クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

太陽と月と希望の剣士たち 後編「希望の剣士の章」

タクト一派に敗北し、黒コゲになったポディスンは、黒コゲのままヴェンジェンスの本拠地に戻って来た。ポディスンは1人、本拠地の廊下を歩いていたが、2度も撤退させられたことで、ポディスンは悔しがっていた。

ポディスン「くっそ~! あいつら、今度会ったら殺してやる!!」

イライラした様子でポディスンは何度も地団駄を踏んでいた。すると、ポディスンの後ろからクライムがやって来た。

クライム「その様子、よほどひどい目に会ったようだな、ポディスン」
ポディスン「あっ! クライム様! 聞いてくださいよ!あいつらったらかわいい私をこ~んな黒コゲにして!」
クライム「ふむ…フロストに続きポディスンまで敗北するとは…これは私が出るしかないかもしれん…」

その言葉に、ポディスンは驚いていた。クライムは今までどんな事があっても自ら出るなどとは言わなかったからだ。タクト一派はクライムにとってそれほどの相手だと言う事なのだろう。

ポディスン「クライム様自らが行くんですか!?」
クライム「ああ、タクト一派がどれほどのものか、私自らが確かめてくるよ」

そう言って、クライムはテレポートの呪文でその場から移動した。

ポディスン「あいつら、今度こそ終わったね、クライム様には絶対に勝てないんだから!」

本拠地の廊下には、ポディスンの笑い声が轟いていた。

タクト達は今、砂漠を越えようとしていた。だが、あまりの暑さと足場の悪さの為、タクトとリリシェはシエルプランシュで、ソレイユとクレセントは飛行しながら移動していた。ちなみに、砂漠があまりにも暑い為、普段の倍近くのスピードを出している。

リリシェ「ねえ、タクト…もうちょっとスピード落とさない?」
タクト「断る、クソ暑いからな」
リリシェ「でも、こんなに速度上げたら怖いよぉ…」
タクト「なら勝手に降りろ」
リリシェ「やだよ~! こんな砂漠のど真ん中に女の子を放置しないでよ~!」
タクト「ああもう! うるさい女だな!!」

2人で騒いでいるタクトとリリシェを見て、ソレイユとクレセントは2人で笑っていた。

クレセント「あの2人を見ていると、本当に和むわね」
ソレイユ「分かる~! あの2人ってお似合いだね!」
タクト&リリシェ「それはない!!」
ソレイユ「え~お似合いだと思うんだけどな~」
タクト&リリシェ「だからそれは絶対ない!!」
リリシェ「てかソレイユ、あなた、太陽の精霊なら気温下げる事ってできないの?」
ソレイユ「それは無理だね、私は太陽の光から生まれた存在だけど、気温を変化させる力は持ってないから」
タクト「そんなもんなのか?」
クレセント「まあ、分かりやすく言うと、気温を変化させる力は私達の生みの親である太陽と月が持ってるの」
ソレイユ「だから、分身である私達には備わってないんだ」
リリシェ「ふ~ん、太陽と月の精霊って言っても、できない事はあるんだね」

そんな話をしていると、砂漠を抜け、湿地帯に到着した。タクトとリリシェはシエルプランシュを降り、ソレイユとクレセントは地面に着地した。

タクト「やっとマシな場所に着いたな」
リリシェ「分かる~、もう砂漠はこりごりだよ~」
ソレイユ「私からすると涼しかったんだけどな~」
クレセント「それはあなたが太陽の精霊だからよ、ソレイユ」

すると、タクト達に近づく1人の人影があった。それは、ヴェンジェンスの総帥、クライムだった。

クライム「やあ、待っていたよ」
タクト「誰だ!?」
クライム「私はヴェンジェンス総帥、クライム・ゼノロストだ」
タクト「ヴェンジェンスの総帥だと!?」
リリシェ「この人が…ヴェンジェンスの総帥…」
ソレイユ「なら、今ここでこいつを倒せば…!」
クレセント「この戦いが終わるって事ね!」
クライム「まあ、そう言う事になるな、フッフッフ」
リリシェ「で、私達に一体何の用?」
クライム「決まっているだろう、君達の相手をしに来たのさ」
タクト「どうやら死にたいらしいな、なら望み通りここでぶっ殺してやる!!」
クライム「それが君にできたらね、タクト・レイノスくん」
タクト「その言葉…後悔するなよ!!」

そう言ってタクトはクライムに攻撃を仕掛けた。だが、クライムは一瞬でタクトの背後に回り込んだ。そして、クライムはタクトをダークネスブレードで攻撃したが、タクトは間一髪、聖剣エスペリアで攻撃を受け止めた。

クライム「おやおや、受け止めたか、大体の相手はこれで死ぬんだがね…」
タクト「だ…ま…れッ!!」

タクトは力づくでクライムを剣ごと斬り払った。すると、クライムは紫色の真空波を放った。タクトはその攻撃を回避したが、クライムは連続で真空波を飛ばし、攻撃した。連続で真空波を飛ばされた事で、タクトも回避しきれず命中してしまった。

タクト「ぐわあああっ!!」
クライム「フッフッフ…」

油断していたクライムに対し、ソレイユはサン・フレイムを、クレセントはルナ・カッターを放って攻撃した。だが、クライムは高速で移動し、ソレイユとクレセントの背後に回り込んだ。2人は防御態勢を取ったが、クライムの斬撃の威力は高く、ソレイユとクレセントは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。クライムの圧倒的な強さに、リリシェは怯えていた。

リリシェ「ひいぃ…あいつ強すぎだよ…」

すると、そのリリシェの背後にクライムが現れた。

リリシェ「ひえっ!?」
クライム「この高速移動は私の技の一つ、ソニック・ムーブだ、覚えておきたまえ」

そう言ってクライムはリリシェの腹に回し蹴りを放ち、吹き飛ばした。

クライム「さて…と、こんなものか? 君達の力は?」
タクト「舐めるなっ! ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは刀身に巨大な魔力の剣を生成し、斬りかかった。だが、クライムも同じ様に巨大な闇の剣を生成した。

クライム「ダークネス・クライム!!」

クライムはダークネスブレードに闇の魔力を纏った状態で回転斬りを放ち、タクト達4人を薙ぎ払い、吹き飛ばした。

タクト「ぐわあああああああっ…!!」

タクト達は地面に叩き付けられ、戦闘不能になった。

クライム「やれやれ…四天王を敗北させたからどんな相手かと思えば、こんなに弱いとはね…」
タクト「うぐっ…まだ…だ…がはっ!」
クライム「そろそろトドメを刺してやる…」

すると突然、タクト達4人は真っ白な世界に集まった。正確には、タクト達の意識がクレセントの作った精神世界に集まったのだ。

タクト「…ここはどこだ?」
クレセント「ここは私の作った精神世界、ここでの1時間は元の世界での1秒よ」
リリシェ「そんな事ができるんだ…凄ーい」
タクト「で、わざわざ俺達をここに集めて何の用だ?」
クレセント「単刀直入に言うわ、この戦いには勝てないから撤退しましょう」

その言葉に、タクトは感情を爆発させた。

タクト「何でだ! ヴェンジェンスの総帥を殺すチャンスだぞ!!」

その言葉に対し、クレセントも感情を爆発させた。

クレセント「生きていたら! そのチャンスはいつか必ず来るわ!」
ソレイユ「タクト、生きる事だって大事だよ、死んでしまうとね、チャンスは二度と来ないんだよ」
リリシェ「それに、今は私達の方が追い込まれてる、一旦撤退しましょう」
クレセント「大丈夫、逃げる事は、恥でも何でもないから、逃げる事だって大事よ」

クレセント達のその言葉に、タクトはしばらく考えた後、答えを出した。

タクト「…分かった、今回は撤退する、だが、次奴に会ったら必ず殺す」
クレセント「うん! それでいいわ!」

すると、リリシェがある疑問を出した。

リリシェ「でもさ、どうやって逃げるの?」
ソレイユ「あ、それを考えてなかった…」

それに対し、タクトは自信満々で答えた。

タクト「大丈夫だ、俺に任せろ」
リリシェ「タクト!」
タクト「だが、それには3人の力が必要だ、力を貸してくれ」

その言葉に、3人は頷いた。

クレセント「分かったわ! 任せて!」
ソレイユ「タクトには今まで何度も助けられたからね!」
リリシェ「今回もタクトに任せるわ!」
タクト「…ありがとな」

タクト達は意識を元の世界に戻した。そして、4人は立ち上がった。

クライム「おやおや、立ち上がったか、なら、トドメを刺してやる」

クライムは真空波を放ち、タクト達を攻撃したが、タクト達は散開し、攻撃を回避した。その間、タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、クライムに突撃した。クライムはその突撃を食らい、吹き飛ばされてしまった。そして、タクトとリリシェはシエルプランシュから降り、タクト以外の3人はタクトに魔力を与えた。そして、タクトは剣に魔力を纏い、超巨大な魔力の剣を生成した。

タクト「これで一気に決める! ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!」

タクトはハイパー・ブレイヴ・ブレードを振り下ろした。クライムも負けじと、剣に闇の魔力を纏い、回転斬りを放った。

クライム「くっ! ダークネス・クライム!!」

ハイパー・ブレイヴ・ブレードとダークネス・クライムはぶつかり、大爆発を起こした。

タクト「今だ! 撤退するぞ!!」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、ソレイユとクレセントは飛行して颯爽とその場を立ち去った。爆炎が収まった後、クライムは1人不敵に笑っていた。

クライム「フフフ…中々面白い相手だ、今回は見逃してやる、だが、次に会った時には…」

湿地帯には、クライムの笑い声が轟いていた。その後、タクト達はかなり遠い場所にある河原で休んでいた。命からがら逃げて来た為、4人共完全に疲れ切っていた。

リリシェ「ハァ…ハァ…死ぬかと思った…」
ソレイユ「流石に今回はヤバかったよ~」
タクト「ヤバいのは毎回だろ…」
クレセント「確かにね…」

タクト達はしばらく休み、呼吸を落ち着かせた。その後、クレセントがタクトに優しく語り掛けた。

クレセント「タクト…きっとあいつを倒すチャンスは必ず来るわ」
タクト「多分な、それに、あいつはあえて俺達を見逃した、そんな気がするんだ」
リリシェ「何でそんな事が分かるの?」
タクト「俺の感さ」
リリシェ「な~んだ!」

その時、河原の近くの草むらから音が聞こえた。

タクト「何かがいる…!!」
リリシェ「もう! 誰よ~!!」
ソレイユ「まさか…ヴェンジェンス!?」
クレセント「四天王…とかじゃないわよね…?」
タクト「もう魔力が枯渇寸前なんだから縁起でもない事言うな!!」

草むらから現れたのは、リリナとその部下であった。いきなり鉢合わせになった双方は、目を丸くしていた。

リリナ「え…あんた達…」
タクト「お前ら…何でこんな所にいるんだ…まさかお前ら、俺達を殺す為にここに来たのか!?」
リリシェ「そんな…! 今の私達じゃ、リリナ達にも勝てるかどうか分からないのに!」

すると、リリナの口からは意外な返事が返って来た。

リリナ「落ち着いて、私達は戦いに来たんじゃないわ」
タクト「何…?」
ターニャ「あなた達にとても大事な事を伝えに来たの」
ミーナ「それも世界の命運を変えるかもしれない事」
ノクト「ちなみに、ヴェンジェンスの最高機密の情報よ」
タクト「…本当に戦いに来たんじゃないんだろうな?」
クレセント「大丈夫よ、彼女たちからは悪意は感じられないわ」
ソレイユ「本当に戦うつもりはないみたいだよ」
リリナ「お願い…! 信じて…!」
タクト「…分かった、早く話を聞かせろ」
リリナ「ありがとう、じゃあ、早速話すわね…」

リリナはフロストと共に取った作戦の後敗北し、ヤケになってワインを飲みまくった後、泥酔して部下の3人に支えられながら本拠地の廊下を歩いていた。

リリナ「くっそ~! 今回はあいつらに勝てると思ったのに~! 今度会ったら叩き殺してやる~!」
ターニャ「リリナ様、飲み過ぎですって~!」
ミーナ「めっちゃ酒の匂いする~!」
ノクト「大人ってみんなこうなのかしら?」
リリナ「うるへ~! 17歳のあんたらに私の苦労が分かってたまるか~!!」

すると、リリナは目の前に立ち入り禁止の部屋がある事に気づいた。この部屋はクライムのみしか入る事を許されていない部屋で、リリナ達はおろか、四天王すら入る事を許されていない。なので、中に何があるかは誰も知らないのである。その時、リリナはその部屋の中に何があるのか、興味が湧いてきた。酒に酔っているので、普段とは違う思考回路になったのであろう。

リリナ「…ねえ、誰か針金持ってない?」
ターニャ「一応代わりになりそうなヘアピンがありますけど、何に使うんです?」
リリナ「あの部屋に入る」
ミーナ「えええ!? やめときましょうよ~」
ノクト「バレたら、殺される」
リリナ「んな事知るか~! バレなきゃ犯罪じゃないのよ~!」

