クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

闇夜と白昼の系譜 後編「白昼の救世主編」

ナハトとその仲間達がシュヴァルツゼーレを撃破し、17年が経過した。シュヴァルツゼーレの残存勢力は撤退を始め、組織は事実上壊滅し、大きな争いが起きる事もなく、人々は平和な日々を謳歌していた。エデンシティは過去の大きな戦いを生き抜いた奇跡の街として、街の名前をニューエデンシティに改め、世界の平和の要として先導していた。ナハトが残した子供であるリヒトは17年の時を得て立派に成長し、ニューエデン私立学園に通う高校生になっていた。トルトゥーガが愛情を込めて育てた為、心優しい少年に成長しており、かつてのナハトの仲間達もたまに様子を見に来ては笑顔を見せていた。リヒトは休みの日と祝日以外は学業に専念している為、今日も母親であるトルトゥーガが愛情を込めて作った弁当を持って学校に通っていた。

「じゃ、行ってくるよ母さん!」
「気を付けてね、リヒト」

そう言って見送るトルトゥーガに手を振り、リヒトは学校に向かった。まだ始業までは時間がある為、リヒトはゆっくりと歩いていた。そのリヒトを呼ぶ少女の声が後ろから聞こえてきた。

「リヒトくん! おはよう!」
「あっ、おはよう、ミハルちゃん」

ミハルと呼ばれた少女は防衛隊の隊長であるミソラの娘であり、まだ若いながらも防衛隊のリーダーとして活動している。母親によく似た白く長い髪と、透き通った青い瞳が特徴の美少女であり、リヒトはこっそり彼女の事を可愛いと思っているのである。

「今日も平和だね」
「そうだね、ミハルちゃんや防衛隊の人達が一生懸命平和を守っているからだよ」
「リヒトくんも剣の腕前はあるんだから、防衛隊に入ればいいのに…」
「僕は争い事があまり好きじゃないからね、それに…」
「お父さんの事?」
「うん、僕が生まれる前に行方不明になった父さんを探しに行きたいんだ…」
「ナハトさん…だよね? 私のお母さんから何度も話を聞かされたから知ってるよ」
「17年前のシュヴァルツゼーレとの戦いで死んだって言われているけど、僕は信じてる、必ず生きてるって…」
「お父さん、見つかるといいね」
「うん!」

そんな話をしていると、目的地であるニューエデン私立学園に到着した。ニューエデン私立学園は全校生徒が1000人を超すマンモス校であり、クラスも複数のクラスに分けられている。だが、学問レベルは決して高いとは言えず、世界中にある高校の中ではレベルは中の下程度である。リヒトとミハルは自分のいるクラスに到着すると、朝の挨拶をした。

「おはよう」
「みんな、おはよう!」
「おはようございます…」
「おはよー!」

リヒトとミハルに挨拶を返したのは、友人のエルフィナとアミアである。エルフィナは物静かな性格をしているが、友人のアミアとは気が合うようで、よく一緒にいる。そのアミアは明るい性格であり、この4人の中ではムードメーカーである。

「おやおや、今日もお二人さんは揃って登校しているんだね、もしや恋人になったとか?」
「そんなんじゃないよ、ただ、登校時間が被ってるだけ」
「リヒトさんは今日もお母さんの作ったお弁当を持ってきているようですね…?」
「うん、お母さんが僕の為にいつも早起きして作ってくれてるんだ」
「いいなー、私もママに作って貰いたいけど、私のママったら、いつも起きるの遅いんだー」
「アミアのお母さん、いつも寝てばかりだもんね…」
「逆に、リヒトくんはいつも早起きだよね」
「まあね、早寝早起きは健康の源だよ!」

その時、外から大きな爆発音が響いてきた。続けて2回、3回と爆発音が響き、辺りから物の焼ける匂いが漂って来た。

「何、何!? 怖いよ~」
「何かのテロでしょうか…?」
「そんな! テロは17年前のシュヴァルツゼーレとの戦い以来起きてないのに!!」
「リヒトくん! 外に行ってみましょう!」
「そうだね、ミハルちゃん!」

そう言って2人はブルーセイバーと別空間から取り出し、学校の外へ向かった。学校の外ではゴブリンの群れが巨大な大砲を撃ち、ニューエデンシティの建物を破壊していた。ゴブリンたちは無差別に大砲を撃っており、その大砲から放たれた巨大な爆弾の爆発により、街の人々は吹き飛ばされていた。

「あれは…魔物? 私、魔物なんて生まれて初めて見た…」
「でも、魔物は過去に幾度となく起きた戦いで数を減らしてほぼ絶滅状態って聞いたよ、それがあんなに沢山…」

ゴブリンの群れはリヒトとミハルに気付くと、二人に向けて大砲を撃ってきた。だが、リヒトはサイクロンの魔法を素早く詠唱し、竜巻を放った。その竜巻は放たれた爆弾を押し返し、ゴブリンの群れに命中、ゴブリンの群れと大砲を爆散させた。

