【序章】
西暦2055年、かつて起こった怪人軍団との戦いから20年が経った。
人々は平和な日々を過ごし、怪人の起こした事件の事もすっかり忘れられていた。
そんなある日、ノヴァティスと呼ばれた戦士の活躍した天翔街の山中に隕石が落下。
その隕石に乗って襲来した液体生命体が山中の動物たちに憑依し、かつて現れた怪人とは違う新たな怪人となって人々を襲い始める。
この物語は、新たな世代の戦士たちの物語である。
――――――――――――
【第1章 進化した戦士EVOL】
隕石に乗ってやってきた液体生命体が新たな怪人災害を起こした事に対し、新たな脅威の襲来を予知していた天翔街警察本部は、新型のMトルーパーの開発に着手していた。
かつての戦いで、Mトルーパーはほぼ無力だったことから、目指したのは怪人と格闘戦が出来、尚且つ怪人を撃破可能な戦力。
その新型Mトルーパーの開発には、かつて怪人と戦ったノヴァティスの戦闘データも使用されている。
そして、その新型Mトルーパーの開発に携わったのは、かつてノヴァティスの戦いを間近で見ていた沢田 孝信(さわだ たかのぶ)であった。
彼は、かつてノヴァティスの変身者であった日野 鋼(ひの はがね)が戦いの中で多くの悲劇を経験した事を知っていたからこそ、二度と悲劇を起こさない為に、この計画に参加した。
既にベースとなる素体は怪人襲来前に完成していた為に開発は順調に進み、一週間も経たずして、新型Mトルーパーの『エルピウォリア』は完成した。
そのエルピウォリアの装着者には、若き優秀な警察官、赤月 護(あかつき まもる)が選ばれた。
完成したエルピウォリアの性能テストの為、護はアンダースーツの上に鎧を装着するようにアーマーを装着し、エルピウォリアへと手動で姿を変えてゆく。
紺色の装甲色の、機動隊の様な姿の戦士、胸には警察のシンボルマークである金色の旭日章。
右手には対怪人自動小銃のMB-01 スピネルが握られている。
このスピネルはかつてMトルーパーの正式装備となっていたMB-G(モンスターバスターガン)の改良型である。
厚さ10センチの鉄板を容易く貫通する特殊合金製の銃弾を連続発射する事が出来、理論上はかつて出現した怪人を撃破する事すらできるという。
射撃訓練場に姿を現したエルピウォリアは、的にスピネルの銃口を向け、トリガーを引き、銃弾を放つ。
銃弾は的に命中し、的は粉々に砕け散る。
その様子をモニターで見ていた孝信は満足げに呟く。
「これなら、あの怪人にも対抗できる、エルピウォリアの量産が進めば、怪人に立ち向かう事も出来るだろう……だが、僕達は決してこの力を人類同士の争いに使わないようにしなければならないがね……そう、かつて、神山隊長がそうしたように……」
孝信は20年前の戦いで、自分達を導いてくれた恩人の事を思い出す。
彼は、Mトルーパーが軍事利用されないように、様々な手解きをしてくれたと聞く。
だからこそ、警察上層部も、新型Mトルーパーの開発には反対だったのだが、もし、新たな脅威が現れた場合、それに対抗する術がない事にはどうすることもできない。
その為、孝信はかつてをよく知る人物として、開発を担当する事になったのである。
ちなみに、今の孝信はかつての様にインテリぶった馬鹿ではなく、努力に努力を重ね、超天才として覚醒している。
演習が終わり、護が控え室に戻った事を確認した孝信は、スーツを脱いだ護に電話をかける。
「お疲れ様、僕達が開発したエルピウォリアの性能はどうだい?」
『はい! とてもいい性能です! これなら、怪人とも戦えます!』
「そう言ってもらえると嬉しいよ、それに、君は二十年前の怪人災害で、家族を失っているんだってね」
『そうですね、まだ幼かったですが、鮮明に覚えてます……僕がファミレスに出掛けていたあの日、怪人が現れて、父さんと母さんが殺された……だから僕は、僕みたいな人を増やしたくないから、警察官になったんです!』
「……君になら、そのエルピウォリアを託せそうだ……」
孝信は、護のその正義に満ち溢れた性格を、かつての神山隊長に重ねる。
「赤月くん、頼んだよ!」
『はい! 沢田さん!』
――――――――――――
一方、かつてノヴァティスとなって戦った日野 鋼の暮らす日野家。
鋼はあの後、友人である月村 理乃(つきむら りの)と結婚し、二人の子供を授かる。
日野 剣人(ひの けんと)と日野 都(ひの みやこ)、それぞれ17歳と16歳の、一歳違いの兄妹だ。
鋼はあの後、ノヴァティスとなって戦う事もなく、平和な日々を過ごしていた。
だが、つい最近、新たな怪人が姿を現した事で、また戦わないといけないのかという考えが脳裏を過った。
しかし、変身の兆候は表れず、かつての様に「神聖変身!」と叫んでも変身できない。
変身能力を失ったのか、自分の子供のどちらかに変身能力が遺伝したのか。
そんな考えを浮かべながら、今日も平和な日々を過ごしていた。
「「行ってきます!」」
剣人と都が、自身も通った天翔高校へ登校するので、鋼と理乃は「行ってらっしゃい」と返す。
しかし、二人は不安であった。
「鋼、今度の怪人は夜だけじゃなく、日中にも出現するのよね」
「ああ、そうらしいな、かつての怪人より進化した存在……二人には気を付けるよう、遭遇したら全速力で逃げるようには伝えているが……」
鋼と理乃が心配する中、剣人と都は学校へ通っていた。
二人は仲の良い兄妹で、特に妹の都はブラコン気質であり、兄の剣人と腕を組んで登校していた。
「おい、都、離れろよ……外ではやめろっていつも言ってるだろ」
「駄目ー、こうしてると落ち着くし」
剣人は呆れてため息をつく、周囲の視線が気になって仕方ない。
その時、剣人の背中を後ろから叩く人物がいた。
「おはよう、剣人くん」
幼馴染の篠原 結愛(しのはら ゆあ)だ。
かつて、鋼の友人であった島村 悠人(しまむら ゆうと)と、篠原 雫(しのはら しずく)の娘であり、家族ぐるみの付き合いをしている事もあって、幼馴染なのである。
大人しい性格ではあるが、特撮好きの親の影響もあってかなりの特撮好きであり、特撮の話をする時は目が輝いている。
「剣人くん、昨日の裂空騎士マッハブレード観た? 最高の展開だったんだよ! マッハブレードが一度は倒されるけど復活して逆転してさ……」
「まあ、観たけど確かに良かったよな……」
剣人は周囲の目を気にする。
ブラコンの妹に、特撮の話をするとテンションの高い幼馴染に挟まれる普通の男子高校生。
毎朝この二人に挟まれるせいで、変人トリオと陰で呼ばれているのだ。
そして、都は兄を取られないよう、結愛を若干敵視している。
その邪気を間近で感じているせいで、剣人は言葉にできない恐怖を感じているのである。
「裂空騎士シリーズは一作目のマッハソードからずっと追ってるけど、やっぱり伝統の逆転展開はどのシリーズも熱いよ! 特に、三作目のマッハダガーはシリーズ一の神展開って言われてるんだよね! 第28話「負けられない戦い」の事なんだけど、ここは最高に熱くて――!!」
「分かった! 分かったから少し静かにしてくれ!!」
その時、真上から何かが落下してくる事を察知した剣人。
何故察知できたかは分からないが、剣人は「下がれ!」と二人に促す。
次の瞬間、轟音とともに落下してきた怪人。
落下の衝撃でアスファルトの道路を砕き、鋭い目付きで剣人を見つめる猫に酷似した姿をした人型の怪人。
周辺にいた生徒は皆、悲鳴を上げて一目散に逃げる。
「かかか……怪人!?」
恐怖のあまり上ずった声を上げる結愛、怯えて声も出ない都。
「逃げるんだ!」
剣人は二人の手を引き、全速力で逃げる。
しかし、猫の怪人は尻尾を伸縮させ、剣人たちを縛り上げる。
振り解こうにも、強く締めあげられたせいで振り解けない。
猫の怪人はゆっくりと歩み寄り、鋭い爪を伸ばした。
(このままだと……みんな死ぬ……俺達は、死ぬのか……!?)
剣人が諦めて目を閉じた、その時、剣人の身体は光に包まれた。
とても温かく、それでいてどこか力強い光。
その光は、自身の身体を『作り替えていく』。
光が収まったその時、剣人の身体は青い戦士の姿へと変わっていた。
その戦士の姿は、かつて怪人と戦った戦士、ノヴァティスの姿に酷似していた。
「剣人くん!? その姿は……」
「お兄ちゃんが……変身してる……!?」
ノヴァティスへと変身した剣人は、何が起こったのか理解できず、困惑していた。
(何だ……!? 何が起きたんだ……!?)
自身に降りかかった状況に、理解が追い付かない。
だが、猫の怪人はゆっくりと、近づいてきていた。
(今はそれどころじゃない! こいつを何とかしないと!)
力を込め、内側から尻尾を引き千切ると、目の前にいた怪人に全力のパンチを浴びせる。
怪人は叫び声を上げ、後方に吹き飛ばされ、倒れ込む。
続けて、怪人に馬乗りになり、連続でパンチを浴びせるが、猫の怪人は爪で体を突き刺し、逆に吹き飛ばされる。
(くっ! 身体が丈夫なお陰で死にはしないけど、滅茶苦茶痛え……!!)
体勢を立て直した怪人は、飛び掛かってくる。
後ろには二人がいる、避ける訳にはいかない。
剣人は怪人に対し、全力のパンチを放つ。
「うおおおおおっ!!」
全力のパンチは怪人の顔にヒット、怪人は吹き飛ばされるが、まだ倒れない。
(くそっ! 武器があればいいのに! 例えば、剣とか!)