その後、リリナはターニャの持っていたヘアピンでピッキングを始めた。リリナはこう見えて過去に盗賊をやっており、こう言った事は手練れていた。酔っている為、少し目元がふらついていたが、リリナは集中すると酔っていても意識がシャキッとする為、約3分ほどで鍵を開ける事に成功した。

リリナ「よし開いた~!!」
ミーナ「ね~本当に入るんですか~?」
ノクト「本当に、死ぬかも」
リリナ「嫌なら来なくていいのよ?」
ターニャ「はぁ…分かりました、行きますよ」

リリナ達は立ち入り禁止の部屋に入った。そこには、机があり、その上には書類が置かれていた。

ミーナ「案外普通の部屋ですね~」
ノクト「何にもない」
ターニャ「もしかして、どっかにお宝とかある?」

部下3人が辺りをきょろきょろと見回す中、リリナは机の上にある書類に目を通した。

リリナ「何この書類…」

その書類を手に取ったリリナは、早速読み始めた。だが、その書類には想像以上に恐るべきことが書かれていた。

リリナ「こ…これは…!!」

その書類にはこう書かれていた。ヴェンジェンスは堕落に満ちた世界を変える事が目的である、だが、それはクライム・ゼノロストの真の目的ではない。その真の目的は300年前に次元の彼方に封印された邪神を復活させ、世界中にいる人類を邪神の手によって根絶やしにし、邪神の手によって新たなる人類である新人類を誕生させ、私と邪神が支配する新人類の世界を作る事が真の目的である。ヴェンジェンスの存在は人々の命を奪い、邪神復活の生贄にする為の魂を集める為の組織なのだ。

書類に書かれていた事を読み切ったリリナは、体中が恐怖で身震いしたと同時に、自分達の存在が捨て駒にされた事で怒りを覚えた。

ノクト「リリナ様、どうしました?」
ミーナ「酔いでも覚めましたか?」
リリナ「…クライム様の目的は、堕落に満ちた世界を変えるとかじゃない、人類を滅ぼす事らしいわ」
ターニャ「そんな…! じゃあ、どっちみち私達も死ぬって事?」
リリナ「こうしちゃいられないわ! 早くここから出ましょう!」

リリナは部下を連れて部屋から出た。するとそこには、クライムの側近であるデクシアとアリステラがいた。

リリナ「デクシア! アリステラ!」
デクシア「リリナさん、立ち入り禁止の部屋に入ったようですね」
リリナ「2人とも聞いて! クライム様の真の目的は、人類を滅ぼす事よ!」
アリステラ「…それがどうしました」
リリナ「…え!?」
デクシア「私達の役目は、クライム様に全力で尽くす事」
アリステラ「それができないなら、あなた達など必要ありません!!」

そう言ってデクシアとアリステラはエクスプロージョンの呪文を唱えた。それに対し、リリナの部下3人はマジックガンから炎魔法のファイアを唱え、エクスプロージョンの呪文を迎撃した。リリナ達はその隙にテレポートの呪文でその場を後にした。

デクシア「逃げましたか…」
アリステラ「まあ、いいでしょう、彼女たちがいなくとも、私達のやるべき事は変わりません」

リリナ「で、私達は何とかこの近くの砂漠に逃げてきて、この河原に隠れていたって訳よ」
リリシェ「あんた達も大変だったのね…」
タクト「クライムの目的…聞くだけで恐ろしいな…」
ソレイユ「それにあいつ、邪神を復活させるつもりなんだね…」
リリナ「ねえ、邪神ってそんなにヤバい奴なの?」
クレセント「ええ、とっても」

ソレイユ「300年前の戦いで大陸が消し飛んだ理由は知ってるよね?」
リリシェ「うん、人類の生み出した魔法爆弾で吹き飛ばしたんだよね?」
ソレイユ「あれ、実は魔法爆弾なんかじゃないんだ」
リリシェ「え、そうなの!?」
クレセント「300年前にある帝国出身の呪術師が誕生させた邪神がいてね、その邪神が究極魔法で大陸を消し飛ばした、これが真実よ」
ソレイユ「多分、後世の人が怖がったりしないように邪神じゃなく魔法爆弾に変えられたんだと思う」

タクト「じゃあ、その邪神はお前達が封印したんだな?」
クレセント「うん、何とか封印したんだけど、とても強かったわ」
ソレイユ「邪神の暴走で人類が諦めかけた時、私達は太陽と月の光から誕生して邪神と戦ったの」
クレセント「でも、今より遥かに力のあった私達2人が力を合わせても邪神は倒せなかったわ…」
ソレイユ「それで、私とクレセントが力を合わせた奥義、サン・ムーン・エンドで時空の彼方に封印したんだ」
クレセント「その後、失われた大陸を元に戻して、私達は長い眠りについた、これが真実よ」
リリシェ「私達って…凄い人たちと一緒に戦ってたんだね…」

そんな話をしていると、リリナが突然タクトの両手を掴んだ。

タクト「何をする!?」
リリナ「お願い! クライムを倒して!」
ターニャ「私達じゃクライムは倒せない…」
ミーナ「でも、四天王を何度も退けたあなた達ならきっと倒せる!」

その話を聞いたタクト達は表情を曇らせた。自分達はそのクライムの圧倒的戦闘力に撤退を余儀なくさせたからだ。

タクト「俺達でも…クライムには勝てなかった…」
ノクト「そんな…」
タクト「だが、クライムの真の目的が人類の抹殺なら、俺達はクライムと戦うしかない」
リリシェ「まだやりたい事があるのに、殺されたくなんかないもの!」
ソレイユ「人間は誰しも、生きる権利がある! それを勝手に奪わせたりしない!」
クレセント「人の命を何とも思わないような人に、私達は屈しません!」
リリナ「あなた達…」

タクト「お前達も、クライムを止めたいなら、協力してくれ」
リリナ「もちろんよ! みんなもいいでしょ?」
ターニャ「もちろんです!」
ミーナ「私はずっとリリナ様に付いて行くよ!」
ノクト「仕方ないですね…」
リリシェ「リリナさん! 似た名前同士、これからよろしくね!」
リリナ「こちらこそよろしく!」

その時、ソレイユとクレセントが何かを感じ取った。

ソレイユ「何かが来る…!」
クレセント「これは…ヴェンジェンスよ…!」

遠くから河原の石を踏む足音が聞こえ、現れたのはヴェンジェンス四天王のフロストであった。

フロスト「裏切り者のリリナちゃんを始末しに来てみたら、まさか死にかけのタクト一派がいるなんてね~」
タクト「フロスト…!!」
フロスト「言っとくけど、僕はクライム様の為なら、何でもするよ?」
タクト「相変わらず狂ってやがるな…!!」
フロスト「さあ、ここで決着を付けようか」

リリナ「フロスト様! いえ、フロスト! クライムの真の目的は、人類を抹殺する事、私達はその為の捨て駒だったの!」

その話を聞いたフロストは微笑し、リリナに返事を返した。

フロスト「知ってるよ、クライム様は僕達四天王にだけはその事を教えていてくれたんだ」
タクト「じゃあ、何だ、お前達はクライムの目的の為の捨て駒になっていいとでも?」
フロスト「もちろん、真の目的がどうあれ、堕落に満ちた世界を破壊すると言う当初の目的は達成されるからね」
リリシェ「なら、あなた達は捨て駒にされて死んでもいいって言うの!?」
フロスト「もちろん、ヴェンジェンスに入った時から死は覚悟していたさ」
タクト「狂ってる…お前達は狂ってるぜ!!」
フロスト「何とでも言いなよ、僕達はお前達を殺す、その為にここに来たからね」

フロストが別空間からフリージングサーベルを取り出した事を確認すると、タクトはリリナの方を向き叫んだ。

タクト「リリナ! お前は部下を連れて逃げろ!」
リリナ「え…? 私も戦うよ…?」
タクト「駄目だ! お前達じゃあいつには勝てない! 死にに行くようなものだ!」
リリナ「わ…分かったわ」

そう言って、リリナは部下を連れてその場を去った。

フロスト「賢明な判断だね、僕にかかればリリナ達は瞬殺だからね~」

フロストが喋っている間に、タクト達も聖剣エスペリアを取り出した。そのタクト達の様子を見たフロストは、タクト達を鼻で笑った。

フロスト「さて、クライム様に痛めつけられた体でどこまで戦えるかな?」
タクト「黙れ! 俺達はクライムをぶっ殺すまで死ぬつもりはない!!」

そう言ってタクトはフロストに斬りかかろうとした。その時、フロストは指を鳴らした。すると、そこから一筋の光が放たれた。タクトはその攻撃を回避し、光は後方にあった萱に命中した。すると、萱は一瞬で凍結し、崩れ去った。

リリシェ「何今の!?」
フロスト「僕の技の一つ、フリーズ・エンドさ、以前も使っただろう?」

以前と言うのは、フロストが初めてタクト一派と戦った時の事だ。その時は手で触れた物を凍結させ、指を鳴らすと崩れると言うものであった。だが、今回は指を鳴らすと光が放たれ、その光に当たると一瞬で凍結し、崩れると言うものだった。

フロスト「あれから僕も特訓してね、遠距離型のフリーズ・エンドを生み出したのさ」
タクト「なるほどな、お前もその努力をもっとマシな事に使えばよかったにな!」

そう言ってタクトはフロストを攻撃した。

フロスト「アイシクル・シールド!!」

フロストは自分の身の丈ほどもある大きさの氷の板を瞬時に生み出し、攻撃を防御した。

タクト「くっ!」
フロスト「甘いね、アイスクリームより甘い!!」

フロストは氷の板を消し、掌から無数の氷の飛礫を放った。この技はアイシクル・バレットと言う技で、無数の氷の飛礫を吹雪の如くぶつけると言う技である。時速100㎞以上の速度で飛ぶ無数の氷の飛礫は、タクトの全身にモロに命中し、タクトを吹き飛ばした。

リリシェ「タクト!!」
フロスト「おっと!!」

タクトの身体を心配して駆け寄ろうとしたリリシェに対し、フロストは再びアイシクル・バレットを放った。無数の氷の飛礫がリリシェの全身を傷つけ、リリシェは地面に倒れ込んだ。

リリシェ「ぐうぅ…!」
フロスト「言っとくけど、僕は女の子だからって、容赦はしないよ?」
ソレイユ「くっ! これ以上私の仲間を傷つけるなーっ!!」

ソレイユはサン・フレイムを放ったが、フロストはアイシクル・シールドで防御した。

フロスト「このアイシクル・シールドはとっても分厚いからね、その辺の盾よりは頼りになるよ」
クレセント「だったら、全方向から攻撃してあげます!!」

クレセントはルナ・カッターでフロストを全方向から攻撃した。だが、フロストは自身の周囲に氷柱を発生させる攻撃呪文、アイシクル・バーストを防御に転用し、上からの攻撃は装備しているフリージングサーベルで斬り払った。

フロスト「あまり僕を甘く見ない方がいいよ? こう見えても四天王だからね~」
クレセント「くっ!」

すると、フロストは突然呆れた様子を見せた。

フロスト「これで君達がいかにタクトに頼りきってるが分かったよ」
クレセント「何ですって?」
フロスト「君達は弱すぎる! 1人1人は弱く、突出しているのはタクトだけ、よくこれでここまで戦ってこれたね~」
クレセント「そんな事…!」

すると、フロストのその言葉に、ソレイユが声を張り上げた。

ソレイユ「それは違う!!」
フロスト「え?」
ソレイユ「タクトだって、1人だけで戦って来たんじゃない! 私達がいないと負けていた事も沢山あった!!」
クレセント「そうよ! 1人1人は大して強くない…でも! みんなが協力したから、ここまで戦ってこれたのよ!!」

その言葉に、タクト達も立ち上がった。

タクト「そうだ…! ここまで来たのは、俺1人の力じゃない…! リリシェが、ソレイユが、クレセントがいたからここまでこれたんだ!!」
リリシェ「それが分からないあなたには、私達を殺す事は出来ない!!」
フロスト「くっ! なら、僕がすぐにトドメを刺してあげるよ!!」

フロストは剣を取り、クレセントと鍔迫り合いになった。

ソレイユ「クレセント! しばらく持ちそう?」
クレセント「3分ぐらいは持たせてみせるわ!」
ソレイユ「ありがとう」

そう言ってソレイユはタクトの所に向かった。そして、ソレイユはタクトの右手を強く握った。

ソレイユ「タクト、私を使って!」
タクト「お前を…使う?」
ソレイユ「私がタクトの弓になる、それであいつを撃ち抜いて!!」
タクト「そんな事をして、大丈夫なのか?」
ソレイユ「…もちろん大丈夫じゃないよ、弓になると命を削っちゃう、でも…!」