「よし! うまく出来た!!」
「安心するのはまだ早いよ、あれを見て!!」

続けて現れたのは、巨大なカマキリの魔物、カマキロンであった。カマキロンは人間の倍以上の体格を持ち、両手は切れ味鋭い鎌になっている大カマキリである。この鎌は岩石程度なら簡単に両断する事が出来、非常に強力である。

「こんな立て続けに魔物が来るなんて…なんかおかしいよ!!」
「考えるのは後、今は戦いましょう! リヒトくん!!」

マキロンは二人目掛けて鎌を振り下ろしたが、二人はそれを回避し、同時にカマキロンの鎌を付け根から斬り落とした。続けて、同時に回転斬りを放ち、カマキロンの頭部を刎ねた。頭部を失ったカマキロンは沈黙し、地面に倒れ、切り口から緑色の体液を流していた。

「何とか倒したけど…」
「かなりの被害が出てしまったわね…」

すると、後ろからエルフィナとアミアがやって来た。

「リヒトくーん! ミハルー!」
「大丈夫でしたか…?」
「ああ、僕達は大丈夫だよ…でも…」
「ここまで被害が出たのは、17年前のシュヴァルツゼーレとの戦い以来だよ…」

4人は破壊された街を見て、ただ立ち尽くすしかなかった。昨日まで平和だったこのニューエデンシティが再び戦火に巻き込まれてしまった。見慣れた街並みが再び炎に呑まれ、多くの人々が命を落としてしまった。

「ミハルちゃん、これから僕達、戦わないといけないんだよね?」
「そうだね、戦わないと、もっと多くの人が死んでしまう、だったら、戦った方がいいよ」
「そうだね、じゃあ、僕も戦うよ、少しでも戦える人がいた方がいいでしょ? それに、みんなが死んでしまったらお父さんを探すどころじゃないからね」
「ありがとう、リヒトくん、これから一緒に戦いましょう!」
「うん!」

リヒトは破壊された街並みを前に、戦う決意を新たにした。その様子を、建物の上から見つめている一人の青年がいた。

「あいつが、ナハトの息子であるリヒトか…大した奴ではなさそうだな…」

その青年は、リヒトの事をしばらく見ると、その場から立ち去った。一方その頃、かつてナハトと共に戦ったシレーヌは、娘のフェルネとその友人のエフィと共に久々にニューエデンシティに足を運んでいた。だが、ニューエデンシティの方角から煙が上がっており、シレーヌ達は違和感を覚えていた。

「ねえ、お母さん、ニューエデンシティっていつもあんな感じなの?」
「まさか、17年前ならまだしも、平和になった今はこんな事まずないわよ」
「フェルネ、何か危険な気配がするね」
「そうだね、エフィ」

彼女たちがそんな話をしていると、ニューエデンシティに到着した。ニューエデンシティの煙が上がっている方角を見ると、炎が燃え上がっており、救急車で運ばれている人々が多数存在した。

「一体何があったって言うの? こんなの17年前と一緒じゃない」

そんなシレーヌの前をよく知る人物が横切った、トルトゥーガである。トルトゥーガは慌てた様子でニューエデン私立学園の方に走っており、シレーヌはそれを呼び止めた。

「トルトゥーガ! 久しぶり!」
シレーヌ! 久しぶりだけど、ごめんね、今、急いでるから!」

そう言ってトルトゥーガは去って行った為、シレーヌ達も後を追いかけた。

「ねえ、トルトゥーガ、一体何よこの騒ぎは!」
「分からないよ、こんな事、シュヴァルツゼーレが滅んでから一切なかったから…」
「で、この方角…リヒトくんの通う学校ね?」
「うん…心配で心配で…だから急いでるの…」

すると、トルトゥーガ達の前からリヒトとミハルが一緒に歩いて帰って来た。それを確認したトルトゥーガは、リヒトの方に駆け寄り、抱きしめた。

「リヒト…無事でよかった…!」
「お母さん…僕は大丈夫だから…」
「でも…死んじゃってたらどうしようかと思って…」
「大丈夫だよ…僕は死なないから…あ、シレーヌさん、お久しぶりです…」
「お久しぶりです、じゃないわよ…一体何? この騒ぎは…」
「何か、魔物が街を攻撃してて…全部僕とミハルちゃんが倒したんですけど、学校は臨時休校になっちゃって…」
「なるほどね…魔物かぁ…今は魔物なんてほぼ絶滅状態よ…1000年以上前はよく活動してたらしいけど、今の世の中魔物なんてそういないわよ…トルトゥーガは何か知ってる?」
「私もあまりよく分からなくて…天上界に帰れば何か情報が得られるかもしれないけど、あいにく私は出禁状態だし…」
「なら、結局は何も分からないって事ね…」