その時である、その想いに答えるかのように、剣人の右手に、光が宿る。
その光は剣の形へと実体化していき、光が収まると、青色の長剣が手に握られていた。
「これならっ! うおおおおおっ!!」
剣人は手に持った長剣で怪人を切り伏せる。
直後、致命傷を受けた怪人は仰向けに倒れ、大爆発を起こして沈黙した。
「ハァ……ハァ……やった……のか……」
怪人を倒して安堵した剣人の身体は光に包まれ、元の姿へと戻る。
大量のエネルギーを使って疲れたのか、意識が遠のき、その場に崩れ落ちる。
後方にいた結愛と都もまた、目の前で起きた状況を受け入れられず、ただ困惑するだけであった。
――――――――――――
【第2章 警察の戦士ELPIS】
怪人を撃破した後、気を失った剣人は、結愛と都によって日野家に運ばれた。
鋼と理乃は最初、慌てた様子を見せていたが、すぐに剣人の無事を確認して安堵した。
その後、結愛と都の口から、剣人がかつて現れたノヴァティスに酷似した姿に変身した事を聞く。
「そうか……やはり、剣人に遺伝したんだな……」
鋼は静かに呟く。
結愛と都は何の事か分からない様子だったので、鋼はすぐに説明を始める。
「俺は二十年前、君らと同じぐらいの時に、ノヴァティスとして戦ったんだ、情報統制がなされたから、一般には知られてないんだけどね」
鋼の口から語られた真実を聞き、結愛と都は驚き、目を見開く。
「怪人が滅んだ後、俺が変身する事はなかった、今、新たな怪人が現れたと言うのに、あの時と同じ様に変身は出来なかった……それもそのはずだ、ノヴァティスの因子は、俺の息子である剣人に遺伝しているんだから」
鋼はかつての辛く、苦しい戦いを思い返しながら呟く。
それと同時に、剣人に自分と同じような戦いをさせる事になるのかと思うと、何とも言えない気持ちになり、拳を握り締める。
「とにかく、この事は俺達の中だけに留めてくれ、警察機関には俺の友人がいるけど、知られたら何をされるか分からない」
鋼の言葉に、結愛と都、理乃は頷いた。
――――――――――――
その日の夜、天翔高校の通学路にて怪人が出現し、何者かに倒された事を知った警察は、通学路に赴き、現場検証を行った。
そこでは確かに怪人の肉片や血液が散らばっており、ここで戦闘が起き、倒された事は確かであった。
しかし、何者と戦い、何者が倒したのか、警察には分からなかった。
ただ一人、孝信は鋼と通話し、真相を聞いた事で知ってはいたが、鋼には「この事は誰にも言わないでくれ」と頼まれていた為、口外は出来ずにいた。
「君と僕との仲だもんね……」
孝信はそう呟き、カップに入れたコーヒーを一口飲む。
すると、ドアのノック音が聞こえたので、孝信は「入りたまえ」と返す。
「夜遅くにすみません、孝信さん、例の対怪人カメラの配備はどうなりました?」
対怪人カメラとは、新型の監視カメラであり、怪人特有の液体生命体の熱源に反応して、怪人の出現を知らせるシステムである。
今朝起きた事件を知った警察機関が、今現在開発された分を各所に配備し、怪人に備える事になったのである。
「とりあえず、幅広く配備はしたつもりさ、数は限られてるから均等に、ね」
孝信は護の分のコーヒーをコーヒーメーカーから注ぎながら伝える。
「それを聞いて安心しました、僕達がすぐに駆け付けられれば、被害は抑えられますしね」
ほっと胸を撫で下ろす護に、孝信はカップに注いだコーヒーを渡す。
それをゆっくりと口に運ぶ護だったが、すぐに「熱っ!」と声に出す。
「おいおい、君は猫舌だったのかい?」
「すみません、僕、昔から熱い物が苦手で……」
「まあ、可愛い一面と捉えれば、問題はないんじゃないかな?」
真面目な警察官である護の意外な一面を知り、ふふっと笑う孝信。
その時、突如対怪人カメラのセンサーが怪人を捉えた事で、護の持ち歩いていた携帯端末の警報が鳴り響く。
対怪人カメラが怪人を捉えると、警報が鳴る仕組みとなっており、護は出撃準備を開始する。
「頑張ってきたまえ! 帰ってくる頃にはコーヒーも冷めているよ」
護はすぐにエルピウォリアの出撃準備室へと向かい、制服を脱いで肌着になり、アンダースーツを着込み、装甲を身に纏う。
出撃準備を整え、エルピウォリアへと姿を変えた護は、発進ゲートに駐車している専用白バイのシルトチェイサーに乗車する。
ゲートはゆっくりと開門され、その間、護はこれから怪人と戦う事を想像すると、緊張と恐怖で心臓の鼓動が早まる。
護は生唾を飲み込み、スタンドを払い、ギアを一速に入れ、アクセルを開くと、シルトチェイサーは滑るように走り出した。
発進ゲートを通り抜けると、エルピウォリアのメット内モニターに表示された場所まで、護は冷静に走行する。
怪人の出現場所である繁華街に到着すると、そこでは怪人が民間人を片っ端から撲殺した後で、死体が転がっていた。
血の匂いがメット越しに伝わり、護は恐怖する。
メット内には怪人を探知するセンサーが備わっており、エルピウォリアはMB-01 スピネルを手に持ったまま、怪人のいる場所へと向かう。
そこでは、亀の怪人が女性の首を掴んだ状態で不気味な笑い声を上げていた。
既に女性に息はない、首をへし折られた後だろう。
護はただ、間に合わなかった事と、助けられなかった事で、怪人に対して怒りを覚える。
死体を投げ捨て、こちらへと向かって来る亀の怪人に対し、エルピウォリアはスピネルのトリガーを引き、銃弾を連続発射する。
銃弾は怪人の胸部に命中するが、怪人の装甲は硬く、金属音のような音を立てて弾かれる。
「効かない!? なら、これはどうだ!」
エルピウォリアは左腿部装甲に内蔵された拡張ユニットであるMB-02 マラカイトを取り出し、銃身下部に取り付ける。
マラカイトはグレネードランチャーを放つ装備であり、理論上はかつて出現した怪人を一撃で爆砕させる威力があるとされる。
エルピウォリアは銃口を怪人に向けると、トリガーを引き、グレネードランチャーを放つ。
グレネードランチャーは怪人に着弾し、爆炎を上げる。
しかし、怪人は身が少し焼けた程度で尚も健在であり、素早くこちらへと接近し、素早く腕を振るい、エルピウォリアの胸部装甲を殴る。
「ぐあっ!」
護は殴られた衝撃と倒れ込んだ衝撃で叫び声を上げる。
エルピウォリアには耐衝撃装甲が備わっている為、かつてのMトルーパーの様に貧弱な装甲ではない。
しかし、パワードスーツである以上、限界はある為、連続して食らうと危険だ。
エルピウォリアはすぐに立ち上がり、右腿部装甲に内蔵された電磁警棒、MB-03 アンバーを手に取る。
「これ以上はやらせない!」
護はそう叫び、怪人のダメージを受けた部位を殴り、電流を送り込む。
流石にこれは効いたのか、叫び声を上げ、怯んだ様子を見せる怪人。
更に追い打ちをかけ、電磁警棒を突き刺すエルピウォリア。
体内に電流が直で流れ込み、大きなダメージを受ける怪人。
しかし、まだ倒れてはおらず、一発、二発、三発とエルピウォリアを殴る怪人。
エルピウォリアは後方に吹き飛ばされ、仰向けに倒れ込む。
「これだけ傷口にダメージを与えれば!」
エルピウォリアは再びスピネルを手に取り、銃口を傷口に向けると、銃弾を連続発射。
開いた傷口に連続で銃弾が叩き込まれ、怪人はその場で沈黙。
そのまま地面に崩れ落ちると、大爆発を起こし、砕け散った。
「やった……怪人を……倒したんだ……」
怪人を倒せた事で安堵する護。
ゆっくりと立ち上がると、周辺の警戒をし、シルトチェイサーに乗って天翔街警察本部へと帰還した。
――――――――――――
【第3章 神秘の戦士MYSTERIOUS】
警察本部へと帰還した護は、エルピウォリアのアーマーを脱ぎ、孝信の下へ戻る為、警察本部の通路を歩いていた。
灯りに照らされた若干薄暗い細い通路、戦いで疲れ切った状態で、護は一刻も早く休みたいと感じていた。
その時、通路の壁に寄りかかって護を待っている人物がいた、先輩警察官である白石 周(しらいし しゅう)である。
長めの髪を綺麗にセットした、整った顔立ちの男性刑事、しかし、彼には性格に難があった。
「赤月さん、聞きましたよ、エルピウォリアを装着して怪人を撃破したそうですね? で、エルピウォリアの性能はどうですか?」
「怪人と戦うには、最高の戦力だと思います、かつて存在したMトルーパーでは太刀打ちできなかったようですから」
「ほう……ですが、私には君がエルピウォリアの装着者には適していないと思うのですよ、何より、『け・い・け・ん』が足りませんからね?」
周は鏡を取り出し、髪を手入れしながら答える。
護は呆れてため息をつき、黙って通り過ぎようとした時、再び声をかけられる。
「待ちたまえ、一つ伝え忘れていた、現在、強化スーツがもう一着開発されている事を知っているかな?」
「何ですか、エルピウォリアの他にももう一つ?」
「ああ、元々はエルピウォリアの別案として設計されていたものなのだが、性能が良かった事と、エルピウォリアの性能が予想以上だったことから、予備で開発されている、その装着者に、私が選ばれているんだよ、赤月さん?」
エルピウォリアに次ぐ、第二の警察の戦士として、周が選ばれている。
普通の人ならライバル登場となるだろう、だが、護は違った。
「白石さんも一緒に戦ってくれるって事ですか!? これで戦力は二倍ですね! 白石さん、一緒に頑張りましょう!!」
「え、ええ……」
周の勝手なライバル意識も、護の純粋な正義感の前には無力であった。
この時、周は頭の中で「こいつ、やっぱ苦手だな」と思ってしまっていた。
――――――――――――
翌日の早朝、天翔街の小さなマンションの一室で、天翔中学に通う中学二年生の少女、氷室 翔音(ひむろ かのん)は静かに目を覚ました。
「こんな早くに……」
周囲はまだ暗く、日がほんのりと遠くに上がっている状態だ。
翔音は、寝ぐせの付いた茶髪ボブの髪を綺麗に整え、浴室に向かい、パジャマを脱いで、シャワーを浴びる。
温かいお湯が、起きたばかりの身体をゆっくりと温め、目覚めたばかりの脳を静かに覚まさせる。
それと同時に、数日前に起きた悲劇を思い出させた。
まだそれほど時が経っておらず、鮮明に覚えている出来事。
休日、父と母と共にショッピングモールに出掛けていた時、二十年ぶりに出現した蜘蛛の怪人に襲われ、その鋭い爪で目の前で両親が引き裂かれ、鮮血が翔音に飛び散る。
恐怖のあまり身動きが取れず、温かい物が足を伝う。
爪に両親の鮮血が付いた蜘蛛の怪人がゆっくりと襲って来ていた時、翔音の顔に何か冷たい物が付着した。
スライムの様な感触の、べったりしたもの。
それは翔音の身体に吸収されていき、次の瞬間、翔音は意識を失った。
次に目を覚ました時には、翔音は倒れており、怪人の居た場所では炎が上がっていた。
「確証はないけど、あの怪人を倒したのはきっと私だ……怪人は液体生命体と同化して生まれると聞いた……きっと私は、怪人になったんだ……」
二十年前に出現した怪人は、人が変貌したものだと聞く、だとしたら、自分も怪人になったのかもしれない。
そう考えると、自分が人間じゃないみたいでどんどん怖くなった。
浴室から上がった翔音は、髪を乾かし、制服を着て、学校へ通う仕度をした。
でももし、自分が学校で怪人になって、学校のみんなを殺してしまったら……。
そう考えると、翔音はどんどん怖くなった。
自分には身寄りがなく、現在は保護を受けて生活している。
「どうせ、これからの未来には何も期待できないんだ……」
翔音は台所にあった包丁を手に取り、刃先を自分に向ける。
恐怖で手が震え、冷や汗が流れ、息は荒くなる。
「駄目っ! 怖くてできない!」
翔音は包丁を投げ捨て、鞄を持ってマンションの外に出る。
ただ何もかも忘れたくて、無我夢中で外に出て、まだ暗い住宅街を駆ける。
学校が始まるにはまだ全然時間がある。
翔音は立ち止まり、空を見上げながら、これから何をするか考えていた。
「適当に、コンビニで時間でも潰そうかな……今日は『猫宮リリィはねこみみメイド』の新刊出てるはずだし」
住宅街をゆっくり歩く翔音、その背後から、殺気を感じ取り、振り向く。
そこには、蛇の怪人が鋭い眼光を光らせており、牙の隙間から細い舌を覗かせていた。
「ヒィッ!」
翔音は慌ててその場から逃げ出すが、蛇の怪人はジャンプで翔音の前に移動する。
そのまま、翔音の首を掴み、ゆっくりと力を入れる。
(私……ここで死ぬの……!? 嫌だ……死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくない!!)
翔音が強く生きたいと願ったその時、翔音の身体は光に包まれ、その光の中で翔音の身体を強靭な肉体に作り変えた。
暗緑色の、エイリアン然としつつもどこかヒロイックな姿をした戦士。
全身には大小様々な鋭い棘が生えており、殺意の高さが伺えた。
(やっぱり、私、人間じゃないんだ……!)
