クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

太陽と月と希望の剣士たち 前編「太陽と月の章」

物語は半年前から始まる…。突如、世界に現れたヴェンジェンスと言う組織、この組織は堕落に満ちた世界を変えると言う名目で活動を開始した。そして、手始めに平和な農村カプリス村を攻撃し、滅ぼしたのだ。ヴェンジェンスの圧倒的戦力であっという間に火の海になったカプリス村、この出来事は瞬く間に世界中に広まり、ヴェンジェンスの脅威を知らしめた。

そして、この出来事で人生が大きく変わった1人の青年がいた。この物語の主人公、タクト・レイノスである。タクトはカプリス村出身の18歳の若い青年であり、旅に出ると言って長らくカプリス村に戻っていなかったが、久々に戻ってみると自身の故郷が火の海になっていたのだ。

タクト「何だよこれ…俺の故郷が…!」

タクトがカプリス村に戻った時には既に村中が焼け落ちていた後だった。村人は全員殺され、人や物が焼けた匂いが漂い、村中に死体が転がっていた。あまりに凄惨な光景にタクトは怒りを爆発させた。

タクト「許さねえ…! こんな事をした奴を…ぶっ殺してやる…!!」

彼はこの時誓った、自身の故郷を滅ぼしたヴェンジェンスを倒し、ヴェンジェンスを完全に壊滅させる事を。そして、彼はすぐに旅に出た、ヴェンジェンスを倒す為に…!

タクトが旅を始めて半年が経った…。あれから彼には様々な事があった。まず、300年前の大戦で使われた聖剣エスペリアを手に入れた。これはレイノス家に代々伝わる聖剣であり、彼の先祖は、300年前の大戦にて、目まぐるしい活躍をしたと伝わっているのだ。カプリス村焼き討ちの際、焼け落ちた家を漁っていたら見つけたものであり、非常に状態が良かったためそのまま自身の愛剣となったのだ。

そしてもう一つ、最新鋭の乗り物、シエルプランシュを手に入れた。シエルプランシュはサーフボードの様な見た目だが、低空を飛行できる乗り物だ。これは旅の途中で立ち寄ったとある街にて30000Gで購入したものである。低空飛行の原理は風の魔力を本体に蓄えておく事で、浮遊力が生まれ、低空を飛行できるらしい。高い魔力を持つ人物でないと上手く操れないらしいが、タクトはこれを軽々と乗りこなしている。そして、タクトはシエルプランシュに乗ったまま次の村を目指していた。

タクト「次の目的地は…ホドの村か…もうすぐだな…」

タクトはシエルプランシュで低空飛行しながらまっすぐに草原を駆けていった。そして、そのままホドの村の前に到着した。すると、彼はシエルプランシュを魔法で別空間に転送した。

高い魔法力を持つ者は魔法であらゆる物を別空間にしまう事ができるのだ。その為、タクトは収納に困る事も無ければ泥棒に困る事も無いのである。ただし、しまっておける物量には限界がある為、注意は必要である。ちなみに、取り出す時はコネクトの魔法で取り出す事が可能だ。そして、タクトは情報収集の為、村の酒場に向かった。

酒場のカウンターに座ると、注文を聞かれた。タクトは酒が飲めないので、大好物のミックスジュースを注文した。すると、後ろにいた少女がタクトに興味を持ったのか話しかけてきた。

少女「ねえねえ、あなた結構強そうだね」
タクト「誰だお前」
少女「私はリリシェ、リリシェ・ルーンこう見えて旅の剣士だよ」

リリシェと名乗った彼女は17歳の少女であり、ルビーの様な色の長い髪と深紅の瞳を持った美少女であった。旅の剣士ではあるが、ファッションに気を使っているらしく、かわいらしいスカートを履いたり、頭にリボンを付けたりしていた。それは、適当に旅をしやすい服装をしていたタクトとは全く正反対であった。おまけに旅をしている割に服はとても綺麗で汚れ1つなかった。とりあえず、タクトは自己紹介を返す事にした。

タクト「俺はタクト、タクト・レイノスだ、で? 俺に何の用だ?」
リリシェ「いや、君強そうだなって思ってさ、あのヴェンジェンスも倒せそうだなって」
タクト「お前は冗談だと思うだろうが、俺はヴェンジェンスを倒す旅をしている」

すると、その言葉に酒場中がざわついた。あの恐ろしい強さを持つヴェンジェンスには誰も逆らおうとしないからだ。すると、近くにいた男性が話しかけてきた。

男性「あんた、やめといた方がいいよ、逆らったら殺されるって」
リリシェ「そうだよ、今のは冗談だから、ね?」
タクト「いや、やめるつもりはない、俺はあいつらに故郷を滅ぼされたからな」

すると、タクトの注文していたミックスジュースが届いた。大きなコップに一杯入っていたそのミックスジュースをタクトは一気飲みした。その豪快な飲みっぷりにリリシェは圧倒されていた。ミックスジュースを飲み終えると、タクトは酒場を後にした。そして、そのままホドの村を出て次の場所へと徒歩で向かった。すると、後ろからリリシェが付いてきた。

タクト「…何故付いてくる」
リリシェ「私ってこう見えて結構強いのよ?」
タクト「んな事知るか、と、言うか付いてくるな」
リリシェ「んもう、イジワル」

しばらくすると、リリシェがある話を持ち出した。

リリシェ「ねえねえ、知ってる? 300年前の大戦争の話」
タクト「ああ、太陽と月の剣士の話だろ」

そして、リリシェはその大戦争の話を始めた。今から300年前に人類は大きな戦争を起こし、大きな犠牲が出た、そして、人類は自らの生み出した魔法爆弾によって人類は地上の大陸のほとんどを消し飛ばした。その時、太陽と月の光から生まれた2人の精霊の剣士が力を合わせ、失われた大陸を復活させた、争っていた人類はその2人の精霊が愚かな人類に神が与えた最後のチャンスだと思い、戦争をやめた、人類が争いをやめた事を確認すると、2人の精霊の剣士は深い眠りについた。これが300年前の大戦争、通称、太陽と月の大戦と呼ばれている。

タクト「で、そんな話を持ち出して何だって言うんだ」
リリシェ「私が思うにはね、今のヴェンジェンスのしている事はこの時と同じだと思うの」
タクト「じゃあ、何だ、太陽と月の剣士が助けてくれるとでも?」
リリシェ「う~ん…ヴェンジェンスがそれだけの脅威だと認識すれば、じゃない?」
タクト「じゃあ意味がないじゃないか…」

すると、突然ホドの村の方角から大きな爆発音がした。

リリシェ「何!?」
タクト「…ヴェンジェンスだ!!」
リリシェ「嘘!? とうとうこの辺にまで現れたの!?」

すると、タクトはコネクトの魔法でシエルプランシュを取り出し、搭乗した。

タクト「お前も早く乗れ、ホドの村に向かうぞ」
リリシェ「うん!」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、ホドの村に急行した。ホドの村では、ヴェンジェンスの指揮官1人と兵士数十人がホドの村を襲撃していた。逃げ惑う村人を剣で斬り捨てたり、攻撃魔法で村を破壊したりとやりたい放題やっていた。

レック「1人も逃がすな! 堕落に満ちた世界を変える為にはな!!」

ヴェンジェンスの指揮官であるレックの命令により、兵士は攻撃の手を激しくした。

女性「嫌…! 助けて…!!」

恐怖に怯える女性に対し、兵士は剣を振り上げた。その時、到着したタクトによって兵士は斬り倒された。

タクト「早く逃げろ!」
女性「あ…ありがとうございます!」

少し遅れてリリシェも到着し、ヴェンジェンスの部隊と対峙した。

タクト「お前は下がっててもいいんだぞ?」
リリシェ「あら? 私だって結構やるのよ?」

そう言ってリリシェはコネクトの魔法で宝剣ティスカーを取り出した。宝剣ティスカーは聖剣エスペリアと同じく、300年前の大戦で使われた剣だ。長らく行方が分からずにいた剣で、幻の剣と言われていた剣である。

タクト「宝剣ティスカーか…いい剣を持っているな」
リリシェ「そう言うあなたも聖剣エスペリアなんていい剣をお持ちじゃない」
レック「フン、何者かと思えば骨董品の剣をもったガキ2人か」
ヴェンジェンス兵「俺達はな、最新鋭の剣を装備してんだよ!」
タクト「じゃあ、試してみるか?」
ヴェンジェンス兵「何だと~!?」
レック「お前ら、あいつらを殺れ」

レックの命令でヴェンジェンスの兵士が総攻撃を仕掛けた。だが、タクトは兵士の攻撃を軽々と回避し、次々と兵士を斬り捨てていた。一方のリリシェも素早い動きで兵士を次々と斬り倒していた。すると、兵士たちがエクスプロージョンの魔法を唱え、タクトとリリシェを攻撃してきたが、2人はそれを回避し、逆に2人でエクスプロージョンの呪文を唱え、兵士を一気に全滅させた。こうして、残すはレック1人になったのであった。

タクト「降参するなら今の内だぞ」
レック「フフフ…ハハハハハッ!!」
リリシェ「な…何がおかしいの!」
レック「俺にはクライム様から貰ったこのシールがある」

レックが取り出したものは白い長方形のシールだった。よく見ると呪文のようなものが描かれている。レックはそのシールを左腕に貼った。すると、腕にシールが吸い込まれていった。その直後、レックの体が眩く輝いた。

タクト「何だこれは!?」

光が収まると、そこには巨大なカニの様な怪物がいた。

リリシェ「まさか…あのシールは人間を怪物化させる物!?」
タクト「ヴェンジェンスの奴ら…狂ってやがる!!」

すると、カニの怪物がタクト目掛けてレーザーを放った。

タクト「しまっ…!!」

回避が遅れたタクトに迫るレーザー、タクトが死を覚悟したその時、目の前に2人の少女が現れ、魔導障壁でレーザーを防いだ。

タクト「…生きてる…?」
オレンジ髪の少女「大丈夫だった?」
紫髪の少女「どうやら無事みたいね」

目の前にいたのは、オレンジ色の髪の少女と、紫色の髪の少女だった。オレンジ髪の少女は長い髪と炎のように赤い瞳が特徴で、頭には太陽をかたどった髪飾りを付けていた。紫髪の少女は更に長い髪と月のように黄色い瞳が特徴で、頭には三日月をかたどった髪飾りを付けていた。その2人はまるで太陽と月のようであった。

タクト「…君達は…?」
オレンジ髪の少女「私はソレイユ、ソレイユ・サンソール」
紫髪の少女「私はクレセント、クレセント・ルナムーン」
リリシェ「ソレイユ? クレセント? もしかして、太陽と月の剣士!!」
ソレイユ「あっ、この時代の人も私達の事を知ってるんだね」
クレセント「なら、話は早いわね、あいつを倒しましょう」
タクト「そうだな、あんな姿になったなら死なせてやった方がいいだろう」

すると、カニの怪物は再びレーザーを放ってきた。だが、タクト達は各自散開して攻撃を回避した。

ソレイユ「サン・フレイム!!」

ソレイユは装備している剣のサンサーベルから炎を放った。炎はカニの怪物に命中し、燃え上がった。

クレセント「ルナ・カッター!!」

クレセントが装備している剣のルナブレードを振ると、三日月型の真空波が3発放たれ、カニの怪物の甲羅を切り裂いた。

リリシェ「アイシクルアロー!!」

リリシェがアイシクルアローの魔法を唱えると、鋭い氷柱が高速で飛んで行き、カニの怪物の甲羅を貫いた。

タクト「これで決める! ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは高く飛びあがり、聖剣エスペリアに魔力を纏った。すると、巨大な魔力の剣を生成し、そのままカニの怪物を一刀両断した。カニの怪物は真っ二つに割れ、そのまま大爆発を起こし、砕け散った。こうして、ホドの村は守られたのである。

ヴェンジェンスとの戦いの後、めんどくさい事になる前にホドの村を立ち去ったタクトだったが、その後を付いてくる3人の人物がいた。リリシェ、ソレイユ、クレセントの3人である。

タクト「…だから何故付いてくる」
リリシェ「だってあなたといると面白そうって分かったんだもん」
ソレイユ「タクトもヴェンジェンスを倒すのが目的なんでしょ?」
クレセント「なら私達と目的は一緒ね」

タクト「ヴェンジェンスと戦うのは俺1人でいい」
ソレイユ「そんな事言っていいのかな?」
クレセント「私達はヴェンジェンスがどこにいるか分かるのよ?」
タクト「何だと!? だったら何で今まであいつらを放置してたんだよ」
ソレイユ「私達は世界に脅威が現れた時しか目覚められないの」
クレセント「何か…ごめんなさいね…」
タクト「はぁ…めんどくさい精霊だな…」

リリシェ「で? どう? 付いて行っていい?」
タクト「…勝手にしろ」
ソレイユ「やったー! ありがとーっ!!」
クレセント「必ず役に立って見せますね」
タクト(面倒なことにならなければいいがな…)

こうして、タクト一派のヴェンジェンス討伐の旅が始まった…。

この世界のどこかにあるヴェンジェンスの本拠地であるクライムパレスでは、既にタクト達がレックの部隊を壊滅させたと言う情報が届いていた。その情報は当然、ヴェンジェンスの総帥であるクライムの元に届いていた。

ヴェンジェンス兵「クライム様、レックの部隊が何者かに壊滅させられました」
クライム「ほう…一体何者の仕業だ?」
ヴェンジェンス兵「はっ、男1人と女3人だそうです」
クライム「たったそれだけの人数で30人を相手にしたのか…」
ヴェンジェンス兵「いかがいたします?」
クライム「今は泳がせておけ、我々の目的はあくまでも堕落に満ちた世界を変える事だ」
ヴェンジェンス兵「了解しました」
クライム(そうだ、今はこの世界を考える事だけを考えていればいい、今は、な…)

一方その頃、タクト達は河原にテントなどを構え、のんびりとくつろいでいた。タクトは1人でシーチキンの缶詰をスプーンですくって食べていたが、リリシェは簡易キッチンをコネクトの魔法で取り出して料理を、ソレイユとクレセントは2人で協力して衣類を手洗いしていた。これには理由があり、タクトが致命的なほどに炊事洗濯が下手なのである。一度タクトの作った料理を食べたリリシェ達はそのあまりに酷い味に怯え、自分達で料理を作ることを決めたのだ。そしてタクトは風呂には入るが洗濯をしない上、しても適当に洗う為、ソレイユとクレセントが仕方なく洗っているのである。

タクト「何故料理と洗濯をしている」
リリシェ「あんたの料理が美味しくないからよ!」
ソレイユ「タクトの服が臭いから洗ってるの!」
タクト「そうか? 飯は食えればいいし、服は着れればいいと思うんだがな…」
クレセント「いや、間違ってはないですが、流石に限度ってものがありますよ…」
リリシェ「一応聞くけど、最後に服洗ったの、いつ?」
タクト「ん~っと…2週間前だったかな?」
ソレイユ「それ汚すぎ! ほら! 今着てる服も脱いで!」
タクト「は? じゃあ俺に裸でいろってか?」
クレセント「下着はそのままでいいですから服だけ脱いでください!」

タクトはしぶしぶ服を脱ぎ、下着一枚だけになったが、流石に風が寒かった為、近くにあったバスタオルを羽織って寒さをしのいでいた。その後、リリシェは料理の最後の仕上げに取り掛かかり、ソレイユとクレセントは洗濯を終え、物干し竿に干していた。全ての洗濯物を干し終えた後は、ソレイユが自身の魔力で小型の疑似太陽を生成し、洗濯物を乾かしていた。

そうこうしているうちにリリシェの料理の最後の仕上げが終わり、料理が完成した。今回のメニューはクジラウサギのシチューと海藻サラダ、コッペパンだったちなみに、クジラウサギとは、この世界の全域に生息している大ウサギで、クジラの様に大きなウサギである事からこの名が付いた。肉は非常に柔らかく美味な為、食肉として重宝されている。

リリシェ「みんなー、できたよー」
タクト「おっ、おつかれさん」
リリシェ「ありがと、タクトには私特性のミックスジュースがあるからね」
タクト「ミックスジュース好きだから嬉しいよ」

全員が椅子に座り、テーブルを囲んで食事を始めた。リリシェの料理は非常に美味であり、かなり好評であった。

クレセント「うん、美味しいわね」
ソレイユ「リリシェって料理得意なんだー」
リリシェ「まあね、これぐらいは生きていく上で重要でしょ」

すると、黙々と食事を続けていたタクトが口を開いた。

タクト「…リリシェ、お前こんな特技があったんだな」
リリシェ「料理ぐらいなら誰でも練習すればできるものよ」
タクト「…そうなのか?」
リリシェ「当たり前よ、てか、あんた今まで何食べてたのよ」
タクト「缶詰とか、クジラウサギの丸焼きとか、川魚の丸焼きとかかな」

ソレイユ「…ねえ、この間の暗黒物質って何?」
タクト「暗黒物質? 俺が焼いた焼き魚の事か?」
クレセント「あんな焼き魚があるかーっ!!」
タクト「焼いてるんだから焼き魚だろ」
リリシェ「真っ黒焦げだったじゃない、あれは炭よ炭」
タクト「そっか、あまり美味しくなかったか、美味いと思うんだがな…」
リリシェ(こいつ舌おかしすぎでしょ…どんな舌してんのよ…)

すると、ソレイユとクレセントが何かを察知した。

タクト「…どうした?」
ソレイユ「ヴェンジェンスが来る…!」
タクト「場所はどこだ」
クレセント「ここから約1㎞…シーリスの村よ…!」
タクト「分かった、俺の服は乾いてるな?」
ソレイユ「私の魔力で作った疑似太陽だから、乾いてるはずだよ」

タクトは物干し竿から自分の服を取り、すぐに着た。そしてコネクトの魔法でシエルプランシュを取り出すと、リリシェと共に搭乗し、浮上させた。

タクト「俺とリリシェはこれで向かうが、お前らはどうする?」
クレセント「大丈夫よ、私達は飛べるから」
タクト「…飛べる?」
ソレイユ「私達、精霊だからね」
タクト「フッ、なるほどな、じゃあ、行くぞ」

タクトはシエルプランシュを発進させ、シーリスの村に向かった。その後をソレイユとクレセントが飛行しながら追いかけた。

その頃、ヴェンジェンスの部隊がシーリスの村を攻撃していた。部隊の指揮官であるリリナは珍しい女性指揮官であり、その実力もさることながら容赦ない攻撃をする事で知られていた。リリナは部下にシーリスの村の住民の皆殺しを命じた。部下はその命令に従い、剣や魔法でシーリスの村の住民を殺害した。

リリナ「この村もすぐに全滅しそうね」
ヴェンジェンス兵「そうですな、リリナ様」

そして、1人の兵士が住民の子供に剣を振り上げたその時、タクトとリリシェがシエルプランシュで突撃し、その兵士を吹き飛ばした。シーリスの村に到着したタクト達は村の凄惨な様子を目撃して怒りをあらわにした。

クレセント「酷い…」
タクト「ヴェンジェンスの奴ら…相変わらず酷い事しやがる!」

村は炎に包まれ、辺りには人の死体が散乱しており、人や物が焼ける匂いや、血の匂いがシーリスの村全体を覆っていた。

リリナ「あ、あんたら知ってるわよ、レックの部隊を潰した奴らでしょ」
タクト「お前らみたいなクズにも俺達の事が伝わってたか」
リリナ「やっぱり~! じゃあ、私はあんた達を殺してクライム様に褒めてもらおっかな~」

リリナは部下に攻撃命令を出し、タクト達を襲った。

ソレイユ「サン・フレイム!!」
クレセント「ルナ・カッター!!」

ソレイユとクレセントはそれぞれ炎と三日月型の真空波を飛ばして兵士達を攻撃した。兵士達はほぼ全員が炎と真空波の餌食となって倒れ、残った兵士達もタクトの炎呪文のファイアや、リリシェの氷呪文であるアイシクルアローで倒された。こうして、残すはリリナだけになったのである。

リリナ「ちょ…ちょっと待ってよ…もう私だけ!?」
タクト「降参するなら今の内だぞ、女」
リリナ「くっ! こうなったら奥の手を使うしかないわ!」

リリナは怪物化シールを取り出し、自身の右腕に貼った。すると、シールが体に吸い込まれ、体が眩く輝き、光が収まると巨大な白鳥型の怪物になった。

リリシェ「鳥型の怪物!?」
白鳥怪物「そうよ、そしてこの姿の特権は空中から攻撃出来る事よ!!」

白鳥怪物は空中まで羽ばたき、上空から羽根ミサイルを飛ばしてタクト達を攻撃した。羽根ミサイルの攻撃は家を破壊するほどの威力であり、タクト達はその攻撃の衝撃で吹き飛ばされた。

リリシェ「うっ! あんた、その空飛ぶ板で何とかならないの!?」
タクト「無理だ、このシエルプランシュは低空しか飛行できない、あんな上空までは上昇できないんだ」
白鳥怪物「これであんた達はおしまいね!」

すると、ソレイユとクレセントは高く飛び、そのまま白鳥怪物の所まで飛行した。

白鳥怪物「…え?」
ソレイユ「飛べないと思った? 残念でした!」
クレセント「私達、精霊だから飛べるのよ!」

そう言って2人は白鳥怪物の翼に剣を突き刺し、そのまま熱気と冷気を剣に送って攻撃した。

白鳥怪物「ああああああっ!!」

羽根を傷つけられ、飛べなくなった白鳥怪物はそのまま地面に墜落し、体内にあったシールも先ほどの攻撃で傷つけられた為、リリナの姿に戻った。

リリナ「あっ…あぐっ…」

すると、タクトは倒れたリリナに剣を向けた。

リリナ「ひっ!」
タクト「お前達に殺された人々の痛みを思い知らせてやる」
リリナ「ま…待って! もう悪い事しないから許して! お願い!」
タクト「…どの口が言ってんだ」

すると、リリシェがある提案をした。

リリシェ「ねえ、タクト、この女からヴェンジェンスの情報を聞き出せるんじゃない?」
タクト「…その手があったか」
???「あ~らら、リリナちゃん負けちゃったか~」

その声の方角を向くと、1人の男性が立っていた。

リリナ「…フロスト様…」
フロスト「リリナちゃん、役立たずはどうなるか分かってるよね~?」
リリナ「ひっ!」
フロスト「でも、クライム様は君に用があるみたいなんだ、だから特別に助けてあげるよ~」
リリナ「あ…ありがとうございます…」
フロスト「帰ったらクライム様にお礼言っときなよ? じゃ」

そう言ってフロストは転移呪文のゲートをリリナに向けて放った。すると、リリナは黒い渦に飲み込まれ、姿を消した。

タクト「…貴様、何者だ、名を名乗れ」
フロスト「僕はフロスト、フロスト・セシル、ヴェンジェンスの四天王の1人さ」
タクト「四天王が自らお出ましとはな、なら、ここでお前を殺してやる」
フロスト「へ~、僕に勝てるかな?」
タクト「その減らず口、すぐに黙らせてやる!」
フロスト「先に言っといてあげるよ、僕は氷使いさ、気を付けなよ?」
タクト「そうか、忠告感謝する」

タクトがフロストに斬りかかろうとしたその時、ある事に気づいたソレイユが叫んだ。

ソレイユ「タクト! そいつに触れちゃ駄目ッ!!」
タクト「何っ!?」

ソレイユの忠告を聞き、ギリギリ攻撃を踏みとどまったタクト、すると、フロストが悔しそうなしぐさを見せていた。

フロスト「ん~、もうちょっとで君を凍らせてたんだけどな~」
タクト「何だと!?」

すると、フロストが半壊した家の前に移動した。

フロスト「見せてあげるよ、僕に少しでも触れたらどうなるかを」

フロストは右手で家に触れた。すると、家はみるみるうちに凍り付いていった。

フロスト「フリーズ・エンド…!」

そう呟いたフロストが指を鳴らすと、凍り付いた家が崩れ落ち、粉々になった。それを見たタクト達は驚愕を隠せなかった。

フロスト「どうだい? 僕に触れたらたちまちこうなるよ」
タクト「なら、お前に触れなかったらいいだけだ!」

そう言ってタクトは炎魔法のファイアを唱えて攻撃した。それに対し、フロストはアイシクルアローで迎撃した。そして、フロストはタクト達に急接近し、自身の周りに巨大な氷柱を数本発生させる魔法である。アイシクルバーストを唱え、タクト達を攻撃したが、タクト達はその攻撃を回避した為、大事には至らなかった。

リリシェ「どうするのよ! これじゃ私達負けちゃうわよ!」
クレセント「いえ、大丈夫だと思います、ね? ソレイユ」
ソレイユ「うん! 私の出番だね!」

そう言ってフロストの方に向かって行ったソレイユは、フロストに斬りかかったが、フロストの剣で受け止められた。すると、ソレイユの剣がみるみる凍り付いて行った。

フロスト「馬鹿だね! 自ら死にに来るなんて…!」

だが、ソレイユは笑顔を見せていた。その様子に、フロストは驚いた。直後、ソレイユは自身の体温を急上昇させ、凍り付いた剣の氷を一瞬で溶かした。

フロスト「くっ! 君は何者だい!?」
ソレイユ「私は太陽の剣士、ソレイユ!!」
フロスト「! 君はまさか、あの300年前の…!」
ソレイユ「そうだよ~、で、あっちにいるのがクレセント、月の剣士だよ」
クレセント「どうぞお見知りおきを」

フロストは厄介な相手であるソレイユの存在に、自身の氷技が通用するかを考えていた。そして、フロストは再び攻撃を開始した。

フロスト「フッ、ならこれはどうだ!」

フロストは宙に1本の氷柱を生成した、アイシクルアローだ。

リリシェ「アイシクルアロー? 今更そんな魔法で…!」
フロスト「チッチッチ、1本だけじゃないよ~」

すると、氷柱が2本、4本、8本と、倍増していき、最終的に16本の氷柱を生成した。

タクト「一度に複数のアイシクルアローだと!?」
フロスト「これが僕の氷技の1つ、アイシクルアローバーストさ!!」

そして、16本の氷柱が一斉にタクト達を襲った。だが、ソレイユはタクト達の前に立った。

ソレイユ「ファイアーウォール!!」

ソレイユは自身の持つ太陽の力で炎の壁を生成した。そして、16本の氷柱は炎の壁に阻まれ、蒸発した。

フロスト(くっ!あの女は厄介過ぎる…!)
ソレイユ「どう? まだやる?」
フロスト「面白い! 僕の氷技をもっと見せてあげるよ!」

その時、フロストの脳内に語り掛けて来た1人の人物がいた。その人物は、ヴェンジェンス総帥のクライムだった。

クライム「フロスト、ここは退け」
フロスト「何でですか~? お楽しみはまだまだこれからなのに~」
クライム「このまま戦ってもその太陽の剣士との相性が悪い、だから退け」
フロスト「いやいや、まだ僕はできますよ~」
クライム「私の言う事が聞けないのか? フロスト」
フロスト「分かりました、じゃあ、今から帰ります」
タクト「どうした? もうやめるのか?」
フロスト「残念だけど、クライム様が帰って来いって言うから帰るよ、またね~!」

そう言ってフロストはテレポートの呪文を唱え、去って行った。

クレセント「ヴェンジェンス四天王のフロスト…厄介な相手でしたね…」
ソレイユ「今度あいつと会ったら、私が丸焼きにしてやる!」
リリシェ「ソレイユがいると頼りになるよ~」
タクト「フッ、そうだな」

すると、タクトはある事を思い出した。そう、ここに来る前に食べていた食事である。それを思い出したタクト達は、慌ててキャンプ地まで戻った。幸い、物は一つも取られていなかったが、料理は完全に冷めていたのであった。

リリシェ「うえ~ん、料理冷めちゃってる~、一生懸命作ったのに~」
タクト「いや、冷めてても旨いぞ、この料理」
リリシェ「本当? そう言ってくれると嬉しいな」
ソレイユ(タクトの事だから食べられたら何でもいいだけだと思うけど…)
クレセント(確かにそうね…)

一方、クライムパレスに逃げ帰ったリリナは、ヴェンジェンスの総帥であるクライムと話していた。

リリナ「申し訳ございません! クライム様! 部下を失った挙句、大怪我までしてしまって…!」
クライム「リリナ、本来なら部隊を壊滅させられたお前は処刑される運命だ」
リリナ「…! どんな処罰でも覚悟しております」
クライム「ところでリリナ、お前はあの怪物化シールを使ったらしいな」
リリナ「え…? あ、はい、使用しましたが、シールを破壊されて、現在は腕の中にあります」
クライム「その腕の中にあるシールはしばらくすると体内で分解され、身体能力を強化する効果がある」
リリナ「と、言う事は、私の身体能力は以前より上がっていると言う事ですか?」
クライム「そうだ、そんなお前にとある部隊の指揮官となってほしいのだ」

クライムがそう言うと、リリナの後ろにあったドアから3人の女性兵士が入って来た。

ターニャ「ターニャです、よろしくお願いします」
ミーナ「ミーナだよ、よろしくね~」
ノクト「ノクトです、よろしくお願いいたします」
リリナ「…えっと、これは…」
クライム「この3人は我々ヴェンジェンスの兵士の中でも選りすぐりの兵士だ」
リリナ「選りすぐり…エリートと言う事ですか?」
クライム「そうだ、お前はそのエリート達が集まった特殊部隊の指揮官になってもらう、いいな?」
リリナ「私なんかが…光栄です!」
クライム「ふふ、いい返事だ、なら早速この3人を連れて、他の兵士達とも顔を合わせて来るがいい」
リリナ「はい! クライム様!」

一方のフロストは、四天王の部屋で今回の戦闘について考えていた。

フロスト(あの太陽の剣士…僕の自慢の氷技をああも容易く…)
ポディスン「どうしたの~? フロスト~?」

この少女は四天王の1人の毒猫族(どくびょうぞく)の少女、ポディスンである。紫色の髪に猫耳と尻尾を生やした彼女は毒使いであり、いつも明るい表情ではあるものの、実はかなり残忍で、戦闘だけでなく猛毒による暗殺も得意とする。

フロスト「ああ、今日戦った相手が中々の強敵でね…」
グラム「フロストがそこまで言うなら、相当の相手だったんだね」

この男性はグラム、四天王の1人の槍使いである。緑髪のやや長めのショートヘアに赤紫の瞳が特徴で、いつも気だるげそうな表情を見せているが、槍だけでなく、魔法の腕前もかなりの物である。

フロスト「あんな相手がこの世にいるなんて…僕はウズウズしてきたよ…!」
アオ「…フロスト…燃えてる…」

この少女はアオ、四天王の1人で鎌と魔法の使い手である。青い瞳と青い髪のツインテールが特徴の彼女は、いつも冷たい表情で、感情がないようで、強大な戦闘能力と魔力を持った謎の少女だ。

フロスト「今の僕は氷を溶かすほどに燃えてるよ! いつかあの女の子と決着を付けないとね!」
ポディスン「…フロスト、ナンパを頑張るのかな?」
グラム「バーカ、そうじゃないって」
アオ「…なんぱって、なに?」
グラム「アオはそんな事覚えなくていいから!」

一方その頃、タクト達は出発の準備を終え、次の目的地をどこにするか話し合っていた。すると、リリシェが意見を出した。

リリシェ「ねえねえ、私の故郷がこの近くにあるんだけど、そこに行かない?」
タクト「…別にいいが、ソレイユとクレセントはどうだ?」
ソレイユ「いいよー」
クレセント「私もそれで構いません」
リリシェ「おっけー! なら行こっ!」

リリシェの故郷はここから約1㎞の場所にあるフレン村である。フレン村は、世界一の花畑がある事で有名な花の村であり、春夏秋冬どの季節も綺麗な花が村中を華やかに彩っている。リリシェは半年ほど村に帰っておらず、今回が久々の帰省である。久々に故郷に帰る事を楽しみにしていたリリシェだったが、ソレイユとクレセントはどこか胸騒ぎがしていた。

ソレイユ(フレン村から、少しだけ嫌な気配がする…)
クレセント(これはヴェンジェンスの物に似ている…)
タクト「? 2人共、どうした?」
クレセント「い…いえ…何でもありません…」
リリシェ「もー、せっかく私の故郷に行くんだから、明るく行こうよっ!」
クレセント「そ…そうですね!」

その後、タクト達はフレン村に無事到着した。リリシェは久々に故郷に帰ってきた事もあり、嬉しそうだったが、フレン村からは何か不穏な雰囲気がしていた。

タクト「…なあ、何か村の様子がおかしくないか?」
リリシェ「えー? おかしくなんかないよー、ね?」
タクト「でも、花が全部枯れてるぞ」
リリシェ「…え?」

タクト達が村に入ると、村の花がほとんど枯れ果てていた。村にかつてのような美しさはなく、完全にさびれていた。現在の村の現状を語るかのように、村民たちも活気がなく、誰もが希望を失っているようであった。

リリシェ「嘘…なに…これ…一体何があったって言うの…!?」

フレン村は世界一の花畑が有名な美しい村なのだが、この光景はどう見てもそうは見えなかった。リリシェは近くにいる住民に話を聞く事にした。

リリシェ「あの…この村に何があったんですか?」
老人「おお、リリシェちゃんかい、この村はもう駄目だよ」
男性「1ヵ月前から突然草木が枯れ始めて今はこの通りさ」
女性「最近は井戸の水も出なくなって、人々は次々と村を出て行ってるわ」
リリシェ「そうですか…」

そして、リリシェは故郷の美しさを取り戻す為、調査を開始する事にした。

リリシェ「みんな、早速調査しましょう」
ソレイユ「そうだね! リリシェの故郷を守ろう!」

すると、後ろから1人の女性がやって来た。黄緑色の長い髪と水色の瞳の少女で、リリシェのいる方に手を振りながら走って来ていた。

???「リリシェー! 久しぶりー!」
リリシェ「クリスタ! 半年ぶりね!」
タクト「…誰だ?」
リリシェ「私の幼い頃からの親友のクリスタよ」
クリスタ「クリスタ・エリアードです、よろしくね!」
タクト「タクト・レイノスだ」
ソレイユ「ソレイユ・サンソールだよ! よろしくね!」
クレセント「クレセント・ルナムーンよ、よろしくね」

タクト達が自己紹介を終えると、クリスタもこの現状に困っているようで、リリシェ達に助けを求めた。

クリスタ「ねえ、この草木が枯れる現象、困ってるんだけど、どうにかならない?」
リリシェ「任せて! 親友の私とその仲間が必ず何とかするから!」
クリスタ「本当? ありがとう! じゃ、私は用事があるからこれで!」

そう言ってクリスタはその場を去って行った。そして、リリシェは早速調査を開始する事にした。

リリシェ「さ、早速調査を開始しましょう!」
タクト「いや、そんな事はしなくていい」
リリシェ「え? 何で?」
タクト「もう原因が分かったからだ」
リリシェ「嘘!? じゃあその原因は?」
タクト「さっきのクリスタと言う名の女だ」

その言葉に、リリシェは激怒した。いくら仲間でも幼い頃からの親友を原因にしたからだ。

リリシェ「ふざけないで! クリスタがそんな事するわけないでしょう!」
タクト「俺は嗅覚が誰よりも優れている、あの女からは怪物の匂いがした」
リリシェ「それはクリスタが怪物に襲われたとかそんな感じでしょ!」
タクト「いや、あの女には怪物の匂いが染み付いてい…」

リリシェはタクトが喋り終わる前にタクトの左頬に平手打ちをした。そのリリシェの目には一粒の涙があった。少しの間ではあるが苦楽を共にした仲間に裏切られたからだ。

リリシェ「あんたを少しでもいい奴だと思った私が間違ってたわ!!」

そう言ってリリシェは走り去っていった。

クレセント「…リリシェには悪いけど、私もあなたと同意見よ」
ソレイユ「あのクリスタって人からは怪物の気配がした」
タクト「ああ、しかも植物の怪物のな、これは放っておいたらこの村が滅びるぞ」
クレセント「あのクリスタって人の後を追いましょう」
タクト「そうだな」

一方、リリシェは河原の方で1人、体育座りをして考え事をしていた。

リリシェ(クリスタはそんな事しないわ、だって、私の親友だもん)

だが、タクトの言った事も少しは気になっていた。

リリシェ(でも、タクトは変な奴だけど、今まで間違った事はしてないんだよな…)

そして、考えた末にリリシェは1つの答えを出した。

リリシェ(っと、こんな事してる場合じゃない! 早く原因を調査しないと…)

すると、リリシェは森の方に向かうクリスタの姿を見つけた。

リリシェ「ん? クリスタったら、森の方に向かってるけど、どうしたんだろ」

その森は怪物が出ると言う事で誰も近づかない為、恐怖の森と言われている。そんな森にロクな装備もせず、たった1人で入って行ったのだ。怪しいと思った、リリシェはクリスタの後をこっそり追ってみる事にした。森の中に入ってしばらく歩くと、そこには広場があった。その広場は、中心に大きな岩があるだけで何もなかった。

リリシェ(こんな所に来て、クリスタは一体何をする気かしら…?)

