敗、仲間も次々と失ってしまった。だが、デロリアはまだ諦めていない、自身の日常を奪った堕落に満ちた今の世界を変え、愚かな人間を全て抹殺した正しい人間の集まった世界を作る為、デロリアはこれからも戦い続けるのだ。

ナハトとデロリア、この2人は同じコインの表と裏の様な存在である。一度は共に歩めるはずだった2人、しかし、今は敵同士となっている。この2人が分かり合える日はいつ訪れるのか? 分かり合うことが出来ない2人はこれからも戦い続ける事になるのである。

日中は賑わっているエデンシティも、夜は静まり返っている。真夜中のエデンシティの風は冷たく、散歩には不向きな気温であるが、真夜中の散歩が日課のナハトにとってはそんな事は全く関係ないのである。トルトゥーガ達が寝静まった頃、ナハトは部屋を抜け出し、夜の街に出た。そこはナハトにとって楽園であり、人はほぼおらず、静かな世界が広がっていた。エデンシティの夜は少し治安が悪いものの、ナハトにかかればその辺の悪人など一捻りであり、誰もナハトには近寄ってこないのである。この為、ナハトは夜のエデンシティを満喫していた。しかし、その平穏も長くは続かなかった夜の街に突然、爆発音が響いたのである。

「爆発音!? シュヴァルツゼーレか?」

その爆発音はナハトのいる場所から近く、爆発音がした後は戦闘音が聞こえてきた。もしかすると、防衛隊がシュヴァルツゼーレと戦っているのかもしれない。そう思ったナハトは、その戦闘音の方へと向かった。

一方、戦闘音の方では、ミソラ率いる防衛隊とシュヴァルツゼーレのレノルド兄弟が交戦していた。レノルド兄弟は剣や銃を装備した隊員たちをたった2人で壊滅状態に追いやり、残ったミソラを2人がかりで攻撃していた。2人がかりで攻撃を受けていたミソラはズタボロで、体の至る所から血が流れていた。だが、ミソラはエデンシティの平和を守る為、痛む体に鞭打って立ち上がろうとしていた。そんな中、戦闘音を聞きつけてやって来たナハトが現れた。

「ミソラ! 大丈夫か?」
「ナハト…来てくれたみたいね…」
「兄さん、始末する人間が増えたよ」
「そうだな、クレイ、なら、さっさと始末するか」

レノルド兄弟は2人同時にナハトに攻撃を仕掛けた。ナハトはケイオスブラスターから雷の弾丸を放ったが、2人は超硬質ブレードで全て切り払い、無力化した。そうこうしている内にレノルド兄弟がナハトに接近、ナハトはケイオスブラスターをしまってシャドウエッジを取り出し、レノルド兄弟に応戦した。しかし、シャドウエッジは短刀、レノルド兄弟の装備する超硬質ブレードは長刀である、長い刀身の武器に対し、短い刀身の武器はあまりに相性が悪い。おまけに相手は2人いる、ナハトはたった1人で2人を相手しなくてはならない。レノルド兄弟の連携の取れた連続攻撃を前に、ナハトは防戦一方、体には傷が増えて行った。

「兄さん! 今回は僕達の勝ちだね!」
「そうだな、クレイ! 一気に決めるぞ!」

レノルド兄弟は一旦ナハトから離れると、X字を描くように真空波を飛ばした。レノルド兄弟の特技、クロスカッターである。この程度の攻撃は普段のナハトなら回避できるが、痛手を負ったナハトには回避が間に合わなかった。ナハトはとっさにシャドウエッジで防御したものの、シャドウエッジを弾き飛ばされ、ナハトは武器を失ってしまった。すると、レノルド兄弟は弱った獲物を狙うライオンのようにナハトに攻撃を仕掛けようと足を走らせた。その時、レノルド兄弟の前に現れた1人の人物の真空波により、レノルド兄弟は吹き飛ばされてしまった。

「トルトゥーガ…来てくれたのか…」
「ナハトが危険って感じたの、だから飛んできたよ」

ナハトの危機を救った人物はトルトゥーガだった。トルトゥーガは戦闘音で目を覚ました際、寝室にナハトがいない事に気が付いた。もしかすると危ない事をしているのではないかと感じたトルトゥーガは、慌ててこの場所へと飛んできたのである。

「ナハト…私はナハトを死なせたくない…だから、私はナハトを守る!!」
「兄さん、あいつ、たった1人で挑む気だよ」
「なら、無謀だと言う事を教えてやらなければな」

「ナハト…ケイオスブラスターを撃つ事はできる?」
「ああ、かろうじてな」
「なら、トドメは任せたよ!!」

トルトゥーガは自身の周辺に1つずつ竜巻を発生させた。レノルド兄弟は攻撃を仕掛けてくると感じ、散開したが、トルトゥーガの狙いは攻撃ではなく、一か所に集める事だった・

「行くよ! スパイラルストーム!!」

トルトゥーガはレノルド兄弟に対し、竜巻を放った。放たれた2つの竜巻はレノルド兄弟を巻き込み、一か所に集めてその動きを封じた。

「兄さん…! 動けないよ…!!」
「まさかあの女はこれを狙って…!?」

激しい突風がレノルド兄弟の動きを封じている間に、ナハトはケイオスブラスターに雷の魔力を収束させた。そして、完全に収束が完了すると、ケイオスブラスターの銃口をレノルド兄弟に向けた。

「こいつで終わりだ! ライトニングアロー!!」

ケイオスブラスターから放たれた雷の弾丸は矢のように鋭く、この一撃は竜巻によって勢いが低下する事なく、レノルド兄弟の体を2人まとめて貫いた。そして、貫かれたレノルド兄弟を激しい電流が襲った。

「うわあああ! 兄さぁぁぁん!!」
「安心しろ…クレイ…これで…デロリア様に与えられた任務は完了する…」

レノルド兄弟の兄であるレイクがそう呟いた後、2人は自分の胸に手を当てた。すると、レノルド兄弟の体が輝き、次の瞬間、2人は大爆発を起こし、激しい光が放たれた。その光はエデンシティ全体を明るく照らし、一瞬だけではあったものの、辺りは朝のように明るくなった。そして、その光が収まった時、そこにいたのはミソラとレノルド兄弟に殺された隊員の死体だけであった。つまり、ナハトとトルトゥーガの姿がなかったのである。

「ナハト…トルトゥーガ…一体どこへ行ったというの…?」

レノルド兄弟に勝利したも束の間、ナハトとトルトゥーガの姿が忽然と消えてしまった。レノルド兄弟が死に際に放った光に飲み込まれたナハトとトルトゥーガは、気が付くと密林の中に倒れていた。2人は辺りを見回し、ここがエデンシティじゃない事を確認し、困惑しつつも、これからどうするか作戦会議を始めた。

「今の状況を整理すると、俺達はあの兄弟の死に際に放った光に飲み込まれ、ここにいると言う訳か…」
「ナハト、あの光だけどね、多分あれは私達をここに転移させる為の魔力の光だよ」
「つまり、転移魔法の魔力を閉じ込めた小型爆弾でも装備していたと言う訳か?」
「多分ね、後、落ち着いて聞いて、ここは私達のいた世界じゃない、異界だよ」

ナハトはその言葉を聞いて驚いた。かつて魔法が活発に使われていた旧時代では、異界に行って戻って来た人物が多数いたようで、ナハトも子供の頃に彼らの物語を聞かされたものだ。だが、科学が発達した現代においてそのような事例は少なく、ましてや異界など物語の中の夢物語だとばかり思っていた。しかし、異界は確かに自分達の目の前にあり、ナハトは見た事のないその世界を見回していた。それと同時に、ナハトはどうやって元の世界に帰るか考えていた。この世界にいる事は非常に興味深いが、ナハトはデロリアとの決着を付けなくてはならない。そう考えると、うかうかはしていられなかった。

「デロリアめ…俺達を恐れてこんな姑息な手を使ったのか…」
「あの兄弟が勝っても負けても、デロリアの得する方に傾くと言う訳ね…」

一方、ナハトとトルトゥーガがいなくなったエデンシティでは、ミソラやシレーヌ達が必死にナハト達を捜索していた。だが、これと言った情報は得られず、ただやみくもに時間を消費するだけであった。あまりに見つからない為、エスカはミソラに当時の状況を聞いた。

「ねえ、ミソラさん、ナハト達が消えた時はどんな感じだったの?」
「えっとね、ナハトが敵の2人組にトドメを刺した瞬間、2人組が爆散して、その際に眩い光が発生したの」
「で、その光が収まった瞬間、2人は忽然と姿を消したわけね…シレーヌ、何か情報見つかった?」
「あわてないでよ、エスカ、今調べてるわ」

シレーヌは携帯端末を使い、ミソラの証言と一致する現象を検索していた。3分ほどするとシレーヌは検索結果をミソラ達に見せた。

「ミソラさん、これじゃないかしら?」
「小型転移爆弾?」
「そう、転移魔法の魔力を閉じ込めた小型爆弾で、装着者が少量の魔力を送る事で起爆する小型爆弾よ、そして、その爆風から発せられた光を浴びると異界に転移させられるの」
「って事は、その相手の2人は自分達の命と引き換えにナハト達を異界に送ったって事?」
「そう言う事になるわね、まったく、厄介な物を引っ張り出してきちゃって…」

シレーヌの情報によって転移の原因は解明された、だが、やはり気になるのはナハト達がどうやってこの世界に戻ってくるかだ。それが気になったココは、情報屋のシレーヌに問いかけた。

「ねえ、情報屋のシレーヌさん、ナハト達はどうやったらこの世界に帰ってこれるの?」
「それが少し厄介で、転移させられた人物が自力でこの世界へ戻ってくるゲートを見つけないといけないらしいわ」
「つまり、それを見つけられなかったら…?」
「一生異界を彷徨う事になるわね…」

その言葉を聞いたココやエスカ、ミソラは不安な気持ちになった。もしナハト達が帰ってこなかったら、シュヴァルツゼーレとは自分達だけで戦わなければならない。そうなった場合、勝てるのだろうかと考えると、不安が増大した。その時、街の至る所で銃撃音や爆発音が響いた。状況から考えて、シュヴァルツゼーレの仕業だろう。ミソラ達は今、不安ではあったものの、エデンシティの市民を守る為、武器を取った。

その頃、ナハトとトルトゥーガは、異界の密林の草木を掻き分け、トルトゥーガの情報を頼りに出口を探していた。しかし、そんな物は一向に見つからず、あるものは辺り一面に広がる密林のみであった。

「トルトゥーガよ…出口はどこだ…?」
「ごめんね、ナハト、私も異界に来るの初めてだから分からないんだ」
「だろうな…」

その時、ナハト達の前から草木を掻き分ける音が聞こえてきた。ナハト達は敵かもしれないと身構えた。次の瞬間、密林から現れたのは巨大なゴリラであった。しかし、普通のゴリラと違って体色は青く、地球にはいない種族であった為、異界にしかいないゴリラ、異界ゴリラと言った所だろう。

「こいつ…!」
「待って! ここは私が相手するよ」

トルトゥーガは自身の両脇に1つずつ竜巻を発生させ、異界ゴリラ対し、竜巻を放って巻き込み、そのまま竜巻の中で異界ゴリラを高速回転させた。すると、異界ゴリラは高速回転で目を回し、地面にあおむけに倒れ、完全にのびてしまった。ナハトとトルトゥーガはその間にその場を立ち去った。

「トルトゥーガ、お前やるな」
「えへへ、凄いでしょ」

その時、ナハトとトルトゥーガのいた足場が崩れた。どうやら地盤が緩い場所だったようで、2人の体重によって完全に崩れてしまったらしい。急な出来事に2人は対応できず、そのまま真下へと転落してしまった。転落した2人は何とか一命を取り留めたものの、腕や足に酷い怪我を負ってしまい、歩く事はできるが、走る事は出来なくなってしまった。

「痛ってぇ…トルトゥーガ、無事か?」
「うん、大丈夫、ナハトは?」
「俺も大丈夫だ、だが、この怪我…参ったな…」

ナハトとトルトゥーガが危機に陥っていたその頃、エデンシティ全土ではシュヴァルツゼーレの総攻撃が起きていた。街では逃げ惑う人々や、混乱に乗じて悪事を働く悪人など、まさにパニック状態となっていた。そんな中、シュヴァルツゼーレのリーダーであるデロリアは、エデンシティ全土に放送を行った。

「愚かなエデンシティの人々に告げる、エデンシティは我々シュヴァルツゼーレが包囲した、生き延びたければ、我々シュヴァルツゼーレに協力し、逆らう者を始末しろ」
「ねえ、ミソラさん、これって大変な状況だよね?」
「そうね、エスカちゃん、デロリアの目的は、自分達に歯向かう者たちの抹殺よ」

デロリアは世界を変える為、遂に大規模な作戦を決行した。ナハトもトルトゥーガもいない今、戦えるのはミソラ達だけである。

一方、崖崩れに合い、崖下に転落したナハトとトルトゥーガは、一命を取り留めたものの、腕や足に酷い怪我を負った。何とか歩く事はできるものの、走る事はできず、こんな状態で異界の生物に襲われたら終わりである。更に、ナハトとトルトゥーガが落ちた先は周りが岩に囲まれており、脱出するには200mはあると思われる崖の上に戻らなければならない。

「参ったな…ケイオスブラスターに風魔法を収束させて撃ち出しても戻れないぞ…」
「だったら私に任せてよ、ナハト」

トルトゥーガは背中に翼を生やした。だが、その翼はいつもと違って傷だらけであり、傷口からは血が滴っていた。

「トルトゥーガ…その翼…」
「私の翼は生やした時の体の状態と連動しているの」
「じゃあ、今のお前が傷だらけだから…」
「大丈夫、安心して、これぐらい、どうって事ないよ」

トルトゥーガはナハトを掴んで翼を羽ばたかせた。いつもと違い、少しずつの上昇であり、今のトルトゥーガの体の状態がいかに酷いかが分かった。トルトゥーガが翼を羽ばたかせるたびに血が滴り落ち、背中側からはトルトゥーガの苦しむ声が聞こえてきた。

「トルトゥーガ! もういい! 無理するな!!」
「駄目ッ! 一緒に元の世界に帰るのッ!!」
「お前…辛いはずなのに…何でそんなに人の為に頑張れるんだ…?」
「何で…だろうね…私にも分かんないや…もしかしたら…ナハトの事が好きなのかもね…」
「俺の事が…好き…?」

ナハトは思った、今まで自分の事を好きと言ってくれた人物は自分の親かかつての恋人であるデロリアぐらいであった。トルトゥーガは今、自分の事を好きと言ってくれた、その為だけに無理をして痛む翼を羽ばたかせてくれている。ナハトはこの時思った、彼女を助けたいと、助けて、生きて2人で元の世界に戻りたいと、彼女の事を守りたいと。

「トルトゥーガ、しばらく我慢して飛んでくれるか?」
「うん!」

ナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出し、風の魔力を限界ギリギリまで収束させた。そして、下方向向けて収束した風の魔力を撃ち出した。2人はケイオスブラスターから撃ち出された風の風圧で、一気に崖の上に上昇し、無事地上に帰還した。これはナハト1人でできなかった事だトルトゥーガが無理をして100mほど上昇してくれた為、残りの100mを一気に上昇する事ができたのである。

「無事か? トルトゥーガ」
「うん…大丈夫だよ」
「そうか…それはよかった…」
「ナハトも無事みたいでなによりだよ」

トルトゥーガは安心したのか、ナハトが無事で嬉しかったのか、目から涙を流しており、ナハトは指で涙をぬぐってあげた。すると、トルトゥーガはナハトに笑顔を見せ、それを見たナハトも自然と笑顔を見せていた。その時、後方の密林の中から物音がした。

「何だ?」

密林の中から現れたのは、異界ゴリラであった。少しふらふらとしていた為、先ほどの異界ゴリラだと思われる。ナハトはケイオスブラスターを構えたが、トルトゥーガはナハトを制止した。異界ゴリラの様子がおかしく、戦う様子がなかった為である。

「こいつ、俺達を攻撃してこないのか?」

すると、異界ゴリラはナハト達に背中を向け、しゃがんだ。どうやら、背中に乗れと言っているようである。ナハト達はその行動を理解し、背中に乗った。すると、異界ゴリラは高くジャンプし、密林を次から次へと移動して行った。しばらくすると異界ゴリラは止まり、ナハトとトルトゥーガを背中から降ろさせた。その止まった先には、元の世界に帰る為のゲートがあった。ゲートは水色の渦巻きの様な見た目であり、ガラスに描かれた絵のように空間に浮いていた。

「これで元の世界へ帰れるみたいだな」
「ありがとう、異界ゴリラさん!」

すると、異界ゴリラは体毛の中から青色のバナナを取り出し、ナハトとトルトゥーガに手渡した。

「これ、くれるのか?」
「ありがとう! いただくね」

ナハトとトルトゥーガは異界のバナナの皮をむき、そのまま食べた。皮の中身は水色であり、あまり美味しそうに見えなかったが、味は元の世界にあるバナナより甘く、スイーツの様な味であった。2人が異界バナナを美味しそうに食べていると、見る見るうちに体中の傷が治癒されていった。

「ナハト、体中の怪我が治って行ってるよ」
「このバナナ…治癒効果があったのか…」

異界ゴリラから貰った異界バナナを食べた事により、体中の傷が無くなって走る事ができるようになった2人は、万全の状態で元の世界へ帰る事ができるようになった。

「異界ゴリラ、お前には世話になったな、またいつかここに来る時が来たら、その時はよろしくな」
「またね! 異界ゴリラさん!」

2人は異界ゴリラに手を振り、別れを告げた。異界ゴリラは寂しそうな様子ではあったが、手を振り返してくれた。そして、2人はゲートに飛び込み、元の世界へと帰って行った。

ナハトとトルトゥーガのいないエデンシティで、シュヴァルツゼーレはやりたい放題やっていた。人々を殺害し、街に火を付け、破壊の限りを尽くした。ミソラ達は必死にシュヴァルツゼーレを止めたものの、圧倒的な兵力の差を前に次第に追い詰められていった。

「くっ…! こんな時、ナハトがいてくれば…!」

そうミソラが願った次の瞬間、ミソラ達の前で眩い光が発生した。そして、光が収まった次の瞬間、ミソラ達の前にナハトとトルトゥーガが現れた。2人は遂に、元の世界に帰ってきたのである。

「おっ、やっと帰ってこれたみたいだな」
「そうだね、でもこの状況…」

現在の状況は、ミソラ達とシュヴァルツゼーレ兵が対峙しており、ナハトとトルトゥーガはその真ん中に立っていたのである。すると、シレーヌはナハト達に対してある事を頼んだ。

「ナハト! トルトゥーガ! そいつらを倒して!」
「ああ、分かった」
「後は私達に任せて!」

ナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出し、ケイオスブラスターに炎の魔力を収束させた。その後、銃口をシュヴァルツゼーレ兵に向け、収束させた炎の弾丸、フレイムバレットを撃ち出した。ケイオスブラスターから撃ち出されたフレイムバレットはシュヴァルツゼーレ兵のいる手前の地面に着弾し、大爆発を起こした。爆炎は収束させた炎の魔力であり、温度は高く、灼熱の炎がシュヴァルツゼーレ兵の体を焼いた。

続けて、トルトゥーガは自身の周辺に1つずつ竜巻を発生させ、その竜巻をシュヴァルツゼーレ兵目掛けて放った。放たれた2つの竜巻は兵士達を巻き込んだ後、竜巻は消滅し、次の瞬間、シュヴァルツゼーレ兵は地面に叩き付けられ、倒された。こうして、あっという間にシュヴァルツゼーレ兵は壊滅したのである。

「ま、こんなもんだろう」

ミソラ達はナハトとトルトゥーガの強さに驚いており、もはやこの2人がいればエデンシティの治安は守れそうな気がしていた。しかし、そんなナハト達に迫る影がいた、デロリアの側近の女性、ノレッジである。

「全く、使い物にならない兵士共ですね…」
「お前は…デロリアの側近の女か…お前まで駆り出されるとは、大変そうだな」
「勘違いなさらないでください、私はこう見えて、射程圏内なら百発百中なんですよ」

そう言ってノレッジはナハトに拳銃を向けた。ノレッジの使う拳銃は精密射撃が可能なようにカスタマイズされており、射程圏内なら百発百中のノレッジにふさわしい拳銃なのである。その為、ノレッジ以外はその性能を十分に発揮する事ができない。

「さて…よく頑張ったようですが、ここまでですね、さようなら」

そう言ってノレッジはナハト目掛けて拳銃を撃った。だが、ナハトはケイオスブラスターから炎の弾丸を速射し、ノレッジの放った銃弾を迎撃した。

「何っ!?」
「どうした? 射程圏内なら百発百中じゃなかったのか?」

ノレッジはさっきの迎撃はまぐれだと感じ、2発、3発と拳銃を撃ったものの、ナハトによって全弾迎撃されてしまった。いつも冷静なノレッジもこの状況は予想できなかったらしく、冷静さを失い、パニック状態となっていた。

「馬鹿な! 私の銃弾に対応できた人間など、デロリア様以外はいない! それが何故こんな男などに!!」
「いい事を教えてやるよ、ノレッジ、デロリアを倒せる人間はこの世に俺しかいない、だからお前は俺に押されているのさ」
「くっ! 黙れ! デロリア様を侮辱するな!!」

ノレッジは諦めず、ナハトに銃弾を撃ったものの、先ほどと同じ様に迎撃され、無力化されてしまった。ノレッジは尚も銃弾を撃とうとしたが、弾切れを起こしてしまい、それを見たナハトはケイオスブラスターに雷の魔力を収束させた。

「ノレッジ、もう一ついい事を教えてやる、お前の銃の腕前は、とうに俺に負けている、だから俺に迎撃されたのさ」
「そんな…馬鹿な…! なら私は…何の為にデロリア様の側近に…!!」

ノレッジが喋り終わる前にナハトはケイオスブラスターのトリガーを引き、収束させた雷の矢、ライトニングアローを放った。ライトニングアローの鋭い刃はノレッジの胸を一瞬にして貫通した。胸を貫かれたノレッジは地面に仰向けに倒れ、命を落とした。

「せめて来世はいい人生送るんだな、誰かに囚われる事のない、いい人生を」

ナハト達の活躍により、エデンシティで暴動を起こしたシュヴァルツゼーレ兵は倒された。デロリアの側近であるノレッジも死に、シュヴァルツゼーレは少しずつ勢いを失い始めている。しかし、まだ全ての戦いが終わったわけではない。シュヴァルツゼーレのリーダーであるデロリアを倒すまで、ナハト達の戦いは終わらないのである。

異界から元の世界に帰還し、シュヴァルツゼーレとの戦いを終えたナハト達は、一時の平和を手にし、夜の街を歩いていた。街中はシュヴァルツゼーレの息のかかった者たちが暴れた事で多くの死者が出たほか、街も破壊され、そこに以前のようなエデンシティの姿はなかった。ナハト達の泊まっていた宿ももれなく破壊されており、泊まる場所を失ったナハトは困り果てていた。

「あいつら…俺の泊まる宿を破壊しやがって…」
「多分、シュヴァルツゼーレはあなた達がここに泊っている事を知っていたから真っ先に潰したんでしょうね」

ミソラのその言葉に、ナハトは罪悪感を覚えた。自分達がここに泊っていたと言うだけでここは攻撃を受けた。ここに泊っていた何の罪もない人たちも恐らく大勢殺されたはずだ。そう考えると、ナハトは言葉が出なかった。

「あ、別にあなた達を責めてる訳じゃないのよ、あなた達が戦ってくれなかったらもっと大勢死んでたと思うわ」
「でも…俺達のせいでここに泊っていた人達は…」
「あなた達は悪くないわ、悪いのはシュヴァルツゼーレよ、それに、シュヴァルツゼーレがいる限り犠牲は増えるものよ」

そう言ってミソラはナハトの肩をポンと叩いた。その言葉を聞き、ナハト達の気は少し楽になった。

「ところであなた達、泊る所がないなら防衛隊の本部に来てもいいのよ」
「いいのか? ミソラ」
「ええ、あなた達には既に返しきれない程の恩があるからね」

ナハト達はミソラに連れられ、防衛隊の本部に向かった。防衛隊の本部は警察署の様な作りの建物であり、これは防衛隊が元々は警察から派生した組織な為である。ナハト達が中に入ると、受付以外はほぼ誰もいなかった。これは大半がシュヴァルツゼーレとの戦いで殉職したり、夜間のエデンシティの警備に回されている為である。

「向こうに寝室があるから、自由に使っていいわよ」
「色々とありがとう、ミソラ」

その後、ミソラは夜間の警備があると言って外出した。それを見たナハトは連戦で疲れているのに立派だと思った。ミソラを見送ったナハト達は、寝室へと向かった。その道中、シレーヌがある提案をした。

「私はエスカとココの2人と一緒に寝るから、ナハトはトルトゥーガと寝てね」
「はぁ!? ちょっと待て! トルトゥーガは女だぞ!?」
「え? 2人で生活してた時も一緒に寝てたんじゃないの?」
「アホ! 流石に別室だ!!」

ナハトはシレーヌに対してキレのある突っ込みを入れた。だが、エスカとココも悪乗りし、ナハトをからかった。

「いや~、でも異界で2人っきりで過ごしたナハトとトルトゥーガを一緒にしない訳にはいかないよ~」
「そうそう、だからナハトはトルトゥーガと一緒に寝てあげる、いいわよね?」
「…分かったよ」
「じゃあ、それで決まりね! それじゃ、おやすみ!」

そう言ってシレーヌ達は寝室の方に向かって行った。残されたナハトとトルトゥーガは仕方なくもう一つの寝室へと向かった。寝室は綺麗に整えられており、まるでホテルのようであった。ベッドはふわふわとしており、寝心地も良く、疲れがよく取れそうであった。ナハトのいる寝室のベッドは一つしかなかったが、大きめのベッドであり、2人で寝る事も出来そうであった。

「さて、着替えるか」
「うん…ナハト、こっち見ないでね」
「分かってるよ」

ナハトとトルトゥーガは互いに後ろを向き、別空間から取り出したパジャマに着替えた。

「さて寝…って…!!」

ナハトはトルトゥーガの服装を見て目を丸くした。何と、トルトゥーガの服装はYシャツ一枚であった。流石に下半身に下着は履いていたが、上半身に下着は付けておらず、何とも無防備な恰好であった。

「お前…いつもそんな恰好で寝てたのか…?」
「うん…これが寝やすいからね」
「…今更着替えろとは言えないよな…」

ナハトはしぶしぶベッドに入り、トルトゥーガに背中を向けて寝ていたが、初めて2人で同じベッドで寝ると言う事もあり、中々寝付けなかった。しばらくすると、トルトゥーガは後ろからナハトに抱き着いてきた。ナハトはその瞬間、心臓がバクバクと鳴りだし、ドキドキして寝る事ができなかった。

「トルトゥーガ…寝れないんだが…」
「ナハトも? 実は私もなんだ、ドキドキして寝れないの」
「…それは俺もだ、こんな事、デロリアと一緒に過ごしていた時以来だな」
「それって、私の事が好きって事だよね?」

トルトゥーガのその言葉に、ナハトはしばらく口を閉ざした。自分はいつの間にかトルトゥーガに恋をしていたのだろうか。当初はただただ鬱陶しい存在だったこの光精霊に、いつ恋をしていたのだろう。

「私、ナハトの事が好きなの、その事に、異界で初めて気づいたの、ナハトはどうなの?」
「…俺も…自分では自覚がないけど、お前の事が好きなんだと思う…この胸の高鳴りは多分そう言う事だと思う…」
「ナハト…キス…して…私…あなたになら…されても…いい…」

トルトゥーガのその言葉を聞き、ナハトは彼女の方を向いた。普段はまじまじと見る事のないトルトゥーガの顔は、いつもより何倍も可愛らしく見えた。ナハトはトルトゥーガの体に腕を回し、顔をトルトゥーガに少しずつ近づけ、唇同士を触れさせた。2人は口づけをしたまま、固まったようにじっとしていた。しばらくして2人は唇同士を放し、お互いの顔をまじまじと見ていた。

「ナハト…奪っちゃったね、私のファーストキス…」
「いいだろ、これで俺とお前は恋人同士なんだから」
「…うん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む」

シュヴァルツゼーレとの戦いや今までの生活の中で知らず知らずのうちに惹かれ合った2人、2人は遂に結ばれ、恋人同士となった。だが、シュヴァルツゼーレとの戦いはまだ終わらない、2人に真の幸せが訪れるのは、いつのなるのだろうか。恋人同士となり、一夜を共に過ごしたナハトとトルトゥーガ、2人は夜明け前に自然と目を覚ました。

「ふふっ、おはよう、ナハト」
「おはよう、まだ夜明け前だな」
「そうだね」

現在の時刻は午前4時23分であり、寝室の窓から外を覗くとまだ外は暗かった。昨夜はミソラ達防衛隊が頑張ったおかげか、特に戦闘音は聞こえず、静かに休む事ができた。だが、デロリアがいる以上、まだシュヴァルツゼーレとの戦いは終わっていない。そう考えると、まだ安心する事はできなかった。

「シュヴァルツゼーレとの戦い、いつまで続くんだろうね」
「さあな、だが、少しずつ終わりに近づいている事だけは確かだ」

思えばシュヴァルツゼーレの構成員と初めて戦ったのはトルトゥーガと出会ったあの日からだった。そんな事をふと考えたナハトはある疑問を述べた。

「なあ、トルトゥーガ、お前は何であの日あそこに現れたんだ?」
「ん? 気になる?」
「ああ、いつ死ぬかもしれない状況だ、そうなる前に聞いておきたいんだ」
「分かった、教えるよ」

トルトゥーガは生まれも育ちも天上界の育ちであり、幼い頃から厳しい教育を受けて育ってきた。トルトゥーガと言う名前は亀のように長く生きて欲しいと父親が付けた名前であり、トルトゥーガ自身はあまり気に入ってない。天上界自体も規律が厳しく、清らかであれ、文武両道であれと言う名目の上で活動しており、少しでも規律を破った者は追放される。トルトゥーガはそんな天上界の事が大嫌いであり、それがますます外の世界への興味を沸かせた。だが、天上界は外界との関わる事を嫌っており、父親や母親もトルトゥーガが外界へ出る事を反対していた。こっそり脱走してやろうかとも思ったが、天上界はむやみやたらに外界へ出る事が難しく、24時間監視の目が光っているのである。