ソレイユはタクトの手を強く握った。その手には、震えが感じ取れた。

ソレイユ「ここで死んじゃう方が、私はずっと嫌だ!!」
タクト「…分かった、お前の決意、確かに受け取った!!」

ソレイユは体を眩く光らせ、しばらくして光が収まると、そこには太陽のような輝きの真っ赤な弓へと姿を変えていた。

タクト「…これは?」
ソレイユ「太陽の弓、私が武装化した姿だよ」
タクト「これであいつを撃ち抜けばいいんだな?」
ソレイユ「うん! でも、一発しかないから慎重にね」
タクト「了解だ!」

一方、交戦していたフロストとクレセント、戦闘不能になっていたリリシェも太陽の弓の存在に気付いた。

フロスト「何だあれは?」
リリシェ「ソレイユが…弓になった!?」
クレセント「ソレイユったら、武装化は命を削るのに…それほどの覚悟なのね」

タクトはフロストに向けて弓を向けた。すると、炎の矢が現れ、タクトは矢を撃つ態勢を整えた。

タクト「当たってくれよ…俺は弓の扱いは慣れてないんだからな…」
フロスト「馬鹿め! そんな物が当たる訳…」

その時、フロストの首を羽交い絞めにした人物がいた。既に撤退したはずのリリナ達だ。

フロスト「お…お前達…!!」
リリナ「ソレイユちゃんが命かけてるのに、私達が命をかけないでどうするの!」

フロストはリリナの腕を凍結させようとしたが、リリナの部下たちがマジックガンでファイアを放ち、フロストの両手を焼いた。

フロスト「ぐわあぁぁぁッ!!」
タクト「今だッ!!」

タクトは炎の矢を放った。リリナはそれを見てフロストを正面に突き飛ばした。そして、フロストは体を炎の矢に貫かれ、全身が燃え上がった。

フロスト「ぐあぁぁぁッ!! 僕が…!! 死ぬ…!? うわあぁぁぁッ!!!」

フロストは炎に包まれ、骨も残さず燃え尽きた。こうして、四天王の1人であるフロストとの戦いに勝利したのだった。

ソレイユは元の姿に戻り、地面にへたり込んだ。かなり消耗しているようで、立つ事ができなくなっていた。

ソレイユ「ハァ…ハァ…疲れた…」
タクト「ソレイユ、大丈夫か?」
ソレイユ「だ…大丈夫だよ、でもちょっと疲れたなぁ…」
クレセント「当たり前よ、武装化は命を消耗する能力だもの」
リリシェ「そんな能力を使ったの!?」
ソレイユ「心配かけてごめんなさい、でも、みんなを助けるにはこれしかないと思って…」
リリシェ「もうこれからは無茶はしないでね」
ソレイユ「うん、分かったよ」

タクト「さて、そろそろこの場を立ち去った方がいいな」
クレセント「そうね、四天王も倒したし、きっとこの場もバレてるはずだし…」
リリシェ「じゃあ、早くこの場を立ち去りましょう」

すると、ソレイユがリリシェに抱き着いた。

ソレイユ「ねえ、リリシェ~おんぶして~」
リリシェ「そう言えばソレイユは疲れて動けないんだったわね、分かったわ」
ソレイユ「やった~」

そして、タクト達は出発の準備を整えた。

タクト「じゃあ、行くか」
リリシェ「うん!」

こうして、四天王の1人であるフロストを倒したタクト達は、一旦休息を取る為、河原を出発した。全ては、ヴェンジェンスの総帥、クライムの野望を止める為…。

フロスト戦死の知らせは、ヴェンジェンスの本拠地にも届いていた。ヴェンジェンス総帥のクライムは、フロストが戦死した事を察知し、その事を部下の四天王たちに伝えた。

クライム「…フロストが逝ったか…」
グラム「そんな…! フロストが死ぬなんて…!」
ポディスン「嘘…嘘でしょ…!? フロストが…!」
アオ「クライム、誰がやったの?」
クライム「タクト一派だ」
ポディスン「やっぱりあいつらね…!」

すると、ポディスンはクライムの前に立った。

ポディスン「クライム様、タクト一派討伐の任務、私にやらせてください」
クライム「いいだろう、だが、くれぐれも死ぬなよ」
ポディスン「了解しました」

そう言うと、ポディスンはテレポートの呪文でその場を立ち去った。

ポディスンが立ち去った後、クライムはある事を考えていた。その様子に気付いたアオは、クライムに問いかけた。

アオ「クライム、どうしたの?」
クライム「いや、何故彼らはたった4人だけで我々ヴェンジェンスと戦ってこれたのか、と思ってね」
グラム「やはり、太陽と月の精霊の存在でしょう、彼女たちは非常に厄介です」
アオ「あのタクトって奴もかなり厄介だよ」

すると、クライムは更に考え、ある答えを出した。

クライム「彼らは4人全員が協力し、我々と戦って来た、これが結束の力だと言うのなら厄介だよ」
グラム「そんなに…ですか…?」
クライム「ああ、ポディスンが無事に帰って来てくれれば嬉しいのだがね…」
アオ「ポディスン…無事に帰ってきてね…」

一方のタクト達は、ハムパ村の宿に泊まり、くつろいでいた。

タクト「あ~! 疲れた…」
リリシェ「お疲れ様、タクト、でも…」

タクト達のいる部屋は、とても広々とした部屋で、8人入っても大丈夫なほど広かったが、男1人、女7人のこの状況に女性陣は少し困惑していた。

リリナ「完っ全にハーレム状態ね」
ソレイユ「あははは! タクト、ハーレム状態だねー!」
クレセント「こらっ! ソレイユ!」
リリシェ「タクト…狙ってこの部屋にしたでしょ?」
タクト「してねーよ! 俺がそんなやましい感情を持っていると思うか?」
リリシェ「そう言われると…う~ん…」

タクトは女性に全く興味がないような性格で、とてもハーレムを狙うような人間でない事は確かである。

リリナ「そんな事言って、本当は狙ってるんでしょ? は・あ・れ・む」
タクト「だから狙ってねーって! そんなに気になるなら俺は寝るよ!」

そう言ってタクトはベッドに飛び込み、布団をかぶった。まだ時刻は午後5時、夕方である。だが、しばらくするとタクトは起き上がった。

タクト「なあ、リリナ」
リリナ「何?」
タクト「ずっと聞きたかったんだが、ヴェンジェンスの本拠地ってどこにあるんだ?」
リリシェ「あ、それ私も聞きたい!」
ソレイユ「私達、そこを目指して旅してたんだ」
クレセント「ねえ、教えてくれないかしら?」
リリナ「お…落ち着いて、教えてあげるから…」

タクト達が落ち着き、静かになった事を確認すると、リリナは話を始めた。

リリナ「単刀直入に言うわね、ヴェンジェンスの本拠地は、死の山脈デスマウンテンよ」
タクト「なるほど…デスマウンテンだったか…」
リリシェ「あそこは誰も近づかないからね…」

デスマウンテンは別名、死の山脈と言われており、そこでは遥か昔、無実の罪を着せられた大勢の人々が首を刎ねられ殺されたと言う逸話が残っており、そこに立ち入ったが最後、呪いがかかって病死すると言う非常に恐ろしい伝説が残っている魔の山である。その為、一般人はおろか軍人すら恐れて立ち入らない場所なのである。

タクト「ま、ただの伝説だからほんとかどうかは分かんないけどな」
リリナ「現に、私達は生きてるしね」

すると、リリシェが怯えた声でタクトに話しかけた。

リリシェ「ちょっと待って、最終的にそこに行かなきゃダメって事だよね?」
タクト「そう言う事になるな、怖かったら付いて来なくていいぞ」

リリシェはしばらく考えた後、答えを出した。

リリシェ「怖いけど、せっかくここまで来たんだから付いて行ってあげるわ」
タクト「…漏らすなよ?」
リリシェ「馬鹿! そんなに怖がりじゃないっての!!」
タクト「フッ、冗談だよ」
リリシェ「全く、ただの興味本位で付いて来たらまさかデスマウンテンに行くことになるなんてね」

そして、タクトは他の仲間達にも聞いた。

タクト「ソレイユとクレセントはどうするんだ?」
ソレイユ「当然、付いて行くよ」
クレセント「第一、私達の目的はヴェンジェンスを倒す事だもの」
リリナ「私達も最後まで付き合うわ」
タクト「感謝する、じゃ、今日は休むか…」
???「そうはいかないわよ!」

その声の方を向くと、そこにはポディスンの姿があった。ポディスンはベランダの手すりの所に立っており、じっとタクト達の方を見ていた。

タクト「ポディスン…!!」
ポディスン「フロストの仇を取りに来たわよ、決着を付けるから、村の入り口まで来なさい」

そう言ってポディスンはテレポートの呪文で立ち去った。

タクト「ポディスン…決着を付ける時が来たようだな…」
クレセント「そうね…」
リリナ「私達も行こうか?」
タクト「いや、お前達はここで待っていろ」
リリナ「ですよねー」

タクト達が村の入り口に向かうと、そこにはポディスンがいた。

ポディスン「待っていたわよ…あんた達はこれで死ぬ事になる…!!」

ポディスンは紫色のオーラを発生させ、正面に魔方陣を発生させた。そして、その魔方陣からは紫色の巨大な虎が姿を現した。その虎は非常に巨大で、約8mほどの大きさであった。そして、ポディスンはその虎の背中に飛び乗った。

ポディスン「どう? これが私の最終兵器、ポイズンタイガーだよ!!」
リリシェ「ポイズン…タイガー…!」
タクト「…聞いた事がある、毒猫族は皆切り札となる怪物を飼いならしていると…!」
リリシェ「ええ!? じゃあ毒猫族の数だけあんな怪物がいるの!?」
ポディスン「そうだよ~、そしてこれでフロストの仇を取る!」

ポイズンタイガーは巨大な爪でタクト達を攻撃した。タクトとリリシェは後方に跳んで攻撃を回避し、ソレイユとクレセントは飛行して攻撃を回避した。そして、ソレイユはサン・フレイムを、クレセントはルナ・カッターでポイズンタイガーを攻撃したが、ポイズンタイガーにはほぼ攻撃が効いていなかった。

ポディスン「無駄だよ!!」

ポイズンタイガーは口から紫色の液体を吐き出した。ソレイユとクレセントはその液体を回避し、液体は草むらに落ちたが、その液体の落ちた場所に生えていた草は煙を出しながら溶解した。

クレセント「あれは…! 溶解性のある毒…!?」
ポディスン「ポイズンタイガーの武器、溶解毒だよ! これに触れたら、例え鉄でもドロッドロ!」

ポイズンタイガーは素早い動きでタクトとリリシェを襲った。

タクト「そうだ! リリシェ! キュアセイントを使え!!」
リリシェ「そうか! キュアセイントであいつの毒を浄化させれば…!!」

リリシェはポイズンタイガーにキュアセイントを放った。だが、ポイズンタイガーは再び溶解毒を吐いてきた。

リリシェ「嘘…!? 何で…!?」
ポディスン「ポイズンタイガーは、身体の血液の半分が溶解毒で、しかもその辺の毒より遥かに強力なんだ」
タクト「なるほどな、強すぎて多すぎるせいで浄化させようとしても無駄なのか…!!」
ポディスン「例えキュアセイントを100回唱えてもポイズンタイガーは弱らせられないよ」

そして、ポイズンタイガーはタクトとリリシェを右手で殴り飛ばした。

タクト「ぐあぁっ!!」
リリシェ「キャアアッ!!」
クレセント「タクト! リリシェ!」

タクトとリリシェは地面に倒れ込み、苦しんでいた。どうやら、ポイズンタイガーの毒にやられてしまったようだ。

クレセント「ソレイユ! ポイズンタイガーの注意を引き付けておいて!」
ソレイユ「うん! 分かった!!」

そう言ってソレイユはポイズンタイガーの周りを飛び回り、ポイズンタイガーの注意を引き付けた。その間に、クレセントはタクトとリリシェの方に向かった。

クレセント「タクト! リリシェ! しっかりして!!」

毒にやられたタクトはまだ意識があったが、リリシェは毒に苦しみ、今にも死にそうであった。その様子を見たクレセントは、ある決心をした。ソレイユが自身の命を削ってタクト達の窮地を救ったように、自身も命を削り、タクト達を助けるときが来たと。

クレセント「…タクト、今から武装化するから使ってくれる?」
タクト「ああ、勿論だ、あの虎野郎を倒せるなら、使ってやる!」
クレセント「分かったわ、さあ、手を!」

クレセントはタクトの手を強く握った。クレセントは体を眩く光らせ、しばらくして光が収まると、そこには月のような輝きを持った黄金の槍へと姿を変えていた。

クレセント「これが私が武装化した姿、月の槍よ!」
タクト「で、この後はどうすればいいんだ?」
クレセント「私の槍先を、地面に突き立てて!」
タクト「分かった!」

タクトは言われた通り、槍先を地面に突き立てた。すると、そこから黄金のオーラが発生し、辺りを覆った。その黄金のオーラは、タクトとリリシェの体の毒を浄化し、ポイズンタイガーの体内の毒を全て浄化した。体内の毒を全て浄化されたポイズンタイガーは、衰弱し、ふらふらとしていた。