その時、クリスタは岩にそっと触れ、謎の呪文を唱えた。すると、岩がゆっくり動き、隠し階段が現れた。

リリシェ(この広場にこんな場所が…!)

クリスタはその階段を下りて行った。そして、リリシェも勇気を出し、クリスタの後を付いて行った。階段を下りた先は当然地下だが、その地下には広場があり、そこには巨大な怪物がいた。その怪物は巨大な人食い植物のような姿をしており、胴体からは無数の触手が生えていた。そして、その触手からは村中から栄養や水分を吸い取っているようだった。

リリシェ「これがこの村の草木が枯れた原因ね!」
クリスタ「そうよ、リリシェ」

植物の怪物の近くにいたのは先に階段を下りたクリスタだ。だが、リリシェ達が村に来た時とは様子が変わっており、まるで悪の手先となったようであった。

リリシェ「クリスタ! まさかこの怪物を育てていたのはあなたなの!?」
クリスタ「そうよ、リリシェ」
リリシェ「何で…何でこんな事を…!!」
クリスタ「ヴェンジェンスの総帥であるクライム様に頼まれてね! この村は栄養が多いからすぐ育ったわ」
リリシェ「そんな…! 何でヴェンジェンスなんかに力を貸したの!?」
クリスタ「この世界がつまんないからよ」
リリシェ「えっ…!?」

クリスタ「この世界はとにかくつまんない、毎日毎日同じことの繰り返し、でも、ヴェンジェンスはそんな世界を変えてくれるのよ? 最高じゃない!」
リリシェ「でも、ヴェンジェンスは罪のない人を何人も殺してるのよ!?」
クリスタ「知らないわよ、誰が何人死のうと、私が知った事じゃないわ」
リリシェ「じゃあ、私は? 親友である私の事はどうなの?」
クリスタ「親友? あんたまだ私の事を親友って言ってるのね、笑えるわー」

その言葉に、リリシェは激怒した。それと同時に、こんな悪人を庇って仲間を信じなかった自分に腹が立っていた。

リリシェ「クリスタ…あなたはもう、私の知っているクリスタじゃないのね…」
クリスタ「当然よ、何年も経てば人間は変わるものよ」
リリシェ「なら、その怪物を倒してあなたも斬る!」

そう言ってリリシェは怪物の方に向かって行った。

クリスタ「馬鹿ね、やっちゃえ! 私の自慢の怪物、ヘルプラント!!」

ヘルプラントはクリスタの命令を受け、触手でリリシェを締め付けた。

リリシェ「ぐ…うあぁぁぁッ…!!」
クリスタ「ヘルプラントは獲物を絞め殺した後、栄養を吸い取ってミイラにしちゃうのよ、素晴らしいわよね、アハハハ!」
リリシェ(うっ…私はここまでみたい…タクト…あなたの事を信じなくて…ごめんなさい…)

その時、リリシェが捕まっている触手を何者かが斬り落とした。その人物は、タクトだった。少し遅れてソレイユとクレセントも到着した。

リリシェ「タクト…! どうしてここに…!」
タクト「ソレイユとクレセントに気配を追ってもらったんだ」
リリシェ「タクト…ごめんなさい…あなたの言った通り、クリスタが元凶だったわ」
タクト「お前が悪いんじゃない、誰しも親友を信じたい気持ちはある」
クリスタ「リリシェったら馬鹿ね、まだ私の事を親友と思ってたなんて」

すると、タクトは怒りのこもった目でクリスタを睨みつけた。

クリスタ「な…何よ…!」
タクト「リリシェの親友を想う気持ちを利用しやがって…! てめえだけは許さねえ…! ぶっ殺してやる…!!」

そのタクトの威圧感に、クリスタは気圧されていた。

クリスタ「や…やれるものならやってみなさいよ! 行けっ! ヘルプラント!!」

ヘルプラントは触手でタクトを絡めとろうとしたが、タクトは迫り来る触手を次々と斬り落としていた。一方のソレイユとクレセントも同じ様に触手を斬り落とした。だが、触手は次から次へと伸び続けている為、キリがなかった。

タクト「くっ! この植物野郎! キリがない!」
クリスタ「私のヘルプラントは無敵よ!」

タクト「そうか、無敵か…」
クリスタ「な…何よ…!?」
タクト「この世に無敵の生物など存在しない!」

すると、タクトはVサインを送った。だが、このVサインには2つの意味があった。

タクト「お前の自慢の怪物は後2回の攻撃で倒され、俺達が勝つ!」

2回の攻撃と勝利と言う2つの意味のあるこのVサイン、その言葉に対し、クリスタは笑っていた。

クリスタ「あんた、とうとう頭おかしくなったのね、私のヘルプラントが負ける訳がないわ!」

タクトは剣に魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。

リリシェ「ブレイヴ・ブレードを放つつもりね!」

タクトは高く飛び上がり、ヘルプラントを一刀両断した。だが、ヘルプラントはなおも生命活動と続けていた。

クリスタ「残念ね! ヘルプラントの生命力は高いのよ!」

クリスタの言った通り、ヘルプラントの生命力は高く、なおも自己再生を続けていた。すると、タクトは続けて横に剣を振り、ヘルプラントと近くにいたクリスタを斬り裂いた。

タクト「ブレイヴ・ブレード・ダブル…!」

この攻撃でヘルプラントは張っていた根から切り離され、先ほど斬られた部位の再生が追い付かなくなり、そのまま生命活動を停止した。

クリスタ「そ…んな…」

同じく、胴体を斬り裂かれたクリスタも死亡した。

タクト「だから言っただろ、後2回の攻撃で俺達が勝つってな」

すると、タクトのブレイヴ・ブレード・ダブルの衝撃で広場の天井が崩れてきた。

タクト「早くこの部屋から脱出するぞ!」

そして、タクト達は急いで階段を上り、地上に出た。タクト達が無事地上に出ると同時に、広場は崩れ去った。広場の跡地はクレーターの様に崩れていた事からかなりの広さがあったようだ。

クレセント「…終わったわね」
ソレイユ「これでフレン村の草木は復活すると思うよ」
リリシェ「…そうだね…」

すると、リリシェがタクトの胸に顔を当てて泣き出した。

タクト「リリシェ…」
リリシェ「ごめん…タクト…しばらくこのままにさせて…」

そう言った後、リリシェは泣き続けた。幼い頃からずっと親友だと思っていたクリスタが豹変し、自分達を攻撃した事が、リリシェには耐えられなかったのだ。すると、タクトは泣き続けるリリシェの頭を撫でた。

タクト「…すまん、俺にはこう言う時どうすればいいのか分からない…」

リリシェが泣く分、タクトが頭を撫でる。このやり取りはしばらく続き、やがて泣き止んだリリシェはタクトに笑顔を見せた。

リリシェ「タクトって、優しいんだね」
タクト「え?」
リリシェ「さっき私の頭を撫でてくれたのはあなたなりの優しさなんでしょ?」
タクト「ま、まあな」

クレセント「もう大丈夫なの? リリシェ」
リリシェ「うん、今回の件で分かったんだ、ヴェンジェンスを倒さない限り、平和は訪れないんだって事が」
ソレイユ「そうだね、じゃあ、絶対にヴェンジェンスを倒さないとね!」
リリシェ「うん!」

すると、タクトが困った様子でリリシェに話しかけてきた。

タクト「リリシェお前…俺の服で鼻かんだだろ…」
リリシェ「あ、バレちゃった? ごめん…」
タクト「お前…覚悟しろよ…」
リリシェ「ひぃぃぃーっ!!」

今回の戦いの後、フレン村の草木は以前の様に元に戻ったと言う。そして、タクト達は誓った、必ずヴェンジェンスを倒すと。もう、誰も悲しまない世界を作る為に…。

フレン村を後にしたタクト達は、次の目的地へと向かっていた。次の目的地であるオール村はフレン村から約3㎞の場所にある為、魔力の温存と運動も兼ねて徒歩で移動していた。

ソレイユ「う~ん…3㎞って、思ってたより長いね~」
クレセント「まあ、あくまでも約3㎞だからね」
リリシェ「オール村って、のどかな村なんだって」
タクト「らしいな、あそこに畑が見える」

だが、タクトが指を指した先には、何か小さな村が見えるだけだった。

リリシェ「え…あんたあそこに何があるか見えるの…?」
タクト「見える、お前らには見えないのか?」
ソレイユ「いや…ちょっと見えないかな~」
タクト「もういい、面倒だ」

すると、タクトはシエルプランシュを取り出し、後ろにリリシェを乗せて発進させた。

クレセント「あ~あ…魔力の温存と運動はどこへやら…」
ソレイユ「そもそもこれ言いだしたリリシェが乗っていっちゃったらね…」

2人もタクト達の後を追ってオール村へ向かった。

オール村に付いたタクト達は、そののどかな様子に心を休めていた。オール村は野菜などが沢山栽培されている平凡な農村であり、牛や豚やクジラウサギなどの動物が家畜として飼育されており、見るからに平和な農村であることが分かった。

リリシェ「あ~、平和でいいね~」
クレセント「そうね、動物も沢山いて癒されるわ~」
タクト「俺は情報を集めてくる」

そう言ってタクトは酒場に向かった。

ソレイユ「ねえ、タクトは酒場でお酒飲んでるのかな?」
リリシェ「まさか、あいつああ見えて18歳よ?」
クレセント「じゃあ、リリシェは?」
リリシェ「私は17歳、と、言うかあなた達2人は何歳なの?」
ソレイユ「どうだろ、ずっと寝てたから分かんない」
リリシェ「そ…そうなんだ…」

一方、酒場ではタクトが情報収集をしていた。

タクト「参ったな…どいつもこいつも昼間っから酒を飲んで酔いつぶれてやがる…」

すると、1人の女性がタクトを呼んだ。

???「ねー! こっちおいでよー!」

その女性は紫の髪で、猫耳と尻尾が生えていた。その髪の色から察するに、毒猫族の一族であろう。毒猫族は人間から隠れて暮らす一族であり、とても強力な毒を使って生活をしている獣人族の一種である。タクトはその女性の所へ向かった。

タクト「俺に何か教えてくれるのか?」
???「あなた達、ヴェンジェンスを倒そうとしてるんでしょ?」

それを聞いたタクトは驚いた。自分達がヴェンジェンスを倒そうとしている事を知っている人間はそういないからだ。もしやと思ったタクトは女性に聞き返した。

タクト「お前…ヴェンジェンスの者か?」
???「あったりー! 私はヴェンジェンス四天王の1人、ポディスン・レイジングだよ!」
タクト「なるほど…あまり人里に出てこない毒猫族が何でこんな所にいると思ったら、ヴェンジェンスの、それも四天王とはな…」
ポディスン「まーねー、あ! ちなみにこのオール村の人達もヴェンジェンスに協力体制を取ってくれてるんだよ!」
タクト「何だと!?」
ポディスン「どうする? ヴェンジェンスの味方をしてるから、全員殺しちゃう?」
タクト「俺はそんなお前達みたいな事はしない…! 俺が殺すのは、お前だけだ!」

そう言ってタクトは聖剣エスペリアを取り出し、ポディスンに斬りかかった。その時、タクトはポディスンに何かの魔法をかけられた。すると、体が鉛の様に重たくなり、立てなくなった。

タクト(何だ…!? 体が動かない…! これは…毒…!?)
ポディスン「ふっふっふー、私の毒はどう?」
タクト「くっ…! ふざけやがって…!」

ポディスンは風魔法のトルネードを唱え、タクトを店の外に吹き飛ばした。タクトが吹き飛ばされた近くには、リリシェ達がおり、突然外に吹き飛ばされてきて大層驚いていた。

リリシェ「タクト!?」

すると、それに続いてポディスンが店の外に出てきた。どうやら浮遊魔法を使えるようで、ふわふわと宙に浮いていた。

ポディスン「そいつは強力な毒に冒されてる、10分もすれば死ぬはずだよ」
リリシェ「そんな…! 早く解毒しないと…!!」

4人の中で唯一解毒魔法が使えるリリシェは、解毒魔法のキュアを使って解毒を試みた。しかし、毒が強すぎるあまり中々解毒ができずにいた。

ポディスン「言い忘れてた、この村の人間は私達ヴェンジェンスに協力体制を取っているよー」

すると、村の住民たちがカマやクワ等を持って襲って来た。

クレセント「リリシェ! タクトの事はあなたに任せたわ!」
ソレイユ「こいつらの相手は私に任せて!」
リリシェ「うん! 分かった!」

ここでは解毒ができないと、リリシェはタクトを背負ってその場を脱出した。その際、住民に攻撃を受けたが、全て無視して逃げる事に専念した。

リリシェ「タクト! あのボード出して!」
タクト「馬鹿言うな…あれはお前に乗りこなせ…」
リリシェ「いいから!!」

タクトはシエルプランシュを取り出し、リリシェはそれに乗った。シエルプランシュは操縦が難しい為、ふらふらしながらも何とか乗りこなし、村の外れの岩陰に向かった。リリシェはタクトを仰向けに寝かせ、解毒を開始した。

リリシェ「タクト…絶対助けてみせるね…」

リリシェはタクトの胸に手を当て、キュアの呪文を唱えたが、やはり毒が強すぎるあまり、中々解毒できなかった。それどころか、どんどん体に毒が回って行った。タクトの息はどんどん荒くなり、苦しんでいた。

リリシェ「どうしよう…! このままじゃタクトが…タクトが死んじゃう…!!」

リリシェは諦めずキュアの呪文を唱えるが、やはり状況は変わっていなかった。そして、リリシェはいつの間にか目から涙を流していた。

タクト「お前…何で…泣いている…」
リリシェ「だって…! 私って何の役にも立ってないんだもん…!」
タクト「お前は十分…役に立ってるさ…」
リリシェ「でも、戦いではあまり役に立たないし、この旅に付いてきたのだって、ただの興味本位だし…現に今はタクトを助けられていない…」

そう話している間にもタクトの容態は急変し、呼吸が荒くなっていた。

リリシェ「タクト! しっかりして! タクトーッ!!」

その時、リリシェは願った、タクトを助けたいと、そして、今の自分を変えたいと。リリシェは目から大粒の涙を流し、タクトの胸に当てていた手に落ちた。すると、その手から眩い光が放たれ、光が収まった時にはタクトの呼吸は落ち着いていた。リリシェの誰かを助けたいと言う想いが、強力な毒の解毒に成功したのだ。

タクト「…ん?」
リリシェ「…タクト…? 大丈夫なの…?」
タクト「ああ、大丈夫だ、お前のおかげだな」
リリシェ「よかったー! もう死んじゃうんじゃないかと…」

リリシェは思わずタクトに抱き着き、号泣した。

タクト「ちょ…苦しいって…」
リリシェ「あ…ごめん…」
タクト「それより、さっきのは、どんな毒でも解毒すると言う、最上級解毒魔法キュアセイント…」
リリシェ「私そんな凄い魔法使ってたの!?」
タクト「ああ、お前の誰かを助けたいと言う想いが奇跡を起こしたんだ」
リリシェ「奇跡を信じるなんて、タクトって結構ロマンチストね」
タクト「茶化すな、それより、2人を助けに行くぞ」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、オール村に向かった。オール村では、ソレイユとクレセントが縄で縛られていた。2人の近くには鋼の剣を持った村人が剣を構えており、今から2人の処刑が行われようとしていた。

ポディスン「太陽と月の剣士も、こうなってしまえば形無しだねー」
ソレイユ「最後に…リリシェの作ったご飯が食べたかったな~」
クレセント「馬鹿言わないの! きっと2人が助けに来てくれるわ!」

そして、ポディスンの合図で村人が剣を振り上げた。その時、タクトとリリシェがシエルプランシュで体当りし、剣を持った村人は吹き飛ばされた。

ソレイユ「タクト! それにリリシェ!」
リリシェ「遅れてごめんね!」
クレセント「よかった、無事だったのね」
タクト「ああ、リリシェが俺の命を救ってくれたんだ」

ポディスン「あああ…あんた…あの毒をどうやって…!!」
タクト「リリシェの誰かを助けたいと言う想いが奇跡を起こしたんだ」
ポディスン「奇跡~!? そんなのあり~!?」
タクト「ありえないって言うだろうな、お前みたいな奴なら」

すると、タクトは聖剣エスペリアを取り出して構えた。

タクト「覚悟しろよ…! お前みたいな奴は、ただじゃおかねえ!」

タクトはポディスン向けて走った。対するポディスンはエクスプロージョンを唱えて攻撃したが、タクトは聖剣エスペリアでエクスプロージョンを真っ二つに斬った。真っ二つになったエクスプロージョンはタクトの後方で爆発した。そして、タクトは聖剣エスペリアに魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成し、そのまま剣を横一線に振った。

タクト「ブレイヴ・ブレード!!」

ポディスンはブレイヴ・ブレードを紙一重で回避したが、回避した時には武器のポイズンロッドが斬れていた。

ポディスン「あーっ! 私の大事なポイズンロッドがーっ!!」
タクト「チッ、外したか…」
ポディスン「サイアクー! もう帰るっ!」

そう言ってポディスンはテレポートの呪文を唱え、去って行った。

タクト「逃げたか…できれば殺したかったが…」

すると、縄を解かれたソレイユとクレセントが駆け寄ってきた。

ソレイユ「タクト、もう毒は大丈夫?」
タクト「ああ、何ともない」
クレセント「病み上がりだから後で少し休みましょうね」
タクト「そうだな」

すると、後ろでは村人たちが怯えていた。そんな村人たちに対し、タクトはある警告をした。

タクト「俺はお前達を殺しはしないが、もうあんな奴らと関わるのはやめるんだな」

そう言い残し、タクト達はオール村を去って行った。タクト達はすぐに次の目的地に向かっていたが、その移動中、シエルプランシュの上にいたタクトとリリシェはある会話をしていた。

タクト「なあ、リリシェ」
リリシェ「何? タクト」
タクト「助けてくれて、ありがとな」
リリシェ「…え?」
タクト「…何だ? 何か変な事言ったか?」
リリシェ「タクトって、ちゃんとお礼言えるんだ~」

すると、タクトは無言になった、どうやら照れているようだ。その様子を見て、リリシェはクスクスと笑っていた。

タクト「…笑うな!」

タクトはシエルプランシュのスピードを上げた。

リリシェ「わわっ! ごめ~ん!!」

奇跡を起こして勝利を収めたタクト達は、温泉で有名な観光地であるユーティ村に向かった。タクトはただ単に休めればいいと思っているが、女性陣は有名な温泉に入りたいと楽しみにしていた。そして、タクト達はユーティ村に到着した。

リリシェ「とうちゃーく!」
タクト「ああ、着いたな」
クレセント「ここの温泉って凄く有名なのよね」
ソレイユ「丁度疲れてたし、入ったら気持ちいいだろうな~」
リリシェ「ささ、行こ行こ! タクト、覗かないでよ?」
タクト「覗いたりしねーよ」

その後、タクト達は宿に行き、そこの大浴場に向かった。大浴場は非常に広く、男湯と女湯で分かれていてもなお広かった。ちなみに、現在は他に誰も客はおらず、タクト達の貸し切り状態であった。女性陣はタクトより先に湯船に浸かり、旅の疲れを癒していた。

リリシェ「う~ん! 気持ちいい~!」
ソレイユ「あったかいね~」
クレセント「旅の疲れが吹っ飛ぶわね~」

湯は熱すぎずぬるすぎず、丁度いい温度であり、その湯の温度で体の疲れや筋肉痛が和らいでいった。すると、ソレイユとクレセントはある事に気が付いた。

クレセント「ねぇ、リリシェ…あなた、意外と胸あるわね…」
リリシェ「え? そうかしら?」
ソレイユ「普通に私達より大きいよ?」
リリシェ「そ…そう? 何か照れるな~」
クレセント「ねえ、どうやったらそこまで大きくなるの?」
リリシェ「え…そう言われても…栄養を摂取するとかかしら…?」
ソレイユ「なるほど、太れって事だね!」
リリシェ「いや…そう言う事じゃ…」

すると、その話が聞こえていたのか、タクトが大浴場の柵を登って大声で叫んだ。

タクト「お前ら! 温泉で変な話をするな! こっちまで聞こえるわ!」

するとリリシェはタクトに対し、大声で返した。

リリシェ「こらタクト! 覗くなっつっただろー!!」
タクト「あ、やべっ」

リリシェに怒られてタクトはすぐに柵から降りた。

リリシェ「あいつ…後でお説教ね…」

その後、タクトは湯船から先に上がり、服を着て宿の個室で休んでいた。すると、しばらくしてリリシェ達がバスローブ姿で帰ってきた。

リリシェ「タークートー! あれほど覗くなって言っただろー!」
タクト「お前らが変な話するからだろ」
リリシェ「じゃあ何? 私達の話を盗み聞きして興奮してたの?」
タクト「盗み聞きしたんじゃなくて、こっちまで聞こえてたんだって!」

すると、リリシェはある事に気づいた。タクトの服が今日まで来ていた物と同じだったのだ。

リリシェ「タクト…一応聞くけど、この服洗ったやつ?」
タクト「いや、今日着てたやつ」
リリシェ「あんた馬鹿? 何で体を綺麗にしてわざわざ汚れるような事してんの!?」
タクト「だってまだ1日しか着てなかったから」
リリシェ「馬鹿! これ今すぐ脱いで! で、またお風呂入って綺麗なやつ着て!」

その話を聞いていたクレセントはくすくすと笑っていた。

リリシェ「え…? 何…?」
クレセント「あなた達って、まるで夫婦みたいね」
リリシェ「はぁ!? 何でこんな奴と!?」
タクト「そうだ、俺はこんなうるさい女を嫁に貰うのは嫌だぞ」
リリシェ「何ですってー!?」
クレセント「ほんと、息ぴったりね」
タクト&リリシェ「だから、こいつと結婚は嫌だって!」

その後、結局タクトはもう1度温泉に入った後、パジャマの代わりに下着とタンクトップを着て寝た。ちなみに、女性陣はネグリジェを着て寝ていた。その夜、タクトは急に夜中に目が覚め、ベランダに向かった。すると、そこには悲しげな顔をして月を見ているクレセントの姿があった。タクトは気になって声をかけてみた。

タクト「お前も眠れないのか? クレセント」
クレセント「タクト…ちょっとね、この戦いが終わった後の事を考えていて…」
タクト「この戦いが終わった後の事…?」
クレセント「あなたも知ってるでしょ? 300年前の大戦が終わった後の私とソレイユの事…」

300年前の大戦、通称、太陽と月の大戦は、ソレイユとクレセントが力を合わせて戦争で失った大陸を元に戻した事で、人類たちはこれが神の与えた最後のチャンスだと思い、戦争をやめたのだ。その後、ソレイユとクレセントは長き眠りについた。そして約半年前、ヴェンジェンスが活動を開始した事で、2人は長き眠りから覚めた。つまり、ソレイユとクレセントは世界に脅威が訪れた時しか目覚めないのである。

タクト「お前達が眠りにつくと言う事は、世界が平和になったと言う事だろ?」
クレセント「でもね、私は怖いのよ、あなた達と別れる事が」
タクト「俺達と別れる事が怖い…か…」
クレセント「ごめんなさい…ほんとに自分勝手って事は分かってるんだけど…私、あなた達と一緒にいるのが楽しいの」
タクト「俺達と一緒にいるのが楽しい…か…」

クレセント「私とソレイユはね、300年前にもあなた達みたいに心を通わせた人間がいたの」
タクト「だが、お前達は眠りについてしまい、目覚めたらその人物の姿はなかった、か…」
クレセント「そう、だからもしそんな事になってしまったら…」
タクト「………」

非常に重い内容の話に、しばらく2人は口を閉じた。すると、クレセントは何かを察知した。

クレセント「…タクト、ヴェンジェンスが来るわ」
タクト「何っ!?」

その時、ベランダに3人の兵士がジャンプで飛び込んできた。タクト達は後ろに跳んで攻撃を回避したものの、3人の兵士はマジックガンと言う魔法を発射する銃で炎魔法のファイアを放ち、タクト達を攻撃した。タクトとクレセントはファイアを回避したが、ファイアは後方にあったドアに命中し、爆発した。その爆音でリリシェとソレイユは目を覚ました。

リリシェ「ななな、何っ!?」
ソレイユ「タクト~、いい加減にしてよ~」
タクト「アホ、何寝ぼけてやがる、早く起きろ、ヴェンジェンスだ」
リリシェ「えええ~!? 私今ネグリジェなのに~」

文句を言いながらも、リリシェとソレイユは武器を召喚した。

タクト「さて、さっさと倒すか」

その時、後ろから真空波が飛んできた。タクトはその攻撃を間一髪回避した。その攻撃の主は、タクト達の知っている人物だった。

リリナ「久しぶりね、あなた達」
タクト「お前は…シーリスの村を攻撃していた指揮官か…!」
リリナ「今はヴェンジェンス特殊部隊の指揮官よ、そしてこの子達が私の部下…」
ターニャ「ターニャよ」
ミーナ「ミーナだよ!」
ノクト「ノクトです」
タクト「んな事どうだっていい、すぐにぶっ殺してやる!」

そう言ってタクトはリリナに斬りかかったが、斬り払われてしまった。

リリナ「驚いた? 私は人間の姿だけど、怪物化した時とほぼ同等の身体能力を持っているのよ」
クレセント「まさか…! あの時体内に吸い込まれたシールの影響!?」
リリナ「ピンポーン、あったり~!」
タクト「化け物め…! ならすぐに楽にしてやる…!」
リリナ「そうはいかないわよ! ブレード・エッジ!!」

リリナは剣を振って真空波を飛ばした。タクトは聖剣エスペリアで防御したが、真空波の衝撃でベランダの外に吹き飛ばされた。

リリシェ「タクトッ!!」

タクトは落下しながらシエルプランシュを取り出し、その上に乗った。そして、そのまま上昇し、ターニャ、ミーナ、ノクトの3人にシエルプランシュに乗ったまま体当たりをして吹き飛ばした。

リリナ「よくも私の可愛い部下を!」
タクト「いや、あの程度じゃ死んでないぞ」

タクトの言った通り、生きていた3人は同時にマジックガンでファイアを放った。だが、タクトは上級風魔法のサイクロンを唱え、竜巻を発生させた。すると、ファイアの炎がサイクロンの竜巻と合体し、炎の竜巻が発生、その炎の竜巻に呑まれ、リリナとその部下が吹き飛ばされた。

タクト「くたばったか?」

だが、なおもリリナは向かって来た。

リリナ「許さない…! ブレード・エッジ!!」
タクト「同じ手を二度も食うかよ」

タクトは真空波を炎魔法のファイアで迎撃し、爆裂魔法のエクスプロージョンで追撃、その爆発でリリナを吹き飛ばした。

タクト「驚いた、力の差が歴然だな」
リリナ「うぅぅ~! 覚えてなさいよ~!!」

そう言いながらリリナは部下を連れてすたこらと逃げて行った。

ソレイユ「あれを食らって生きてるなんて、生命力がゴキブリ並だね」
タクト「さっさと任務失敗の責任を取らされて処刑されてろ」

翌朝、タクト達は宿を破壊した事で、宿主にカンカンに怒られた。だが、事情を説明した事と、タクトが弁償として金を払った事により、大事には至らなかったものの、1年は宿に来ないでくれと言われてしまった。宿主曰く、宿を壊した事は許さないが、事情が事情なのと、一応弁償金を払ったから大目に見てこれぐらいのペナルティで済ましたとの事。そして、タクト達はあまりゆっくり休めず、そのまま旅に出る事になった。

リリシェ「あ~も~! 休むはずが逆に疲れちゃったじゃない!」
ソレイユ「ほんと、ヴェンジェンスって迷惑な奴ら!」

その旅の途中、クレセントはタクトにある事を聞いた。

クレセント「ねえ、タクト、私とソレイユがいなくなっても、私の事を覚えていてくれる?」
タクト「もちろんだ、2人共仲間だからな」
クレセント「それを聞いて安心した、ありがとう」

いつか別れは必ず来る、その別れに対する恐れを乗り切ってクレセントはヴェンジェンスと戦う事を決意する。そして、タクト達はヴェンジェンスを倒す為、旅を続けるのだった。

作戦に失敗したリリナ達がクライムパレスに戻ると、最近よく作戦の邪魔をするタクト達をどうするか会議が行われていた。

リリナ「ただいま戻りました、作戦の失敗、申し訳ございません」
クライム「別に構わないさ、それより、そのタクト達は中々やっかいだな」
リリナ「はい、4人いるのですが、4人共かなり強くて…」
フロスト「彼らの結束力はかなりのものだよ」
ポディスン「あいつら、私のお気に入りのポイズンロッドを壊したの! 許せない!」

ヴェンジェンスのメンバーがタクト達の強さを物語ると、四天王の1人であるアオが興味を示した。

アオ「ねえ、クライム、私が行こうか?」
クライム「いや、大丈夫さ、まだグラムが彼らと戦ってないからね」

グラムはマイペースな性格ではあるが、槍と魔法の腕前が高く、何より分析力が高いのである。

クライム「グラム、行ってくれるか?」
グラム「ん~、分かった、暇だから行ってくるよ、でも…」
クライム「でも? 何か必要か?」
グラム「クライム様の側近の2人を貸してくれる?」
クライム「デクシアとアリステラか? いいだろう、連れて行け」
グラム「ありがとう、じゃ、行ってくるね」

そう言って、グラムはテレポートの呪文で部下と共に移動した。

一方その頃、タクト達はカンナ村の宿で休んでいた。だが、クレセント以外の3人は全員ベッドの上でダラダラとしていた。長旅と度重なる戦いで疲れたのだろうが、流石に怠けすぎであった。

クレセント「もう…! 3人共ダラダラしすぎよ!」
タクト「ったく、お前は俺の親かよ」
リリシェ「まあ、たまにはこんな日もいいんじゃない?」
クレセント「あなた達ねぇ…」