「ところで、シレーヌさんは何でニューエデンシティに来たんですか?」
「私? 私は娘のフェルネとその友達のエフィを連れて観光に来たのよ…そしたら大変な事になってて…もう何が何だか…」
シレーヌとは1年ぶりに会うけど、17年前からあまり変わってないよね」
「老けないように努力してんの、ほら、二人共、自己紹介しなさい」

「フェルネ・レーデです、よろしく」
「私はエフィ・アーネルだよ、よろしくね!」
「僕はリヒト・ザラームです、エフィとは初めてだね、よろしく!」
「私はミハル・アートランド、よろしく」

フェルネは金髪ロングの少女で、緑色の透き通った瞳が特徴であった。武器は二丁拳銃らしく、腰にホルスターを携えていた。正直、母親であるシレーヌにはあまり似ていない為、父親似なのだろう。

一方のエフィは長い金髪の左側をサイドテールにしており、フェルネと違い、青色の透き通った瞳が特徴の少女であった。エフィは名の知れた弓使いの子孫らしいが、本人も詳しくは知らないらしい。ちなみに、フェルネと違って武器は拳銃一丁のみである。

「そうだ、あなた達、防衛隊に入らない?」
「ミハルちゃん…誰でもすぐに防衛隊に勧誘するのやめようよ…」
「防衛隊ねぇ…入りはしないけど、協力ならしてもいいかな、エフィはどう?」
「私も協力ならしてもいいよ!」
「二人共、ありがとう」

その時、トルトゥーガは殺気を感じ取り、魔導障壁を展開した。直後、銃弾の雨が魔導障壁に直撃し、銃弾は辺りに飛び散った。

「あなた達、一体何者?」
「我々はネオシュヴァルツゼーレの刺客だ」
「つまり、私達の計画に邪魔なあなた達を始末しに来たのよ」

現れたのは、銀髪で美形の男性と、血の様に赤く長い髪の女性だった。どちらもアサルトライフルやナイフで武装しており、シュヴァルツゼーレの再来と言われてもおかしくなかった。かつてシュヴァルツゼーレと戦ったトルトゥーガは、ネオシュヴァルツゼーレの名前を聞き、真っ先に反応した。

「ネオシュヴァルツゼーレ…? またシュヴァルツゼーレが復活したの?」
「分かりやすく言えばそうだ、シュヴァルツゼーレの残党は魔族と結託し、新たな組織、ネオシュヴァルツゼーレとして復活したんだ」
「で、復活して今度は何を企んでるの? 世界征服?」
「目的は以前と同じ、堕落に満ちた世界を変える、革命をしているのよ」
「あなた達は17年経っても同じことをするつもりなの!?」
「それだけデロリア様の掲げた目的が偉大だったのだ! だから、俺達の様な若い人材も集まっている!!」
「平和を謳歌し、世界を堕落させる人間なんていらないのよ! そう言う人間はここで死ねばいいわ!!」

そう言い、二人はアサルトライフルを発砲したが、トルトゥーガが再び魔導障壁を展開し、防いだ。他の仲間達はトルトゥーガの後ろに隠れ、反撃の機会をうかがっていた。すると、フェルネがトルトゥーガにある事を提案した。

「トルトゥーガさん、私が3つ数えた後、トルトゥーガさんの頭の上の魔導障壁を消してください」
「何をするつもりなの?」
「まあ、ここは私に任せてくださいよ」
「エフィは? エフィは何をすればいい?」
「エフィは敵の後始末をよろしく!」
「了解!」

その後、フェルネはトルトゥーガに聞こえる声で一つ、二つと数えた。そして、三つと数えた瞬間、フェルネは高く跳び、トルトゥーガの頭の上から銃弾を二発撃った。放たれた銃弾はアサルトライフル銃口に命中し、アサルトライフルは暴発した。アサルトライフルが駄目になった二人組はアサルトライフルを捨て、コンバットナイフを手に取った。だが、エフィの放った二発の銃弾で、コンバットナイフは弾き飛ばされてしまった。

「お二人さん、今回は見逃してあげるからさっさと帰ったら?」
「そうそう、帰った方が身の為だよ」
「くっ…! ここは撤退するよ、アンナ!」
「ハイネの言う通りだね、あんたら、今度会ったら覚えときなさいよ!」

そう言って二人組は走り去っていった。その後、フェルネとエフィの射撃技術を近くで見ていたリヒト達は、二人の射撃技術を褒めていた。

「フェルネちゃんとエフィちゃん、凄い射撃技術だね!」
「あの距離から敵の武器を無力化させるなんて…凄いわ!」
「褒めてくれてありがとう!」
「えへへ…そう言われると照れるなぁ…」
「ねえ、シレーヌ、この二人、あなたより銃の腕前が凄いんじゃない?」
「うっ!そう言われたら母親である私の立場が…!」