ポディスン「ポイズンタイガー! どうしたの!?」

身体に回った毒が消えたリリシェとタクトは復活し、地面に立つ事ができるようになった。

リリシェ「あれ…? 生きてる…生きてるよ私…」
タクト「俺の体から毒が消えた…これなら行ける…!!」

タクトは地面を走り、ポイズンタイガーの方に向かって行った。

クレセント「ポイズンタイガーの首元を狙って! タクト!!」
タクト「言われなくても…!!」

タクトは月の槍でポイズンタイガーの首筋を貫いた。ポイズンタイガーは口から血を吐き、地面に倒れ込み、息絶えた。ポディスンはポイズンタイガーが倒れた際に体を地面に打ち付けた。

ポディスン「あうっ!!」

そのポディスンに、タクトは近づいて行った。

ポディスン「くっ…!!」

ポディスンはポイズンロッドで応戦するが、月の槍でポイズンロッドをあっさりと破壊されてしまった。

ポディスン「まだだッ! エクスプロー…!」

エクスプロージョンの呪文を唱えようとしたポディスンであったが、月の槍で心臓を貫かれ、口から血を吐いてポディスンは地面に倒れ込んだ。

ポディスン「ごめ…んね…フロス…ト…」

フロストの仇を取れなかったポディスンは力尽き、息絶えた。こうして、フロストに続き、ポディスンも倒された事で、ヴェンジェンスの四天王は2人も戦死者を出したことになった。

クレセントは元の姿に戻り、倒れそうになったが、ソレイユに支えられ、何とか立っていた・

クレセント「ありがとう、ソレイユ」
ソレイユ「私に無茶をしないでって言ったのに、クレセントも無茶しちゃったね」
クレセント「そうね、やっぱり無茶しないで戦うのは無理ね」

すると、タクトがポディスンの亡骸を抱えてクレセントの方に歩いてきた。

タクト「なあ、こいつを弔ってやれないか?」
リリシェ「タクト、敵を弔ってあげるの?」
タクト「ああ、こんな奴でも俺達と同じ命だからな」
クレセント「なら、私とソレイユに任せて」

タクトはポディスンの亡骸をポイズンタイガーの亡骸の近くに置くと、ソレイユとクレセントは協力して浄化魔法を唱えた。浄化魔法の光が、ポディスンとポイズンタイガーの亡骸に照射されると、ポディスンとポイズンタイガーの亡骸は光になっていった。そして、その光は空に昇って行った。

ソレイユ「この魔法は、見ての通り、亡骸を光にする魔法だよ」
クレセント「この魔法で弔われた生物は、来世幸せな人生を送れるって話よ」
タクト「そうか…あいつら、来世こそは平和な世界で幸せな人生を送れるといいな」
リリシェ「そうだね…誰も傷つかない平和な世界が来るといいね」
タクト「その為にも、俺達がヴェンジェンスを倒さければいけない」
クレセント「行きましょう、デスマウンテンへ」
タクト「ああ!」

2人目のヴェンジェンスの四天王を倒したタクト達、平和な世界を手に入れる為、タクト達は決戦の舞台であるデスマウンテンへと向かう事になるのであった。

タクト一派にポディスンが倒された事を察知したクライムは、フロストに続きポディスンまで倒された事に驚きを隠せずにいた。

クライム「…ポディスンまで、逝ったか…」
グラム「そんな…! フロストに続き、ポディスンまで…!」
アオ「ポディスンの切り札、ポイズンタイガーでも駄目なんて…」
クライム「これは一刻も早く手を打たねばならないな…」
グラム「ならば、ここは私とアオにお任せください」
アオ「クライム、私とグラムなら、きっと倒せるよ」
クライム「分かった、ここは2人に任せよう」
グラム「はっ、必ず奴らを始末してきます」

そう言ってグラムとアオはテレポートの呪文でその場を立ち去った。だが、クライムは顎に手を添えて考え事をした。

デクシア「クライム様、どうしました?」
クライム「いや、タクト一派の強さの秘訣は何だろうと思ってね」
アリステラ「実力ならこちらの方が上のはずですよね?」
クライム「そうだな、我々が勝つには、その秘訣を知る必要があるな」

そう言ってクライムは1人、考え事をするのであった。その頃、タクト達はデスマウンテンに向かって歩いていた。シエルプランシュや飛行能力を使っての移動はリリナ達が付いて来れないのでする事ができず、頼みの綱であるリリナ達のテレポートも、本拠地側が決まった人物のみしかテレポートできない仕様にしたらしく、タクト達は仕方なく徒歩で移動しているのである。

リリシェ「ねえ~、デスマウンテンまであとどれくらい?」
リリナ「後…10㎞ぐらいだと思うわ」
リリシェ「じゅ…10㎞!? 疲れる~」
クレセント「大丈夫よ、その為にキャンプ用品を買ってきたんだから」
ソレイユ「野菜や飲み水も沢山あるよ!」

すると、リリナはずっと気になっていた事をタクトに聞いた。

リリナ「ねえタクト、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
タクト「何だ?」
リリナ「タクトの故郷はヴェンジェンスに滅ぼされたのよね?」
タクト「そうだ、その事は今でも許してない」
リリナ「そう…、なら、クライムを倒したら私達も殺すの?」
タクト「安心しろ、お前達はクライムの危険性を教えてくれた恩がある」
リリナ「なら、許してくれるの?」
タクト「勘違いするな、お前達のした事は許してない、殺した者達の分まで必死に生きればの話だ」
リリナ「難しいけど…分かった、やってみるわ」
タクト「フ、それでいい」

その時、目の前にグラムとアオが姿を現した。2人の様子は以前会った時より真剣な表情で、その目からは殺気が漂っていた。

タクト「お前は…グラムとアオか…」
クレセント(2人共以前戦った時はとても苦戦した相手…!)
グラム「単刀直入に言うよ、君達を殺しに来た」
アオ「フロストとポディスンの仇…!」
リリシェ「四天王が2人がかりで来るなんて…!」
タクト「リリナ達は下がってろ! 危険だ!」
リリナ「ええ、分かったわ!」
グラム「さあ…すぐに殺してやるよ…」

グラムは強力な竜巻を起こす呪文、サイクロンを唱えた。それに対し、タクトもサイクロンを唱え、相殺した。続けてアオは一度に複数のアイシクルアローを放つアイシクルアローバーストを放ち、ソレイユを攻撃したが、ソレイユはサン・フレイムを放ち、氷柱を蒸発させた。

グラム「やっぱり、そう簡単には死んでくれないよね」
タクト「俺達はクライムを殺すまでは死ぬわけにはいかないんでな!」

タクトは炎のカッターを放つ呪文、フレイムリッパーを唱えた。だが、グラムはスロトングランスを高速回転させ、フレイムリッパーを防いだ。グラムはそのままストロングランスを振り、真空波を放った。真空波はタクトを襲ったが、タクトは再びフレイムリッパーを唱え、迎撃した。

アオ「やっぱり前より強くなってる…」
グラム「面倒だよね、強くなられちゃ」

アオは水流を飛ばし、相手を斬り裂くウォーターブレードと言う技で攻撃したが、タクト達はその攻撃を回避した。

グラム「どの攻撃も迎撃か回避をする…か…」
タクト「どんなに強い攻撃も当たらなければ無意味と言うものだ」
グラム「なら、確実に当たるような技を使えばいいだけさ」
ソレイユ「えっ!?」

すると、グラムはストロングランスに魔力を纏い、巨大な刃を生成し、それをタクト達の方に向けて飛ばした。

グラム「ストライク・ランス・バースト!!」

その刃はタクト達の近くで大爆発を起こし、タクト達は吹き飛ばされた。

タクト「ぐあぁぁぁッ!!」
リリシェ「キャアアアッ!!」
アオ「続けて行くよ…!!」

アオはスラッシュシックルに風と暗黒の魔力を纏った。すると、アオはスラッシュシックルを3回振り、斬撃を合体させた。

アオ「デス・トライ・ウインド…!!」

その斬撃をタクト達の方に向けて飛ばし、大爆発を発生させた。

ソレイユ「キャアーッ!!」
クレセント「あぁぁッ…!!」

タクト達は地面に倒れ込み、苦しんでいた。

グラム「フロストとポディスンの感じた痛み、思い知ったか」
タクト「何を…! それ以上の人間を苦しめた癖に…!!」
アオ「フロストとポディスンは私達の大切な仲間だった…!!」
リリシェ「あなた達に殺された人達にも、家族や友人がいたのよ…!!」
グラム「堕落に満ちた世界で過ごす人間たちに、何の価値がある」
タクト「くっ! やっぱりお前らは狂ってやがる!!」
グラム「さて…おしゃべりはここまでだ、後は弱った獲物にトドメを刺すだけ…」

そう言いながら、グラムはタクトの方に向かって歩き始めた。

リリシェ(いけない…! タクトが…! 助けなきゃ…! 助けなきゃ!!)

タクトを助ける為、リリシェは死の恐怖に耐え、足を動かした。そして、タクトにトドメを刺せようとしたグラムの槍を宝剣ティスカーで受け止めた。

グラム「何っ…!?」
タクト「リリシェ…! お前じゃ無理だ! 殺されるぞ!!」
リリシェ「そんな事分かってる! 本当は怖い! 戦うのも! 死ぬのも!」
タクト「なら、何で…!!」

すると、リリシェは泣きながら語り出した。

リリシェ「私ね、この旅には興味本位で付いてきたの、そして、この旅でみんなに出会った…でも、怖い事も沢山あった、死にかけた事もあった…」
タクト「リリシェ…」
リリシェ「だから…! 私はみんなに死んでほしくないの…! 役に立てないかもしれないけど、みんなを助けたいの…! その為ならどんなに怖い事でも我慢する…!!」

その時、リリシェの体が眩く輝いた。ソレイユとクレセントは、その輝きに300年前の事を思い出していた。

クレセント「あの輝きは…! 希望の剣士…!?」
タクト「希望の剣士…!?」
ソレイユ「300年前の太陽と月の大戦で戦局を変えるほどの活躍をした剣士の事だよ」
クレセント「その活躍ぶりから人々は戦争を終わらせられるかもしれない希望、つまり、希望の剣士と呼んだわ」
グラム「何でそんな事が分かるんだ!!」
ソレイユ「希望の剣士に共通する事があって、それは気持ちが昂ると体が輝く特性を持っているんだよ」
リリシェ「え…じゃあ、私は希望の剣士の末裔って事…!?」
クレセント「そう言う事になるわね」
グラム「くっ…! 希望の剣士だろうが何だろうが、ヴェンジェンスの邪魔をする者は全員殺す!!」

グラムはリリシェから離れ、ストライク・ランス・バーストを、アオもデス・トライ・ウインドを放ち、リリシェを攻撃した。

リリシェ「ウインドカッター!!」

リリシェは風のカッターで攻撃するウインドカッターを唱え、グラムとアオの技を迎撃した。

グラム「何っ!?」
リリシェ「わ…私がやったの…? 今なら、タクトと同じぐらい戦えるかも…」

すると、クレセントの回復魔法で応急手当を受けたタクトが立ち上がった。

タクト「リリシェ、同時にブレイヴ・ブレードだ」
リリシェ「え…? でも私やり方知らないよ…?」
タクト「簡単な事だ、剣に魔力を纏い、魔力の剣を生成すればいい」
リリシェ「こ…こう…?」

リリシェは見よう見まねで試してみると、すぐに魔力の剣を生成した。案外簡単にできたので、リリシェは驚きを隠せなかった。

タクト「何だ、やればできるじゃないか、なら、同時攻撃行くぞ!」
リリシェ「うん!」
タクト「ダブル…!」
リリシェ「ブレイヴ…!」
タクト&リリシェ「ブレード!!」

2人は同時にブレイヴ・ブレードを放つ大技、ダブル・ブレイヴ・ブレードを放った。グラムとアオは武器で防御態勢を取り、魔力のバリア、魔導障壁で防御したが、ダブル・ブレイヴ・ブレードに魔導障壁を破られ、その衝撃で武器が破損してしまい、グラムとアオも体に傷を負ってしまった。

グラム「くっ…! ここは退くしかないか…!」
アオ「この屈辱、3倍にして返す…!」

そう言いながら、グラムとアオはテレポートの呪文で去って行った。リリシェが希望の剣士に覚醒した事でタクト達の窮地を救い、何とかこの戦いを切り抜けたのである。

そして、リリシェは体力を使い果たし、倒れそうになった。それを、タクトが支え、何とか倒れずに済んだ。

タクト「大丈夫か?」
リリシェ「うん、大丈夫、ちょっと疲れちゃっただけ…」
クレセント「でも驚いたわ、まさかリリシェが希望の剣士だなんて…」

すると、戦闘が終わった事を確認したリリナ達がやって来た。

リリナ「ねえ、希望の剣士ってそんな凄かったの?」
ソレイユ「それはもう凄かったよ、1人で10人は軽く倒してたから」
リリナ「へ~、まるでタクトね」
タクト「俺はまだ希望の剣士になってないぞ、と言うか俺は希望の剣士なのか?」
クレセント「う~ん…まあ、その内覚醒するんじゃないかしら」
タクト「そんないい加減な…」