翔音は咄嗟に腕のトゲを伸ばし、その棘で自分を掴んでいた蛇怪人の腕を切り落とす。
蛇の怪人は激痛のあまり後ろに後ずさるが、その切断面からは新たな腕がすぐに生える。
(あれじゃトカゲじゃない! でも、こいつを放っておいたら、誰かが死ぬ! それだけはさせないよ!)
翔音は両腕のトゲを伸ばし、パンチを放つ要領で蛇怪人の体を貫く。
だが、蛇の怪人の再生能力は高く、すぐに治癒してしまい、逆に蛇怪人は溶解液を吐き出す。
溶解液は翔音の腕にかかり、棘もろとも腕が焼けてしまったが、何と、その傷はすぐに修復された。
(傷が治ってる……でも、それはあちらも同じ! 何か弱点があるはず……蛇の弱点と言えば……頭だ!!)
蛇は頭を潰せば死ぬと聞いた事がある、本当かどうかは分からないが、ゾンビとかも頭を潰せば死ぬのだから、きっと死ぬはず。
翔音は頭を連続して狙うが、危機を察知した怪人は頭を全力で守り始めた。
「なら、これはどうだ!!」
翔音は尻尾を怪人の後頭部まで伸ばすと、頭を一突きした。
頭を貫かれた怪人はその場に崩れ落ち、爆発四散する。
翔音は戦いが終わった事に安堵すると、次の瞬間、ゆっくりと元の翔音の姿へと戻った。
そして、自分の身に起きた異常事態に、息が荒くなる。
(何なの……一体何が起きたの……やっぱり、あの液体生命体の仕業……それに、あの姿は一体……)
翔音があの姿について考えたその時、翔音の脳裏に一つの名前が浮かぶ。
「ミステ……ベステ……ミステベステ……それがあの姿の……名前……」
自分の変身形態の名前を知った翔音は、二十年前、自分が生まれる前に活躍したノヴァティスと言う戦士の存在を思い出す。
ただの女子中学生である自分が、ノヴァティスの様な正義の戦士として戦わないといけないのか……そう考えると、その使命感に押し潰されそうになった。
――――――――――――
【第4章 決意の剣人RESOLVE】
怪人を撃破した翔音は、誰かが来る前にその場を立ち去り、学校へ登校。
その一日を何事もなかったかのように過ごし、特に何事もなく無事に帰宅し、ベッドに倒れ込んだ。
変身する姿を見られていたんじゃないか、捕まって解剖されるんじゃないか等と言う考えで頭の中がいっぱいになり、とても生きた心地がしなかった為、翔音は心身共に疲れ切っていた。
「……きっと……何もない……よね……?」
翔音は自分の手をじっくり見つめる。
その手はいつもと変わらぬ細く綺麗な自分の手だった。
この手があんな異形の姿に変化し、怪人を倒した。
とても自分がした行いには見えず、翔音はただ、恐怖するしかなかった。
――――――――――――
ミステベステが怪人を撃破してから三日が経過した。
警察による現場検証も終わり、ここで怪人と何者かがやり合ったのは確かと言う結果で終わった。
しかし、ここで何があったのかは現時点では分からず、最初の事案共々、警察は引き続き調査を続けることになった。
現場検証が終わった事で封鎖も終わり、剣人と結愛、都の三人は休日を利用してこの道まで来ていた。
剣人が変身したあの姿は、鋼によって進化したノヴァティスと言う事で『ノヴァティス・エヴォル』と名付けられた。
自身の力に戸惑う剣人に、鋼何か手掛かりがあるだろうからと、丁度現場検証の終わったここに行くように伝えた。
剣人はそわそわしながら、結愛はわくわくしながら、都は退屈そうにしながらこの現場を眺める。
「どう? 剣人くん、何か感じる?」
結愛の問いに、剣人はじっくり辺りを見つめるが、何も感じない。
「駄目だ、特に何もないよ」
「やっぱ無駄足だったじゃん、折角の休日をこんな事に使って……私、お洋服買いに行く予定だったのに……」
剣人は都に「ごめんごめん」と謝るが、その都の頬は赤い。
ここに来る事に興味はないが、剣人と一緒に居たくて付いてきたのだろう。
丁度、結愛と言うお邪魔虫もいるから尚更だ。
「証拠品とかも、警察が持って行っちゃったのか、全然ないね」
結愛は地面にしゃがんで何かないか辺りをきょろきょろ見つめる。
「まあ、手掛かりは何もないかもしれないけど、貴重なものは見れたよ」
剣人は奥に立つ古びたマンションを見つめる。
「お兄ちゃん、あのマンションがどうかしたの?」
「うん、あのマンションは、父さんが成人するまで暮らしたマンションらしいんだ、何でも、怪人のせいで身寄りがなくなった父さんに、ある恩人の人がポケットマネーで十年は暮らせるようにしてくれたらしくてね、父さんは成人になるまであそこで暮らしてたらしいんだ」
剣人だけでなく、結愛と都も興味深そうにマンションを見つめる。
「剣人くんのお父さん、あそこで暮らしてたんだね、今は誰が住んでるのかな?」
「確か、母さんがたまたまこの道を通った時に、中学生ぐらいの女の子が出入りしたのを見たって言ってた」
「お父さんが使ってた部屋、今でも誰かの役に立っているんだね」
剣人たちはしばらくマンションを見つめた後、特に情報も得られないと判断し、帰る事にした。
その時であった、剣人たちの前に、真っ黒な体色のカラスの怪人が上空から飛来し、着地した。
人間とカラスを足して二で割った様な姿をし、背中には漆黒の翼が生えている。
カラス怪人は剣人たちを見つめると、ゆっくりと剣人たちに近付いた。
「怪人! 二人は逃げて! ここは俺が!」
「剣人くん、死なないでね!」
「お兄ちゃん、頑張って!」
そう言って二人は全力でその場から離れる。
ただ一人残された剣人は、怪人を目の前にして恐怖を感じていた。
(今からこんな奴と戦うのか……戦いは怖いし、痛いし、あのネコの怪人と戦った時、ものすごく怖かった、死ぬかと思った……でも、今は戦わないと、結愛や都や他の人が死ぬかもしれない……俺は、誰かが傷付く様なんて見たくない……!!)
戦う決意を決めた剣人は、先代のノヴァティスである父から教わった変身の掛け声を口にする。
「神聖変身!!」
その言葉を口にした瞬間、剣人の身体は光に包まれ、光と一体化し、その身体を青い戦士の姿へと作り変えた。
変身が完了した後、ノヴァティス・エヴォルの右手にはエヴォルブレードが出現し、それを握り締め、地を蹴って怪人に突撃する。
目の前にいる怪人に、思いっ切りエヴォルブレードを振り下ろすノヴァティス・エヴォル。
しかし、怪人は大きな翼を羽ばたかせ、後方に移動しつつ、そのまま空中を浮遊。
勢いそのままノヴァティス・エヴォル目掛けて急降下し、頭突きを放って吹き飛ばす。
「ぐあぁっ!!」
突撃をモロに食らって水切り石の如く吹き飛ばされるノヴァティス・エヴォルだったが、エヴォルブレードを地面に突き立て、勢いを殺し、再び怪人目掛けて突撃する。
(このまま突撃しても、さっきの二の舞だ! 何とかして、あの翼を切り落とさないと!)
ノヴァティス・エヴォルは再びカラス怪人に対してエヴォルブレードを振り下ろすが、やはり先程同様飛んで回避された。
しかし、それは想定内であり、ノヴァティス・エヴォルは地を強く蹴り、カラス怪人目掛けて高く、早くジャンプする。
想定外の事態に驚くカラス怪人に、ジャンプで急接近したノヴァティス・エヴォルは、エヴォルブレードに光を纏い、横一直線に振った。
カラス怪人の胴体は一刀両断され、爆発四散した。
無事に着地したノヴァティス・エヴォルの身体は、一瞬光に包まれた後、剣人の姿に戻った。
(俺はかつての父さんの事をよく知らないけど、父さんも俺と同じ様に、悩みながら戦ったはずだ……なら俺も、みんなを守る為に、この力を使って怪人と戦う!)
戦いの中で戦う覚悟を決めた剣人は、先代のノヴァティスである父と同じ様に、この力を怪人との戦いの為に使うと決めた。
親子二代でノヴァティスとなり、怪人と戦う使命を背負ったのは、何かの宿命なのだろうか……。
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【第5章 かつての友人FRIEND】
剣人たちが情報収集に向かっていた頃、鋼はかつての友人である有人と雫を家に呼んでいた。
既に37歳になった二人ではあるが、身長と髪が少し伸びた以外は外見に変化はなく、ほとんど当時の面影を保っていた。
かつての鋼の戦いを知る友人に、ノヴァティスの光が息子に受け継がれた事を伝えた鋼。
「つまり、剣人くんは、かつての鋼さんと同じ様に、ノヴァティスに変身できるようになったと?」
「そうなんだ、俺は進化したノヴァティスだから、ノヴァティス・エヴォルと名付けたんだけどね」
鋼の話を聞き、驚いて目を見開く雫。
その真横で、有人は目を閉じ、腕を組んで何やら考え事をしていた。
「有人、どうした?」
「いや、初代から二代目に受け継がれるのは特撮の伝統だと思ってね、有名な例だと宇宙警視総監シリーズとかがあるんだけど……」
「今、特撮の話はいいから真剣に考えてくれ……」
かつてと変わらず何でも特撮の話題に結び付ける有人に頭を悩ませる鋼。
有人は一言「ごめんごめん、つい……」と返し、すまなさそうに頭を掻く。
「とにかく、剣人はノヴァティスの変身能力を得てしまってな、だから俺の時と同じ様に、俺達だけの秘密にしようと思うんだ」
鋼の言葉に有人は「それがいいと思うよ」と返し、雫も「絶対に秘密にします」と返した。
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その日の夜、天翔街警察本部の研究室では、孝信がかつての友人である司を呼んで話をしていた。
孝信と司は高校卒業後、意気投合して親友とも呼べる関係となっていたが、いつしか孝信が天才となった為、知らず知らずのうちに会う事がなくなっていた。
そんな孝信が、司を職場に呼んだのである。
「久々にお前に呼ばれたと思ったら、大分出世したみたいだな……結婚はしてんのか?」
「ああ、五年前に結婚して、娘も二人いるよ」
「じゃあ、友人たちの中だと俺だけ独身なのかよ……」
司は大きなため息をついた後、真剣な表情となり、孝信の方を向く。
「で、いきなり俺を呼んだのは、こんなくだらない話をする為じゃないんだろ?」
「君は昔っから勘がいいね、その通りさ」
孝信はパソコンを手早く操作し、モニターに怪人が倒された後の現場写真を表示する。
それは、ネコ怪人、ヘビ怪人、カラス怪人が倒された時の写真であった。
「僕が新型Mトルーパーのエルピウォリアを開発したのは君も知っていると思うけど、この三件に関しては僕達は関与してないんだよね……つまり、エルピウォリア以外の存在に倒された事になる、例えばノヴァティスとか、ね?」
孝信の話を聞き、司は孝信を睨む。
「まさかお前、鋼を疑っているのか?」
「慌てないでくれ、別に友人である彼を疑っているわけではない、ただ、今の僕は警察の所属なんだ、できる事なら、ノヴァティスと連携を取りたいんだ、犠牲を最小限に減らす為に……ね」
孝信の話を聞いた司は疑いが解けた事でほっとする。
「残念だが、鋼はもう変身できねえんだ、もしできるのなら、また怪人と戦っているはずだ、あいつはそう言う奴なんだよ、困っている奴は放っておけない、そんな奴なんだ」
司の言葉を聞いて、孝信は顎に手を当てる。