すると、ソレイユがある疑問を口にした。

ソレイユ「ねえ、ヴェンジェンスの本拠地って、どこにあるのかな?」

ヴェンジェンスの本拠地は、世界各地の軍が探しているのだが、未だどこにあるか分かっていないのである。それをただの旅人であるタクト達が4人で探しているのだ。

タクト「それを俺達が探してるんだろ」

すると、リリシェがある提案をした。

リリシェ「ねえねえ、今度ヴェンジェンスが現れたら捕まえて聞き出しましょうよ」
タクト「捕まえるはいいが、そう簡単に吐いてはくれないだろ…」
ソレイユ「大丈夫! そういう時は拷問をして聞き出せば…」
クレセント「ソレイユ! 聖なる精霊である私達がそんな物騒な事言わないの!」
ソレイユ「じょ…冗談だって…怖いな~クレセントは…」

すると、外が急に騒がしくなった。何が起こったのか確認する為に、タクト達はベランダから外を見た。

タクト「何だ…?」

外には、槍を持った人物と、その両脇に剣を持った人物がいた。

リリシェ「あの3人は、多分ヴェンジェンスだよ!」
タクト「だな、外に出るぞ!」

タクト達は武器を召喚し、外に出た。外では先ほどの3人が宿の入り口近くで待機していた。

グラム「やあ、君達がタクト一派だね?」
タクト「誰だ、名を名乗れ」
グラム「僕はグラム・ディオース、ヴェンジェンス四天王の1人である槍使いだよ」
クレセント「やはりヴェンジェンスだったのね…!」

すると、グラムは後ろに下がって取り巻きの2人を前に出した。

グラム「まずはこの2人を相手にしてよ、僕と戦うのはそれからさ」
タクト「お前はどうやら臆病者らしいな、いいだろう、すぐに蹴散らしてやる」

タクトは剣を取り、デクシアとアリステラの2人を相手にした。だが、デクシアとアリステラはかなりの剣の腕前であり、素早い連続突きや、素早い連続斬りを前にタクトは苦戦した。だが、すぐに仲間達が援護を開始した。

クレセント「タクト! 援護するわ! ルナ・カッター!!」
ソレイユ「私も続くよ! サン・フレイム!!」

クレセントとソレイユはそれぞれ三日月型の真空波と炎を放った。デクシアとアリステラはそれを素早く回避したが、そこをタクトとリリシェが追撃した。

タクト「食らえっ!!」

タクトはデクシアの胸に蹴りを放ち、そのまま吹き飛ばした。

リリシェ「エクスプロージョン!!」

続けてリリシェもアリステラの胸に至近距離でエクスプロージョンを放ち、吹き飛ばした。こうして、デクシアとアリステラの2人は戦闘不能になった。

アリステラ「も…申し訳ございません、グラム様…」
グラム「大丈夫、君達は帰っていいよ、後は僕に任せて」
デクシア「は…はい…」

デクシアとアリステラはテレポートを唱え、その場を去って行った。

グラム「さてと…僕は気付いちゃったな、君達の弱点に」
タクト「何だと!?」

グラムのその言葉に、タクト達は驚きを隠せなかった。どうせただの強がりだろうと思ったが、グラムの口から語られたのは、的確な事実であった。

グラム「まず、君達4人の主戦力は君さ、タクト、それを他の3人が援護する事で初めて僕達を凌ぐ力を持っているんだ」
タクト「…それがどうした」
グラム「だから、早い話が君の動きを封じてしまえば、後はどうにでもなるって事さ」

そう言ってグラムは黒っぽいインクの様な物を指で弾いて飛ばし、タクトの服に付着させた。すると、タクトは急に地面に倒れ込んだ。

リリシェ「タクト!?」
グラム「今タクトに付着させたものはグラビティゲル、早い話が付着した者の重力を異様に重くするゲルさ」

タクトは重力に耐え、何とか立ち上がろうとしていたが、あまりの重力に立ち上がれずにいた。

グラム「ふふふ、これでゆっくり他の3人を倒せるね」
クレセント「あまり私達を舐めない方がいいわよ!」
ソレイユ「そーだそーだ! 私達だって強いんだから!」

ソレイユとクレセントはそれぞれサン・フレイムとルナ・カッターを放った。だが、グラムは掌から光の壁を発生させ、2人の技を跳ね返した。ソレイユとクレセントは跳ね返って来た自分の技でダメージを受けた。

ソレイユ「ッ! 何で!?」
グラム「僕の防御魔法、リフレクトバリアの能力さ、これは魔力を使った攻撃なら全部反射できる」
クレセント「そんなっ…!!」

すると、リリシェが剣を取り、グラムに攻撃を仕掛けた。

リリシェ「魔法が駄目でも、私達には剣があるっ!!」

だが、グラムは大型の槍であるストロングランスで受け止めた。

グラム「忘れた? 僕は槍の腕前なら誰にも負けない自信があるんだよ?」

すると、グラムは槍を強く握り、高速回転を放った。

グラム「サイクロンランス!!」

サイクロンランスはグラムの必殺技であり、竜巻の様に高速回転を放ち、全てを吹き飛ばす技である。そして、その技を近距離で食らったリリシェはタクトの近くに吹き飛ばされた。

リリシェ「あっ…うぐっ…体が…動かない…」

リリシェはサイクロンランスと、体を強く打ったダメージで重傷を負った。

タクト「くそっ…! 俺さえ動ければっ…!!」

ソレイユとクレセントは2人がかりでグラムに挑むが、2人もサイクロンランスで吹き飛ばされてしまった。その時、タクトは傷つけられる仲間を見て、我慢の限界に達した。

タクト「…いい加減にしろよ…お前らはまた奪うのか…あの時みたいに…!!」

すると、立ち上がれないはずのタクトが急に立ち上がり始めた。

グラム「馬鹿な…! グラビティゲルを食らった者は立ち上がれないはず…!」

それでもなお立ち上がろうとするタクトに圧倒されたグラムは、恐怖に近い感情を感じていた。

グラム「や…やめろ…! 無理に立ち上がると体が崩壊するぞ!!」
タクト「ごちゃごちゃうるせえよ…今はお前を殺せればそれでいい…!!」

タクトは気合で何とか立ち上がり、聖剣エスペリアを手に取った。タクトの気合に敗北したグラビティゲルは消滅し、その役目を終えた。

グラム「馬鹿な…! グラビティゲルに勝利する人間など聞いた事がない…!!」
タクト「これで邪魔なものは消えたな、さて、俺の仲間を傷つけた借りを返させてもらうぞ!!」

地面を蹴り、タクトはグラムの方に向かって行った。

グラム「くそっ! エクスプロージョン!!」

グラムはエクスプロージョンの呪文を唱えたが、タクトにあっさりと斬り払われた。

タクト「小細工なんかしてんじゃねえよ…!」

タクトは聖剣エスペリアに魔力を纏い、魔力の剣を生成した。そして、空高く飛び上がり、剣を振り下ろした。

タクト「ブレイヴ・ブレード!!」

対して、グラムはストロングランスを振り、竜巻を発生させた。

グラム「ランス・トルネード!!」

タクトのブレイヴ・ブレードはランス・トルネードを斬り裂き、そのままグラムのストロングランスを両断した。

グラム「くっ…! 僕のストロングランスが…!!」
タクト「チッ、てめえを叩き斬るには魔力が足りなかったらしいな」
グラム「くそっ!」

その時、グラムの脳内にクライムからのメッセージが届いた。

クライム「グラム、お前の負けだ、ここは大人しく引き下がれ」
グラム「クライム様…! 了解です、今から帰還します」

グラムは負けを認め、テレポートの呪文でその場を去って行った。

タクト「フン、負けを認めて逃げ帰りやがっ…」

無理して立ち上がったタクトは体にかなりのダメージを蓄積させていたらしく、タクトはその場にバッタリと倒れ込んだ。その後、タクトが目を覚ました場所は宿のベッドであった。隣のベッドには、包帯だらけのリリシェがいたが、ソレイユとクレセントは傷が完治しており、近くで立っていた。

タクト「…何があった?」
クレセント「2人共凄い怪我をして気を失っていたのよ」
ソレイユ「だから、私達が運んで寝かせてあげたんだよー!」
リリシェ「でも、あなた達は何で怪我が治っているの?」
クレセント「私達は精霊だから傷の完治が人間より早いのよ」
タクト「便利だな、お前らは」

すると、リリシェがある事をタクトに聞いた。

リリシェ「ねえ、タクト、あなたは私達の事をとても大切に思ってるんだね」
タクト「え…? ああ、あれはその場のノリで言っただけだ」
リリシェ「本当? ノリで言っただけなら立ち上がれなかったし、あそこまで怒らなかったでしょ?」
タクト「あ…あれは、だな…」
リリシェ「言っちゃいなよ、私達の事、大切なんでしょ?」
タクト「うっ…うるさい!」
リリシェ「照れてる~」

タクトが照れる様子を見て、ソレイユとクレセントはクスクスと笑っていた。その後、リリシェはタクトに1つ頼みごとをした。

リリシェ「ねえ、タクト」
タクト「…何だ?」
リリシェ「この怪我が完治したら、みんなで海へ行こうよ」
タクト「海へ、か?」
リリシェ「うん、駄目かな?」
タクト「…たまにはいいだろう」
リリシェ「本当? ありがとう!」

すると、ソレイユとクレセントがタクト達の近くに近寄って来た。

クレセント「それじゃ、早速治癒魔法をかけましょうかね」
タクト「治癒できるなら早く言え!!」

グラムとの戦いの傷を癒したタクト達は、カンナ村の近くの海へと遊びに来ていた。この頃ずっと戦いが続いていた為、その息抜きである。4人は水着に着替え、海に向かった。そして、タクトを除いた3人は海で泳ぎ始めた。

リリシェ「う~ん! 気持ちいい~!」
ソレイユ「そうだね!」
クレセント「ずっと戦い続きだったから丁度いいわ」

だが、タクトは濡れるのが嫌いであり、一人浜辺にシートを敷いて、パラソルの下で休んでいた。それに気づいたリリシェは、タクトの方に向かった。

リリシェ「ねえ、タクトは泳がないの?」
タクト「俺は濡れるのが嫌いだ、特に海の水はな」
リリシェ「楽しいよ? ね、行こ」
タクト「断る」
リリシェ「む~」

すると、ソレイユとクレセントがやって来た。

ソレイユ「そう言わず、タクトも泳ごうよ」
クレセント「そうよ、せっかく海に来たんだから泳がないと!」

そう言ってタクトの腕を引き、無理やり海に連れて行った。

タクト「おい! 何をする! やめろ!」
ソレイユ&クレセント「そ~れっ!」

2人はタクトを海に投げ込んだ。タクトは2秒ほど海に沈んだ後、すぐに浮上した。いきなり海に投げ込まれたタクトはカンカンに怒っていた。

タクト「馬鹿野郎! いきなり海に投げ込むな! 鼻に海水が入ったじゃないか!」
リリシェ「だってタクトが中々泳がないんだも~ん」
タクト「お前らなぁ…!!」

タクトは海から上がり、リリシェ達を追い掛け回した。

リリシェ「ちょっと…怖い怖い…!」
タクト「お前ら絶対許さん!!」
ソレイユ「ごめんごめん! ただの冗談だって!」
クレセント「てか、女の子を追いかけるなんて真似はやめなさいよ!」
タクト「んな事知るかー! 濡れた仕返しだー!」
リリシェ「ひ~っ!!」

その後、タクト達は10分ほどリリシェ達を追い回したが、最終的にリリシェ達が海に入った事で追いかけるのをやめた。

タクト「お前ら! 海に入るなんて卑怯だろーが!」
リリシェ「タクト…そんなに濡れるの嫌…?」
タクト「濡れたら気持ち悪いし、海水はベトベトするからな」
クレセント「タクトの前世って、ネコなのかしら…?」
ソレイユ「それ、言えてる」

そして、日が暮れ始めた頃、リリシェ達は海から上がった。ちなみに、リリシェ達が海で泳いでいる間は、タクトはずっとパラソルの下でシートを敷いて寝ていた。そして、4人は水着から普段着に着替え、パラソルとシートを収納し、帰る準備を整えた。

リリシェ「楽しかったね~」
ソレイユ「ね~」
クレセント「また来れたらいいわね」
タクト(また来るのか…もう濡れるのは勘弁…)

すると、どこからか歌声が聞こえて来た。その声の主は海辺の近くにいた青い髪の少女だ。海の様に青い髪をツインテールにしたその少女の歌声は、綺麗な歌声ではあったが、どこか悲しげな歌声でもあった。その少女に興味を持ったリリシェは、話しかけてみる事にした。

リリシェ「綺麗な歌声ね」
???「…誰?」
リリシェ「私はリリシェ、で、あっちにいるのが…」
???「タクト、ソレイユ、クレセント、でしょ?」
リリシェ「!! 何で私達の名前を…!!」
???「だって私はヴェンジェンス四天王の1人、アオだもん」
タクト「何ッ!?」

自らの事をアオと名乗ったその少女は、タクトの方に向かって行った。

アオ「…ねぇ、何であなたは私達と戦うの?」
タクト「何でって、お前らヴェンジェンスが罪もない人間を傷つけるからだろ」
アオ「私達が…罪もない人間を傷つけるから…?」
タクト「ああ、そうだ」

すると、アオは海の方を見つめた。そして、タクトにある質問をした。

アオ「ねえ、クライム・ゼノロストって人を知ってる?」
タクト「見た事はないが、名前だけなら知ってるぞ、ヴェンジェンスの総帥だろ」
アオ「…私ね、昔の記憶がないの…私の一番古い記憶は、草原の真ん中で倒れていた事…それをクライムに救ってもらったの…」
タクト(昔の記憶がない…? この少女、孤児か何かか…?)
アオ「クライムは私にとって大事な人なの…でも、何であなた達はクライムと戦っているの…?」

その質問に対し、タクトは答えた。

タクト「それもさっきと同じだ、クライムの命令でその部下が、罪もない人間を傷つけるからだ!!」

タクトがそう答えると、アオは悲しそうな表情で黙った。すると今度は逆に、タクトがアオに質問をした。

タクト「じゃあ逆に聞くぞ、お前はクライムのしている事をどう思うんだ?」

その質問に対し、アオはすぐに答えた。

アオ「クライムがやる事なら、私は協力するよ」
リリシェ「協力って…あなた…」
アオ「私ね…何故か体から血の匂いが消えないんだ…きっと記憶を失う前は沢山の人を殺したんだと思う…だから…」

アオは巨大な鎌、スラッシュシックルを召喚し、手に取った。

アオ「クライムの為なら、あなた達を殺すよ」

それに対し、タクト達も武器を召喚し、手に取った。

タクト「やはりこうなるか、くそっ! ヴェンジェンスは犯罪者の集まりだ!!」

アオはスラッシュシックルを振り、真空波を2つ発生させた。その真空波を、タクトとリリシェは斬り払った。だが、アオは続けてスラッシュシックルを振って小型の竜巻を発生させた。

タクト「散開だ!」

4人はそれぞれ別の方向に散開し、竜巻を回避した。そして、タクトはアオに斬りかかった。しかし、アオはスラッシュシックルでタクトの聖剣エスペリアを受け止めた。

アオ「なるほど…他の四天王を撤退させるだけのことはあるね…でも…」

アオはタクトを斬り払った。すると、アオは宙に浮き始めた。

リリシェ「えっ!? あの子…空に浮いてる!?」
アオ「…消えちゃえ」

アオはタクト達に対し、雷を数発落とした。雷の着弾地点では大爆発が発生し、タクト達は爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。そして、タクト達は地面に倒れ込んだ。アオは地面に着地し、タクト達にとどめを刺そうと向かって来た。

アオ「これであなた達も終わりだね…」
タクト「くっ…! このままでは…!!」
アオ「あなた達はよくやった方だよ、お疲れ様」
タクト「ふざけるな…! 俺は死ねない…! 死ねないんだ…!!」

すると、リリシェ達はタクトに対し、掌を向けた。

リリシェ「タクト! 私達の力をあなたに与えるわ!」
ソレイユ「この力であいつを倒して!」
クレセント「そして必ず勝って!」

3人の掌からは魔力の光が放たれ、タクトにその光が当たった。すると、タクトは立ち上がり、剣を構えた。

アオ「嘘…!?」
タクト「3人がくれた力…無駄にはしない!!」

タクトは剣に魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。これはタクトの得意技であるブレイヴ・ブレードだが、魔力の剣がいつもより長くなっていた。これはタクトがこの一撃に全てを賭けているからである。

タクト「これで決める…! ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!!」

タクトは空高く飛び上がり、アオにハイパー・ブレイヴ・ブレードを振り下ろした。

アオ「プロテクト・シールド!!」

アオは鎌を横に構えて、魔力のシールドを発生させた。ハイパー・ブレイヴ・ブレードとプロテクト・シールドはしばらく競り合ったが、負けると悟ったアオがプロテクト・シールドの発生源であるスラッシュシックルを投げ捨てて脱出し、スラッシュシックルは両断された。

タクト「まだだッ! もう一撃!!」

タクトはアオに対し、ハイパー・ブレイヴ・ブレードを振った。

アオ「くっ! 撤退!!」

ハイパー・ブレイヴ・ブレードが命中する直前に、アオはテレポートの呪文で撤退した。こうして、危機は去ったのである。

タクト「…何とか…勝ったぞ…」

力を使い果たしたタクトは仰向けに倒れそうになったが、リリシェ達が支えてくれたことで何とか倒れずに済んだ。

リリシェ「お疲れ様、タクト」
ソレイユ「タクトのおかげで助かったよ、ありがとう」
クレセント「流石はタクトね」
タクト「はは…流石に疲れた…早くゆっくり休みたい…」
リリシェ「じゃあ、私達が宿まで運んで行ってあげるね!」
ソレイユ「それじゃあ、しゅっぱーつ!!」

タクトはリリシェとソレイユに運ばれて行った。一方のクレセントは、タクトの活躍を見て、思う事があった。

クレセント(タクトの力は…この世界を救ってくれるかもしれない…もしかしたら、タクトはこの時代の希望の剣士なのかもしれないわ…)

そう思いながらクレセントはリリシェ達の後を付いて行った。今日は海で楽しんだが、まだヴェンジェンスとの戦いは続く…ヴェンジェンスを倒すまで、タクト一派の戦いは終わらないのだ。


この世界のどこかにあるクライムパレスでは、タクト達と戦って帰ってきたアオが、クライムにタクト達の強さを伝えていた。

アオ「クライム、あいつら案外やるよ」
クライム「そうか…アオを含めた四天王たち全員がそう言うなら、彼らは中々やると言う事だな…」

クライムはこれまでにない程に考えていた。四天王最強のアオが撤退するほどの力、たった4人の旅人が何故これほどまでの力を持っているのか。そして、彼らを倒す為にはどうすればいいのか。すると、フロストがいい作戦を見つけたのか、クライムにある提案をした。

フロスト「クライム様、僕にいい作戦があります」

そのフロストの表情は自信に満ちた表情であった。

クライム「フロスト、その様子からすると、いい作戦なんだな」
フロスト「はい! 僕の能力の全てをかけた作戦です!」
クライム「分かった、ここはお前に任せる、頼んだぞ」
フロスト「はい!」

すると、フロストはリリナ達特殊部隊にも呼び掛けた。

フロスト「リリナ、お前達特殊部隊にも一緒に行ってもらうよ」
リリナ「はっ! 了解です、フロスト様」

フロストとリリナは、クライムに敬礼をして部屋を出て行った。

クライム「さて…彼らの作戦はうまく行くかね…」

一方のタクト達は、カンナ村を後にし、河原にテントとキッチンを構えて休んでいた。

リリシェ「久しぶりだねーこうやってキャンプするの」
タクト「ああ、そうだな」

河原では、ソレイユとクレセントが洗濯をし、リリシェがキッチンで料理を作り、肝心のタクトは椅子の上でくつろいでいた。

リリシェ「タークートー! あんたも何か手伝いなさいよ!」
タクト「嫌だ、めんどくさい」
リリシェ「働かざる者食うべからずって言葉知らないの?」
タクト「知らん」
リリシェ「馬鹿ーっ!!」

すると、突然キッチンが凍り付き、崩れ落ちた。幸い、キッチンで料理を作っていたリリシェは無事だったが、リリシェは突然の出来事に、目を丸くして固まっていた。

タクト「…お前、料理下手くそだな」
リリシェ「馬鹿! これはどう見てもヴェンジェンスの仕業でしょ!」
フロスト「せいかーい」

そこには、フロストとリリナ、そしてターニャ、ミーナ、ノクトが立っていた。突然現れた彼らに対し、タクト達はすぐに戦闘態勢を整えていた。

タクト「お前…! どう言うつもりだ!!」
フロスト「何、僕は君達を殺すよう言われてるけど、不意打ちで殺すのは嫌ってだけさ」
リリシェ「最低限の人間性を備えているのは褒めてあげるわ、でも…料理どうしてくれるのよーっ!!」

リリシェがさっきまで作っていた料理は、キッチン共々凍り付き、バラバラに崩れ去っていた。

フロスト「ごめんねー、ちょっと驚かしてあげようとしただけさ」
リリシェ「この馬鹿ーっ!!」
タクト「俺の料理…腹減った…」

すると、リリナとその部下の3人がタクト達の周りを取り囲んだ。よく見ると彼女たちの掌には、電撃が発生させられていた。

ソレイユ「一体何をする気だろう…」
クレセント「少なくともいい事ではなさそうね…」
フロスト「フフフ、すぐに分かるさ、やれっ!!」

フロストの合図で、リリナ達4人は電撃を掌から放った。すると、その電撃は檻の形になった。その様子は、まるで檻に閉じ込められた動物のようであった。

リリシェ「何…これ…?」
リリナ「エレキ・トラップ、複数人で放つ合体魔法よ」
フロスト「流石の君達もこれからは脱出できないだろう? さあ、どうする?」

エレキ・トラップは少しずつ小さくなり、タクト達に近づいてきた。

リリシェ「嫌ーっ! 感電するーっ!!」
クレセント「落ち着いて、リリシェ」
ソレイユ「でも、このままじゃ…」

すると、タクトは突破方法がひらめいたのか、ソレイユとクレセントの方を向いた。

タクト「ソレイユ! クレセント! リリシェを掴んで浮いていてくれ!」
クレセント「分かったわ!」

ソレイユとクレセントはリリシェの脇の部分を掴み、浮遊した。その間、タクトは剣に風の魔力を纏い、真空の刃を生成した。そして、そのまま回転斬りを放った。

タクト「エアロ・ブレード!!」

真空の刃はエレキ・トラップを斬り裂き、その風圧でリリナとその部下を吹き飛ばした。

フロスト「何っ!?」
タクト「ふぅ…危なかった…」

エレキ・トラップが消滅し、安全になった為、ソレイユとクレセントはリリシェと共に地上に降りた。

リリナ「フロスト様…、ごめんなさい…」

作戦は失敗したが、フロストはそれほど困っていない様子であった。どころか、まだ本気を出していないようにも見えた。

フロスト「大丈夫さ、本命はこれからだ!」
タクト「何っ!?」

フロストは地面に手を付いた。すると、そこから地面がみるみる凍り付いて行った。

リリシェ「やばっ! 逃げましょう!」

だが、逃げようとしても足が動かなかった。それは、足と地面が一体化したかのようであった。

タクト「何故だ…! 足が動かん…!!」
フロスト「僕のアイシクル・フィールドは、氷魔法と重力魔法のハイブリッド! だから獲物を逃さず凍らせる事ができるのさ!」

氷はタクト達の方にまで接近した。ソレイユはサン・フレイムを放ったものの、アイシクル・フィールドの凍結力には勝てず、とうとうタクト達の足元にまで氷が接近した。

リリシェ「嫌ーっ! 私まだ死にたくないーっ!!」
タクト「アホ! 諦めるな!!」
フロスト「さあ、こっからがお楽しみの時間だよ」

アイシクル・フィールドはタクト達の足から足首を凍結させた。凍結した瞬間、激しい痛みが足を襲った。

タクト「ぐあああああっ!!」
リリシェ「嫌ぁぁぁっ!!」
フロスト「ハハハハハ! いいねえ! いい声で泣くねえ!!」
クレセント「くうぅっ!! まだ…ヴェンジェンスを倒してないのにっ…!!」
ソレイユ(みんな…!!)

その時、ソレイユは思った。自分は太陽の光から生まれた精霊なのに、何をやっているんだと。自分が太陽の剣士なら、仲間を救いたい。そしてソレイユは、自分の真の力を解放させた。

ソレイユ「はあああぁぁぁぁぁッ!!!」

ソレイユは自身の体温を急上昇させた。そして、その体温を氷の方に送り、氷を解凍させた。ソレイユは自身の体温をコントロールさせる事で、近くにいるタクト達に火傷を負わせる事なく、氷と溶かす事に成功したのである。

フロスト「な…何故だっ…!? 僕のアイシクル・フィールドは、破られた事のない最強の技なのにっ…!!」
ソレイユ「知ってる? 寒さには下限があるけど、熱さには上限がないって事」
フロスト「何っ!?」
ソレイユ「私は太陽の剣士ソレイユ! あなたの氷じゃ、私を凍らせる事はできない!!」

その時、フロストにはソレイユが真夏の太陽のように見えた。夏の空にさんさんと輝く熱い太陽、フロストの自信は氷の様に砕け散ってしまった。すると、アイシクル・フィールドは、完全に溶かされ、タクト達は身動きが取れるようになった。

リリシェ「あっ! 動ける!」
ソレイユ「はぁ…よかった…」

力を使い果たしたソレイユは、力を失いぐったりとしていた。

タクト「クレセント! ソレイユの事はお前に任せる!」
クレセント「分かったわ!」
タクト「リリシェ! 行けるな?」
リリシェ「うん! まだ足が痛むけど、行けるよ!」

タクトとリリシェは剣を構え、フロストの方に向かった。

フロスト「まだだ! まだ僕は負けてない!!」
タクト「諦めが悪いんだよ…!!」

タクトとリリシェはフロストに攻撃を仕掛けるが、凍傷によって痛む足で無理やり動いている為、足取りがあまりよくなく、スピードでフロストに負けていた。

フロスト「その足じゃ、僕には勝てないね!」

フロストはコールドブレードを放った。コールドブレードは、冷気を纏った剣で斬り裂く技である。タクトとリリシェはそれを剣で防御したが、反動で吹き飛ばされてしまった。

タクト「ぐぅっ…!!」
リリシェ「どうしよう…この足じゃ勝てないかも…」
タクト「アホ! 諦めてどうするんだ!!」
リリシェ「アホって何よーっ!!」

その時、タクトはふと思いついた。相手が氷使いなら、炎が弱点じゃないかと。

タクト「リリシェ、何か炎魔法使えるか?」
リリシェ「え? ファイアが使えるけど…」
タクト「それを俺の聖剣エスペリアに放て」
リリシェ「うん、何か知らないけど分かった」

リリシェはタクトの聖剣エスペリアにファイアを放った。

フロスト「ハハハ! 自分の剣を燃やしてどうするんだ!!」
タクト「…いや、これでいい」

すると、聖剣エスペリアからは巨大な炎の刃が生成されていた。その刃は、ブレイヴ・ブレードよりも巨大であった。

タクト「俺の聖剣エスペリアには、魔力を増幅する能力がある、俺がブレイヴ・ブレードやエアロ・ブレードを使えるのもこのおかげだ」
リリシェ「じゃあ、剣に直接魔法を放ったら?」
タクト「その時は、いつもより巨大になるだけさ」

タクトは巨大な炎の刃をフロストに振り下ろした。あまりの巨大さに、フロストは回避しきれず、その炎の刃をモロに食らってしまった。

フロスト「うわあああああっ!!!」

フロストの周りには巨大な火柱が発生し、火柱が収まった時には、フロストは大火傷を負い、地面に倒れ込んだ。

リリナ「フロスト様!!」

リリナとその部下はフロストの元へ向かった。そして、フロストを背中に背負い、タクト達に一言言い放った。

リリナ「あんた達、今度会ったら覚えときなさいよ!!」

そう言い残し、リリナ達は去って行った。

タクト「負け犬の遠吠え…か…」
リリシェ「てか、足痛った~」
タクト「うっ、言われてみれば…」

戦いが終わり、忘れていた凍傷に苦しみ出したタクト達。するとそこにクレセントがやって来た。

クレセント「私が治癒魔法で治してあげるから、安心して」
リリシェ「助かるよクレセント~」

クレセントの治癒魔法で完全回復したタクト達は、フロスト達に邪魔された休憩の続きを取る事になった。

リリシェ「さーて! 私は料理を作りましょうか!」
タクト「キッチンぶっ壊されたのにか?」
リリシェ「あ…」

リリシェは忘れていた、愛用のキッチンがフロストに破壊された事を。それを見かねたタクトが、代わりになるものをリリシェに貸した。

タクト「仕方ねえ…これを貸してやるよ」
リリシェ「ありがとー!…って」

タクトが取り出したものは、バーベキューコンロであった。

リリシェ「これ、バーベキューに使う奴じゃないの!!」
タクト「仕方ないだろ、これしかないんだから」
リリシェ「馬鹿ーっ!!」

すると、クレセントと体力を回復させたソレイユがやって来た。

ソレイユ「何々ー? バーベキューするの?」
クレセント「あら、それは楽しそうね」
タクト「ほら、こう言ってるぞ」
リリシェ「…はぁ、まあ、たまにはいっか」

タクト達に敗れ、帰ってきたフロストは、以前より強くなったタクト達の強さを思い知らされた。4人全員が結束して生まれたその強さは、もう四天王の誰が挑んでも勝てないのではないか、フロストは1人、そう考えていた。すると、目の前にポディスンが現れた。

ポディスン「やあやあフロスト、浮かない顔だね~」
フロスト「ポディスンか、いや、ちょっとね…」
ポディスン「タクト一派の事かな?」
フロスト「うん…あいつら、以前より強くなっててね…僕の作戦であと一歩まで追い詰めたんだけど、それも破られちゃってさ」
ポディスン「ふぅん…アイシクル・フィールドが破られたのか~でも大丈夫!」
フロスト「その様子、何か作戦があるみたいだね」
ポディスン「うん! 私の猛毒で、今度こそあいつらの息の根を止めてあげるんだ!」
フロスト「ポディスンの猛毒なら、今度こそ倒せるよ! 頑張ってね!」
ポディスン「ありがとー! じゃ、ちょっと行ってくるね!」

フロストとの戦いが終わったその夜、タクト達はテントで休んでいた。タクトのいるテントは小さい1人用のテントだが、リリシェたち女性陣のいるは3人用の大きめのテントである。流石に旅の仲間と言えど、男と女は一緒にはいれないのである。ちなみに、タクトのいるテントはタクトの私物で、リリシェ達のいるテントはリリシェの私物である。タクトがテント内の布団の上で本を読んでいると、テントの外からリリシェの呼び声が聞こえた。

リリシェ「ねえ…タクト、入っていい?」
タクト「リリシェか? 何か用か?」
リリシェ「うん…ちょっと聞きたい事があるの」
タクト「分かった、入っていいぞ」

リリシェはテントの中に入ったが、1人用のテントの狭さに少し戸惑っていた。2人は仕方なく、テント端に寄り、話を始めた。

タクト「で? 聞きたい事って何だ?」
リリシェ「タクトってさ、ヴェンジェンスを倒した後はどうするの?」
タクト「ヴェンジェンスを倒した後か? そうだなぁ…」

タクトはその問いにしばらく考えていた。この旅の目的はヴェンジェンスを倒す事ではあるが、ヴェンジェンスを倒した後の事はあまり考えていなかったからだ。リリシェのその問いにしばらく頭を悩ませた後、タクトは答えを出した。

タクト「多分だが、今と変わらず旅を続けていると思う」
リリシェ「えっ? 何で?」
タクト「それはな、ヴェンジェンスを倒して平和になった世界を見て回りたいからだ」
リリシェ「へ~、旅をしても結局旅を続けるのね」
タクト「まあ、こう見えても俺は旅人だからな」
リリシェ「そう言えば、タクトと最初に会った時は1人で旅をしてたっけ」

そんな話をしていると、タクトもリリシェに聞きたい事が思い浮かんだ。

タクト「そう言うお前も、ヴェンジェンスを倒した後は何をするんだ?」
リリシェ「えっ!? そ…そうね…」

タクトのその問いに、リリシェも頭を悩ませた。リリシェはこの旅にはただの興味本位で付いて来た訳であり、タクトのように明確な目的は持ってないからである。リリシェはしばらく考えた後、答えを出した。

リリシェ「私もタクトと同じかな、また再び旅に出るわ」
タクト「それは何故だ?」
リリシェ「忘れた? 私もこう見えて旅人なのよ?」
タクト「…ミニスカートを履いてリボンを頭に付けてるお前が旅人?」
リリシェ「失礼ね! あんたと違ってファッションには気を使ってるのよ!!」
タクト「フッ、お前、本当に面白い奴だな」

すると、タクトはリリシェにある事を提案した。

タクト「なあ、お前も旅に出るなら、俺と一緒に来ないか?」
リリシェ「えええ!? いきなり、何!?」

リリシェはタクトのその言葉を告白と捉えてしまった。こんなムッツリした男からいきなり一緒に来ないかと言う言葉が飛び出したからである。だが、タクトから帰ってきたのは彼らしい言葉であった。

タクト「いや、お前の料理美味いからさ、毎日食いたいし」

その言葉に、リリシェは嬉しくはあったが、少しホッとした思いもあり、少し怒りも覚えた。だが、リリシェはしばらく考え、答えを出した。

リリシェ「べ…別に一緒に行ってあげてもいいけど、この旅が終わるまで考えらせてくれない?」
タクト「この旅が終わるまで? ああ、いいぞ」
リリシェ「あ…ありがと…じゃ、私帰るね」