もはや外に出るには天上界の規律を破るしかない。そう考えたトルトゥーガは、わざと店の商品を盗んだのである。天上界には警察などはなく、基本悪い事をした者は追放される為、外界に出たい者はほぼ全員この行動をする事が当たり前なのである。その後、トルトゥーガは天上界の役人に捕まり、精霊王によって天上界の追放を言い渡された。だが、それはトルトゥーガにとっては嬉しい事で、これで大嫌いな天上界からおさらばできると思うと、最高に気分が良く、思わず鼻歌を歌ってしまうほどであった。当然、厳しい教育をしてきた父親と母親は激怒し、トルトゥーガを怒鳴りつけたものの、今となってはもうどうでもいい事であり、トルトゥーガは天上界を後にし、外界へと出た。

トルトゥーガが外界に出た時は深夜であり、行く当てもなくただ地上界の光を頼りに地上へ降りた。その降りた先は小さな公園であり、導かれるように降り立ったトルトゥーガは、そこで1人の男性と出会った。その男性こそが、ナハトであり、今思えばこの出会いは運命の出会いだったのかもしれない。その後、トルトゥーガとナハトは様々な戦いを経て今は恋人同士となっているのだ。当初はあまり相性の良くなかった2人だが、今はこうして仲間達と共にシュヴァルツゼーレと戦っている。そう考えると、これは運命なのかもしれない。

「お前は自分の意思でこの世界にやって来たんだな」
「そうだよ~、もうあんなところ帰りたくないよ」
「お前が嫌なら、ずっとこの世界にいればいい」
「ありがとう、まあ、どうせ戻っても住ませてくれないしね」

2人が話をしていると、いつの間にか午前4時50分になっていた。まだ日の出には時間があり、2人はベッドに腰を掛けた。そして、しばらく無言の状態が続いた。シュヴァルツゼーレとの戦いも激化し、いつ死んでもおかしくない状況が続いている。今ある幸せもいつ終わるか分からない、そう考えると、戦いに赴かない方がいいのではないかと感じてしまう。だが、2人は平和を求め、戦うつもりでいる、ずっと幸せな日々を送る為に。

「トルトゥーガ、この戦いが終わって行きたい場所はあるか?」
「うん、ナハトと一緒に世界中を旅したいな」
「分かった、まずはアインベルグ大陸にでも行くか?」
「行く行く! 絶対に連れて行ってね!」
「ああ!」

ひと時の幸せな時間を過ごした2人、だが、シュヴァルツゼーレがいる限り幸せは永遠に続かない。幸せな世界を作る為、2人は仲間と共にシュヴァルツゼーレと戦う。決戦の日は、すぐそこまで迫っているのである。

ナハトとトルトゥーガが恋人同士になって数日が経った。2人が恋人同士になった事はシレーヌ達にあっさりとばれ、ナハト達も隠す事ではないので恋人同士になった事を伝えたが、やはりと言うべきかシレーヌ達にいじられてしまった。だが、案外飽きるのも早かったようで、3日もすればいじるのをやめてくれた。一方、エデンシティの方は特に目立った事件も起きず、悪人たちが暴走すれば防衛隊が出動し鎮圧し、時にはナハト達も協力した事で街には平和が訪れた。それから、街ではただ平穏な時が流れていたが、ある日、事態は急展開を迎えた。

エデンシティの東地区にある工業地帯の地下から大型の飛空艇が飛び立ったのである。後に防衛隊の調査でここにシュヴァルツゼーレの本部があった事が判明。その事を知ったナハト達は、デロリアがどこに向かったのか、そしてシュヴァルツゼーレが何を企んでいるのか、考えただけで夜も眠れず、不安な日々が続いた。その翌日、いつも通り防衛隊の寝室で起床し、近くの店で買った弁当を食べ終えてくつろいでいたナハト達の下にあわただしい様子でミソラが駆け込んでいた。ミソラの手にはスマホ型の携帯端末が握られており、シュヴァルツゼーレに関する最新情報を伝えにきたようであった。

「みんな! 大変な事になったよ!」
「まさか、シュヴァルツゼーレの事か?」
「そうよ、まずはこれを見て!」

ミソラの持っていた携帯端末の画面には、以前ナハト達を攻撃した海上戦艦が映っていた。その艦上には、数日前に飛び立った飛空艇がドッキングしており、現在のシュヴァルツゼーレの本部はこの戦艦であることは確かだった。

「ミソラ、これはどこの映像だ?」
「エデンシティの近海よ、そしてこの戦艦はエデンシティに近づいてきている」

その事を聞いたナハト達は驚愕し、シュヴァルツゼーレとの最終決戦が近い事を感じていた。果たしてシュヴァルツゼーレの総戦力はどれほどのものなのか、そして、自分達はシュヴァルツゼーレに勝てるのか。ナハト達がそう考えていた次の瞬間、外から大きな爆発音が聞こえてきた。恐らく、以前と同じ様に戦艦からの艦砲射撃なのだろう。こうしてはおれず、ナハト達は外に出た。エデンシティの街は艦砲射撃でめちゃくちゃになっており、辺りには瓦礫や人の死体が散乱していた。あまりの惨状に、ナハト達は怒りを爆発させた。

「こんな事をするシュヴァルツゼーレ、絶対に許してはおけない!」
「ナハトの言う通り、シュヴァルツゼーレのしている事は、人間のする事じゃないよ!」

ナハト達は全員、シュヴァルツゼーレを倒す事を決め、決着を付ける為に戦艦が航行している方角向けて足を進めた。だが、ナハト達の前に大勢のシュヴァルツゼーレの兵士達が現れた。

「デロリア様の命令だ、お前達をここから先へ進める訳にはいかない」

シュヴァルツゼーレの兵士はざっと50名ほどおり、恐らく、現在のシュヴァルツゼーレの戦力の一部なのであろう。シュヴァルツゼーレと決着を付ける上で避けては通れない戦いだと悟ったナハトは、このシュヴァルツゼーレ兵と戦う事を決意した。その時、ミソラはナハトを制止し、ある事を伝えた。

「ナハトはトルトゥーガと共に戦艦を止めに行って」
「え? いいのか?」
「勿論よ、この程度、私達だけで十分」

すると、シレーヌエスカ、ココの3人もナハトはトルトゥーガにミソラと同じことを言った。

「私は情報屋だけど、この程度の相手なら大した事はないわ」
「そうそう、だからナハト達は行って」
「私達の分も…戦ってきて…」

「…ああ! 分かった!」
「みんなの想い…無駄にはしないよ…!」

3人の決意を受け取ったナハトとトルトゥーガは、戦艦のいる場所へ早く向かう為、防衛隊基地の前に止めていた魔導バイクに乗り、戦艦のいる海上の近くに向かって行った。

「チッ、奴らは逃したが、この4人も奴らに協力する者達だ、始末する!」

シュヴァルツゼーレ兵はミソラ達にアサルトライフルを発砲した。だが、エスカは魔力のバリアである魔導障壁を展開し、アサルトライフルの弾丸を弾いた。その間にミソラとココは相手に斬り込み、シュヴァルツゼーレの兵士を1人、また1人と斬り捨てて行った。エスカもアサルトライフルの雨が止んだ頃に竜巻で相手を攻撃する魔法、サイクロンを唱え、シュヴァルツゼーレの兵士を竜巻で吹き飛ばした。シレーヌも他の3人に負けておらず、ニードルガンによる精密射撃により、次々と兵士達を倒して行った。こうして、2分もしない内に約30人の兵士を倒したミソラ達だったが、シュヴァルツゼーレ兵の思惑はナハト達と分断させる以外にもう一つあった。ミソラ達はまんまとその思惑にはまってしまったのである。

「こうなれば、最終手段だ、お前達、やるぞ!」
「了解! 全てはデロリア様の為に!」

残った20人ほどの兵士達は、手榴弾のピンを抜き、それを手に持ったままミソラ達に近づいた。そう、彼等はシュヴァルツゼーレの為に自らの命を犠牲にするのである。

「あなた達、命を捨てるなんて馬鹿な真似はやめなさい!」
「これもこの世界を革命する為…その為なら命など惜しくはない!」

20人ほどいた兵士たちは一斉にミソラ達に接近し、次の瞬間、一斉に手榴弾が大爆発を起こした。その大爆発はナハト達の方にも聞こえており、その爆発がミソラ達のいる方角だと知ったトルトゥーガは、ナハトにその事を伝えた。

「ナハト、ミソラさん達のいる方角から爆発が…」
「大丈夫だ、あいつらはきっと生きてる」
「でも…」
「あいつらは俺達にシュヴァルツゼーレと戦う事を託してくれた…俺達はそれに応えなくてはいけない…」
「うん…そうだね…そうだよね」

ナハトとトルトゥーガは魔導バイクで海の方を目指した。その間、シュヴァルツゼーレの戦艦は艦砲射撃を続けたが、ナハトは魔導バイクを巧みに運転し、攻撃を回避した。

「ナハト、あれ!」
「ああ、どうやらあれがシュヴァルツゼーレの戦艦らしいな」

ナハトとトルトゥーガの前に姿を現したのは、海上から艦砲射撃を続ける戦艦の姿であった。巨大な海上戦艦の上に飛空艇がドッキングしたその戦艦は、魔導バイク目掛けて艦砲射撃を続けていた。ナハトは戦艦を前にして尚も攻撃を回避していたが、近くに着弾した弾頭の爆発で遂に吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされる際、トルトゥーガが翼を生やし、ナハトを抱いて羽ばたいた事でナハトは無事だったが、吹き飛ばされた魔導バイクはコンクリートの壁に衝突し、大破してしまった。

「あ~あ、あの魔導バイク高かったのにな…」
「そんな事言ってる場合じゃないよ! ナハト!」

戦艦は尚もナハト達に標準を向けており、再び艦砲射撃を行い、攻撃を仕掛けた。その攻撃に対し、ナハトはコートの裏からケイオスブラスターを取り出し、雷の銃弾を撃ち出して弾頭を迎撃した。ケイオスブラスターの銃弾で大体の攻撃は迎撃できたが、戦艦は絶えず攻撃を行って来る為、中々前に進めずにいたその時、トルトゥーガは突然ナハトを戦艦の方向けて全力で投げ飛ばした。

「お前…! 何を…!」
「行って! ナハト!!」

直後、トルトゥーガは戦艦からの艦砲射撃を食らって吹き飛ばされた。直撃の瞬間に魔導障壁を展開していた為、致命傷にはならないだろうが、爆発の衝撃で脳が強く揺れる為、しばらくは気を失うであろう。トルトゥーガの身を挺しての行動に、自分も応えなくてはいけないと感じたナハトは、ケイオスブラスターに風の魔力を収束させ、下方向向けて風の弾丸を放った。その反動でナハトは一気に甲板に着地し、戦艦の上に足を踏み入れた。

「…この戦艦のどこかにデロリアがいるのか…」

ナハトがそう告げた次の瞬間、ナハトの周りを大勢の兵士達が取り囲んだ。ざっと30人はいるであろう兵士達はアサルトライフル武装し、その銃口をナハトに向けていた。

「やっぱそう簡単にデロリアには会わせてくれないか…」

ナハトはそう呟き、ケイオスブラスターをコートの裏にしまい、シャドウエッジを取り出し、逆手に構え、兵士の方に向かって走り出した。当然、兵士達はアサルトライフルを発砲したが、ナハトはアサルトライフルから放たれた銃弾による風の動きを感じ取り、攻撃してきた方向を一切見る事なく、銃弾を回避、手に持ったシャドウエッジで1人、また1人と兵士を斬り裂き、命を奪った。

「俺の目的はデロリアだけだ! 無駄に命を捨てるんじゃねえ!」

だが、ナハトの警告も兵士達には通じず、兵士達はなおもアサルトライフルでの銃撃を続けた為、ナハトはアサルトライフルの銃弾をシャドウエッジで弾き、一気に兵士に接近して体を斬り裂いて倒した。最初にいた兵士の約半分程の兵士を始末した頃、遂に兵士達も勝ち目がないと悟ったのか、武器を捨てて海に飛び込み、逃げて行った。ナハトは自分が殺した兵士の亡骸を眺め、何故この兵士達は無駄に命を捨てたのだろうと感じた。自身の殺した兵士達もデロリアの思想に賛同し、世界を革命させようとした者達であることは確かだ。だが、こんな力尽くじゃなくてもやり方はいくらでもあったはずだ。何故多くの人間を傷つけ、自らも命を落とさなくてはならないのか。どの答えも、デロリアに賛同できない自分には分からない答えである。

ナハトは今いる甲板の上から飛空艇の中に移動し、デロリアの居場所を探した。シュヴァルツゼーレのリーダーである彼女の事だ、恐らく飛空艇の司令室みたいな場所にいるのであろう。ナハトは司令室目掛けて足を進めた。道中、意外にも兵士には遭遇しなかった為、兵士達は先ほど命を奪った者たちと逃げた者たちで全員だったのであろう。そう考えながら飛空艇の階段を登っていくと、そこは司令室のような場所であった。部屋には窓があり、戦艦全体に指令を通達するのであろう、通信機の様な物があり、ここが司令室であるのは確かであった。

「ここが司令室か…」
「待ってたぞ、ナハト」

その声はデロリアのもので、ナハトは声が聞こえた方を向いた。デロリアは部屋の隅に座り込んでおり、ナハトが来るのを待っていたようであった。ナハトが来た事でデロリアは立ち上がり、ナハトの前に立った。

「デロリア! もうこんな事は終わりにしよう!」
「そうはいかないわ、私は必ずこの世界を革命させる!」
「その為なら、犠牲を出してもいいって言うのか!?」
「勿論よ、この世界に必要なのは賢い人間、賢くない愚かな人間など必要ないわ」

デロリアの言葉を聞いたナハトは、今のデロリアはあの頃のデロリアとは変わってしまった事を感じた。もはや彼女を説得する事は無理だと、何故彼女はここまで変わってしまったのだと。彼女が変わってしまった責任に少しでも自分が関わっているなら、デロリアを倒す事が自分にできる最低限の償いなのかもしれないと。そう感じたナハトは、知らず知らずのうちにケイオスブラスターとシャドウエッジを握っていた。

「ナハト…まさか私を殺すつもりなの?」
「分からない…俺にも分からないさ! でも…お前が変わった責任が俺にもあるなら、俺はお前を殺さなくてはならない!!」
「ナハト、今からでも私と来ない? 私と一緒に愚かな人類に罰を与えるの」
「…悪いな、デロリア、俺はトルトゥーガやミソラ、シレーヌエスカにココ、他にも多くの人達と出会って変わったんだ、お前と同じ考えにはなれないよ」
「…悲しいわね、ナハト、一緒に革命する事ができないなんて…なら、もうあなたなんていらないわ」

そう言ってデロリアは別空間から長い刀を取り出した。その刀はざっと2メートル程あり、小柄なデロリアが振り回すには少々大きいと感じたが、デロリアはその刀を片手で構えていた事から、きっとこの刀を扱う為に並ならぬ努力をしたのであろう。

「これは私専用の超硬質刀・月蝕、鉄程度なら簡単に斬り裂いてしまうわ」
「悪いな、俺のシャドウエッジとケイオスブラスターはミスリル製なんでな、斬る事はできないよ」
「そう…なら、あなたの首を斬り落とせばいいだけよ、すぐ楽にしてあげる」

戦艦の司令室で対峙したナハトとデロリア、ナハトはシャドウエッジとケイオスブラスターを構え、デロリアは超硬質刀・月蝕の刃先をナハトに向けていた。かつては恋人同士でありながら、今は殺し合う関係となった2人、愚かな人類を革命させ、理想の世界を作ろうとするデロリア、今ある平和を持続させる為に戦うナハト、2人は今、世界の命運をかけて戦いを始めた。

「ナハト…すぐに楽にしてあげるわ!!」

デロリアは身の丈程もある月蝕をナハトに振り下ろした。その刃をナハトは右手に握ったシャドウエッジで受け止め、左手に握ったケイオスブラスターから炎の銃弾を撃って反撃した。だが、デロリアは素早く回避行動を取り、攻撃をかわした。

「甘いわよ、ナハトッ!!」

デロリアは刀身に風の魔力を纏い、回転斬りを放った。風の魔力は真空波として辺り一帯に飛び散り、司令室の壁を斬り刻んだ。ナハトはケイオスブラスターから放った銃弾で真空波を迎撃し、特に目立ったダメージはなかったものの、司令室の機器はダメージを受け、火花を散らしていた。

「まだ死んでなかったのね! ナハトッ!!」

デロリアはナハトに斬りかかった。ナハトはシャドウエッジでその攻撃を受け止めたものの、デロリアからは武器越しに殺意が伝わって来た。かつては愛し合った存在に対し、何故ここまで殺意を募らせる事ができるのか。人間と言う生き物はたったの3年でここまで変わってしまうのか。ナハトは人間とは一体何なのか、分からなくなり始めていた。

「デロリア、お前は変わってしまったんだな…」
「当たり前よ! あなたは忘れたの? あの日、私達の幸せを奪った醜い人間の存在を!!」
「勿論、忘れちゃいないさ、あの出来事は俺の人生にとって最悪の出来事だ」
「じゃあ何で! あなたはこの世界の味方をするの!?」
「…さあ、何でだろうな、俺もトルトゥーガやミソラ、シレーヌエスカにココ達と出会って変わってしまったのかもな…」
「…本当にそれだけの理由なの?」
「今の俺にはそうとしか考えられないさ」

すると、デロリアの表情が一気に殺意のこもった表情となり、月蝕を握った手に力が加えられ始めていた。それは完全にナハトを殺すと言う意思が伝わっていた。

「醜い人間は全員殺す!! この世には醜くない人間だけいればいい!! 醜い人間なんて、全員いなくなればいいのよ!!!」
「デロ…リア…!!」
「私はこの3年間、革命の為、復讐の為に生きてきた!! その事だけを考えてきた!! それを今更あなたなんかに邪魔されてたまるものか!!」

そう言ってデロリアは月蝕に更に力を加えた。ナハトのシャドウエッジを握る手にもそろそろ限界が来ていたが、デロリアが珍しく本音を喋っていた為、ナハトは彼女の本音をしばらく聞いていた。デロリアの本音を聞いて思った事は、彼女がこの3年間本当に辛い思いをしていた事、そして、そんなに辛い思いをしていた彼女に寄り添ってあげられなかった事、何故自分はあの日、すぐデロリアと別れたのか、彼女を為を思ってした行動は、彼女の為になってなかったのだ。その事に、ナハトは強い罪悪感を覚えていた。

「私は人間が憎いの!! 私の全てを奪った人間が!! 人間なんてみんな死んじゃえばいい!!」
「デロリアッ!!」

ナハトは左手に握っていたケイオスブラスターに炎の魔力を一瞬で収束させ、月蝕の刀身目掛け、銃弾を放った。刀身に命中した炎の銃弾は大爆発を起こし、月蝕の刀身をバラバラに砕いて月蝕を破壊した。普段のデロリアであればナハトがケイオスブラスターに魔力を収束させる事など、簡単に気付いたはずではあるが、今のデロリアはパニックに近い状態に陥っていた。その為、ナハトがケイオスブラスターに魔力を収束させたことに気付かなかったのだ。武器を失ったデロリアは我に返り、2、3歩後ずさりした。今なら簡単にデロリアの命を奪えたが、ナハトはそれをせず、ただデロリアを抱きしめた。

「ナハ…ト…?」
「すまない、デロリア、お前がそんな気持ちで3年間いた事、俺は知らなかった…許してくれ…」

ナハトから本当の気持ちで心からの謝罪を受け取ったデロリアは、さっきまでの殺意が消え去っており、知らず知らずのうちに涙を流していた。

「今更謝って許されるとでも思ってるの…? ずっと…ずっと…辛かったんだから…」
「悪かった…俺がせめて1年でもいいから傍にいてやったら、こんな事にはならなかったんだ…!!」
「私はあの後、あなたに居て欲しかった、傍にいて欲しかった…なのに…なのに…!!」
「すまない…本当にすまない…!!」

2人は戦艦の司令室の中で抱き合い、ただ涙を流した。ようやく分かり合う事ができた2人は少し落ち着くと、これからどうするかを話し合っていた。

「私、やっぱり死刑だよね? こんな事したんだし…」
「だったら、俺と一緒に逃げればいいさ、どこまでも」
「ううん、ナハトに迷惑はかけられないよ、それに…」
「それに、何だ?」
「今まで沢山殺した、沢山の仲間を失った、こんな私に生きる資格なんてないよ…」
「だったら、お前がそいつらの分まで生きればいい、それがせめてもの償いだ」
「…ありがとう、ナハト、優しいんだね」

その時、突然2人を囲むかのように爆発が起こった。爆風は2人には当たらなかった為、ダメージはなかったが、その爆発によって周りには火災が発生し、退路を断たれてしまった。

「何だ!? 司令室の機器が爆発したか!?」
「…違う、この爆発、明らかに私達を逃がさないようにする為のものだよ!」
「は? 一体誰がそんな事…」
「…分からない、でも、シュヴァルツゼーレ以外の組織のものってのは確かよ」
「何者の仕業かは分からんが、とにかくここを脱出するぞ!」

ナハトは脱出の為、2人の体を覆うように魔導障壁を展開した。それで無理やり火災の中を突破しようと試みた。だが、次の瞬間戦艦全体が大爆発を起こした。戦艦が爆発を起こした事で、ナハトとデロリアは炎の中へと消えた。

「…ナハト…ごめんね…私のせいで…」
「…いいって、気にするな…だが…トルトゥーガ…お前は無事でいてくれ…」

シュヴァルツゼーレの戦艦から艦砲射撃を食らい、その衝撃で気を失っていたトルトゥーガは目を覚ました。ナハトは無事戦艦にたどり着き、決着を付けたのだろうか。そう考えながら海の方に視線を向けたその時、ナハトがいるであろうと思われる戦艦は炎上し、今にも沈もうとしていた。

「戦艦が炎上してる…!? ナハトは…? ナハトはどこ…?」

トルトゥーガは慌ててあたりを見まわしたが、ナハトの姿はどこにもなく、まだ脱出してない事が分かった。救出に向かおうと翼を広げ、羽ばたこうとしたものの、先ほどの艦砲射撃によって羽が傷ついており、上手く羽ばたく事ができず、空を飛ぶことができなかった。

「くっ…! 動いて…! 動いてよ私の翼! このままじゃナハトが…! ナハトが…!!」

しばらくするとミソラ達4人がやって来て慌てているトルトゥーガを目撃した。いつもと様子の違うトルトゥーガを見て、ミソラは事情を聞いた。

「何があったの? トルトゥーガ」
「ナハトが…! ナハトがまだ脱出してないんです! 嫌! ナハト…! ナハトーッ!!!」

その後、防衛隊の隊員を総動員して沈没した戦艦の調査を行ったが、数人のシュヴァルツゼーレ兵と思われる人間の死体が見つかっただけで、ナハトはおろかシュヴァルツゼーレのリーダーであるデロリアも発見されなかった。しかし、この戦い以降シュヴァルツゼーレによる悪事は行われなくなり、たまにシュヴァルツゼーレを名乗る小悪党が強盗を行う程度であった。つまり、人類は再び平和を取り戻したのである。人々は平和を噛みしめ、今ある平和を満喫していた。

しかし、ナハトの仲間達は素直に喜ぶことができず、しばらくブルーな気分で落ち込んでいた。共に戦った戦友が行方不明になり、自分達の前から姿を消した事、いくら死亡が確認されてないとはいえ、素直に喜ぶ事などできなかった。特に、トルトゥーガはナハトと恋人関係になっていた事もあり、約1ヵ月の間トルトゥーガは心を閉ざし、部屋で1人夜空を眺めていた。恐らく、夜空を眺めていればまたあの日のようにナハトに出会えると思ったのであろう。だが、ナハトはいつまで経っても帰ってくることがなかった。

もはや彼は死んだのではないかと思われたある日、トルトゥーガの体に異変が起こった。その異変とは、トルトゥーガが妊娠していたことが分かったのである。人間と光精霊との間に生まれる子供はどんな子供なのだろうと思うだろう、一応光精霊の体組織などは人間のものとほとんど変わらない為、普通の人間と同じ様に子供を作る事が可能なのである。ただ、光精霊とのハーフとなると、生まれながらにして特殊な能力を持って生まれる事があり、そこが普通の人間の間に生まれた子供との違いである。

トルトゥーガが妊娠して数ヶ月が経過したある日、無事、ナハトとの間にできた子供を出産した。元気な男の子であり、どこか雰囲気がナハトに似ているような気もした。トルトゥーガが出産した事を知ったミソラ達はナハトとトルトゥーガの子供を一目見ようとやって来た。

「この子がナハトとトルトゥーガの子供ね」
「はい、そうです」
「へ~、あいつの子供の割には可愛いじゃない、トルトゥーガの遺伝子が多いのかしら?」
「…かわいい」
「ところで、この子何て名前にするの?」

エスカのその質問に、トルトゥーガは頭を悩ませた。こう言うのは普通、夫と共に考える事だと聞いている。だが、肝心の夫であるナハトはここにいない。仕方なく、トルトゥーガは頭をフル回転させて名前を考え、約10分ほど考えた結果、ようやくいい名前が思いついた。

「リヒト…でいいかな」

リヒト、ある国の言葉で光を意味する言葉である。夫の名前が夜を意味するナハトなので、それとは反対の明るい名前にしようと思った結果、このリヒトと言う名前が思いついたのである。その名前を聞いた4人は全員が納得した様子であった。

「トルトゥーガちゃんがそれでいいなら、私はいいと思うわよ」
「私は全然アリよ、ナハトなんて暗い名前よりよっぽどいいわ」
「…私もリヒトって名前、いいと思う」
「私もー! トルトゥーガちゃんって名前つけるセンスあるね!」

ミソラ、シレーヌ、ココ、エスカの4人に褒められ、トルトゥーガは少し照れた様子であった。これから1人でこの子の世話をして立派に育てなくてはならない、そう考えるとかなりのプレッシャーであったが、ナハトがいない今、自分が頑張るしかない。そう決意したトルトゥーガは、リヒトを見つめ、一言呟いた。

「これからよろしくね、リヒト」

一方、ナハトとデロリアは宇宙の様な場所にぷかぷかと浮いていた。その空間は真っ暗であり、脱出しようとしても円のように丸い檻に遮られ、脱出する事も出来ず、武器による攻撃も無力化された。

「残念だな、ナハト、デロリア、この時の檻はミサイルを食らっても壊れんよ」

その声の主は、20代後半ぐらいの男性の声であり、姿が見えない為、どんな人物かも分からずにいた。だが、こんな得体のしれない場所に閉じ込める者の事だ、ロクでもない事を企んでいるに違いない。

「お前、何者だ?」
「私達をどうするつもり?」
「何、しばらく眠ってもらうだけだ、大体17年ぐらいな」
「何だと!?」    
「眠ってもらう? 17年? どういう事?」

「何、この時の檻の中にいる間、お前達は全く老けない、美しい姿を保つ事ができるから安心しろ」
「俺が聞きたいのはそんなどうでもいい事じゃない! 何を企んでいると聞いている!!」
「フ…聞きたいか? なら教えてやる、我々は人間によって住処を奪われた魔族! 我々は長い時間をかけて力を蓄え、人類に復讐する!!」
「人類に復讐!? じゃあ何故私達がこんな所に!?」
「決まっているだろ? お前達2人は邪魔なのだ、下手に動かれては困る、だから、ここでじっとしていればいい」
「そんな事をしても、俺には仲間がいる、今にお前達の企みは…」

ナハトが喋り終わる前に謎の人物は2人を強制睡眠させ、眠りにつかせた。2人は時の檻の中でぷかぷかと浮きながら眠っていた。

「この時の檻の中でゆっくり眠れ、お前達2人が次に目覚める時、我々の計画が始まりを迎えるのだから…」

ナハトとデロリアが眠った事を確認すると、謎の人物も眠りにつき、力を蓄え始めた。

「次に目覚める時は17年後か…その時が来れば、俺とこの力は完全に一体となる…覚悟していろ、人類ども…」

シュヴァルツゼーレとの戦いが終わったのも束の間、新たな脅威が人類を襲おうとしていた。だが、その脅威が人類に襲い来るのは17年後、果たして17年後に襲い来る脅威とはどんなものなのだろうか?