「……これは仮定だけど、もし、ノヴァティスの変身能力が遺伝する物だとすれば、鋼くんのご子息が変身しているという可能性はないかい? 鋼くん、理乃さんと結婚して子供が二人いたはずだよね?」
「確かに二人子供はいるけど、ノヴァティスの変身能力って遺伝する物なのか?」
「あり得ない話ではないよ、鋼くんによれば、ノヴァティスの光が体に宿っているらしいし、それが遺伝する可能性もゼロじゃない」
孝信は急いでマウスを入力し、変身能力が遺伝する可能性を計算する。
その時である、怪人出現の警報が鳴り響いた。
「怪人が出現したか、折角だ、司くんにもエルピウォリアの性能を見てもらおうか」
孝信が護に出撃命令を下すと、護はすぐさま出撃準備室でアンダースーツに着替え、装甲を身に纏い、エルピウォリアへと姿を変える。
エルピウォリアは発進ゲートに駐車していたシルトチェイサーに乗車し、開門したゲートから発進する。
その後、エルピウォリアのメット内モニターに表示された場所へ、一直線に走行。
事件発生現場である公園に到着すると、毒蛾の幼虫と人間の中間の様な姿の、無数の毛を生やした怪人が、口から吐いた糸で市民の首を締め、絞殺していた。
毛虫の怪人は殺した人々を投げ捨て、死体を眺めてケラケラと笑い声を上げる。
「何て事を……許せない!」
護は人を殺して満足そうに笑う怪人を見て、怒りのあまり拳を握り締める。
タコ怪人は標的であるエルピウォリアを見つめると、口から糸を吐き出した。
エルピウォリアはすぐに右腿部装甲に内蔵された電磁警棒、MB-03 アンバーを手に取り、糸を切り払う。
糸がヒットした瞬間、電撃がバチッと弾け、糸に火が付く。
すると、毛虫怪人は体の毛を飛ばし、毛がエルピウォリアの胸部装甲に命中すると、大きな爆発を起こした。
「うわあっ!!」
爆発で後方に大きく吹き飛ばされたエルピウォリアは、電柱に背部をぶつけ、ダウンする。
それでもすぐに立ち上がり、左腿部装甲に内蔵された自動小銃MB-01 スピネルを引き抜き、トリガーを引いて銃弾を連続発射する。
しかし、毛虫怪人の身体は軟体動物のように柔らかく、銃弾は全て跳ね返り、効果がなかった。
「弾かれる!? なら、これで!」
エルピウォリアはスピネルをしまうと、再びアンバーを手に取り、接近戦を行う為、足を走らせた。
毛虫怪人は再び糸を放つが、咄嗟に見切って回避し、毛虫怪人の懐に入り込むと、アンバーを毛虫怪人の腹部に突き刺し、電流を流し込む。
「ギャアアアッ!!」
毛虫怪人は苦痛のあまり叫び声を上げる。
何とか引き離そうと、毛虫怪人はエルピウォリアの身体を殴るが、エルピウォリアは決して離れなかった。
やがて毛虫怪人の身体は焼け、地面に崩れ落ち、爆発四散した。
「何とか撃破したぞ……」
護は周囲を再度確認する。
怪人の反応はない、しかし、辺りには無数の死体が。
性別年齢は様々な人々の亡骸、その中には学生もいた。
「警察官なのに、僕は守れなかった……! こんなにも大勢の人を……!」
護は自分の無力さに怒りを覚え、拳を握り締めた。
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【第6章 傷付く少女HURT】
エルピウォリアの出撃準備室にあるモニターでエルピウォリアと毛虫怪人の戦闘を観ていた周は、護の戦い方を観て、鼻で笑う。
「何て下手くそな戦い方だ、私なら、もっとうまく立ち回れると言うのに……やはり、優秀さでは私の方が上のようだ」
周は、手元に持っていた書類に目を移す。
その書類には、『D-SWAT』という文字と、エルピウォリアに似たアーマーの戦士の姿、そして、様々なデータが記載されていた。
「赤月さん、あなたの時代はもう終わりですよ、このDスワットは既に完成間近、今週中には出撃可能となります、これからはこの私、白石 周が、怪人退治の専門家になるんです」
周は書類を鞄にしまい、出撃準備室を後にした。
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エルピウォリアが毛虫怪人を撃破してから三日が経った。
あれから怪人災害は起きておらず、平和な日々が続いていた。
だが、怪人災害が続いている以上、この静けさはどこか不気味な雰囲気を感じさせた。
かつての怪人災害では、多くの人命が失われ、今回の怪人災害でも多くの命が失われている。
以前と違って、今回は人類が怪人と対等に戦える手段を得たが、それでも被害をゼロにするには至らないのだ。
ミステベステへの変身能力を得た翔音は、その正体を誰にも知られないまま、今日も学校に通っていた。
翔音は先日の怪人災害で、学校の親しい友人が怪人に殺された事を思い出す。
毎朝教室で声をかけてくれる、明るい性格の、自分とは正反対な女の子。
あまり会話をした事はなかったが、その子が死んだ。
もう教室に行っても、その子に会う事はない。
人が死ぬと言うのはそういうもので、死んでしまったら二度と会えなくなる。
死ぬと、人はどこに行くのだろう。
考えれば考える程、翔音は怖くなり、体の震えが止まらなくなった。
「私は……死にたくない……」
翔音は小さな声で呟く。
その声は、今にも消えてしまいそうなほど小さな声であった。
翔音が通学路を通っていると、公園の前に来た。
この間、ここでその子が怪人に襲われて死んだ。
塾で帰りが遅くなって、ここを通った際に糸で首を絞められ殺されたらしい。
公園の淵には、亡くなった人を弔う為の花が供えられていた。
それを見て、翔音も何か供えようとスクールバッグの中を漁る。
見つけたのは、小さなイチゴ味の飴。
翔音はそれを静かに花の傍に供え、手を合わせる。
その時である、液体生命体と一体化して強化された五感が、翔音に危機を伝える。
この近くに、怪人の反応があると。
翔音は慌てて辺りを見渡し、怪人の居場所を探る。
怪人の反応がする位置にゆっくりを目を向ける、それは、木の上。
木の上に、白い、大きな繭があった。
「この間倒されたのは、毛虫の怪人って聞いたけど、もしかして、別の毛虫怪人がいて、繭になっているって事!?」
翔音が戦う覚悟を決めたその時、繭が赤く発光し、高熱が発せられ、繭がロウのようにドロドロと溶けて地面に落ちる。
その溶けた繭と共に、一体の怪人がゆっくりと地面に着地し、背中の翅を伸ばす。
その怪人は、茶色い翅を持った毒蛾を人型にしたような怪人であり、体の各所にはファーの様な毛が生えていた。
「この間倒されたのは幼虫……じゃあ、こいつが成虫なの!?」
毒蛾怪人は目の前の翔音を無視して、ゆっくりと翅を羽ばたかせた。
「まさか、人の多い場所に行くつもり!?」
翔音は、殺された友人の事を思い出す。
優しくて、明るくて、可愛かった友人の女の子。
何も悪い事をしていないあの子が、怪人の無差別殺人によって殺された。
そして、目の前にいる怪人は、更に犠牲を増やそうとしている。
「そんな事……許さない!!」
翔音の怒りの感情が爆発すると同時に、翔音の身体は眩い光に包まれ、その光で毒蛾怪人は怯む。
次の瞬間、一瞬にして翔音の肉体は緑の戦士、ミステベステへと変身した。
「これ以上、誰も死なせはしない! あんた達なんかの為に、これ以上誰かを死なせたくない!!」
ミステベステは両腕のトゲを伸ばし、一直線に毒蛾怪人の首元を狙う。
しかし、毒蛾怪人は高く跳んでその棘を回避し、口から毒針をマシンガンの如く連続して放つ。
その毒針を、ミステベステは両腕のトゲで切り払う。
毒蛾怪人はジャンプした勢いで羽ばたき、ミステベステ目掛けて小さな弾丸を放つ。
ミステベステは弾丸を切り払うが、トゲが弾丸に命中した瞬間、爆発し、トゲは根元から折れ、ミステベステは吹き飛ばされる。
「くっ!」
ミステベステは折れたトゲをトカゲの尻尾の如く切り捨て、新たなトゲを生やす。
毒蛾怪人は、膝を付いたミステベステの姿を見て、ケタケタと笑う。
(怪人ってもしかして、殺人を楽しんでるの……? 苦しんでる人々を見て、楽しんでるの……?)
翔音のそんな考えをよそに、毒蛾怪人は先ほどの炸裂弾を連続して放つ。
ミステベステはすぐに回避するが、地面に着弾した炸裂弾の爆風でミステベステの体が浮き、地面に叩き付けられる。
その時、翔音の前を、小学生の女の子が通る。
女の子は、ミステベステと毒蛾怪人の姿を見て、恐怖のあまり足がすくむ。
その女の子を標的にした毒蛾怪人は、翅を羽ばたかせ、女の子の方へ飛来する。
「駄目! 逃げて!!」
翔音は女の子を助けようと、立ち上がろうとするが、爆風と叩き付けられた際の衝撃で体が言う事を聞かない。
必死に身体を動かそうとする翔音の健闘も虚しく、女の子は毒蛾怪人の振るった腕で胸を貫かれた。
辺りに女の子の血が飛び散り、その血が翔音の顔にかかる。
絶命し、ぐったりとする女の子の小さな身体。
投げ捨てるように腕を抜き去られ、女の子の死体が翔音の顔に覆い被さる。
顔全体に広がる血の匂い、助けられなかった小さな命、そして、自分の無力さ。
その全てをあざ笑うように、毒蛾怪人はケタケタと笑う。
何も考えられず、考える事ができず、ただ自分の無力さに強い怒りを覚える翔音。
その翔音の怒りに呼応するかの様に、ミステベステの身体の傷が一瞬にして癒える。
ゆっくりと立ち上がるミステベステの両目は、ただ目の前にいる『敵』を見据えていた。
「……許さない……お前みたいに、殺戮を楽しむ奴を……私は絶対に許さない……私の大切な人はみんな……お前達に殺されたんだっ!!!」
怒りの叫び声を上げながら、ミステベステは全身のトゲを一斉に毒蛾怪人へと伸ばす。
毒蛾怪人は再び飛んで回避するが、ミステベステのトゲは毒蛾怪人を追尾するように曲がる。
予想外の事態に驚く毒蛾怪人は、口から炸裂弾を放ってトゲを破壊する。
しかし、ミステベステの再生能力によって一瞬でトゲは鋭利な形状に再生し、毒蛾怪人の周囲を囲い、毒蛾怪人の行き場を奪う。
「死んじゃえっ!!!」
翔音の合図と共に、毒蛾怪人の身体を無数のトゲが貫く。
毒蛾怪人の身体からは緑色の体液が噴き出し、直後、爆発四散する。
ミステベステは伸ばしたトゲを戻し、翔音が戦闘態勢を解いた事で、翔音の変身は解除される。
顔に女の子の血が付いたまま、翔音は女の子の亡骸を見つめる。
「私……守れなかった……」
戦う力を得たのに、目の前の女の子一人守れなかった。
その事実は、翔音の心に深い傷を残し、翔音は目に涙を浮かべながら、公園を後にし、学校に向かう事なくマンションへと帰宅。
カーテンを完全に閉め切り、暗い部屋で一人、涙を流し続けた。
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【第7章 欲望の戦士DESIRE】
戦う力を得ても、結局自分は目の前の女の子一人助けられない無力な人間。
それを痛い程知ってしまった翔音は、暗い部屋で無気力に、一晩中壁にもたれていた。
今だに脳裏に浮かぶ、亡骸となった少女の姿。
あんなに怯えていたのに、助けられなかった。
この事実は、女子中学生である翔音が背負うには、あまりに重い現実であった。
「私があの時、動けていれば……!」
頬を流れる涙が止まらない。