すると、外からクレセントがタクト達を呼ぶ声が聞こえた。その声の様子からすると、かなり焦ってる様子であった。タクト達が慌てて外に出ると、そこには猛毒に侵された女性がいた。

リリシェ「これはどういう事!?」
クレセント「私が外で涼んでいると、ふらふらとした足取りでここに倒れ込んだの」
ソレイユ「多分、この女の人、猛毒に侵されてるよ」

すると、タクトはある人物を思い出した。オール村で出会ったヴェンジェンス四天王の1人、ポディスンである。

タクト「おい! お前、誰にやられた!?」
女性「ど…毒猫族の女の子に…」
タクト「やはりな、この女をこんな目に合わせたのはポディスンだ!」
クレセント「ポディスンってあの…!」
ソレイユ「あの酷い猫女ね!」
リリシェ「なら、私が解毒できるわ! 任せて!」

リリシェが解毒魔法のキュアセイントを唱えようとしたその時、女性は自身の左胸を強く掴んだ。すると、そこから猛毒の霧が発生し、タクト達は猛毒に侵された。

タクト「ぐあああああっ!!」
リリシェ「な…何っ!?」

猛毒に侵され、苦しむタクト達。だが、さっきまで猛毒に侵されていた女性は何事もなかったかのように立ち上がり、リリシェの腹を強く踏みつけた。

リリシェ「がはっ!!」

腹を強く踏みつけられたリリシェは気絶した。

クレセント「あなた…! 何をするの…!!」
女性「これで…キュアセイントは使えないわね…」
???「よくやったわね、上出来よ、ライラ」

そう言って現れたのは、ポディスンであった。

タクト「ポディスン…! 貴様ぁぁぁッ!!」
ポディスン「いいザマだね~、こんな簡単に騙されるなんて~」
ソレイユ「卑怯だよ! こんなの!!」
ポディスン「戦いに卑怯もラッキョウも無いよ~、それより、何でこの作戦がうまく行ったか、聞きたい?」
ライラ「それはね、私が天才舞台女優だからよ」
ソレイユ「え!? じゃあ、苦しんでたのは演技って事!?」
クレセント「なるほど…ヴェンジェンスなら邪気ですぐ悪人って分かる私達精霊が気付かなかったのは、演技で邪気を消してたからなのね…」
ライラ「そうよ、流石私!」
ポディスン「それに、タクトは鼻が利くって言ってたから、ライラにはたっぷりと香水をかけてあげたよ~」
タクト「なるほどな…どうりで香水臭いわけだ」
ポディスン「そして、最後はライラの左胸に忍ばせたポイズントラップであなた達を猛毒状態にする! 全て私の計画通り~!!」
タクト「相変わらずやり方が汚いな!!」
ポディスン「まあね~」
ライラ「さて、そろそろやっちゃいましょうよポディスンさ~ん」
ポディスン「オッケー! 一気にぶっ殺しちゃうよ~!!」

すると、クレセントはあまりに卑怯なやり口に怒りをあらわにした

クレセント「…許さない…! あなた達は絶対に!!」

そう言ってクレセントは立ち上がり、自身の月の力を解放した。クレセントの全身は月のように輝き、夜の河原を眩く照らした。

ライラ「な…何…!?」
ポディスン「前が見えないっ!!」

クレセントの優しい月の光は、タクト達の体全体を覆い、身体に回った猛毒を完全に消し去った。

ソレイユ「これが、クレセントの月の力…」
タクト「凄く落ち着く光だ…とてもいい気分になる…」

力を使い果たしたクレセントは地面に座り込み、身体に回った毒が消え去ったタクトとソレイユは立ち上がり、ポディスン達を睨みつけた。

ソレイユ「みんなを酷い目にあわせた事、絶対許さない!!」
タクト「もう許さんぞ…ぶっ殺してやる!!」
ライラ「やばっ! あいつら復活した!!」
ポディスン「関係ないわ! やっちゃえ!!」

ライラはエクスプロージョンを唱え、タクトを攻撃したが、タクトは聖剣エスペリアでエクスプロージョンを押し返し、跳ね返した。ライラはエクスプロージョンを回避したが、タクトの聖剣エスペリアでの一撃で叩き斬られ、死亡した。

ポディスン「ライラ! くっそー!!」
タクト「貴様の毒を、ソレイユの炎で消毒してやる!!」

ソレイユは聖剣エスペリアにサン・フレイムを放った。聖剣エスペリアは刀身に炎を纏い、炎の刃を生成した。そして、タクトはそのまま剣を振り下ろした。

タクト「サン・フレイム・ブレード!!」

ポディスンは回避が間に合わず、その炎の剣をモロに食らった。

ポディスン「きゃああああああッ!!!」

灼熱の業火でその身を焼かれたポディスンは、全身黒コゲになってしまった。

ポディスン「うぅ~…」
タクト「あれを食らって生きてるとか、あいつ、ゴキブリか?」
ソレイユ「アハハハハ! でも見て! 真っ黒コゲ!!」
ポディスン「あんたら~…覚えてなさいよ~!!」

ポディスンは泣きながらテレポートの呪文で撤退した。

タクト「何とか勝ったな…」
クレセント「お疲れ様」
タクト「クレセント、感謝する、お前のおかげで俺達はこうして生きてるからな」
クレセント「人間を守るのが、私達の役目だからね」
ソレイユ「そう言う事だよ、タクト」
タクト「フッ、お前達も大変だな」

しばらくすると、リリシェも目を覚まし、その後、タクト達はテントで一睡をした。ヴェンジェンスが襲ってくるんじゃないかと言う危機感もあったが、特に襲ってくることもなく、無事一夜を過ごした。そして、一夜明けた次の日、タクト達は朝食の時間にある話をしていた。

タクト「なあ、お前達のあの力は一体何なんだ?」

あの力と言うのは、ソレイユの太陽の力と、クレセントの月の力である。タクト達はこの力によって絶体絶命の危機を切り抜ける事ができたが、この力が何なのか、タクト達はよく知らないのである。すると、その力について、クレセントの口から語られた。

クレセント「あの力は私達が太陽の剣士、月の剣士として覚醒した証ね」
リリシェ「太陽の剣士と月の剣士?」
クレセント「私達が300年前大戦によって失われた大陸を修復した話は知ってるわよね?」
ソレイユ「私達はあの時と同じ力を使って、失われた大陸を元に戻したんだよ」
タクト「フロストの氷を溶かした時と、ポディスンの毒を解毒した力が…300年前に失われた大陸を元に戻した時と同じ力だってのか?」
クレセント「そう言う事、まあ、今の私達にあの時ほどの力はないけどね」

すると、リリシェがある質問をした。

リリシェ「太陽の剣士と月の剣士に覚醒したら、何かあるの?」
ソレイユ「そうだなぁ…よく分かんないけど、ヴェンジェンスとの戦いにきっと役に立つはずだよ」
タクト「まあ、きっと役に立つだろうな」
クレセント「そう言う事! さ、ご飯食べましょう」
リリシェ「そうだね」

2人の精霊が太陽の剣士と月の剣士として覚醒した。この出来事はこの戦いに、どんな影響をもたらすのか? タクト達の戦いは、続く…。

トワイライトバトルロイヤル

どうして…私は戦っているんだろう…何の為に…こんな危険な事をしているんだろう…鉄で作られた武器を握り、それを振って人間同士で殺し合いをしている…私はただの一般人で、大好きな人と一緒に平穏な日々を過ごしていた…そんな私の平穏な日常は、ある日突然奪われた…そう…あれは、大好きなあの人と一緒にデートをしていた日の事だ…。

「ねえ、匠海くん、今日はどこに連れていってくれるの?」
「特に決めてないかな、葵の行きたいところに連れてってあげるよ」
「本当? ありがとう、匠海くん! それじゃあ、いつも行っているあのカフェに行こうよ」
「ああ、分かった」

私の名前は羽海野葵(うみの あおい)、何の特徴もないただの一般人女性で、これと言った取柄もない普通の女性だ。会社に勤めてはいるが、いつも失敗ばかりで上司から怒られてばかりの駄目な女だったりする。でも、そんな私の事を好きでいてくれる人がいる。それは、成瀬匠海(なるせ たくみ)くん、ちょっと頼りない所もあるけど、とても優しい私の恋人。今日は匠海くんと一緒にデートに行く事になっている。デート先は私達がよく行くカフェではあるのだが、このカフェは私達にとって大切な場所なのだ。

「…ねえ、匠海くん…」
「何? 葵」
「匠海くんと初めて会ったのもこのカフェだったよね」
「そうだね、でも、あの時の葵はどこか悲しそうだった…」
「あの時は務めている会社で失敗ばっかりしてて落ち込んでいたんだ、その時慰めてくれたのが匠海くんだったね」

その日は私が勤めていた会社で大失敗をした日の事だ。大事な書類をコーヒーで汚してしまったり、シュレッダーにかけて上司や同僚に迷惑をかけてしまった。最終的に上司に怒鳴られてしまい、ショックで一人、カフェで落ち込んでいたのである。その時、声をかけてくれたのがほかでもない匠海くんだったのだ。

「あの…」
「…何ですか?」
「えらく落ち込んでいるようですが、大丈夫ですか? よかったら相談に乗りますよ?」

その後、匠海くんは時間を気にする様子もなく、ただ私の話を聞いてくれた。私が悩んでいる事を優しく聞いてくれて、私は泣き出してしまったのである。そんな私の頭を匠海くんは優しく撫でて慰めてくれたのだ。見ず知らずの人に優しくしてくれる匠海くんの懐の深さに、私は惹かれてしまったのかもしれない。

「あれ以来、僕と葵はよく会うようになったね」
「そうだね」
「でも何で葵は僕の事を好きになったの?」
「それはね、あの時私を助けてくれたからだよ」

あの時と言うのは、私が公園で匠海くんを待っていたら、不良3人に絡まれてしまい、困っていた時の事である。不良は私の腕を掴み、私を無理やり連れて行こうとした。私は何とか振り解こうとしたものの、不良の力は強く、逃げることが出来なかった。その時、私を助けてくれたのは他でもない、匠海くんだった。

「離して!!」
「お姉さん、ちょっと俺らとお茶しようよ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ」
「悪いようにはしないから、ねっ?」
「やめろーっ!!」

匠海くんは私の腕を掴んでいた不良に体当たりをして突き飛ばした。男性の中では非力な部類に入る匠海くんは、昔から喧嘩をするような人間ではなく、当然、喧嘩をしても弱かった。でも、匠海くんは私を助ける為、不良たちに立ち向かってくれたのだ。

「痛ってぇな! 何しやがんだ、この野郎!!」
「葵は僕の彼女だ! 手を出すようなら、容赦はしないぞ!!」
「てめえ…調子乗ってんじゃねーぞ!!」
「俺らに逆らうとどうなるか…」
「きっちりと教えてやらあ!!」
「喧嘩は嫌だけど…葵を守る為なら! うおぉぉぉぉぉ!!」

匠海くんは不良に殴られながらもめげずに殴り返していた。不良のパンチを食らって顔が痣だらけになってもダウンする事なく不良を殴り返す匠海くん。最終的に匠海くんのタフさに耐えかねた不良たちはその場を去って行った。

「てめえ…中々やるじゃねえかよ…」
「きょ…今日はこのくらいで勘弁してやる!!」
「覚えてやがれー!!」

不良たちが去った後、私は顔を痣だらけにして地面に倒れ込んだ匠海くんを介抱した。とりあえず、持っていたウェットティッシュで匠海くんの顔を拭いた。

「匠海くん、大丈夫?」
「何、このくらい平気さ、葵を守る為なら…」
「匠海くん…ありがとう、でも、もうあんな無茶はしないでね…」
「分かったよ、葵」

私はカフェで微糖のコーヒーを飲みながら昔の出来事を思い返していた。色々あったが、今となってはどれも懐かしい記憶であった。それらの記憶は皆、匠海くんとの大切な記憶なのである。

「あの時は僕の好きな人が襲われてて、さすがに腹が立ったんだよ」
「でも、あの一件で、私は匠海くんの事をもっと好きになっちゃた」
「それは僕も同じさ、あの一件で、僕は葵の事を好きだって事に初めて気づかされた」
「匠海くん…」

その時、匠海くんの表情が真剣な表情になった。普段は優しい顔の匠海くんが真剣な表情になるのは珍しい。匠海くんは多分、私に大切な事を伝えたいのだと思う。長い付き合いで私はそれを確信した。

「葵、今日は君に、大事な事を伝えたいんだ」
「何?」
「僕は葵の事を、心の底から愛してる、だから、僕と…」

その時、私の目の前が真っ暗になった。一番大事な瞬間で目の前が真っ暗になり、私は何が起こったのか一切分からずにいた。

「えっ!? 何? 何々? 何が起こったの!? ねえ、匠海くん、匠海くん…」

その後、私の意識は途絶えた。あれから何時間経ったのか、または全く時が経ったのかは分からない。その時、意識が途絶えていた私は一人の人物の声によって目覚めさせられた。

「起きろ…羽海野葵…」
「はっ! ここはどこ? それに、あなたは誰!?」
「我が名はトワイライト、トワイライトバトルロイヤルの主催者だ」

トワイライトと名乗った人物は声しか聞こえず、どのような姿かは不明であった。声から察するに30代後半の男性だと思われるが、その詳細は一切不明であった。

「トワイライト…バトルロイヤル…?」
「そう、トワイライトバトルロイヤル、私が考案したゲームだ」
「そんな事はどうでもいいのよ! 早く私を元の場所に帰して!」
「それはできない、貴様が元の場所に帰るには、このバトルロイヤルで戦い、生き残らなければならない」
「嫌よ、戦うなんて、私は絶対に嫌!」
「貴様に拒否権はない! さあ、戦場に転送させてやろう!」
「きゃあっ!!」

私はトワイライトによって転送され、コロッセオのような場所へと送られた。そこには、私以外にも3人の人間がいた。男性が2人、女性が1人と、男女が半々と言うメンバーであった。

「うぅ…」
「やっと全員揃ったか…」
「あなた達は?」
「俺は九重律紀(ここのえ りつき)、大手会社九重コーポレーションの社長だ」
「僕は涼風在真(すずかぜ あるま)、善良な一般市民さ」
「わ…私は…雨野宮陽菜乃(あめのみや ひなの)です…ただの…女子高生です…」

律紀は眼鏡をかけた堅苦しそうな雰囲気の人物であり、武器はレイピアであった。社長ではあるものの、非常に若く、20代前半と言った所であろうか。在真は優しそうな見た目の少年であり、武器はナイフであった。体は細く、あまり喧嘩が得意と言う感じはしない為、普通の一般人なのだろう。最期に、陽菜乃だが、彼女は制服を着た正真正銘の女子高生であり、武器は槍であった。彼女に関しては非常に臆病な事が見て取れる為、どう見ても戦闘には不向きである。こうして見ると、トワイライトバトルロイヤルに選ばれた人達は特に共通点がない事が分かった。

「私は、あなた達と殺し合いをしなくちゃいけないの?」
「そうらしいね、けど、僕と陽菜乃ちゃんは戦うつもりはないよ」
「私、争いごとは苦手なので…」
「良かった、律紀さんはどうなの?」
「俺は戦うよ」
「えっ?」
「何なの? もしかして俺が戦わないとでも思ってた?」
「そうよ! だって私達が戦う理由なんてないでしょ?」
「確かに、俺達が戦う理由なんてない、けどさ、俺は日常に退屈してたんだ、だから暇つぶしにはちょうどいいじゃん」
「そんな理由で、殺し合いをしなくちゃいけないの?」

日常に退屈していたから、暇つぶしに殺し合いをしないといけない? そんな馬鹿な理由で見ず知らずの私達が殺し合うなんて、私は絶対に嫌だ。私は絶対に生きて帰り、匠海くんとの平穏な日常を取り戻したいのだから。すると、コロッセオ内にトワイライトの声が響いた。

「お前達、そんなに戦いたくないか?」
「なんの恨みもない人と戦うなんて、私は絶対に嫌です!!」
「このトワバトに勝ち残った者には、どんな願いも叶えてやる、だから早く戦うのだ!」
「ほら、トワイライトもこう言ってんじゃん、だから早く戦おうよ」
「………嫌よ」
「来ないなら、こっちから行かせてもらう!!」

律紀は突然レイピアで斬りかかって来た。その攻撃を、私は鉄で作られた剣で受け止め、鍔迫り合いとなった。律紀は社長と言う役柄でありながらも、体は鍛えているようであり、私は少しずつ押されていた。

「あなたは…どうしてそんなに戦いたいの!?」
「俺は小さい頃から天才肌だったんだ、だから何でも完璧にこなしていた、最初は俺って凄いなと思っていた、けどさ、俺は完璧すぎたんだ、だから次第に退屈になってきた、で、何かおもしろい事がないかな~なんて思ってたら、このトワイライトバトルロイヤルに参加することになったんだ」
「つまり、あなたはゲーム感覚でこんな殺し合いに参加しているの!?」
「そうさ、だってスリルがあって面白そうじゃん」
「えっ!?」
「僕はね、人生にスリルが欲しかった、ヒヤヒヤするようなスリルがね、けど、訪れるのは生ぬるいスリルばかり、けど、このトワイライトバトルロイヤルだと、最高のスリルが味わえる! こんなに嬉しい事はないよ」

この律紀と言う人は馬鹿げている。人生にスリルが欲しいから、日常が退屈だから、こんな命懸けの戦いをする、そんな命を捨てるような事をする人間がいるとは思わなかった。私は命懸けの戦いをするより、平和な日常を送る方がいいと思っている。でも、そんな言葉が通じない人もこの世にはいるのだと、私はそう実感した。

「あなた、死ぬかもしれないのよ? それでもいいの!?」
「それはそれで、スリルがあって面白いね!」
「だったら私は、迷わずあなたと戦うわ!」

私は鋼の剣で律紀を攻撃した。律紀はとっさに後方に跳び、その攻撃を回避した。しかし、律紀の表情は嬉しそうな表情であり、戦いを楽しんでいる様子であった。

「いいねぇいいねぇ! やる気になった?」
「勘違いしないで! 私はあなたと違って、殺し合いをするつもりはない、あなたを止めるだけよ!」
「なら、やってみなよ!」

余裕ぶっていた律紀ではあったが、彼の戦闘センスはとても高く、ただの一般市民である私の攻撃を軽くレイピアで受け止めた。その直後、律紀は私の腹部に蹴りを入れた。私は仰向けに倒れ、その私に対し、律樹はレイピアを向けた。

「そろそろトドメを刺してあげるよ、さよなら」

律紀はレイピアで私を攻撃してきた。その時、もうダメだと思った私は剣を振った。私の振った剣はレイピアの刀身に当たり、律紀の手元から弾き飛ばされた。

「何っ!?」

レイピアが当たらなかった事に気付いた私は、彼を倒すなら今しかないと思った。私は立ち上がり、律紀を剣で斬りつけた。斬りつけられた律紀は深紅の血を噴き出し、地面に倒れ込んだ。

「くっ…俺の負けだ、さあ、トドメを刺せ」
「トドメは刺さないわ」
「なぜ、トドメを刺さない?」
「だって、私達が戦う理由なんてないじゃない」
「ふっ…お前は…頭の中がお花畑だな…」

戦いが終わった事で、陽菜乃は安心した様子であった。誰しも、命を懸けて殺し合う事はしたくない、それは、私も陽菜乃も同じであった。しかし、先ほどまで大人しかった在真の様子がおかしい事に、私は気づいてしまった。

「在真さん、これで戦いは終わったみたいですね」
「そうだね、これでゆっくりと君を殺すことができるよ」
「…えっ?」
「さよなら、陽菜乃ちゃん」

在真は突然陽菜乃の胸にナイフを突き刺した。ナイフは陽菜乃の心臓にまで達し、胸から深紅の血が流れ出た。陽菜乃は口から血を吐き出し、悲し気な表情で在真の方を見ていた。

「在真…さん…なん…で…?」

陽菜乃は地面に倒れ込み、そのまま二度と動く事はなかった。ずっと信頼していた在真に裏切られ、陽菜乃は殺されてしまった。陽菜乃の亡骸から流れ出る深紅の血、それはまるで陽菜乃の体から抜け出た魂のようにも見えた。生まれて初めて人が殺される様を目撃した私は、背筋が凍り、恐怖を感じた。

「在真くん!?」
「はっはっはっはっは! 死ねぇっ!!」

在真は陽菜乃の持っていた槍を握ると、律紀目掛けて投げつけた。投げた槍は律紀目掛けて一直線に飛んで行き、律紀の背中に突き刺さった。律紀は口から血を吐き出し、彼もまた、全く動かない亡骸になってしまった。一度に二人も人が死んだ、こんな事は普通の一般市民ならまず経験しないであろう。私は頭の中が混乱し、どうしていいか分からなくなった。それでも私は、元の世界に帰る事だけを考え、精神を正気に保っていた。

「在真くん…何で…何でこんな事をするの!!」
「葵さん、あなたはまだ僕が善良な一般市民だと思い込んでるの? 残念! あれは嘘だよ! 僕はか弱い女性や弱った人を殺すのが大好きな殺人鬼なんだ、知らなかったかい?」
「そんな事、知るわけないじゃない!」
「まあ、知らないのも無理ないか、僕は警察にバレないように殺してるからね、バカな警察はまだ僕が犯人と気付いてないんだ」

まさか、彼がこんな危険人物だとは思わなかった。最初はただの善良な一般市民のフリをして、このタイミングで一度に二人も殺した。彼は、人を殺す事に慣れている、私は今、危険人物と対峙している、そう考えた瞬間、私は恐怖を感じた。

「在真くん、何であんな嘘ついたの!?」
「そんなの簡単さ、あの律紀って人が強そうだったから、葵さんと戦わせて弱るのを待ってたんだ、それに、陽菜乃ちゃんや葵さんを絶望させるには、この演技をするのがいいと思ったんだ、いい人だと思っていた人に裏切られる、ここまで絶望を味わう事なんてないよね?」

狂ってる、彼は人間じゃない、人間じゃないからこんなことが出来るんだ。彼は人間の姿をした怪物、恐怖に押し殺されそうになった私は、そう考え、それと同時に彼を許せないと感じた。恐らく彼は何の罪もない人を数多く殺している、殺された人達は苦痛や恐怖を感じたに違いない。もし彼が私を殺し、彼が元の世界に帰ったら、きっと同じ事を繰り返し、もっと多くの犠牲が出るに違いない。彼は、彼だけはここで殺さないと駄目だ。

「在真くん、私が今どんな感情なのか分かる?」
「もちろん! 絶望を味わって恐怖に怯えてるんでしょ?」
「違うわ、最高に腹が立ってるのよ、それも今までにないくらいにね!」
「な…何で…!?」
「私は…全力であなたを倒す!!」

私は剣を振り、在真の持っていたナイフを弾き飛ばした。武器を失った在真は突然弱気になり、後ろに後ずさりを始めた。彼は武器を持っていないと強がることのできない小心者だったのだろう。こんな奴に多くの人が殺されたと思うと、許すことが出来なかった。

「な…何でだよ? 何で絶望を味わわないんだよ!?」
「あなたは、罪のない人をたくさん殺した、そして、あなたが勝ち残ったら、もっと多くの人が死ぬことになる、私は、それを全力で阻止する!!」
「や…やめろ! 僕を殺すつもりか!? 僕を殺したら、今度はお前が人殺しになるぞ!!」
「確かにそうね、でも、私が人を殺すのは今回だけ、それも、あなただけよ!!」
「ふざけるな人殺しぃぃぃッ!!」
「それが罪のない人々を大勢殺した人間の言う事か!!」

私は全力で在真を斬りつけた。在真は体から血を噴き出し、口から血を吐いた。

「この…人…殺し…」

そう言い残し、在真は地面に倒れ込み、動かなくなった。初めて人を殺した私は、腕が震え、持っていた剣を地面に落とした。私は地面に膝を付き、震える右手を左手で抑えた。しかし、震えが収まる事はなく、今度は体まで震え始めた。彼は人間じゃない、彼は人間じゃない、彼は人間じゃない。自分にそう言い聞かせ続けたが、震えが収まる事はなかった。その時、コロシアムにトワイライトの声が鳴り響いた。

「おめでとう、羽海野葵、さあ、この先の部屋に進むが良い」

トワイライトがそう言うと、コロッセオにあった扉が開いた。色々あったけど、これで私は元の世界に帰ることが出来る。そう思い、私はトワイライトの部屋へと向かった。

「トワイライトさん、この部屋は?」
「ここは私の部屋だ、そして、これが私の姿だ」

トワイライトは緑色の液体に満たされたカプセルに入っていた。緑色の液体越しに確認できる姿は、ローブを着込んでおり、よく確認できなかった。ローブの奥からは目のような物が見えたが、その目は怪しく光っており、この人物は人間ではないと、私はそう確信した。

「さて、すぐにでもお前の願いを叶えてやりたいが、一つ頼みがある」
「何でしょうか?」
「お前の命を私によこせ」

トワイライトがそう言うと、地面から複数の触手が生え、私の体を絡め取った。私は身動きが取れなくなり、その触手から何かが吸われていた。触手に何かが吸われる度、私の体から力が抜けていくのを感じた。

「なっ、何をするの!?」
「私は見ての通り、カプセルに入らないと肉体を保てない弱々しい生物だ、だが、私は他の生物の生命エネルギーを吸収し、さらに強力になる能力を持っている、そこで私はトワイライトバトルロイヤルを開催し、勝ち残った強い人間の生命エネルギーを吸収する事にした、羽海野葵、君は選ばれたんだよ、この私にね!」
「そんな事に選ばれても、何にも嬉しくないわ! 私は、匠海くんと結婚するの! だから、絶対に生きて帰らないといけないの!!」
「くだらぬ…そんな事、何の価値もないと言うのに…」
「私と匠海くんの愛を…くだらないなんて言うなーーーっ!!!」

私は感情を爆発させた。すると、私の体から光のような物が発生し、触手は枯れて行った。この力が何なのかは分からなかったが、これはチャンスだと感じた。

「何だ、この力は!? 人間にはまだ、私の知らない力が秘められているとでも言うのか!?」
「トワイライト! あなたのくだらない計画も、これで終わりよ!!」

私は持っていた剣を投げた。剣はトワイライトのカプセルを破壊し、中にいたトワイライトに突き刺さった。

「ぐおぉぉぉぉぉぉ!! 私は…人間の力を侮っていた…」

次の瞬間、トワイライトのカプセルは大爆発を起こし、トワイライトは砕け散った。これで、トワイライトバトルロイヤルは終わり、私は元の世界に帰れる、そう考えると、私は安堵した。私の周りが真っ暗になり、これで本当にトワイライトバトルロイヤルが終わったのだと感じた。

「これで…帰れるのかな…? 匠海くん…」

しかし、私が辿り着いた先は元の世界ではなかった。周りの町並みは私の居た世界のものとは違っており、何と言うか、未来都市と言う感じであった。突然の出来事に私は混乱し、何が起きたのか理解できずにいた。

「ここ…どこ…? この町の感じは…もしかして、未来?」

すると、近くを男性が通りがかったので、私はその人に話しかけた。

「あの…すみません、今は何年ですか?」
「今は2121年だよ、君、そんな事も知らないの?」
「はい…実は少し寝ぼけていて…」
「ふ~ん、それより君、その服装、100年ほど前に流行ったファッションだよね? もしかして君、アンティーク好き?」
「あっ、この服装は私の彼氏が選んでくれたものなんです」
「へ~その彼氏の人、センスがいいね、今のファッションって、正直派手すぎるからな~」
「はい…そうですね…」

そんな…私のいた時代から100年も経ってる…私がトワイライトバトルロイヤルに参加させられている間に100年も…。私は絶望した、100年の時が経っていたら、匠海くんは生きていない、そんな事、考えたくない…。その時、私の周りが真っ暗になった、また別の場所へ移動するのだろう。嫌…、お願いだから、これ以上私に現実を突きつけないで…。私が辿り着いた先は、墓地だった、そこにあった一つの墓地を、私はよく眺めた。そこには、成瀬匠海の名が刻まれた墓があった、やはり、匠海くんは死んでしまったのだ。

「………嘘…これって…匠海くん…私…匠海くんと…結婚する予定だったのに…幸せに…なりたかったのに…どうして…」

その時、私は墓に何かが刻まれている事に気付いた、そこには、こう刻まれていた。君が突然いなくなったあの日から、僕は君の事を忘れた日は一日もなかった、むしろ君に会いたくて仕方がなかった。あの日以来、君に会う事は一度もなかったけど、僕は君と過ごした日々を決して忘れない。君が今、どこで何をしているかは分からないけど、君が幸せであれるように、僕は願っているよ。最後に、君に会えて本当に良かった、ありがとう、僕の愛する羽海野葵。

「私だって…匠海くんにもう一度会いたかったよ、一緒に人生を歩みたかったよ…その為に、私は望んでもない戦いをしたのに…こんなの…こんなのないよ…匠海くん…匠海くんに…匠海くんに会いたい…会いたいよ…」

その時、私の頭の中にトワイライトの声が鳴り響いた。トワイライトは私にこう告げた、「その願い、叶えてやろう…」と。すると、私の意識は糸が切れたように途切れた。次に目が覚めた瞬間、私はいつものカフェにいた。

「匠海くん!? 匠海くん!!」
「葵、どうしたの? 僕ならここにいるよ」
「匠海くん、会いたかったよ…」
「どうしたんだよ、葵、僕はずっとここにいたよ」
「えっ、でも私、トワイライトバトルロイヤルに参加して、知らない人と戦ってて…それで匠海くんがいなくなっちゃって…」
「葵、落ち着いて、葵が見てたのはきっと夢だよ、僕も葵もずっとここにいたよ」
「そ…そうなの?」
「そうだよ、ところで、さっきの話の返事、聞きたいんだけど?」
「…その時、意識が途切れちゃって、もう一回言ってほしいな」
「分かった、僕は葵の事が大好きだ、葵の事を忘れた日なんて一日もない、葵の事を心の底から愛してる、だから、僕と結婚してください」
「はい…よろこんで…」

私は匠海くんにそう言われて嬉しかった。私の事を好きと言ってもらえて、結婚して欲しいと言ってもらえて、本当に嬉しかった。周りからは私達の結婚を祝福してか、カフェの客たちから拍手を貰った。

「これからよろしくね、葵」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

結局、トワイライトバトルロイヤルが何だったのかは分からないし、参加していた人の生存もあの後私のいる街で確認した。律紀はあの後も社長としての業務を続け、陽菜乃は平和に女子高生としての生活を謳歌しているようである。ただ、在真だけは警察に捕まったと言うニュースが流れ、自業自得だと感じた。そんな私はトワイライトバトルロイヤルに参加したことで、匠海くんに対する愛が深まった気がする。私はこれから匠海くんと一緒に人生を過ごしていくんだ。もし、これからどんなに辛い事があっても、今度は二人で乗り越えていく。だって、私と匠海くんの愛は本物だから。

創造する二人の女子高生

今起きている出来事は現実なのか、それとも夢なのだろうか、二人の少女はそう考え、現実逃避をしていた。

事の発端はある日の学校の帰り、名門校に通う高校2年の二人は幼い頃から仲の良い二人である。

「今日も学校疲れたね」

水色の長い髪に青い瞳の彼女の名は、右山水愛(みぎやま あくあ)、真面目な性格ではあるが、たまに羽目を外しすぎるのが玉にキズである。

「そうだね~、将来はお金持ちになりたいな~」

緑色の瞳に黄緑色のショートカットが似合う彼女の名は、左口瑠璃(さぐち るり)、明るい性格ではあるが、たまにシリアスモードに入る事がある。

「お金持ちか~、なれるといいね」
「うん!」

次の瞬間、二人の目の前で眩い閃光が発生し、その光を浴びた二人はその場からいなくなっていた。

どれほどの時間が流れたであろうか、それとも、全く時間が流れてないであろうか、水愛が目を覚ました時にはさっきまで隣にいた瑠璃の姿はなく、何故か狭い操縦席の中に座っていた。

その操縦席は、ロボットアニメなどでよくあるコックピットの様な造りで、目の前には周囲を確認するためのモニターがあり、両脇には様々なレバーやスイッチがあった。

「何…ここ…」

ここはどう考えても日本ではない、ロボットを保有している国と言ったら国連に加入している国と、帝国軍ぐらいであるが、日本は戦闘機と戦車だけで済ませているため、ロボットは保有していない。

それに、水愛はさっきまで学校の帰り道だった、恐らく、夢を見ているのだろう。すると、通信機からノイズ交じりで男性の声が聞こえてきた。

「お前、何やってる! そんな所で突っ立って、死にたいのか!?」
「死にたいって…ここはどこなんです!?」
「どこって…ここは戦場だ! 俺達は国連軍、クソ帝国軍と戦っている最中だろ? そんな事も忘れたのか?」
「帝国…軍…?」

丁寧に説明をしてくれた男性の乗っている機体は銀色の機体であり、モニターの識別コードを見ると、名前はシルヴァと言う機体らしい。水愛はロボットについて詳しくはないが、恐らく、国連軍の量産機であると思われる。その時、目の前から銃弾が飛んできた。敵の機体がライフルで攻撃を仕掛けてきたのだ。

「うわぁっ!?」

水愛はとっさにレバーを引き、自機の持っていたシールドで防御をした。本来なら操縦方法など分からないはずだが、何故か操縦方法が分かった。何故かは分からないが、恐らく勘であろう。水愛は生き残る為、自機の持っていたライフルで攻撃を仕掛けた。