こうして、ネオシュヴァルツゼーレを追い払ったリヒト達であった。一方、ニューエデンシティの周辺では一人の少女が道を彷徨っていた。

「ここ…どこかなぁ…? お腹すいたなぁ…」

その少女は黒く長い髪を持った赤い瞳の少女であった。そして、その少女の腰には鞘だけの剣が携えられていた。少女はしばらく彷徨った後、ニューエデンシティの入り口に到着した。

「やっと着いた…待っててくださいねぇ、リヒトくん、トルトゥーガさん」

迷いに迷った末、ニューエデンシティに到着した黒髪ロングの少女は、近くを通りかかったトルトゥーガに話しかけた。

「そこの女の人、あなたがトルトゥーガさんですかぁ…?」
「え…そうだけど…あなたは誰?」
「私、ラーナ・レニーと言いますぅ…」
「レニーって…あなた、エスカの娘さん?」
「そうですよぉ、お母さんがぁ、ニューエデンシティに到着したらぁ、トルトゥーガって名前の女の人に挨拶しろって言ってたからぁ…」
「そうなんだ…エスカは元気でやってる?」
「はい、勿論…今はお父さんと一緒に世界を巡る旅をしていまぁす…」
「じゃあ、しばらくは会えないのか…とりあえず、みんなで私の家に来る?」
「はい、お邪魔させてもらいまぁす…」

トルトゥーガは息子や友人、友人の娘たちを連れ、自宅に向かった。現在トルトゥーガの住む家は一戸建ての住宅であり、防衛隊前隊長のミソラにシュヴァルツゼーレ壊滅のお礼として貰ったものである。トルトゥーガはナハトのいない間、一人でリヒトの世話をして今まで育ててきたのである。ちなみに、定期的にシレーヌエスカ、ミソラが遊びに来ていたが、ココはシュヴァルツゼーレが壊滅してしばらくしてから誰も姿を見ておらず、実質行方不明である。

「ねぇ、シレーヌ
「どうしたの?」
「あれからココがどこにいるかの情報は掴めた?」
「ぜ~んぜん! あの子、どこにいるか誰も知らないんだもん!」
「そう…久々に会いたいなぁ…」
「まあ、あの子の事だから死んではいないんだろうけどさ…心配よね…」

「前防衛隊隊長の私のお母さんも行方は探してるんだけど、未だに行方が掴めてないようです」
「本当にココはどこで何してるんだろう…」
「ねぇ、トルトゥーガ、マカロンはある?」
「こんな時でもシレーヌはのん気だね…冷蔵庫の中に3袋ぐらいあったはずだよ」
「サンキュー!」

そう言ってシレーヌは冷蔵庫の方に向かって行った。一方のリヒト達はこれからの事について話し始めた。17年間平和だったニューエデンシティ、そのニューエデンシティが攻撃を受けたとなると、これは世界的な危機である。実際、TVを付けてみるとどこも臨時ニュースであり、どのニュースでもこの出来事を取り上げていた。17年間世界が平和だっただけあり、急にこんな事が起きると混乱してしまうのである。

現在、ニューエデンシティでは防衛隊が出動し、火事を鎮火させた後、各地の防衛についていた。ニューエデンシティは17年前より防衛力や戦力が向上しており、もし17年前の時の様に悪人が暴れても即鎮圧できる程度に戦力は上がっている。17年前は無能扱いされていたが、現在の防衛隊は有能なのだ。

そもそも、何故今になってシュヴァルツゼーレと魔族が結託し、ネオシュヴァルツゼーレとして活動を開始したのか。そんな事はまだ情報がほとんど出てきていない現在はよく分からない事だ。すると、リヒトはラーナに対し、ある事を聞いた。

「そう言えばラーナちゃん、君は何しにここに来たの?」
「えっとですねぇ…それはエスカお母さんが私に修行をさせたんですぅ…」
「修行…? 修行って何の?」
「私、凄い方向音痴でしてぇ…1人で無事にニューエデンシティにたどり着けるようにする為の修行なんですよぉ…」
「で、どれぐらいかかったの?」
「15日前にレクスシティからスタートしてぇ、着いたのが今日ですからぁ…大体15日は彷徨ってましたねぇ…」
エスカったら…ここまで極度の方向音痴を1人で彷徨わさせるとか、相当な鬼畜ね…今度注意しとかないと…」

エスカの鬼畜さに、リヒトとラーナの会話を聞いたトルトゥーガは呆れた。しばらくすると、シレーヌが冷蔵庫からマカロンを持ってきてソファに寝転がって1人で食べていた。話し合いには参加しそうになかったので、リヒト達はそのまま話し合いを続けた。真っ先に意見を出したのは、ミハルだった。

「ねえ、リヒトくん、ここにいる人達全員でニューエデンシティを防衛できないかな?」
「ニューエデンシティを防衛するのも大事だけど、こっちから攻めないといつまで経っても戦いは終わらないよ」
「でも、問題はどこに敵の本拠地があるかなのよね…」