リリシェ「ねえ、疲れたからちょっと休んで行かない?」
タクト「もうちょっと歩いてからな」
リリシェ「じゃあ、おんぶして」
タクト「…ああ、分かった」

タクトはリリシェをおんぶし、約10分ほど歩いた後、テントを張って休息を取る事になった。

タクト一派に敗れたグラムとアオは、ヴェンジェンスの本部に戻ってきていた。

グラム「くっ…! 駄目だ…! あいつら、強くなってるよ」
デクシア「四天王2人がかりでも駄目でしたか…」
アオ「うん、もう私達じゃ駄目みたい…」
アリステラ「そんな…このままではこのクライムパレスに侵入される…」

だが、クライムは余裕の表情を見せていた。その様子はタクト一派にがクライムパレスに来る事を待ち望んでいるようにも見えた。

クライム「なるほど…私にあそこまで痛めつけられてもまだ立ち向かってくるか…」
アオ「クライム、あいつらに勝てると思う?」
クライム「ああ、勝てるさ、邪神復活に必要な人間の魂はほぼ集まってる」
グラム「それは本当ですか? クライム様」
クライム「ああ、本当さ、邪神さえ復活すればタクト一派はもちろん、この世界の全人類は滅ぶ」
グラム「我々の悲願は達成される、と言う事ですね」
クライム「そう言う事だ」

すると、クライムは玉座から立ち上がり、窓から外を覗いた。クライムパレスはデスマウンテンの内部に作られた城ではあるが、きちんと窓はあった。そして、その窓の外には人々の暮らす村や町があった。

クライム(この世界ももうすぐ終わる…それまでせいぜい暮らすがいい、愚かな人間どもよ)

一方のタクト達はデスマウンテン近くの河原にテントを構え、休んでいた。休んで体力を回復させたリリシェは、リリナ達と共に料理を作っていたが、タクトは一人椅子に座って缶詰を食べていた。その様子を見たリリシェはタクトに話しかけた。

リリシェ「ねえねえ、タクト、何食べてるの?」
タクト「何って…クジラウサギの煮物の缶詰だが?」
リリシェ「缶詰ばかりでよく飽きないね」
タクト「まあな、俺は別に食えたら何でもいいし」

その話を聞いたリリシェは、タクトにある提案をした。

リリシェ「ねえねえ、どうせこの旅も明日で終わるんだしさ、一緒に料理作ってみようよ」
タクト「やだ、めんどい」

だが、リリシェはタクトの腕を取り、強引にキッチンまで引っ張って行った。

タクト「おい…! 俺が作っても黒コゲになるだけだぞ…!」
リリシェ「大丈夫大丈夫! タクトは切るだけでいいから!」

その後、タクトはエプロンを着せられ、包丁を持たされていた。ちなみに、エプロンはリリシェの物であり、フリルの付いたかわいいデザインであったため、それを着たタクトは顔を赤らめていたが、後ろにいたソレイユとクレセント、隣にいたリリナと部下の3人はくすくすと笑っていた。

タクト(リリシェの奴…俺に恥をかかせるつもりか…!!)
リリシェ「一応聞くけどさ、タクトって食材を切った事は…」
タクト「ない、面倒だから全部丸焼きにしてる」
リリシェ「じゃあ、私が教えるからやってみて」

タクトはリリシェに教えられ、ニンジンやタマネギなどの食材を切った。左手を猫の手にして食材を固定し、右手の包丁で切っていた。だが、タクトは普段とは違って冷や汗をかきながら恐る恐る包丁を動かしていた。その様子を見たリリシェはくすくすと笑っていた。

リリシェ「タクトって剣の腕前は凄いけど、こっちは下手なんだね」
タクト「当たり前だろ! 初めてだぞ初めて!」
リリシェ「でも、初めてにしては上手だよ、私なんて初めて使った時は手をザックリ切っちゃったもん」
タクト「そ…そうなのか? なら、俺は上手なんだな」
リリシェ「そうなるね、流石タクト」

その後、タクトが切った食材を鍋に入れ、リリシェが調理を始めた。そして、20分ほどすると出来立てのカレーが完成した。リリシェは全員分のカレーを皿に盛りつけ、テーブルに運んだ。

リリシェ「これで全員分だね! 後、タクトにはミックスジュースを用意してるからね!」
タクト「おっ、気が利くな、ありがとう」

その後、タクト達は食事を始めた。メニューはカレー、野菜サラダ、カットフルーツであり、タクトにはミックスジュースがあった。そして、タクトは早速自分が切った野菜を食べてみた。

タクト「あっ、美味いな」
リリシェ「でしょ? 自分で作ったものは美味しいものだよ」
タクト「…そうなのか? 知らなかったな…」
ソレイユ「タクトってやっぱり炊事洗濯の事は疎いんだね」
クレセント「同じ服を平気で2週間も着続けるものね」
リリナ「…えっ…マジ…?」
クレセント「ええ、本当よ」
ソレイユ「あっ、でも今着てる服は今日変えたばかりだから安心して」

その後、タクト達は料理を食べながら今までの旅の事を思い返していた。4人で旅を始めた事、四天王と戦った事、リリシェの友人と戦った事、温泉に入った事、海に泳ぎに行った事、四天王の作戦で負けそうになった事、クライムに叩きのめされた事、クライムの真の目的を知った事、リリナ達が仲間になった事、四天王を2人倒した事、辛い事や楽しい事など、色んな事があったが、どれも旅の大切な思い出である。そして、この旅ももうすぐ終わろうとしている…。

リリシェ「ねえ、みんなはこの旅が終わったらどうするつもりなの?」
リリナ「私は、どこかでひっそりと暮らすわ」
ターニャ「私達は元ヴェンジェンスだしね~」
ミーナ「ばれたら大変な事になりそうだし…」
ノクト「皆さんがいい所を紹介してくれたら話は別ですが…」

ソレイユ「ねえ、クレセント、私達はまた眠りにつくんだよね?」
クレセント「そうね、人類に脅威が訪れるまではそうなるわね…」
リリシェ「それって悲しいな…どうにかならない?」
クレセント「悪いけど、どうしようもないわね…それが掟みたいなものだし…」
ソレイユ「ごめんね、本当はみんなと一緒にいたいんだけどね…」
リリシェ「そっか~」

タクト「俺は旅に出る、リリシェもそうなんだよな?」
リリシェ「まあ、そうなるわね、私達って元々旅人だし」
リリナ「ねえ、もしかして新婚旅行?」
タクト「ば…馬鹿言うな! 誰がこんな女と…!!」
リリシェ「そうよ! こんな男、こっちから願い下げよ!!」
リリナ「ふ~ん…」

その後、全員が料理を食べ終わった。しばらく全員が静かになったが、沈黙を破ってタクトが話し出した。

タクト「…とりあえず、俺から言えることは一つだ、何があっても、全員で生き残ろう、ただそれだけだ」
リリシェ「そうだね! まだまだやりたい事も沢山あるし」
ソレイユ「みんなの平和を守る為にも、絶対に負けられないしね!」
クレセント「ヴェンジェンスを倒して、みんなが平和に暮らせるなら、私達も嬉しいわ」
リリナ「私達も、できるだけの協力をするからね!」
リリシェ「それじゃ、食器を片付けて休みましょう、明日が決戦だよ!」

そして、タクト達は食器を片付け、寝間着に着替え、テントに入って就寝した。だが、タクトは明日の事を考えるあまり、中々寝付けずにいた。そんな中、外からリリシェが呼ぶ声が聞こえて来た。

リリシェ「ねえ…タクト…起きてる…?」
タクト「リリシェ…?」

タクトとリリシェは河原の大きな石を椅子代わりに座って夜空を眺めていた。2人はしばらく黙って夜空を眺めていたが、しばらくしてリリシェが話始めた。

リリシェ「私ね…本当は明日の事が怖いんだ、だから中々眠れずにいたの、もしかしたら明日死んじゃうかもしれないって思うと怖くって…」

そのリリシェの声は少し震えていた、よほど死ぬのが怖いのであろう。恐らく、今までの戦いも恐怖に耐えながら戦って来たのだろう。タクトは、その事を考えると自分より遥かに強い意志を持っていると感じた。

リリシェ「でもね、ヴェンジェンスを放っておいたら、沢山の人が死んじゃう、もっと悲しむ人が増える、そんなのは嫌だよ…」
タクト「リリシェ…」
リリシェ「だから、私は戦う、もう逃げない、もう怖がらない、ヴェンジェンスを倒して、私は平和な世界で旅を始めるんだから!」

恐怖を押し殺し、この世界に住む人々のために戦おうとする姿勢はやろうとしても誰もがやれる事ではない、それができるリリシェと言う少女は何と強い少女なのだろうかとタクトは感心した。

タクト「フッ、リリシェ、お前やっぱり強いよ、俺より強いかもな」
リリシェ「やだ~、タクトには一生敵わないよ~」

そして、しばらく夜空を眺めた後、タクトとリリシェは立ち上がった。

リリシェ「さあ、もう寝よう、眠くなっちゃった」
タクト「そうだな、俺もゆっくり眠れそうだ」

2人はテントに戻ろうと歩き始めた。リリシェはタクトより早くテントに戻ろうとしたが、途中で立ち止まってタクトの方に振り向いた。そして、リリシェはタクトに向かって微笑んで話しかけた。

リリシェ「…タクト、好きだよ」

これは彼女なりの告白なのだろうか、それとも人として好きと言う事なのだろうか。だが、これはまたからかってるのだろうとタクトは感じた。

タクト「俺の事が好きって…俺はお前みたいな女は嫌だ」
リリシェ「…だ、だよね…ごめんね、もう寝るね、おやすみ~」

そう言い残してリリシェはテントに戻った。

タクト(…何だったんだ? 俺の事が好き…?)

そう考えながらタクトはテントに戻り、就寝した。

そして翌朝、タクト達は最後の戦いへ赴く準備を始めた。昨日の残りのカレーを朝食として食べた後、テントを片付けてデスマウンテンに向かう準備をした。

リリシェ「さ~て! これが最後の戦いになるね!」
タクト「そうだな」

昨日のリリシェの言葉が少し引っかかったが、この様子だとすっかり忘れてそうだとタクトは感じた。

タクト「よし! この戦い、何があっても生き残るぞ!」
タクト一派「おーっ!!」

ヴェンジェンスとの決着を付ける為、タクト達はデスマウンテンへと向かった。この戦いは、人類の運命を決める戦いとなる。平和な世界を作る為、多くの人間の命を救う為、タクト達はヴェンジェンスとの最終決戦を開始するのだった…。

デスマウンテン内部にあるクライムパレスにある玉座の間、クライムは玉座の間の窓から外を覗き、あるものを見ていた。それは、クライムパレスに向かってくるタクト一派であった。

打倒ヴェンジェンスの使命を胸に向かってくるタクト一派に対し、クライムは恐れるどころか戦う事を楽しみにしているように見えた。だが、四天王のグラムはタクト一派を侵入させる訳にはいかず、タクト一派を迎撃する為にクライムに許可を貰っていた。

グラム「クライム様、タクト一派がこのクライムパレスに向かってきます、僕に迎撃の任をお与えください」
クライム「いいだろう、グラム、行ってくるがよい」
グラム「はっ! それと、クライム様の側近2人を僕にお与えください」
クライム「ああ、いいだろう、好きに使え」
グラム「ありがとうございます、では、グラム・ディオースと他2名、行ってまいります」

そう言ってグラムとデクシア、アリステラの3人は玉座の間を去って行った。残されたアオはクライムに対し、ある疑問を投げかけた。

アオ「ねえ、クライム、グラム達は無事に帰って来るよね?」
クライム「さあ、どうだろうな、もしかするとタクト一派は、私じゃなければ相手できないかもしれない…」
アオ「じゃあ、クライムは勝てる?」
クライム「さあ、それもどうだろうな、奴らは強いからな…」
アオ「そんな…」
クライム(タクト一派め、中々やるようだが、私は必ず悲願を達成してみせる…それまでは絶対に死なん…!!)