「こんな所で死にたくない!」

ライフルから放った銃弾は敵の機体に命中し、大爆発を起こした。ちなみに、敵の機体名前はフロンドと言う機体で、砂漠の砂の様なカラーリングの機体であった。

「やるじゃねえか、この調子で…」

次の瞬間、さっきまで丁寧に説明をしてくれた男性の機体が銃撃を受けた。銃弾はコックピットに命中し、大爆発を起こして撃墜された。

「あ…あぁ…死んだ…の…?」

水愛の目の前に現れたのは、金色のフロンドであった。ロボットアニメだとこういうのは大体指揮官機、今の水愛はまさに絶体絶命であった。

「とりあえず、今は逃げるしかないよね!」

仲間は誰もおらず、自分1人しかいない水愛は、特に戦う理由のないこの世界で死ぬわけにもいかず、敵に背を向けて逃げる事にした。だが、金色のフロンドは凄まじいスピードで追いかけてきた。

「赤い機体でもないのに早いの!?」

水愛はあっという間に追いつかれ、地面に押し倒された。相手の機体が接近戦用のナイフを構えた瞬間、水愛は恐怖のあまり悲鳴を上げた。すると、相手の機体は攻撃を止め、接触回線で通信を送って来た。

「その声、水愛ちゃんだよね?」
「え? その声って、瑠璃?」
「そうだよ、瑠璃だよ、無事だったんだね」
「もうちょっとで死ぬところだったけどね」

二人は戦場から離れ、誰も来ないところで会話を始めた。瑠璃の話によると、やはり元の世界で閃光を浴びた後、目が覚めた時にはコックピットの中にいたのだと言う。恐らく、あの光によってこの世界に来たのなら、もう一度あの光を浴びるしか帰る方法はないのだろう。

「こんな危険な世界もう嫌、早く帰りたいよ」
「そうだね、また水愛ちゃんと一緒に学校生活送りたいな」
「でも、その為には元の世界に帰らないといけない」
「そもそも何で私達がこんな危険な世界に来なくちゃいけなかったんだろう」

その時、モニターに複数の熱源が確認された。識別コードはシルヴァの物ともフロンドの物とも異なり、その数は100機以上にも上った。

「何…? この数…」
「分からない、でも、凄いスピードで私達の方に向かっているよ!」

100機近くの機体はすぐさま水愛たちの前に現れた。約5mほどのその機体は昆虫の様な見た目をしており、1機1機は約10メートル代のシルヴァはフロンドよりも小さかったが、圧倒的な物量で水愛と瑠璃の搭乗機に取り付き、自爆攻撃を放ってきた。

「キャアアアッ!!」
「水愛ちゃんッ!!」

直後、二人の乗機は爆散し、二人の意識は途絶えた。それからどれほどの時間が経過したであろう。水愛が目を覚ますと、そこは自宅のベッドであった。

「んん…あれは…夢…?」

どうやら、制服を着たまま眠りについてしまったようである。時計を見ると学校に行かなくてはいけない時間だった為、荷物を持って家を出ようとした。だが、家にいるはずの父親と母親はおらず、違和感を持ったまま水愛は外に出た。

「な…何…? これ…?」

水愛が外に出ると、そこは辺り一面が真っ黒の世界であった。街も木も何もない、全てが真っ黒の空間、まさに闇世界と言う言葉が似合った。

「あっ! 水愛ちゃん!」

しばらくすると、遠くから瑠璃がやって来た。目には涙がたまっており、自分達の想像がつかない状況に頭の中がパニックになったのであろう。

「瑠璃、無事でよかった」
「ねえ、これどういう事なの? 私達はあの時死んだはずじゃ…」
「分からない、でも、ここも私達の居た世界じゃない」

「いや、ここが本来お前達の居た世界だ」

その低い男性の声は水愛と瑠璃の頭の中に直接響いてきた。ここが自分達が居た本来の世界、その言葉に二人は困惑した。

「誰かは知らないけど、どういうことなの?」
「そうだよ! 私達は普通の女子高生だよ!」
「お前達が女子高生だったのは、あの閃光を浴びた時までだ」
「だからどういう事? 説明してよ!」
「分かった、ならば説明してやろう」

その声の主は水愛と瑠璃がこの世界の真実を語り始めた。ある日、国連軍と帝国軍が戦争を始めた。その戦争は激化し、互いに多くの犠牲を出したが、水愛と瑠璃の居た中立国である日本には関係がなかった。

だが、ある日帝国軍は虫型の無人兵器を開発。しかし、その無人兵器は暴走し、自爆攻撃を始めた。その後、無人兵器は近くの帝国軍基地に向かい、攻撃を仕掛けた。

そして、その日は訪れた。帝国軍基地にあった核ミサイルに無人兵器が自爆攻撃を仕掛け、その核ミサイルが世界各国の核ミサイルに誘爆、そして、世界は滅亡した。

当然、その時に水愛と瑠璃は死んだはずであったが、どう言う訳かこの世界にいるのである。

「じゃあ、既に私達は死んでるって事?」
「いや、君達は生きてる、この世界で」
「この世界? この世界って何なの?」
「世界の終末、君達の居た世界から数億年が経過し、宇宙が滅びた終わりの世界だよ」

「そんな…じゃあ私達はもう元の世界に戻れないの?」
「元の世界に戻っても、結末は一緒さ、世界は核の炎に包まれて滅ぶ、それだけだ」
「それって、どっちにしてもバッドエンドじゃない!」

「そうだね、だったら、また新しく世界を創ってみないか?」
「世界を?」
「ああ、私はこの世界の神だ、だが、もう私には世界を創る力がない、君達がこの力を受け継いでくれれば、また世界は生まれる」
「でも…できるかな…」

「安心しろ、君達ならできるはずだ、私は君達二人に国連軍と帝国軍の争いを見せた、あんな争いのない世界を作ればいいだけだ」
「あの戦争の風景は神様が見せてくれたんだ」
「そうだ、そして今、君達二人の力で争いのない世界を創る、できるか?」
「分かった、やってみるよ」

その時、二人の目の前で閃光が発生した。この光はあの時と同じ光であったが、あの光とは違い、暖かい光であった。

「さあ、創造するんだ、君達の創りたい世界を…」
「私達の創りたい世界…」
「それは…」

水愛と瑠璃は二人で過ごした学校生活を思い浮かべた。平和で楽しい学校生活、争いからはかけ離れた世界。その瞬間、目の前が明るく輝いた。それは、世界の創造の光、新たな世界が生まれる。

長い時が流れ、水愛が目を覚ました時、彼女は自宅のベッドの上にいた。今まで何があったのか、思い出そうとしても思い出せない。だが、思い出せなくてもいい、水愛はそう感じた。

「水愛ー、ご飯できたわよー」
「はーい」

水愛はパジャマから制服に着替え、朝食を終えた後、荷物をまとめて外へ出た。

「行ってきまーす」

そう言って家を出ると、家の入口には瑠璃が待っていた。

「おはよう、水愛ちゃん」
「瑠璃…おはよう…」

二人は一度世界の滅亡を経験し、新たな世界を創造した。その世界は、争いのない平和な世界、この世界で二人は幸せな人生を歩むであろう。二人の物語はまだ、始まったばかりなのである。

二大国戦記II 二人の剣精霊

エスプランドル聖王国軍とオスクリタ大帝国軍の戦いから1年が経過した。後に二大国戦記と呼ばれることになるこの大戦の後、両国は終戦協定を結び、現在は同盟国として平和な日々を謳歌していた。しかし、その平和も長くは続かなかった。ある日、両国で男女数名が衰弱死すると言う事件が起きた。この原因不明の事件はその後も大きな被害を出し、犠牲者は増え続ける一方であった。そんなある日、前大戦の英雄であるアエリスの下に、一人の少女が訪ねてきた…。

アエリス「あなた、私に何か用?」
少女「私はリリィ、リリィ・ストレイス、これでも剣精霊なんだよ」
エルマー「剣精霊って本当にいたんだ、僕初めて見たよ」
エルフリーデ「でも、見た目は人間とそんなに変わらないのね」

リリィ「私、あなた達に伝えに来たんだ、邪神ネクロスが復活した事」
ジェズアルド「邪神ネクロスだと!?」
テオドール「知ってるの? じっちゃん?」
ジェズアルド「ああ、300年前にこのアインベルグ大陸を支配した邪神だ」
セアル「そんなとんでもない奴が復活したって言うの?」

リリィ「うん、300年前は私と私のお姉さまが力を合わせて封印したんだけど、時を得てその封印が解けてしまったの」
ソフィア「まさか、最近発生してる衰弱死の事件もそれが関係しているの?」
リリィ「あれは邪神ネクロスが人の魂を吸い取っているの、ネクロスにとっての食事だね」
エーリカ「何て酷い事を…」

リリィ「でも安心して、剣となった私と私のお姉さまが邪神ネクロスを突き刺せばきっと倒せるよ」
レギーナ「ちょい待ち! だったら何で300年前にそれをやらなかったのよ」
リリィ「その時は私達と契約している人が殺されてしまって、やむなく私達の力で封印したんだ」
リーズ「そうだったのね…」

アビゲイル「ところで、そのお姉さまは今どこにいるの?」
リリィ「大丈夫、もうすぐここに来るはずだよ」

その時、エスプランドル騎士団本部のドアを開ける音がした。そこには、アエリスのよく知る人物がいた。

アエリス「ヴァーラさん!」
ヴァーラ「久しぶりだな、アエリス」
イェルハルド「元気そうで何よりです」
シーグリッド「何かまた大変そうなことになってるわね」

ヴァーラ「さて、紹介しよう、彼女が私の下へ来た剣精霊の…」
剣精霊「フロレンティーナ、フロレンティーナ・シェーンハイトよ」
アエリス「えっと…フロレ…さん…?」
フロレンティーナ「馬鹿! フロレンティーナよ!」
アエリス「ごっ…ごめんなさい…フロレンティーナさんですね」

フロレンティーナ「話は聞いてるわね、私とリリィがいれば邪神ネクロスは倒せるわ」
カリスト「で、その邪神ネクロスはどこにいるんだ?」
リリィ「このアインベルグ大陸の西端にある洞窟、ダークケイブです」

エルマー「ダークケイブと言えば…」
エルフリーデ「悪魔が魔界からこの世に来る場所と言われていて誰も近寄らない場所…」
ジェズアルド「そんな危険な場所にいると言うのか」
フロレンティーナ「安心しなさい、全部迷信よ」

アエリス「じゃあ、今から全員でダークケイブに出発しましょう!」
ヴァーラ「そうだな、全員武器の点検などを行うように、30分後に出発するぞ!」

エスプランドル騎士団とオスクリタ騎士団の双方は武器の点検を始めた。どんな時でも武器を万全の状態に保つ事は重要であり、相手が邪神ならばそれはなおさらであった。そして、30分が経過し、両軍はダークケイブに向けて進軍した。

エスプランドル聖王国からダークケイブまではかなりの距離があったが、一刻も早く人々を救う為、ただひたすら進軍した。森を越え、草原を越えると、目的地のダークケイブが見えてきた。

今までは綺麗な草原と青空が見えていたが、ダークケイブが見えてくると草木が枯れた大地が広がり、空は昼にもかかわらず、夜のように暗かった。

ソフィア「凄く気味の悪い場所ね…」
カリスト「なるほど、こんな場所なら邪神ネクロスが封印されていてもおかしくはないな」

すると、アエリス達の前に影が集合し、その影は剣士の姿を形どった。影の剣士は無数に現れ、アエリス達を攻撃した為、アエリス達はその影の剣士に応戦した。

エルフリーデ「何なのこいつら!?」
リリィ「邪神兵です! 私達の時代では影の剣士とも言われていました!」
エルマー「で、こいつらは強いの?」
フロレンティーナ「弱いわ、攻撃すれば消滅する」
カリスト「なら、やる事は決まっているな」

エスプランドル騎士団とオスクリタ騎士団の双方は邪神兵に攻撃を仕掛け、次々と倒していった。フロレンティーナの言う通り、攻撃すればすぐに消滅する上、1体1体は大して強くなく、前大戦を経験したアエリス達にとっては脅威ではなかった。そして、邪神兵は次から次へと倒されていった。

だが、邪神兵の一番の脅威、それは圧倒的な物量である。いくらアエリス達が邪神兵を倒しても、次から次へと現れるのだ。その圧倒的な数に、アエリス達は苦戦した。

アビゲイル「何よこの数!!」
シーグリッド「こんなに現れられては対応できないじゃない!!」
イェルハルド「フロレンティーナさん、何か対応策はないのですか?」

フロレンティーナ「あるわ、それは邪神ネクロスを倒す、又は封印する事」
アエリス「分かりました! なら、私とヴァーラさん、後は剣精霊の2人だけで行きましょう!」
フロレンティーナ「馬鹿! 正気なの? 相手は邪神ネクロスなのよ?」

ヴァーラ「大丈夫だ、私達はそう簡単にはやられない」
アエリス「それに、どのみち剣になったあなた達の攻撃じゃないと倒せないんでしょう?」
フロレンティーナ「それは…そうだけどさ…」

ヴァーラ「なら、私達の事を信用して欲しい」
アエリス「大丈夫です、絶対に邪神ネクロスを倒してみせます」
フロレンティーナ「そこまで言われちゃ仕方ないわね、いいわ、勝手にしなさい」
アエリス「フロレンティーナさん…」
リリィ「では、行きましょう! 邪神ネクロスの討伐へ!」

邪神ネクロス討伐の為、アエリスとヴァーラ、リリィとフロレンティーナはたった四人でダークケイブへと向かうことになった。人々を救う為、仲間達を助ける為、邪神ネクロスを倒す決意をした。

ダークケイブに突入したアエリス達は、邪神ネクロスのいる最深部へと向かった。道中、邪神兵の襲撃にあったものの、前大戦の英雄である彼女たちの相手ではなかった。

一刻も早く人々や仲間を助ける為、アエリス達はとにかく足を進め、遂に邪神ネクロスのいる最深部へと到着した。

ネクロス「ほう…まさかここまで来る人間がいるとはな…」

ダークケイブの最深部にて居座っていた邪神ネクロス、その姿は龍と昆虫が合わさったような見た目をしており、単眼が特徴の顔、黒い体色に龍の尻尾と翼が生え、昆虫の様に無数の足のあるまさに怪物と言う言葉が似合っていた。

アエリス「あなたが邪神ネクロスですね!」
ヴァーラ「人々の命を守る為、お前を倒しに来た!」
ネクロス「フン…愚かな…邪神である我に人間如きが敵うと思うな…」

ネクロスは顔にある一つ目からレーザー光線を放ったが、アエリス達は各自散開し、攻撃を回避した。

リリィ「アエリスさん! ヴァーラさん! 手を伸ばしてください!」
アエリス「何をする気なんですか?」
フロレンティーナ「分からないの? 私達があなた達の剣になるのよ!」
ヴァーラ「分かった! 頼んだぞ!」

アエリスとヴァーラが手を伸ばすと、リリィはアエリスの、フロレンティーナはヴァーラの手を握った。と、次の瞬間、リリィとフロレンティーナの体が輝き、光が収まった瞬間、二人の体は剣になっていた。

アエリス「凄い…! この剣…!!」
ヴァーラ「とてつもない魔力を感じる…!!」

リリィの変化した剣は黄金の剣であり、鍔の中心にはひし形の青い宝石が埋め込まれていた。アエリスはその剣に対し、美しさと共に神々しさを感じた。

対するフロレンティーナの変化した剣は白銀の剣であり、鍔の中心にはひし形の赤い宝石が埋め込まれていた。ヴァーラはその剣に対し、美しさと共に神秘的な感情を抱いた。

ネクロス「なるほど…300年前に我を封印した剣精霊か…」
リリィ「300年前はそうでした、ですが、今回は違います!」
フロレンティーナ「今度こそ倒すの、あんたをね!」
ネクロス「そうか…だが、そう上手く行くかな?」

ネクロスは再び、一つ目からレーザー光線を放って攻撃した。アエリスとヴァーラは散開して攻撃を回避し、レーザー光線の雨をかいくぐってネクロスに接近した。

その時、アエリスとヴァーラの足元から無数の触手が生えてきた。ネクロスは体の一部を触手し、根を張るように地面に突き刺していたのだ。その触手はアエリスとヴァーラを絡めとり、動きを封じた。

ヴァーラ「何だ、この触手は!?」
アエリス「身動きが…取れない…!!」
ネクロス「これでお前達も終わりだな、前大戦の英雄、そして憎き剣精霊共よ!」
リリィ「そんな…! 何か手はないの!?」
フロレンティーナ「待って! これって…」

その時、アエリスとヴァーラが腰に携えていた二本の剣が剣になったリリィとフロレンティーナの二人と共鳴した。

アエリス「聖剣アクアマリンが…共鳴している…!?」
ヴァーラ「私の魔剣エラプションもだ、凄まじい光を放っているぞ…」
リリィ「その剣は私達姉妹と同じ赤と青の宝石の埋まった剣」
フロレンティーナ「だから、私達と共鳴したんだわ」

二本の剣と二人の剣精霊が共鳴した事で放たれた光は、アエリスとヴァーラを絡めとっていた触手は砂の様に崩れ去った。そして、その光は邪神ネクロスに大きなダメージを与え、邪神ネクロスは光で身体を焼かれ、苦しんでいた。

ネクロス「ぬおぉぉぉッ!! 苦しい…! 苦しいぞぉぉぉッ!!!」
アエリス「あの光が効いているらしいですね!」
リリィ「倒すなら、今がチャンスです!」
フロレンティーナ「ほら、もたもたしないの! 行くわよ!」
ヴァーラ「ああ!」

アエリスとヴァーラは足を走らせ、邪神ネクロスに向かって行った。邪神ネクロスは目からレーザー光線を放って攻撃してきたが、二人は最低限の動きでその攻撃を回避し、リリィとフロレンティーナの変化した剣をネクロスに振り下ろした。

ネクロス「ぐはぁぁぁッ!!」

邪神ネクロスは体を切り裂かれ、その切り口からは眩い光が放たれていた。

フロレンティーナ「押してる! いけるわ!!」
リリィ「もう一撃! 今度はあの目です!!」
アエリス「オッケー!!」
ヴァーラ「これで決める!!」

アエリスとヴァーラは同時に邪神ネクロスの目を突き刺した。目を貫かれた邪神ネクロスは少しずつ体の動きが遅くなっていき、最終的には体はピクリとも動かなくなった。

ネクロス「まさか…この我が滅ぶとはな…」
リリィ「邪神ネクロス、300年に渡る因縁もここまでのようですね」
フロレンティーナ「ささ、もったいぶってないでさっさと死になさい」
ネクロス「ククク…我は滅びるが、この世にはいつか必ず我やジギスヴァルド以上の脅威が訪れる事だろう…」
アエリス「何ですって!?」
ヴァーラ「安心しろ、その脅威も私達が必ず倒してみせる!!」
ネクロス「無駄だ…その脅威は少なくとも100年以上後に訪れる…その時、お前達は年老いて生きてはいまい…ハッハッハッハッハ…!!!」

邪神ネクロスはそう言い残し、体は砂の様に崩れ去り、完全に滅び去った。こうして、300年以上に渡る因縁に決着が付いたのである。

フロレンティーナ「…終わったわね」
リリィ「そうですね、お姉さま」
アエリス「でも、邪神ネクロスが最後に言っていた脅威の話…気になりますね…」
ヴァーラ「だが、奴は100年以上後と言っていた…悔しいが、その時私達は生きていない…」

リリィ「安心してください、私達精霊は人間より長生きです、きっとその時代にも生きています」
フロレンティーナ「だから、後は私達に任せて平和に暮らしときなさい」
アエリス「リリィちゃん…フロレンティーナさん…」
ヴァーラ「フッ…どうやら私達にできる事はもう残ってないようだな…」

すると、洞窟の外から仲間達の声が聞こえてきた。

ソフィア「おーい、大丈夫~?」
アエリス「みんな!」
イェルハルド「ヴァーラ様、よくぞご無事で」
シーグリッド「心配したんですよ」
ヴァーラ「心配をかけたな、イェルハルド、シーグリッド」

アエリス「邪神ネクロスは完全に滅びました、これでこのアインベルグ大陸には再び平和が訪れます」
ヴァーラ「だが、まだ完全に脅威は去っていない」
リリィ「その脅威と戦う為、私とお姉さまは旅に出る事にします」
フロレンティーナ「いつかこの世界に本当の平和が訪れる、その時までね」

テオドール「…何か、壮大な話になって来てるなぁ…」
レギーナ「ま、いいんじゃない? これでまた平和が来るんだしさ」
セアル「そうね」
アエリス「それじゃみんな、帰ろう!」
ヴァーラ「そうだな」

こうして、後に邪神討伐戦記と呼ばれる戦いは幕を閉じた。この戦いの後もこの世界は幾度となく戦いに見舞われる事になるが、その度に人々は戦い、平和を勝ち取って来たのである。それは、いつの時代も人々の心に平和を願う心があり、この戦いの先に必ず平和が来ると信じていたからなのだ。そして、その平和はいつか必ず訪れるはずなのである。

二大国戦記

聖暦777年、光と闇の双方が対立するアインベルグ大陸、その大陸には、エスプランドル聖王国とオスクリタ大帝国と言う2つの国があった、この2つの国はかつては仲が良かったが、オスクリタ大帝国軍の皇帝が変わり、関係は悪化、そして遂にオスクリタ大帝国軍はエスプランドル聖王国軍に対し、宣戦布告。両国は戦争状態に突入し、建国以来の大戦争へと突入した。

そんなある日、オスクリタ大帝国軍の軍勢がエスプランドル聖王国へ侵攻開始したとの情報が入った。国王であるアレクサンダー・エスプランドルは、エスプランドル騎士団の若きリーダーであるアエリス・クリステナにオスクリタ大帝国軍を迎え撃つよう指令を下した。そして、アエリスは、変わり者の多いエスプランドル騎士団を率い、オスクリタ大帝国軍のいるエスプランドル草原へと向かった。

アエリス「これからオスクリタ大帝国軍との戦争があるけど、みんなで生きて帰ろう!」
セアル「そうね、頑張りましょう」
カリスト「難しいかもしれないが、最善は尽くす」
テオドール「みんなで生きて帰れたら、これ以上の幸せはないよね」
エルフリーデ「みんな、頑張りましょう!」
エルマー「そうだね、姉さん」

その後、エスプランドル聖王国軍はエスプランドル草原に到着した。そこには既に、オスクリタ大帝国軍の大群が待ち受けていた。軍を指揮するのは、ヴァーラ・リボルーナ、アエリスと同じく、オスクリタ大帝国軍の若きリーダーである。ヴァーラはエスプランドル聖王国軍に対し、ある警告をした。

ヴァーラ「エスプランドル聖王国軍に伝える、貴様らでは我々オスクリタ大帝国軍の精鋭には敵わない、今すぐ撤退する事を勧める」
イェルハルド「流石ヴァーラ様、素晴らしいお言葉です」
シーグリッド「味方だけではなく、敵の心配をする、ヴァーラ様は私達の頼れるリーダーね」

事実、エスプランドル聖王国軍の戦力はオスクリタ大帝国軍の半分以下、しかし、エスプランドル聖王国軍は諦める訳にはいかなかった。

アエリス「悪いけど、その要望は飲めないわ」
カリスト「俺達は王国を守る事が仕事なんでな」
セアル「そう言う事よ、残念だったわね」

すると、諦めの悪いエスプランドル聖王国軍に対し、呆れ果てたヴァーラは、部下である指揮官に総攻撃を命じた。

ヴァーラ「ジークベルト、ヴィルヘルム、エーディット、ローザリンデ、やれ!」
ジークベルト「了解! 任せてくれや!」
ヴィルヘルム「了解、敵を殲滅する」
エーディット「…了解…」
ローザリンデ「了解! 後はあたし達に任せな!」

ヴァーラの部下の指揮官4人は凄腕の指揮官であり、オスクリタ大帝国軍四天王とも呼ばれている。ジークベルトが斧、ヴィルヘルムが槍、エーディットが弓、ローザリンデが剣を使い、それぞれが高い戦闘能力を持っている。4人は兵を率い、エスプランドル聖王国軍に攻撃を仕掛けた。

アエリス「来るよ! みんな、応戦して!!」

エスプランドル聖王国軍は迫る敵に応戦した。

アーロン「よし! 俺はあの指揮官をやる!」

元山賊のアーロンはジークベルトに攻撃を仕掛けた。

ジークベルト「甘いんだよ! おっさん!!」

ジークベルトは巨大な斧で、アーロンの胴体を両断した。胴体を切断されたアーロンは、即死してしまった。続けてヴィルヘルムがエスプランドル兵を蹴散らしつつ、ジークベルトと共にアエリス目掛けて突っ込んできた。

ヴィルヘルム「敵の指揮官を殺ればすぐ決着が付く」
ジークベルト「そう言う事! やりましょうぜ!!」

アエリス「敵が来る!」
カリスト「ここは俺に任せて下がれ!」

エスプランドル聖王国軍一の剣士であるカリストは、細身の剣を片手に2人の指揮官の前に立った。

ジークベルト「邪魔だゴミ!!」

ジークベルトが斧を振り上げたその瞬間、カリストは細身の剣でジークベルトの喉を貫いた。

ジークベルト「がはッ…!!」

喉を貫かれたジークベルトは地面に倒れ込み、息絶えた。

ヴィルヘルム「ッ…! よくもジークベルトを…!」

ヴィルヘルムは槍を構え、カリストに突進した。

カリスト「くっ…! 相手は槍か…不利だな…!」
ベルタ「ここはあたしに任せて! あいつはあたしがぶっ潰す!」

カリストに変わり、魔術師のベルタが戦線に赴いた。

ヴィルヘルム「覚悟…!」

ヴィルヘルムの槍の一撃はベルタには当たらず、ベルタは間一髪回避し、炎魔法のファイアを唱えた。ヴィルヘルムは炎で体を焼かれてもなお、ベルタに攻撃を仕掛け、ベルタの体を貫き、命を奪った。

ヴィルヘルム「フ…馬鹿め…」

そのヴィルヘルムを狙っていた弓兵のソフィアは、今がチャンスとばかりに弓を放った。放たれた弓はヴィルヘルムの脳天を貫通し、ヴィルヘルムを倒す事に成功した。

ソフィア「やった!」

その時、ソフィア目掛けて弓が飛んできた。オスクリタ大帝国軍のエーディットのものだ。ソフィアは間一髪で弓を回避したが、その弓は左肩をかすめ、傷を与えた。

ソフィア「ッ…! あいつ、中々やるよ」

エーディットは丘の上から弓を放っていた。丘の上からソフィアのいる位置はかなりの距離で、かなり動体視力がいいのであろう。そのエーディットのいる場所に向かったのは、騎士のテオドールと盗賊のカリーナであった。

テオドール「てやぁぁぁッ!!」

テオドールはエーディットに剣を振り下ろしたが、エーディットは身軽な動きでそれを回避した。

カリーナ「はぁぁッ!!」

続けてカリーナがナイフで攻撃したが、エーディットは矢を取り出し、カリーナの胸目掛けて矢を突き刺した。

カリーナ「こんな…事って…」

胸に矢を突き刺されたカリーナは命を落とした。

テオドール「よくもカリーナをぉ!!」

怒りに燃えるテオドールの振った剣の一撃は、エーディットの体を斬り裂いた。

エーディット「私も…ここまでか…」

体を斬られたエーディットは口から血を吐き、地面に倒れ込んでその生涯を終えた。

一方、アエリスの近くには四天王最後の1人であるローザリンデが兵士を蹴散らしながら向かっていた。

マルティン「アエリス様! 下がってください!」
アルベルト「ここは俺達に任せてくれや」
ローザリンデ「邪魔よ! どきな!!」

ローザリンデは剣を振り、騎士のマルティンと傭兵のアルベルトを斬り裂いた。斬り裂かれた2人は地面に倒れ込み、力尽きた。

アエリス「このままじゃ全滅してしまう…」
エルフリーデ「アエリス様はやらせない!」
エルマー「僕達がやるしかない!」
ジェズアルド「アエリス様はお下がりください」

エルフリーデとエルマーの剣士姉弟と、老剣士であるジェズアルドの剣士3人は、オスクリタ大帝国軍の剣豪であるローザリンデと対峙した。

ローザリンデ「フン、こんなガキとジジイ、あたし1人で十分よ!」

そう言ってローザリンデは3人に攻撃を仕掛けた。

3人は攻撃をぎりぎり回避し、同時攻撃した。だが、ローザリンデは軽々回避し、攻撃してきた。その攻撃をジェズアルドは剣で受け止め、押し返した。あまりに強い力で押し返されたローザリンデは地面に倒れ、その隙にエルフリーデとエルマーが剣を胸に突き刺した。

ローザリンデ「あたしが…こんな…虫ケラにぃ…」

そう言い残し、ローザリンデは口から血を吐き、息絶えた。こうして、オスクリタ大帝国軍の四天王は全滅したのである。

イェルハルド「ヴァーラ様、四天王が全滅しました」
ヴァーラ「そんな…四天王が…」
シーグリッド「エスプランドル騎士団…侮れないみたいですね」

その時、ヴァーラ達の後方からオスクリタ大帝国軍の援軍が到着した。援軍の指揮をしていたのは、皇子のヴェンデルと、皇女のゲオルギーネ、部下のアルレットであった。

ヴァーラ「ヴェンデル様! それに、ゲオルギーネ様! 何故ここに!?」
ヴェンデル「お父様の命令でね、僕達まで駆り出されたのさ」
ゲオルギーネ「そう言う事、私はこんな事嫌だったけどね」
ヴァーラ「ジギスヴァルド様が…」
ヴェンデル「そうだよ、だから、一緒にエスプランドルの犬共を皆殺しにしよう!」
ヴァーラ「了解です!」

エスプランドル聖王国軍とオスクリタ大帝国軍との戦いは続く、現在はエスプランドル聖王国軍が有利ではあるが、オスクリタ大帝国軍は遂に皇族を駆り出してきた。皇族が来た事で士気の上がったオスクリタ大帝国軍は、一気にエスプランドル聖王国軍に攻撃を仕掛けた。

怪我をしたエスプランドル騎士団のメンバーを治癒するのは、治癒者のリリアーヌと神官のシャルロッテだ。2人は怪我をした兵士に回復魔法のヒールを唱え、怪我を治癒させていた。

リリアーヌ「はい、もう大丈夫ですよー」
エーリカ「あ…ありがとうございます…」
シャルロッテ「しかし…こうも攻撃が激しいと困っちゃうわね…」

そんな彼女たちを狙っていたのは、オスクリタ大帝国軍の皇子ヴェンデルである。ヴェンデルは弱った獲物を沢山仕留めようとしているのである。

ヴェンデル「よし、僕はあの弱そうな奴らを皆殺しにするよ」
ゲオルギーネ「じゃあ、私は一気に指揮官を潰すわ」
アルレット「では、私は他の雑兵を始末します」

そして、3人はそれぞれの獲物を求めて馬を走らせ、ヴェンデルは怪我をしたエスプランドル兵に狙いを定めた。

リリアーヌ「あ! あれは…!」
ヴェンデル「そぉら死ねぇぇぇッ!!」

ェンデルは剣を振り、リリアーヌを斬殺した。

リリアーヌ「アエリス様…すみませ…ん…」

体を斬られたリリアーヌは地面に倒れ、命を落とした。

エーリカ「キャアアアッ!!」
シャルロッテ「エーリカちゃん! 逃げ…!」

ヴェンデルは剣を振り、シャルロッテが言い終える前にシャルロッテの首を刎ね、一瞬にして命を奪った。

ヴェンデル「ハハハ! 弱い獲物をいたぶるのは気持ちがいいなぁ!!」
エーリカ「たっ…助けてぇぇぇッ!!」

ヴェンデルのあまりに行き過ぎた行動に、彼の部下であるレギーナとリーズは悩んでいた。

レギーナ「ねえ…ヴェンデル様、流石にやり過ぎじゃない?」
リーズ「そうね…私達が付くべきはこっちじゃないのかも…」

すると、レギーナとリーズは彼の部下の兵士を攻撃し始めた。

ヴェンデル「貴様ら! 何のつもりだ!」
リーズ「私達が付くべき主は、あなたじゃない!」
レギーナ「そうそう! 早い話が、裏切りってワケ!」
ヴェンデル「くそぉぉぉッ! 貴様らも殺してやる!!」

その時、ヴェンデルが降った剣を受け止めたエスプランドル兵がいた、槍兵のアビゲイルである。

アビゲイル「彼女たちはやらせないわ!」
ヴェンデル「このアマァァァッ!!」

怒り狂ったヴェンデルは剣を振り回したが、そんな太刀筋では相手を殺す事はできず、一気に懐に飛び込んだレギーナのナイフで首を斬り裂かれてしまった。

ヴェンデル「お父…様…」

ヴェンデルは落馬し、命を落とした。

レギーナ「やれやれ…あたしの主がこんなクズとはね…」

リーズ「! 待って! この人…」

ヴェンデルの死体は見る見るうちに姿を変えていき、禍々しい悪魔のような姿に変貌した。

アビゲイル「うっ…何これ…?」
エーリカ「まさか…! 皇帝の姿をした魔物に帝国を乗っ取られていたの!?」
レギーナ「そう言う事らしいわね…」
リーズ「つまり、この戦争は魔族の侵略戦争って事なのね…」
アビゲイル「こんな事って…」

その頃、アルレットはエスプランドル騎士団と交戦していた。槍を使いこなし、セアルやカリストを攻撃したが、彼らは身軽な動きで攻撃を回避していた。

アルレット「中々やりますね」
セアル「やられる訳にはいかないからね」

エルフリーデとエルマーは後方からアルレットを攻撃しようとしたが、アルレットは振り向き、槍で2人を薙ぎ払った。

エルフリーデ「キャアッ!」
エルマー「あの女の人、かなりのやり手だよ!」
ジェズアルド「ここはわしに任せてくれ!」
エルマー「じっちゃん!」
エルフリーデ「歳なんだから無理しないでね」
ジェズアルド「まだまだ若いもんに負けはせん!」