既に十分に泣いて瞼は真っ赤に腫れている。
食事も取れておらず、激しい空腹が翔音を襲う。
だが、今の翔音は何をする気力も起きず、ただ壁にもたれて絶望するしかできなかった。
家族を失い、友人を失い、目の前で怯える少女すら救えなかった翔音の負った心の傷は、あまりにも深かった。
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ミステベステが毒蛾怪人を撃破した事は、天翔街警察本部にも伝わっていた。
公園で発見された少女の遺体は司法解剖され、傷口に付着したDNAや傷口の形状から怪人災害による死である事が判明し、無事遺族に返却される事になった。
だが、年端も行かぬ少女が死亡した事実は、人々を守る警察にとっては耐え難い怒りを感じさせた。
「くそっ! 怪人め! あんな小さな女の子まで! まだやりたい事もあっただろうに……!」
怒りを抑えられず、出撃準備室のコンクリート製の壁を叩く護。
その拳は怒りで震えていた。
「僕は人々を守る為に警察官になったのに……! 全然守れてないじゃないか……!」
護の脳裏に浮かぶのは、駆け付けた先で怪人に無残に殺された人々の姿だった。
守れた人々より、守れなかった人々の方が多い。
その人一人一人にも、人生があり、未来があったはずなのに、その人の人生も未来も、守れなかった。
行き場のない自分の無力さへの怒りを、コンクリートの壁にぶつける護。
エルピウォリアの姿になれば、このコンクリートの壁は簡単に破壊できる。
だが、その力を得ても、全ての人を守る事は出来ない。
「このままでは、怪人災害の犠牲者は増える一方だ……くっ! どうすればいいんだよっ!!」
全力で壁を殴ろうと、大きく腕を振りかぶる護。
その腕を、いつの間にか出撃準備室に入ってきていた周が掴む。
「珍しく荒れてますね、赤月さん?」
「白石さん……」
「ですが、それ以上壁を殴るのはやめてもらいますよ、その腕……戦闘に支障が出るかもしれませんからね」
護の拳は既に川が剥け、血まみれになっていた。
見かねた周は、救急箱に入っていた包帯を手渡す。
「普段の赤月さんなら、私が部屋に入った時点で気付くのですが、今日は珍しく気付きませんでしたね、お陰で、面白い物が撮れましたが……」
周は、スマホに録画した荒れた様子の護の映像を本人に見せる。
しかし、護は一切言い返す事なく、包帯を巻いていた。
「はぁ……その様子、どうやら相当嫌な事があったみたいですね」
「……白石さん、こんな事、白石さんに聞くのはおかしいかもしれませんが……僕一人で怪人と戦うのは無理です」
珍しく弱気な護の言葉を聞き、周は目を細める。
そして、護が荒れていた様子と、先程の弱気な発言から、周は護の言いたい事を瞬時に察する。
「言いたい事は分かりました、つまりあなたは、自分一人では、人々を守り切れないから荒れているわけですね」
周に思っていた事を当てられ、護は何も言い返せない。
「図星ですか……大体分かりやすいんですよ、あなたは」
周はため息をつき、鞄に入っていた書類を護に見せる。
「赤月さん、これを見なさい」
「D……スワット……? これって……!」
「そう、新たに開発された強化スーツ、Dスワット! その装着者に私が選ばれ、スーツもつい先ほど、完成したのです」
自慢気に書類を見せつける護。
すると、護の表情が明るくなる。
「つまり、これからは白石さんも一緒に戦ってくれるんですね!」
「え、ええ、まあ、そうですね……」
周は戦う力を得た事を護に自慢するつもりであったが、護の純粋な歓喜の表情を見て、その気を失せさせてしまう。
「ともかく、これからは共に戦いましょう、赤月さん」
「はい! 頑張りましょう!」
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その日の夜、怪人出現の警報が鳴り響いた。
丁度そのタイミングでエルピウォリアは強化装備の試験運用中であり、エルピウォリアは出撃出来ない状況となっていた。
護のスマホから、周に連絡が行く。
『すみません! 白石さん! 僕の代わりに出撃お願いします!』
「もうやってますよ! 準備の邪魔をしないでください!」
周はインナースーツを着ながら、そう返し、通話を切る。
インナースーツを着終えると、出撃準備室に搬入されたDスワットのアーマーを装着し、白銀の装甲で全身を包んだDスワットへと装着完了する。
次に、発進ゲートに駐車された専用白バイのデストチェイサーに搭乗し、開門した発進ゲートから滑るように発進する。
メット内に表示された目的地までデストチェイサーを走らせる周。
彼の脳裏には、あの護の純粋な笑顔が浮かぶ。
周は優秀なエリート刑事ではあるが、出世欲があり、若き期待のホープである護を一方的にライバル視していた。
幼い頃から完璧主義な周は、いつしか自分でさえも抑えられない出世欲を抱いていた。
その出世欲が自身の邪魔をする事はなかったが、周りからは変わり者に見られていた。
しかし、そんな自分に対しても明るい表情を見せた護。
護と関わった事で、本来は優しい心を持つ周は複雑な気持ちを抱いていた。
「ああ、もう! 彼と関わると調子が狂いますよ! あんな目で見られたら、期待に応えないといけないではないですか!」
デストチェイサーの速度を上げ、目的地まで一直線に走行したDスワット。
目的地に到着すると、そこには黄金色の毛皮に覆われた人型をしたキツネの怪人が、人を襲おうとしている最中であった。
「周辺を確認する限り、まだ死者はいませんね!」
周は右腿部装甲に内蔵された小型自動小銃 Dショットを抜くと、トリガーを引き、貫通力の高い特殊合金製の銃弾を放つ。
銃弾はキツネ怪人の背中に命中し、赤黒い体液が噴き出る。
「ガオオオッ!!」
ダメージを負って、攻撃目標をDスワットに変更するキツネ怪人は、地面を強く蹴ってDスワットに飛び掛かる。
だが、Dスワットはその場から動かず、Dショットの銃口をキツネ怪人の目に向け、トリガーを引く。
発射された銃弾は、キツネ怪人の左目を潰し、キツネ怪人は蹲って苦しむ。
「いくら怪人でも、目を潰されては何もできないでしょう!」
Dスワットは空になったカートリッジを排出し、左腿部装甲に内蔵されたカートリッジを取り出して装填、キツネ怪人に銃弾を連続して撃ち込む。
「グウウウッ!!」
キツネ怪人は尻尾を振り、銃弾を弾くと、素早く動いてDスワットの胸部装甲を引っ掻いた。
火花が飛び散り、後ろに後退るDスワットを追撃し、何度も何度も引っ掻く。
「くっ! 本気を出してきましたね!」
元々が試作機であるDスワットの武器はDショット一丁のみ。
接近戦となっては強化スーツによる肉弾戦を行うしかない。
周はDショットをしまうと、キツネ怪人の顔面に一発、二発とパンチを打ち込む。
「私はエリートだ! 射撃だけではなく、格闘もお手の物なんですよ!」
そう言ってキツネ怪人にアッパーカットを放ち、吹き飛ばした後、地面に崩れ落ちたキツネ怪人に、再び抜いたDショットから連続して銃弾を撃ち込む。
「ギャアアアアアッ!!」
キツネ怪人は断末魔の叫び声を上げた後、爆発四散し、完全に沈黙した。
周は周囲の確認をし、市民の無事を確認すると、本部に怪人撃破の報告を入れる。
「周です、出現した怪人を撃破、本部に帰投します」
初出撃で怪人を撃破した周。
今の彼には出世欲よりも、護との約束を守れた事の方が大切であった。
あの時、護の言った「一緒に戦ってくれるんですね!」の言葉は、周の中で完全に消えていた正義感を目覚めさせたのだった。
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【第8章 怪人軍団の襲来CORPS】
キツネ怪人の撃破から一週間が経過した。
その間、怪人災害は起きず、平和な日々が続いていた。
しかし、この期間は、怪人達がこれから起こす大事件の、ほんの前触れであった。
特に事件もない平和な真昼の天翔街に、突如として翅の生えた蜂の怪人の群れと、全身が真っ黒な蟻の怪人の群れが、天翔街の各地に出現した。
空中を自在に飛び回り、人を掴んでは高所から落とし、殺害する蜂の怪人と、地上を群れては人々の首筋に噛みついて殺害する蟻の怪人。
天翔街は地獄絵図と化し、人々は逃げ惑い、混乱状態となっていた。
この異常事態に際し、エルピウォリアとDスワットはすぐさま本部から発進し、各地にいる怪人の撃破に向かった。
「白石さん、お気を付けて!」
「そちらこそ、くれぐれも死なないように」
エルピウォリアはスピネルを、DスワットはDショットを怪人に向け、怪人を的確に狙い撃つ。
発砲音と命中音、怪人の叫び声が辺りに木霊する。
蜂と蟻の怪人は数が多い分、一体一体は弱いようで、銃弾を二、三発撃ちこむだけで爆発四散する。
しかし、この怪人の武器はその数の多さ。
圧倒的物量を前に、エルピウォリアとDスワットは後退を余儀なくされる。
「くっ! かつてもアリアントと言う怪人が物量で攻めたと言う記録はありましたが、ここまでではなかったはずです!」
「せめて、エルピウォリアの強化装備が間に合っていたら……!」
エルピウォリアの強化装備、それはエルピウォリアの火力、守備、速度を強化する追加ブースターなのだが、安全性が不十分と言う事から採用が見送られた。
現在は孝信が必死に改良をしているが、結局この事態には間に合わなかった。
「ない物を頼っても仕方ありません! ここは一度後退しますよ!」
エルピウォリアとDスワットが後退を始めたその時、二人のメット内レーダーに怪人に酷似した反応がキャッチされる。
二人がその方角を向くと、そこにはかつての怪人災害で怪人軍団を打ち倒したノヴァティスの進化した姿、ノヴァティス・エヴォルの姿があった。
警察官である二人は、まだエヴォルの存在を知らず、驚き、戸惑っていた。
「あれは……ノヴァティス……?」
思わずその名を呟く護。
怪人達はエヴォルを視認すると、一斉に襲い掛かる。
エヴォルはエヴォルブレードを構えると、刀身に光のエネルギーを纏い、横薙ぎに振るい、光のエネルギー刃が広範囲を切り裂く。
光のエネルギー刃で切り裂かれた蟻怪人は一斉に爆発四散し、全滅する。
「何と言う力……!」
エヴォルの圧倒的な力を前に、周でさえも思わず呟く。
しかし、空中にいた蜂怪人は尚も健在であった。
蜂怪人は一斉にエヴォルに飛来。
その蜂怪人を、エヴォルは一匹ずつ切り伏せる。
「何をしているんです! 私達も行きますよ!」
「はい! 白石さん!」
護と周も援護射撃を行い、蜂怪人を一匹ずつ撃破する。
飛来した蜂怪人をエヴォルが、空中の蜂怪人を護と周が撃破する事で、やがて怪人軍団は壊滅した。
激闘を終えて、一息ついた三人の戦士たち。
辺り一帯の被害は甚大で、とても勝利とは言えなかったが、これ以上の被害を出す事はない。
複雑な感情を残したまま、戦いの疲れを癒す三人。
護と周はメットを外し、外の空気を吸っている。
護は、変身したままのエヴォルの正体が気になり、彼に話を聞く事にした。
「ところで君、一体何者なんだい? 君の姿、かつて現れたノヴァティスに似てるんだけど、何か関係は?」