一方のタクト達は、キャンプ地の河原から移動し、目的地であるデスマウンテンの目の前に到着していた。

タクト「ここが…デスマウンテンか…」
リリシェ「ねえ…もしかして、あの山の中にヴェンジェンスの本拠地があるの…?」
ターニャ「そうよ」
タクト「どうやって山の中に、それも誰にも気づかれずに作ったんだ?」
ミーナ「それはね、クライムが膨大な魔力を使って山の中をくりぬいて、更にその中に城を魔力で建設したの」
リリシェ「そんな事が可能なの?」
ノクト「少なくとも、私達には不可能ね、どうもあの人の力は人知を越えているわ」

すると、クライムパレスの中から3人の人物が現れた、四天王のグラム、そしてクライムの側近であるデクシア、アリステラだ。

タクト「お前らは…! グラム、とその他!!」
デクシア「ちょ…その他って…」
アリステラ「酷すぎるわ、せめてクライム様の側近と言ってよね…」
グラム「やあ、タクト一派、ここでお前達との決着を付けてあげるよ」

そう言ってグラム達3人は怪物化シールを取り出した。

ソレイユ「あれは…! 怪物化シール!!」
クレセント「今更、そんな物を出してどうする気!?」
グラム「このシールはクライム様の人知を超えた魔力を作って生成したシールでね、人間を怪物化させる以外にも、こんな使い道があるんだよ?」

グラム達は右手を重ね、袖を捲った。そして、グラム達は手首に怪物化シールを貼った。すると、3人は見る見るうちに融合を始めた。

リリシェ「な…何…!?」
リリナ「まさか…怪物化シールにあんな能力が隠されていたなんて…!!」

グラム達3人は粘土が変形するように姿を変えていき、だんだんとその姿が見え始めた。そして、グラム達は三つ首の竜へと姿を変えたのであった。

三つ首竜「タクト一派、お前らはこれで終わりだな!!」
タクト「チッ! この化け物め! すぐにその首斬り落としてやる!!」

そう言ってタクト達は攻撃をしようとしたが、三つ首竜はタクト達に向けて炎を吐き、攻撃した。その炎はとてつもない高温であり、タクト達は近寄ろうとしたものの、近寄れずにいた。

リリシェ「熱ちちちちちっ!!」
クレセント「なるほど、三つ首だから攻撃する隙を与えないって訳ね!」

タクト達の今いる場所は周りが岩で囲まれている。回り込んで近寄ろうにも正面には延々と炎を吐く三つ首の竜がいる。攻撃するには空から攻撃するしかない。

タクト「ソレイユ! クレセント! 飛行してあいつの首を斬ってくれ!!」
ソレイユ「うん、分かった!」
クレセント「任せて!!」

ソレイユとクレセントは    空を飛び、三つ首竜に向かって行った。三つ首竜は炎で攻撃したが、ソレイユとクレセントの飛行速度は速く、炎は全て外れ、一気に近距離まで接近された。そして、ソレイユは右の首を、クレセントは左の首を斬り落とした。斬り落としてからもなお息があった為、2人は頭を剣で突き刺し、息の根を止めた。そして、残すは中心の首のみとなった、しかし、様子が変であった。

三つ首竜「フッフッフ…どうやら僕の真の力を見せる時が来たようだね…」

そう言って三つ首竜は姿をどんどん変貌させ始めた。身体はヘビのように長い胴体となり、巨大な翼が生えた。そして、その翼で大空へ向かって飛翔し、タクト達を見下ろした。その姿は、巨大な翼で大空を飛翔する飛竜であった。

リリシェ「何…あれ…」
タクト「あの野郎…まだあんな奥の手を隠してやがったか…」
飛竜「ハハハハハッ! この姿でお前達を粉砕してやる!!」

そう言って飛竜は地上にいるタクト達向けて巨大な火球を吐いた。火球は大爆発を起こし、タクト達を吹き飛ばした。

リリナ「キャアアアッ!!」
タクト「くそっ! あの野郎!!」

タクト達は飛竜を攻撃しようとした、だが、相手は上空にいる、魔法での攻撃もあそこまでは届かない。つまり、飛竜と戦えるのは空を飛べる者だけなのである。

タクト「ソレイユ、クレセント、あいつの相手を頼めるか? 悪いが、俺達にはどうする事も出来ない…」
ソレイユ「大丈夫! まっかせて!!」
クレセント「絶対にあの飛竜を倒して見せるわ!!」

そう言ってソレイユとクレセントが飛竜向けて飛翔した。

飛竜「馬鹿め! 死ねっ!!」

飛竜は再び火球を地上向けて吐いた。だが、ソレイユはその火球を受け止め、跳ね返した。跳ね返された火球は飛竜に命中し、大爆発を起こした。

飛竜「ぐあぁぁぁッ!! おのれぇぇぇッ!!」

すると、飛竜は長い尻尾でソレイユとクレセントを弾き飛ばした。ソレイユとクレセントは岸壁に叩き付けられ、飛竜は追撃にと火球を吐いたが、2人は火球の命中寸前に脱出し、難を逃れた。そして、クレセントはルナ・カッターを飛ばし、飛竜の翼に穴を開けた。翼に穴を開けられた事で、飛竜の上昇高度は少し低下した。

飛竜「貴様ぁぁぁッ!! もう許さんぞッ!!」

飛竜は長い尻尾でソレイユとクレセントを捕まえ、強く締め付けて2人の身体の骨を折り、絞め殺そうとした。

ソレイユ「あぁぁぁぁッ!!」
クレセント「ぐぅぅぅぅッ!!」
飛竜「ハハハハハ! 死ねぇぇぇッ!!」

飛竜は更に強く締め付けた。締め付ける強さを上げていく度、2人は苦しんだ。その時、その尻尾が何者かに斬り落とされた。

飛竜「ぐああぁぁぁッ!!」
ソレイユ「あ、助かった…」
クレセント「でも、誰が…?」

尻尾を斬り落とした人物は、タクトであった。タクトはシエルプランシュに乗り、ここまで上昇して飛竜の尻尾を斬り落としたのである。本来、シエルプランシュは高い場所までは上昇できないが、クレセントが飛竜の翼に穴を開けた事で、シエルプランシュが上昇可能な高度まで飛竜が降りてきたのである。

タクト「これで…借りは返したぞ」
飛竜「おのれ! タクトォォォッ!!」
クレセント「ソレイユ! あれで一気に決めるわよ!!」
ソレイユ「うん! 分かった!!」

ソレイユとクレセントは自身の頭より少し上の辺りで、手と手を合わせ、そこに太陽と月の光を集めた。そして、光が十分に集めると、その光を飛竜に向けて放った。

ソレイユ&クレセント「行っけぇぇぇ!! サン・ムーン・クラッシュ!!」

ソレイユとクレセントは力を合わせ、サン・ムーン・クラッシュを放った。この技は太陽と月の光のエネルギーを攻撃に転用させた技であり、かつて邪神を時空の彼方へと封印したサン・ムーン・エンドの派生技でもある。太陽と月の光は、飛竜の体の中に吸収されて行き、そのまま飛竜の身体を焼き尽くし始めた。

飛竜「お…おのれ…!! クライム様ぁぁぁぁぁッ!!!」

太陽と月の光に体を焼き尽くされた飛竜は大爆発を起こし、砕け散った。

リリシェ「やったぁ!!」
タクト「ふぅ…これにて一件落着、だな」

ソレイユとクレセント、タクトの3人は地上に降り、この戦いで受けた傷を治癒魔法で治療した。その後、準備を整え、クライムパレスに向かう事になった。

タクト(待ってろよクライム…決着を付けてやるからな!)

一方のクライムパレス玉座の間では、グラム達が倒された事が伝わっていた。

クライム「グラム達も逝ったか…」
アオ「そんな…! もうタクト一派を止める事は出来ないの!?」
クライム「大丈夫だ、アオ、後は私が何とかして見せる…」
アオ「クライム…」
クライム(フフフ…どうやらタクト一派を止められるのは私だけらしいな…来るがいい…恐怖を見せてやる…)

ヴェンジェンスの本拠地であるクライムパレスに侵入したタクト達は、リリナ達の案内の下、クライムのいる玉座の間へと向かった。クライムパレス内は普通の王城のように美しい装飾などで飾られており、とても世界全体を恐怖に陥れる組織の本拠地とは思えなかった。これらは恐らく、総帥であるクライムの趣味なのだろう。道中、兵士たちが襲撃したものの、今のタクト達の敵ではなく、蹴散らして進んだ。そして、遂にクライムのいる玉座の間へと到着したのである。

クライム「やあ、待ってたよ、タクト一派の諸君」

玉座の間にはクライムとアオの2人がおり、クライムに関してはタクト達が来ることを心待ちにしているようであった。以前戦った時と同様、相変わらず余裕の表情であり、あたかも自分が勝利するかのような自身の表情に、タクトは怒りを覚えた。

タクト「クライム、今回は俺達が勝つ、その時こそ、ヴェンジェンスは壊滅する!」
クライム「それが君達にできれば、だけどね」

そう言ってクライムは別空間からダークネスブレードを取り出した。それを見たタクト達は、武器を構え、戦闘態勢を取った。

タクト「戦う前に聞いておく、何故、この世界を滅ぼそうとする? 何故、今ある平和で満足できない?」

タクトのその問いに、クライムは鼻で笑い、理由を話し始めた。

クライム「簡単さ、人間は戦う事を忘れられないからさ」
リリシェ「戦う事を…忘れられない?」
クライム「人間と言うものは愚かな生き物さ、憎み合い、争い合い、差別し合う、例え今が平和でも、きっとまた争い始める…」
タクト「だから…邪神の力で今いる人間を根絶やしにして、お前と邪神が支配する新人類の世界を作ろうってのか!?」
クライム「そう言う事、そうでもしないと人間は戦いをやめないだろ?」
タクト「そんな事、馬鹿げてる!! お前の考えは狂っている!!」
クライム「何とでも言いたまえ、私はこの考えを変えないつもりでいる」
アオ「クライム、手伝おうか?」
クライム「いや、大丈夫だ、アオはそこで見ていればいい」
タクト「本当に余裕だな、それが命取りになる事を覚えておけ」

そう言ってタクトはクライムに攻撃を仕掛けた。だが、クライムは攻撃をダークネスブレードで軽く受け止めた。

クライム「甘いな」

クライムはそのまま押し返し、タクトを吹き飛ばした後、真空波を飛ばしてタクト達を攻撃した。その真空波をクレセントはルナ・カッターで迎撃し、直後にソレイユはサン・フレイムで攻撃を仕掛けた。だが、その攻撃は届かず、魔導障壁で防がれてしまった。

ソレイユ「防がれちゃったか~」
クライム「そう簡単に私を倒せると思ったら、大間違いだ」

タクト以外の3人は、それぞれアイシクルアロー、サン・フレイム、ルナ・カッターを放って攻撃した。だが、クライムは一瞬で数個の真空波を飛ばし、全ての攻撃を迎撃し、無力化したのである。

リリシェ「そんな…!」
クレセント「彼は全ての攻撃を魔導障壁と真空波で対応してる…」
タクト「なら、近づいて攻撃するしかないか…!」
リリナ「どうする? 私達も手伝おうか?」
タクト「いや、大丈夫だ、俺達に任せろ」

タクトは、聖剣エスペリアに魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。そして、そのままクライムに攻撃を仕掛けた。

タクト「食らえっ! ブレイヴ・ブレード!!」

だが、クライムは魔導障壁でブレイヴ・ブレードを防御した。

タクト「何っ!?」
クライム「フフフ…残念だったね…」

そして、クライムはそのまま剣でタクトを攻撃した。タクトは防御態勢を取ったが、あまりの斬撃の威力に吹き飛ばされた。

タクト「くっ…! まさかブレイヴ・ブレードが防がれるとは…!!」

ブレイヴ・ブレードは今まで様々な敵を倒した決め技であった。その技を、クライムはいとも簡単に無力化したのである。

タクト「流石ヴェンジェンスの総帥、異常なぐらい強いな…」
リリシェ「ちょ…感心してる場合!?」

その時、クライムは巨大な闇の剣を生成した。そして、そのまま闇の剣をタクト達に向けて振った。

クライム「ダークネス・クライム!!」

タクト達はすぐさま防御態勢を取ったが、リリナ達4人以外の全員が薙ぎ払われてしまい、タクト達は地面に倒れ込んだ。

タクト「くっ…! 強い…!!」

すると、倒れ込んでいるタクト達に向かってクライムが歩いてきた。そして、クライムはタクトを蹴り飛ばした。

クライム「無様だね、タクト一派の諸君」

クライムは続けてソレイユを蹴り飛ばし、更に続けてクレセントも蹴り飛ばした。動けないタクト達をいたぶって楽しんでいるクライムに対し、リリシェは怒りを覚えた。

リリシェ「私の仲間に…手を出すなぁぁぁッ!!」

仲間を守りたいと言うリリシェの想いは爆発し、辺りに黄金のオーラが発生した。そのオーラはタクト達に力を与え、タクト達は立ち上がった。

クライム「何っ!?」

立ち上がったタクトはクライムを殴り飛ばした。

タクト「リリシェ、助かったよ、お前のおかげでまた力が湧いてきた」
リリシェ「そんな…私はただ、みんなを守りたいって思っただけ…」
ソレイユ「それがリリシェに力を与えたんだよ」
クレセント「これも希望の剣士の力の一つなのよ」