銃×剣のエージェント

時は22世紀、人類同士の争いは終わり、平和になった世界。しかし、その世界に宇宙からの来訪者であるエイリアンが多数襲来、彼らは人知れず人間社会に溶け込み、ひっそりと悪事を働いていた。その阻止の為、エイリアンを抹殺する職業、エージェントが誕生し、人類はエイリアンとの一般にはあまり知られる事のない戦いへと突入した。この物語の主人公は初瀬千初(はつせ ちはつ)、22歳の女性で、水色のブラウスとブルーのロングスカートと言うシンプルな服装をした長い金髪と海のように青い瞳のエージェントの女性である。彼女は表向きは食品メーカーとして活動している組織、ファフニール所属のエージェントであり、まだまだ未熟ではあるものの、エネルギー銃を使った戦闘を得意とする。そんな彼女の下に、社長の長田祥匡(おさだ ただくに)から電話がかかった。

千初「はい、千初です」
祥匡「あ、千初くん? 君の後輩を紹介するから今すぐ来て、それじゃ」

そう言って、通話は終わった、10秒もせずにだ。千初はお菓子を買いに外出していたが、社長からの呼び出しを前に断る事ができず、仕方なく会社に向かった。どうせ祥匡がお菓子か何かを用意してるだろうと思って。会社に付くと、千初は社長室に向かった。大体、エージェント関係の話は社長室で行われるからだ。千初が社長室のドアをノックして入ると、そこには長い水色の髪をした青い瞳の女性がいた。この女性が祥匡の言った後輩なのだろう。

祥匡「千初くん、忙しい所よく来てくれたね、彼女が後輩の…」
???「セオドーラ・クロフォード、セオとでも呼んでくれ」
千初「初めまして、セオさん」

セオと言う女性はクールな女性で、表情一つ変えず、千初の方を見ていた。話さないのも何だからと千初はある事を聞いた。

千初「ねえ、セオさんはどんな武器を使うの?」
セオ「私か? 私は高周波ブレードだ」

高周波ブレードは、高周波で相手を切り裂く実体剣で、切れ味は高く、光線銃のビームを切り払う事も出来、多くのエージェントが愛用している武器である。

祥匡「なるほど…剣使いか…で、千初くんが銃使いだから…君達のチーム名は銃×剣(ガンソード)でどうかな?」
セオ「悪くはないな」
千初「いいんじゃないでしょうか?」
祥匡「じゃ、それに決定だね!」

こうして、千初とセオの2人で構成されたチーム、銃×剣が結成された。その時、社長室のエイリアン反応警報が鳴った。この警報は、街のどこかにエイリアンが現れた時に鳴る警報で、エージェント達はこの警報を頼りに街にいるエイリアンを始末しに向かうのだ。

セオ「どうやら、この街のどこかにエイリアンが現れたようだな」
千初「社長! 場所は?」
祥匡「エリア3の空き地だね、そこに円盤が着陸してるはずだよ」
千初「分かりました! 早速向かいます!」

千初とセオは、格納庫の方に向かい、エージェント用に開発されたエアバイク、スカイフェンリルに乗った。スカイフェンリルは涼しげな水色が基調のエアバイクであり、その車体がフェンリルに見える事からスカイフェンリルと名付けられた。本機には小型ミサイルや機関砲が内蔵されており、最低限の戦闘をする事も可能である。2人がスカイフェンリルに乗ると、格納庫の床がせり上がり、そのまま天井が開いて会社の屋上へと出た。そして、2人の乗るスカイフェンリルは発進し、夜の街を飛行した。

千初「社長! エイリアンの円盤はどうすればいいですか?」
祥匡「ああ、どうやらオクトタイプのエイリアンの物らしいから破壊しちゃっていいよ」
セオ「オクトタイプ…地球上で殺人を行う野蛮な宇宙人か…」

オクトタイプエイリアンはタコの様な見た目のエイリアンであり、その姿は有名小説、宇宙戦争の火星人によく似ているが、彼らの出身地は火星ではなく、どこか遠くの星であると思われる。セオの言った通り、非常に野蛮なエイリアンであり、以前は地球で若い女性を5人も殺している。2人がスカイフェンリルでエリア3の空き地に向かうと、ヘリコプターぐらいの大きさの円盤が着陸しており、周りにはタコの様な見た目のオクトタイプのエイリアンが数匹いた。

千初「目標確認、これより攻撃を開始します」

2人はスカイフェンリルの車体の両脇から小型ミサイルを発射した。発射されたミサイル合計4発は円盤に命中し、円盤は爆散した。

セオ「決まったな…」

すると、生き残ったオクトタイプエイリアン6匹が光線銃で攻撃してきた。2人は物陰にスカイフェンリルを着陸させ、武器を手に取った。

セオ「千初、私が切り込む、お前は援護を頼む」
千初「うん、分かった、気を付けてね」

そう言って、セオはエイリアンの方に向かって走り出した。エイリアンは光線銃を撃ったが、全てセオに切り払われ、セオの高周波ブレードでエイリアンは次から次へと斬り裂かれた。その際、エイリアンは緑色の体液を吹き出し、セオはその体液を返り血の如く浴びていた。そして、千初も残ったエイリアンをエネルギー銃で射殺し、今回の任務を終えた。

セオ「ミッション完了だな」
千初「うん! 後は軍の人に任せて帰ろう」
セオ「ああ、そうだな」

エイリアンの死体の後始末などは、エージェントではなく軍の人間の仕事で、主に死体や兵器を研究し、今後のエイリアン災害へ生かしている。その為、最近はエイリアンに対しての対策が良くなってきているのである。2人は任務を終え、スカイフェンリルで本部に帰投した。その様子を見ていた1人の女性がいた。赤い髪をツインテールにしたその女性は、2人の戦いを見て、胸を高鳴らせていた。

???「エイリアンを殺しに来たつもりが、もっと面白い物が見られたよ…あの2人…中々やりそうだ…」

その後、ファフニールの社長室では、セオの歓迎会が開かれていた。と、行っても数人の社員と共にお菓子を食べるだけではあったが、千初は遠慮と言うものを知らないのか、次から次へと食していた。

セオ「…千初って、仕事の時は真面目なのに、普段はこんな感じなんだな」
千初「はつ?」
祥匡「この子、食べる事となったらいつもこんな感じでね」
セオ「…とまあ、千初、これからよろしく頼む」
千初「こちらこそよろしくね! セオちゃん!」

千初とセオがチーム銃×剣を結成して3日が経過した。その間、千初たちのいるプラムシティは平和であった。しかし、その間も地球に潜伏しているエイリアン達は悪事を働いている。エージェント達はそんな人々の平和を守る為、戦っているのだ。だが、仕事がなければする必要はない、なので、特に用事のない千初は、街中を散策していた。そんな中、千初は街中でセオと出会ったのであった。

千初「あっ! セオちゃん!」
セオ「何だ、千初か、その大荷物、大分買ったみたいだな」

現在、千初は店で買い物をしていた為、手に沢山の紙袋を持っていた。千初は買い始めたら大体1万円分は買う為、これだけの大荷物になっているのである。

千初「せっかくだし、セオちゃんにこれあげるね」

そう言って千初が手渡したものは3色団子であった。白、赤、緑の団子が重なった3色団子は、千初の好物なのである。セオはそれを受け取って早速食べてみた。

セオ「…これが日本の和菓子か? 案外いけるな」
千初「ふふっ、でしょ?」

その時、突如上空に巨大な円盤が現れた。本当に突然現れた事から、ワープでもしたのであろう。その円盤を見た人々は騒然とし、しばらくしてから街中に避難勧告が発生し、人々は慌てて地下シェルターへと避難した。そんな中、エージェントである千初とセオは、自分の職場であるファフニールへと向かった。

千初「長田さん!」
祥匡「2人共、よく来てくれたね」
千初「街を散策してたら、急に円盤が現れて…」
セオ「長田さん、あれはメカニク星の巨大円盤だな」
祥匡「そうだね」

カニク星のエイリアンはかなりの虚弱体質であり、それを補う為、自身をサイボーグ化させている。地球での活動は主に自分達の開発したメカに任せている為、この星の人々はメカニク星人を見た事がない。過去にはメカニク星人の作ったメカによってプラムシティ全体が停電になった事がある。更に、今回現れた円盤より少し小型の円盤がプラムシティに飛来し、大騒ぎになった事もあるほどだ。

祥匡「しかし、あの規模の円盤は現れた事がない…」

すると、セオは小型端末を取り出し、巨大円盤について計算を始めた。

セオ「あの円盤の中枢部に凄いエネルギーが感じられる…恐らく奴らの目的はこの街の破壊だろう」
千初「え!? じゃあこの街一帯を吹き飛ばす気?」
セオ「ああ、だがあの巨体を支えるほどの金属…恐らく相当の硬度を持っていると思われる…」
祥匡「それに、もしあの円盤からレーザーが発射されたら、地下シェルターにいる人々は全滅だよ」
千初「そんな…じゃあどうすれば…」

その時、社長室のドアが強引に開かれた。現れたのは赤い髪をツインテールにした女性と、長い茶髪の女性の2人であった。千初は、茶髪の女性についてよく知っていた。

千初「初菜! 何してるの!?」
初菜「やっほー、千初姉ちゃん久しぶりー」

この女性の名は初瀬初菜(はつせ はつな)、千初の従妹であり、お金が大好きな女性である。年齢は千初より一つ下で、気楽な性格をしている。すると、赤髪の女性が詳しく話し始めた。

???「彼女はあたし達「紅の鮮血」のメンバーさ」
祥匡「紅の鮮血ゥ!?」
セオ「あの凄腕の殺し屋が集まる組織か…」
???「まあ、殺すのは主にエイリアンなんだけどね~」
千初「初菜、あなたそんな物騒な組織に入ったの!?」
初菜「お金を稼ぐにはこれが手っ取り早いと思ってね」
千初「あなたって人は…」

しばらくすると、赤髪の女性が自己紹介を始めた。

???「っと、自己紹介が遅れたね、あたしは皇紅音(すめらぎ あかね)、よろしく~」
祥匡「皇紅音…ああ、紅の鮮血のリーダーね、って、えぇ!?」
セオ「聞いた事がある…幼い頃から殺し屋として教育を受け、6歳の頃には既に人を殺していると言うあの…」
千初「初菜! あなたそんな危険な人と…!!」
初菜「まあまあ、まずは紅音さんの話を聞きなって、あまりカリカリすると肌が荒れるよ~?」
千初「…初菜…後でお説教だからね…」
紅音「…手っ取り早く行こうか、私達の目的は君達と協力し、あの円盤を破壊する事」
セオ「…何故エージェント組織である私達と協力する」
紅音「簡単さ、このプラムシティが壊されちゃ、活動拠点が無くなっちゃうからね」
初菜「悪い話じゃないと思うんだけど」

その作戦に、社長の祥匡はしばらく考え、承諾した。

祥匡「分かった、この作戦、引き受けよう」

その後、千初とセオは格納庫に向かい、スカイフェンリルに乗って発進した。しばらくすると、紅音と初菜も赤を基調としたエアバイク、クリムゾンキマイラに乗って現れた。クリムゾンキマイラはスカイフェンリルに比べ装甲が厚く、火力も高い所謂パワータイプのエアバイクである。ちなみに、開発はスカイフェンリルと同じイグニス社である。

紅音「と、まあ作戦は、あの円盤のコアを破壊する事」
セオ「そのコアが装甲に隠れているんだが?」

分析の結果、巨大円盤のコアは機体下面の中心部にある事が分かった。しかし、そのコアは装甲に隠れ、攻撃する事ができない。すると、千初がとある兵器を持ち出した。

千初「ジャーン! 荷電粒子ライフルー! これであの装甲を破壊します!!」
紅音「へぇ…いい武器持ってるじゃない」
千初「この荷電粒子ライフルは強力すぎるあまり、滅多な事じゃ使用はできないんだけど、今回は特別に、ね?」
紅音「なるほどね、じゃあ、早速円盤に突っ込むよ!」

そう言って、千初以外のメンバー全員が巨大円盤のコアに向かい、千初はホバリングし、巨大円盤のコアに荷電粒子ライフルを構えた。巨大円盤は千初以外の3人の生体反応をキャッチし、レーザーで攻撃を仕掛けたが、全員がそれを回避した。その間、千初は荷電粒子ライフルを巨大円盤のコアに向けて撃った。荷電粒子ライフルからは強力なビームが放たれ、コアを守る装甲を焼き切った。そして、そのまま巨大円盤のコアに高出力のビームが命中し、コアを破壊した。コアを失った巨大円盤は機体を維持できなくなり、大爆発を起こした。千初たちはすぐさまその場から退避し、今回の作戦を完了させた。その後、千初たちはかなり遠くの場所まで退避しており、プラム公園にそれぞれの機体を着陸させていた。そして、千初は作戦が成功した事を喜んでいた。

千初「ありがとう、みんなが攪乱してくれたおかげでこの作戦に成功できました」
紅音「そうか…それはよかったね…」

すると、紅音と初菜はそれぞれ高周波ブレードと超硬質日本刀を取り出した。

セオ「…武器なんて取り出して何のつもりだ?」
紅音「いや、実はこの間のあんた達のミッション、見させてもらっていたんだよ」
千初「私達の銃×剣としての初ミッションを!?」
初菜「それで、紅音さんがお姉ちゃん達と戦いたくなったんだって」
セオ「一体何の為に?」
紅音「あたしはね、強い奴と戦いたいんだよ、エイリアンなんて雑魚じゃない強い奴とね!」
千初「そんな…」
紅音「じゃあ…行くよッ!!」

カニク星の巨大円盤を撃破した千初とセオ、しかし、今度は共闘した紅音と初菜が攻撃を仕掛けて来た。強い奴と戦いたいと言う名目の下に戦う彼女たちは、千初たちに容赦ない攻撃を仕掛けて来た。

千初(相手はエイリアンじゃなくて人間…! 傷つけないように戦わないと…!)
初菜「どうせ、お姉ちゃんの事だから私達に手加減をしてるんでしょ? 甘いよ!」

千初は初菜に対し、出力を絞ったエネルギー銃のレーザーを放った。しかし、初菜の超硬質日本刀は対ビームコーティングがされており、出力の落ちたレーザーを次々切り払っていた。一方のセオは紅音と交戦していた。2人の武器はどちらも高周波ブレードであり、性能や切れ味はほぼ互角だが、開発会社が違う。そして、2人の剣の腕前もほぼ互角で、決着が付かずにいた。その時、紅音はセオにある事を伝えた。

紅音「あたしはあんたの事知ってるよ、オルトロスのエージェントの唯一の生き残りでしょ?」
セオ「ッ! 何故、その事を…!!」
紅音「あたしの情報網にはね、色んな事が入ってくるのよ、色んなことがね」

オルトロスは小さなエージェント組織であり、少数で活動していたが、腕前は確かなエージェントが集まっていた。セオは1ヵ月前までそのエージェント組織で活動しており、仲の良いエージェントの仲間も多かった。セオは、その組織でかなり長期間活動し、数多くのエイリアンを抹殺して来た。しかし、約半月前のある日、とあるエイリアンの討伐任務の際、相手のエイリアンの基地のトラップにひっかかり、多くの仲間を失ってしまう。作戦は失敗し、何とかエイリアンの基地から逃げ出したものの、生き残ったのはセオ1人だけであった。その後、オルトロスはエージェントを多く失った事で組織として活動できなくなり、オルトロスは倒産、セオも職を失ってしまった。そして、その後就職した先がファフニールなのであった。

セオ「私の過去にッ…! 触れるなッ…!!」
紅音「別にいいんじゃないの? 知ってる事なんだしさ」
セオ「貴様ッ!!」

自身の辛い過去に触れられたセオは怒りのあまり高周波ブレードを振り回した。紅音はそれを狙っていたようで、セオの高周波ブレードを弾き飛ばした。武器を失ったセオに、紅音の高周波ブレードが迫る。

千初「セオちゃん! 危ないッ!!」

セオに高周波ブレードが迫ったその時、千初がセオを庇って背中を斬りつけられた。

セオ「千初ッ…!!」

背中を斬られた千初は地面に倒れ込み、動かなくなった。

紅音「あ~らら、間違って君のお姉さんを殺しちゃったよ、初菜」
初菜「別にいいんじゃない? 千初お姉ちゃん口うるさかったし」

仲間を失ったセオは、地面に座り込み、茫然としていた。自分が熱くならなければ仲間を失う事はなかった。再び仲間を失った悲しみに、セオは戦意を失った。するとその時、地面に倒れた千初の腕が動くのが見えた。この事に、紅音と初菜は気づいていない。恐らく、千初が何か行動を起こすのだろうとセオは気づいた。すると、セオは立ち上がり、近くに落ちていた高周波ブレードを取った。セオの戦意は、完全ではないが戻っていた。

紅音「あら? まだやる気なの?」
初菜「ヤケになって私達を道連れにでもする気でしょ」

その時、紅音の足元に丸い球が転がって来た。この丸い球はスタングレネード、眩い光を放ち、視界を奪う特殊弾だ。スタングレネードはまばゆい光を放ち、紅音と初菜の視界を奪った。セオは寸前の所で目を掌で覆っていたので、無事であった。

紅音「うあぁッ! 目がッ!!」
初菜「も~! 何なのよ~!!」

セオはその隙を見逃さず、紅音の鳩尾に蹴りを入れた。一方、千初は初菜の胸倉を掴んで何度も頬をぶった。

千初「悪かったわね、初菜、口うるさくて」
初菜「じょ…冗談だって~」
セオ「千初、何故お前は生きているんだ」
千初「ふっふっふ~こんなこともあろうかと、防弾チョッキを着こんでたの!」

エージェントの任務は危険がつきものである。千初はいつエイリアンに襲われてもいいように、銃弾、レーザー、斬撃に強い特殊防弾チョッキを着こんでいたのだ。

千初「でも、紅音さん剣の腕前はかなりのものらしいですね、後1㎝でも深く入っていれば私、死んでたよ…」
セオ「よかった…無事で本当によかった…」

その後、まだ視界が眩む紅音が立ち上がった。

紅音「中々運のいい人間らしいな、君は」

すると、千初は掴んでいた初菜を紅音の方に投げつけた。初菜をぶつけられた紅音は地面に倒れ込んでしまい、千初はその間にエネルギー銃に特殊弾頭をセットした。

千初「あなた達にはこれでおねんねしてもらいます!」

そう言って千初は特殊弾頭を撃った。発射された特殊弾頭は紅音たちの近くの地面に命中し、中から睡眠剤の入った煙が放出された。紅音と初菜はその煙を吸い込み、眠ってしまった。続けて千初はアンカーショットガンを発射した。この装備はアンカー付きのワイヤーを発射し、様々な場所に引っ掛かる為の装備だが、千初はそのワイヤーで2人を縛り、動けないようにした。

千初「これで一件落着だね!」
セオ「千初…すまない…私は…」
千初「いいのいいの! セオちゃんの過去に何があったかは知らないけど、セオちゃんは私の大切な仲間だから!」
セオ「私が…大切な仲間…?」
千初「勿論! 祥匡社長やファフニールの人達もみんなそう思ってるはずだよ」
セオ「千初…ありがとう…」

その後、千初とセオは紅音と初菜を連れてファフニールに帰還した。紅音と初菜はしばらくファフニールの牢屋に入れられ、無事帰還した千初とセオには、祥匡から任務成功のお菓子が配られた。

祥匡「2人共、無事帰ってきたようだね、よかったよかった」
千初「はつっ! 祥匡社長、こんなにお菓子を頂いてありがとうございます~」
セオ「祥匡社長…私は…」
祥匡「いいのいいの、別に僕も千初くんも怒ってないから、悪いのはあの紅音って人だよ」
セオ「そ…そうですか…」

すると、あまり元気のないセオに対し、千初はシュークリームをセオの口に突っ込んだ。

セオ「んぐっ!?」
千初「セオちゃん、元気ないからこれあげとくね」
セオ「ち…千初…」
千初「美味しいでしょ?」
セオ「ま…まあな…」
祥匡「ささ、沢山あるからもっと食べてくれたまえ」
千初「ありがとうございます! 社長!!」

一方、牢屋にいる紅音と初菜は、特に困った様子は見せてなかった。

初菜「紅音さん、あれ、いっちゃいます?」
紅音「ああ、いつまでもこんな薄汚い所には居られないしな」

そう言って、紅音はヘアバンドに仕込んだ針金を取り出した。そして、鍵穴に針金を入れてピッキングを始めた。紅音は相当手練れていたようで、30秒もしない内に開錠した。

初菜「流石、紅音さんですね~!」
紅音「まあね、あたしにかかればこんなもんよ」

その時、紅音は考えていた、千初とセオは相当面白い人物であると。またいつか、今度は今回以上に本気で戦いたいと。そう考えながら、紅音は初菜と共にファフニールを後にした。

プラムシティでの巨大円盤襲来事件から1週間が経った、あれから目立った宇宙人事件は発生せず、ただ定期的に停電現象が起きるだけに留まっていた。本日、千初とセオはその停電現象の調査に呼び出される事になり、千初は早起きして朝食を取る為、キッチンに向かった。

千初「おはよ~お姉ちゃん」
初子「あら、おはよう千初、ご飯できてるわよ」

この人物は初瀬初子(はつせ はつこ)、千初の姉である。初子は千初と違ってエージェントではなく、ただのOLである。エージェントとして活動する千初の事を少し心配しているが、千初だからきっと大丈夫だと信頼している。千初はテーブルに座り、初子の焼いたトーストをかじった。

初子「千初、今日も仕事あるみたいだけど、絶対に生きて帰ってくるのよ」
千初「うん、大丈夫だよ、私は必ず生きて帰ってくるから」
初子「ふふっ、よろしい、じゃ、私は先に出るわね」
千初「行ってらっしゃーい!」

その後、朝食を済ませ、仕度を終えた千初はファフニールに向かった。社長室ではまだ7時30分であるにも関わらず、既にセオと祥匡がいた。

千初「おはようございます!」
セオ「おはよう」
祥匡「やあ、おはよう、今日もいい朝だね」

その後、千初たち3人はソファーに座り、今回の停電現象について作戦会議を始めた。

祥匡「単刀直入に言うよ、最近多発している停電現象はエイリアン災害なんだ」
セオ「まあ、あれだけ頻繁に発生すればそうだろうな」
祥匡「しかも、その原因となっているエイリアンが問題でね、エレテル星人なんだよ」
千初「エレテル星人って、電気を吸って生きている宇宙人ですよね?」
祥匡「そうなんだよ…あの海外で発生した1ヶ月間の長期停電の原因となった宇宙人さ」

海外で発生した1ヶ月間の長期停電とは、エレテル星人が発電所の電気を頻繁に吸っていた事で発電所の機能が故障し、かなりの広範囲が1ヵ月間停電したと言う事件である。この事件により、エレテル星人は危険な宇宙人として認識されるようになった。

祥匡「つまりだ、このプラムシティにいるエレテル星人を抹殺するのが今回の任務だ」
セオ「了解です、祥匡社長」
祥匡「頑張ってくれたまえよ、市民からもテレビがいい所だったのに停電のせいで見逃したと怒りの声が飛んでるからね」
千初「それは許せませんね…では、早速行ってまいります」

そう言って2人はスカイフェンリルで出発したが、その目的地はプラムシティの端にある森の中であった。エレテル星人は森の中と言う誰も寄り付かない場所に住み着き、プラムシティの発電機からこっそりと電気を吸い取っていたのである。千初とセオは森の入り口にスカイフェンリルを止めると、武器を装備し、森の中に入って行った。

千初「う~…森の中って嫌だな~…」
セオ「何故だ? 姿を隠すには丁度いいと思うのだがな」
千初「だってぇ…虫とかいるじゃん…」

その時、千初の頭の上に毛虫が落ちて来た頭の上に違和感を感じた千初は頭を振ると落ち葉の上に毛虫が落ちた。それを見た千初は悲鳴を上げ、セオに抱き着いた。

千初「ギャーッ!! 毛虫だぁぁぁッ!! 嫌ぁぁぁッ!!」
セオ「お…落ち着け、あれはただの蛾の幼虫だ」
千初「ヤダーッ!! 気持ち悪いーッ!!」

すると、千初の悲鳴に呼び寄せられたのか、何者かがやって来た。

セオ「千初! 何かが来る!」
千初「何? 何? 大きな芋虫の怪獣?」
セオ「いいから落ち着け」

千初たちの前に現れたのは、抹殺対象であるエレテル星人であった。エレテル星人は黄色い体色の半魚人みたいなエイリアンで、手と脚には鋭い爪を持ち、これで対象を引き裂く。

千初「エレテル星人…!!」
セオ「こいつを殺せばミッションは完了だな」

しかし、エレテル星人の様子はおかしく、自ら攻撃は仕掛けてこなかった。それを怪しく思った千初は、セオを制止した。

千初「待って、セオちゃん、あの宇宙人何かおかしいよ」
セオ「おかしいって、何が?」

すると、先ほど現れたエレテル星人とは別のエレテル星人がもう1人現れた。手にはショルダーバック型の装置を持っている。

セオ「もう1体現れた!?」
千初「あなた達の目的って一体何なの?」

すると、2人目のエレテル星人は、ショルダーバッグ型の装置を起動させた。

エレテル星人「地球人よ、私達の言葉が通じてるか?」
千初「え? あ、はい」
セオ「なるほど、その装置は高性能な翻訳装置か…」
エレテル星人「そうだ、君達との会話の為に翻訳装置を使わせてもらった」
千初「じゃあ、聞きますね、あなた達は何故この街に住み着いているんですか?」
エレテル星人「私達の故郷であるエレテル星は、凶悪なヒューマノイド型エイリアンに滅ぼされた」
セオ(凶悪なヒューマノイド型宇宙人!?)
エレテル星人「そして、友人である彼と共に漂着した先がこのプラムシティだった」
千初「だから、この街に住み着いていたんですね…」
エレテル星人「私達は電気を吸わなければ生きていけない、それが君達にとって迷惑な事も知っている」
セオ「確かに、迷惑な行為だな、人間は電気がないと生きていけないのだから」
エレテル星人「なら、私達をここで殺せばいい、君達はその為に来たのだろう?」

彼らの話を聞いた千初は、どうすればいいのか迷っていた。自分達はエイリアンを抹殺するエージェントの一員だ、だが、彼らは望まずにこの地球にやって来た被害者、ここで彼らを殺せばミッション完了ではあるが、それが本当に正義なのか。千初は、どうすればいいのか迷っていた。

???「人間は馬鹿だね、迷惑なら殺せばいいだけだろ」

そう言って木の上から姿を現したのは、赤紫の髪をツーサイドアップにした少女であった。赤紫の瞳の美しい顔の彼女は、騎士が持つような剣を装備していた。

セオ(あいつは…!!)
エレテル星人「お前は…! 我々の故郷を滅ぼしたヒューマノイド型エイリアン!!」
???「やれやれ、下等なエレテル星人にもまだ生き残りがいたか、死になよ」

そう言って彼女は2人のエレテル星人の胴体を切断し、殺害した。

千初「何て事を! その人達に悪意はないのに…!!」
???「でも、邪魔なんだろう? 邪魔なら殺さなくっちゃ、ね?」

すると、セオが怒りのこもった声で彼女に話しかけた。

セオ「私の仲間も…邪魔だったって事か!?」
???「あー、あんたはオルトロスのエージェントか、生きてたんだね、てっきり死んだと思ってたよ」
セオ「貴様ぁぁぁッ!!」

そう言ってセオは高周波ブレードを駆り、彼女に突撃して行った。

千初「セオちゃん!!」
???「やれやれ、このレディス・アプリコット様に向かってくるとは、命知らずだね…」
セオ「黙れぇぇぇッ!!」

仲間の仇であるエイリアンを見つけたセオ、レディスと名乗ったそのエイリアンの少女は、見た目こそ可愛らしい人間の少女の姿をしているが、実際はセオの仲間を殺した悪魔の様なエイリアンなのだ。セオは仲間の仇を討つ為、剣を走らせた。

セオ「レディス! 貴様は今ここで私が討つ!!」
レディス「やれるものならやってみなよ、あんたもお仲間の所に送ってあげる」
セオ「その減らず口、二度と叩けなくしてやる!!」
千初「待って! セオちゃん!!」
セオ「千初は下がってろ! これは、私とあいつの問題だ!!」

そう言ってセオは高周波ブレードを振り、レディスを攻撃した。だが、レディスはその攻撃を最小限の動きで回避していた。現在、セオは怒りに燃えてはいるが、剣筋は確かであり、並大抵のエイリアンなら確実に倒せている攻撃である。その攻撃を、レディスは全て最小限の動きで回避していた。そして、レディスは反撃の類を一切していなかった。

セオ「何故反撃をしない!?」
レディス「私が本気出したらあんたぐらいすぐ死んじゃうもの、そんなのつまんないでしょ?」
セオ「貴様…! どこまで私を馬鹿にすれば気が済む!!」
千初(セオちゃん…落ち着いて…)

セオは尚もレディスに攻撃を続けた。攻撃を見切られぬよう、突きや蹴り等も入れたが、レディスはどの攻撃も軽々と回避していた。まるで彼女には、全ての攻撃が見えているかのように。どんなに攻撃しても当たらない為、セオは疲れが見え始めていた。

セオ「ハァ…ハァ…くっ…! 何故攻撃が当たらない…!!」
レディス「あんたの攻撃がトロいからよ、あたしには全部止まって見えるわよ」
セオ「くっ…! 私を弄んでいたと言う事か…!!」
レディス「そゆこと、ねぇ、もう飽きたから、殺していい?」

すると、レディスは騎士の持つ様なデザインの剣を手に取った、そして、セオに攻撃を仕掛け、その攻撃は左肩に命中した。

セオ「ぐあっ!!」

セオはきちんと回避行動は取ったが、レディスの攻撃があまりにも早すぎた為、命中したのだ。おまけにレディスは獲物を少しずついたぶって殺すのが趣味で、セオの右の二の腕、左脚の太もも、右足のふくらはぎ、そして左の横腹に攻撃を命中させた。これだけの攻撃を食らったセオは遂に膝を付き、苦しんでいた。

レディス「あんれ~? もう終わりかな?」
セオ「お前はあの時もそうだった…! もう戦意を失っていた私の仲間を少しずついたぶって殺した…! 私の目の前で…!!」
レディス「だから何よ、獲物は殺される為に生きてるんでしょ?」
セオ「命を…! 何だと思っているんだ…!!」
レディス「うるっさいな…黙れよ…」

その時、千初はスタングレネードを投げ、辺りに眩い光を発生させた。光でレディスの目が眩んでる間に千初はジェットパックでセオを掴み、上空に飛翔した。

千初「セオちゃん! 大丈夫!?」
セオ「気を付けろ…千初…奴は…空を飛べる…」
千初「え?」

千初の背後にはいつの間にかレディスが現れており、レディスは千初が背中に背負っていたジェットパックに蹴りを放ち、墜落させた、千初はジェットパックが爆発する寸前にジェットパックを切り離した、切り離したジェットパックはそのまま墜落し、爆発を起こした。一方の千初はアンカーショットガンを撃ち、アンカーを木の枝に引っ掛けて無事生還した。

千初「ふぅ…死ぬかと思った…」

しかし、レディスは尚も千初たちを追って来た。

レディス「まさかまだ生きてたとはね…」
千初「え~!? まだ追ってくるの~!?」

その時、セオが傷だらけの身体に鞭打って立ち上がった。

セオ「千初…お前だけでも逃げろ…」
千初「え…? 何言ってるの! セオちゃんを置いて逃げられる訳ないじゃない!!」
セオ「いいから逃げろ! お前だけなら生き残れる可能性もある!!」
千初「嫌! セオちゃんを置いて逃げたくない! セオちゃんは、私の大切な仲間だから!!」
セオ「千初…」
レディス「ふふふ…それが人間の友情か…安心しな、2人同時に地獄に送ってやるからさ」

その時、レディスの前に現れた2人の女性がいた。

千初「紅音さん! それに初菜!!」
紅音「暇つぶしに停電の原因であるエイリアンでも殺そうと思って来てみれば、もっと面白いエイリアンに出会えるなんてね」
初菜「それにしても…お姉ちゃんたちなにやってんの?」
レディス「フフフ…なるほど、お仲間参上って所かしら?」
紅音「は? 何言ってんの? あんたみたいな奴に私の獲物を取られたくないから助けたんだけど?」
レディス「え…?」
初菜「そう言う事! とりま、お姉ちゃんはその死にかけの人を連れて逃げて」
千初「うん! 分かった!」
セオ「紅音…例は言わないぞ…」

そう言って千初たちはその場を立ち去った。その後、紅音はレディスと対峙した。

紅音「あたしさ、一応あんたの事知ってんのよ、オルトロス壊滅させたエイリアンでしょ?」
レディス「ふ~ん、あたしったら有名人なのね」
紅音「悪い意味でね、だから、ここであんたを始末してあげる!」

紅音は高周波ブレードでレディスに攻撃を仕掛けた。セオの攻撃は軽々と回避していたが、紅音の攻撃はかなりのスピードだったらしく、剣で受け止めた。

レディス(こいつ…!)