「え、えっと、その……」
エヴォルの変身者である剣人は戸惑ってしまう。
正体は絶対にばらさないようにと、父と母、都と結愛にきつく言われている。
怪人軍団と戦う前にも、「正体だけはばれないように」と言われていた。
「すみません、正体がばれると色々とまずくて……」
剣人は思っていた事を正直に口にする。
周は剣人の言葉を聞いて、ため息をつく。
「あのですね……我々警察としては、君の素性を――」
「分かります! それって、ヒーローのお約束ですもんね!」
周の言葉を遮るように、ヒーローのお約束を聞いて興奮する様子を見せる護。
剣人と周は完全に固まっており、困惑する。
「ですがね、赤月さん――」
「駄目ですよ、白石さん! ヒーローは素性を明かさないのがお約束なんです! もし正体を明かしてしまったら、色んな組織から狙われるんですよ? 裂空騎士シリーズの伝統じゃないですか、知らないんですか?」
「いえ、私は特撮は全くと言っていい程観ていなくて……」
「なら、今度一緒に観ましょう! 裂空騎士シリーズ、いいですよ?」
護の特撮トークが爆発し、困惑してたじろぐ周。
その様子を見ていた剣人も、完全に困惑してしまっていた。
(この人も結愛と同じ特撮好きなのか……)
普段の結愛が特撮を語るテンションを思い返す剣人。
剣人は特撮を観る趣味はあるが、ここまで熱く語る程の人間ではない。
住む世界が違うなと思っていたその時、エヴォルの怪人探知能力が、新たな怪人の襲来をキャッチする。
「二人共、気を付けてください! ここに怪人が来ます! 数は三! その内の一体は……凄まじい力の持ち主です!」
二人はメットを装着し、戦闘態勢を取る。
「怪人はどこから来るんですか?」
「正面です!」
周の問いに対し、剣人は正面を指差しながら答える。
護と周はそちらに銃口を向けながら、怪人の襲来に備える。
現れたのは、鷹の怪人とカマキリの怪人とカブトムシの怪人の三体。
それぞれ、憑りついた生物の特徴を備えた人型の姿を取っており、鷹の怪人に至って背部に大きな翼を持っていた。
鷹の怪人はカマキリとカブトムシの怪人の中心に立ち、二体よりも少し後ろを歩いていた事から、この怪人が二体を従えているのだろう。
三匹の怪人は、剣人たちを発見すると、右手を正面に突き出し、二体に攻撃の指示を出す。
カマキリの怪人は両腕の鎌を研ぐような仕草をし、カブトムシの怪人は頭の角を向けた後、剣人たちに向かって足を走らせた。
「俺はカブトムシの相手をします! お二人はカマキリを!」
そう言ってエヴォルはエヴォルブレードを振り下ろす。
だが、カブトムシ怪人は頭の角でエヴォルブレードを切り払った後、角でエヴォルを突き飛ばす。
一方のエルピウォリアとDスワットは銃撃でカマキリ怪人を狙い撃つも、両腕の鎌で弾かれ、銃弾が届かない。
逆に、カマキリ怪人が鎌を振って放つ真空波で装甲を傷つけられ、ダウンする。
自分達の力を見せつけ、ケタケタと笑う二大怪人。
強力な真空波で一時的に機能停止し、動けないエルピウォリアとDスワット。
唯一動けるエヴォルはすぐに立ち上がり、二大怪人を睨む。
「この怪人、強い! でも、俺はまだ負けてない!」
エヴォルは自分の意識を集中させ、エヴォルブレードに光のエネルギーを纏う。
カブトムシ怪人とカマキリ怪人は武器を構え、エヴォルに突撃する。
刹那、エヴォルは光のエネルギーを纏ったエヴォルブレードを振るう。
すると、カブトムシ怪人の角が、カマキリ怪人の鎌がすっぱりと切断されていた。
断面も綺麗に、まるで鋭利な刃物で切られた羊羹のようであった。
己の武器を失って戸惑う二大怪人。
エヴォルは再びエヴォルブレードに光のエネルギーを纏う。
「これで決める! エヴォルスラッシュ!!」
エヴォルは光のエネルギーを纏ったエヴォルブレードで袈裟斬りを放つ。
カブトムシ怪人とカマキリ怪人の身体は斜めに切断され、爆発四散する。
二大怪人を撃破し、残った鷹怪人の方を向くエヴォル。
「残すはあいつだけだ……!」
鷹怪人はエヴォルの姿を見て、鼻で笑う。
「ノヴァティスか……忌々しい存在だ……」
鷹怪人はエヴォルの姿を見てそう呟いた。
初めて喋る姿を見せた怪人。
その事実に剣人、護、周の三人は驚き、言葉を発する事が出来なかった。
――――――――――――
【第9章 怪人王HAWK】
「怪人が、喋った……?」
突如言葉を発した鷹怪人に、驚き、戸惑う剣人たち。
「ふん、我が喋った程度でそこまで驚くか……まあ、当然だろう、我は怪人達を統べる存在、怪人王だからな」
怪人王、その名称を聞いた護は、かつて怪人災害を引き起こした存在を思い出す。
その存在とは、怪人王グランヴァール。
かつて怪人軍団を率いてノヴァティスとその仲間達と戦い、最後は人々の光で進化したアルティメットノヴァティスと激しい空中戦を繰り広げ、倒された怪人の王。
グランヴァールの死をもって、怪人災害は終息し、それから二十年間怪人災害は起きていなかった。
だが、隕石と共に飛来した液体生命体が地球生物と一体化し、怪人となった事で、再び怪人災害は引き起こされた。
もし、グランヴァールとこの鷹怪人に関連性があるとすれば……。
「怪人王、一つ質問がある」
「何だ、言ってみろ」
「怪人王グランヴァールという存在を、知っているか?」
護からグランヴァールの名を聞いた鷹怪人は顎に手を当て、考え事をする。
「怪人王グランヴァールか……懐かしい名だな……宇宙でその名を知らない者はいない……だが、奴はノヴァティスに倒された……」
「そうだ! 二十年前、ノヴァティスによって!」
「知っているとも、グランヴァールが死んだ今だからこそ、我がノヴァティスを倒し、怪人王の名を引き継ぐのだ! この液体生命体ゲルクスの長、レクトがな!」
液体生命体ゲルクス、そしてその長レクト。
この存在こそが、今回の怪人災害の元凶。
その目的は、ノヴァティスを倒し、怪人王の名を引き継ぐ事。
エルピウォリアやDスワットは最初から眼中にすらなかったのだ。
「お前たちにとって、ノヴァティスを倒す事や、怪人王になる事は、そんなに重要な事なのか?」
剣人がレクトに問う。
「当然だ、我々ゲルクスは、他の有機生命体に憑りつかねば何もできない貧弱な生命体……そのゲルクスがノヴァティスを倒したとなれば、我々の名声は宇宙全土に轟くはずだ!」
つまり、ゲルクスは弱い生命体だから、グランヴァールを倒したノヴァティスを倒し、怪人王の名を受け継いで、今まで馬鹿にした連中を見返してやろうと言う事だろう。
だが、そんな目的の為に、大勢の人間が殺された事が許せるはずがなかった。
拳を握り締め、今にも怒りの言葉を叫ぼうとしたその時。
「そんな事の為に……関係ない人を大勢殺したの!?」
怒りの言葉をぶつけたのは、ミステベステに変身した翔音であった。
レクトはミステベステの方を向くと、珍しい物を見たかの如く「ほう」と反応を示す。
「裏切り者が一匹人間の味方をしていると聞いたが……貴様か、リマ」
翔音と一体化しているゲルクスの名を呼ぶレクト。
しかし、翔音にとってそんな事はどうでもよかった。
家族を、友人を、少女を殺した張本人が目の前にいる、それがなにより許せなかった。
「今そんな事はどうだっていい! 名声が何? そんなものが一体何だっていうの? それの為に殺された人が大勢いるのに、あなた達は悪いとも思わないの?」
「思わんな、我々はとある異星人から隕石に乗って逃げ延びてきた、そしてこの地球でこうして力を手に入れた以上、地球人を糧として、いずれ宇宙全てを支配する存在となるのだ!」
「ふざ……けるなぁぁぁっ!!」
ミステベステは全身のトゲを一斉に伸ばす。
だが、レクトはその場から一歩も動かず、羽根を弾丸として飛ばし、トゲを打ち消す。
「その程度で、我に挑むつもりか」
エルピウォリアとDスワットは同時にレクト目掛けて発砲し、別方向からエヴォルがエヴォルブレードで斬りかかる。
だが、レクトは羽根の弾丸で銃弾を撃ち落とし、腕を振るって放った真空波でエヴォルを吹き飛ばす。
「無駄だ、貴様らでは我に傷一つ負わせることはできん」
レクトは羽根の弾丸を放ち、弾丸の雨でエルピウォリアとDスワットの装甲を破損させる。
後方に吹き飛ばされ、金属音を立てて倒れ込むエルピウォリアとDスワット。
装甲や内部メカが中破し、遂に機能停止する。
「くっ! エルピウォリアが動かない!」
「どうやら、完全に破壊されてしまったようですね、ロールアウトしたばかりなのに……」
強化スーツを完全に破壊された護と周を尻目に、レクトは残ったエヴォルとミステベステを見つめる。
「さて、残すはノヴァティスと裏切り者リマだけだ、一体化している地球人ごと殺してやる!!」
レクトは再び羽根の弾丸で二人を攻撃するが、二人はすぐさま回避。
ミステベステは全身のトゲを弾丸としてレクトに放つが、それも羽根の弾丸で迎撃される。
「くっ! 大切な人の仇が目の前にいるって言うのに!」
焦りを見せ始める翔音。
そんな彼女に、剣人は声をかける。
「焦っちゃ駄目だ! 今は冷静に!」
「分かってる! 分かってるけど……!」
翔音はレクトを睨み、怪人に殺された人達の事を思い出す。
殺された家族、友人、少女。
戦う事が怖くなり、ずっと閉じこもっていた翔音だったが、液体生命体と一体化した事による種同士の共鳴の力によって、レクトの存在を感じ取っていた。
何もかもが辛くなって自暴自棄になった翔音にとって、ここは絶好の死に場所であった。
(死んでもいい! 殺されてもいい! でも、あいつだけは……!!)
翔音はただ一直線に、レクト目掛けて足を走らせる。
当然、レクトは羽根の弾丸で応戦するが、翔音はそれを食らいつつも前進を続ける。
「何っ!? 捨て身だと!?」
レクトは羽根の弾丸による攻撃をやめ、腕を振って真空波を放とうとする。
だが、翔音は両腕のトゲを伸ばし、レクトの両腕を縄の様に縛って動きを封じる。
「小癪な!」
レクトは口から光線を放つ。
光線はミステベステに命中し、爆発するが、それでも翔音はトゲを解かなかった。
「これで……トドメッ!!」
ミステベステの脚部から伸びたトゲが、レクトの胸を貫く。
「がはっ!」
胸を貫かれ、赤黒い血を吐血するレクト。
膝を付き、地面に崩れ落ち、爆発四散する。
その爆風に巻き込まれ、ミステベステは後方に吹き飛ばされるが、その身体をエヴォルが受け止める。
「あ……」
「全く、無茶をして……でも、無事みたいで良かった」
剣人は、受けた傷がみるみる傷が塞がっていくミステベステの身体を見て、ほっとする。
翔音は、レクトが断末魔と共に起こした炎を見つめる。
(みんな……仇は取ったよ……)
翔音は、心の中で大切な人への冥福を祈った。
――――――――――――
【第10章 酷似した戦士DIFFERENT】
その夜、路地裏をうねうねと這っているナメクジの様な生命体がいた、レクトである。
鷹怪人の爆発の際、咄嗟に鷹怪人から分離し、何とか生き延びていた。
爆風で路地裏まで吹き飛ばされ、瀕死の状態で新たな肉体を手に入れようとしているレクト。
(このままでは終わらんぞ……必ず、新たな肉体を……!)