ミハルの意見ももっともである。17年前に活動していたネオシュヴァルツゼーレの前身であるシュヴァルツゼーレはエデンシティに本拠地があったからまだ対応できた。だが、ネオシュヴァルツゼーレはどこに本拠地があるか分からない。下手をすれば海の中に本拠地があると言う可能性も考えられるのだ。ネオシュヴァルツゼーレはシュヴァルツゼーレと違ってニューエデンシティのみで対応できる相手ではない、世界が一つになる必要があるのである。

「とりあえず、今は私達だけでできる事をしましょう」
「そうですね、トルトゥーガさん」

その時、3人ほどの人物がトルトゥーガの家の窓ガラスを破って侵入してきた。その人物は、紫髪ロング、赤髪ポニーテール、緑髪ツインテールの3人組の女性であり、3人共黒い服を着ていた。

「私はネオシュヴァルツゼーレのターニャ!」
「私はネオシュヴァルツゼーレのミーナだよ!」
「私はネオシュヴァルツゼーレのノクトです…」
「ネオシュヴァルツゼーレ! いきなり僕の家に入ってきて、一体何が目的なの!?」
「先ほどはハイネ様とアンナ様がお世話になったようね!」
「2人に頼まれたの、あなた達を殺せってね!」
「だから、ここで死んでもらいます…」

3人はリヒト達に拳銃を向け、発砲した。その時、ラーナは鞘のみの剣を手に取り、魔力を込め、魔力の剣を生成した。そして、その魔力の剣で銃弾を斬り、蒸発させた。

「皆さん、大丈夫ですかぁ?」
「うん…大丈夫だけど…その魔力の剣って…」
「これはルーンブレード、エスカお母さんに貰った魔力で生成した剣で全てを切り裂く剣ですよぉ…」

直後、ターニャ、ミーナ、ノクトの3人は手榴弾を投げてきたが、ラーナはルーンブレードを振り、竜巻を発生させた。その竜巻で手榴弾を跳ね返し、3人の近くで手榴弾は爆発した。だが、3人はかろうじて爆風に呑まれておらず、後ろに後ずさったが、ラーナは追撃を開始していた。そして、ラーナはルーンブレードを伸ばし、そのまま振り下ろした。

「ルーンエッジ!!」

ラーナはルーンブレードで放つ奥義、ルーンエッジを放った。だが、その攻撃は3人には当たっておらず、3人は腰を抜かして震えていた。当てる気満々に見せかけて、あえて外していたのである。

「あなた達は人間だからぁ、私は殺すつもりはありませぇん、これに懲りたらぁ、もう来ない事ですねぇ…」
「はい…すいません…」
「もう来ないから許してよぉ…!!」
「任務失敗…」

3人はその場から即座に立ち去った。トルトゥーガの家は少し破壊されたものの、敵も味方も誰も死ななかった為、結果オーライである。だが、ラーナはその場でへたり込んだ。その様子を見ていたトルトゥーガは、ラーナに駆け寄った。

「ラーナちゃん、大丈夫?」
「すみませ~ん、このルーンブレードはとても強いんですけどぉ…魔力を大量に消費するからお腹が空くんですぅ…」
「あ~、そう言う弱点があるのか…ルーンブレードも最強じゃないのね…自分の娘にこんな欠陥武器を持たせるなんて、エスカは何を考えているのかしら…」

一方、敗走したターニャ、ミーナ、ノクトの3人は、ニューエデンシティの近くの森でハイネ、アンナと合流していた。

「申し訳ございません、ハイネ様、アンナ様」
「いいところまでは行ったんだけど、ルーンブレードとか言うチート武器を持ってる奴がいて…」
「そのせいで敗北してしまいました…」
「と、言ってるけど、どうする? ハイネ」
「問題ない、俺達も負けてしまったんだ、彼女たちを攻めるつもりはないさ」
「ハイネ様…」
「ありがとうございます!」
「流石、ハイネ様は私達の上司です」
「とは言ったものの、俺達はこれからどう攻めるか…」

その日の夜、一日の内にネオシュヴァルツゼーレの襲撃に何度もあったリヒト達は、静かに眠りについていた。そんなリヒトは、とある少女の夢を見ていた。その夢とは、水の様に美しい水色の長い髪を持つ白いワンピースの少女が悲し気な歌を歌っている夢であった。少女は涙を流しながら一人歌を歌っており、リヒトに気付くと涙を拭き、笑顔を見せ、消滅した。そんな不思議な夢を見たリヒトは、朝起きるとトルトゥーガや、リヒトの家に泊まっていたシレーヌ達にその話をした。

「水色の長い髪を持つ白いワンピースの女の子? リヒトくんはそんな変わった夢見たの?」
「そうなんです、その夢が僕にはどうも不思議で…」
「確かに、不思議な夢ね…」
「ですよね、シレーヌさん、僕は何の意味もなくこんな夢を見るとは思えないんだ」