紅音は続けて連続で何度も攻撃を仕掛け、レディスを追い込んでいた。すると、レディスは後方に跳び、攻撃の嵐から抜け出した。

レディス「貴様、名を何と言う!」
紅音「あたしは紅音、皇紅音」
レディス「紅音…今度会った時は、覚えていろ!!」

そう言ってレディスは空を飛んで立ち去った。

初菜「典型的な負け台詞言って帰って行きましたね、紅音さん」
紅音「そうだね、でもあいつ、今回は本気出さなかっただけで、実際はかなりのものだよ」
初菜「らしいですね、オルトロスを壊滅させるぐらいですし」
紅音「まあね、それにあのセオって奴、無事でいてくれればいいけど…」

その後、紅音と初菜は森から立ち去った。一方、無事にファフニールに帰還した千初とセオだったが、セオはかなり深い傷を負っており、ファフニールの医療班による懸命な治療が行われていた。その事を心配していた千初の前に、社長の祥匡が現れた。

祥匡「セオくんはね…ファフニールに入隊する際にある事を言っていたんだ…」
千初「ある事?」
祥匡「うん、仲間の仇であるエイリアンを必ずこの手で抹殺するとね…」
千初「それが…セオちゃんの一番の目的なんですね…」
祥匡「そうだね…まあ、今はセオくんの無事を祈ろう」
千初「そう…ですね…」

強敵、レディスの前に完膚なきまでに叩きのめされたセオ、千初は彼女の無事を祈りつつ、今日は自宅に帰るのであった。

ようやく仲間の仇を見つけたセオであったが、力及ばず、完膚なきまでに叩きのめされてしまい、セオは現在ファフニールの医務室にて入院中である。そんな中、セオはオルトロスの仲間達の夢を見ていた。仲間達との楽しかった思い出と、オルトロス壊滅の様子が流れ、特にオルトロス壊滅の際の仲間達の恐怖に怯えた悲鳴と、レディスに殺された仲間達の無残な死体の様子はセオのトラウマを呼び戻し、セオは当時の恐怖が甦り、夢から目を覚ました。

セオ「…夢か」

夢から覚めたセオは、服を汗で濡らし、息を荒げていた。セオにとってオルトロス壊滅の件は思い出したくない出来事であり、今でも思い出すと心臓の鼓動が早くなってしまうのである。

セオ「…次こそは仇を取る」

そう言ってセオは濡れた服を脱ぎ、近くの籠に入っていた綺麗な服に着替えた。一方その頃、千初はセオのいない分、エージェントとしての任務を遂行していた。流石に一人では心細いだろうと、何故か初菜も千初を手伝っていた。今回のミッションは、イカの様な見た目のエイリアンの討伐である。対象のエイリアンは高く跳ね、千初の追っ手から逃げていたが、先回りしていた初菜の攻撃を食らい、足を何本か切断された。切断面からは白い体液を流れ出たが、エイリアンはすぐさま跳んで逃げた、

千初「初菜! 逃げたよ!!」
初菜「分かってる! 手伝ってあげてるんだからごちゃごちゃ言わないで!!」
千初「何それ…」

高く跳んで逃げるエイリアンに対し、初菜はジェットパックで高く上昇した。そして、超硬質日本刀でエイリアンの胴体を横に切断し、エイリアンを倒した。

千初「やったね!」
初菜「まだ! お姉ちゃん後ろ!!」

千初の後ろには、もう一体のエイリアンが潜んでいた。エイリアンは千初を触手で斬り裂こうとしたが、初菜の助言によって敵の存在に気付いた千初は、すぐさま振り向き、エネルギー銃でエイリアンの身体を撃ち抜いた。胴体を撃ち抜かれたエイリアンは地面に倒れ込み、死亡した。

千初「ふぅ…危なかった…」
初菜「お姉ちゃんって、どこか抜けてるよね~」
千初「むぅ…酷~い」

その後、千初と初菜はファフニールに帰還し、社内の通路にある自販機の前でくつろいでいた。

千初「お疲れ様、はい、これミックスジュース」
初菜「ありがと」

2人はミックスジュースを飲みながら、ある話をしていた、千初の仲間であるセオの事である。

千初「セオちゃん、明日には退院できるって」
初菜「それはよかったね、私もお姉ちゃんのお手伝いするの面倒だったし」
千初「面倒って…こういう仕事だから仕方ないでしょ」

すると、初菜は千初にある事を聞いた。

初菜「…ねぇ、お姉ちゃんって、セオって人の事どれだけ知ってるの?」
千初「え? そうだね…剣を使うかっこいい女の人って事かな」
初菜「それだけ?」
千初「え? それだけって…後は元オルトロスのエージェントって事とかかな」
初菜「お姉ちゃん、あんまりあの人の事知らないんだね」
千初「まあ、セオちゃんはあまり自分の事を語らないからね」
初菜「一緒に仕事しててそれぐらいなんだね、まだ紅音さんの方がセオさんの事よく知ってるよ」
千初「ん…」
初菜「お姉ちゃんも、セオちゃんセオちゃん言ってないで、もっとあの人の事知ってあげたらどうなの?」

初菜は空き缶をゴミ箱の中に入れた。

初菜「もし死んじゃったら…二度とその人の事を知れなくなるんだよ、明日退院するんだったら、色々と聞いておく事だね」

そう言い残し、初菜は去って行った。千初は初菜の言った事が図星だと実感した。一緒に仕事を始めてもうすぐ1ヵ月が経過するのにも関わらず、自分はセオの事を何も知らない、何も知ってない。千初は明日、セオに色々と聞く事にした。そして日付が変わって翌日、セオは無事退院し、ファフニールの社長室に姿を現した。

祥匡「セオくん、もう体は大丈夫かい?」
セオ「はい、ご心配をおかけしました、本日よりチーム銃×剣として活動させていただきます」
千初「おかえり、セオちゃん」
セオ「ああ、またよろしく頼む」
千初「…ねえ、セオちゃん、色々と聞かせてもらっていい?」
セオ「ああ、何でもいいぞ」
千初「じゃあ、あのエイリアンとの関係を教えてもらっていい?」
セオ「レディスの事か…奴は…私の仲間達を痺れ罠に嵌め、身動きが取れない状況の仲間達を1人ずつ剣で弄びながら殺したんだ…」
千初「その時…セオちゃんは…?」
セオ「私は、密室に閉じ込められ、モニターでその様子を見せられた…」
千初「酷い…」
セオ「その後、奴は私の仲間全員の命を奪った後、私を解放した、その時私は誓った、必ず奴を殺すと」
千初「じゃあ、もしレディスを倒した後、セオちゃんはどうするの?」
セオ「その後も変わらず、銃×剣として活動するさ」
千初「じゃあ、エイリアン災害が終わったら?」
セオ「そうだな…それはまたその時決めよう」
千初「そうだね」

祥匡「じゃあ、早速本日の任務を始めようか?」
千初&セオ「了解!」

再びチーム銃×剣のメンバーが揃った。銃×剣はエイリアン災害が終息を迎えるまで活動する。その日がいつ来るかは分からないが、彼女たちは活動する。人々の命と平和を守る為、それが、エージェントの役目だから。

セオが戦線に復帰し、再び銃×剣として活動を再開した千初とセオ、本日はプラムシティに潜伏していたエイリアンギャングを討伐していた。エイリアンギャングは主に半魚人タイプのエイリアンで構成され、高い身体能力で相手を圧倒する戦法を得意としていた。千初とセオは街中に逃走したエイリアンギャングを追っていた。ちなみに、街中には避難勧告が出されている為、街に人々はいない。なので、千初とセオは心置きなく戦う事ができるのである。千初は狙いを定めてエネルギー銃を撃ってエイリアンを倒し、セオは一気に接近して高周波ブレードでエイリアンを斬り裂いていた。千初の銃の腕前とセオの剣の腕前は非常に高く、この2人ならエイリアンギャング程度の相手は敵ではなかった。その時、ビルの上から千初にライフル型の銃を構えるヒューマノイド型のエイリアンがいた。彼はレディスの部下のエイリアンで、名はスナイプと言う。そんな彼の目的は千初の血液を採取する事である。

スナイプ「…あの女がレディス様の言っていた初瀬千初か…」

スナイプはライフル型の特殊銃を千初に向けた。このライフル銃は一種の注射器の様な銃であり、射出したニードルで一気に血液を吸い、そのニードルを一瞬の内にライフルにしまう事ができる。この銃を開発したのはレディスの母星で、早い話がエイリアンの超技術と言ったところである。スナイプはライフル銃を撃ち、ニードルを千初の首筋に命中させた。ニードルは一瞬の内に注射器一杯程度の血液を採血し、ほんの一瞬でニードルはライフル銃に戻った。撃たれた千初本人は何かチクッとしたな程度しか感じておらず、すぐさま任務に戻り、敵と戦っていた。その後、スナイプは携帯型ワープ装置を使い、レディスの下へ向かった。スナイプは千初から採取した血液をレディスに手渡した。

レディス「お疲れ、スナイプ」
スナイプ「ありがとうございます、レディス様」

レディスは筒形の透明な装置の近くへと向かった。この装置はクローン製造装置で、レディスの母星の技術で造られたものである。装置の中は緑色の培養液で満たされており、この中に一定量の血液を入れると、約3分でクローンを生み出すのである。

レディス「スナイプ、あんたのおかげで面白いショーが見れそうだよ」

そう言ってレディスは装置の上から千初の血液を入れた。すると、血液は少しずつ人間の身体を模っていき、約1分でマネキン程度の人間が生み出され、約2分で髪の毛や爪が生え始めた。そして、約3分で完璧な千初のクローンが誕生した。だが、髪の毛は漆黒の黒髪で、瞳は血のように赤い目をしていた。この装置ではやろうと思えば完璧なクローンが作れるが、今回はレディスの趣味で完璧に一緒ではないクローンを作る事になったのだ。レディスは装置の入り口を開け、千初のクローンを外に出した。すると、緑色の培養液と共に千初のクローンが外に出た。千初のクローンは生まれたばかりで体には何も身に纏ってないが、体は完全に大人の体であり、身体能力なども千初と同じである。すると、千初のクローンが生まれて初めて第一声を上げた。

???「…私は何をすればいい?」
レディス「そうだねぇ…まずはあんたの名前を決めようか…あいつが千初だから…ツチハでいいか」
ツチハ「ツチハ…それが私の名前か」
レディス「そうだよ、で、あんたはこいつらを殺してくる、いいね?」

ツチハはモニターに映った千初とセオを見ると、何か感じる事があったのか、しばらくじっと見つめていた。

ツチハ「…あいつを殺せばいいのか」
レディス「そうだよ、で、これがあんたの装備」

レディスが用意した装備は、銃と剣が一体になった武器、ガンソードと、黒色の下着、そして白のブラウスと黒のロングスカートであった。ツチハはその場でそれらの装備を身につけると、レディスが用意した転送装置を使い、千初とセオの下へ向かった。一方の千初とセオはエイリアンギャングの残り1人と戦っていた。残り1人のエイリアンギャングは飛び跳ねて千初たちの攻撃をかわしていたが、突然後方から何者かに胴体を両断され、絶命した。

千初「セオちゃんがやったの?」
セオ「いや、私ではない」
ツチハ「やったのは私だ、初瀬千初、そして、セオドーラ・クロフォード」
セオ「何だあの女は…!?」
千初「私によく似ている…いや、髪と目の色と服の色以外は私だ…!」
ツチハ「似ているのも無理はない、何故なら私は、貴様のクローンだからだ」

その言葉に、千初とセオは驚きを隠せずにいた。地球の技術は進歩したが、あそこまで完璧なクローンを生み出す技術はない、それに、クローンの製造は法律で禁止されているのである。

セオ「どうせレディスがお前を生み出したんだろうな」
ツチハ「私の名はツチハ、レディスが生み出した最強の兵器だ」
千初「兵器って…あなたも私と同じ命ある存在なのに…」
ツチハ「そんな事は関係ない、私は戦う為に生まれた存在だからな…!」

そう言ってツチハはガンソードからブレイクレーザーを放った。ブレイクレーザーは一発で大爆発を起こすレーザーである。ブレイクレーザーは千初とセオの近くに着弾すると、大爆発を起こした。その爆風に2人は吹き飛ばされたが何とか地面に着地した。その間、ツチハはガンソード銃口の下面に装着されたブレードでセオを攻撃した。セオは高周波ブレードで受け止めたが、ツチハは力任せにセオを押し返した。そして、セオの腹に蹴りを食らわし、吹き飛ばした。ツチハは千初のクローンではあるが、戦闘能力は千初より遥かに上なのである。千初はエネルギー銃でツチハを攻撃したが、全てガンソードのブレードで切り払われてしまった。そして、ツチハはブレイクレーザーを放って攻撃し、千初は回避したものの、爆風で再び吹き飛ばされた。そして、ツチハは地面に倒れ込んだ千初に銃口を向けた。

ツチハ「これでチェックメイトだな! 初瀬千初!!」
千初「ッ!!」
セオ「や…やめろ…!!」

千初に銃口を向けたツチハはガンソードのトリガーを引こうとした。しかし、トリガーを引こうとしたその時ツチハは激しい頭痛に見舞われた。

ツチハ「ぐあぁぁぁッ! 何だこの頭痛はッ!?」

ツチハは何とか耐えてトリガーを引こうとしたものの、あまりの痛みに、ツチハは地面に膝を付いた。その時、ツチハの耳に付けられた通信機にレディスから通信が送られてきた。

レディス「ツチハ、あんたはまだ生まれたばかりだから無理はしない方がいい、早く帰ってきな」
ツチハ「くっ…! 了解…」

ツチハは立ち上がり、千初とセオに一言返した。

ツチハ「次こそは必ずお前達を殺す」

そう言ってツチハはビルの上まで跳び、姿を消した。

セオ「何て奴だ…私達がこうも簡単に…」
千初「確かに…でも、あの子…悪い子ではなさそうなんだ…」
セオ「千初…」

千初とセオとの戦いで突然頭痛を訴えたツチハ、レディスはツチハの遺伝子情報などをチェックした。すると、意外な事実が分かったのである。

レディス「なるほどね…クローンがオリジナルの人物と戦うと、拒絶反応を起こすようにDNAにプログラムされていたのか…」
スナイプ「DNAにプログラム、ですか…? そんな事一体誰が…?」
レディス「それは私達の科学力でも解明不可能さ、多分、地球人が言う所の神様と言ったところじゃないかな?」

その会話を聞いていたツチハは、レディスにある事を聞いた。

ツチハ「レディス…それでは私は奴らとは戦えないと言う事か?」
レディス「いや、大丈夫さ、この程度の遺伝子情報、私達の科学力をもってすれば容易く書き換える事ができる」
ツチハ「なら安心した、奴らとは必ず決着を付けなければならないからな」
レディス「頼んだよ、ツチハ」

その頃、千初は自分の遺伝子から生まれたクローンであるツチハについて色々と考えていた。彼女は自分の遺伝子から生まれ、自分を殺そうとした。だが、あの時見せた謎の頭痛、あれは恐らく自分を殺せないと言う拒絶反応だ、ならば、戦わないでもいい方法があるのではないかと。しかし、この事について祥匡に伝えると、襲ってくるなら戦わないといけない、もし手を抜いたら被害が増える可能性があると言われてしまった。千初は、どうすればいいのか分からないまま、仕事帰りの道で一人、ずっと悩んでいた。そうこうしていると、自宅に到着し、玄関の扉を開けた。

千初「ただいま…」
初子「あらおかえり千初、元気ないわね」
千初「うん…それがね…」

千初は姉である初子に今日の出来事を伝えた。にわかには信じられない出来事に、初子も驚いていたが、初子は千初に自分の思っている事を伝えた。

初子「私はエージェントじゃないからよく分からないけど…、私が千初の立場だったらきっとあなたみたいに悩んでいたと思う」
千初「ねえ、お姉ちゃん…私…どうすればいいかな…?」

その問いに、初子はしばらく考えた、何度も何度も納得のいく答えを考え、そしてようやく答えを見つけた。

初子「これが正しいかは分からないけど、説得してみるのはどう?」
千初「説得…?」
初子「そう、少なくとも、あなたと同じ遺伝子から生まれた存在なら、うまく行く可能性はあるかもしれないわ」
千初「説得…か…うん、やってみるよ、お姉ちゃん」
初子「ふふふ、少しは役に立ててよかったわ、じゃあ、ご飯食べよう」
千初「うん!」

千初は姉との話し合いにより、一つの答えを見つけた。一方で、千初の仲間であるセオも悩んでいた。ツチハは危険な存在ではあるが、千初と同じ遺伝子から生まれた存在、それを攻撃する事は抵抗があったのである。一人で考え事をするセオに対し、祥匡は優しく話しかけた。

祥匡「あの千初くんのクローンの事かい?」
セオ「…はい」
祥匡「僕がこんな事を言うのもなんだけど、相手が危険な存在なら、戦わなくちゃいけない、それが何であろうと」
セオ「分かっています、でも…」
祥匡「そう簡単には受け入れられないよね…相手はクローンと言えど人間だものね…」

二人は今まで以上の難題に、頭を悩ませていた。エイリアン相手なら倒すと言う方法で対処ができる。だが、今度の相手はエイリアンによって生み出された人間、エイリアンとは対処の方法が違うのである。その時、社内にエイリアン反応警報が鳴った。

セオ「エイリアン…!?」

セオと祥匡が社長室に入り、モニター画面を見ると、街中を20mほどの黒い巨大人型兵器が歩いていた。卵に手足が付いたようなデザインをしたその兵器は、かつてヨーロッパに出現したオクトタイプエイリアンの物である。重装甲が売りのその機体は、多数の兵器を装備しており、非常に強力な兵器なのである。

祥匡「まいったね、千初くんはもう帰っちゃったし…」

その時、モニターの回線に割り込んできた者がいた、その人物は、紅の鮮血の紅音と初菜である。

紅音「やあ、困ってるようだね、あたしらが助けてあげようか?」
セオ「またお前達か、と、言いたいところだが、今は助けてもらうしかないようだな」
初菜「おっけー! 任せといて!」

そう言って通信は切断され、しばらくすると巨大兵器と交戦する彼女たちの姿が見られた。紅音と初菜はそれぞれ高周波ブレードと超硬質日本刀で戦い、主に関節部を狙って攻撃していたが、関節部も固い装甲で覆われていた。以前出現した個体は装甲がなく、関節部を破壊されて倒された。恐らく、その経験から装甲を追加したのであろう。紅音と初菜は機動兵器の指から放たれるフィンガーバルカンを回避し、隙を見つけては関節部を攻撃していたが、全く効果がなかった。彼女たちが戦っている様子を見ていた祥匡とセオは、このままでは彼女たちが死んでしまうと感じていた。そして、祥匡はセオにある提案をした。

祥匡「セオくん、千初くんの荷電粒子ライフルを持っていってやってくれ」
セオ「分かりました、では、行ってきます」

セオは荷電粒子ライフルをスカイフェンリルに積むと、ファフニールの屋上からスカイフェンリルを急発進させた。その頃、紅音と初菜は機動兵器の重装甲に押され、防戦一方であった。何とか弱点を見つけようと頑張っていたが、見つける事ができず、機動兵器が無尽蔵に撃ってくるフィンガーバルカンを回避し続けていた。

初菜「紅音さぁん…このままじゃまずいですよぉ…」
紅音「チッ、偉そうな事言って出てきたはいいけど、こりゃ少しヤバいかもね…」

機動兵器はなおもフィンガーバルカンを撃ち、紅音と初菜を攻撃した。その時、セオが到着し、紅音たちの前にやって来た。その手には、千初の荷電粒子ライフルが握られていた。

紅音「セオ、やっと来てくれたね、で、それは何?」
セオ「荷電粒子ライフルだ、これで奴を破壊する事が可能なはずだ」
紅音「で、それをあたしに撃てってわけね、任せて!」

紅音は荷電粒子ライフルを手に取ると、銃口を機動兵器に向け、トリガーを引いた。荷電粒子ライフルからは強力なビームが放たれ、機動兵器の胴体を貫いた。機動兵器は仰向けに倒れ込み、大爆発を起こした。セオたちは機動兵器が爆発する寸前にその場を離れたからいいものの、かなりの爆発が発生した為、プラムシティにはかなりの被害が発生した。ちなみに、例に漏れず市民は全員避難済みである。

初菜「派手に爆発しましたね~」
紅音「分かる」
セオ「まあ、ここで奴を倒しておかなければもっと被害が出たから、よしとしよう」

その時、セオたちの前に1人の人物が現れた。その人物は、千初のクローンであるツチハであった。

セオ「お前は、ツチハ…!」
ツチハ「やあ、また会えて嬉しいよ」
紅音「あいつが噂の千初のクローンか」
初菜「まるで怒った時のお姉ちゃんだね」
ツチハ「さて…殺される準備はできたか?」

そう言ってツチハはガンソードを手に取った。

セオ(くっ…! 戦うしかないのか…!!)

オクトタイプエイリアンの機動兵器を破壊したセオたちであったが、彼女たちの前に千初のクローンであるツチハが現れた。ツチハはセオたちに戦いを挑む為に現れたようで、少し離れた場所からも伝わるほどの殺気を見せつけていた。それに対し、セオ、紅音、初菜の3人は武器を取り、身構えた。

ツチハ「さて…殺すか…」

ツチハはそう呟いてガンソードをセオたち目掛けて発砲した。ガンソードから放たれたブレイクレーザーは地面に着弾し、大爆発を起こした。セオたちは着弾する少し前に後方に跳んだ為、被害はなかったが、ツチハはガンソードからブレイクレーザーを放ち続けた。その度に街の被害は増え続け、瓦礫が飛び散っていた。

紅音「くっ! このままでは埒が明かない! 突っ込むよ! 初菜!」
初菜「りょーかい!」

紅音と初菜はツチハに一気に接近し、斬りかかったが、ツチハは軽い動きで攻撃を回避した。その直後、ツチハは初菜に一気に接近し、ガンソードのブレードで連続攻撃をした。その攻撃を、初菜は超硬質日本刀で防御をしていたが、あまりの攻撃のスピードに防戦一方であった。

ツチハ「お前…千初に似た匂いがする…」
初菜「ふざけた事言わないでよね! 私はお姉ちゃんよりいいシャンプー使ってるんだから!」

その時、ツチハは初菜の超硬質日本刀をガンソードのブレードで弾いた。武器を失った初菜に対し、ツチハはガンソードを振り下ろし、初菜の体を斬り裂いた。初菜は攻撃が来る寸前に回避行動を取った為、モロには当たらなかったが、ガンソードのブレードは切れ味が高く、かなりのダメージを負った。初菜は地面に倒れ込み、痛みに苦しんでいた。

初菜「うぅ…痛い…よぉ…」
紅音「初菜! くっ! 貴様ァッ!!」

仲間を傷つけたツチハに対し、紅音は攻撃を仕掛けたが、ツチハはその攻撃を全て軽々と回避していた。まるで未来を予測しているかのように回避し、紅音の攻撃は全て回避され、決定打にはならなかった。

ツチハ「ウザいよ…お前…」

するとツチハはスカートの中の太ももの辺りに装備した小型ナイフを取り出し、紅音の腹部に突き刺した。

紅音「がはッ!!」

ツチハが突き刺した小型ナイフを抜くと、紅音は地面に倒れ込んだ。その様子を見ていたセオは、あまりの強さに恐怖さえ覚えた。

セオ「…化け物か…?」
ツチハ「さて…次はお前だな、千初の相方…」

セオは紅の鮮血の2人を一方的に追い詰めたその強さに恐怖を覚えたが、ここで自分が負けたら多くの人々が傷ついてしまう、それだけは何としても避けなくてはならない為、高周波ブレードを取り、立ち向かった。セオはツチハに対し、的確に剣を振って攻撃を仕掛けたが、ツチハはガンソードのブレードで攻撃を全て受け止めた。

セオ(こいつにはどんな攻撃も当たらないと言うのか!?)
ツチハ「お前らの攻撃は遅すぎる、あくびが出てしまうよ」

そう言ってツチハはセオの腹部に蹴りを食らわした。蹴りを食らったセオは地面に倒れ込み、そのセオに対し、ツチハは銃口を向けた。

ツチハ「…終わりだな、千初の相方…」

その時、ツチハ目掛けてレーザーが数発飛んできた。ツチハはガンソードのブレードで全て切り払った。その後、ツチハはレーザーが飛んできた先を見た。そこに立っていたのは、銃口を向ける千初であった。

千初「…セオちゃんは…やらせない…!」
ツチハ「やっと来たか…初瀬千初…」
千初「セオちゃん…紅音さん…初菜…」

辺りを見渡し、仲間がツチハにやられている事を知った千初は、真っ先にバディを組んだ仲間であるセオに駆け寄った。すると、セオは苦しそうな声で千初にこう伝えた。

セオ「千初…奴は危険だ…荷電粒子ライフルを使え…」
千初「駄目、今回は荷電粒子ライフルは使わない」
セオ「そんな事を言って勝てる相手じゃない…」
千初「銃は自分を守る為にあるの、戦う為にあるんじゃない」

すると、千初は立ち上がり、ツチハに銃口を向けた。

ツチハ「やる気か? たった一人で…」
千初「うん、でも、私はあなたを殺さない! あなたの好きな戦いと言うやり方で対話をする!」
ツチハ「甘ちゃんだな! お前は…!!」
千初「甘ちゃんでいい! 私は、妹の様な存在であるあなたを殺せないから!!」

千初はエネルギー銃を鈍器のように使い、ツチハとの格闘戦に挑んだ。ツチハはガンソードのブレードで格闘戦をしたが、エネルギー銃は壊れる事なくブレードを受け止めた。

ツチハ「驚いた、思ったより丈夫なんだな…」
千初「ファフニール製のエネルギー銃は万が一の時を考えて格闘戦ができるぐらい丈夫に作られているの!」

ツチハはガンソードを振り回し、攻撃を仕掛けたが、千初は全て回避し、逆にエネルギー銃での攻撃を的確に当てていた。今の千初は以前と違い、ツチハと対話をすると言う目的があった。その目的を持ち、覚悟を決めた今の千初は、例え自分以上の力を持ったクローンとも対等に戦えるのである。そして、千初はツチハの攻撃をかわし、頭をエネルギー銃で殴った。頭を殴られたツチハは気を失い、地面に倒れ込んだ。ツチハが次に目を覚ました時、彼女がいた場所は千初の自宅であった。恐らく千初の自室なのであろう、部屋にはベレッタやグロッグと言った数々の拳銃が飾られていた。そしてツチハは身動きが取れないよう、椅子にアンカーショットガンのワイヤーで体を縛られていた。更に千初の自室には外出しているのかどうか知らないが、誰もいなかった。だが、約1分後に千初が部屋に入って来た。

千初「あっ、目を覚ました、セオちゃーん! お姉ちゃーん! 起きたよー!」

千初がセオと初子を呼ぶと、2人が千初の自宅に入って来た。そして、3人が千初の自室に入り、ツチハの方をじっと見ていた。

ツチハ「…何のつもりだ」
千初「いや、まだツチハちゃんをお姉ちゃんに会わせてなかったから…」
セオ「もし暴れたらいけないから、体は縛らせてもらったがな」
ツチハ「ふざけるな! 私をコケにする気か!? それに、私をちゃん付けするな!!」
初子「まあまあ、落ち着いて、クッキーあるから」

そう言って初子はツチハの口にクッキーを入れた。ツチハは吐き出すのももったいなく、そのままクッキーを食べた。

初子「どう? おいしい?」
ツチハ「…ま、まあな…」
初子「ふふ、よかった」
千初「それじゃあ、早速話しよっか?」
ツチハ「話…だと…?」
千初「うん、凄く大事な話だよ」

千初に敗北し、捕虜となったツチハ、彼女は千初の自室に連れてこられ、千初と話をする事になった。だが、捕虜であるツチハに対し、始まった話は平凡な話であった。

千初「ねえ、ツチハちゃんは好きなものってある?」
ツチハ「好きなもの? 人間の血だが何か?」
千初「違う違う、そうじゃなくて、好きな食べ物とか、動物とか…」
ツチハ「そんなものはない」

一般人とは違う考え方のツチハには、お馴染みの会話などは通用しないようであった。どんな会話なら彼女と仲良くなれるか考える千初だったが、今度は初子がツチハに質問をした。

初子「じゃあ、ツチハちゃんに友達とかいる?」
ツチハ「友達? そんなものはいない、生みの親はいるが、奴は友達ではない」
千初「じゃあ、私達と友達になろう!」
ツチハ「断る」

あっさりと友達になる事を断られた千初はショックを受けていた。すると、アンカーショットガンのワイヤーで縛られたままのツチハが、千初に対してある事を聞いた。

ツチハ「…なあ、何故この部屋にはこんなにも銃がある」

千初たちが今いるこの部屋は千初の部屋であり、壁や棚にはベレッタやコルトガバメントなど、50丁近くの銃が飾られていた。こんな光景は一般人にはまず見られない光景であり、いくら千初がエージェントだからと言ってここまで多くの銃は飾らないであろう。その事を聞いてきたツチハに対し、千初は笑顔で答えた。

千初「気になる? じゃあ、何でだと思う? 当ててみて?」

ツチハは千初の出した問題に頭を悩ませた。10秒ほど考えると、ツチハは千初に返事を返した。

ツチハ「いきなり強盗が入ってきた時に対応できるからか?」
千初「う~ん、違うんだな、これが」
ツチハ「じゃあ、何故だ?」

数多くの銃が飾られていた事を疑問に思ったツチハに対し、千初は笑顔でその答えを教えた。

千初「答えは簡単だよ、かっこいいから!」
ツチハ「…は?」

思っていた事と全く違う答えに、ツチハはポカーンとしていた。そのツチハに対し、千初は笑顔で詳しい理由を話し始めた。

千初「じゃあ、例えばこのベレッタって銃、どう思う?」
ツチハ「どう思うって…かなり昔に作られた拳銃としか…」
千初「普通はそう思うよね、でも、私からすればかっこいいんだ」
ツチハ「銃がかっこいい?」
千初「うん! かっこいいの!」

千初はベレッタを飾っていた場所に戻すと、普段任務で使用しているエネルギー銃を取り出した。

千初「私が普段使っているこのエネルギー銃も、かっこいいでしょ?」
ツチハ「…到底理解できん…」
千初「でもね、銃は人殺しの武器、だから忌み嫌われている…私はそれが辛い…」
ツチハ「だが、所詮銃は人殺しの為に存在する、違うか?」
千初「うん、多分間違ってはない、でも、私はこう思うの、人殺しの為の武器でも、使い方によってはきっと役に立つって…」