その時である、レクトの前に立ち、しゃがみ込んで見下ろす女性の姿があった。
女性は艶のある深緑の長い髪を持った赤い瞳の女性であり、黒いロングコートを着込んでいた。
その表情は、珍しいものを見る目で、好奇心が宿った視線が、レクトに向けられていた。
「へえ、変わった生き物がいる、これが所謂液体生命体ってやつ?」
女性は人差し指を伸ばし、レクトをつんつんと突く。
「人間よ、我が恐ろしくないのか?」
「うわ、喋るんだ、びっくりしたなぁ」
「答えろ、恐ろしくはないのか?」
女性は立ち上がり、空を見上げながら答える。
「別に、怖くなんかないよ、私は未来に希望が持てなくてね、毎日を無気力に生きてるんだ、例えあなたに憑りつかれて化け物になったとしても、私は何とも思わない、どうせこれから先、いい事なんてないんだしね」
女性は口元を少しだけ微笑ませ、レクトを見下ろす。
レクトは、この女性のマイナスな心に目を付けた。
もしもこの女性と融合し、ミステベステの様な姿になれたとしたら。
それはつまり、圧倒的な戦闘力を身に着ける事になる。
「面白い人間だ、人間よ、我と一体化しないか?」
「え、それってつまり、私と合体したいって事? いやぁん」
「そうではない、我と一体化すれば、超人的な力が手に入ると言っているのだ、かのノヴァティスの様な、な」
「へえ、ノヴァティスかぁ……」
女性もまた、レクトの語る超人的な力に惹かれていた。
どうせこれから先面白い事もなく、ただ毎日を無気力に生きるなら、その力を手に入れたいと、感じていた。
女性はしゃがみ込み、レクトに手を差し伸べる。
「私は森口 槍香(もりぐち そうか)、貴方の名前は?」
「レクト、液体生命体ゲルクスの長、レクトだ」
レクトは槍香の腕に飛び移り、ゆっくりと槍香の腕に染み込み、姿を消す。
次の瞬間、槍香の腕からどす黒いオーラが出現し、そのオーラは槍香の身体をゆっくりと包み込む。
黒きオーラは槍香の肉体をゆっくりと作り変えていく。
オーラが収まった頃、人間の女性であった槍香の身体は、禍々しい姿の黒い戦士へと変貌した。
その姿はノヴァティスに酷似している。
《どうだ、人間、これが貴様の新たな姿だ》
槍香は近くのカーブミラーで自身の姿を見る。
ノヴァティスに酷似した姿を見て、槍香は不敵に笑う。
「これが私の新たな姿ね、まるでノヴァティスじゃないの」
《そのノヴァティスの力を研究したのだ、名付けて、ノヴァティス・ディファレント! その力は奴と同等、いや、それ以上だ!》
「面白いわぁ、今すぐにでも、この力を振ってあげるわ、このディファレントの力を、ね!」
ディファレントは両腕から赤黒い稲妻を放ち、近くの建物を爆破した。
その爆音は、夜の街に轟き渡る。
――――――――――――
槍香がレクトと一体化する少し前、天翔街警察本部では、ノヴァティス・エヴォルの変身者・日野剣人と、ミステベステの変身者・氷室翔音が、沢田孝信の前に並んで立っていた。
剣人も翔音も、最初は同行を拒否していたが、護の熱烈な説得を受け、『保護』と言う名目の下で同行を受け入れた。
天翔街警察としても、二人のプライバシーは尊重し、研究材料としては使わない事を約束した上での同行であった。
孝信は二人を興味深そうに見つめ、剣人は緊張して固まり、翔音は恥ずかしそうに顔を赤らめ、目を逸らす。
「成程、ノヴァティス・エヴォルにミステベステか、剣人くんはかつてのノヴァティスの変身者の息子だからまだ分かるけど、翔音くんは全く新しい戦士……そして、我が天翔街警察にも、人工とはいえ、二人の戦士がいる……かつての戦いから二十年が経って、四人の戦士が揃うなんて、まるで奇跡だね」
孝信はなおも興味深そうに二人を見つめるが、剣人は気になっていた事を質問する。
「あの、沢田さん、これから俺達はどうなるんでしょうか?」
「どうなるって? 研究材料にされるとかって事?」
「いえ、そうではなくて、液体生命体ゲルクスのリーダーであるレクトって奴は倒しました、他の怪人も先程の戦いで壊滅したみたいです」
「つまり、戦う理由は無くなったと?」
「はい、怪人は壊滅したはずなのに、まだ俺や翔音には変身能力があるんです、皆さんは感じないと思いますが、俺達は感じるんです」
剣人の話を聞き、孝信はテーブルの上にあったコーヒーを一口飲む。
「……剣人くん、それはきっと、まだ戦いは終わってないって事だよ」
「え、それってどういう?」
「君のお父さん、日野鋼と僕は友人同士なんだけどね、二十年前、怪人災害が終わった後、鋼は一度としてノヴァティスに変身した事はなかったんだ……その間、鋼は君達の言う感覚は感じなかった……僕が何を言いたいか、もう分かるよね?」
戦いはまだ終わってない、レクトを倒し、ゲルクス怪人を壊滅させてもなお、まだ戦いは続く……。
でも、これ以上何と戦うのか、それが分からない剣人たちは、俯き、今後の動向に不安を感じていた。
その時であった、天翔街の夜の繫華街にて、怪人の様なものが暴れている様子が、対怪人カメラに確認された。
だが、剣人たちはそのノヴァティスに酷似した怪人の姿を見て、驚き、戸惑う。
「ノヴァティスに似ている!? こいつは一体何なんだ!?」
「どうやら、奴は天翔街警察本部を目指しているようだね、剣人くん、翔音くん、エルピウォリアとDスワットは修理中でまだ戦えない、君達に戦ってもらうけど、いいね?」
「「はい!」」
剣人はノヴァティス・エヴォルに、翔音はミステベステに変身し、警察本部の外に出る。
すると、そこには丁度、ノヴァティスに酷似した戦士、ノヴァティス・ディファレントの姿があった。
「あら、やっぱり現れたわね、ノヴァティス・エヴォルとミステベステ」
「やっぱり、近くで観れば見る程、ノヴァティスに似ている!」
「あなたは一体、何者ですか!?」
剣人と翔音の問いを、槍香は鼻で笑った後、静かに答える。
「私はノヴァティス・ディファレント、退屈な日々を破壊し、あなた達を倒す者よ」
――――――――――――
【第11章 ディファレントの脅威THREAT】
「ノヴァティス……ディファレント……人間としての意思があると言う事は……あなたは人間なんですか!?」
「ピンポーン、せ・い・か・い・よ」
剣人の問いに、槍香は悪戯っぽく返す。
「まだ人としての意思があるのに……どうしてこんな事を……!」
「そんなの簡単よ、こんな退屈な日常、私は耐えられないの、だ・か・ら、ノヴァティスの力を使って、好き勝手に暴れてるのよ、レクトと私は協力関係なの、素敵でしょ?」
翔音の問いに、全く悪い事をしている自覚がない様な話し方で、槍香は返した。
「私は神の如き力を手に入れた、最高に気分がいいわ、私はこの力を使って、この退屈な世界を、破壊し尽くしてあげる!」
ディファレントは両掌から赤黒い稲妻を放つ。
エヴォルとミステベステは飛んで回避し、一気にディファレントへ距離を詰め、同時に蹴りを放つ。
しかし、ディファレントは二人の戦士の同時キックを掴んで受け止め、そのまま二人を地面に叩き付ける。
そのまま二人を踏みつけ、アスファルトの地面に二人をめり込ませる。
「あらあら、弱っちいわね、本物のノヴァティスやミステベステはこんなに弱いのね、なら、私が本物って事になるじゃないの」
二人を踏みつけたまま、ディファレントは赤黒い稲妻を放ち、エヴォルとミステベステの身体を焼く。
激痛のあまり、悲鳴を上げる剣人と翔音。
二人の体力はみるみる削られて行く。
何とか体勢を立て直そうとしても、ディファレントが力強く踏みつけるせいで動けず、稲妻で体が痺れて身動きも取れない。
「あら、全く抵抗が出来ないみたいね、なら、このまま出力を上げてあげる!」
更に威力を上げた稲妻で焼き尽くされるエヴォルとミステベステ。
剣人と翔音の意識はみるみる薄れ、今にも力尽きそうになる。
その時、ディファレントに一発のグレネード弾が命中し、ディファレントは吹き飛ばされる。
「今の攻撃……護さん!?」
剣人が起き上がり、振り向くと、そこにはエルピウォリアとDスワットの姿があった。
まだ不完全な状態で駆け付けた為か、装甲の各所には傷があったが、問題なく動けるようだ。
そして、エルピウォリアには大きな変更点があった。
背部に火力、守備、速度を強化する大型追加ブースターが装備されていたのである。
「間に合ってよかった、不完全な状態でもいいから君達を助けに行きたくて、沢田さんに無理を言って出撃を許可してもらったんだ、フルアーマー用のブースターが完成していたから、何とか戦えるはずだよ」
「Dスワットにはフルアーマー用のブースター等はありませんが、砲台代わりにはなるはずですよ」
フルアーマーエルピウォリアにパワーアップしたエルピウォリア、例えまともに動けなくても戦う覚悟のあるDスワット。
二人の戦士が駆け付けた事で、形勢逆転かと思われたが、それでもディファレントは止められない。
「人間の作った兵器如きで、このディファレントを止められると思わない事ね!」
ディファレントは地面を蹴り、凄まじいスピードでDスワットの下へと駆ける。
DスワットはDショットを連続して放つも、その銃弾を腕を振って弾くディファレント。
その動きを止める為、ブースターを全開にしたエルピウォリアが体当たりを敢行する。
勢いそのまま正面にあったコンクリート製の壁にディファレントを叩きつける。
しかし、全く効いていない様子のディファレントはエルピウォリアの腕を掴み、投げ飛ばした。
エルピウォリアはブースターで勢いを減速させ、ゆっくりと地面に着地する。
「フルアーマーとなったエルピウォリアなら、お前とだって戦える!」
フルアーマーエルピウォリアは背部ブースターに内蔵したミサイルランチャーを一斉発射する。
弧を描きながら一直線にディファレントへと飛来する誘導ミサイル。
その誘導ミサイルを、ディファレントは両手から放つ稲妻で迎撃し、爆散。
しかし、一発残った誘導ミサイルがディファレントに直撃し、爆風で吹き飛ばされたディファレントはコンクリート製の壁を突き破ってダウンする。
それでもなお健在のディファレントはゆっくりと立ち上がる。
その傷は少しずつ塞がっており、未だ戦闘は可能であった。
「やってくれるじゃない、でも、私はこの程度ではやられないわよ!」
ディファレントは両腕から赤黒い光弾を連射。
その光弾はフルアーマーエルピウォリアの胸部に命中し、炸裂するが、前面に増設した装甲は、エルピウォリアの身を守っていた。
「今のエルピウォリアの火力、守備、速度は以前とは比較にならないぐらいパワーアップしているんだ!」
フルアーマーエルピウォリアが戦う姿を見て、エヴォル、ミステベステも立ち上がる。
「俺達も負けていられない!」
「この一撃に全力を出します!」
エヴォルはエヴォルブレードに光を纏い、ミステベステは全身のトゲを伸ばしてディファレントの身体を貫く。
直後にエヴォルがエヴォルブレードを振り下ろし、ディファレントの身体を叩き斬る。
「がはッ……!?」
ディファレントは地面に崩れ落ち、沈黙する。
爆発はせず、その場に静寂が訪れる。
「俺達……勝ったのか……?」
剣人が呟く。
「いえ、まだ油断はできませんよ」
周が完全にディファレントにトドメを刺す為、Dショットのトリガーを引き、沈黙したディファレントを撃つ。
だが、ディファレントの身体は撃ち込まれた銃弾が体外に排出し、その傷をゆっくりと修復していた。
ディファレントは身体をゆっくりと起こし、立ち上がる。
「馬鹿な……奴は不死身なのですか!?」
周が驚愕の声を上げる。