「リヒトって、意外とロマンチストなのね、お母さんは感激だわ」
「もう、茶化さないでよ、母さん」

すると、トルトゥーガは蓄えておいたパンを全部使った事に気付いた。急にシレーヌやミハルが家に泊ると言ったので、蓄えておいた分を全部使いきってしまったのだ。

「リヒト、ちょっと食パンとコッペパンを買ってきてくれるかしら?」
「うん、いいよ、多分店は開いてると思うし」
「じゃ、頼んだわよ」
「あ、ついでにマカロン買ってきて~」
シレーヌさん…何か僕の家に溶け込んでますね…」
「伊達に17年前にナハトの住む宿に居候してないわよ」
「分かりました、マカロンですね? 一緒に買ってきますよ」

そう言ってリヒトは外に出た。外は防衛隊の活動によって瓦礫は撤去されており、街は事件の起きる前ほどではないが人が歩いていた。この様子だけ見ると、とても大事件が起きた後とは思えない。ちなみに、リヒトの通うニューエデン私立学園はしばらく休校となっている。あんな事件の起きた後なのだ、無理もない事である。

「待って~! リヒトく~ん!!」
「ミハルちゃん! どうしたの?」
「私も付いて行くわ、リヒトくんだけじゃ心配だもの」
「ありがとう、ミハルちゃんがいると心強いよ」

その後、リヒトはミハルと共に街を散策した。リヒトが普段買い物に使う店は平常通り開いており、そこで食パンとコッペパン、マカロンを購入した。こうして、目的の品を入手したリヒトとミハルは店の外に出た。

「目的達成、かな」
「そうだね、さあ、帰ろう」
「うん! じゃあ、僕の家に…」

その時、リヒトの前を通りかかった一人の少女がいた。その少女は水の様に美しい水色の長い髪の白いワンピースの少女、リヒトの夢の中に出てきた少女であった。リヒトは、その少女を見つけた時、知らぬ間にその少女の腕を掴んでいた。

「…え?」
「あ…えっと…」

二人はしばらく沈黙した。リヒトもまさか自分の体がとっさに動いて彼女の腕を掴むとは思わず、突然の事で困惑していた。あまりに二人が長い間沈黙していた為、ミハルがリヒトに語り掛けた。

「リヒトくん…どうしたの…?」
「あっ! あぁっ! ごめん…」
「いえ…大丈夫です…えっと…どこかでお会いしました?」
「あの…実は…変に思われるかもしれませんけど…今日僕が見た夢に、あなたに似た人が出てきて…」
「ふふっ…別に変じゃありませんよ、私も、今日見た夢の中にあなたによく似た人が出てきましたから…」
「えっ…? えぇーーーっ!?」
「驚きすぎですって…」
「いや、まさか僕達お互いに似たような夢を見ているとは思わず…」
「ですよね、なので、私もその話を聞いて驚いちゃいましたよ…」

二人が同じ日に似たような夢を見ていたと言う、まるで物語の様なこの出来事に、二人は一気に親近感が湧いていた。お互い、赤の他人であるにも関わらず急に二人は距離感が近くなった。ミハルは少女と仲良くするリヒトに対し、少しやきもちを焼いてはいたが。

「そう言えば、自己紹介がまだだったね、僕、リヒト・ザラーム、君は?」
「私はクリス・アクアマリン、よろしくね、後、あなたは?」
「私はミハル・アートランド、一応、このニューエデンシティ防衛隊の隊長だよ」
「え…じゃあ結構凄い人なんだ」
「別にそうでもないよ、前防衛隊隊長であるお母さんの後を継いだだけだから」

その時、近くで木が何者かに薙ぎ倒される音が聞こえた。直後、森を割って10m程もある巨大なカマキロンがその姿を現した。このカマキロンはオオカマキロンと呼ばれ、カマキロンの変異種の一体である。10m程もある巨体から繰り出される攻撃力は破壊力が高く、旧時代はオオカマキロンによって街一つが壊滅したと言う記録も残っている。突然現れたオオカマキロンに、リヒト達は驚いた。

「何だ!? あの大カマキリは!!」
「オオカマキロンだね、防衛隊のデータベースに載ってたよ、それより、このままじゃ街が破壊される!!」
「ミハルちゃんは人々の避難誘導を! 僕はあの大カマキリを引き付ける!!」

そう言ってリヒトはオオカマキロンと交戦を開始した。リヒトはオオカマキロンが振り下ろした鎌を回避し、そのまま鎌から登ってオオカマキロンを攻撃しようとしたが、オオカマキロンの体は固く、攻撃は効かなかった。直後、オオカマキロンは鎌を振ってリヒトを攻撃した。リヒトはブルーセイバーで防御したものの、あまりの力にブルーセイバーが破壊されてしまった。