すると、千初はセオを右腕で抱き寄せ、笑顔でこう答えた。

千初「そう考えていた時、私はエージェントの仕事に出会った、そして、銃を人々の役に立てることができたの!」
ツチハ「人間を守る為に銃を使うと言う事か?」
千初「そう! 私は銃がかっこよくて好きだから、人間を傷つける為には使わない、だから、あの時あなたには撃たなかったんだよ!」
ツチハ「………」
初子「そんなかっこいい事言って、ファフニールに入隊すれば一週間自社の食べ物が無料だからって理由で入ったんでしょ?」
千初「お姉ちゃん、それを言ったら台無しだって~!」

すると、突然ツチハが笑い始めた。その笑いは心から面白いと思った笑いであった。それを見た千初はツチハに笑顔を見せた。

千初「やっと、笑顔を見せてくれたね」
ツチハ「…あぁ、お前の考え方が面白くてな」
セオ「変わった奴だろう? こんな変わった奴が私の相棒なんだ」
ツチハ「…お前達といれば退屈しなさそうだ」

その後、初子は外にゴミ出しをしに行くと言って退出し、部屋には千初とセオとツチハだけになった。その時、外から初子の悲鳴が聞こえた。

千初「お姉ちゃん!?」
セオ「お姉さんが危ない!!」

千初とセオが外に出ると、レディスの部下であるスナイプの人質になった初子がいた。初子は羽交い締めにされた状態でこめかみに拳銃を当てられていた。

初子「千初…セオさん…」
スナイプ「動くな、一歩でも動けばこの女の頭が砕けるぞ」
セオ「くっ! 初子さんを放せ!」
スナイプ「ああ、放してやってもいい、だが、お前達が捕まえているツチハを返してもらう」
千初「…分かったわ」

その後、自室に戻った千初は、アンカーで縛っていたツチハを開放し、そのままツチハと共に外に出た。

千初「あなたの言う通り、ツチハちゃんを連れて来たわ」
スナイプ「ご苦労、約束通り、この女は解放する」

そう言ってスナイプは突き飛ばすように初子を解放した。初子は千初に受け止められ、怪我はなかった。

スナイプ「さて、帰るぞ、ツチハ」

その時、ツチハはスナイプにベレッタを発砲した。そのベレッタは千初の部屋にあった物であり、千初の行ったカスタムによって3連射ができるようになっている。スナイプは全ての弾丸をライフル銃で防御したが、突然撃たれた為、怒りをあらわにした。

スナイプ「何故撃った! ツチハ!!」
ツチハ「残念だったな、私は千初と共に行く」
千初「ツチハちゃん…!」
スナイプ「貴様ァ! レディス様を裏切るつもりか!?」
ツチハ「勘違いするな、私はお前達の仲間になったつもりはない、それに、千初といた方が面白いからな」

すると、スナイプはツチハにライフル銃を向けた。

スナイプ「もうお前など不要だ! 所詮は野蛮な地球人の遺伝子から生まれた存在だからな!!」

すると、ツチハはベレッタを千初に投げ渡した

ツチハ「千初! ガンソードを渡せ!」

千初はツチハから預かっていたガンソードをツチハに投げ渡した。ガンソードを託されたツチハは、スナイプと対峙した。

スナイプ「死ね! 虫ケラがァ!!」

スナイプはツチハ目掛けてライフル銃を発砲したが、ツチハはその場に立ったままガンソードのブレードで銃弾を両断した。

ツチハ「…その程度か?」

スナイプは続けて2発目、3発目とライフル銃を撃ったが、ツチハは接近しながら銃弾を両断し、無力化した。そして、ツチハは一瞬のうちにスナイプに接近し、スナイプの首をガンソードのブレードで切断した。頭部を失ったスナイプは切断面から緑色の血を吹き出しながら、地面に倒れ、動かなくなった。

ツチハ「フン、レディスの部下の割には大した事ないな」
千初「ツチハちゃん!」

千初はツチハに抱き着き、笑顔を見せた。

ツチハ「どうした、お前の姉は無事だろう?」
千初「これからは一緒にいてくれるんだよね?」
ツチハ「…まあな、お前といれば面白そうだしな」
千初「ありがとう!!」

そう言って千初はツチハを強く抱きしめた。

ツチハ「分かった、苦しいから離れろ!」

こうして、千初たちと行動を共にするようになったツチハ、完全に仲間になった訳ではないものの、千初は彼女と共に居れる事を嬉しく思うのであった。

一方、ツチハの裏切りを知ったレディスは激怒し、千初とその仲間に対する恨みを募らせていた。

レディス「あの役立たず…! あたしを裏切るなんて…! 所詮は下等な地球人の血を引いた者よ!」
スラッシュ「レディス様、いかがなさいます?」
レディス「そうねぇ…イライラするからこの街ごと焼き払っちゃいましょう」

そう言ってレディスは今いる部屋のテーブルの上にあるスイッチを押した。レディスのいる基地は実は巨大円盤であり、普段はプラムシティの外れの山の中に埋まっているが、先ほどレディスの押したスイッチによって浮上し、空を自由自在に飛行する事ができるのである。そして巨大円盤はプラムシティの上空で止まり、そこでレディスが市民に放送で恐怖の宣言をした。

レディス「プラムシティの愚かな人間よ、よく聞け、今から1時間後、この街を焼き払う、だから今のうちに逃げるがいいわ、まあ、どこに逃げても無駄だけどね、アハハハ!」

その放送を聞いた市民は恐怖し、あっという間に街中はパニック状態になった。車は渋滞し、荷物をまとめた市民は逃げまどった。だが、まだ一部の市民は希望を失ってはいなかった。そう、この街にいるエージェントの存在である。ファフニールでは社長の祥匡から既に巨大円盤迎撃の任務が下っていた。その任務を受けた千初とセオは、格納庫で準備をしていた。

セオ「…やっと決着を付けるときが来たな…」
千初「…そうだね、絶対に生きて帰って来よう」
ツチハ「今回は私も同行する、だから安心しろ」
セオ「感謝する」

すると、そこに前回の戦いで怪我を負った紅音と初菜がやって来た。2人は怪我人ではあるが、この状況で休んでいる訳にもいかず、痛む体に鞭打ってこの作戦に参加するようである。

紅音「よっ、あたしらを仲間外れにするなんて酷くないかい?」
千初「紅音さん! 初菜! 怪我は大丈夫なんですか?」
紅音「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ?」
初菜「この街が焼かれちゃったら私達の活動する場所がなくなっちゃうからね」
千初「紅音さん…初菜…」
紅音「ツチハ…だっけ? この間の事はもう気にしてないから、仲良くやろうね」
初菜「正直超痛かったけど、仲間だからもう帳消しにしとくよ」
ツチハ「…感謝する」

その後、千初はスカイフェンリルの後部にツチハを乗せ、セオと共にファフニール社から発進した。紅音と初菜も地上に停めてあったクリムゾンキマイラに乗り、そのまま飛行して千初たちと合流した。そして、4機は上空に止まったままの巨大円盤に向かっていた。

千初「あれね…」
セオ「見た感じ、入る場所はなさそうだが…?」
ツチハ「なら、無理やりこじ開けるだけだ」

そう言ってツチハは右手にガンソード、左手に荷電粒子ライフルを持ち、トリガーを押した。そして、2丁の銃の銃口からビームが放たれ、巨大円盤の船体に風穴を開けた。

紅音「おー、ワイルドだねぇ…」
初菜「このまま爆散してくれればよかったんだけどね」
ツチハ「あの巨大円盤はアプリコット星の超技術で作られているからそうそう壊れはしない…」
セオ「アプリコット星…初めて聞く星だ…」
千初「地球に来た新たなエイリアンって事なんですね…」

その後、千初たちはツチハの開けた風穴から巨大円盤に侵入した。スカイフェンリルとクリムゾンキマイラをその辺に停めると、5人は武器を手に取り、レディスのいる場所を目指した。

セオ「レディス…待っていろ…すぐに向かう…」
紅音「いや、そうはいかないらしいね…」

千初たちの前に現れたのは、レディスの部下のエイリアンであった。側近であるスラッシュをリーダーに現れた彼らは皆、ヒューマノイド型のエイリアンであり、人間によく似た姿であった。そのエイリアン達が約30名ほど現れ、剣や銃で武装し、千初たちの前に立ち塞がったのである。

スラッシュ「レディス様から侵入者は殺せとの命令だ、覚悟しろ」
千初「悪いですが、私達は死ぬつもりはありません!!」

千初がそう言うと、エイリアン達は攻撃を仕掛けて来た。銃を装備した兵士は銃を発砲し、剣を装備した兵士はセオたちと交戦した。千初はエネルギー銃で銃を装備した兵士を攻撃した。自分達と同じ姿をしている為、あまり撃ちたくはなかったものの、ここで撃たないと自分達がやられる為、ためらわず撃った。セオと紅音と初菜は剣で装備した兵士と交戦した。兵士達はまとめてかかってきたが、3人は攻撃を回避したり受け止めたりして攻撃を無力化した後、高周波ブレードや超硬質日本刀で斬り裂いた。幸い、エイリアン達の血は緑色だった為、人間を殺した気分にはならず、安心して戦う事ができた。ツチハはリーダーであるスラッシュと交戦していた。スラッシュは刀使いであり、素早くツチハを攻撃した。だが、ツチハは全ての攻撃を回避し、スラッシュを斬り裂いた。体を斬り裂かれたスラッシュは地面に倒れ込み、血を流した。

スラッシュ「レディス様…申し訳ございません…」

そう言い残し、スラッシュは息絶えた。スラッシュが倒された頃には既に他の兵士たちは全滅し、千初たちの勝利となっていた。

セオ「終わったな…」
千初「そうだね…でも、あのエイリアン達私達とよく似た姿をしていたからあまりいい気分はしなかったな…」
ツチハ「安心しろ、千初、奴らは正真正銘エイリアンだ、見た目は違うが、オクトタイプやリザードタイプと同じだ」
千初「そうだけど…やっぱり見た目が一緒だとね…」
ツチハ「そうか? 人間とは面倒だな…」
紅音「さてと…先を急ぐか…」
初菜「あと40分でプラムシティが火の海になるからね」

5人は巨大円盤の内部を探索した。外が巨大すぎる為、迷路のように迷うかと思われたが、巨大円盤の内部は案外小さく、3分ほどでレディスのいる場所に到着した。そして、レディスのいる場所は闘技場のような場所で、彼女のセンスからすればプラムシティの命運をかけた戦いには丁度いい場所と思っている事であろう。

レディス「やっと来たね…」
セオ「レディス…やっと決着を付ける時が来たな…」
千初「プラムシティは…焼かせません…!!」
レディス「フ…なら止めてみなよ…私を殺してね!!」

プラムシティ上空に待機した巨大円盤に突入した千初たち、彼女たちは今、プラムシティを守る為、レディスと戦っている。プラムシティで暗躍を続けたレディスと彼女にかつての仲間を殺されたセオ、因縁のある2人が対峙し、決着を付ける時が来た。そして今、プラムシティの命運をかけた戦いが始まった。

セオ「レディス…遂に決着を付ける時が来たな…」
レディス「待っていたよ、セオ、あの時の続きと行こうか」
千初「…戦う前に聞かせてもらえませんか? 何でこんな酷い事をするのか」
レディス「それは簡単な話だよ、私の故郷であるアプリコット星は、侵略行為や争いを好む者達が多いのさ」
セオ「何…? じゃあ、お前が私の仲間を殺したのも、他の星を滅ぼしたのも…」
レディス「そう、アプリコット星人がそう言う事を好む人種だからさ」
紅音「何て野蛮な…」
初菜「まるで怒った時のお姉ちゃんだよ」
千初「初菜! 後でお仕置きだからね…」
レディス「でも、アプリコット星人は争いを続けるあまり、滅んでしまい、仲間もあんたらに倒された、だからあたしを殺せば絶滅って訳さ」
ツチハ「…どうしても戦うつもりか?」
レディス「勿論! じゃ、始めよう!」

レディスは腰に携えていた剣を抜いた。それと同時に紅音と初菜が攻撃を仕掛けたが、レディスは剣を一振りし、風圧で2人を吹き飛ばした。紅音と初菜は後方の壁に衝突し、戦闘不能になった。

千初「紅音さん! 初菜!」
初菜「私達の事はいい! 戦いに集中して!」
紅音「千初! 荷電粒子ライフルを使え!」

千初は荷電粒子ライフルを構えて撃った。だが、レディスは剣で防御し、ビームを弾いた。

セオ「荷電粒子ライフルのビームが弾かれた!?」
レディス「この剣はビームやレーザーを弾く塗料でコーティングされていてね…」
ツチハ「なら、接近すればいいだけの事!」

ツチハはガンソードのブレードでレディスに攻撃を仕掛けた。しかし、レディスは攻撃を全て回避、逆にツチハの腹に蹴りを食らわし、宙に浮かせた状態で回し蹴りを放ち、ツチハを地面に叩き付けて戦闘不能にした。

千初「ツチハちゃん!」
ツチハ「何と言う力だ…」
レディス「フフフ…あんたらは後でゆっくり殺してやるよ」
セオ「ふざけるなッ!!」

仲間を傷つけるレディスに激怒したセオは、高周波ブレードで斬りかかろうとした。

レディス「あんたじゃ無理よ」

自分に攻撃を仕掛けてくるセオを、レディスは剣を振った風圧で吹き飛ばした。吹き飛ばされたセオは後方に吹き飛ばされたが、とっさに千初が受け止めた事で、セオは軽傷で済んだ。だが、クッション代わりとなった千初は、体にかなりの衝撃が加わり、大きなダメージを受けた。

セオ「千初!?」
千初「うぐっ…セオちゃん…大丈夫…?」
セオ「ああ、大丈夫だ、だが千初…」
千初「大丈夫だよ、気にしないで…」
レディス「おやおや、仲のいい事で…」
セオ「…千初、私は何としても奴を倒したい…力を貸してくれ…」
千初「…うん、分かった…」

2人は立ち上がり、千初は荷電粒子ライフルを、セオは高周波ブレードを手に取った。
レディス(何故だ…? 何故奴らはまだ立ち上がる…!?)

千初は荷電粒子ライフルの出力メーターを最大まで上げた。出力を上げすぎると故障する可能性があるが、セオのレディスを倒したいと言う想いに応える為、千初は危険を承知で荷電粒子ライフルの出力を上げた。

千初「荷電粒子ライフル、最大出力! 行っけぇぇぇ!!」

荷電粒子ライフルのトリガーを引くと、強力なビームが放たれた。だが、無理に最大出力で撃った為、荷電粒子ライフルの銃身が暴発し、荷電粒子ライフルは完全に使い物にならなくなってしまった。最大出力で放たれた荷電粒子ライフルのビームは、一直線にレディスに向かって行った。当然、レディスは剣で防御したが、あまりの熱量に、ビーム耐性がされた刀身が溶けてしまった。完全に溶ける前に剣を捨てた為、レディス自身は無事だったが、レディスは武器を失い、完全に丸腰となってしまった。

セオ「武器を失ったようだな、なら私にも勝機はある!!」
レディス「くっ…!!」

セオは高周波ブレードをレディスに振り下ろした。レディスは両掌からバリアを発生させ、防御した。

セオ「壊れろぉぉぉッ!!!」

セオは腕に力を入れ、高周波ブレードをバリアに押し付けた。そして、そのままバリアを破壊し、レディスの体を高周波ブレードで斬り裂いた。体を斬り裂かれたレディスは口から血を吐き、地面に倒れ込んだ。

レディス「見事よ…地球人…」
セオ「終わりだな、レディス…」
レディス「ふふ…みじめなものね…地球人を舐めていたら…あたし自身が死ぬことになるなんて…」
セオ「レディス、この円盤を爆破する方法を教えろ」
レディス「安心しな…この円盤はあたしの命と連動している…あたしが死ぬと…この円盤も爆発する…」
セオ「そうか…」

セオはレディスの背中に高周波ブレードを突き刺した。その攻撃は致命傷となり、レディスは生命活動を停止した。すると、その瞬間円盤内部で警報が発生した。千初たちは急いで侵入口に向かい、スカイフェンリルとクリムゾンキマイラで脱出した。脱出してしばらくすると、巨大円盤は大爆発し、木っ端微塵になった。

紅音「…終わったな…」
初菜「…そうですね、紅音さん」
ツチハ「だが、まだエイリアン災害は続くのだろう?」
セオ「まあな、だが、まずはゆっくり休みたいな…」
千初「そうだね、とりあえず、ファフニールに戻ろう」

そして、レディスとの戦いから一ヶ月が経過した。千初とセオはあの後もチーム銃×剣として活動していた。今回は半魚人タイプのエイリアン2匹の討伐ミッションであり、エイリアンの素早い動きに翻弄されつつも、何とか戦っていた。千初はエネルギー銃を構え、素早く動くエイリアンに標準を合わせた。

千初「そこっ!!」

千初はエネルギー銃のトリガーを引き、レーザーを放った。エイリアンの移動する先を予測した的確な射撃は見事命中し、一撃でエイリアンの急所を撃ち抜いて倒した。一方のセオもエイリアンの素早い動きに対応し、高周波ブレードを構えた。

セオ「見切った!!」

セオはエイリアンが急接近し、攻撃した際、すれ違いざまに剣を振り、エイリアンの体を斬り裂いた。エイリアンは胴体を両断され、倒された。こうして、今回のミッションは完了したのであった。

千初「ふぅ…お疲れ、セオちゃん」
セオ「ああ、そっちこそな」

ミッションが完了した2人は、スカイフェンリルに乗って本社に帰投した。ファフニール本社では社長の祥匡と、千初の姉である初子が待っており、今回のミッションに成功した2人を手厚く迎えていた。

祥匡「千初くん、セオくん、ミッションの成功おめでとう」
初子「2人共、よく無事に帰って来たわね」
セオ「ありがとうございます」
千初「お姉ちゃん…本当に見学に来たんだね…」

ミッションで疲れた2人に、初子はスポーツドリンクを渡した。2人はペットボトルの蓋を開けると、水分を補給する為、ペットボトルの半分ぐらいまで一気に飲み干した。

千初「そう言えば、紅音さんと初菜はあれから何してるんですか?」
祥匡「ああ、紅の鮮血の仕事をしているらしいよ、最近は忙しくてここには来れないらしいけど、たまに連絡をくれるよ」
セオ「無事でなによりだ、だが、ツチハは本当に音信不通だからな…」
千初「うん…」

ツチハはレディスとの戦いの後、千初たちの前から姿を消した。何でも、自分はまだ世界がどんなものか知らないから、自分の足で世界を見て回りたいとの事である。千初とセオもそれに同行しようとしたのだが、ツチハは2人にプラムシティを守ってほしいと言う理由で、たった1人で世界を回る旅に出たのである。当然、彼女はスマートフォンを持っていない為、連絡を取る手段もなく、音信不通状態なのである。

千初「まあ、きっとツチハちゃんもいつか必ず私達の前に現れるはずだよ」
セオ「そうだな…」
祥匡「…ところで、今日はもうミッションがないから、2人で外出したらどうだい?」
千初「そうですね…お姉ちゃんは?」
初子「あなたとお友達の間に私が入るのは良くないから、2人で行ってらっしゃい」
千初「うん、分かったよ」
セオ「では、お先に失礼します」

2人はファフニールを後にし、街に外出した。プラムシティの街は1ヵ月前の騒動が嘘のように平和で、まさに平和一色と言った感じであった。

千初「こうして見てると、エイリアン災害がある事が嘘みたいだね」
セオ「そうだな、だがこれもエージェントの活躍で平和が維持されているんだ」
千初「うん…だから私達はまだ戦わなくちゃいけない…」
セオ「ああ、いつかエイリアン災害が無くなるその日までな…」
千初「でも、今日だけは2人で一緒に街を観光しよう!」
セオ「ああ、そうだな」

1つの大きな戦いを終えた千初とセオ。だが、エイリアン災害が終わるその日まで、エージェントの戦いは終わらない。いつか平和な日が訪れるまで、チーム銃×剣の戦いは続く。エイリアン災害のない平和な世界を作る為、エージェント達は戦い続けるのだ。

太陽と月と希望の剣士たち 後編「希望の剣士の章」

タクト一派に敗北し、黒コゲになったポディスンは、黒コゲのままヴェンジェンスの本拠地に戻って来た。ポディスンは1人、本拠地の廊下を歩いていたが、2度も撤退させられたことで、ポディスンは悔しがっていた。

ポディスン「くっそ~! あいつら、今度会ったら殺してやる!!」

イライラした様子でポディスンは何度も地団駄を踏んでいた。すると、ポディスンの後ろからクライムがやって来た。

クライム「その様子、よほどひどい目に会ったようだな、ポディスン」
ポディスン「あっ! クライム様! 聞いてくださいよ!あいつらったらかわいい私をこ~んな黒コゲにして!」
クライム「ふむ…フロストに続きポディスンまで敗北するとは…これは私が出るしかないかもしれん…」

その言葉に、ポディスンは驚いていた。クライムは今までどんな事があっても自ら出るなどとは言わなかったからだ。タクト一派はクライムにとってそれほどの相手だと言う事なのだろう。

ポディスン「クライム様自らが行くんですか!?」
クライム「ああ、タクト一派がどれほどのものか、私自らが確かめてくるよ」

そう言って、クライムはテレポートの呪文でその場から移動した。

ポディスン「あいつら、今度こそ終わったね、クライム様には絶対に勝てないんだから!」

本拠地の廊下には、ポディスンの笑い声が轟いていた。

タクト達は今、砂漠を越えようとしていた。だが、あまりの暑さと足場の悪さの為、タクトとリリシェはシエルプランシュで、ソレイユとクレセントは飛行しながら移動していた。ちなみに、砂漠があまりにも暑い為、普段の倍近くのスピードを出している。

リリシェ「ねえ、タクト…もうちょっとスピード落とさない?」
タクト「断る、クソ暑いからな」
リリシェ「でも、こんなに速度上げたら怖いよぉ…」
タクト「なら勝手に降りろ」
リリシェ「やだよ~! こんな砂漠のど真ん中に女の子を放置しないでよ~!」
タクト「ああもう! うるさい女だな!!」

2人で騒いでいるタクトとリリシェを見て、ソレイユとクレセントは2人で笑っていた。

クレセント「あの2人を見ていると、本当に和むわね」
ソレイユ「分かる~! あの2人ってお似合いだね!」
タクト&リリシェ「それはない!!」
ソレイユ「え~お似合いだと思うんだけどな~」
タクト&リリシェ「だからそれは絶対ない!!」
リリシェ「てかソレイユ、あなた、太陽の精霊なら気温下げる事ってできないの?」
ソレイユ「それは無理だね、私は太陽の光から生まれた存在だけど、気温を変化させる力は持ってないから」
タクト「そんなもんなのか?」
クレセント「まあ、分かりやすく言うと、気温を変化させる力は私達の生みの親である太陽と月が持ってるの」
ソレイユ「だから、分身である私達には備わってないんだ」
リリシェ「ふ~ん、太陽と月の精霊って言っても、できない事はあるんだね」

そんな話をしていると、砂漠を抜け、湿地帯に到着した。タクトとリリシェはシエルプランシュを降り、ソレイユとクレセントは地面に着地した。

タクト「やっとマシな場所に着いたな」
リリシェ「分かる~、もう砂漠はこりごりだよ~」
ソレイユ「私からすると涼しかったんだけどな~」
クレセント「それはあなたが太陽の精霊だからよ、ソレイユ」

すると、タクト達に近づく1人の人影があった。それは、ヴェンジェンスの総帥、クライムだった。

クライム「やあ、待っていたよ」
タクト「誰だ!?」
クライム「私はヴェンジェンス総帥、クライム・ゼノロストだ」
タクト「ヴェンジェンスの総帥だと!?」
リリシェ「この人が…ヴェンジェンスの総帥…」
ソレイユ「なら、今ここでこいつを倒せば…!」
クレセント「この戦いが終わるって事ね!」
クライム「まあ、そう言う事になるな、フッフッフ」
リリシェ「で、私達に一体何の用?」
クライム「決まっているだろう、君達の相手をしに来たのさ」
タクト「どうやら死にたいらしいな、なら望み通りここでぶっ殺してやる!!」
クライム「それが君にできたらね、タクト・レイノスくん」
タクト「その言葉…後悔するなよ!!」

そう言ってタクトはクライムに攻撃を仕掛けた。だが、クライムは一瞬でタクトの背後に回り込んだ。そして、クライムはタクトをダークネスブレードで攻撃したが、タクトは間一髪、聖剣エスペリアで攻撃を受け止めた。

クライム「おやおや、受け止めたか、大体の相手はこれで死ぬんだがね…」
タクト「だ…ま…れッ!!」

タクトは力づくでクライムを剣ごと斬り払った。すると、クライムは紫色の真空波を放った。タクトはその攻撃を回避したが、クライムは連続で真空波を飛ばし、攻撃した。連続で真空波を飛ばされた事で、タクトも回避しきれず命中してしまった。

タクト「ぐわあああっ!!」
クライム「フッフッフ…」

油断していたクライムに対し、ソレイユはサン・フレイムを、クレセントはルナ・カッターを放って攻撃した。だが、クライムは高速で移動し、ソレイユとクレセントの背後に回り込んだ。2人は防御態勢を取ったが、クライムの斬撃の威力は高く、ソレイユとクレセントは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。クライムの圧倒的な強さに、リリシェは怯えていた。

リリシェ「ひいぃ…あいつ強すぎだよ…」

すると、そのリリシェの背後にクライムが現れた。

リリシェ「ひえっ!?」
クライム「この高速移動は私の技の一つ、ソニック・ムーブだ、覚えておきたまえ」

そう言ってクライムはリリシェの腹に回し蹴りを放ち、吹き飛ばした。

クライム「さて…と、こんなものか? 君達の力は?」
タクト「舐めるなっ! ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは刀身に巨大な魔力の剣を生成し、斬りかかった。だが、クライムも同じ様に巨大な闇の剣を生成した。

クライム「ダークネス・クライム!!」

クライムはダークネスブレードに闇の魔力を纏った状態で回転斬りを放ち、タクト達4人を薙ぎ払い、吹き飛ばした。

タクト「ぐわあああああああっ…!!」

タクト達は地面に叩き付けられ、戦闘不能になった。

クライム「やれやれ…四天王を敗北させたからどんな相手かと思えば、こんなに弱いとはね…」
タクト「うぐっ…まだ…だ…がはっ!」
クライム「そろそろトドメを刺してやる…」

すると突然、タクト達4人は真っ白な世界に集まった。正確には、タクト達の意識がクレセントの作った精神世界に集まったのだ。

タクト「…ここはどこだ?」
クレセント「ここは私の作った精神世界、ここでの1時間は元の世界での1秒よ」
リリシェ「そんな事ができるんだ…凄ーい」
タクト「で、わざわざ俺達をここに集めて何の用だ?」
クレセント「単刀直入に言うわ、この戦いには勝てないから撤退しましょう」

その言葉に、タクトは感情を爆発させた。

タクト「何でだ! ヴェンジェンスの総帥を殺すチャンスだぞ!!」

その言葉に対し、クレセントも感情を爆発させた。

クレセント「生きていたら! そのチャンスはいつか必ず来るわ!」
ソレイユ「タクト、生きる事だって大事だよ、死んでしまうとね、チャンスは二度と来ないんだよ」
リリシェ「それに、今は私達の方が追い込まれてる、一旦撤退しましょう」
クレセント「大丈夫、逃げる事は、恥でも何でもないから、逃げる事だって大事よ」

クレセント達のその言葉に、タクトはしばらく考えた後、答えを出した。

タクト「…分かった、今回は撤退する、だが、次奴に会ったら必ず殺す」
クレセント「うん! それでいいわ!」

すると、リリシェがある疑問を出した。

リリシェ「でもさ、どうやって逃げるの?」
ソレイユ「あ、それを考えてなかった…」

それに対し、タクトは自信満々で答えた。

タクト「大丈夫だ、俺に任せろ」
リリシェ「タクト!」
タクト「だが、それには3人の力が必要だ、力を貸してくれ」

その言葉に、3人は頷いた。

クレセント「分かったわ! 任せて!」
ソレイユ「タクトには今まで何度も助けられたからね!」
リリシェ「今回もタクトに任せるわ!」
タクト「…ありがとな」

タクト達は意識を元の世界に戻した。そして、4人は立ち上がった。

クライム「おやおや、立ち上がったか、なら、トドメを刺してやる」

クライムは真空波を放ち、タクト達を攻撃したが、タクト達は散開し、攻撃を回避した。その間、タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、クライムに突撃した。クライムはその突撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。そして、タクトとリリシェはシエルプランシュから降り、タクト以外の3人はタクトに魔力を与えた。そして、タクトは剣に魔力を纏い、超巨大な魔力の剣を生成した。

タクト「これで一気に決める! ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!」

タクトはハイパー・ブレイヴ・ブレードを振り下ろした。クライムも負けじと、剣に闇の魔力を纏い、回転斬りを放った。

クライム「くっ! ダークネス・クライム!!」

ハイパー・ブレイヴ・ブレードとダークネス・クライムはぶつかり、大爆発を起こした。

タクト「今だ! 撤退するぞ!!」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、ソレイユとクレセントは飛行して颯爽とその場を立ち去った。爆炎が収まった後、クライムは1人不敵に笑っていた。

クライム「フフフ…中々面白い相手だ、今回は見逃してやる、だが、次に会った時には…」

湿地帯には、クライムの笑い声が轟いていた。その後、タクト達はかなり遠い場所にある河原で休んでいた。命からがら逃げて来た為、4人共完全に疲れ切っていた。

リリシェ「ハァ…ハァ…死ぬかと思った…」
ソレイユ「流石に今回はヤバかったよ~」
タクト「ヤバいのは毎回だろ…」
クレセント「確かにね…」

タクト達はしばらく休み、呼吸を落ち着かせた。その後、クレセントがタクトに優しく語り掛けた。

クレセント「タクト…きっとあいつを倒すチャンスは必ず来るわ」
タクト「多分な、それに、あいつはあえて俺達を見逃した、そんな気がするんだ」
リリシェ「何でそんな事が分かるの?」
タクト「俺の感さ」
リリシェ「な~んだ!」

その時、河原の近くの草むらから音が聞こえた。

タクト「何かがいる…!!」
リリシェ「もう! 誰よ~!!」
ソレイユ「まさか…ヴェンジェンス!?」
クレセント「四天王…とかじゃないわよね…?」
タクト「もう魔力が枯渇寸前なんだから縁起でもない事言うな!!」