タクト達4人は再び剣を取り、クライムと対峙した。

クライム「フフフ…面白くなってきたじゃないか…」

その時、タクトはある事を思いついた。今なら、単独でハイパー・ブレイヴ・ブレードを使えると思ったのだ。そして、タクトは試しに聖剣エスペリアに魔力の剣を生成してみた。すると、超巨大な魔力の剣が生成できたのである。

タクト「行けた…! リリシェ! お前もやってみろ!」

リリシェも騙されたと思って宝剣ティスカーに魔力の剣を生成した。すると、リリシェも超巨大な魔力の剣が生成できたのである。

リリシェ「行けた…! 行けたよ!!」
タクト「よし! 同時攻撃だ!!」
リリシェ「うん!」

タクトとリリシェは高く跳びあがり、同時にクライムを攻撃した。

タクト&リリシェ「ダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!」
クライム「くっ…! 魔導障壁、全開ッ!!」

クライムは魔導障壁の防御力を最大まで上げ、ダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレードを防御した。流石に魔導障壁をかなり削ったものの、この攻撃ですら魔導障壁を破壊する事は出来なかった。

タクト「何ッ!?」
リリシェ「そんな…! この攻撃でも駄目なの…!?」
クライム「フ…フフフ…惜しかったね…」

クライムは中級闇魔法のファントムショットを唱えて攻撃した。悪霊の力を借りた闇の弾丸が複数放たれ、タクト達に命中した。更に、クライムは続けて剣を振ってダークネスショットを放った。ダークネスショットは闇の真空波であり、その攻撃は大爆発を起こした。

タクト「ぐあぁぁぁッ!!」
リリシェ「うぅ…もう…ダメなの…!?」
タクト「諦めるな! 何か勝機はあるはずだ!!」

その時、タクトは考えた、どんな攻撃も防ぐ魔導障壁を突破するにはどうすればいいかを。自身の得意技であるブレイヴ・ブレードを防ぐあの魔導障壁、渾身のダブル・ハイパー・ブレイヴ・ブレードも防がれた。なら、一体どうすればいいのか?

その時、タクトは一か八かの賭けをする事にした。今までの攻撃が通用しなかったのは、攻撃の面積が広かったから、ならば、斬るのではなく、突けばいいのではないか? タクトは最後の希望であるこの戦法に全てを賭けた。

タクト「みんな! 俺に力を分けてくれ!!」
リリナ「力って…どうすればいいの?」
タクト「俺に手をかざして、魔力を分けてくれればいい!!」

その時、タクト以外の全員は思った。タクトは必ず、勝利の為の秘策が思いついていると。そして、タクト以外の全員はタクトに手をかざし、魔力を与えた。

タクト「行ける…! これなら…!!」

タクトは聖剣エスペリアに超巨大な魔力の剣を生成した。

クライム「やれやれ…さっきと同じじゃないか…」
タクト「いや、同じじゃないな、これはみんなの思いがこもってる、さしずめ、ネオ・ハイパー・ブレイヴ・ブレードと言った所か?」
クライム「ネオが付いただけじゃないか、そんな攻撃、また防いでやるさ」

タクトはクライムに向かって行った。一方のクライムは、既に魔導障壁を全開にして防御態勢を取っていた。

タクト(リリシェ、ソレイユ、クレセント、リリナ、ターニャ、ミーナ、ノクト、お前らの思い、受け取った!!)

タクトはネオ・ハイパー・ブレイヴ・ブレードでクライムを突いた。その攻撃は、魔導障壁をいとも簡単に破壊し、クライムの身体を貫いた。

クライム「がはッ…!!」
タクト「はは…なるほど…最初からこの方法をやってれば、簡単に勝てたのか…」

そう言ってタクトはクライムから剣を引き抜いた。クライムは地面に倒れ込み、身体と口から血を流した。

アオ「クライムッ…!!」

クライム「くっ…私も…ここまでか…これは…油断した…私が…悪いな…」
タクト「クライム、お前が死んだ事でヴェンジェンスも終わりだな」
クライム「そうだな…だが…既に邪神は復活した…どのみち…私の勝ち…だ…」

そう言って、クライムは力尽き、息絶えた。

リリシェ「邪神が復活? そんな事あるわけ…」

その時、どこからともなく光線が放たれ、リリシェの胸を貫いた。

タクト「リリシェ!!」

リリシェは胸に風穴が開き、地面に倒れ込んだ。

タクト「リリシェ! しっかりしろ! おい!!」

しかし、既にリリシェは息絶えていた、どうやら、即死だったようだ。

タクト「…死んでる…一体誰が…」
クレセント「タクト…あれ…」

クレセントが指差した先には、紫色のオーラに包まれた人の様な何かがいた。その姿は、人間に似た姿をしていたが、肌の色は薄紫と、腰辺りまである長い墓石の色をした髪は不気味さを感じさせた。頭には2本の角が生え、背中には大きな翼、腰からは悪魔の様な尻尾が生えていた。そして、その顔はよく見るとアオに似ていた。

リリナ「まさか…! あの子、アオ…!?」
ソレイユ「嘘…まさかあのアオって子が邪神だったなんて…!!」
タクト「そんな事は関係ない!!」

タクトのその叫び声に、他の仲間達は驚いた。普段なら絶対に涙を流さないタクトが、涙を流し、剣を握った手は怒りで震えていた。そして、その視線の先には、邪神となったアオがいた。

タクト「あいつは…! あいつはリリシェを殺した!! あいつだけは…! あいつだけは絶対にぶっ殺す!!!」

ヴェンジェンスの総統であるクライムを倒したも束の間、300年前にソレイユとクレセントによって封印された邪神が復活した。四天王のアオの正体こそが邪神であり、邪神復活の為の生贄が十分な事もあったが、何より大切な存在であるクライムが目の前で奪われた事もあり、彼女は邪神としてこの世に降臨してしまったのである。まず手始めに彼女はリリシェを殺害し、その強さを見せつけた。そして今、タクト一派と邪神の世界の運命を賭けた戦いが始まる…。

タクト「邪神か何か知らないが、リリシェを殺したお前は絶対に許さん!!」

大切な仲間であるリリシェを殺されたタクトは涙を流しながら邪神を攻撃した。だが、邪神は左掌から衝撃波を放ち、タクトを吹き飛ばした。

邪神「今、何かしたか?」
タクト「くっ…! 何て力だ…!!」
邪神「我が名は邪神アンブラ…、我の大切な存在であるクライムを殺した貴様らを、生かしてはおけん…」

アンブラは別空間から魔剣デモンズソードを取り出し、タクト達に剣を向けた。

アンブラ「もはやクライムのいないこの世界に価値などない、クライムの願いである新人類帝国を作る為、この世界の人類を根絶やしにしてくれる…」
タクト「そんな事…させるか…!!」
クレセント「タクト!!」

タクトは1人、邪神アンブラの方に向かって行ったが、アンブラはデモンズソードを軽く振り、突風を巻き起こしてタクトを吹き飛ばした。それを見たクレセントは、ある事に気づいた。300年前に比べ、邪神アンブラの戦闘力は明らかに低いのだ。かつてのアンブラは剣を振っただけで人間がミンチになるほどの竜巻を起こしていた。恐らく、復活したばかりでまだ力が不完全なのだろう。クレセントは、倒すなら今しかないと悟った。

クレセント「ソレイユ! 私達であいつを倒しましょう!」
ソレイユ「うん!」

ソレイユとクレセントはサン・フレイムとルナ・カッターを放った。だが、アンブラは剣を振って風を起こし、攻撃をかき消したのだ。

アンブラ「太陽と月の剣士か…忌々しい…」

アンブラは左手の人差し指から稲妻を放った。ソレイユとクレセントはその攻撃を回避したが、稲妻は大爆発を起こし、ソレイユとクレセントは爆風に巻き込まれた。

ソレイユ「うわあぁっ!!」
クレセント「キャアアアッ!!」

2人は大きなダメージを負い、地面に倒れ込んだ。

リリナ(そんな…いくらクライムとの戦いの後だからって…こうも一方的に…)
アンブラ「何と貧弱な…この程度の人間しかいないなら、3日もあれば世界中の人間を根絶やしにできるな…」
タクト「そんな事…させるかよ…!!」

タクトは剣を取り、アンブラに向かって行こうとした。だが、クレセントはタクトの服を掴み、それを制止した。

タクト「放せ! クレセント!!」
クレセント「駄目よ、今のあなたじゃ、死にに行くようなものだわ!」
タクト「いいから放せ! あいつは…! リリシェを殺したんだぞ!!」

すると、クレセントは突然タクトの目の前に行き、タクトに平手打ちをした。クレセントの意外な行動に、タクトは黙り込んだ。そして、クレセントは冷静な表情でタクトに話しかけた。

クレセント「リリシェは…敵討ちなんて望んでないと思うわ、あの子は、誰よりも世界の平和を望んでいた…」
ソレイユ「リリシェは、本当は怖くてたまらないのに、誰も傷つかない世界を作る為に戦っていたんだよ」

その言葉を聞いて、タクトは決戦前夜の事を思い出した。リリシェは戦いや死を恐れながらも、ヴェンジェンスのせいで人が死ぬ事が嫌だから戦うと言った。そして、平和になった世界で平和な旅をしたいと言う夢があった。確かに、そんな彼女が敵討ちなどを望んでいないのは確かだ。その事を思い出したタクトは、知らず知らずのうちに涙が溢れていた。

タクト「俺は馬鹿だ…! 俺はただ、憎しみや恨みの感情で戦っていた…!!」

涙を流すタクトに、クレセントはある事を伝えた。

クレセント「タクト、あなたの聖剣エスペリアは、300年前の希望の剣士、レイト・レイノスの使っていた剣よ」
タクト「レイノス…? じゃあ、俺は…」
クレセント「ええ、あなたは希望の剣士の子孫なの」
ソレイユ「レイトはかつて私達が心を通わせた人物でもあるんだよ」
クレセント(そして私の愛した人でもある…こんな事絶対に言えないけどね…)
ソレイユ「そして、リリシェの宝剣ティスカーも300年前の希望の剣士かつ、レイトの戦友だった女性、レノア・ルーンの使っていた剣なんだ」
タクト「だから、リリシェは希望の剣士としての力を使えたのか…」
クレセント「タクト、リリシェの願いを思い出したあなたなら、きっと希望の剣士として覚醒できるはずよ」
ソレイユ「だからタクト、あいつを倒してリリシェの願いである平和な世界を作ろう!」

その時、タクト達の話をさっきまで聞いていたアンブラが笑い始めた。しばらくすると、アンブラは恨みのこもった表情でタクト達に語り掛けた。

アンブラ「願い? 平和? そんなものくだらないものの為にクライムを殺したのか!」

すると、さっきまで黙っていたタクトが話し始めた。

タクト「お前がクライムを奪われた痛みは分かる、だがな、俺も大切な存在であるリリシェをお前に殺されたんだ」
アンブラ「なら何だ? 敵討ちの為に我を殺す気か?」
タクト「違うな、俺はリリシェの最後の願いである平和な世界の為に、お前を倒す!!」

その時、タクトの体から黄金のオーラが放たれた。そのオーラはリリシェの物より激しく、強力であった。

アンブラ「な…何だこれは…!?」
クレセント「タクトが、希望の剣士として覚醒したんだわ!」
ソレイユ「タクトもなれたんだね、リリシェと同じ、希望の剣士に!」

タクトは今まで滅ぼされた故郷の復讐の為、ヴェンジェンスと戦っていた。だが、今は恨みや復讐の感情を捨て、世界の平和の為に戦っている。その想いが、タクトを希望の剣士として覚醒させたのである。

タクト「邪神アンブラ…もうこんな戦いは終わりにするぞ!」

ソレイユとクレセントは、タクトの聖剣エスペリアに触れた。すると、2人は聖剣エスペリアと合体し、聖剣エスペリアは黄金の神々しい剣へと変化した。

タクト「何だこれは?」
ソレイユ「私の真の力を解放した、人間のセンスで言うなら、神剣エスペリアって感じかな?」
クレセント「この状態なら、シエルプランシュは自由自在に飛行できるはずよ」
タクト「よし! 分かった!」

タクトは別空間からシエルプランシュを取り出し、その上に乗った。そして、シエルプランシュを急発進させ、アンブラに突撃した。タクトとアンブラは玉座の間を突き破って外に出た。

アンブラ「おのれ…! あくまでも我の野望の邪魔をするか!!」
タクト「残念だが、滅ぼされるなんて事は絶対に嫌だからな!!」

タクトはエクスプロージョンの呪文を唱え、攻撃した。エクスプロージョンはアンブラに命中し、大爆発を起こした。太陽と月の剣士の力を借りている為、いつもより魔法の威力は上がっており、エクスプロージョンをモロに食らったアンブラはかなりのダメージを受けた。そして、タクトは続けてウインドリッパーの呪文を唱えた。強力な真空波が放たれ、アンブラに向かって行ったが、アンブラはデモンズソードでウインドリッパーを斬り払った。