「くっ! 何て力だ!!」

武器を失ったリヒトはオオカマキロンの攻撃を回避するしかなかった。時折様子を見てはファイアやライトニング、エクスプロージョンの魔法で攻撃したものの、全く効果はなく、リヒトは少しずつ追い詰められていた。

「あのままじゃリヒトさんが殺されてしまう…」

その時、クリスの体が眩く輝いた。そして、クリスの体から一つの光球が発生し、その光球はリヒトの右手に収束した。収束した光球は少しずつ剣の形を模っていき、光が収まった際、そこにあったのは水晶の如き輝きを纏った美しい剣であった。

「この剣は…!?」
「クリスタル…セイバー…」

そう言い残し、クリスは気を失って地面に倒れ込んだ。その直後、オオカマキロンが鎌を振り下ろしたが、リヒトはクリスタルセイバーで受け止めた。そして、そのまま押し返し、オオカマキロンが体勢を崩したのを確認すると、リヒトはクリスタルセイバーに風の魔力を収束させ、真空波として放った。真空波はオオカマキロンの首に命中し、しばらくするとオオカマキロンの首が地面に落ちた。クリスタルセイバーに収束させた真空波の切れ味があまりに高かった為、斬られた事に気付かなかったのである。こうして、無事オオカマキロンを倒したリヒトだったが、彼が夢の中で出会った少女であるクリスには謎の力がある事が判明した。

「ねぇ…リヒトくん…この子って…」
「うん…多分だけどクリスは人知を超えた力を持っているんだと思う、目を覚ましたら、色々聞いてみよう」

リヒトが出会った謎の少女クリスは、クリスタルセイバーを生成する謎の力を持っていた。彼女のその力の正体とは一体何なのだろうか? リヒトはその事を考えつつ、自分の家へと戻るのであった…。

リヒトとミハルは気絶したクリスをリヒトの家に連れて帰った。トルトゥーガ達は突然の出来事に驚いていたが、リヒトが説明するとすぐに受け入れ、トルトゥーガのベッドにクリスを寝かせた。クリスは静かに寝息を立てて眠っていたが、リヒト達は彼女が何者なのか気になっていた。真っ先に口を開いたのはトルトゥーガであり、彼女は息子であるリヒトに彼女が何者なのか聞いた。

「ねえ、リヒト、この子は一体何者なの?」
「分からないよ、僕がオオカマキロンに殺されそうになった時、この子から出てきた光の球がこの剣になったんだ、シレーヌさんは何か知ってます?」
「う~ん…よく分からないわね…過去にアインベルグ大陸で剣精霊の伝説があるのは知ってるけど…そもそもこの子は人間なのかしら? トルトゥーガは?」
「さあ、私もよく分からないの…多分だけど、精霊の類じゃないかな?」

リヒト達が頭を悩ませていた時、ニューエデンシティの外れの森の中では、ハイネ達がある部隊を待っていた。その部隊とは、ネオシュヴァルツゼーレ直属の殺し屋集団であり、名をセブンイレイザーズと言う。セブンイレイザーズは、魔族の生き残りによって殺し屋として育てられた孤児であり、殺しの技術を叩きこまれた精鋭である。魔族はネオシュヴァルツゼーレを結成するまでの間、このような方法で侵略の準備を整えていたのである。ハイネ達がしばらく待っていると、そのセブンイレイザーズはやって来た。

「セブンイレイザーズのアルメリア・フェアラム、以下6名、着任いたしました」
「君達がセブンイレイザーズか…噂には聞いていたが、全員若いな」
「ええ、私達が魔族に拾われた際は皆1歳か3歳でしたので」

ハイネと話をしているアルメリアはセブンイレイザーズのリーダーであり、闇を宿した剣、ヘルブラッドを装備している。黒く長い髪とオレンジ色の瞳の可愛らしい顔をした少女ではあるが、相手を殺す事に躊躇はしない。また、セブンイレイザーズのメンバーは全員黒コート、黒ズボン、黒ブーツと言う服装をしている。これはセブンイレイザーズメンバーの軍服ともいえる服装なのである。

「で、私達に殺して欲しい者達とは?」
「こいつらだ、場所はこの紙に書いてある」

そう言ってハイネはリヒト達の写真とリヒトの家の地図を渡した。リヒトの顔を見たメンバーの一人であるレスター・スムガイトは余裕そうな表情を見せていた。

「何だ、こんな奴らが抹殺対象かよ、俺一人で楽勝だな」
「レスター、お前が行ってくれるか?」
「おう、任せとけ任せとけ、すぐブッ殺してくるよ」

そう言ってレスターはその場を去って行った。レスターは短い金髪と赤紫の切れ長の瞳が特徴で、かなり口が悪いが、殺しのセンスは高い。武器は闇を宿した槍、デススパイラルで、これを使って数多くの相手の命を奪ってきた。