草むらから現れたのは、リリナとその部下であった。いきなり鉢合わせになった双方は、目を丸くしていた。

リリナ「え…あんた達…」
タクト「お前ら…何でこんな所にいるんだ…まさかお前ら、俺達を殺す為にここに来たのか!?」
リリシェ「そんな…! 今の私達じゃ、リリナ達にも勝てるかどうか分からないのに!」

すると、リリナの口からは意外な返事が返って来た。

リリナ「落ち着いて、私達は戦いに来たんじゃないわ」
タクト「何…?」
ターニャ「あなた達にとても大事な事を伝えに来たの」
ミーナ「それも世界の命運を変えるかもしれない事」
ノクト「ちなみに、ヴェンジェンスの最高機密の情報よ」
タクト「…本当に戦いに来たんじゃないんだろうな?」
クレセント「大丈夫よ、彼女たちからは悪意は感じられないわ」
ソレイユ「本当に戦うつもりはないみたいだよ」
リリナ「お願い…! 信じて…!」
タクト「…分かった、早く話を聞かせろ」
リリナ「ありがとう、じゃあ、早速話すわね…」

リリナはフロストと共に取った作戦の後敗北し、ヤケになってワインを飲みまくった後、泥酔して部下の3人に支えられながら本拠地の廊下を歩いていた。

リリナ「くっそ~! 今回はあいつらに勝てると思ったのに~! 今度会ったら叩き殺してやる~!」
ターニャ「リリナ様、飲み過ぎですって~!」
ミーナ「めっちゃ酒の匂いする~!」
ノクト「大人ってみんなこうなのかしら?」
リリナ「うるへ~! 17歳のあんたらに私の苦労が分かってたまるか~!!」

すると、リリナは目の前に立ち入り禁止の部屋がある事に気づいた。この部屋はクライムのみしか入る事を許されていない部屋で、リリナ達はおろか、四天王すら入る事を許されていない。なので、中に何があるかは誰も知らないのである。その時、リリナはその部屋の中に何があるのか、興味が湧いてきた。酒に酔っているので、普段とは違う思考回路になったのであろう。

リリナ「…ねえ、誰か針金持ってない?」
ターニャ「一応代わりになりそうなヘアピンがありますけど、何に使うんです?」
リリナ「あの部屋に入る」
ミーナ「えええ!? やめときましょうよ~」
ノクト「バレたら、殺される」
リリナ「んな事知るか~! バレなきゃ犯罪じゃないのよ~!」

その後、リリナはターニャの持っていたヘアピンでピッキングを始めた。リリナはこう見えて過去に盗賊をやっており、こう言った事は手練れていた。酔っている為、少し目元がふらついていたが、リリナは集中すると酔っていても意識がシャキッとする為、約3分ほどで鍵を開ける事に成功した。

リリナ「よし開いた~!!」
ミーナ「ね~本当に入るんですか~?」
ノクト「本当に、死ぬかも」
リリナ「嫌なら来なくていいのよ?」
ターニャ「はぁ…分かりました、行きますよ」

リリナ達は立ち入り禁止の部屋に入った。そこには、机があり、その上には書類が置かれていた。

ミーナ「案外普通の部屋ですね~」
ノクト「何にもない」
ターニャ「もしかして、どっかにお宝とかある?」

部下3人が辺りをきょろきょろと見回す中、リリナは机の上にある書類に目を通した。

リリナ「何この書類…」

その書類を手に取ったリリナは、早速読み始めた。だが、その書類には想像以上に恐るべきことが書かれていた。

リリナ「こ…これは…!!」

その書類にはこう書かれていた。ヴェンジェンスは堕落に満ちた世界を変える事が目的である、だが、それはクライム・ゼノロストの真の目的ではない。その真の目的は300年前に次元の彼方に封印された邪神を復活させ、世界中にいる人類を邪神の手によって根絶やしにし、邪神の手によって新たなる人類である新人類を誕生させ、私と邪神が支配する新人類の世界を作る事が真の目的である。ヴェンジェンスの存在は人々の命を奪い、邪神復活の生贄にする為の魂を集める為の組織なのだ。

書類に書かれていた事を読み切ったリリナは、体中が恐怖で身震いしたと同時に、自分達の存在が捨て駒にされた事で怒りを覚えた。

ノクト「リリナ様、どうしました?」
ミーナ「酔いでも覚めましたか?」
リリナ「…クライム様の目的は、堕落に満ちた世界を変えるとかじゃない、人類を滅ぼす事らしいわ」
ターニャ「そんな…! じゃあ、どっちみち私達も死ぬって事?」
リリナ「こうしちゃいられないわ! 早くここから出ましょう!」

リリナは部下を連れて部屋から出た。するとそこには、クライムの側近であるデクシアとアリステラがいた。

リリナ「デクシア! アリステラ!」
デクシア「リリナさん、立ち入り禁止の部屋に入ったようですね」
リリナ「2人とも聞いて! クライム様の真の目的は、人類を滅ぼす事よ!」
アリステラ「…それがどうしました」
リリナ「…え!?」
デクシア「私達の役目は、クライム様に全力で尽くす事」
アリステラ「それができないなら、あなた達など必要ありません!!」

そう言ってデクシアとアリステラはエクスプロージョンの呪文を唱えた。それに対し、リリナの部下3人はマジックガンから炎魔法のファイアを唱え、エクスプロージョンの呪文を迎撃した。リリナ達はその隙にテレポートの呪文でその場を後にした。

デクシア「逃げましたか…」
アリステラ「まあ、いいでしょう、彼女たちがいなくとも、私達のやるべき事は変わりません」

リリナ「で、私達は何とかこの近くの砂漠に逃げてきて、この河原に隠れていたって訳よ」
リリシェ「あんた達も大変だったのね…」
タクト「クライムの目的…聞くだけで恐ろしいな…」
ソレイユ「それにあいつ、邪神を復活させるつもりなんだね…」
リリナ「ねえ、邪神ってそんなにヤバい奴なの?」
クレセント「ええ、とっても」

ソレイユ「300年前の戦いで大陸が消し飛んだ理由は知ってるよね?」
リリシェ「うん、人類の生み出した魔法爆弾で吹き飛ばしたんだよね?」
ソレイユ「あれ、実は魔法爆弾なんかじゃないんだ」
リリシェ「え、そうなの!?」
クレセント「300年前にある帝国出身の呪術師が誕生させた邪神がいてね、その邪神が究極魔法で大陸を消し飛ばした、これが真実よ」
ソレイユ「多分、後世の人が怖がったりしないように邪神じゃなく魔法爆弾に変えられたんだと思う」

タクト「じゃあ、その邪神はお前達が封印したんだな?」
クレセント「うん、何とか封印したんだけど、とても強かったわ」
ソレイユ「邪神の暴走で人類が諦めかけた時、私達は太陽と月の光から誕生して邪神と戦ったの」
クレセント「でも、今より遥かに力のあった私達2人が力を合わせても邪神は倒せなかったわ…」
ソレイユ「それで、私とクレセントが力を合わせた奥義、サン・ムーン・エンドで時空の彼方に封印したんだ」
クレセント「その後、失われた大陸を元に戻して、私達は長い眠りについた、これが真実よ」
リリシェ「私達って…凄い人たちと一緒に戦ってたんだね…」

そんな話をしていると、リリナが突然タクトの両手を掴んだ。

タクト「何をする!?」
リリナ「お願い! クライムを倒して!」
ターニャ「私達じゃクライムは倒せない…」
ミーナ「でも、四天王を何度も退けたあなた達ならきっと倒せる!」

その話を聞いたタクト達は表情を曇らせた。自分達はそのクライムの圧倒的戦闘力に撤退を余儀なくさせたからだ。

タクト「俺達でも…クライムには勝てなかった…」
ノクト「そんな…」
タクト「だが、クライムの真の目的が人類の抹殺なら、俺達はクライムと戦うしかない」
リリシェ「まだやりたい事があるのに、殺されたくなんかないもの!」
ソレイユ「人間は誰しも、生きる権利がある! それを勝手に奪わせたりしない!」
クレセント「人の命を何とも思わないような人に、私達は屈しません!」
リリナ「あなた達…」

タクト「お前達も、クライムを止めたいなら、協力してくれ」
リリナ「もちろんよ! みんなもいいでしょ?」
ターニャ「もちろんです!」
ミーナ「私はずっとリリナ様に付いて行くよ!」
ノクト「仕方ないですね…」
リリシェ「リリナさん! 似た名前同士、これからよろしくね!」
リリナ「こちらこそよろしく!」

その時、ソレイユとクレセントが何かを感じ取った。

ソレイユ「何かが来る…!」
クレセント「これは…ヴェンジェンスよ…!」

遠くから河原の石を踏む足音が聞こえ、現れたのはヴェンジェンス四天王のフロストであった。

フロスト「裏切り者のリリナちゃんを始末しに来てみたら、まさか死にかけのタクト一派がいるなんてね~」
タクト「フロスト…!!」
フロスト「言っとくけど、僕はクライム様の為なら、何でもするよ?」
タクト「相変わらず狂ってやがるな…!!」
フロスト「さあ、ここで決着を付けようか」

リリナ「フロスト様! いえ、フロスト! クライムの真の目的は、人類を抹殺する事、私達はその為の捨て駒だったの!」

その話を聞いたフロストは微笑し、リリナに返事を返した。

フロスト「知ってるよ、クライム様は僕達四天王にだけはその事を教えていてくれたんだ」
タクト「じゃあ、何だ、お前達はクライムの目的の為の捨て駒になっていいとでも?」
フロスト「もちろん、真の目的がどうあれ、堕落に満ちた世界を破壊すると言う当初の目的は達成されるからね」
リリシェ「なら、あなた達は捨て駒にされて死んでもいいって言うの!?」
フロスト「もちろん、ヴェンジェンスに入った時から死は覚悟していたさ」
タクト「狂ってる…お前達は狂ってるぜ!!」
フロスト「何とでも言いなよ、僕達はお前達を殺す、その為にここに来たからね」

フロストが別空間からフリージングサーベルを取り出した事を確認すると、タクトはリリナの方を向き叫んだ。

タクト「リリナ! お前は部下を連れて逃げろ!」
リリナ「え…? 私も戦うよ…?」
タクト「駄目だ! お前達じゃあいつには勝てない! 死にに行くようなものだ!」
リリナ「わ…分かったわ」

そう言って、リリナは部下を連れてその場を去った。

フロスト「賢明な判断だね、僕にかかればリリナ達は瞬殺だからね~」

フロストが喋っている間に、タクト達も聖剣エスペリアを取り出した。そのタクト達の様子を見たフロストは、タクト達を鼻で笑った。

フロスト「さて、クライム様に痛めつけられた体でどこまで戦えるかな?」
タクト「黙れ! 俺達はクライムをぶっ殺すまで死ぬつもりはない!!」

そう言ってタクトはフロストに斬りかかろうとした。その時、フロストは指を鳴らした。すると、そこから一筋の光が放たれた。タクトはその攻撃を回避し、光は後方にあった萱に命中した。すると、萱は一瞬で凍結し、崩れ去った。

リリシェ「何今の!?」
フロスト「僕の技の一つ、フリーズ・エンドさ、以前も使っただろう?」

以前と言うのは、フロストが初めてタクト一派と戦った時の事だ。その時は手で触れた物を凍結させ、指を鳴らすと崩れると言うものであった。だが、今回は指を鳴らすと光が放たれ、その光に当たると一瞬で凍結し、崩れると言うものだった。

フロスト「あれから僕も特訓してね、遠距離型のフリーズ・エンドを生み出したのさ」
タクト「なるほどな、お前もその努力をもっとマシな事に使えばよかったにな!」

そう言ってタクトはフロストを攻撃した。

フロスト「アイシクル・シールド!!」

フロストは自分の身の丈ほどもある大きさの氷の板を瞬時に生み出し、攻撃を防御した。

タクト「くっ!」
フロスト「甘いね、アイスクリームより甘い!!」

フロストは氷の板を消し、掌から無数の氷の飛礫を放った。この技はアイシクル・バレットと言う技で、無数の氷の飛礫を吹雪の如くぶつけると言う技である。時速100㎞以上の速度で飛ぶ無数の氷の飛礫は、タクトの全身にモロに命中し、タクトを吹き飛ばした。

リリシェ「タクト!!」
フロスト「おっと!!」

タクトの身体を心配して駆け寄ろうとしたリリシェに対し、フロストは再びアイシクル・バレットを放った。無数の氷の飛礫がリリシェの全身を傷つけ、リリシェは地面に倒れ込んだ。

リリシェ「ぐうぅ…!」
フロスト「言っとくけど、僕は女の子だからって、容赦はしないよ?」
ソレイユ「くっ! これ以上私の仲間を傷つけるなーっ!!」

ソレイユはサン・フレイムを放ったが、フロストはアイシクル・シールドで防御した。

フロスト「このアイシクル・シールドはとっても分厚いからね、その辺の盾よりは頼りになるよ」
クレセント「だったら、全方向から攻撃してあげます!!」

クレセントはルナ・カッターでフロストを全方向から攻撃した。だが、フロストは自身の周囲に氷柱を発生させる攻撃呪文、アイシクル・バーストを防御に転用し、上からの攻撃は装備しているフリージングサーベルで斬り払った。

フロスト「あまり僕を甘く見ない方がいいよ? こう見えても四天王だからね~」
クレセント「くっ!」

すると、フロストは突然呆れた様子を見せた。

フロスト「これで君達がいかにタクトに頼りきってるが分かったよ」
クレセント「何ですって?」
フロスト「君達は弱すぎる! 1人1人は弱く、突出しているのはタクトだけ、よくこれでここまで戦ってこれたね~」
クレセント「そんな事…!」

すると、フロストのその言葉に、ソレイユが声を張り上げた。

ソレイユ「それは違う!!」
フロスト「え?」
ソレイユ「タクトだって、1人だけで戦って来たんじゃない! 私達がいないと負けていた事も沢山あった!!」
クレセント「そうよ! 1人1人は大して強くない…でも! みんなが協力したから、ここまで戦ってこれたのよ!!」

その言葉に、タクト達も立ち上がった。

タクト「そうだ…! ここまで来たのは、俺1人の力じゃない…! リリシェが、ソレイユが、クレセントがいたからここまでこれたんだ!!」
リリシェ「それが分からないあなたには、私達を殺す事は出来ない!!」
フロスト「くっ! なら、僕がすぐにトドメを刺してあげるよ!!」

フロストは剣を取り、クレセントと鍔迫り合いになった。

ソレイユ「クレセント! しばらく持ちそう?」
クレセント「3分ぐらいは持たせてみせるわ!」
ソレイユ「ありがとう」

そう言ってソレイユはタクトの所に向かった。そして、ソレイユはタクトの右手を強く握った。

ソレイユ「タクト、私を使って!」
タクト「お前を…使う?」
ソレイユ「私がタクトの弓になる、それであいつを撃ち抜いて!!」
タクト「そんな事をして、大丈夫なのか?」
ソレイユ「…もちろん大丈夫じゃないよ、弓になると命を削っちゃう、でも…!」

ソレイユはタクトの手を強く握った。その手には、震えが感じ取れた。

ソレイユ「ここで死んじゃう方が、私はずっと嫌だ!!」
タクト「…分かった、お前の決意、確かに受け取った!!」

ソレイユは体を眩く光らせ、しばらくして光が収まると、そこには太陽のような輝きの真っ赤な弓へと姿を変えていた。

タクト「…これは?」
ソレイユ「太陽の弓、私が武装化した姿だよ」
タクト「これであいつを撃ち抜けばいいんだな?」
ソレイユ「うん! でも、一発しかないから慎重にね」
タクト「了解だ!」

一方、交戦していたフロストとクレセント、戦闘不能になっていたリリシェも太陽の弓の存在に気付いた。

フロスト「何だあれは?」
リリシェ「ソレイユが…弓になった!?」
クレセント「ソレイユったら、武装化は命を削るのに…それほどの覚悟なのね」

タクトはフロストに向けて弓を向けた。すると、炎の矢が現れ、タクトは矢を撃つ態勢を整えた。

タクト「当たってくれよ…俺は弓の扱いは慣れてないんだからな…」
フロスト「馬鹿め! そんな物が当たる訳…」

その時、フロストの首を羽交い絞めにした人物がいた。既に撤退したはずのリリナ達だ。

フロスト「お…お前達…!!」
リリナ「ソレイユちゃんが命かけてるのに、私達が命をかけないでどうするの!」

フロストはリリナの腕を凍結させようとしたが、リリナの部下たちがマジックガンでファイアを放ち、フロストの両手を焼いた。

フロスト「ぐわあぁぁぁッ!!」
タクト「今だッ!!」

タクトは炎の矢を放った。リリナはそれを見てフロストを正面に突き飛ばした。そして、フロストは体を炎の矢に貫かれ、全身が燃え上がった。

フロスト「ぐあぁぁぁッ!! 僕が…!! 死ぬ…!? うわあぁぁぁッ!!!」

フロストは炎に包まれ、骨も残さず燃え尽きた。こうして、四天王の1人であるフロストとの戦いに勝利したのだった。

ソレイユは元の姿に戻り、地面にへたり込んだ。かなり消耗しているようで、立つ事ができなくなっていた。

ソレイユ「ハァ…ハァ…疲れた…」
タクト「ソレイユ、大丈夫か?」
ソレイユ「だ…大丈夫だよ、でもちょっと疲れたなぁ…」
クレセント「当たり前よ、武装化は命を消耗する能力だもの」
リリシェ「そんな能力を使ったの!?」
ソレイユ「心配かけてごめんなさい、でも、みんなを助けるにはこれしかないと思って…」
リリシェ「もうこれからは無茶はしないでね」
ソレイユ「うん、分かったよ」

タクト「さて、そろそろこの場を立ち去った方がいいな」
クレセント「そうね、四天王も倒したし、きっとこの場もバレてるはずだし…」
リリシェ「じゃあ、早くこの場を立ち去りましょう」

すると、ソレイユがリリシェに抱き着いた。

ソレイユ「ねえ、リリシェ~おんぶして~」
リリシェ「そう言えばソレイユは疲れて動けないんだったわね、分かったわ」
ソレイユ「やった~」

そして、タクト達は出発の準備を整えた。

タクト「じゃあ、行くか」
リリシェ「うん!」

こうして、四天王の1人であるフロストを倒したタクト達は、一旦休息を取る為、河原を出発した。全ては、ヴェンジェンスの総帥、クライムの野望を止める為…。

フロスト戦死の知らせは、ヴェンジェンスの本拠地にも届いていた。ヴェンジェンス総帥のクライムは、フロストが戦死した事を察知し、その事を部下の四天王たちに伝えた。

クライム「…フロストが逝ったか…」
グラム「そんな…! フロストが死ぬなんて…!」
ポディスン「嘘…嘘でしょ…!? フロストが…!」
アオ「クライム、誰がやったの?」
クライム「タクト一派だ」
ポディスン「やっぱりあいつらね…!」

すると、ポディスンはクライムの前に立った。

ポディスン「クライム様、タクト一派討伐の任務、私にやらせてください」
クライム「いいだろう、だが、くれぐれも死ぬなよ」
ポディスン「了解しました」

そう言うと、ポディスンはテレポートの呪文でその場を立ち去った。

ポディスンが立ち去った後、クライムはある事を考えていた。その様子に気付いたアオは、クライムに問いかけた。

アオ「クライム、どうしたの?」
クライム「いや、何故彼らはたった4人だけで我々ヴェンジェンスと戦ってこれたのか、と思ってね」
グラム「やはり、太陽と月の精霊の存在でしょう、彼女たちは非常に厄介です」
アオ「あのタクトって奴もかなり厄介だよ」

すると、クライムは更に考え、ある答えを出した。

クライム「彼らは4人全員が協力し、我々と戦って来た、これが結束の力だと言うのなら厄介だよ」
グラム「そんなに…ですか…?」
クライム「ああ、ポディスンが無事に帰って来てくれれば嬉しいのだがね…」
アオ「ポディスン…無事に帰ってきてね…」

一方のタクト達は、ハムパ村の宿に泊まり、くつろいでいた。

タクト「あ~! 疲れた…」
リリシェ「お疲れ様、タクト、でも…」

タクト達のいる部屋は、とても広々とした部屋で、8人入っても大丈夫なほど広かったが、男1人、女7人のこの状況に女性陣は少し困惑していた。

リリナ「完っ全にハーレム状態ね」
ソレイユ「あははは! タクト、ハーレム状態だねー!」
クレセント「こらっ! ソレイユ!」
リリシェ「タクト…狙ってこの部屋にしたでしょ?」
タクト「してねーよ! 俺がそんなやましい感情を持っていると思うか?」
リリシェ「そう言われると…う~ん…」

タクトは女性に全く興味がないような性格で、とてもハーレムを狙うような人間でない事は確かである。

リリナ「そんな事言って、本当は狙ってるんでしょ? は・あ・れ・む」
タクト「だから狙ってねーって! そんなに気になるなら俺は寝るよ!」

そう言ってタクトはベッドに飛び込み、布団をかぶった。まだ時刻は午後5時、夕方である。だが、しばらくするとタクトは起き上がった。

タクト「なあ、リリナ」
リリナ「何?」
タクト「ずっと聞きたかったんだが、ヴェンジェンスの本拠地ってどこにあるんだ?」
リリシェ「あ、それ私も聞きたい!」
ソレイユ「私達、そこを目指して旅してたんだ」
クレセント「ねえ、教えてくれないかしら?」
リリナ「お…落ち着いて、教えてあげるから…」

タクト達が落ち着き、静かになった事を確認すると、リリナは話を始めた。

リリナ「単刀直入に言うわね、ヴェンジェンスの本拠地は、死の山脈デスマウンテンよ」
タクト「なるほど…デスマウンテンだったか…」
リリシェ「あそこは誰も近づかないからね…」

デスマウンテンは別名、死の山脈と言われており、そこでは遥か昔、無実の罪を着せられた大勢の人々が首を刎ねられ殺されたと言う逸話が残っており、そこに立ち入ったが最後、呪いがかかって病死すると言う非常に恐ろしい伝説が残っている魔の山である。その為、一般人はおろか軍人すら恐れて立ち入らない場所なのである。

タクト「ま、ただの伝説だからほんとかどうかは分かんないけどな」
リリナ「現に、私達は生きてるしね」

すると、リリシェが怯えた声でタクトに話しかけた。

リリシェ「ちょっと待って、最終的にそこに行かなきゃダメって事だよね?」
タクト「そう言う事になるな、怖かったら付いて来なくていいぞ」

リリシェはしばらく考えた後、答えを出した。

リリシェ「怖いけど、せっかくここまで来たんだから付いて行ってあげるわ」
タクト「…漏らすなよ?」
リリシェ「馬鹿! そんなに怖がりじゃないっての!!」
タクト「フッ、冗談だよ」
リリシェ「全く、ただの興味本位で付いて来たらまさかデスマウンテンに行くことになるなんてね」

そして、タクトは他の仲間達にも聞いた。

タクト「ソレイユとクレセントはどうするんだ?」
ソレイユ「当然、付いて行くよ」
クレセント「第一、私達の目的はヴェンジェンスを倒す事だもの」
リリナ「私達も最後まで付き合うわ」
タクト「感謝する、じゃ、今日は休むか…」
???「そうはいかないわよ!」

その声の方を向くと、そこにはポディスンの姿があった。ポディスンはベランダの手すりの所に立っており、じっとタクト達の方を見ていた。

タクト「ポディスン…!!」
ポディスン「フロストの仇を取りに来たわよ、決着を付けるから、村の入り口まで来なさい」

そう言ってポディスンはテレポートの呪文で立ち去った。

タクト「ポディスン…決着を付ける時が来たようだな…」
クレセント「そうね…」
リリナ「私達も行こうか?」
タクト「いや、お前達はここで待っていろ」
リリナ「ですよねー」

タクト達が村の入り口に向かうと、そこにはポディスンがいた。

ポディスン「待っていたわよ…あんた達はこれで死ぬ事になる…!!」

ポディスンは紫色のオーラを発生させ、正面に魔方陣を発生させた。そして、その魔方陣からは紫色の巨大な虎が姿を現した。その虎は非常に巨大で、約8mほどの大きさであった。そして、ポディスンはその虎の背中に飛び乗った。

ポディスン「どう? これが私の最終兵器、ポイズンタイガーだよ!!」
リリシェ「ポイズン…タイガー…!」
タクト「…聞いた事がある、毒猫族は皆切り札となる怪物を飼いならしていると…!」
リリシェ「ええ!? じゃあ毒猫族の数だけあんな怪物がいるの!?」
ポディスン「そうだよ~、そしてこれでフロストの仇を取る!」

ポイズンタイガーは巨大な爪でタクト達を攻撃した。タクトとリリシェは後方に跳んで攻撃を回避し、ソレイユとクレセントは飛行して攻撃を回避した。そして、ソレイユはサン・フレイムを、クレセントはルナ・カッターでポイズンタイガーを攻撃したが、ポイズンタイガーにはほぼ攻撃が効いていなかった。

ポディスン「無駄だよ!!」

ポイズンタイガーは口から紫色の液体を吐き出した。ソレイユとクレセントはその液体を回避し、液体は草むらに落ちたが、その液体の落ちた場所に生えていた草は煙を出しながら溶解した。

クレセント「あれは…! 溶解性のある毒…!?」
ポディスン「ポイズンタイガーの武器、溶解毒だよ! これに触れたら、例え鉄でもドロッドロ!」

ポイズンタイガーは素早い動きでタクトとリリシェを襲った。

タクト「そうだ! リリシェ! キュアセイントを使え!!」
リリシェ「そうか! キュアセイントであいつの毒を浄化させれば…!!」

リリシェはポイズンタイガーにキュアセイントを放った。だが、ポイズンタイガーは再び溶解毒を吐いてきた。

リリシェ「嘘…!? 何で…!?」
ポディスン「ポイズンタイガーは、身体の血液の半分が溶解毒で、しかもその辺の毒より遥かに強力なんだ」
タクト「なるほどな、強すぎて多すぎるせいで浄化させようとしても無駄なのか…!!」
ポディスン「例えキュアセイントを100回唱えてもポイズンタイガーは弱らせられないよ」

そして、ポイズンタイガーはタクトとリリシェを右手で殴り飛ばした。

タクト「ぐあぁっ!!」
リリシェ「キャアアッ!!」
クレセント「タクト! リリシェ!」

タクトとリリシェは地面に倒れ込み、苦しんでいた。どうやら、ポイズンタイガーの毒にやられてしまったようだ。

クレセント「ソレイユ! ポイズンタイガーの注意を引き付けておいて!」
ソレイユ「うん! 分かった!!」

そう言ってソレイユはポイズンタイガーの周りを飛び回り、ポイズンタイガーの注意を引き付けた。その間に、クレセントはタクトとリリシェの方に向かった。

クレセント「タクト! リリシェ! しっかりして!!」

毒にやられたタクトはまだ意識があったが、リリシェは毒に苦しみ、今にも死にそうであった。その様子を見たクレセントは、ある決心をした。ソレイユが自身の命を削ってタクト達の窮地を救ったように、自身も命を削り、タクト達を助けるときが来たと。

クレセント「…タクト、今から武装化するから使ってくれる?」
タクト「ああ、勿論だ、あの虎野郎を倒せるなら、使ってやる!」
クレセント「分かったわ、さあ、手を!」

クレセントはタクトの手を強く握った。クレセントは体を眩く光らせ、しばらくして光が収まると、そこには月のような輝きを持った黄金の槍へと姿を変えていた。

クレセント「これが私が武装化した姿、月の槍よ!」
タクト「で、この後はどうすればいいんだ?」
クレセント「私の槍先を、地面に突き立てて!」
タクト「分かった!」

タクトは言われた通り、槍先を地面に突き立てた。すると、そこから黄金のオーラが発生し、辺りを覆った。その黄金のオーラは、タクトとリリシェの体の毒を浄化し、ポイズンタイガーの体内の毒を全て浄化した。体内の毒を全て浄化されたポイズンタイガーは、衰弱し、ふらふらとしていた。

ポディスン「ポイズンタイガー! どうしたの!?」

身体に回った毒が消えたリリシェとタクトは復活し、地面に立つ事ができるようになった。

リリシェ「あれ…? 生きてる…生きてるよ私…」
タクト「俺の体から毒が消えた…これなら行ける…!!」

タクトは地面を走り、ポイズンタイガーの方に向かって行った。

クレセント「ポイズンタイガーの首元を狙って! タクト!!」
タクト「言われなくても…!!」

タクトは月の槍でポイズンタイガーの首筋を貫いた。ポイズンタイガーは口から血を吐き、地面に倒れ込み、息絶えた。ポディスンはポイズンタイガーが倒れた際に体を地面に打ち付けた。

ポディスン「あうっ!!」

そのポディスンに、タクトは近づいて行った。

ポディスン「くっ…!!」

ポディスンはポイズンロッドで応戦するが、月の槍でポイズンロッドをあっさりと破壊されてしまった。

ポディスン「まだだッ! エクスプロー…!」

エクスプロージョンの呪文を唱えようとしたポディスンであったが、月の槍で心臓を貫かれ、口から血を吐いてポディスンは地面に倒れ込んだ。

ポディスン「ごめ…んね…フロス…ト…」

フロストの仇を取れなかったポディスンは力尽き、息絶えた。こうして、フロストに続き、ポディスンも倒された事で、ヴェンジェンスの四天王は2人も戦死者を出したことになった。

クレセントは元の姿に戻り、倒れそうになったが、ソレイユに支えられ、何とか立っていた・

クレセント「ありがとう、ソレイユ」
ソレイユ「私に無茶をしないでって言ったのに、クレセントも無茶しちゃったね」
クレセント「そうね、やっぱり無茶しないで戦うのは無理ね」

すると、タクトがポディスンの亡骸を抱えてクレセントの方に歩いてきた。

タクト「なあ、こいつを弔ってやれないか?」
リリシェ「タクト、敵を弔ってあげるの?」
タクト「ああ、こんな奴でも俺達と同じ命だからな」
クレセント「なら、私とソレイユに任せて」

タクトはポディスンの亡骸をポイズンタイガーの亡骸の近くに置くと、ソレイユとクレセントは協力して浄化魔法を唱えた。浄化魔法の光が、ポディスンとポイズンタイガーの亡骸に照射されると、ポディスンとポイズンタイガーの亡骸は光になっていった。そして、その光は空に昇って行った。