そう言ってジェズアルドは剣を取り、立ち向かった。アルレットとジェズアルドは激しくぶつかり合い、まさか老兵がここまでやるとは思わず、アルレットは驚きを隠せずにいた。

ジェズアルド「一気に決めますぞ! せいっ!」

ジェズアルドは剣を振り、アルレットの槍を斬り落とした。

アルレット「馬鹿なっ!!」
ジェズアルド「これで終わりだ!」

ジェズアルドは剣を振り、アルレットの体を斬り裂いた。

アルレット「ジギスヴァルド様…申し訳…ございません…」

そう言い残し、アルレットは地面に倒れ、命を落とした。

カリスト「爺さん、中々やるじゃないか」
ジェズアルド「だから言ったろう、まだまだ若いもんには負けんとな」

一方、皇女のゲオルギーネは、指揮官であるアエリスと交戦していた。

ゲオルギーネ「悪いけど、死んでもらうわよ!」
アエリス「くっ! 強い…!!」

ゲオルギーネの太刀筋は素早く、アエリスは防戦一方であった。

ステファン「アエリス様! お下がりください!!」

斧兵のステファンはアエリスの援護に回ろうとしたが、ゲオルギーネの剣によって一撃で斬殺された。

アエリス「ステファンさん!」
ゲオルギーネ「雑魚の心配してる場合!?」

ゲオルギーネの剣はアエリスの剣を弾き飛ばした。

アエリス「しまっ…!!」
ゲオルギーネ「これで終わりよ!!」

ゲオルギーネが剣を振り下ろそうとしたその時、一本の矢がゲオルギーネの腕を貫いた。そのあまりの激痛に、ゲオルギーネは剣を落とした。

ゲオルギーネ「キャアアアッ! 痛いッ! 痛いぃッ!!」
ソフィア「何とか間に合ったみたいね」
アエリス「ソフィアちゃん! ありがとう!」

アエリスは剣を拾い、ゲオルギーネの胸を剣で突き刺した。

ゲオルギーネ「がはッ! こん…な…」

胸を剣で貫かれたゲオルギーネは落馬し、そのまま息絶えた。

アエリス「ふぅ…危なかった…」
ソフィア「待って、この人…」

ゲオルギーネの死体は見る見るうちに姿を変えていき、禍々しい悪魔の様な姿に変貌した。

アエリス「ちょっと待って、この人って、オスクリタ大帝国軍の皇女様よね?」
ソフィア「そうですよ、でも…」

しばらくすると、オスクリタ大帝国軍のリーダーであるヴァーラがやって来た

ヴァーラ「アエリス! 今日こそ終わりだな!」
アエリス「待って! ヴァーラさん! これを見て!」

ヴァーラは変貌したゲオルギーネの死体を見た。その死体を見たヴァーラは、恐ろしい物を見た表情をして驚いていた。同じく、部下のイェルハルドとシーグリッドも驚いており、彼女たちはこの戦いが魔族によって仕組まれていた事に気付いた。

イェルハルド「ヴァーラ様、これは…」
ヴァーラ「ああ、どうやら本物のジギスヴァルド様は既に…」
シーグリッド「じゃあ、今のジギスヴァルド様は、魔族なんですね?」
ヴァーラ「そう言う事だ、魔族め、舐めた真似をしてくれる…」

その後、呼吸を整えたヴァーラは、アエリスにある提案をした。

ヴァーラ「アエリス! この戦いはここで終わりにするぞ!」
アエリス「え? じゃあ…」
ヴァーラ「ああ! 我々の本当の敵は、ジギスヴァルドだ!」

本当の敵を見つけたアエリスとヴァーラ、エスプランドル聖王国軍とオスクリタ大帝国軍は同盟を結び、真の敵であるジギスヴァルドとの戦いに臨む。

エスプランドル聖王国軍とオスクリタ大帝国軍との戦争は、魔族が成り代わったジギスヴァルド皇帝が仕組んだものであり、真の敵を知った両軍は、ジギスヴァルド討伐の為、オスクリタ大帝国へと向かった。

ジギスヴァルドはかつてはエスプランドル聖王国の国王、アレクサンダーの親友であり、この事は早速国王に伝えられた。事の真実を知ったアレクサンダーは嘆くと同時に、この戦争が早期終結する事を願った。

アレクサンダー「そうか…本物のジギスヴァルドは死んだか…」
アンジェリーナ「あなた…そう気を落とさないで…」
アレクサンダー「ああ、それより、今はこの戦争が終わるかどうかだ」
ジョシュア「大丈夫です、お父様、きっとエスプランドル騎士団が終わらせてくれます」
セシリー「そうよ、お父様、きっと大丈夫だわ」
アレクサンダー「ああ、そうだな」

アレクサンダー王は少しでも戦力を増やすべく、側近のイフォンネをエスプランドル騎士団に合流させた。これにより、僅かながらだが、戦力が上がったのである。そして、両軍はオスクリタ大帝国へと到着した。しかし、そこには既に人の気配はなかった。

エルマー「ねえねえ、人の気配がしないんだけど…」
イェルハルド「…きっと皆殺しにされたんだ」
エルフリーデ「えっ!? でも自国の民なんでしょ?」
シーグリッド「魔族である奴らにとっては、ただの食糧なんでしょう」
アエリス「なら、国民は全員殺されたか…」
ヴァーラ「逃げたか、だろうな…酷い奴だ…」

その後、両軍は皇帝のいるオスクリタ城へと向かった。そのオスクリタ城では、皇帝であるジギスヴァルドと、女帝であるヴィルヘルミーナがいた。だが、ジギスヴァルドは自身の根城に攻め込まれそうになっている事に対し、ヴィルヘルミーナに責任を取らせていた。

ジギスヴァルド「これも全てお前の責任だぞ、ヴィルヘルミーナ、お前の産んだ子供がもう少し役に立っていれば…!」
ヴィルヘルミーナ「何よ、その勝手な言いがかり、ふざけた事言わないでくれる?」
ジギスヴァルド「ええい! もうよい! どのみち貴様はここで死ぬ運命だ!」

そう言って、ジギスヴァルドは錫杖を掲げ、ヴィルヘルミーナに雷を落とした。

ヴィルヘルミーナ「ギャアアアッ!!」

ヴィルヘルミーナは骨一つ残らず消し炭となった。そうこうしていると、玉座の間にエスプランドル騎士団と、オスクリタ大帝国軍の両軍が到着した。

ジギスヴァルド「…来たか」
ヴァーラ「ジギスヴァルド! お前は今まで私達の事を騙していたんだな! そして、私達に無駄な争いをさせた!」
ジェズアルド「それがどうした、魔族の繁栄の為に貴様ら人間は邪魔なのだ」
アエリス「あなたのせいで死ななくていい人が大勢死んだ! だから私達はここであなたを討つ!」

アエリスの掛け声で、両軍は武器を構えた。それを見たジギスヴァルドは、立ち上がり、体に力を込めた。

ジギスヴァルド「ぬおぉぉぉぉぉぉッ!!」

ジギスヴァルドの体からは深紅のオーラが発生し、体全体が深紅の光に包まれた。その光が収まると、ジギスヴァルドは真の姿を現した。その姿は悍ましい悪魔のような姿で、怪獣のように巨大な翼と尻尾が生えていた。

ヴァーラ「それがお前の正体か! ジギスヴァルド!!」
ジギスヴァルド「正体がばれているなら、もはや隠す必要もあるまい」
アエリス「なら、遠慮なく倒させていただきます!!」

アエリス達エスプランドル騎士団は一斉に攻撃を仕掛けたが、ジギスヴァルドは口から炎を吐き、攻撃を仕掛けた。エスプランドル騎士団は各自散開し、攻撃を回避したが、ジギスヴァルドは両腕を上げ、雷を落とした。その攻撃を食らい、数名の兵士が消し炭になってしまった。

ジェズアルド「あの雷を食らったら即死だ! 絶対食らうな!」
アビゲイル「簡単に言うけど、あれ避けるの大変なんだよ!?」
ヴァーラ「なら、我々が行く!!」

ヴァーラの合図で、部下のイェルハルドとシーグリッドがジギスヴァルドに向かって行った。しかし、3人は尻尾で薙ぎ払われ、吹き飛ばされてしまった。

ジギスヴァルド「貴様らのように貧弱な人間に、我は倒せぬ!!」
セアル「万事休すかしら…」
テオドール「でも、ここまで来て諦めたくないよ」
ソフィア「そうね、諦められないわよね…」
エーリカ「でも…一体どうすればいいんでしょうか…」

ジギスヴァルド「無駄だ! 諦めて死ぬがよい!」

ジギスヴァルドは再び両腕を上げ、雷を落とした。その攻撃を食らい、再び数名の兵士が消し炭になった。

レギーナ「もう! 何なのあの即死攻撃!!」
リーズ「あんな攻撃で死にたくないわよね」
イフォンネ「このままでは敗北する! ここは私に任せろ!」
カリスト「待て! 1人では危険だ!!」

イフォンネは槍を構え、馬を走らせた。

ジギスヴァルド「馬鹿め! 死ね!!」

ジギスヴァルドは炎を吐き、攻撃したが、イフォンネは攻撃をかわし、槍をジギスヴァルドの首に命中させた。

イフォンネ「どうだ!?」

しかし、ジギスヴァルドに命中した槍は先端が見事に折れていた。

ジギスヴァルド「フフフ…残念だったな、わしには人間の作った武器など効かぬのだよ…」

そう言ってジギスヴァルドは両腕を上げ、雷を落としてイフォンネを消し炭にした。

アエリス「イフォンネさん!!」
ジギスヴァルド「冥土の土産に教えてやろう、わしには魔法も効かん! まさに不死身だ! ナハハハハ!!」

その言葉を聞いた両軍の兵士の士気は一気に下がった。どんな攻撃も通用しない、そんな相手を倒せる訳がない。両軍の兵士は完全に諦め、死を待つだけであった。だが、そんな中でも諦めない人物が2人いた。それは、アエリスとヴァーラであった。

アエリス「私の剣は、エスプランドル聖王国に伝わる聖剣、アクアマリン…」
ヴァーラ「私の剣は、オスクリタ大帝国に伝わる魔剣、エラプション…」
アエリス「この剣なら…きっとあいつに通用するかもしれない…」
ヴァーラ「私達は、この剣に全てを賭ける!!」

そう言って、2人は足を走らせた。ジギスヴァルドは危機を察知したのか、雷や炎で攻撃した。しかし、2人は攻撃を回避し、ジギスヴァルドに向かった。そして、ジギスヴァルドのいる手前で同時に高く跳んだ。

アエリス「これで…!」
ヴァーラ「終わりだぁぁぁッ!!」

2人はジギスヴァルドをX字に斬り裂いた。彼女たちの予想通り、聖剣と魔剣の同時攻撃は効いており、ジギスヴァルドは苦しむ様子を見せていた。2人は続けてジギスヴァルドを十字に斬り裂いた。

ジギスヴァルド「ぐあぁぁぁッ!!」

同時攻撃を食らったジギスヴァルドは地面に倒れ込んだ。

ジギスヴァルド「おのれ…我が…滅びる…とは…」

そう言い残し、ジギスヴァルドは灰になった。こうして、エスプランドル聖王国とオスクリタ大帝国との戦争は終結した。

アエリス「…これでこの戦争も終わりだね」
ヴァーラ「…そうだな」

すると、ヴァーラはアエリスに対し、頭を下げた。

ヴァーラ「今まですまなかった、騙されていたとは言え、お前達を傷つけて…」
アエリス「いいよ、あなた達だって、魔族に騙されていたんだもん、これからは仲良くしていけばいいよ」

カリスト「完全な和解にまでは時間がかかるだろうが、いつか人間は争いを捨てる日がきっと来るさ」
ソフィア「だから、それまでは一緒に頑張りましょう」
ヴァーラ「…ああ、ありがとう」
アエリス「じゃあ、みんなで帰ろう!エスプランドル聖王国に!」

エスプランドル聖王国とオスクリタ大帝国はこの戦争の後、終戦協定を結んだ。戦後処理は意外にも早く終わり、この2つの国は同盟国となった。この戦いは後に、二大国戦記と言う物語として後世に語り継がれる事となる。

神聖戦士ノヴァティス

朝が来た、いつもと同じ朝だ。何も変わらない朝、そして何も変わらない一日、いつもと同じ日常だ。しかし、唯一違う事がある、毎日のように流れるニュース、怪人のニュースだ。特撮の世界から飛び出してきたようなおぞましい化け物。その怪人が人を襲い、人を殺すようになったのは一体いつからだろうか。よく覚えていないが、少なくとももう一年は続いているだろう。考えても仕方ない、俺はトーストを口にくわえ、家を出た。そして、いつも通り学校へ向かった。まさかこれから俺自身が怪人と戦うヒーローになるとは思いもせずに…。

俺の名前は日野鋼(ひの はがね)、天翔(てんしょう)高校に通うごく普通の高校生だ。暗めの茶髪で、男にしては少し髪が長く、身長もそれなり、体形はやせ型、どう考えても普通の高校生だ。普段は遅刻する事もほとんどなく、真面目に高校生活を送っているが、今日は寝坊してしまい、遅刻しそうだ。全速力で走り、俺はギリギリ学校にたどり着いた。まあ、人が人である以上、遅刻は必ずある事だ。

「ハガネくん」

ふと、俺を呼ぶ声がした、友人の月村理乃(つきむら りの)だ。理乃ははっきり言って美人だと思う。髪は長く、背中まで伸びており、目も大きく、鼻はスラッとしており、絵に描いたような美少女だ。その上料理も上手で、この学校での一番人気は理乃である。

「珍しいね、ハガネくんがギリギリで学校に来るなんて」
「いや、今日はちょっと寝坊したんだ」

俺と理乃がそんな会話をしていると、

「いつも早く来るハガネが遅く来るなんて、悪い事の前触れみたいだな」

と、友人の山下司(やました つかさ)が話に割り込んできた。司は楽観的な奴で、俺はこいつとはあまり相性が良くない。前に家庭の授業の時に野菜を作った事があり、みんなは真面目に授業を受けていたが、司だけどうやってこれで儲けるかとか言っていた、馬鹿な奴だ。馬鹿な奴だけど、それでもどこか憎めない奴でもある。

「そう言う司くんは、高1の時は遅刻無しだったのに、高2になってから週1回は必ず遅刻してるじゃない!」
「いやいや、週1回は必ずじゃないぞ! たまに週2回、最高で週5回の記録があるからな!」

そんな事を自慢するなよ…と、俺は心の中で思った。

「ところでさ、昨日のニュース観たか?」

と、司が話題を変える。

「知ってる! また怪人のニュースでしょ?」

と、話に入ってきたのはクラスメイトの島村有人(しまむら ゆうと)だ。有人は容姿が子供っぽく、言動も子供っぽい。俺達と同じ高2なのに、中学生と間違われる事もしょっちゅうある。司とは仲がいいが、俺と理乃はあまり話す事は少ない。

「怪人の事件こそ、司くんの遅刻回数の2倍で、週2回はあるよね」
「理乃、結構酷い事言うな…」

司が泣きそうな声で言った。

「でも、あの怪人の事件って酷いよね、だって、謎の宇宙生命体らしきものが人間と融合して、それで怪人になるんだよね? まるで昔放送していた特撮番組みたいじゃない?」

と、有人が言った。有人は昔の特撮番組に関しては人一倍詳しい。前も怪人の話をしていた時、昔の特撮番組の話を10分近く話し、昼休みが終わってしまった事がある。

「考えてみろよ、数十年前はこんな事SFやアニメの中でしかなかったのに、それが今現実の出来事になってるんだぜ?」
「やっぱ、フィクションが現実になったら怖いんだな」

司に対し、俺の意見を返した。今は西暦2035年の5月17日、10年前に火星のテラフォーミングがあり、それから8年が経った2033年のある日、突然怪人が出現した。怪人はその鋭利な爪で市民を次々と引き裂いていった。街中血まみれになり、灰色だったコンクリートは血で真っ赤に染まった。

その後、警察が出動し、拳銃を発砲したが、全く効果がない。そして怪人は警官を殺害し、パトカーを破壊した。その時、死に物狂いの警官が放った銃弾が怪人の脳天を直撃し、そこが怪人のコアだったらしく、怪人を倒した。だが、怪人はそれぞれ位置が違うため、警察たちはコアを探し出し、撃破するようになった。

また、怪人の死体を司法解剖した結果、元の人間の体組織の約98%が未知の組織に変わっていた。その後、研究が進み怪人は火星のテラフォーミングの際に何らかの方法で地球にやって来た宇宙生命体と人間の合体した未知の生物、すなわち「怪人」と呼ばれるに至った。

「でもさ、何で怪人って現れるのかな?」

と、理乃が疑問を投げかける。

「特撮でもいろいろな理由があるけど、一番メジャーなのはやっぱり世界征服かな」

理乃の問いに対し、有人が答える。そして、俺はこう返した。

「俺は、人間が環境を汚して、更に宇宙にまで進出しようとしたからだと思う」
「何だよ、ハガネ、怪人の味方か?」

俺の答えに司が返す、だが、俺はさらにこう返した。

「だってさ、人間が地球をダメにしてその上火星まで乗っ取る、本当の侵略者ってどっちだよ」
「確かに、昔の特撮やSFでもそんな感じの話があったね」

大分乗ってきた有人が返した。

「そうだとしても、俺は許せねえな、今まで何人死んだと思ってんだ」

司の言う事も、あながち間違っていない。2035年5月17日現在、出現した怪人は106体、その犠牲者は5238人。俺は家族を殺されて泣き崩れる人や、恋人の女性を殺され、自ら命を絶った人の事を思い出した。確かに許せない事だ、だが、何故怪人は現れるのか…それは、どんなに考えても誰にも分からない事だ。

「お前ら、授業を始めるぞ! さっさと席につけ!」

チャイムの音と同時に先生が入ってきた。

「じゃ、また後でな」

俺はそう告げてそれぞれの席についた。そして、一日の授業を終え、学校が終わった。現時刻はPM04:17、いつもと同じ時刻にいつもの4人が並んで下校している。

「早く帰らないとな」

俺がこう言うのには理由がある。今まで出現した怪人106体全ては夜から早朝にかけての暗い時間帯に出現しているのだ。そして何故だか分からないが、朝や昼などには出現していない。それが何故か、詳しい事は不明だが、恐らく、人間と合体している宇宙生命体の活動しやすい時間帯だからだと思われる。

「今日は曇りだから、余計に早く帰らないとね」

昼から曇ってきた事について理乃が言った。

「とりあえず、後でオンラインゲームしようよ、新しく発売されたエネルゲンブレイカー3、面白いよ」

と、有人が言った、それに対し。

「お前、あのゲーム買ったのかよ! いいな~俺も早くやりたいぜ~!」

と、司が返した、司はゲームが大好きだから、仕方ない。ちなみに、エネルゲンブレイカーとは、世界中で大人気のアクションゲームだ。世界中で570万本を出荷した大人気ゲームである。司と有人がそんな話をしていると、突然前から叫び声が聞こえた。

「うわあああっ!!」

恐怖心の混じったこの声は、同じクラスの倉橋元(くらはし はじめ)の声だ。

「今の声、ハジメくんの声だよね?」
「おいおい、尋常じゃないくらいやばい声だったぞ?」
「まさか…怪人?」

理乃と司、有人がそんな話をしている中、気が付いたら俺はその声の方に向かっていた。

「ちょ…ハガネくん!?」

後ろから理乃が俺の名前を呼んでいた。しかし、俺はそんな事を気にせず、声のした方向に向かっていた。万が一、怪人がいたとしても何もできないというのに…。

声のした場所は交差点だった。そしてその道の真ん中で声の主の元ともう一人、一年の山本正志(やまもと まさし)が血を流して死んでいた。元は首をもぎ取られ、正志は腹をズタズタに引き裂かれ、そこら中に内臓やはらわたをぶちまいていた。その様子を見ていたらしい俺達と同じクラスの篠原雫(しのはら しずく)が。2人の返り血を浴びて恐怖で力を失って地面に座り込んでいた。

「雫ちゃん!!」

俺の後を付いて来た理乃が雫の腕を引き、俺や司、有人と一緒に怪人から逃げた。その逃げている間、司は警察に連絡を取った。もちろん、怪人は追いかけてきた。有人は隙を見つけては怪人に石をぶつけたが、もちろん、効き目はない。

「おい、どうすんだよ!!」

司が焦りの混じった声で言った。確かに、この状況はまずい。するとそこに、警察がいいタイミングでやって来た。最近は怪人の事件が多い為、そこら中に警察署があるのだ。そしてこの時代の警察は対怪人用の特殊スーツを身にまとっており、一般的にはM(モンスター)トルーパーと呼ばれている。

「ここは我々に任せて、早く逃げてください!」

Mトルーパーの一人がそう言うと、Mトルーパー部隊は怪人に向けて左腕に装着している対怪人銃MB-G(モンスターバスターガン)を放った。そして、その間に俺達は逃げた。俺達はしばらく逃げ回った末、学校から一番近い俺の家に逃げ込んだ。

「あら、おかえり、…って、どうしたの? 何かあったの?」

俺の母さんの日野縁(ひの ゆかり)だ。俺達の今の状況を見て、何かあったのか悟ったらしい。

「母さん、これには事情が…!!」

俺は今までのいきさつを全て母さんに話した。

「そんな事があったのね、あなた達も大変だったわね、何かあったら大変だし、今日はみんな泊まっていった方がいいわ」

母さんがそう言うと、俺以外の4人が、

「お邪魔します」

と言い、すぐに上がり込んだ。一方その頃、怪人はMトルーパー部隊を全員、無残に惨殺し、Mトルーパーの一人の首をもぎ取り、手に持っていた。どれも元の姿が分からない程、ズタズタに引き裂かれていた。

「サッキノヤツラ、コロス!!」

怪人はそう言い、手に持っていた首を地面に落とし、そのまま踏みつぶした。怪人の言った言葉は、Mトルーパーの通信機から警察本部へ送られていた。そして怪人は、ハガネの家へ向けて移動を開始した。PM06:08、俺の家に俺の父さんの日野時雄(ひの ときお)が帰宅し、夕食が始まった。

「いただきます」

食事の始まりにいただきますと言うのは、2035年も変わっていない。

「ほら、これ、母さんが作った茹でブロッコリーだ、食うか?」

俺は雫に茹でブロッコリーを差し出した、しかし、雫はずっと俯いている。よほど、目の前で起こった出来事が恐ろしかったのだろう。

「なあ、司、こういう時ってどうしたらいいんだ?」

司は特徴のないスポーツマンの様な容姿をしているが、女性については非常に詳しい。しかし、こんな状況は想定外らしく、手の打ちようがないようだ。

「なあ理乃、お前は雫と同じ女の子だから、何か分かるんじゃないか? よく話してるしさ」

仲のいい理乃の言葉でも、ダメらしく、雫はそれなりに長い髪を顔の前に垂らし、俯いていた。その瞳には涙が溜まっており、今にも泣きだしそうに震えている。すると、見かねた有人が、

「大丈夫? 何かあったら力になるからさ、今は忘れよう? ね?」

特撮ヒーローで言うと、緑みたいなポジションの有人だが、こういう時は司より女性に対する接し方は上手だと思う。現に、雫は少し元気になっている。そして、司は少し悔しそうにしていた。夕食を終えた俺達5人はこれからどうするかを話し合っていた。

「これからは軽い気持ちで外に出れねえぞ、一応俺達の家にはハガネの母さんが連絡してくれたけどさ」

司が普段より真面目な声で言った。

「……もう…外に出たくない……」

雫が俺の家に来てから初めて喋った、その声は恐怖で震えている。それに対して、俺は正直な気持ちを伝えた。

「俺だって、もう外には出たくないよ、いつ死ぬかも分からないんだし…」

現に、怪人が出没するようになってから夜の街に出る人間はほとんどいなかった。怖いもの知らずのチンピラですら外に出るのを恐れるほどだからだ。

「けど、いつまでも家の中にいるのはよくないよね?」

有人が言った、確かにそうだ、かつて出現した怪人の第46号は家の中に上がり込み、その一家を一人残らず皆殺しにしたからだ。だが、家の中にまで入ってきた怪人は今までほとんど存在しない。その瞬間、激しい音を立てて部屋の壁が破壊され、先ほどMトルーパー部隊と交戦したクモ種怪人スパイダロスが現れた。

「あいつは…! さっきの怪人!! 生きていたのか!!」

有人が驚いた声で叫んだ。

「あら? 何かあったの?」

さっきの音に驚いた母さんと父さんが部屋に入ってきた、その際に雫はどこかに逃げた。すると、スパイダロスは口から蜘蛛の糸を吐き、父さんと母さんを絡めとった。

「うわっ!? 何だこりゃ!?」
「ハガネ! 早く逃げて!!」

俺の父さんと母さんはスパイダロスの方に引っ張られてゆく。

「母さん! 父さん!!」

俺の叫びも虚しく、スパイダロスは俺の父さんの首元に嚙みついた。すると、父さんの体は液化していき、骨も残らず溶けてしまった。続けて、スパイダロスは母さんの首元にも噛みつき、母さんも父さんと同じ様に骨も残らず溶けてしまった。

「こいつ…!! よくも父さんと母さんを…!! うわああああああっ!!」
「ハガネくん!!」

理乃が俺の名前を呼んだが、無視して俺はスパイダロスに殴りかかった。当然、スパイダロスには効果がなかった。スパイダロスは俺を薙ぎ払い、俺の体は壁に叩き付けられた。

「がはっ…!!」

全身が強く打ち付けられ、俺は少し吐血した。俺の視界が揺らぐ中、スパイダロスが俺にゆっくりと向かって来ているのが見えた。ああ、俺は死ぬんだな、父さんと母さんの所へ行けるんだ、そう思い、目の前が真っ白になった。次の瞬間、俺は怪人になっていた、いや、これは怪人じゃない、顔は見えないが、このヒーロー然とした姿、俺はヒーローになっている!?

「ハガネって、ヒーローだったんだ!!」
「何だか分かんねえけど、ハガネ! その怪人をやっつけろ!!」
「ハガネくん! 頑張って!!」

有人、司、理乃が俺の事を応援する。ここまで応援されたなら、ヒーローらしく戦わないといけない、でも、怪人との命がけの戦いなんて、やった事ないぞ? ええい、こうなったらヤケだ!!

「うおおおぉぉぉっ!!!」

俺は地を蹴ってスパイダロスに向かって行った。スパイダロスの顔面にパンチを次々打ち込んでいき、スパイダロスがよろめいた隙に回し蹴りを横腹に炸裂させる。スパイダロスは鋭い爪で攻撃してくるが、俺はその爪を手刀で叩き折ったそれは、折ると言うよりは、剣の様に鋭い切れ味の手刀で切断する感覚だった。

敵わぬと見たスパイダロスは逃走を試みたが、俺はそれを追い、飛び蹴りを食らわせた。昔の特撮ヒーローの見様見真似だったが、効果は抜群のようだ。スパイダロスは吹っ飛ばされ、部屋の壁を突き破って爆発四散した。体の破片と緑色の体液を飛び散らし、今度こそスパイダロスは倒されたようだ。

すると、俺の足元にペンダントが転がってきた。それは、高3の西上巧(にしがみ たくみ)の物だった。どうやら、俺の学校の生徒も怪人になってしまったようだ。思えば、巧と雫は仲が良かったはずだ。仲の良かった人が目の前で怪人になり、友人2人を殺したのだ。そのショックは大きいだろう。

そして、理乃たちが俺に「すごい」とか「やったな!」とか言っていたが、父さんと母さんがあの怪人に殺されたのだ、とても喜べない。それを察したのか、すぐさま理乃たちは俺に謝ってきた。そして、気が付くと、俺は元の姿に戻っていた。どうやら、ずっとあの姿でいる訳ではないみたいだ。やっぱり、俺は特撮ヒーローみたいな存在になってしまったのだろうか…?

すると、理乃が雫の姿が見えないと言い出した。どこへ行ったのか分からないので、探してみたところ、押し入れの中でビクビク震えながら隠れていた。

「なあ雫、あの怪人は高3の西上巧だったんだな、何で早く教えてくれなかったんだ?」

俺は雫に聞いてみたが、雫は答えなかった、多分、答えたくない、いや、信じられないのだろう、仲のいい友人が、怪人になるなんて。俺でも信じたくない、俺はますます怪人を許せなくなった。でも、一番心配な事はやはり、俺がヒーローになった事だろう俺はその事が気になり、眠れなかった…。

その翌日、知らない間に眠りについてしまった俺は、俺を呼ぶ声を聞いて目を覚ました。

「…きて…! 起きて…!!」

理乃の声だ、服装はYシャツ一枚で、髪には寝癖がかかっている為、起きたばかりなのだろう。そう言えば、昨日俺の家で泊まるとか言っていたな、俺が今何時か確認したところ、AM07:50、俺は目を疑った。始業時間が08:20なので、このままでは遅刻してしまう。そう言えば、昨日は中々寝れず、AM02:00ぐらいに寝たんだっけ。他の面々も同じらしく、司に至ってはまだガーガーといびきをかいている。おまけに目覚まし時計は昨日スパイダロスが暴れた時の衝撃で壊れており、仕方なくスマホのアラームをセットしていたが、音が小さく、効果がなかった。

俺達は急いで仕度をしたが、結局遅刻も遅刻の大遅刻で、学校に着いたのがAM08:46、先生に怒られてしまった。その後は気まずい空気のまま授業を受けることになった。こうなったのも全てあの怪人のせいだ。そして、昼休み。

「あーっ! お腹すいたよーっ!」

子供っぽい容姿の有人が子供っぽい台詞を放った。こうして見ると、本当に子供にしか見えないのが怖い。

「仕方ないでしょ、お弁当を作る時間もなくて、所持金もゼロ、ハガネくんが持ってた200円でサンドイッチが買えたんだから、食べられるだけでもありがたいと思わないと」

理乃の言うとおりだ、世の中にはまともな食事ができない人もいる、食事をすると言う事がどれほどありがたい事か。

「でもさ、腹減るよな、あれだけじゃ、マジで、いや、ほんとに」

まあ、司の言う事も分からなくもない、3枚あったサンドイッチを5人で分けたんだから腹も減るだろう。

「私はこれで十分よ、元から少食だしね」

とんでもない衝撃発言だ、雫、それは小食ってレベルじゃないぞ。むしろサンドイッチ半分で腹が満たされるって、どんな胃袋してるんだよ…。そして、今日は昨日のメンバーに加えて、もう一人メンバーがいる。俺と高1の時同じクラスだった沢田孝信(さわだ たかのぶ)だ。

「へ~、ハガネがヒーローねぇ…」

孝信は馴れ馴れしい奴で、俺はあまり仲良くしようとはしなかったが、入学して一番初めに孝信の方から俺に声をかけてきた事を今でも覚えてる。

「俺がヒーローって事は絶対に秘密な」

俺がそう言うと、特撮好きの有人が俺を見てこう言った。

「ヒーローは絶対に正体がバレちゃいけないんだよ、これ、ヒーローの常識ね」

有人は俺がテレビでやっているような特撮ヒーローだと思い込んでるようだ。

「まあ、そうだけど…」

そう言う俺自身は変身した時の事をよく覚えてない。みんなに聞くと、スパイダロスが近づいた時、俺の体が光に包まれて変身したらしい。

参考までに怪人の変身は少しずつ人間の形が悍ましい物に変わっていく。そしてMトルーパーは特殊スーツ、この事から分かるように、俺の変身は他の物とは全く違うようだ。だが、あの後何度か試してみたが、変身はできなかった。どうやら変身するには何かの条件が必要らしい。多分だけど、怪人を前にするとか、自分が危機に会うとか、よく分からないがそんな物だろう。

「ま、ハガネが戦えばどんな怪人だって倒せるよな!!」
「ちょっと司くん、ハガネくんは戦いたくないはずだよ、きっと」

司の言葉に理乃が返した、それに対し、俺は自分の意思を伝えた。

「いや、戦うしかないなら戦うよ、俺は」
「ハガネくん…」

理乃は心配そうに俺の方を見つめていた。

「理乃、心配してくれてありがとう、でも、ここで俺が戦わなくちゃ、みんな殺されるんだ、それなら俺は戦うよ」

その俺の言葉に孝信が反応した。

「本当にそれでいいのか? お前が戦う相手は元人間なんだぞ?」

その言葉に俺は少し考えた、その間に孝信は再び問いかけた。

「誰かから憎まれるかもしれないし、お前も死ぬかもしれないんだ、それに、変身の方法も分からないんだろ? それでどうやって戦うんだ?」

孝信の言葉にも一理ある、けど、俺の答えは既に決まっていた。

「それでも…それでも俺は戦う! 俺は何も失いたくない、父さんと母さんを守れなかった、だからせめて友達だけは守りたい、だから俺は戦う! みんなの為に! もう誰も殺させない! 誰の涙も見たくない! だから戦う!!」