アンブラ「クライムは、300年前に次元の彼方に封印され、力と記憶を失った我に優しく接してくれた! それをお前達は…!!」
タクト「そうか…お前にとってクライムは大切な存在だったんだな、だが、俺達だって、黙ってやられるわけにはいかないんだ!!」
アンブラ「クライムを…返せぇぇぇッ!!」

アンブラは左掌から暗黒火球を連続で放ってタクトを攻撃した。タクトはシエルプランシュのスピードを上げ、全て回避した。

タクトは戦いながらずっと考えている事があった。何故、リリシェが死んだときに涙を流したのか、何故、リリシェの為にここまで戦えるのか、しばらく考えた末、一つの答えを出した。自分はリリシェの事が異性として好きだったんだと。そして、タクトはリリシェの想いに応えなかった事を後悔した。

アンブラ「くっ…! この世界ごと消滅させてやる!!」

アンブラはデモンズソードに暗黒の魔力を纏った。恐らく、あの攻撃が放たれたらこの世界に大きな被害が出る。タクトは神剣エスペリアに光の魔力を纏い、光の剣を生成した。そして、シエルプランシュを急発進させた。

タクト「これで終わりだ…! セイント・ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは神剣エスペリアを振り、アンブラを斬り裂いた。タクトの渾身の一撃はアンブラの体を横に両断した。

アンブラ「これで…やっと…クライムの…所に…」

アンブラは落下しながら消滅した。こうして、タクト一派とヴェンジェンスの戦いは終わりを告げたのである。

タクト「…終わったな…」
ソレイユ「うん」
クレセント「これで、私達の戦いは終わったのね…」

タクトは再び玉座の間に戻り、2人との合体を解除した。そして、シエルプランシュをしまうと、リリシェの亡骸の下へ向かった。

タクト「終わったぞ、リリシェ、これで平和な世界が来る…」

邪神アンブラを倒した事で全ての戦いを終えたタクト達、だが、大切な仲間であるリリシェは命を落としてしまった。タクト達はリリシェの亡骸の下へ向かい、深く悲しんだ。その中でも人一倍悲しんでいるのはタクトであった。タクトは邪神アンブラとの戦いの中で、リリシェの事が好きだと言う事に気づいたのだ。

タクト「リリシェ…全ての戦いは終わったぞ…だから…安心して休め…」

心の底からこみ上げてくる悲しみの感情を何とか抑えていたタクトだったが、大切な者を失ってから気付いたその気持ちを抑える事ができず、遂にタクトは生まれて初めて心の底から泣いた。その悲痛な泣き声は玉座の間全体に響き渡り、周りにいた仲間達もタクト達と同じぐらい悲しんだ。

その時、ソレイユとクレセントはある事を考えていた。自分達は世界に脅威が訪れた時に目覚める存在、つまり、人間を守護し、守り抜く存在、ならば、死んだ人間を救う事ができるのではないかと。ソレイユとクレセントは自分達の力に賭ける事にした。

クレセント「ねえ、タクト、もしリリシェを生き返らせる事ができたらどうする?」
タクト「…そりゃ生き返らせるよ、でも、そんな事できるはずがない!」
ソレイユ「分かった、なら、私達ができるかどうかやってみる」
タクト「…えっ?」

ソレイユとクレセントはリリシェの亡骸に手をかざした。そして、自身の太陽と月の光をリリシェの亡骸に照射した。

タクト「お前達…何を…?」
ソレイユ「私達2人の生命を、リリシェに与えてるの、世界を救ってくれた恩返しだよ」
タクト「お前達の生命を…? やめろ! そんな事したら、お前達が…!!」
クレセント「大丈夫、人間を助ける事が私達の役目、それに、私達は3年もしたら再び復活するから」
タクト「ソレイユ…クレセント…」

ソレイユとクレセントがエネルギーを与え続けると、亡骸の傷口が塞がり、やがて傷口は完全に修復した。更にエネルギーを与えると、リリシェの胸が光り輝いた。この光は、リリシェが完全に蘇生した証である。そして、力を使い果たしたソレイユとクレセントは、地面に倒れ込んだ。

タクト「ソレイユ! クレセント!」
クレセント「あ~あ…疲れちゃった…でもこれで安心して役目を終える事ができるわ…」
ソレイユ「タクト…平和になった世界でリリシェと仲良くね…約束だよ…」

そう言い残し、ソレイユとクレセントは、光になって消滅した。太陽と月の光から生まれた彼女たちは、再び光となって宇宙に還って行ったのである。

タクト「ソレイユ…クレセント…ありがとう…」

そして、しばらくするとリリシェは目を覚ました。彼女は自分がいない間に何が起こったのか分からない為、辺りをキョロキョロと見回していた。

タクト「リリシェ!!」
リリシェ「あ、タクト…それにリリナさん達…あれ? ソレイユとクレセントは?」
タクト「あいつらは、世界が平和になったから空へ帰ったよ」
リリシェ「な~んだ、帰るんだったら私にも一言言ってくれればよかったのに…」
タクト「仕方ないさ、お前はずっと眠ってたんだから」
リリシェ「ちょっと待って、世界が平和になったって事は、戦いは終わったの?」
タクト「ああ、全て終わった、お前の望んだ平和だよ」
リリシェ「そっか…よかった…でもさ、タクトは何でさっきから泣いてるの?」

リリシェの言った通り、タクトはずっと涙を流していた。それはリリシェが生き返って嬉しいと言う嬉し涙、そして、ソレイユとクレセントがいなくなって悲しいと言う涙、その両方を意味する涙である。

タクト「さあ、何でだろうな、ずっとさっきから我慢してるのに…何だよこれ…」

そして、タクトはリリシェを抱き、再び心の底から泣いた。

リリシェ「うわっ! タクト…」
タクト「俺…やっと気づいたんだ…俺は、リリシェの事が好きなんだって事が…」
リリシェ「…やっと、気づいてくれたんだね…この鈍感男…」
タクト「ごめんな…リリシェ…」
リリシェ「…いいんだよ、タクト…これからよろしくね…」

タクトとリリシェはリリナ達が周りにいるのにも関わらず、それを気にせず口づけをした。その様子を見ていたリリナ達は顔を赤らめ、邪魔をしないようにその場を立ち去った。

タクト「…さあ、帰ろう、リリシェ、平和になった世界で、旅をする約束したもんな」
リリシェ「…うん、約束、したもんね、平和になった世界で、これから一緒に旅をしよう」

タクトとリリシェは2人仲良く手を繋いで玉座の間を後にした。こうして、タクト達の活躍により、ヴェンジェンスと言う組織は壊滅した。だが、一体誰がヴェンジェンスを壊滅させたのかは、一般には浸透しなかった。ただ、ごく一部でのみ、ヴェンジェンスと戦う少年少女の存在が伝わるのみであった。総統を失ったヴェンジェンスは崩壊し、残党は次々と姿を消した。一部はまだ抵抗していたが、軍によってほぼ壊滅し、事実上ヴェンジェンスは消滅した。その後、世界には平和が訪れ、人々は平和を噛みしめていた。

そして、クライムパレスでの決戦から1ヵ月の時が流れた。タクトとリリシェはあの後すぐに旅を始め、各地を旅していた。リリナ達はあの後タクト達とは別行動を取り、その後は会っていない。そして今、タクトとリリシェは河原にキャンプを構え、ゆっくりと休んでいた。そこでは、食事を作るリリシェの近くでタクトがゆったりとくつろいでいた。

リリシェ「ちょっとタクトー、たまには料理当番やってよー」
タクト「え? 俺が作ると暗黒物質ができるぞ?」
リリシェ「私が教えるから、たまにはやってよー」
タクト「分かった分かった、今度な」
リリシェ「もう! 付き合ってるんだからもうちょっと手伝ってくれてもいいのに…」

するとそこに、見慣れた人物がやって来た、リリナ達だ。

リリナ「おーい、お二人さーん、仲良くやってるかーい?」
タクト「リリナ! それに、ターニャ、ミーナ、ノクト!」
ターニャ「久しぶりですね」
ミーナ「おっす! 元気してた?」
ノクト「相変わらず、リリシェさんは苦労しているようで」
リリシェ「だって、タクトったら全然手伝ってくれないんだもん!」
リリナ「え~? それはいけないな~、タクト、手伝ってあげなよ?」
タクト「分かったよ! 皆まで言うな!」

その後、タクトは疑問に思っている事を聞いた。リリナ達が今、どこで何をしているかである。

タクト「そう言えば、お前達は何してるんだ?」
リリナ「あ~、罪滅ぼしの旅…かな…?」
リリシェ「罪滅ぼしの旅…?」
リリナ「私達って、あなた達と一緒に戦ったけど、結局はヴェンジェンスで人殺ししている訳じゃん…」
タクト「その罪滅ぼしか?」
リリナ「そう…変かな…?」
タクト「結局お前らも俺達と一緒で旅してんのかよ!」
リリシェ「私達と一緒に来ればいいのに!」
リリナ「いやいや! お二人さんのラブラブ新婚生活を邪魔しちゃ悪いし…!!」
タクト「は…? 俺達まだ未成年なんだが…?」
リリナ「あ…そう言えばそうだったね…」
リリシェ「もう! しっかりしてよ!」
リリナ「ごめんごめん! じゃ、私達はこの辺で失敬するよ、またね!」

そう言ってリリナ達は去って行った。

その後、タクト達はリリシェの作った食事を食べていた。今回のメニューはクジラウサギのシチューと、パインサラダ、アップルパイであった。もちろん、タクトにはミックスジュースが付いている。タクトは食事をしながら、リリシェにある事を伝えた。

タクト「なあ、リリシェ、これ食い終わったら行きたい場所あるけど、いいか?」
リリシェ「うん、私はタクトの行きたい場所ならどこでもいいよ」
タクト「分かった」

タクト達は食事を終えた後、キッチンやテントを片付け、シエルプランシュに乗って移動を開始した。タクトの向かっている方角は、ヴェンジェンス討伐の旅では向かわなかった方角である。リリシェはどこに連れて行かれるのか気になっていたが、あえて聞かず、タクトとの旅を楽しんでいた。そして、タクト達は到着した場所は、人気のない滅んだ村であった。

リリシェ「…ここは?」
タクト「俺の故郷、カプリス村だ、俺が旅を始めるきっかけになった場所だな」

カプリス村は半年前、ヴェンジェンスが一番最初に滅ぼした村であり、タクトの故郷であった。タクトはたまたま旅に出ていた為、命を落とさずに済んだが、これがきっかけでタクトはヴェンジェンスへの復讐の旅に出たのである。そして、その旅でリリシェやソレイユ、クレセント、そして大勢の人々に出会ったのだ。カプリス村はこの旅の始まりの場所なのである。

タクト「ここは半年前と変わらず焼けたままなんだな…」
リリシェ「世界は平和になったけど、まだまだこんな感じの場所も多いんだよね…」

すると、焼けた家の奥から人の気配がした。

タクト「誰だ!?」

そこにいたのは、約十名の男女であった。その人たちの手には建築用の道具などがあった。すると、その人物たちのリーダー的存在と思われる男性が話しかけてきた。

男性「…君達は…?」
タクト「俺は、この村の元住民だ」
リリシェ「私はこの人の付き添いです」
男性「何と…! この村には生存者がいたのか…!」
タクト「まあ、多分俺一人だけ、しかも半年ほど離れていたがな」

すると、その男性はタクト達にある提案をした。

男性「実は僕達、この村を再興する為に近くの町からやって来たんだ、君達さえよければ、手伝ってくれないかい?」

その言葉に、タクト達はしばらく考えた。自分達は今、リリシェと約束した旅の途中、だが、タクトの故郷の再興の手伝いもしたい、2人はしばらく話し合った後、答えを出した。

タクト「分かった、その手伝い、引き受ける」
男性「本当かい!?」
リリシェ「大丈夫ですよ、旅はこれが終わってからいくらでも行けますし」
タクト「今、この世界は平和だ、いつでもチャンスはあるさ」
男性「ありがとう! じゃ、早速だけど、建築資材を買って来てくれないか?」
タクト「分かった! 大量に買ってくるから待っててくれ」

そう言ってタクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、移動を始めた。

リリシェ「ねえ、タクト、あのお手伝いが終わる頃には、私達はきっと大人になってるよね?」
タクト「多分な」
リリシェ「なら、私達の結婚式、あそこで上げたいな」
タクト「分かった、必ずあの村にしておくよ」
リリシェ「ありがとう、タクト、好き」
タクト「俺も好きだ、リリシェ」

こうして、タクト達の戦いの旅は終わった。彼らはこれから平和になったこの世界で、人生と言う長い旅を続けるのだ。それがどんなに大変で長い道でも、隣には頼りになるパートナーがいる。そして、この長い旅は、次の世代へ、更に次の世代へと受け継がれてゆく。人間は皆、旅をする旅人なのだ。