ソレイユ「この魔法は、見ての通り、亡骸を光にする魔法だよ」
クレセント「この魔法で弔われた生物は、来世幸せな人生を送れるって話よ」
タクト「そうか…あいつら、来世こそは平和な世界で幸せな人生を送れるといいな」
リリシェ「そうだね…誰も傷つかない平和な世界が来るといいね」
タクト「その為にも、俺達がヴェンジェンスを倒さければいけない」
クレセント「行きましょう、デスマウンテンへ」
タクト「ああ!」

2人目のヴェンジェンスの四天王を倒したタクト達、平和な世界を手に入れる為、タクト達は決戦の舞台であるデスマウンテンへと向かう事になるのであった。

タクト一派にポディスンが倒された事を察知したクライムは、フロストに続きポディスンまで倒された事に驚きを隠せずにいた。

クライム「…ポディスンまで、逝ったか…」
グラム「そんな…! フロストに続き、ポディスンまで…!」
アオ「ポディスンの切り札、ポイズンタイガーでも駄目なんて…」
クライム「これは一刻も早く手を打たねばならないな…」
グラム「ならば、ここは私とアオにお任せください」
アオ「クライム、私とグラムなら、きっと倒せるよ」
クライム「分かった、ここは2人に任せよう」
グラム「はっ、必ず奴らを始末してきます」

そう言ってグラムとアオはテレポートの呪文でその場を立ち去った。だが、クライムは顎に手を添えて考え事をした。

デクシア「クライム様、どうしました?」
クライム「いや、タクト一派の強さの秘訣は何だろうと思ってね」
アリステラ「実力ならこちらの方が上のはずですよね?」
クライム「そうだな、我々が勝つには、その秘訣を知る必要があるな」

そう言ってクライムは1人、考え事をするのであった。その頃、タクト達はデスマウンテンに向かって歩いていた。シエルプランシュや飛行能力を使っての移動はリリナ達が付いて来れないのでする事ができず、頼みの綱であるリリナ達のテレポートも、本拠地側が決まった人物のみしかテレポートできない仕様にしたらしく、タクト達は仕方なく徒歩で移動しているのである。

リリシェ「ねえ~、デスマウンテンまであとどれくらい?」
リリナ「後…10㎞ぐらいだと思うわ」
リリシェ「じゅ…10㎞!? 疲れる~」
クレセント「大丈夫よ、その為にキャンプ用品を買ってきたんだから」
ソレイユ「野菜や飲み水も沢山あるよ!」

すると、リリナはずっと気になっていた事をタクトに聞いた。

リリナ「ねえタクト、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
タクト「何だ?」
リリナ「タクトの故郷はヴェンジェンスに滅ぼされたのよね?」
タクト「そうだ、その事は今でも許してない」
リリナ「そう…、なら、クライムを倒したら私達も殺すの?」
タクト「安心しろ、お前達はクライムの危険性を教えてくれた恩がある」
リリナ「なら、許してくれるの?」
タクト「勘違いするな、お前達のした事は許してない、殺した者達の分まで必死に生きればの話だ」
リリナ「難しいけど…分かった、やってみるわ」
タクト「フ、それでいい」

その時、目の前にグラムとアオが姿を現した。2人の様子は以前会った時より真剣な表情で、その目からは殺気が漂っていた。

タクト「お前は…グラムとアオか…」
クレセント(2人共以前戦った時はとても苦戦した相手…!)
グラム「単刀直入に言うよ、君達を殺しに来た」
アオ「フロストとポディスンの仇…!」
リリシェ「四天王が2人がかりで来るなんて…!」
タクト「リリナ達は下がってろ! 危険だ!」
リリナ「ええ、分かったわ!」
グラム「さあ…すぐに殺してやるよ…」

グラムは強力な竜巻を起こす呪文、サイクロンを唱えた。それに対し、タクトもサイクロンを唱え、相殺した。続けてアオは一度に複数のアイシクルアローを放つアイシクルアローバーストを放ち、ソレイユを攻撃したが、ソレイユはサン・フレイムを放ち、氷柱を蒸発させた。

グラム「やっぱり、そう簡単には死んでくれないよね」
タクト「俺達はクライムを殺すまでは死ぬわけにはいかないんでな!」

タクトは炎のカッターを放つ呪文、フレイムリッパーを唱えた。だが、グラムはスロトングランスを高速回転させ、フレイムリッパーを防いだ。グラムはそのままストロングランスを振り、真空波を放った。真空波はタクトを襲ったが、タクトは再びフレイムリッパーを唱え、迎撃した。

アオ「やっぱり前より強くなってる…」
グラム「面倒だよね、強くなられちゃ」

アオは水流を飛ばし、相手を斬り裂くウォーターブレードと言う技で攻撃したが、タクト達はその攻撃を回避した。

グラム「どの攻撃も迎撃か回避をする…か…」
タクト「どんなに強い攻撃も当たらなければ無意味と言うものだ」
グラム「なら、確実に当たるような技を使えばいいだけさ」
ソレイユ「えっ!?」

すると、グラムはストロングランスに魔力を纏い、巨大な刃を生成し、それをタクト達の方に向けて飛ばした。

グラム「ストライク・ランス・バースト!!」

その刃はタクト達の近くで大爆発を起こし、タクト達は吹き飛ばされた。

タクト「ぐあぁぁぁッ!!」
リリシェ「キャアアアッ!!」
アオ「続けて行くよ…!!」

アオはスラッシュシックルに風と暗黒の魔力を纏った。すると、アオはスラッシュシックルを3回振り、斬撃を合体させた。

アオ「デス・トライ・ウインド…!!」

その斬撃をタクト達の方に向けて飛ばし、大爆発を発生させた。

ソレイユ「キャアーッ!!」
クレセント「あぁぁッ…!!」

タクト達は地面に倒れ込み、苦しんでいた。

グラム「フロストとポディスンの感じた痛み、思い知ったか」
タクト「何を…! それ以上の人間を苦しめた癖に…!!」
アオ「フロストとポディスンは私達の大切な仲間だった…!!」
リリシェ「あなた達に殺された人達にも、家族や友人がいたのよ…!!」
グラム「堕落に満ちた世界で過ごす人間たちに、何の価値がある」
タクト「くっ! やっぱりお前らは狂ってやがる!!」
グラム「さて…おしゃべりはここまでだ、後は弱った獲物にトドメを刺すだけ…」

そう言いながら、グラムはタクトの方に向かって歩き始めた。

リリシェ(いけない…! タクトが…! 助けなきゃ…! 助けなきゃ!!)

タクトを助ける為、リリシェは死の恐怖に耐え、足を動かした。そして、タクトにトドメを刺せようとしたグラムの槍を宝剣ティスカーで受け止めた。

グラム「何っ…!?」
タクト「リリシェ…! お前じゃ無理だ! 殺されるぞ!!」
リリシェ「そんな事分かってる! 本当は怖い! 戦うのも! 死ぬのも!」
タクト「なら、何で…!!」

すると、リリシェは泣きながら語り出した。

リリシェ「私ね、この旅には興味本位で付いてきたの、そして、この旅でみんなに出会った…でも、怖い事も沢山あった、死にかけた事もあった…」
タクト「リリシェ…」
リリシェ「だから…! 私はみんなに死んでほしくないの…! 役に立てないかもしれないけど、みんなを助けたいの…! その為ならどんなに怖い事でも我慢する…!!」

その時、リリシェの体が眩く輝いた。ソレイユとクレセントは、その輝きに300年前の事を思い出していた。

クレセント「あの輝きは…! 希望の剣士…!?」
タクト「希望の剣士…!?」
ソレイユ「300年前の太陽と月の大戦で戦局を変えるほどの活躍をした剣士の事だよ」
クレセント「その活躍ぶりから人々は戦争を終わらせられるかもしれない希望、つまり、希望の剣士と呼んだわ」
グラム「何でそんな事が分かるんだ!!」
ソレイユ「希望の剣士に共通する事があって、それは気持ちが昂ると体が輝く特性を持っているんだよ」
リリシェ「え…じゃあ、私は希望の剣士の末裔って事…!?」
クレセント「そう言う事になるわね」
グラム「くっ…! 希望の剣士だろうが何だろうが、ヴェンジェンスの邪魔をする者は全員殺す!!」

グラムはリリシェから離れ、ストライク・ランス・バーストを、アオもデス・トライ・ウインドを放ち、リリシェを攻撃した。

リリシェ「ウインドカッター!!」

リリシェは風のカッターで攻撃するウインドカッターを唱え、グラムとアオの技を迎撃した。

グラム「何っ!?」
リリシェ「わ…私がやったの…? 今なら、タクトと同じぐらい戦えるかも…」

すると、クレセントの回復魔法で応急手当を受けたタクトが立ち上がった。

タクト「リリシェ、同時にブレイヴ・ブレードだ」
リリシェ「え…? でも私やり方知らないよ…?」
タクト「簡単な事だ、剣に魔力を纏い、魔力の剣を生成すればいい」
リリシェ「こ…こう…?」

リリシェは見よう見まねで試してみると、すぐに魔力の剣を生成した。案外簡単にできたので、リリシェは驚きを隠せなかった。

タクト「何だ、やればできるじゃないか、なら、同時攻撃行くぞ!」
リリシェ「うん!」
タクト「ダブル…!」
リリシェ「ブレイヴ…!」
タクト&リリシェ「ブレード!!」

2人は同時にブレイヴ・ブレードを放つ大技、ダブル・ブレイヴ・ブレードを放った。グラムとアオは武器で防御態勢を取り、魔力のバリア、魔導障壁で防御したが、ダブル・ブレイヴ・ブレードに魔導障壁を破られ、その衝撃で武器が破損してしまい、グラムとアオも体に傷を負ってしまった。

グラム「くっ…! ここは退くしかないか…!」
アオ「この屈辱、3倍にして返す…!」

そう言いながら、グラムとアオはテレポートの呪文で去って行った。リリシェが希望の剣士に覚醒した事でタクト達の窮地を救い、何とかこの戦いを切り抜けたのである。

そして、リリシェは体力を使い果たし、倒れそうになった。それを、タクトが支え、何とか倒れずに済んだ。

タクト「大丈夫か?」
リリシェ「うん、大丈夫、ちょっと疲れちゃっただけ…」
クレセント「でも驚いたわ、まさかリリシェが希望の剣士だなんて…」

すると、戦闘が終わった事を確認したリリナ達がやって来た。

リリナ「ねえ、希望の剣士ってそんな凄かったの?」
ソレイユ「それはもう凄かったよ、1人で10人は軽く倒してたから」
リリナ「へ~、まるでタクトね」
タクト「俺はまだ希望の剣士になってないぞ、と言うか俺は希望の剣士なのか?」
クレセント「う~ん…まあ、その内覚醒するんじゃないかしら」
タクト「そんないい加減な…」

リリシェ「ねえ、疲れたからちょっと休んで行かない?」
タクト「もうちょっと歩いてからな」
リリシェ「じゃあ、おんぶして」
タクト「…ああ、分かった」

タクトはリリシェをおんぶし、約10分ほど歩いた後、テントを張って休息を取る事になった。

タクト一派に敗れたグラムとアオは、ヴェンジェンスの本部に戻ってきていた。

グラム「くっ…! 駄目だ…! あいつら、強くなってるよ」
デクシア「四天王2人がかりでも駄目でしたか…」
アオ「うん、もう私達じゃ駄目みたい…」
アリステラ「そんな…このままではこのクライムパレスに侵入される…」

だが、クライムは余裕の表情を見せていた。その様子はタクト一派にがクライムパレスに来る事を待ち望んでいるようにも見えた。

クライム「なるほど…私にあそこまで痛めつけられてもまだ立ち向かってくるか…」
アオ「クライム、あいつらに勝てると思う?」
クライム「ああ、勝てるさ、邪神復活に必要な人間の魂はほぼ集まってる」
グラム「それは本当ですか? クライム様」
クライム「ああ、本当さ、邪神さえ復活すればタクト一派はもちろん、この世界の全人類は滅ぶ」
グラム「我々の悲願は達成される、と言う事ですね」
クライム「そう言う事だ」

すると、クライムは玉座から立ち上がり、窓から外を覗いた。クライムパレスはデスマウンテンの内部に作られた城ではあるが、きちんと窓はあった。そして、その窓の外には人々の暮らす村や町があった。

クライム(この世界ももうすぐ終わる…それまでせいぜい暮らすがいい、愚かな人間どもよ)

一方のタクト達はデスマウンテン近くの河原にテントを構え、休んでいた。休んで体力を回復させたリリシェは、リリナ達と共に料理を作っていたが、タクトは一人椅子に座って缶詰を食べていた。その様子を見たリリシェはタクトに話しかけた。

リリシェ「ねえねえ、タクト、何食べてるの?」
タクト「何って…クジラウサギの煮物の缶詰だが?」
リリシェ「缶詰ばかりでよく飽きないね」
タクト「まあな、俺は別に食えたら何でもいいし」

その話を聞いたリリシェは、タクトにある提案をした。

リリシェ「ねえねえ、どうせこの旅も明日で終わるんだしさ、一緒に料理作ってみようよ」
タクト「やだ、めんどい」

だが、リリシェはタクトの腕を取り、強引にキッチンまで引っ張って行った。

タクト「おい…! 俺が作っても黒コゲになるだけだぞ…!」
リリシェ「大丈夫大丈夫! タクトは切るだけでいいから!」

その後、タクトはエプロンを着せられ、包丁を持たされていた。ちなみに、エプロンはリリシェの物であり、フリルの付いたかわいいデザインであったため、それを着たタクトは顔を赤らめていたが、後ろにいたソレイユとクレセント、隣にいたリリナと部下の3人はくすくすと笑っていた。

タクト(リリシェの奴…俺に恥をかかせるつもりか…!!)
リリシェ「一応聞くけどさ、タクトって食材を切った事は…」
タクト「ない、面倒だから全部丸焼きにしてる」
リリシェ「じゃあ、私が教えるからやってみて」

タクトはリリシェに教えられ、ニンジンやタマネギなどの食材を切った。左手を猫の手にして食材を固定し、右手の包丁で切っていた。だが、タクトは普段とは違って冷や汗をかきながら恐る恐る包丁を動かしていた。その様子を見たリリシェはくすくすと笑っていた。

リリシェ「タクトって剣の腕前は凄いけど、こっちは下手なんだね」
タクト「当たり前だろ! 初めてだぞ初めて!」
リリシェ「でも、初めてにしては上手だよ、私なんて初めて使った時は手をザックリ切っちゃったもん」
タクト「そ…そうなのか? なら、俺は上手なんだな」
リリシェ「そうなるね、流石タクト」

その後、タクトが切った食材を鍋に入れ、リリシェが調理を始めた。そして、20分ほどすると出来立てのカレーが完成した。リリシェは全員分のカレーを皿に盛りつけ、テーブルに運んだ。

リリシェ「これで全員分だね! 後、タクトにはミックスジュースを用意してるからね!」
タクト「おっ、気が利くな、ありがとう」

その後、タクト達は食事を始めた。メニューはカレー、野菜サラダ、カットフルーツであり、タクトにはミックスジュースがあった。そして、タクトは早速自分が切った野菜を食べてみた。

タクト「あっ、美味いな」
リリシェ「でしょ? 自分で作ったものは美味しいものだよ」
タクト「…そうなのか? 知らなかったな…」
ソレイユ「タクトってやっぱり炊事洗濯の事は疎いんだね」
クレセント「同じ服を平気で2週間も着続けるものね」
リリナ「…えっ…マジ…?」
クレセント「ええ、本当よ」
ソレイユ「あっ、でも今着てる服は今日変えたばかりだから安心して」

その後、タクト達は料理を食べながら今までの旅の事を思い返していた。4人で旅を始めた事、四天王と戦った事、リリシェの友人と戦った事、温泉に入った事、海に泳ぎに行った事、四天王の作戦で負けそうになった事、クライムに叩きのめされた事、クライムの真の目的を知った事、リリナ達が仲間になった事、四天王を2人倒した事、辛い事や楽しい事など、色んな事があったが、どれも旅の大切な思い出である。そして、この旅ももうすぐ終わろうとしている…。

リリシェ「ねえ、みんなはこの旅が終わったらどうするつもりなの?」
リリナ「私は、どこかでひっそりと暮らすわ」
ターニャ「私達は元ヴェンジェンスだしね~」
ミーナ「ばれたら大変な事になりそうだし…」
ノクト「皆さんがいい所を紹介してくれたら話は別ですが…」

ソレイユ「ねえ、クレセント、私達はまた眠りにつくんだよね?」
クレセント「そうね、人類に脅威が訪れるまではそうなるわね…」
リリシェ「それって悲しいな…どうにかならない?」
クレセント「悪いけど、どうしようもないわね…それが掟みたいなものだし…」
ソレイユ「ごめんね、本当はみんなと一緒にいたいんだけどね…」
リリシェ「そっか~」

タクト「俺は旅に出る、リリシェもそうなんだよな?」
リリシェ「まあ、そうなるわね、私達って元々旅人だし」
リリナ「ねえ、もしかして新婚旅行?」
タクト「ば…馬鹿言うな! 誰がこんな女と…!!」
リリシェ「そうよ! こんな男、こっちから願い下げよ!!」
リリナ「ふ~ん…」

その後、全員が料理を食べ終わった。しばらく全員が静かになったが、沈黙を破ってタクトが話し出した。

タクト「…とりあえず、俺から言えることは一つだ、何があっても、全員で生き残ろう、ただそれだけだ」
リリシェ「そうだね! まだまだやりたい事も沢山あるし」
ソレイユ「みんなの平和を守る為にも、絶対に負けられないしね!」
クレセント「ヴェンジェンスを倒して、みんなが平和に暮らせるなら、私達も嬉しいわ」
リリナ「私達も、できるだけの協力をするからね!」
リリシェ「それじゃ、食器を片付けて休みましょう、明日が決戦だよ!」

そして、タクト達は食器を片付け、寝間着に着替え、テントに入って就寝した。だが、タクトは明日の事を考えるあまり、中々寝付けずにいた。そんな中、外からリリシェが呼ぶ声が聞こえて来た。

リリシェ「ねえ…タクト…起きてる…?」
タクト「リリシェ…?」

タクトとリリシェは河原の大きな石を椅子代わりに座って夜空を眺めていた。2人はしばらく黙って夜空を眺めていたが、しばらくしてリリシェが話始めた。

リリシェ「私ね…本当は明日の事が怖いんだ、だから中々眠れずにいたの、もしかしたら明日死んじゃうかもしれないって思うと怖くって…」

そのリリシェの声は少し震えていた、よほど死ぬのが怖いのであろう。恐らく、今までの戦いも恐怖に耐えながら戦って来たのだろう。タクトは、その事を考えると自分より遥かに強い意志を持っていると感じた。

リリシェ「でもね、ヴェンジェンスを放っておいたら、沢山の人が死んじゃう、もっと悲しむ人が増える、そんなのは嫌だよ…」
タクト「リリシェ…」
リリシェ「だから、私は戦う、もう逃げない、もう怖がらない、ヴェンジェンスを倒して、私は平和な世界で旅を始めるんだから!」

恐怖を押し殺し、この世界に住む人々のために戦おうとする姿勢はやろうとしても誰もがやれる事ではない、それができるリリシェと言う少女は何と強い少女なのだろうかとタクトは感心した。

タクト「フッ、リリシェ、お前やっぱり強いよ、俺より強いかもな」
リリシェ「やだ~、タクトには一生敵わないよ~」

そして、しばらく夜空を眺めた後、タクトとリリシェは立ち上がった。

リリシェ「さあ、もう寝よう、眠くなっちゃった」
タクト「そうだな、俺もゆっくり眠れそうだ」

2人はテントに戻ろうと歩き始めた。リリシェはタクトより早くテントに戻ろうとしたが、途中で立ち止まってタクトの方に振り向いた。そして、リリシェはタクトに向かって微笑んで話しかけた。

リリシェ「…タクト、好きだよ」

これは彼女なりの告白なのだろうか、それとも人として好きと言う事なのだろうか。だが、これはまたからかってるのだろうとタクトは感じた。

タクト「俺の事が好きって…俺はお前みたいな女は嫌だ」
リリシェ「…だ、だよね…ごめんね、もう寝るね、おやすみ~」

そう言い残してリリシェはテントに戻った。

タクト(…何だったんだ? 俺の事が好き…?)

そう考えながらタクトはテントに戻り、就寝した。

そして翌朝、タクト達は最後の戦いへ赴く準備を始めた。昨日の残りのカレーを朝食として食べた後、テントを片付けてデスマウンテンに向かう準備をした。

リリシェ「さ~て! これが最後の戦いになるね!」
タクト「そうだな」

昨日のリリシェの言葉が少し引っかかったが、この様子だとすっかり忘れてそうだとタクトは感じた。

タクト「よし! この戦い、何があっても生き残るぞ!」
タクト一派「おーっ!!」

ヴェンジェンスとの決着を付ける為、タクト達はデスマウンテンへと向かった。この戦いは、人類の運命を決める戦いとなる。平和な世界を作る為、多くの人間の命を救う為、タクト達はヴェンジェンスとの最終決戦を開始するのだった…。

デスマウンテン内部にあるクライムパレスにある玉座の間、クライムは玉座の間の窓から外を覗き、あるものを見ていた。それは、クライムパレスに向かってくるタクト一派であった。

打倒ヴェンジェンスの使命を胸に向かってくるタクト一派に対し、クライムは恐れるどころか戦う事を楽しみにしているように見えた。だが、四天王のグラムはタクト一派を侵入させる訳にはいかず、タクト一派を迎撃する為にクライムに許可を貰っていた。

グラム「クライム様、タクト一派がこのクライムパレスに向かってきます、僕に迎撃の任をお与えください」
クライム「いいだろう、グラム、行ってくるがよい」
グラム「はっ! それと、クライム様の側近2人を僕にお与えください」
クライム「ああ、いいだろう、好きに使え」
グラム「ありがとうございます、では、グラム・ディオースと他2名、行ってまいります」

そう言ってグラムとデクシア、アリステラの3人は玉座の間を去って行った。残されたアオはクライムに対し、ある疑問を投げかけた。

アオ「ねえ、クライム、グラム達は無事に帰って来るよね?」
クライム「さあ、どうだろうな、もしかするとタクト一派は、私じゃなければ相手できないかもしれない…」
アオ「じゃあ、クライムは勝てる?」
クライム「さあ、それもどうだろうな、奴らは強いからな…」
アオ「そんな…」
クライム(タクト一派め、中々やるようだが、私は必ず悲願を達成してみせる…それまでは絶対に死なん…!!)

一方のタクト達は、キャンプ地の河原から移動し、目的地であるデスマウンテンの目の前に到着していた。

タクト「ここが…デスマウンテンか…」
リリシェ「ねえ…もしかして、あの山の中にヴェンジェンスの本拠地があるの…?」
ターニャ「そうよ」
タクト「どうやって山の中に、それも誰にも気づかれずに作ったんだ?」
ミーナ「それはね、クライムが膨大な魔力を使って山の中をくりぬいて、更にその中に城を魔力で建設したの」
リリシェ「そんな事が可能なの?」
ノクト「少なくとも、私達には不可能ね、どうもあの人の力は人知を越えているわ」

すると、クライムパレスの中から3人の人物が現れた、四天王のグラム、そしてクライムの側近であるデクシア、アリステラだ。

タクト「お前らは…! グラム、とその他!!」
デクシア「ちょ…その他って…」
アリステラ「酷すぎるわ、せめてクライム様の側近と言ってよね…」
グラム「やあ、タクト一派、ここでお前達との決着を付けてあげるよ」

そう言ってグラム達3人は怪物化シールを取り出した。

ソレイユ「あれは…! 怪物化シール!!」
クレセント「今更、そんな物を出してどうする気!?」
グラム「このシールはクライム様の人知を超えた魔力を作って生成したシールでね、人間を怪物化させる以外にも、こんな使い道があるんだよ?」

グラム達は右手を重ね、袖を捲った。そして、グラム達は手首に怪物化シールを貼った。すると、3人は見る見るうちに融合を始めた。

リリシェ「な…何…!?」
リリナ「まさか…怪物化シールにあんな能力が隠されていたなんて…!!」

グラム達3人は粘土が変形するように姿を変えていき、だんだんとその姿が見え始めた。そして、グラム達は三つ首の竜へと姿を変えたのであった。

三つ首竜「タクト一派、お前らはこれで終わりだな!!」
タクト「チッ! この化け物め! すぐにその首斬り落としてやる!!」

そう言ってタクト達は攻撃をしようとしたが、三つ首竜はタクト達に向けて炎を吐き、攻撃した。その炎はとてつもない高温であり、タクト達は近寄ろうとしたものの、近寄れずにいた。

リリシェ「熱ちちちちちっ!!」
クレセント「なるほど、三つ首だから攻撃する隙を与えないって訳ね!」

タクト達の今いる場所は周りが岩で囲まれている。回り込んで近寄ろうにも正面には延々と炎を吐く三つ首の竜がいる。攻撃するには空から攻撃するしかない。

タクト「ソレイユ! クレセント! 飛行してあいつの首を斬ってくれ!!」
ソレイユ「うん、分かった!」
クレセント「任せて!!」

ソレイユとクレセントは    空を飛び、三つ首竜に向かって行った。三つ首竜は炎で攻撃したが、ソレイユとクレセントの飛行速度は速く、炎は全て外れ、一気に近距離まで接近された。そして、ソレイユは右の首を、クレセントは左の首を斬り落とした。斬り落としてからもなお息があった為、2人は頭を剣で突き刺し、息の根を止めた。そして、残すは中心の首のみとなった、しかし、様子が変であった。

三つ首竜「フッフッフ…どうやら僕の真の力を見せる時が来たようだね…」

そう言って三つ首竜は姿をどんどん変貌させ始めた。身体はヘビのように長い胴体となり、巨大な翼が生えた。そして、その翼で大空へ向かって飛翔し、タクト達を見下ろした。その姿は、巨大な翼で大空を飛翔する飛竜であった。

リリシェ「何…あれ…」
タクト「あの野郎…まだあんな奥の手を隠してやがったか…」
飛竜「ハハハハハッ! この姿でお前達を粉砕してやる!!」

そう言って飛竜は地上にいるタクト達向けて巨大な火球を吐いた。火球は大爆発を起こし、タクト達を吹き飛ばした。

リリナ「キャアアアッ!!」
タクト「くそっ! あの野郎!!」

タクト達は飛竜を攻撃しようとした、だが、相手は上空にいる、魔法での攻撃もあそこまでは届かない。つまり、飛竜と戦えるのは空を飛べる者だけなのである。

タクト「ソレイユ、クレセント、あいつの相手を頼めるか? 悪いが、俺達にはどうする事も出来ない…」
ソレイユ「大丈夫! まっかせて!!」
クレセント「絶対にあの飛竜を倒して見せるわ!!」

そう言ってソレイユとクレセントが飛竜向けて飛翔した。

飛竜「馬鹿め! 死ねっ!!」

飛竜は再び火球を地上向けて吐いた。だが、ソレイユはその火球を受け止め、跳ね返した。跳ね返された火球は飛竜に命中し、大爆発を起こした。

飛竜「ぐあぁぁぁッ!! おのれぇぇぇッ!!」

すると、飛竜は長い尻尾でソレイユとクレセントを弾き飛ばした。ソレイユとクレセントは岸壁に叩き付けられ、飛竜は追撃にと火球を吐いたが、2人は火球の命中寸前に脱出し、難を逃れた。そして、クレセントはルナ・カッターを飛ばし、飛竜の翼に穴を開けた。翼に穴を開けられた事で、飛竜の上昇高度は少し低下した。

飛竜「貴様ぁぁぁッ!! もう許さんぞッ!!」

飛竜は長い尻尾でソレイユとクレセントを捕まえ、強く締め付けて2人の身体の骨を折り、絞め殺そうとした。

ソレイユ「あぁぁぁぁッ!!」
クレセント「ぐぅぅぅぅッ!!」
飛竜「ハハハハハ! 死ねぇぇぇッ!!」

飛竜は更に強く締め付けた。締め付ける強さを上げていく度、2人は苦しんだ。その時、その尻尾が何者かに斬り落とされた。

飛竜「ぐああぁぁぁッ!!」
ソレイユ「あ、助かった…」
クレセント「でも、誰が…?」

尻尾を斬り落とした人物は、タクトであった。タクトはシエルプランシュに乗り、ここまで上昇して飛竜の尻尾を斬り落としたのである。本来、シエルプランシュは高い場所までは上昇できないが、クレセントが飛竜の翼に穴を開けた事で、シエルプランシュが上昇可能な高度まで飛竜が降りてきたのである。

タクト「これで…借りは返したぞ」
飛竜「おのれ! タクトォォォッ!!」
クレセント「ソレイユ! あれで一気に決めるわよ!!」
ソレイユ「うん! 分かった!!」

ソレイユとクレセントは自身の頭より少し上の辺りで、手と手を合わせ、そこに太陽と月の光を集めた。そして、光が十分に集めると、その光を飛竜に向けて放った。

ソレイユ&クレセント「行っけぇぇぇ!! サン・ムーン・クラッシュ!!」

ソレイユとクレセントは力を合わせ、サン・ムーン・クラッシュを放った。この技は太陽と月の光のエネルギーを攻撃に転用させた技であり、かつて邪神を時空の彼方へと封印したサン・ムーン・エンドの派生技でもある。太陽と月の光は、飛竜の体の中に吸収されて行き、そのまま飛竜の身体を焼き尽くし始めた。

飛竜「お…おのれ…!! クライム様ぁぁぁぁぁッ!!!」

太陽と月の光に体を焼き尽くされた飛竜は大爆発を起こし、砕け散った。

リリシェ「やったぁ!!」
タクト「ふぅ…これにて一件落着、だな」

ソレイユとクレセント、タクトの3人は地上に降り、この戦いで受けた傷を治癒魔法で治療した。その後、準備を整え、クライムパレスに向かう事になった。

タクト(待ってろよクライム…決着を付けてやるからな!)