俺は自分の決意を言い切った。すると、孝信は笑顔で俺に語り掛けた。

「そこまで言うなら、俺は何も言わないよ、頑張れよ、ハガネ!」

それが孝信の応援の言葉だった。俺の言葉にみんなも応援の言葉を送ってくれた。その日の放課後、いつも通り家に帰る事になった。

「ハガネ、家の件はどうなったんだ?」
「家の修理が終わるまではおじさんの家に泊まる予定だよ」

司の言葉に俺が返した、すると、有人が嬉しそうな様子で語りかけて来た。

「それってつまり、秘密基地?」
「そんなんじゃないって」

すると、その様子を見ていた雫が笑っていた。

「2人共面白いね!」

雫は昨日より元気になったみたいだ。理乃によれば、昨日の夜色々と話をしたらしい。ま、もっともそのせいで寝坊をしてしまったら元も子もないが。

「雫も元気になったようで何よりだよ」

俺がそう返すと、目の前に何者かが現れた。狼の様な姿をしたオオカミ種怪人ウルフェンだ。

「か…怪人だぁぁぁ!!」

司が叫んだ、すると、ウルフェンが俺に対して語り掛けて来た。

「ノヴァティス…」

その謎の単語に、有人が反応した。

「ノヴァティス…? もしかして、ハガネが変身したヒーローの事かな?」

そんな事を言っていると、ウルフェンがその鋭利な爪を俺に振り下ろした。

「うわああーっ!!」

すると、俺の体は光に包まれ、そのノヴァティスと呼ばれたヒーローに変身した! そして、その鋭利な爪を素手で受け止めた。

「みんな! 今のうちに逃げろ!」

俺の合図でみんなが安全な場所に逃げた事を確認すると、ウルフェンは自身の分身怪人、アリ種怪人アリアントを5匹生み出した。アリアントは数こそは多いが、所詮は分身なので、能力は本体の10分の1程度である。

俺はパンチやキックであっという間にアリアントを3匹倒した。アリアントは人間とアリを足した様な姿をした怪人で、その鋭利な牙で噛みついて攻撃するが、俺はその牙を顔面ごと叩き潰して残った2匹の内の1匹を倒した。顔面を叩き潰されたアリアントは体液を吹き出して地面に倒れ、消滅した。残る1匹は回し蹴りで胴体を分断して倒した。

残るはウルフェン1体だけだ。狼と人間を足して2で割ったような姿にオオカミの頭部をくっつけたような姿をしている。ウルフェンは指の爪をミサイルのように飛ばしてきた。それを俺は回避した、そして後ろで爆発が起こる。幸い、誰にも被害はなかったが、これを回避するのはまずい。

ウルフェンはすかさず2発目を放った。俺は回し蹴りでミサイルをウルフェンに蹴り返した。ミサイルはウルフェンにぶつかり、大爆発を起こした。ウルフェンは粉々に砕け散り、肉片や骨、血液を飛び散らした。すると、司が後ろで歓声を上げた。

「やったな! ハガネ!!」

俺はそれに対し、喜びの言葉を返した。

「ああ、やったよ、怪人を倒したよ!」

俺は元の姿に戻り、みんなは今の戦いの話題をしながらそれぞれの家に帰って行った。そして、俺はおじさんの家に向かった。

「おじさん、入るね」

…返事がない。俺は嫌な予感がしてすぐさま家に入った。

「…何だよ…これ…」

そこには元の姿が分からないほどズタズタに引き裂かれたおじさんの死体があった。あまりに凄惨な光景に俺は状況が理解できずにいた。そして、俺がふとテーブルの方を見ると、一枚のメモが置かれていた。それは、何者かがおじさんの血で書いたメモであった。そこには、こう書かれていた。

「ノヴァティスに告ぐ、お前が存在する限り、お前の大切な者は我々が1人ずつ殺す、それが嫌なら抵抗をやめろ、お前が死ぬか、我々が死ぬか、決めるのはお前次第だ」

俺は怒りを抑えられず、そのメモを握り潰した。

「ふざけやがって…!!」

俺はおじさんの家から食料を持って理乃の家に向かった。あの凄惨な光景を見るのが嫌だったと言うのもあるが、何より理乃の事が心配だった。理乃は1人暮らしだから怪人に襲われでもしたら大変だ。俺は理乃の家の前に立ち、家のインターホンを押した。

「どうしたの? ハガネくん?」

理乃が出てきた、俺はすぐさま事情を説明した。すると、理乃は涙を流した。

「何でハガネくんばかり…許せない…ハガネくん、事情は分かったから、しばらく私の家に泊まって」
「ありがとう、理乃」

俺は理乃の家に居候させてもらう事になった。全ての決着が付くまでは。

翌日、今日は土曜日だ、しかし、今日はあいにく土曜日授業なのだ。そして、俺が今いる部屋は物置みたいな空き部屋だ。理乃は私と一緒に寝る? とか言っていたが、流石にそれは駄目だと言う事で仕方なくここにいるのだ。すると、ドアの方からコンコンと音がした。

「入るね、ハガネくん」

理乃が部屋に入って来たと同時に俺は顔を手で覆った。何せ、今の理乃の服装は下着の上にYシャツを1枚着た何とも無防備な服装だった。そう言えば、俺の家に泊まった時も朝はそんな服装だったな。

「理乃…お前、そんな恰好で恥ずかしくないのか?」

すると、理乃はクスクスと笑ってこう答えた。

「ハガネくん、結構やらしいんだ~」

俺は慌てて否定する。

「ち…違う! そんなんじゃないって!!」

すると、理乃は優しく答えた。

「ま、いいよ、私はこの服装の方が寝やすいんだ」

こっちは目のやり場に困るんだよ、と心の中で思った。

「朝ご飯できたから、一緒に食べよ?」
「分かった、すぐ行くよ」

理乃は1人暮らしだから炊事洗濯は全部1人でやっている。どんな味なのだろうと俺は少し楽しみにしている一方、司は羨ましがるだろうなと心の中で思った。

俺が制服に着替えてリビングの方に向かうと、同じく制服に着替えた理乃が椅子に座って待っていた。俺が椅子に座ると、理乃が手を合わせたので俺も手を合わせた。

「いただきます」

俺と理乃がそう告げると、食事が始まった。今日はごはんに目玉焼き、サラダ、スープ等のシンプルなメニューだったが、味は文句なしで、普通に美味しかった。

「ねえねえ、私、スープは初めて作ったんだけど、どうかな?」
「美味しいよ、とても初めて作ったとは思えないな」
「嬉しい! 今夜、作り方を教えてあげるね」
「ああ、頼むよ」

そんな話をしながら朝食を食べ終えると、一緒に食器を洗って学校へと向かった。

「おはよう、司」
「おはようさん、ハガネ」

俺が挨拶をすると、微妙な返事で挨拶を返す司。すると、有人がやってきて話しかけてきた。

「ねえ、ハガネくん、昨日どこ行ってたの?」

俺は驚いた、何故その事を知っているのかと。

「昨日、ハガネが夜の街中を走っているのを僕のお母さんが見たんだって」
「ちょ…ちょっとランニングをしてたんだよ」

知られるとまずい、何としても隠さねばと思った。すると、雫がやって来た。

「正直に言ったら? ハガネくん」

雫のその言葉にもう隠しきれないと思い、俺は正直に言う事にした。

「じ…実はさ…」

俺は今までのいきさつをすべて話した。すると、司からは予想通りの返事が返って来た。

「女の子と2人きりで一夜を過ごすとか、羨ましすぎだろ! ハガネ!!」
「馬鹿! 声がでかい!!」

だから言いたくなかったんだよ、特に司には。

「ちょっと司くん、ハガネくんはおじさんを殺されたんだよ? 不謹慎じゃない?」

こう言う時、理乃は頼りになる。そして、有人はあのメッセージの事について聞いてきた。

「その怪人の残したメッセージって、僕達を殺すって事だよね?」
「ああ、多分な」

俺はそのメッセージを思い出した。俺がいる限り俺の友人が殺される、そんなのは嫌だ、絶対嫌だ、でも、どうしたら…。

「ハガネくん、大丈夫? 汗、凄いよ?」

理乃の言葉で俺はふと我に返った。

「まあ、考えすぎんなって、ハガネ」

司は俺を安心させようとしているようだ。

「僕達が殺される前に怪人を倒せばそれでいいよ」

有人も俺を安心させようとしてくれている。

「私はハガネくんに助けられた、今度は私達が助ける番だよ」

雫も俺を安心させようと頑張っている。

「でも、どうすればいいだろう、家にいても怪人に襲われかねないぞ?」

俺は一番心配な事を告げた。

「警察に行っても多分信用してくれないし、かと言ってこの事を話したらハガネくんが解剖されそうだし…」

有人の言う事にも一理ある。俺はヒーローと言っても、怪人なんだ、警察に気軽に話すと解剖されかねない。

「そう言えばハガネ、おじさんの事、どうなった?」

俺はハッとした、すっかり忘れていた。

「そ…それはどうしようもなくて、特に親戚とかもいないしさ…」

他の4人はすっかり呆れていた。その頃、警察のMトルーパー部隊はおじさんの家に向かっていた。

「ふむ、生存者はゼロか」

Mトルーパー部隊の隊長、神山広志(かみやま ひろし)が言った。

「はい、それと、食料が全て奪われております」

1人の隊員が言った。

「そうか、しかし、しかし最近はおかしいな、昨日、一昨日と続いて出現した怪人が何者かによって倒されている、一体誰が…」
「神山隊長、それについて、これを…」

その隊員は街中の監視カメラの映像を見せた、その中には一昨日の日野家の怪人、そして、昨日の町中の怪人との戦いが映っていた。

「何だこれは…怪人が怪人と戦っている!?」

神山はその映像に驚いていた。そして、怪人を倒した後、元の姿に戻ったところもしっかりと映っていた。

「この少年は…?」
「制服から確認するに、天翔高校の生徒だと思われます」
「そんな馬鹿な! 怪人に変身して怪人を倒して、更に元の姿に戻るなど、ありえない事だ!」

神山の言う事は正しい、普通、怪人に変身した者は元の記憶を全て失っている、更に、かつて警察の開発した特殊弾丸コンフォートM-01を使っても元の姿には戻らなかった、だが、この怪人は元の記憶が残っている上、元の姿に戻っているのだ。すると、1人の隊員が神山の下にある物を持ってきた。

「隊長、こんなものが…」

それは昨日、日野鋼が握りつぶしたメモであり、神山はそのメモを開いて読んだ。

「ノヴァティス…か、あの怪人の名前か?」
「隊長、どうします? あの少年に話を聞きますか?」
「ああ、聞いてみる価値は十分にあるだろう」

神山は天翔高校の下校時間であるPM4:30に張り込みをする作戦に出た。天翔高校の下校時間になると、目的の人物である日野鋼とその友人がやって来た。

「あー! やっと学校が終わったぜ!!」
「ねえ、後でゲームしようよ」

司も有人も毎日同じ事ばっかり言っていると思った。その時、俺の前にMトルーパーの人達が現れた。

「ちょっと失礼、君は日野鋼くんかな?」

俺は驚いた、何故、俺の名前を知っているのか、そもそもこの俺に一体何の用なのかと。

「私は警察署対怪人部隊Mトルーパー神山隊の隊長、神山広志だ」

Mトルーパーの隊長が直々に俺の下へやって来たとなると、遂に俺の正体がばれたとしか考えられない。俺を捕まえてモルモットにでもするつもりなのだろうか、そう考えると俺は冷や汗が止まらなくなった。

「大丈夫だ、安心してくれたまえ、君に危害は加えない、ただ、聞きたい事があるんだ」

その言葉を聞いた瞬間、俺は少し安心した。もしかすると、この人は優しい人なのかもしれない。俺は念を入れて一言聞いてみる事にした。

「…本当に、何もしませんか?」
「神に誓って約束するよ」
「分かりました、そこまで言うなら」
「それと、君のお友達にも話を聞きたいのだが…」
「俺達もかよ!?」

神山の言葉に、司が驚いた様子を見せた。まさか自分達にもお呼びがかかるとは思ってなかったのだろう、実際、Mトルーパーが興味を示すのは俺の事だけだと思ったからだ。

「少しでも情報は多い方がいいからね」

司や有人がしぶしぶ同意し、理乃、雫、そしてたまたま通りかかった孝信が同行し、俺達は警察署へと向かった。そして、昨日と一昨日の事について知っている限りの事を話した。

「そうか、君があの怪人、ノヴァティスになった理由は詳しく分からないんだな」
「はい、気付いたら変身していて、気付いたら元に戻っているんです」

神山に対し、俺は理由にならない理由を返した。こんな言葉で納得してくれるとは到底思えないが、今の俺にはこれだけしか情報がないのだ。

「もういいだろ、早く帰してくれよ」
「ちょっと! 司くん!!」

暇そうな司に対し、理乃が注意を入れる。

「ところで、俺はこれからどうなるんです? まさかモルモットにされたりしませんよね?」

俺はずっと感じていた事を言葉に出した。下手をすれば改造され、怪人と戦う為の兵器にされる可能性もあった。だが、神山の口から返ってきたのは意外な言葉であった。

「安心してくれたまえ、君をモルモットになんてしないよ、君は今まで通りの生活を送ればいいさ」
「え? それだけでいいんですか?」
「勿論だ、警察だってそこまで落ちぶれてはいないよ、ただ、少し採血をさせてほしい」
「ええ、構いませんが」

俺が同意すると、神山は事前に用意していたらしい採血器具を出した。俺が腕を捲って手を出すと、神山は採血針を俺の腕に近づけた。

「少し痛いが、我慢してくれ」
「大丈夫です、俺、子供じゃないんで」

神山は慣れた手つきで俺の腕に採血針を刺し、俺の血を採血した後、ガーゼを貼った。

「よし、終わったよ、ご協力感謝する、採決の結果は後日報告するよ」

神山はそう言って解散の合図を出し、俺達6人は家へ帰宅した。現時刻PM6:00、怪人が出てきてもおかしくはない時刻だ。

「あ~、今日は徹夜でゲームすっか!」
「もう、司くんはそればっかり!」

司には流石の理乃も呆れ果てているようである。事実、みんなが呆れているからな。

「ねえ、みんな、何か感じない?」

雫が少し怯えた様子でみんなに話しかけた。確かに、俺も何か嫌な気配を感じる。

「気を付けろ! 怪人だ!!」

孝信がそう叫んだ瞬間、暗闇からコウモリ種怪人バットンが姿を現した。そして、それと同時に俺の体は光を放ち、ノヴァティスへと変身した。コウモリは光が苦手で、それはバットンも同じらしく、ノヴァティスの変身の際の光でバットンは苦しんでいた。そこへノヴァティスのパンチが炸裂、バットンは大爆発を起こし、その身を四散させた。

「何だ、大した事ねーじゃん」

司がそう言った、だが俺は何かがおかしいと感じていた。あまりにもあっけなさすぎる、そう思った次の瞬間、地中からモグラ種怪人モールドンが姿を現し、俺を地中に引きずり込んだ。

「ハガネくん!!」

そう理乃が叫んだ気がしたが、もう俺には届かない。何故か知らないが全身が苦しい。恐らく、ノヴァティスは光の無い場所だとあまり長時間戦えないのだろう。昔観た特撮と同じだと俺は苦笑した。

素早く決着を付けなくては、俺は掴まれた右足とは逆の左足で。モールドンを力いっぱい踏みつけた。しかし、効き目はない。もう一度光を出せたら…。

俺は引きずり込まれながらも何とか石を2つ手に取った。そして、石と石をぶつけ、光を出した。その光でモールドンが一瞬怯んだその隙に、先ほどの微量な光で強化された蹴りをモールドンの顔面に浴びせ、高くジャンプした。

そして、落下と同時に両足でモールドンを蹴り飛ばした。モールドンは大爆発を起こし、その爆風で俺は地上に帰還した。地上に帰還すると同時に俺の変身が解けた。

「おお、ハガネ、大丈夫だっ…」

そう言おうとした司をはね飛ばして理乃が俺を強く抱きしめた。

「心配したんだよ、ハガネくん…」

理乃は俺が生きていて嬉しいのか、それとも俺が好きなのかは知らないが、とにかく俺を強く抱きしめた。俺を抱きしめてくれる人はもういない、母は怪人に殺されたのだ。
そう思うと、俺は涙を流してしまった。ほんの一粒の涙であったが、俺は少し楽になった気がした。ずっと不幸続きな俺は涙を流す事を我慢していたが、今だけは少しでいいから涙を流したかったのだ。

「おーおー、辛いな、モテる男は…」

司がそう言うと、雫は空気を読めと言わんばかりに司の右足を力強く踏みつけた。足を踏みつけられた司は声にならない声を上げて苦しんでいた。

そして帰り、俺と理乃は司、有人、雫、孝信と別れて理乃の家に向かった。着いたのはPM8:00、夕食や風呂を済ませた後、寝ようとしたら理乃が俺の部屋に入ってきてこう言った。

「ねえ、ハガネくん、今日、一緒に寝ない?」
「別に構わないが…男と一緒に寝るなんて嫌じゃないか?」
「別に嫌じゃないよ、ハガネくんとなら…」

そう言って理乃は俺の布団の中に入って来た。高校生の男女が2人で寄り添って寝るなんて普通しないと思うし、何よりばれたらまずいと思ったが、断る訳にもいかないから仕方なく一緒に寝る事にした。

「ハガネくん…」
「何だ…?」
「辛い時はさ、泣いてもいいんだよ…」
「…ああ」

俺と理乃は背中合わせで寝ているから理乃は分からないが、俺は今、涙を流している。父さんを殺され、母さんを殺され、おじさんも殺された。
肉親が誰一人いない俺に優しく接してくれるのは、理乃を始めとした俺の友人達だけなのである。だが、そんな友人達の前で泣いている姿は見せたくない。

「ハガネくん、もしかして、泣いてる…?」
「泣いてないよ、とりあえず、今日はもう寝よう」
「うん、分かった、おやすみ、ハガネくん」
「おやすみ、理乃」

俺と理乃はそう言って寝た。俺が小さい時、よく母さんが一緒に寝てくれた事を今でも覚えている。理乃は、その母さんに少し似ている気がする。

…また涙が出てしまった。理乃といると少し安心してしまう自分がいる。何故理乃といると安心してしまうのだろうか、理由を考えるうちに俺は勝手に寝てしまっていた。

翌日、今日は日曜日、ゆっくり休もう。そう思った瞬間、起きてすぐ異変に気付いた。理乃がいない。

家中探しても理乃の姿はなかった。もしかして買い出しに出かけているのか? スマホを使って連絡を取ろうとした時、テーブルの上に一枚の紙が置かれており、そこにはこう記されていた。

「貴様の大切な者は預かった、返してほしければ天翔街の空き地に来い、怪人の王より」

ふざけるな、怪人なんかの為にこれ以上大切な人を殺されてたまるか。相手が怪人の王だろうが何だろうが、絶対に倒してみせる。そう決心して空き地に向かおうとすると、司たちに出会った。

「司、それにみんな、どうしてここに!?」
「これだよ、ハガネ」

司が一枚の紙を手渡した。どうやら、オレだけじゃなく司たち4人にも案内状を出しているようだ。

「どうしよう、ハガネくん、Mトルーパーの人達を呼ぶ?」

有人が焦った様子でそう言った。

「でも、案内されているのは私達だけじゃ…」
「いや、我々も呼ばれている」

雫の言葉を遮ったのは、Mトルーパーの強化服に身を包んだ神山だった。

「おお、Mトルーパーまで呼ばれていたか」

孝信はワクワクした様子を見せていた。恐らく、決戦前の雰囲気に心躍らせているのだろう。大変な状況だと言うのに、のん気な奴だ。

「何故か我々Mトルーパー部隊の数名も呼ばれていたのだ、これは我々人類に対する挑戦なのだろうな」

神山の他にも数十名のMトルーパーの隊員がいた、どれも決戦用のフル装備だ。

「本来なら、君達の様な子供は行かせたくないのだが、これも仕方ない、何かあったら我々が命に代えても守る」

神山はそう答えた、この人が言うと安心感がある。

「では、行きますか」

出発の合図を言ったのは何故か孝信だ。普通こう言うのは神山さんが言うだろう。俺達は空き地へ向けて出発したが、その道中、神山は口を開いた。

「そうだ、ハガネくん、あの採決の結果だが…」
「何かあったんですか?」
「いや、それが、あの血液は一般人のものと全く同じ成分だったよ」

神山の口から述べられたその言葉に、俺達は驚いた。あんなヒーローに変身できるにも関わらず、その血液が一般人の物と同じとは思わなかったのだ。普通、怪人になると血液は成分が未知の成分に変化する、しかし、俺の血液は一般人と同じ血液だったのだ。

「信じられないな…」

怪人に詳しい孝信が興味津々な様子で答えた。

「それじゃ、ハガネくんの体はごく普通の人間の体で、更に変身ができるって言うの?」

雫が驚いた様子で答えた、俺も変身について思う事がある。一般的な特撮番組のヒーローとは違い、自分の意思では変身できない。怪人が現れた時に限り、勝手に変身し、倒すと元の姿に戻っているのだ。そして、変身する時は光に包まれる、まるで、何者かに取り付かれるように…。

「とにかく、俺に言えることは俺の体は正常と言う事だな」

俺はみんなを安心させる為、こう答えた。

「ま、ハガネ本人がそう言うなら大丈夫って事だな」

司はあっさりと切り替えた。普段はいい加減な奴だが、司のいい加減さはこういう時頼りになる。

「!! 止まれ、何かいる」

神山が俺達の歩みを止めた。そこには、ムカデ種怪人のムカデロンが立っていた。ムカデを人間にしたようなその怪人は、高熱の火炎を吐いて攻撃を仕掛けてきた。

「やらせるかっ!!」

俺がそう叫ぶと同時に、俺の体が光に包まれ、神々しい姿のノヴァティスへと姿を変えた。やはり、怪人が現れた時のみ変身ができるのだと、俺は確信した。

「ここは俺が引き受ける! みんなは先に行ってくれ!!」

俺がそう叫ぶと、同級生4人とMトルーパーの数十名は先に行った。みんなが先に行った事を確認した俺は、ムカデロンの顔面にパンチを叩きこんだ。

一方、同級生4人とMトルーパー数十名の前には、カマキリ種怪人カマキロンが現れ、Mトルーパーが相手をしていた。カマキロンはカマキリを人間にしたような怪人で、両腕の鋭い鎌でMトルーパーの隊員を次々と斬り裂いていった。カマキロンに隊員が斬り裂かれるたび、切り口から大量の血が噴き出し、地面を真っ赤に染めて絶命していく隊員たち。一人、また一人と次々メンバーが減っていく。

「おのれ! この化け物が!!」

神山がそう叫び、対怪人バズーカMB-02を撃った。その弾丸はカマキロンに直撃し、爆散した。カマキロンが辺りに肉片をばらまき、沈黙した事をすると、神山たちは安心した様子を見せていた。

「あのカマキリ野郎のせいでMトルーパーがかなりやられちまった!」

司の言う事も無理はない。これから最終決戦があると言うのに、Mトルーパーはその前座に大半がやられてしまい、残っているのは神山を除いて7名程度だ。

「しかし、ハガネは大丈夫かね…」

孝信は俺の事を心配していたが、当の本人である俺はムカデロンと交戦中だった。ノヴァティスに変身した俺は、ムカデロンの吐いた高熱の火炎をかわし続けていた。流石のノヴァティスといえど、高熱の火炎を食らえば無傷では済まない。俺はムカデロンが高熱火炎を吐いた隙を狙い、一瞬で懐に潜り込み、鳩尾に強力なパンチを連続で打ち込んだ。

ムカデロンは15mほど吹き飛んだが、俺はその隙を狙って高く跳び、勢いそのままムカデロンに飛び蹴りを放った。ムカデロンは首を吹き飛ばされ、首から緑色の体液を噴き出し、仰向けに倒れて死亡した。ムカデロンを倒して元の姿に戻った俺は、すぐにみんなの後を追いかけた。

「くっ! 大分時間をかけてしまった…! 早くみんなの所に行かないと…!!」

俺は天翔街の空き地へと向かった。

一方、怪人の王に攫われた理乃は、攫った張本人である怪人の王と対峙していた。怪人の王を自称するその人物の見た目は怪人ではなく、れっきとした人間の見た目をしており、普通の好青年にしか見えなかった。だが、この男は怪人の王を自称しており、今からノヴァティスやMトルーパーが来ると言うのに余裕の表情だった。

「何故、私を攫ったんですか?」

理乃は気が付くとそう口走っていた。攫うだけならすぐに攫えばいい、だが、この男はわざわざ理乃を制服姿に着替えさせた上で一緒に寝ていたハガネに気が付かないよう攫い、更に関係者の家に招待状を送っている。ここまで回りくどい策を取っているのには何か理由があるのだろう。すると、その男は理乃に対し口を開いた。

「君には、他の者にはない物がある、それが分かるかい?」

理乃には、怪人の王の言った他の者にはない物が分からなかった。それもそのはず、理乃はただの学生、一般人である。顔は良い方ではあるが、もちろんそれは理由にならない。理乃がしばらく考えていると、怪人の王は答えを出した。

「分からないようだね、なら、教えてあげるよ、それは正義の光さ」
「正義の…光…?」
「そう、正義の光、我々怪人がノヴァティスと呼ぶ光に選ばれた人間、日野鋼が一番愛する人間が君だからだよ、分かるかい? 月村理乃」

理乃は頬を赤く染めた。まさか怪人の口からハガネが理乃の事を好きと言う事をカミングアウトされるとは思っていなかったからだ。それはさておき、理乃は疑問に思う事があった。その正義の光とは一体何なのか、理乃はその事についても聞いてみる事にした。

「正義の光って、一体何なんですか?」
「ノヴァティスに選ばれた人間に戦う力を与える存在さ、これを持つ存在は心の清らかな人間が多いと言われていてね、分かるだろう? 君がいては邪魔なんだよ」
「なら、何で私をすぐに殺さなかったんですか!?」
「すぐに殺しては面白くないからさ、これはゲームだよ、ナイトであるノヴァティスとその仲間達が姫である君を救うと言うね!」

こんな事の為に自分の友人たちが利用されていると思うと、理乃は怒りが込み上げてきたが、今の自分じゃどうする事も出来ない為、理乃は別の事を聞く事にした。

「あなた達怪人と、ノヴァティスの関係は一体何なんですか?」
「ただの敵だよ、君達人間の作る物語に出てくる正義の悪の戦いの様な、ね」

その言葉に、理乃は驚くしかなかった。このノヴァティスと怪人の戦いは、特撮作品の様な分かりやすい正義と悪の戦いだったのである。

「まあ、でも僕達はその物語の様に滅んだりはしないけどね! ハハハハハ!!」

怪人の王は勝利を確信し、笑い始めた。だが、理乃は信じていた、必ず助けが来る事を。

「ハガネくん…」

理乃を救う為に、俺は歩みを止めずにいた。それは司や有人、雫に孝信、Mトルーパーも同じだ。みんな、理乃を救う為に戦っている。その事を、理乃も心の底で感じているのであった…。

俺はやっとの事でみんなと合流した。途中でアリアント数十体と戦闘になったが、軽く蹴散らした。しかし、そのアリアント達は時間を稼ぐような戦い方をしていた為、思ったよりも時間がかかってしまった。

「みんな、大丈夫か!?」
「すまん、かなりやられたが、まだ大丈夫だ」

俺の問いに、神山はそう答えた。神山はMトルーパー部隊の隊長ではあるが、26歳にして隊長になった若きエリートだ。怪人が現れるまでは普通の警官だったが、怪人が現れてからと言うもの、自らMトルーパーに志願し、今まで10体以上の怪人を倒して隊長になったまさにエリートである。部下からの信頼も厚く、正義感も強い頼れる男である。その容姿も20歳にしては貫禄があり、女性からもモテる一方、本人は恋には構ってられないと言っているが、それが逆にモテる理由になっている事は辛い事だ。

「空き地までもう少しだな」

孝信が少し息切れした声で答えた。体力には自信のある孝信も、この命がけの作戦には流石に堪えているようだ。

「よし、行こう」

神山の合図で、高校生5人とMトルーパー数名が空き地へと向かった。

「無事でいてくれよ、理乃」

俺は心の中でそう願った。一方、その空き地では怪人の王が俺達の様子を超能力で見ていた。

「ふん、下等種の分際で中々やるようだね」

怪人の王は人間を弱小な生き物と見ていたようで、よもやここまで抵抗されるとは思ってなかったようである。

「まあ、僕の部下は倒せても、僕は倒せないよ」
「そんな事ない! 私達人間は決して負けないわ!!」

理乃は怪人の王に対し、そう叫んだ。だが、怪人の王は相変わらずの余裕の表情であった。

「フン、ノヴァティスに頼る事しかできない下等な人間如きに、一体何ができるって言うんだ」
「そんな事ありません! ノヴァティス…ハガネくんが居なくても、Mトルーパーの皆さんや警察の皆さんがいます! 人間はあなたが思っているほど弱くありません!!」
「おや? まさか、君達が勝つとでも思っているのかなぁ?」

すると、今まで余裕の表情だった怪人の王が、殺気のこもった表情で理乃の胸倉を掴んだ。制服のボタンが弾け飛び、白い下着が露わになる。

「君達人間は弱い生物なんだ、そんな人間がいくら協力しても、僕達怪人の足元にも及ばない! 雑魚がいくら集まっても雑魚は雑魚なのさ!!」

ドスのこもった声で怪人の王はそう答えた。それと同時に殺意のこもった目で理乃を睨みつけている為、理乃は恐怖を感じ、体が恐怖で震えた。

「ハガネくん…助けて…」

その時、空き地に俺とその仲間達が到着した。

「理乃から手を放せ!!」

俺は怒りのこもった声で怪人の王にそう叫んだ。

「ハガネくん!!」
「ほーう、どうやらナイトのご到着のようだね」

俺達が来ても、怪人の王は余裕満々だった。まだ怪人側の方に勝機があったのか、それとも、怪人の王はノヴァティスよりも強いのか。

「聞こえてたぜ! このド外道が!!」
「僕達は確かに弱いよ!!」
「だけど、私達は協力すれば強くなれる!!」
「だから、簡単にあんたらに負けるつもりはないさ!!」
「お前が言った事、私達が変えてみせる!!」
「俺はお前達に負けない! 弱い者は弱いなりにあがいてやる! それが俺達人間だ!!」

司、有人、雫、孝信、神山、そして俺はそれぞれの思いを伝えた。人間は確かに弱いかもしれない、だが、弱くても弱いなりに戦う事はできる。だから、俺達はここまで戦ってこれた、人間は簡単に負けたりしない。

「チッ! 黙って聞いていればいい気になりやがって!! 下等種風情が調子に乗るなよ!! 今から死以上の恐怖を味わわせてからズタズタに引き裂いてくれる!!」

怪人の王が自身の被っていた皮を脱ぎ捨て、本性を現した。本性はいかにも悪玉の王と言う性格で、特撮におけるラスボスをそのまま持ってきたようであった。

「やれっ!!」

怪人の王がそう合図すると、30体以上の怪人が姿を現した。その中にはスパイダロスやバットンと言ったかつて倒した怪人がいたほか、見た事も無い新種の怪人も混ざっていた。

「ハガネくん!!」

理乃が今にも泣きだしそうな声で叫んだ。だが、俺は理乃に対し、ピースサインを送った。これは、必ず勝つと言う勝利の印であった。

「俺のこの力は何なのか分からない、でも、もう迷わない! この力は、みんなを…人々を守る為に使う!!」

俺はそう叫ぶと、怪人に向かって走って行った。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、その時の俺はゾーンに入っていたようでよく聞こえなかった。

「神聖変身!!」

俺は腕をX字にクロスさせ、そう叫んだ。すると、その体を眩い光が包み込み、神聖戦士ノヴァティスへとその姿を変えた。

「ノヴァティスめ…! 忌々しい!!」

怪人の王はノヴァティスを見てそう呟いた。

「我々もノヴァティスを援護するぞ!!」

神山の合図で、Mトルーパー部隊が一斉攻撃を開始した。そして、最終決戦が始まった。

ノヴァティスは強力な怪人のみを相手にし、アリアントなどの弱めの怪人はMトルーパーに回していた。こう言った連携もあり、怪人の数はあっという間に20体に減った。

しかし、流石のノヴァティスでも怪人軍団を相手にするのは無理がある。Mトルーパーもいつの間にか神山を残して他は全滅していた。更に、神山の持つ銃火器は弾切れを起こしており、対怪人ナイフMB-Nを使ってアリアントと交戦していた。ノヴァティスは何とか怪人を5体倒して残り15体まで減らしたものの、怪人の同時攻撃に苦戦し、消耗する一方であった。

「くそっ! 俺達は見ている事しかできねえのかよ!!」
「見ている…そうか! その手があった!!」
「な…何だよ、有人…」

戦うことができず、悔しがる司の言葉を聞いた有人がある事を閃いた。それは、ヒーローが戦っている所を見たら誰もがする行動であった。

「応援だよ! ノヴァティスが光の戦士なら、僕達の心の光も届くはずだよ!!」
「えっと…つまり、ノヴァティスを応援すればいいの?」
「そう! そうだよ!!」
「どの道、俺達にできる事はこれしかねえな…司! 雫! 有人! やるぞ!!」
「ええい! こうなりゃヤケだ!!」

司、有人、雫、孝信の4人はノヴァティスを応援した。幼い子供がテレビの前のヒーローを応援するように、ヒーローショーで活躍するヒーローを応援するように応援した。その声は、怪人と交戦中のノヴァティスにも届いていた。

「この声…! みんなの声…!!」
「ハガネ! 負けんじゃねえぞ! お前は絶対に理乃を助けるんだ!!」
「そうだよ! だから、一般怪人なんかに負けちゃだめだよ!!」
「ハガネさん! 頑張って! 私達も微力ながら応援させてもらうわ!!」
「俺達がここまで応援するなんて、滅多にないんだからな! 頑張れよ!!」