「言ったでしょう? 私はこの程度ではやられないって」
ディファレントは両腕から赤黒い稲妻と光弾を同時に放つ。
その威力は以前よりも格段に上がっており、辺り一帯に大爆発を起こす。
攻撃を食らって地面に崩れ落ちる戦士達。
「あいつの攻撃、威力が上がっている!」
「攻撃を受ければ受ける程、パワーアップするっていうのか!?」
護と剣人の脳裏には圧倒的な力を前に「勝てない」という言葉が浮かびつつあった。
「こんな相手……勝てるの……?」
翔音が諦めかけたその時、彼等の前に一人の青年が立つ。
「父さん!」
剣人が名前を呼んだその青年は、かつてノヴァティスとして戦った日野鋼であった。
「よく頑張ったな、後は、俺に任せろ!」
鋼の胸には、眩い光が輝いていた。
「父さん……その光は……!」
「ああ、戻ってきたんだ、ノヴァティスの光が……!」
鋼は叫ぶ、変身の掛け声を。
「神聖変身!」
鋼の身体は眩い光に包まれ、その肉体を一瞬にして戦士の身体へと作り変えた。
現れたのは、かつての怪人軍団との戦いで活躍した、伝説の戦士そのものであった。
――――――――――――
【第12章 伝説の戦士NOVATICE】
「それが伝説の戦士、ノヴァティスね、私もよく覚えているわ、当時は5歳だったけど、とても印象的だったもの」
槍香はノヴァティスの姿を見て過去を懐かしむように呟く。
「つまり、あなたがオリジナルのノヴァティス、あなたを倒せば、私は正真正銘、本物のノヴァティスになれる!」
ディファレントは地を蹴って一直線にノヴァティスへと向かう。
ノヴァティスは右手にブレイヴセイバーを出現させ、光を纏い、剣を振って真空波を放つ。
この技はジャスティスライサーと呼ばれ、高い切れ味を誇る技だ。
しかし、ディファレントはその攻撃を光弾で迎撃する。
続けてノヴァティスは光を纏った剣を全力で振るった。
ノヴァティスの必殺技、ジャスティスブレイクである。
必殺の一撃は、ディファレントの身体をたった一撃で大きく切り裂いたが、その肉体はすぐに修復を始めていた。
「ジャスティスブレイクが効かない!?」
「残念だったわね! 既に私の力はオリジナルのノヴァティスを上回っているって事よ!」
ディファレントはノヴァティスの首を掴み、地面に叩き付けた。
地面が大きく抉れ、ノヴァティスは大きな傷を負って崩れ落ちる。
その身体を投げ飛ばすディファレント、ノヴァティスは地に伏し、沈黙する。
「所詮、あなた達がいくら努力しても無駄なのよ、圧倒的な力を前にはね!」
勝利を確信し、高笑いをするディファレント。
しかし、ノヴァティスは尚も立ち上がる。
「父さん……何で勝てないと分かっているのに、立ち上がるの? もう無理だよ、あいつには勝てない!」
「……父さんもかつては、圧倒的な力を前に諦めかけた事がある……怪人の王との戦いの時だ……でも、そんな時、多くの人が光をくれて、父さんに力を与えてくれた……」
鋼は剣人たちの方を振り向く。
「今は光をくれる人はいない……でも、あの時とは違って今は、こんなにも戦える戦士達がいるじゃないか! 俺達が力を合わせれば必ず勝てる! 新旧ノヴァティスがこうして揃っているんだから!」
鋼の言葉を聞き、四人の新世代の戦士たちはゆっくりと立ち上がった。
「……父さんの言う通りだ、新旧ノヴァティスが揃っているんだ、俺と父さんでダブルノヴァティス……こんなの特撮だったら、勝ちフラグだよな!」
「一人一人は小さいかもしれませんが、一つになれば無敵ですよね……私に何ができるか分かりませんが、私、やります!」
「僕は警察としての責務を忘れかけていました……警察は人々を脅威から守らないといけない……例え、相手がどんなに強くても!」
「全く、私にも『ヒーローとしての心』が宿ったみたいですね……でもそれも、悪くはないですね!」
四人の新世代の戦士と、かつての英雄が並び立つ。
それを見てもなお、余裕のある様子を見せるディファレント。
「どんなにあなた達が集まっても、私は倒せないわよ!」
ディファレントは電撃と光弾を連続して放つ、その威力は更に増している。
戦士たちは散開して回避。
ミステベステが全身のトゲを伸ばし、ディファレントの全身を串刺しにして動きを止める。
「舐めるな……!」
なおも動こうとするディファレントの身体に、更にトゲを刺して動きを封じるミステベステ。
「絶対に動かせません!」
そこに接近し、零距離でDショットの銃弾を撃ち込むDスワット。
フルアーマーエルピウォリアは新しく開発された大型バズーカ、MB-05 オブシディアンを連続して発射する。
「銃身が焼き付くまで撃ちますよ! 赤月さん!」
「言われなくとも、そのつもりです! 白石さん!」
ディファレントは力任せに身体を振り、トゲを折り、Dスワットを薙ぎ払う。
「再生が追い付かない程のダメージを与えるつもりでしょうけど、無駄よ! もう私は止められない!」
「だったら、それを一気に上回ればいいだけだ!」
「俺と父さんの、ダブルノヴァティスならそれができる!」
ノヴァティスのブレイヴセイバーと、エヴォルのエヴォルブレードの刀身には、眩い光が纏われていた。
「まさか、エネルギーをチャージする為の時間稼ぎを……!」
ダブルノヴァティスは、同時に地を蹴り、同時に剣を振り上げ、同時にX字にディファレントの身体を切り裂いた。
切り口からは眩い光が放たれ、ディファレントの身体を焼く。
《グオオオッ! 身体が……我の液体の身体が焼ける……! 我が……滅びると言うのか……!?》
「嘘……レクト……これで終わりなの……!? 折角私の人生は楽しくなり始めたのに……こんなのやだ……」
直後、ディファレントの身体は大爆発を起こした。
その爆発の中から放り出されたのは、服が焼け、傷だらけの身体の槍香であった。
Dスワットはすぐさま槍香に駆け寄り、意識がある事を確認すると、彼女を拘束する。
「森口槍香、建造物損壊罪、器物損壊罪、その他多くの罪で逮捕する」
「ふふ……まあ、当然の報いよね……分かりました……」
槍香は夜の街に立つダブルノヴァティスを見つめる。
「ダブルノヴァティス……いいな……」
彼女は小さな声で呟いた。
液体生命体ゲルクスの長、レクトは滅び、最後の敵であったノヴァティス・ディファレントは倒された。
これにより、新たな怪人災害は終わりを迎えた。
――――――――――――
【最終章 希望の明日へHOPE FUTURE】
怪人災害が収束して一ヶ月、人々は平穏を取り戻し、また元の平和な日常が戻って来ていた。
大勢の命が失われ、街は破壊された。
失ったものは多いが、それでも、失ったものの重さを忘れないように、前へと進んでいく。
ミステベステに変身して戦った翔音は、今もまだ液体生命体の生き残りであるリマと一体化したままであった。
あの後、ノヴァティス達共々警察機関によって身体検査をされたが、特に異常は見つからなかった。
今は、力を無闇に振るわない事を条件に、元の中学生の生活へと戻っている。
(私の身体はまだ、あの液体生命体と一体化したまま……いつか異常が起きるのかもしれないけど、きっと大丈夫だよね……? だって、あのノヴァティスと一緒に戦ってくれたんだもん)
ふと、翔音の脳裏に「大丈夫だよ」と聞いた事のない男性の声が聞こえた、そんな気がした。
その声の主は、もしかしたらリマかもしれない。
翔音は天翔中学の校門へと、歩みを進める。
天翔街警察本部の地下、そこは危険な犯罪者を隔離する牢屋。
そこでは、ノヴァティス・ディファレントとして悪行の限りを尽くした森口槍香が捕らわれていた。
暴れる様子がなかった為、セキュリティの厳重な牢に入れられているだけではあるが、彼女は膝を抱え、体育座りをして、空を眺めていた。
その牢の中に、護と周が入って来る。
「お邪魔しますよ、森口さん」
「警察の人達か……また来たのね……」
槍香はため息をつき、視線を逸らす。
「私はあれだけの事をしたのだもの、どうせ死刑は確定でしょ?」
「それが、君は一人も殺してなかったんだ」
「え……?」
護は手元の資料を見せる。
「森口槍香、君は奇跡的と言うべきかもしれないが、あれだけの破壊を行って誰も死なせていなかった、だから、死刑になる確率はかなり低い」
「それでも、した事がした事だから、罪は償ってもらいますよ?」
槍香はそれを聞いて安心したのかほっと息をつき、「分かりました」と返した。
彼女の表情はほんの少し、明るい顔になっていた。
鋼は妻である理乃、かつての友人である有人、雫の夫妻、司、孝信と久々に街に出掛けていた。
もう完全に復興した街、そこの飲食店に立ち寄り、久々に集合した友人と世間話をする。
「いや、しかし、このメンバーが揃うのも久々だな!」
「そうだねえ、怪人災害が収まってようやく僕も解放されたからね」
司と孝信がコーラとコーヒーを手にしながら話す。
「僕は最近は雫とずっと特撮を観てるよ」
「うん、最近は70年代のマイナーな特撮を観るのにハマってる、ファイトアックスって番組なんだけど、これがなかなか良くてね……」
有人と雫の夫妻が特撮トークを始め、他のメンバーは呆気にとられる。
「でも私達、結構歳取ったよね、高校時代のお昼、こうしてみんなで集まったのが懐かしいよ」
理乃が高校時代の自分達を思い返す。
最初の怪人災害の時、色々な事があって大変だったが、学生生活はとても充実していた。
「今は俺と理乃の子供が、俺と同じ使命を背負ってしまった……あれからまた変身能力を失ってしまったけど、今度は孫世代にも遺伝するんだろうか……」
少し心配になり俯く鋼の手を、理乃はそっと包み込む。
「大丈夫、そうなっても今度は、怪人と戦う術を人類が身に着けてるはず、もう一般人である私達が戦わなくてもいいように」
「理乃……」
「そうさ、僕はこれからも研究を続ける、勿論、軍事利用されないように何かしら対策はするけどね」
「でも、鋼くんのお孫さんもノヴァティスになったとしたら、トリプルノヴァティスになるって事だよね……?」
「それって、凄く激アツじゃん! みんなもそう思わない?」
「あーもう! 有人だけでも五月蝿いのに、雫まで五月蝿くなっちまって! お前ら何があったんだよ!」
孝信、雫、有人、司の反応を見て、鋼と理乃はくすくすと笑う。
「ありがとう……みんな……」
鋼は友人に笑顔を見せた。
それは、高校時代から自分を支え続けてくれた友人への感謝でもあった。
剣人は妹の都、友人の結愛と共に登校していた。
相変わらず両手に花状態であり、二人は剣人の腕を組んで引っ張り合っていた。
「剣人くん、遂に裂空騎士シリーズの新作が発表されたね! その名も裂空騎士マッハファルクス! シリーズ第十一作品目で、今作は前作のマッハブレードと世界観を共有していて、マッハブレードも続投する! これはダブル裂空騎士が観れるって事! 最高に熱いね!」
相変わらず裂空騎士シリーズのトークが止まらない結愛。
「お兄ちゃんはそこまで興味ないはずだよ! それよりお兄ちゃんから離れて!」
剣人の腕をぐいぐい引っ張る都。
朝から疲れ切った剣人は大きなため息をつく。
「もう……朝から勘弁してくれ……」
剣人はエヴォルの力について考えていた。
あの後、父同様変身ができなくなった。
父からは、脅威が去ったから変身できなくなったと言われたが、それはまた脅威が現れたら変身しないといけないのかと考えていた。
だが、剣人は横で騒がしくする都と結愛を見て、大切な者を失わない為なら戦ってもいいと思えた。
(でも、きっと、これから先は平和が続いてくれるよな……)
剣人はそう祈り、今日も学生生活をスタートさせた。