一方のクライムパレス玉座の間では、グラム達が倒された事が伝わっていた。

クライム「グラム達も逝ったか…」
アオ「そんな…! もうタクト一派を止める事は出来ないの!?」
クライム「大丈夫だ、アオ、後は私が何とかして見せる…」
アオ「クライム…」
クライム(フフフ…どうやらタクト一派を止められるのは私だけらしいな…来るがいい…恐怖を見せてやる…)

ヴェンジェンスの本拠地であるクライムパレスに侵入したタクト達は、リリナ達の案内の下、クライムのいる玉座の間へと向かった。クライムパレス内は普通の王城のように美しい装飾などで飾られており、とても世界全体を恐怖に陥れる組織の本拠地とは思えなかった。これらは恐らく、総帥であるクライムの趣味なのだろう。道中、兵士たちが襲撃したものの、今のタクト達の敵ではなく、蹴散らして進んだ。そして、遂にクライムのいる玉座の間へと到着したのである。

クライム「やあ、待ってたよ、タクト一派の諸君」

玉座の間にはクライムとアオの2人がおり、クライムに関してはタクト達が来ることを心待ちにしているようであった。以前戦った時と同様、相変わらず余裕の表情であり、あたかも自分が勝利するかのような自身の表情に、タクトは怒りを覚えた。

タクト「クライム、今回は俺達が勝つ、その時こそ、ヴェンジェンスは壊滅する!」
クライム「それが君達にできれば、だけどね」

そう言ってクライムは別空間からダークネスブレードを取り出した。それを見たタクト達は、武器を構え、戦闘態勢を取った。

タクト「戦う前に聞いておく、何故、この世界を滅ぼそうとする? 何故、今ある平和で満足できない?」

タクトのその問いに、クライムは鼻で笑い、理由を話し始めた。

クライム「簡単さ、人間は戦う事を忘れられないからさ」
リリシェ「戦う事を…忘れられない?」
クライム「人間と言うものは愚かな生き物さ、憎み合い、争い合い、差別し合う、例え今が平和でも、きっとまた争い始める…」
タクト「だから…邪神の力で今いる人間を根絶やしにして、お前と邪神が支配する新人類の世界を作ろうってのか!?」
クライム「そう言う事、そうでもしないと人間は戦いをやめないだろ?」
タクト「そんな事、馬鹿げてる!! お前の考えは狂っている!!」
クライム「何とでも言いたまえ、私はこの考えを変えないつもりでいる」
アオ「クライム、手伝おうか?」
クライム「いや、大丈夫だ、アオはそこで見ていればいい」
タクト「本当に余裕だな、それが命取りになる事を覚えておけ」

そう言ってタクトはクライムに攻撃を仕掛けた。だが、クライムは攻撃をダークネスブレードで軽く受け止めた。

クライム「甘いな」

クライムはそのまま押し返し、タクトを吹き飛ばした後、真空波を飛ばしてタクト達を攻撃した。その真空波をクレセントはルナ・カッターで迎撃し、直後にソレイユはサン・フレイムで攻撃を仕掛けた。だが、その攻撃は届かず、魔導障壁で防がれてしまった。

ソレイユ「防がれちゃったか~」
クライム「そう簡単に私を倒せると思ったら、大間違いだ」

タクト以外の3人は、それぞれアイシクルアロー、サン・フレイム、ルナ・カッターを放って攻撃した。だが、クライムは一瞬で数個の真空波を飛ばし、全ての攻撃を迎撃し、無力化したのである。

リリシェ「そんな…!」
クレセント「彼は全ての攻撃を魔導障壁と真空波で対応してる…」
タクト「なら、近づいて攻撃するしかないか…!」
リリナ「どうする? 私達も手伝おうか?」
タクト「いや、大丈夫だ、俺達に任せろ」

タクトは、聖剣エスペリアに魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。そして、そのままクライムに攻撃を仕掛けた。

タクト「食らえっ! ブレイヴ・ブレード!!」

だが、クライムは魔導障壁でブレイヴ・ブレードを防御した。

タクト「何っ!?」
クライム「フフフ…残念だったね…」

そして、クライムはそのまま剣でタクトを攻撃した。タクトは防御態勢を取ったが、あまりの斬撃の威力に吹き飛ばされた。

タクト「くっ…! まさかブレイヴ・ブレードが防がれるとは…!!」

ブレイヴ・ブレードは今まで様々な敵を倒した決め技であった。その技を、クライムはいとも簡単に無力化したのである。

タクト「流石ヴェンジェンスの総帥、異常なぐらい強いな…」
リリシェ「ちょ…感心してる場合!?」

その時、クライムは巨大な闇の剣を生成した。そして、そのまま闇の剣をタクト達に向けて振った。

クライム「ダークネス・クライム!!」

タクト達はすぐさま防御態勢を取ったが、リリナ達4人以外の全員が薙ぎ払われてしまい、タクト達は地面に倒れ込んだ。

タクト「くっ…! 強い…!!」

すると、倒れ込んでいるタクト達に向かってクライムが歩いてきた。そして、クライムはタクトを蹴り飛ばした。

クライム「無様だね、タクト一派の諸君」

クライムは続けてソレイユを蹴り飛ばし、更に続けてクレセントも蹴り飛ばした。動けないタクト達をいたぶって楽しんでいるクライムに対し、リリシェは怒りを覚えた。

リリシェ「私の仲間に…手を出すなぁぁぁッ!!」

仲間を守りたいと言うリリシェの想いは爆発し、辺りに黄金のオーラが発生した。そのオーラはタクト達に力を与え、タクト達は立ち上がった。

クライム「何っ!?」

立ち上がったタクトはクライムを殴り飛ばした。

タクト「リリシェ、助かったよ、お前のおかげでまた力が湧いてきた」
リリシェ「そんな…私はただ、みんなを守りたいって思っただけ…」
ソレイユ「それがリリシェに力を与えたんだよ」
クレセント「これも希望の剣士の力の一つなのよ」

タクト達4人は再び剣を取り、クライムと対峙した。

クライム「フフフ…面白くなってきたじゃないか…」

その時、タクトはある事を思いついた。今なら、単独でハイパー・ブレイヴ・ブレードを使えると思ったのだ。そして、タクトは試しに聖剣エスペリアに魔力の剣を生成してみた。すると、超巨大な魔力の剣が生成できたのである。

タクト「行けた…! リリシェ! お前もやってみろ!」

リリシェも騙されたと思って宝剣ティスカーに魔力の剣を生成した。すると、リリシェも超巨大な魔力の剣が生成できたのである。

リリシェ「行けた…! 行けたよ!!」
タクト「よし! 同時攻撃だ!!」
リリシェ「うん!」

タクトとリリシェは高く跳びあがり、同時にクライムを攻撃した。

タクト&リリシェ「ダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!」
クライム「くっ…! 魔導障壁、全開ッ!!」

クライムは魔導障壁の防御力を最大まで上げ、ダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレードを防御した。流石に魔導障壁をかなり削ったものの、この攻撃ですら魔導障壁を破壊する事は出来なかった。

タクト「何ッ!?」
リリシェ「そんな…! この攻撃でも駄目なの…!?」
クライム「フ…フフフ…惜しかったね…」

クライムは中級闇魔法のファントムショットを唱えて攻撃した。悪霊の力を借りた闇の弾丸が複数放たれ、タクト達に命中した。更に、クライムは続けて剣を振ってダークネスショットを放った。ダークネスショットは闇の真空波であり、その攻撃は大爆発を起こした。

タクト「ぐあぁぁぁッ!!」
リリシェ「うぅ…もう…ダメなの…!?」
タクト「諦めるな! 何か勝機はあるはずだ!!」

その時、タクトは考えた、どんな攻撃も防ぐ魔導障壁を突破するにはどうすればいいかを。自身の得意技であるブレイヴ・ブレードを防ぐあの魔導障壁、渾身のダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレードも防がれた。なら、一体どうすればいいのか?

その時、タクトは一か八かの賭けをする事にした。今までの攻撃が通用しなかったのは、攻撃の面積が広かったから、ならば、斬るのではなく、突けばいいのではないか? タクトは最後の希望であるこの戦法に全てを賭けた。

タクト「みんな! 俺に力を分けてくれ!!」
リリナ「力って…どうすればいいの?」
タクト「俺に手をかざして、魔力を分けてくれればいい!!」

その時、タクト以外の全員は思った。タクトは必ず、勝利の為の秘策が思いついていると。そして、タクト以外の全員はタクトに手をかざし、魔力を与えた。

タクト「行ける…! これなら…!!」

タクトは聖剣エスペリアに超巨大な魔力の剣を生成した。

クライム「やれやれ…さっきと同じじゃないか…」
タクト「いや、同じじゃないな、これはみんなの思いがこもってる、さしずめ、ネオ・ハイパー・ブレイヴ・ブレードと言った所か?」
クライム「ネオが付いただけじゃないか、そんな攻撃、また防いでやるさ」

タクトはクライムに向かって行った。一方のクライムは、既に魔導障壁を全開にして防御態勢を取っていた。

タクト(リリシェ、ソレイユ、クレセント、リリナ、ターニャ、ミーナ、ノクト、お前らの思い、受け取った!!)

タクトはネオ・ハイパー・ブレイヴ・ブレードでクライムを突いた。その攻撃は、魔導障壁をいとも簡単に破壊し、クライムの身体を貫いた。

クライム「がはッ…!!」
タクト「はは…なるほど…最初からこの方法をやってれば、簡単に勝てたのか…」

そう言ってタクトはクライムから剣を引き抜いた。クライムは地面に倒れ込み、身体と口から血を流した。

アオ「クライムッ…!!」

クライム「くっ…私も…ここまでか…これは…油断した…私が…悪いな…」
タクト「クライム、お前が死んだ事でヴェンジェンスも終わりだな」
クライム「そうだな…だが…既に邪神は復活した…どのみち…私の勝ち…だ…」

そう言って、クライムは力尽き、息絶えた。

リリシェ「邪神が復活? そんな事あるわけ…」

その時、どこからともなく光線が放たれ、リリシェの胸を貫いた。

タクト「リリシェ!!」

リリシェは胸に風穴が開き、地面に倒れ込んだ。

タクト「リリシェ! しっかりしろ! おい!!」

しかし、既にリリシェは息絶えていた、どうやら、即死だったようだ。

タクト「…死んでる…一体誰が…」
クレセント「タクト…あれ…」

クレセントが指差した先には、紫色のオーラに包まれた人の様な何かがいた。その姿は、人間に似た姿をしていたが、肌の色は薄紫と、腰辺りまである長い墓石の色をした髪は不気味さを感じさせた。頭には2本の角が生え、背中には大きな翼、腰からは悪魔の様な尻尾が生えていた。そして、その顔はよく見るとアオに似ていた。

リリナ「まさか…! あの子、アオ…!?」
ソレイユ「嘘…まさかあのアオって子が邪神だったなんて…!!」
タクト「そんな事は関係ない!!」

タクトのその叫び声に、他の仲間達は驚いた。普段なら絶対に涙を流さないタクトが、涙を流し、剣を握った手は怒りで震えていた。そして、その視線の先には、邪神となったアオがいた。

タクト「あいつは…! あいつはリリシェを殺した!! あいつだけは…! あいつだけは絶対にぶっ殺す!!!」

ヴェンジェンスの総統であるクライムを倒したも束の間、300年前にソレイユとクレセントによって封印された邪神が復活した。四天王のアオの正体こそが邪神であり、邪神復活の為の生贄が十分な事もあったが、何より大切な存在であるクライムが目の前で奪われた事もあり、彼女は邪神としてこの世に降臨してしまったのである。まず手始めに彼女はリリシェを殺害し、その強さを見せつけた。そして今、タクト一派と邪神の世界の運命を賭けた戦いが始まる…。

タクト「邪神か何か知らないが、リリシェを殺したお前は絶対に許さん!!」

大切な仲間であるリリシェを殺されたタクトは涙を流しながら邪神を攻撃した。だが、邪神は左掌から衝撃波を放ち、タクトを吹き飛ばした。

邪神「今、何かしたか?」
タクト「くっ…! 何て力だ…!!」
邪神「我が名は邪神アンブラ…、我の大切な存在であるクライムを殺した貴様らを、生かしてはおけん…」

アンブラは別空間から魔剣デモンズソードを取り出し、タクト達に剣を向けた。

アンブラ「もはやクライムのいないこの世界に価値などない、クライムの願いである新人類帝国を作る為、この世界の人類を根絶やしにしてくれる…」
タクト「そんな事…させるか…!!」
クレセント「タクト!!」

タクトは1人、邪神アンブラの方に向かって行ったが、アンブラはデモンズソードを軽く振り、突風を巻き起こしてタクトを吹き飛ばした。それを見たクレセントは、ある事に気づいた。300年前に比べ、邪神アンブラの戦闘力は明らかに低いのだ。かつてのアンブラは剣を振っただけで人間がミンチになるほどの竜巻を起こしていた。恐らく、復活したばかりでまだ力が不完全なのだろう。クレセントは、倒すなら今しかないと悟った。

クレセント「ソレイユ! 私達であいつを倒しましょう!」
ソレイユ「うん!」

ソレイユとクレセントはサン・フレイムとルナ・カッターを放った。だが、アンブラは剣を振って風を起こし、攻撃をかき消したのだ。

アンブラ「太陽と月の剣士か…忌々しい…」

アンブラは左手の人差し指から稲妻を放った。ソレイユとクレセントはその攻撃を回避したが、稲妻は大爆発を起こし、ソレイユとクレセントは爆風に巻き込まれた。

ソレイユ「うわあぁっ!!」
クレセント「キャアアアッ!!」

2人は大きなダメージを負い、地面に倒れ込んだ。

リリナ(そんな…いくらクライムとの戦いの後だからって…こうも一方的に…)
アンブラ「何と貧弱な…この程度の人間しかいないなら、3日もあれば世界中の人間を根絶やしにできるな…」
タクト「そんな事…させるかよ…!!」

タクトは剣を取り、アンブラに向かって行こうとした。だが、クレセントはタクトの服を掴み、それを制止した。

タクト「放せ! クレセント!!」
クレセント「駄目よ、今のあなたじゃ、死にに行くようなものだわ!」
タクト「いいから放せ! あいつは…! リリシェを殺したんだぞ!!」

すると、クレセントは突然タクトの目の前に行き、タクトに平手打ちをした。クレセントの意外な行動に、タクトは黙り込んだ。そして、クレセントは冷静な表情でタクトに話しかけた。

クレセント「リリシェは…敵討ちなんて望んでないと思うわ、あの子は、誰よりも世界の平和を望んでいた…」
ソレイユ「リリシェは、本当は怖くてたまらないのに、誰も傷つかない世界を作る為に戦っていたんだよ」

その言葉を聞いて、タクトは決戦前夜の事を思い出した。リリシェは戦いや死を恐れながらも、ヴェンジェンスのせいで人が死ぬ事が嫌だから戦うと言った。そして、平和になった世界で平和な旅をしたいと言う夢があった。確かに、そんな彼女が敵討ちなどを望んでいないのは確かだ。その事を思い出したタクトは、知らず知らずのうちに涙が溢れていた。

タクト「俺は馬鹿だ…! 俺はただ、憎しみや恨みの感情で戦っていた…!!」

涙を流すタクトに、クレセントはある事を伝えた。

クレセント「タクト、あなたの聖剣エスペリアは、300年前の希望の剣士、レイト・レイノスの使っていた剣よ」
タクト「レイノス…? じゃあ、俺は…」
クレセント「ええ、あなたは希望の剣士の子孫なの」
ソレイユ「レイトはかつて私達が心を通わせた人物でもあるんだよ」
クレセント(そして私の愛した人でもある…こんな事絶対に言えないけどね…)
ソレイユ「そして、リリシェの宝剣ティスカーも300年前の希望の剣士かつ、レイトの戦友だった女性、レノア・ルーンの使っていた剣なんだ」
タクト「だから、リリシェは希望の剣士としての力を使えたのか…」
クレセント「タクト、リリシェの願いを思い出したあなたなら、きっと希望の剣士として覚醒できるはずよ」
ソレイユ「だからタクト、あいつを倒してリリシェの願いである平和な世界を作ろう!」

その時、タクト達の話をさっきまで聞いていたアンブラが笑い始めた。しばらくすると、アンブラは恨みのこもった表情でタクト達に語り掛けた。

アンブラ「願い? 平和? そんなものくだらないものの為にクライムを殺したのか!」

すると、さっきまで黙っていたタクトが話し始めた。

タクト「お前がクライムを奪われた痛みは分かる、だがな、俺も大切な存在であるリリシェをお前に殺されたんだ」
アンブラ「なら何だ? 敵討ちの為に我を殺す気か?」
タクト「違うな、俺はリリシェの最後の願いである平和な世界の為に、お前を倒す!!」

その時、タクトの体から黄金のオーラが放たれた。そのオーラはリリシェの物より激しく、強力であった。

アンブラ「な…何だこれは…!?」
クレセント「タクトが、希望の剣士として覚醒したんだわ!」
ソレイユ「タクトもなれたんだね、リリシェと同じ、希望の剣士に!」

タクトは今まで滅ぼされた故郷の復讐の為、ヴェンジェンスと戦っていた。だが、今は恨みや復讐の感情を捨て、世界の平和の為に戦っている。その想いが、タクトを希望の剣士として覚醒させたのである。

タクト「邪神アンブラ…もうこんな戦いは終わりにするぞ!」

ソレイユとクレセントは、タクトの聖剣エスペリアに触れた。すると、2人は聖剣エスペリアと合体し、聖剣エスペリアは黄金の神々しい剣へと変化した。

タクト「何だこれは?」
ソレイユ「私の真の力を解放した、人間のセンスで言うなら、神剣エスペリアって感じかな?」
クレセント「この状態なら、シエルプランシュは自由自在に飛行できるはずよ」
タクト「よし! 分かった!」

タクトは別空間からシエルプランシュを取り出し、その上に乗った。そして、シエルプランシュを急発進させ、アンブラに突撃した。タクトとアンブラは玉座の間を突き破って外に出た。

アンブラ「おのれ…! あくまでも我の野望の邪魔をするか!!」
タクト「残念だが、滅ぼされるなんて事は絶対に嫌だからな!!」

タクトはエクスプロージョンの呪文を唱え、攻撃した。エクスプロージョンはアンブラに命中し、大爆発を起こした。太陽と月の剣士の力を借りている為、いつもより魔法の威力は上がっており、エクスプロージョンをモロに食らったアンブラはかなりのダメージを受けた。そして、タクトは続けてウインドリッパーの呪文を唱えた。強力な真空波が放たれ、アンブラに向かって行ったが、アンブラはデモンズソードでウインドリッパーを斬り払った。

アンブラ「クライムは、300年前に次元の彼方に封印され、力と記憶を失った我に優しく接してくれた! それをお前達は…!!」
タクト「そうか…お前にとってクライムは大切な存在だったんだな、だが、俺達だって、黙ってやられるわけにはいかないんだ!!」
アンブラ「クライムを…返せぇぇぇッ!!」

アンブラは左掌から暗黒火球を連続で放ってタクトを攻撃した。タクトはシエルプランシュのスピードを上げ、全て回避した。

タクトは戦いながらずっと考えている事があった。何故、リリシェが死んだときに涙を流したのか、何故、リリシェの為にここまで戦えるのか、しばらく考えた末、一つの答えを出した。自分はリリシェの事が異性として好きだったんだと。そして、タクトはリリシェの想いに応えなかった事を後悔した。

アンブラ「くっ…! この世界ごと消滅させてやる!!」

アンブラはデモンズソードに暗黒の魔力を纏った。恐らく、あの攻撃が放たれたらこの世界に大きな被害が出る。タクトは神剣エスペリアに光の魔力を纏い、光の剣を生成した。そして、シエルプランシュを急発進させた。

タクト「これで終わりだ…! セイント・ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは神剣エスペリアを振り、アンブラを斬り裂いた。タクトの渾身の一撃はアンブラの体を横に両断した。

アンブラ「これで…やっと…クライムの…所に…」

アンブラは落下しながら消滅した。こうして、タクト一派とヴェンジェンスの戦いは終わりを告げたのである。

タクト「…終わったな…」
ソレイユ「うん」
クレセント「これで、私達の戦いは終わったのね…」

タクトは再び玉座の間に戻り、2人との合体を解除した。そして、シエルプランシュをしまうと、リリシェの亡骸の下へ向かった。

タクト「終わったぞ、リリシェ、これで平和な世界が来る…」

邪神アンブラを倒した事で全ての戦いを終えたタクト達、だが、大切な仲間であるリリシェは命を落としてしまった。タクト達はリリシェの亡骸の下へ向かい、深く悲しんだ。その中でも人一倍悲しんでいるのはタクトであった。タクトは邪神アンブラとの戦いの中で、リリシェの事が好きだと言う事に気づいたのだ。

タクト「リリシェ…全ての戦いは終わったぞ…だから…安心して休め…」

心の底からこみ上げてくる悲しみの感情を何とか抑えていたタクトだったが、大切な者を失ってから気付いたその気持ちを抑える事ができず、遂にタクトは生まれて初めて心の底から泣いた。その悲痛な泣き声は玉座の間全体に響き渡り、周りにいた仲間達もタクト達と同じぐらい悲しんだ。

その時、ソレイユとクレセントはある事を考えていた。自分達は世界に脅威が訪れた時に目覚める存在、つまり、人間を守護し、守り抜く存在、ならば、死んだ人間を救う事ができるのではないかと。ソレイユとクレセントは自分達の力に賭ける事にした。

クレセント「ねえ、タクト、もしリリシェを生き返らせる事ができたらどうする?」
タクト「…そりゃ生き返らせるよ、でも、そんな事できるはずがない!」
ソレイユ「分かった、なら、私達ができるかどうかやってみる」
タクト「…えっ?」

ソレイユとクレセントはリリシェの亡骸に手をかざした。そして、自身の太陽と月の光をリリシェの亡骸に照射した。

タクト「お前達…何を…?」
ソレイユ「私達2人の生命を、リリシェに与えてるの、世界を救ってくれた恩返しだよ」
タクト「お前達の生命を…? やめろ! そんな事したら、お前達が…!!」
クレセント「大丈夫、人間を助ける事が私達の役目、それに、私達は3年もしたら再び復活するから」
タクト「ソレイユ…クレセント…」

ソレイユとクレセントがエネルギーを与え続けると、亡骸の傷口が塞がり、やがて傷口は完全に修復した。更にエネルギーを与えると、リリシェの胸が光り輝いた。この光は、リリシェが完全に蘇生した証である。そして、力を使い果たしたソレイユとクレセントは、地面に倒れ込んだ。

タクト「ソレイユ! クレセント!」
クレセント「あ~あ…疲れちゃった…でもこれで安心して役目を終える事ができるわ…」
ソレイユ「タクト…平和になった世界でリリシェと仲良くね…約束だよ…」

そう言い残し、ソレイユとクレセントは、光になって消滅した。太陽と月の光から生まれた彼女たちは、再び光となって宇宙に還って行ったのである。

タクト「ソレイユ…クレセント…ありがとう…」

そして、しばらくするとリリシェは目を覚ました。彼女は自分がいない間に何が起こったのか分からない為、辺りをキョロキョロと見回していた。

タクト「リリシェ!!」
リリシェ「あ、タクト…それにリリナさん達…あれ? ソレイユとクレセントは?」
タクト「あいつらは、世界が平和になったから空へ帰ったよ」
リリシェ「な~んだ、帰るんだったら私にも一言言ってくれればよかったのに…」
タクト「仕方ないさ、お前はずっと眠ってたんだから」
リリシェ「ちょっと待って、世界が平和になったって事は、戦いは終わったの?」
タクト「ああ、全て終わった、お前の望んだ平和だよ」
リリシェ「そっか…よかった…でもさ、タクトは何でさっきから泣いてるの?」

リリシェの言った通り、タクトはずっと涙を流していた。それはリリシェが生き返って嬉しいと言う嬉し涙、そして、ソレイユとクレセントがいなくなって悲しいと言う涙、その両方を意味する涙である。

タクト「さあ、何でだろうな、ずっとさっきから我慢してるのに…何だよこれ…」

そして、タクトはリリシェを抱き、再び心の底から泣いた。

リリシェ「うわっ! タクト…」
タクト「俺…やっと気づいたんだ…俺は、リリシェの事が好きなんだって事が…」
リリシェ「…やっと、気づいてくれたんだね…この鈍感男…」
タクト「ごめんな…リリシェ…」
リリシェ「…いいんだよ、タクト…これからよろしくね…」

タクトとリリシェはリリナ達が周りにいるのにも関わらず、それを気にせず口づけをした。その様子を見ていたリリナ達は顔を赤らめ、邪魔をしないようにその場を立ち去った。

タクト「…さあ、帰ろう、リリシェ、平和になった世界で、旅をする約束したもんな」
リリシェ「…うん、約束、したもんね、平和になった世界で、これから一緒に旅をしよう」

タクトとリリシェは2人仲良く手を繋いで玉座の間を後にした。こうして、タクト達の活躍により、ヴェンジェンスと言う組織は壊滅した。だが、一体誰がヴェンジェンスを壊滅させたのかは、一般には浸透しなかった。ただ、ごく一部でのみ、ヴェンジェンスと戦う少年少女の存在が伝わるのみであった。総統を失ったヴェンジェンスは崩壊し、残党は次々と姿を消した。一部はまだ抵抗していたが、軍によってほぼ壊滅し、事実上ヴェンジェンスは消滅した。その後、世界には平和が訪れ、人々は平和を噛みしめていた。

そして、クライムパレスでの決戦から1ヵ月の時が流れた。タクトとリリシェはあの後すぐに旅を始め、各地を旅していた。リリナ達はあの後タクト達とは別行動を取り、その後は会っていない。そして今、タクトとリリシェは河原にキャンプを構え、ゆっくりと休んでいた。そこでは、食事を作るリリシェの近くでタクトがゆったりとくつろいでいた。

リリシェ「ちょっとタクトー、たまには料理当番やってよー」
タクト「え? 俺が作ると暗黒物質ができるぞ?」
リリシェ「私が教えるから、たまにはやってよー」
タクト「分かった分かった、今度な」
リリシェ「もう! 付き合ってるんだからもうちょっと手伝ってくれてもいいのに…」

するとそこに、見慣れた人物がやって来た、リリナ達だ。

リリナ「おーい、お二人さーん、仲良くやってるかーい?」
タクト「リリナ! それに、ターニャ、ミーナ、ノクト!」
ターニャ「久しぶりですね」
ミーナ「おっす! 元気してた?」
ノクト「相変わらず、リリシェさんは苦労しているようで」
リリシェ「だって、タクトったら全然手伝ってくれないんだもん!」
リリナ「え~? それはいけないな~、タクト、手伝ってあげなよ?」
タクト「分かったよ! 皆まで言うな!」

その後、タクトは疑問に思っている事を聞いた。リリナ達が今、どこで何をしているかである。

タクト「そう言えば、お前達は何してるんだ?」
リリナ「あ~、罪滅ぼしの旅…かな…?」
リリシェ「罪滅ぼしの旅…?」
リリナ「私達って、あなた達と一緒に戦ったけど、結局はヴェンジェンスで人殺ししている訳じゃん…」
タクト「その罪滅ぼしか?」
リリナ「そう…変かな…?」
タクト「結局お前らも俺達と一緒で旅してんのかよ!」
リリシェ「私達と一緒に来ればいいのに!」
リリナ「いやいや! お二人さんのラブラブ新婚生活を邪魔しちゃ悪いし…!!」
タクト「は…? 俺達まだ未成年なんだが…?」
リリナ「あ…そう言えばそうだったね…」
リリシェ「もう! しっかりしてよ!」
リリナ「ごめんごめん! じゃ、私達はこの辺で失敬するよ、またね!」

そう言ってリリナ達は去って行った。

その後、タクト達はリリシェの作った食事を食べていた。今回のメニューはクジラウサギのシチューと、パインサラダ、アップルパイであった。もちろん、タクトにはミックスジュースが付いている。タクトは食事をしながら、リリシェにある事を伝えた。

タクト「なあ、リリシェ、これ食い終わったら行きたい場所あるけど、いいか?」
リリシェ「うん、私はタクトの行きたい場所ならどこでもいいよ」
タクト「分かった」

タクト達は食事を終えた後、キッチンやテントを片付け、シエルプランシュに乗って移動を開始した。タクトの向かっている方角は、ヴェンジェンス討伐の旅では向かわなかった方角である。リリシェはどこに連れて行かれるのか気になっていたが、あえて聞かず、タクトとの旅を楽しんでいた。そして、タクト達は到着した場所は、人気のない滅んだ村であった。

リリシェ「…ここは?」
タクト「俺の故郷、カプリス村だ、俺が旅を始めるきっかけになった場所だな」

カプリス村は半年前、ヴェンジェンスが一番最初に滅ぼした村であり、タクトの故郷であった。タクトはたまたま旅に出ていた為、命を落とさずに済んだが、これがきっかけでタクトはヴェンジェンスへの復讐の旅に出たのである。そして、その旅でリリシェやソレイユ、クレセント、そして大勢の人々に出会ったのだ。カプリス村はこの旅の始まりの場所なのである。

タクト「ここは半年前と変わらず焼けたままなんだな…」
リリシェ「世界は平和になったけど、まだまだこんな感じの場所も多いんだよね…」

すると、焼けた家の奥から人の気配がした。

タクト「誰だ!?」

そこにいたのは、約十名の男女であった。その人たちの手には建築用の道具などがあった。すると、その人物たちのリーダー的存在と思われる男性が話しかけてきた。

男性「…君達は…?」
タクト「俺は、この村の元住民だ」
リリシェ「私はこの人の付き添いです」
男性「何と…! この村には生存者がいたのか…!」
タクト「まあ、多分俺一人だけ、しかも半年ほど離れていたがな」

すると、その男性はタクト達にある提案をした。

男性「実は僕達、この村を再興する為に近くの町からやって来たんだ、君達さえよければ、手伝ってくれないかい?」

その言葉に、タクト達はしばらく考えた。自分達は今、リリシェと約束した旅の途中、だが、タクトの故郷の再興の手伝いもしたい、2人はしばらく話し合った後、答えを出した。

タクト「分かった、その手伝い、引き受ける」
男性「本当かい!?」
リリシェ「大丈夫ですよ、旅はこれが終わってからいくらでも行けますし」
タクト「今、この世界は平和だ、いつでもチャンスはあるさ」
男性「ありがとう! じゃ、早速だけど、建築資材を買って来てくれないか?」
タクト「分かった! 大量に買ってくるから待っててくれ」

そう言ってタクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、移動を始めた。

リリシェ「ねえ、タクト、あのお手伝いが終わる頃には、私達はきっと大人になってるよね?」
タクト「多分な」
リリシェ「なら、私達の結婚式、あそこで上げたいな」
タクト「分かった、必ずあの村にしておくよ」
リリシェ「ありがとう、タクト、好き」
タクト「俺も好きだ、リリシェ」

こうして、タクト達の戦いの旅は終わった。彼らはこれから平和になったこの世界で、人生と言う長い旅を続けるのだ。それがどんなに大変で長い道でも、隣には頼りになるパートナーがいる。そして、この長い旅は、次の世代へ、更に次の世代へと受け継がれてゆく。人間は皆、旅をする旅人なのだ。