司たち4人の声援は、負けそうになっていたノヴァティスに力を与えた。倒れそうになっていたノヴァティスの体力は回復し、再び立ち上がった。

「俺は…! こんな所で負けられない…!!」

すると、ノヴァティスの右手に何か光るものが具現化していた。それは一本の剣であり、光の様に美しく、力強い剣であった。

「何なんだ…この剣は…綺麗だけど…とても強い力を感じる…!」
「馬鹿なっ! あれは、ブレイヴセイバー!? まさか、この星の生物の心の光で具現化するとは!!」

ブレイヴセイバーと呼ばれた剣の具現化は、流石の怪人の王も想定していなかったようであり、驚きを隠せない様子であった。それだけブレイヴセイバーの力は強大なのであろう。

「くっ! ノヴァティスを殺せ!!」

怪人の王は残る15体の怪人に一斉攻撃を命令した。怪人軍団は一斉にノヴァティスに向かっていった。

「ハガネ!!」

司たちが叫んだ次の瞬間、総勢15体の怪人は一瞬にして斬り裂かれ、爆散した。ブレイヴセイバーで放つ必殺技、ジャスティスブレイクである。

「そんな…馬鹿な…!!」

あれだけいた怪人軍団を一撃で葬られた怪人の王は、予想外の出来事に愕然としていた。

「理乃を…返せ!!」

俺は怪人の王の方を向き、叫んだ。ノヴァティスに変身していても分かるほどの威圧を飛ばし、ブレイヴセイバーの剣先を怪人の王に向けた。

「流石は光の戦士と言った所か…だが、まだ終わった訳じゃないぞ…」

少しだけ気を取り直した怪人の王は、再び余裕の表情に戻った。

「俺は光の戦士なんかじゃない、ヒーローに変身できるただの高校生だ」

怪人の王の言葉に対し、俺はこう返した。すると、怪人の王はある事を語り出した。

「ただの高校生、ねぇ…、君達は気にならないのか? ノヴァティスと僕達怪人の関係をさ」
「それは気になる、だが、俺は理乃を助ける為にここに来ているんだ!」
「まあまあ、冥土の土産にちょっと聞いて行けよ、この女に手は出さないからさ」
「…約束だぞ」
「了解、じゃ、話そうじゃないか、僕達怪人と光の戦士ノヴァティスの関係をね」

戦闘は一時中断し、怪人の王は黙々と話し始めた。今まで俺達の知らなかった怪人とノヴァティスの関係、その関係は、俺達が思っていたより遥かに壮大なものであった…。

全ては宇宙の誕生と共に始まった。光と闇、この2つはどこにでも必ず存在する。その光と闇がどこか遠くの銀河の爆発により、その莫大なエネルギーによって実体化したもの、それがノヴァティスであり怪人の王である。

この2つの存在は始めこそ意思を持っていなかったが、気が遠くなるほど長い時が経つにつれ、少しずつ意思を持つようになっていった。一つは正義、そしてもう一つは悪、正義の心を持つ光は、宇宙の平和の為に闇を消滅させようと活動する。そして、悪の心を持つ闇は、自分の欲望の為に光を消滅させようと動く。この2つの心はやがて激突する事となり、その戦いは徐々に激化して行った。そして遂には宇宙戦争を引き起こす事となったのである。

この時、地球はまだ恐竜時代であり、まだ人類と言う物は存在していなかった時代である。そして、光と闇の大きな戦いは相打ちと言う形で終了し、消耗した光と闇は長い眠りにつく事となった。闇は火星に、そして光は地球に、それぞれ眠りについた。それから長い時が流れ、恐竜は滅び、地球は人類が支配する時代となった。その時代の中で人類の文明は進化し、宇宙に出る事も可能となった。

しかし、10年前、人類が火星のテラフォーミングを行った際、ずっと眠りについていた闇を目覚めさせてしまった。人類は自分達の夢の為に敵を増やしてしまったのである。だが、闇はまだ不完全であり、完全に力を取り戻すにはあと8年必要であった。そして、完全に力を取り戻した闇は何故かその肉体を失っており、地球の下等生物を利用しないとその肉体を維持できない程に衰えていた。闇は仕方なく人間を怪人にする事でかつてと同じ様に自らの欲望の為、破壊と殺戮を続けた。それを止める光は今やこの世にはいない。

そんなある日、日野鋼を襲った際に光は目覚めた、闇と同じ様に地球人の体を使って。地球人はその心によって光にも闇にもなれる、心が綺麗ならば誰でも光と同化できる一方、心が汚ければ闇と同化するしかできないのである。こうして肉体を手に入れた光と闇は、因縁の戦いを終わらせる為、最期の戦いを始めたのである。その戦場は、この青い星、地球であった…。怪人の王の話はここで終わった。

「まさか、この戦いが遥か昔から続いているとはな…」

神山は驚いた様子で答えた。無理もないだろう、地球人からすれば宇宙誕生はまだ未知の領域、そんな頃の話をされてもピンとこないのである。

「闇は火星に眠ってて、それが10年前のテラフォーミングで目覚めた、で、光はハガネの家のある場所で眠っていて、それが怪人の襲撃によって目覚めたって事だね?」
「その通りだよ、地球人、まさかあそこにノヴァティスが眠っているとは思わなかったよ、それだけが誤算だったね」

孝信の問いに、怪人の王はそう答えた。流石の怪人の王もノヴァティスの復活までは想定しなかったようである。

「つまり、ノヴァティスとお前は宇宙の誕生と一緒に生まれた、いわば兄弟みたいなものなんだよな?」
「ああ、そうさ、あんなに物分かりの悪い奴が兄弟とは思いたくないがな」

俺の問いに、怪人の王はそう答えた。2つの存在は宇宙の誕生と同時に生まれた、なのに、何故その2つの存在はこうして戦わないといけないのか、俺にはそれがさっぱり分からなかった。

「どの道、ノヴァティスとはここで決着を付けなくてはならないのさ! 光か闇のどちらかが滅びるまで決着は付かない! お前達の文明にある特撮でもそうなんだろ?」
「そうでもないよ!」

怪人の王に対し、こう答えたのは有人だった。有人は特撮が好きなので、真っ先にこう反論したのだろう。

「確かに、ほとんどの特撮は敵を滅ぼして終わるよ、でも、敵と和解して終わる作品だってあるんだ、君達だって、ノヴァティスと和解できるんじゃないかな?」
「馬鹿馬鹿しい! あんな忌々しい光と共存などできるものか!!」

怪人の王は有人の提案を一蹴りした。この事から、光と闇の溝は修復不可能なまでに深まっているのだろう。

「光と闇は決して分かり合えない! それが生物上の掟の様な物だ! 地球上の生物を見てみろ、ライオンは生きる為にシマウマを食う、ライオンにとってシマウマはただの獲物だ、獲物と捕食者は分かり合う事ができない、それが掟なのさ!」

怪人の王は地球基準で光と闇の関係を教えた。結局、光と闇は決して分かり合えないと言う事が分かった。

「分かったか? 違う生き物同士では決して分かり合えないと言う事が」
「…そうやって、どちらかが滅び合うまで戦って、お前は満足かよ!」
「ああ、僕はとても満足しているよ、まさか地球人がわざわざ墓穴を掘ってくれるとは思わなかったからね、おかげで沢山の下等種を殺せたよ」
「…結局、どっちかが滅びるまで戦うしかないのかよ…」

怪人の王と会話した俺は、結局戦うしかない事に、そして、怪人の王の身勝手な欲望の為に多くの人々が殺された事に怒りを覚えていた。

「さて、君達にいい物を見せてあげよう」

怪人の王が右手を上げると、2人の人間が現れた。それは、スパイダロスに殺されて命を落としたはずの2年の倉橋元と、1年の山本正志だった。

「おいおい、何でこの2人がここにいるんだよ! こいつらはあのクモ野郎に殺されたはずだ!!」
「僕が死体を回収してサイボーグにしてやったのさ、こいつらは僕の思うままに動く操り人形さ!!」

司の問いに、怪人の王はそう答えた。怪人の王はこれを見せる事が楽しみだったらしく、俺達が怒っている様子を見て楽しんでいた。その様子を見た俺は、遂に怒りが限界まで達した。

「…許さない…!!」
「ん? 今何て言った?」
「人を殺して悲しませた上に今度は死んだ人まで弄ぶ! そんな命を弄ぶお前を絶対に許さない!!」

俺はあまり怒ったりはしないが、恐らく、ここまで怒りが爆発したのはこれが初めてだろう、それほどまでに命を弄ばれたのが許せなかったのだ。

「何とでも言うがいいさ、これが僕達のやり方だからね」
「そんなやり方! 絶対に許さない!!」

そう言って俺は怪人の王がいる位置まで跳ぼうとしたが、2人のサイボーグが掌から電撃を放ってきた。その電撃を浴びた俺は、体が痺れ、地面に倒れ込み、それと同時に、俺の変身が解除された。

「くっ!」
「さあ、早くあの忌々しい地球人を始末しろ!」

怪人の王の命令で、2人のサイボーグは俺に向かって来た。だが、俺はそのサイボーグと向かい合った瞬間、人の姿をした敵と言うだけで腕が震えた。いくら彼らがサイボーグとは言え、人の見た目をした相手と戦うとなると、いい気分はしないのだ。俺が今まで倒して来た怪人だって、元は人間だ、このサイボーグ達と成り立ちは似たようなものだと言うのに…。

「どうした、ハガネ! やられるぞ!!」

孝信が俺を我に返そうとしてくれたようだが、俺の腕の震えは消えず、今度は足まで震え始めた。

「下がれ! ハガネくん! こいつらは私が!!」

そう言って神山は他の隊員が装備していたサブマシンガンMB-03を撃った。その弾丸の雨は一瞬にして正志のサイボーグを蜂の巣にし、正志のサイボーグは爆発四散、機械のパーツを辺りにばら撒いた。

「おのれ…もう少しだったと言うのに…! 下等種如きがぁぁぁッ!!」

怪人の王が攻撃命令を出すと、元のサイボーグが電撃を放ち、それを食らった神山は感電した。

「ぐわあぁーっ!!」
「神山さんっ!!」

電撃を食らった神山は地面に倒れ込んだ。だが、まだかろうじて意識のあった神山は、他の隊員が戦闘中に落としていた小型爆弾MB-04を投げた。

「くたば…れ…」

MB-04は元のサイボーグに命中し、大爆発。元のサイボーグはバラバラに砕け散り、パーツを散乱させた。怪人の王はサイボーグがやられて悔しそうにしていたが、俺は倒れている神山さんの下へと急いだ。

「大丈夫ですか、神山さん?」
「ふふ…少し食らっただけでこのザマだ、私も、少しは役に立てたか…?」
「神山さんには十分すぎるぐらい助けてもらってますよ」

だが、その声は神山に届いていないらしく、神山の意識は朦朧としていた。

「後は…任せた…」

神山はゆっくりと目を閉じ、静かに息を引き取った。

「神山さん…? 神山さぁぁぁん!!」

俺は涙を流し、しばらく嗚咽した後、怪人の王の方を向き、再びノヴァティスに変身した。その時、俺はある決意をしていた、それは、もう誰も悲しませないと言う事である。

「怪人の王! 決着を付けるぞ! もう誰も傷つけさせない! ここでお前を倒す!!」
「ほう…果たして君にそれができるかな? ノヴァティス」
「俺はノヴァティスなんかじゃない、ただノヴァティスに変身できるただの高校生だ!」

こうして、俺達と怪人の最終決戦が始まった。俺は必ず理乃を助け、長きに渡る光と闇の戦いに決着を付ける。それが、俺が神山さんにできるせめてものお礼だ。

思えば、今まで色々な事があった。スパイダロスの襲撃から始まった怪人との戦いは、両親の死や神山さんとの出会いなど、とにかく色々あった。そして、俺が今この場にいるのは、1人のクラスメイトを救う為である。それはまるで、特撮やアニメのヒーローみたいである。

子供の頃はそう言った番組をよく観ており、それを見ていた子供の頃の俺は何て魅力的なのだろうと心躍らせたものだ。だが、現実はテレビの様に美しいものではなかった。大切な人を失う辛さを今になって分かるなんて、俺は何て馬鹿だったんだろうと、今になって実感している。テレビの中のヒーロー達は、こんな苦しみを味わっていたんだな。突然ヒーローになった事による葛藤、大切な人を失う苦しみ、そして、人々を守る為に味わう痛み、今なら、テレビの中のヒーローの気持ちが分かる気がする。

だが、それらのヒーロー達は皆、苦しみながらも諦めず戦い、勝利を収めてきた。俺もそのヒーロー達の様に戦うさ、そして、大切な人を守るんだ。俺が戦う相手、それは怪人の王、ゲームで例えるなら、ラスボスである。まるで絵に描いたような正義と悪との決戦、俺は今、みんなを守る正義のヒーローになっているのである。

「さあ、そろそろ僕の真の姿を見せてあげよう」

怪人の王はその体に紫色の光を纏い、その姿を変えた。その姿は、悪魔とドラゴンが融合したような漆黒の怪人であり、巨大な悪魔の翼と、太く強靭な龍の尻尾、手足に鋭い爪、そしてその顔はとても凶悪な顔で、目は血の様に赤かった。鋭い牙はまるでナイフのようであり、体はかなり筋肉質であり、それはまるでRPGのラスボスのようであった。

「これが、僕の真の姿、怪人王グランヴァールだ」

そう言って怪人王グランヴァールは空を飛んだ。

「てめえ! 空を飛ぶなんて卑怯だぞ! 降りてきやがれ!!」
「悔しければ君達も飛んでみる事だ! もっとも、今のノヴァティスは飛べないけどね、僕はこのまま人間の街を破壊する!!」

グランヴァールはそう言うなり大空を飛び、掌から火球、口から破壊光線を放ち、街を破壊し、人々を殺戮して回った。

「街が…!」
「くそっ! せっかく理乃と再会できたってのに、これじゃ意味がないじゃねえか!!」

有人と司はグランヴァールの戦闘能力にただ茫然としていた。だが、理乃はまだ諦めておらず、2人を叱咤した。

「まだ諦めちゃ駄目! きっと勝つ方法はあるはずよ!!」
「でもさぁ…相手は空を飛べるんだよ?」
「頼みのノヴァティスは空を飛べないんだろ? 勝ち目無いじゃんか」
「今までハガネくんは…ノヴァティスは私達を助けてくれた、きっと今回も助けてくれるわ!!」

すると、俺はある事を思い出した。みんなの応援が新たな武器、ブレイヴセイバーを俺に託してくれた。ならば、あの時以上の応援があれば、勝つ手段はあるかもしれない。

「みんな、できる限り俺を応援してくれる人を集めてくれないか? そうすれば、ノヴァティスの新たな力が目覚めるかもしれない!」
「なるほど、あの時ブレイヴセイバーが具現化した時と同じことをするんだね、でも、どうやって集めるの?」
「それは…」
「それなら大丈夫だと思うよ」

そう言って孝信は自信満々にスマートフォンを取り出した。すると、孝信はスマホの画面を俺達に向けて見せびらかした。その画面には、テレビ局が街で暴れるグランヴァールの様子を中継していた。そして、そのニュースのコメント欄には、天翔街の人々が無事であるように、世界が平和であるようにと願う人々のコメント、そして、いつの間にかネット上で都市伝説となっていた天翔街を怪人の魔の手から救う謎の存在、つまりノヴァティスについての応援のコメントがあった。

「ハガネ、この世界の人々はみんな口に出さないだけで誰もが心の底ではみんな平和を望んでいるんだ、人間と言う存在はね、世界のどこかが大変な状況に陥った時、みんなそこにいる人々の無事を祈っているんだよ」
「孝信…」

孝信の言った言葉は正しかったようで、次の瞬間、今までにない程の光が俺に集まって来た。それは、俺を応援する言葉ではなく、平和を願う人々の正義の光、それが俺に集まってきているのだった。

「何か、ノヴァティスが輝いているぞ…」
「これは全部、平和を願うみんなの祈りなの?」
「そうさ、人間が皆、正義の光を持つなら、平和を願う心こそ、真の正義の光!」
「その正義の光でノヴァティスが強化されてるんですね」
「なら、僕達もノヴァティスに力を与えようよ!!」

そう言って俺のクラスメイト5人も祈り始めた。その祈りが通じたのか、俺の体を温かい光が包み込んだ。その光によってノヴァティスの姿は神々しい姿へと変わり、究極形態アルティメットノヴァティスへと進化させた。ブレイヴセイバーは強化され、より神々しいジャスティスセイバーとなり、全身は黄金のアーマープレートに覆われ、背中には美しいクリスタル状の翼が付いていた。その姿はまさに、美しさと神々しさ、そして力強さの融合と言う言葉が正しかった。

「これが…ノヴァティスの進化した姿か!」
「かっこいい! かっこいいよハガネくん!!」
「綺麗…」
「地球に住む人々の祈りの力で進化したノヴァティスか! いいじゃないの~」
「ハガネくん…」
「みんなの想いが…みんなの光が、俺を進化させてくれた! この想い、決して無駄にはしない!!」

そう言って、俺が大空へ飛び立とうとしたその時、みんなが俺を呼び止めた。

「ハガネ! 必ず生きて帰って来いよ! 死んだら許さねえ! 帰ってきたら、いつもみたいにまた馬鹿やって楽しく過ごそうぜ!!」
「ハガネくん! 帰ってきたら僕の好きな特撮を一緒に観よう! 約束だよ!!」
「ハガネさん! あなたは一人じゃありません! 私達が付いています! だから、必ず勝ってください!!」
「ハガネ、絶対死ぬなよ、俺達はお前の勝利を信じているからな!!」
「ハガネくん! 死んじゃやだよ! 絶対勝って! 絶対生きて帰ってきて! 私、信じてるから!!」
「分かった! 必ず勝って帰る!!」

司も、有人も、雫も、孝信も、そして理乃も、俺の勝利を信じている、絶対に負けられない。俺は怪人王グランヴァールとの戦いに勝って、この怪人との戦いに終止符を討つ為、空高く飛翔した。

一方の怪人王グランヴァールは、空から地上へ向けて無差別攻撃を放っていた。火球や破壊光線を放ち、建造物を破壊し、多くの命を奪っては高笑いをしていた。グランヴァールにとって、命を奪うと言う行動はただの快楽なのだろう。

「クックック…今ので3000人は死んだな、ほら! もっと抵抗しろ! 泣け! 喚け!! ハッハッハッハッハ!!」

グランヴァールは狂ったように笑っていた。そして、笑いながら尊い命を次から次へと奪っている。怪人と言う生き物はただの血に飢えた怪物なのだろう、グランヴァールは人が死ぬ様を見て楽しんでいた。

「さ~て、もう5000人ぐらいは殺してやるか!!」

グランヴァールが病院に向けて火球を放とうとしたその時、剣の一太刀がグランヴァールの右腕を斬り落とした。グランヴァールの右腕を斬り落とした者こそ、神聖戦士アルティメットノヴァティス、世界を救うヒーローである。

「くっ! 貴様! どうやってここに…!!」
「みんなが俺に、光を…! 力を与えてくれたんだ!!」
「力…? 下等な人間が、どうやってそんな物を…!!」
「誰かを守りたい…誰かに生きて欲しい…そう願うだけで、そう口にするだけで、人は強くなれるんだ!!」
「馬鹿馬鹿しい! そんな事で強くなれる訳がない!!」
「お前には分からないだろうな! 怪人の王!!」
「黙れノヴァティス!! 本当に強い者は闇!! 闇こそ究極の力だぁぁぁッ!!!」

グランヴァールは口から破壊光線を放ったが、アルティメットノヴァティスはジャスティスセイバーで受け止め、周りに被害を与える事のないよう、破壊光線を無力化した。すると、グランヴァールは左腕からアメジストの様に深い紫色の剣、シャドーセイバーを具現化し、アルティメットノヴァティスに攻撃を仕掛けたが、俺はその攻撃をジャスティスセイバーで切り払い、グランヴァールの腹に蹴りを入れた。すると、グランヴァールはシャドーセイバーから漆黒の光線シャドービームを放ったが、アルティメットノヴァティスはジャスティスセイバーを振り、純白の真空波ジャスティスライサーを放った。ジャスティスライサーはシャドービームを押し返し、その勢いのままグランヴァールの両足を膝から上の辺りまで切断した。

「くっ! この僕がここまで追い詰められるなんて…!!」

グランヴァールは徐々に焦りを見せ始め、シャドービームを連続で放って俺を攻撃して来たが、俺はジャスティスセイバーから光のバリア、ノヴァシールドを発生させ、全ての攻撃を無力化した。俺は人々を守りながら怪人の王と戦っているのだ、もう誰が悲しむ所も見たくないからである。

「何故だ…! 何故僕は勝てないんだ…!!」
「怪人王グランヴァール! 俺は、みんなを守る為に戦っている! お前に守りたい人はいるか! 誰かを守る為なら、人は強くなれるんだぁぁぁッ!!!」

そう言って俺は全身から眩い光を放つ技、ジャスティスフラッシュを放ち、グランヴァールの目を眩ませた。直後、俺はジャスティスセイバーを振り下ろし、グランヴァールを一刀両断にした。

「そうか…誰かを守る為なら誰でも強くなれるのか…それが…奴の力の源だったのか…」

直後、グランヴァールは爆発四散した。怪人の王であるグランヴァールの死をもって、光と闇の長きに渡る戦いに決着が付いた。全ての戦いを終えた俺は、静かにみんなの所へと帰って行った。俺がみんなの下へ戻ると同時に変身は解除され、変身が解除された事を確認した理乃は、いきなり俺に抱き着いてきた。

「おかえり…ハガネくん…」
「ただいま、理乃、そしてみんな…」

アルティメットノヴァティスと怪人王グランヴァールの戦いは世界中で話題になり、連日ニュースなどで中継され、怪人の脅威から世界を救った英雄と言われたが、結局最後まで一般的にノヴァティスの正体は知られず、世間では怪人の脅威から人々を救った救世主と言う扱いだった。ちなみに、神山たちMトルーパーのデータベースにはノヴァティスの正体は記されていたようだが、この情報はトップシークレットとして扱われている為、上層部以外の観覧は不可能らしい。そして、怪人王グランヴァールとの戦いから1ヵ月が経ち、世間もノヴァティスや怪人の存在を少しずつ忘れかけた頃、俺は1人、あの戦いの事を思い出していた。

怪人王グランヴァールの死後、リーダーであるグランヴァールを失った為か怪人は全て消滅したようであり、あれ以来怪人事件は起きていない。それと同時にMトルーパーも自衛隊に吸収された為、今後のMトルーパーの仕事は怪人との戦いではなく、日本の防衛及び各地の災害支援などが主となるようだ。

一方の俺達だが、俺達はあれから平和に学生生活を送っている。家族を失った俺は特に身寄りもない為どうなるかと思ったが、その辺は全て今は亡き神山隊長が自分のポケットマネーで10年は暮らせるよう、一人暮らしのマンションを俺の為に構えてくれていたのだ。本当に、神山隊長には感謝するしかないと俺は思った。

そう言えば、俺の持つノヴァティスの変身能力だが、あれから何回試しても変身する事はできなくなっていた。恐らく、宿敵である闇を滅ぼした事で自然消滅、または再び永い眠りについたのかもしれないし、俺の体から出て行ったのかもしれない。また新たな敵が現れたら変身する事ができるのかもしれないが、今はもう変身できないのだろうと俺は思っている。それにどの道、今の俺に変身能力はいらない、今はただ、俺の友人たちと平和に過ごせればそれでいいと思っている。

「おーい! ハガネいるかー?」
「遊びに来たよー!!」

この声は司と有人だ。俺がこのマンションに暮らすようになってからと言う物、休みの日はほぼ毎日遊びに来るようになった。おかげで1人でゆっくり過ごす事ができないが、無視するのもかわいそうなので、俺はドアを開けた。

「お前らなぁ…少しは休む事を覚えろよ…」
「いや、俺達はハガネを呼びに来たんだ」
「一体どこへ行くんだ?」
「いいからいいから、早く行こう!」

俺はさっさと身支度を済ませ、マンションを出た。マンションから歩いて5分ほどの所にある公園では、雫や孝信、理乃が俺達を待っていた。

「あっ! ハガネくん!」
「おー、ハガネか、待ってたぞ」
「ハガネさん、遅いですよ」
「ごめん、みんな、今さっき呼ばれたばっかでさ」

俺はさっきまで1人でソファに寝転がってテレビを観ながらあの日の出来事を思い返していたのだ。それを急に司と有人が事前連絡もなく呼び出したのだから仕方ない。

「で、みんな俺に何か用?」
「実は、みんなで遊びに行こうと思って…」
「そう言えば、この6人で遊びに行くのは初めてだな」
「でしょ? だから、ハガネくんを呼んだんだ」
「そっか! じゃあ、みんなで行こう!」
「うん!」

こうしてみんなが笑っていられるのは、あの時みんなが協力してノヴァティスに力を与え、怪人との戦いに終止符を討ったからであろう。だが、今の俺は変身能力を失ったただの人間だ、それでも、今は怪人のいなくなったこの世界で生きていくと言う使命がある。怪人との戦いが終わっても、俺達は人生と戦っていかねばならない。それがどんなに険しくても、みんながいればどんな困難でもきっと乗り越えられるはずだ。

[データファイル]

・ノヴァティス
本作の主役ヒーロー。日野鋼が変身するヒーローであり、禍々しい姿の怪人と違い、神々しい見た目をしている。主に強力なパンチやキックで戦い、様々な能力を持った怪人を圧倒する。活動エネルギーは光であり、これが少なくなると力が抜けてしまうと言う弱点を持つ。
身長178㎝、体重72㎏、パンチ力8t、キック力16t、ジャンプ力35m、走力は100mを3.8秒
主な必殺技はノヴァティスパンチ、ノヴァティスキックなど

・クモ種怪人スパイダロス
蜘蛛の特徴を備えた怪人で、ノヴァティスが最初に戦った怪人。変身前は雫と仲の良い高3の西上巧だったが、怪人に変身した事で巧の意識は失われ、殺戮衝動のみが支配するようになった。武器は鋭い爪と嚙みついた人間を骨も残さず溶かす毒牙。Mトルーパー部隊やハガネの両親である縁と時雄を殺害したが、ノヴァティスに変身したハガネにほぼ一方的に攻撃を食らい、逃げようとした所にノヴァティスキックを食らい、爆死した。
身長188㎝、体重85㎏、能力は鋭い爪と噛みついた人間を溶かす毒牙

・Mトルーパー
訓練を積んだ警察官が対怪人用の戦闘服を着こんだ姿。身体能力は怪人より劣るものの、様々な対怪人装備を使って怪人と戦う。個々の戦闘能力は低くても、数で怪人を圧倒する事ができるのである。
身長 個人によって異なる、体重 個人によって異なる、武器は様々な対怪人装備

・オオカミ種怪人ウルフェン
突如ハガネたちの前に姿を現した狼の怪人。何でも切り裂く鋭利な爪が武器で、そのツメは爆発力の高いミサイルとして使用する事も出来る。更に、分身怪人であるアリアントを生み出す能力も持っており、力だけでなく数でも襲い来る強敵である。ハガネの変身したノヴァティスと交戦したが、最期は自身の放った爪ミサイルを蹴り返されて爆死した。
身長185㎝、体重80㎏、能力は鋭利な爪と爪ミサイル

・アリ種怪人アリアント
一部の怪人が持っている分身能力で生み出された蟻の怪人。能力は生み出した怪人の10分の1程度であるが、その数を活かした集団戦術を得意とする所謂戦闘員ポジションである。その一方、特にこれと言った能力は持たず、ノヴァティスには簡単に倒されていた。しかし、人間からすれば脅威である事に変わりはなく、過去には民間人やMトルーパーに多大な被害を与えたと言う。
身長178㎝、体重72㎏、能力は群れによる集団攻撃

・コウモリ種怪人バットン
蝙蝠の特徴を備えた怪人。怪人には珍しく飛行能力を備えており、暗闇の中で活動し、闇の中から奇襲をかける事ができる。その一方、蝙蝠らしく光には弱く、ノヴァティスが変身した際の光で弱体化してしまい、そこにノヴァティスパンチを食らい、爆死した。本編ではあっさりやられたが、それなりにスペックの高い怪人なのである。
身長180㎝、体重73㎏、能力は飛行能力、弱点は光

モグラ種怪人モールドン
土竜の特徴を備えた怪人。地中での戦いを得意としており、地中を時速60㎞の速度で掘り進む事ができる。ノヴァティスの活動エネルギーである光のない地中まで引きずり込んだ。更に、防御力も高く、ノヴァティスの蹴りに対し、びくともしていなかった。強敵ではあったものの、ハガネの機転によって弱点である光を発生させられ、怯んだ所にノヴァティスキックを立て続けに食らい、爆死した。
身長188㎝、体重95㎏、能力は地中を掘り進む能力、弱点は光

・ムカデ種怪人ムカデロン
百足の特徴を備えた怪人。口から高熱の火炎を吐き、全てを焼き尽くしてしまう。その火炎の温度は1000℃もあり、流石のノヴァティスもただでは済まない。理乃の救出に向かうハガネ達の前に現れ、ハガネの変身したノヴァティスと交戦。ノヴァティスの猛攻を食らった後、ノヴァティスキックを食らって首を吹き飛ばされ、絶命した。
身長178㎝、体重78㎏、能力は高熱の火炎、弱点は頭部

・カマキリ種怪人カマキロン
蟷螂の特徴を備えた怪人。両腕から鋭い鎌が生えており、この鎌は岩石を両断してしまう。理乃の救出に向かうハガネの友人とMトルーパーの前に現れ、Mトルーパーと交戦し、多大な被害を出したが、最期は神山の撃った対怪人バズーカMB-02の直撃を受け、砕け散った。
身長175㎝、体重72㎏、能力は両腕の鋭い鎌

・ブレイヴセイバー
怪人軍団の猛攻を前に危機に陥ったノヴァティスを応援したハガネの友人達の心の光が具現化した剣。光の様に美しくも力強い剣であり、その切れ味はダイヤモンドを軽々両断するほど。清らかな心の持ち主の持つ心の光でないと具現化しないようで、差別や争いを繰り返す地球人では難しいとされていた。この剣を使っての斬撃攻撃はジャスティスブレイクと呼ばれ、怪人軍団を軽々と全滅させる威力がある。また、ジャスティスブレイク以外の技だと真空波を飛ばして攻撃するジャスティスライサーなどがある。
剣の長さ105㎝、剣の重さ1.2㎏

・サイボーグ倉橋元
怪人の王がスパイダロスに殺害された倉橋元の遺体を回収し、サイボーグ化したもの。見た目は人間と変わりはないが、中身はほぼ全てが機械であり、人間の皮を被っているだけである。掌から電撃を放つ能力が追加されており、人間の姿をした相手に躊躇うノヴァティスを苦しめたが、最期は神山が投げた小型爆弾MB-04が命中し、爆散した。
身長176㎝、体重94㎏、能力は掌から放つ電撃

・サイボーグ山本正志
怪人の王がスパイダロスに殺害された山本正志の遺体を回収し、サイボーグ化したもの。見た目は人間と変わりはないが、中身はほぼ全てが機械であり、人間の皮を被っているだけである。掌から電撃を放つ能力が追加されており、人間の姿をした相手に躊躇うノヴァティスを苦しめたが、最期は神山の放ったサブマシンガンMB-03を食らって蜂の巣にされ、爆発四散した。
身長173㎝、体重91㎏、能力は掌から放つ電撃

・アルティメットノヴァティス
人々の正義の光が集まり、誕生した究極のノヴァティス。全ての能力がノヴァティスを上回っており、まさに究極と言う言葉が似合っている。更に、飛行能力も身につけており、天翔街の上空で怪人王グランヴァールと激戦を繰り広げた。
身長178㎝、体重85㎏、パンチ力16t、キック力32t、ジャンプ力70m、走力は100mを1秒、飛行速度はマッハ1

ジャスティスセイバー
人々の心の光が集まり、誕生した究極の武器。その性能はブレイヴセイバーより遥かに上がっており、この世に斬れない物は存在しないと言う。この剣でも通常のノヴァティスで使えた技は大体使える。
剣の長さ107㎝、剣の重さ1.5㎏

・怪人王グランヴァール
光であるノヴァティスと対をなす闇の怪人の王。人間態は青年の姿をしているが、その真の姿は悪魔の様な姿をしている。命を奪う事を何よりも楽しんでおり、破壊と殺戮のみを快楽とする恐ろしい存在である。天翔街の上空から火球や破壊光線を放ち、多くの命を奪ったが、最後はアルティメットノヴァティスとの戦いに敗れ、死亡した。また、怪人は彼がいる限り生まれるようであり、彼の死亡後、怪人は一切出現しなくなった。
身長2.1m、体重1,35㎏、能力は掌から放つ火球、口から放つ破壊光線、シャドーセイバーから放つシャドービーム、飛行速度はマッハ1

・シャドーセイバー
グランヴァールの持つアメジスト色の剣。闇の力を秘めており、剣先からシャドービームと言う破壊光線を放つ。ノヴァティスのブレイヴセイバーと同等の性能だが、アルティメットノヴァティスのジャスティスセイバーの性能には及ばなかった。
剣の長さ110㎝、剣の重さ1.1㎏

小説用ブログ開設!!

どうも、クロストライアル公式ブログの龍居ミハルです。今回からpixiv等で投稿していた小説は、ここで連載するようにします。とりあえず、再編集などで時間がかかるので、しばらく投稿はできませんが、必ず投稿しますので、しばらくお待ちください、では。