「リヒト・ザラームか…どんな相手かは知らないが、このセブンイレイザーズを前にして生き残れると思うなよ…!」

一方のリヒト達は、ずっとクリスの様子を見ていた。クリスは寝息を立てて寝ていたが、しばらく様子を見ていると、クリスは目を覚ました。

「おはよう、よく眠れたかい? クリス」
「あなたは…リヒト!」
「そうだよ、覚えててくれたんだ、嬉しいな」
「覚えてるよ、リヒトは私のお友達だもん」
「うん、そうだね、ところで一つ聞きたいんだけど、この剣って何か知ってる?」
「その剣は、クリスタルセイバー、世界を救う素質のある者だけが振るうことのできると言われる剣…」
「世界を救う素質…? いやぁ…僕なんかにそんな素質ないよ…でも、何でクリスはそれを持ってたの?」
「分からない…私、昔の記憶がないの…」
「昔の記憶がない…記憶喪失か…」
「うん、役に立てなくてごめんね、でも、何でリヒトはその剣を装備できたの? 本当に思い当たる事はない?」
「う~ん…強いて言えば、僕が人間の父さんと光精霊の母さんの間に生まれたハーフって事ぐらいかな?」
「ハーフかぁ…それがクリスタルセイバーを使える理由かもしれないね」
「そうだね、でも、結局僕はハーフでクリスタルセイバーを使えるだけの人間、ただそれだけだよ」
「いや、そこまで行ったらお前はただの化け物だ」

そう言ってハイネの部下との戦いで破壊され、応急補修した壁を破壊して入って来たのは、レスターだった。

「君…誰…?」
「俺はネオシュヴァルツゼーレ直属の殺し屋集団、セブンイレイザーズのレスター・スムガイトだ」
「セブンイレイザーズ…また新たな敵が現れたのか…」
「そう言う訳だ、とりあえず、リヒト・ザラーム、お前に暗殺命令が下っているんでな、死んでもらうぜ! 化け物!!」

レスターはリヒトに向かってデススパイラルを振り下ろし、竜巻を発生させた。リヒトはその竜巻に呑まれ、家の壁を貫いて外に吹き飛ばされた。そのリヒトに対し、レスターは更に追撃をかけ、リヒトのクリスタルセイバーと鍔迫り合いになった。

「お前は人間と光精霊の間に生まれたんだってな、だったらお前は人間じゃない、化け物だ!」
「何を…! 僕は人間だ! 血の色も人間と同じ赤だ!!」
「じゃあ、光精霊は人間と言うか? 言わないよな?」
「うるさい!!」

そう言ってリヒトは切り払おうとしたが、逆にレスターの力に押し込まれ、競り負けそうになっていた。その次の瞬間、レスターは背後から何者かに撃たれ、口から血を吐いた。撃たれた個所からは血が流れ出ており、地面には赤い血が滴り落ちた。

「誰だ…? 誰が撃ちやがった!?」

レスターを撃ったのは、フェルネだった。そして、フェルネの周りにはリヒトの仲間達が集まっていた。

「レスターと言ったね、これ以上リヒトくんの事を悪く言うなら、蜂の巣にするから!!」
「そうそう! 私も一緒に撃っちゃうよ!!」
「リヒトさんは優しい人ですぅ! あなたより何倍も!!」
「あなたなんかに、リヒトくんの良さは一生分からないでしょうね!!」
「リヒトさんは化け物なんかじゃない! ただの優しい人間で、私の大切なお友達です!!」
「まあ、うちの友人の息子の事を悪く言われちゃ許せないわよね」
「今すぐリヒトに謝って! 謝りなさい!!」

フェルネ、エフィ、ラーナ、ミハル、クリス、シレーヌ、トルトゥーガ、皆リヒトの事を大切に想っているリヒトの仲間達である。リヒトの事を悪く言い、よもや殺そうとしたレスターの事を、誰も許してないのだ。だが、レスターは急に撃たれた為、頭に血が上っており、彼女たちに襲い掛かろうとした。

「てめえら…! ぶっ殺してやるぅぅぅッ!!!」

だが、レスターはフェルネとエフィによって蜂の巣にされ、体から血を流して地面に倒れ、絶命した。リヒトの事を散々侮辱したレスターの最後は、あまりにあっけないものであった。直後、レスターとリヒトの戦いをどこかから見ていたアルメリアがレスターの亡骸の近くに着地した。

「馬鹿な…! レスターが死ぬとは…! くっ! お前達、覚えていろ! この借りは必ず返す!!」

そう言ってアルメリアはレスターの亡骸とデススパイラルを抱え、その場から立ち去った。アルメリアが去る事を確認したトルトゥーガは、リヒトの下に駆け寄った。

「リヒト…! 大丈夫?」
「母さん…僕って、人間だよね?」
「あなたは人間よ! 光精霊の血が流れただけの、ただの人間よ!」
「だよね…そうだよね…」

そう言ってリヒトはトルトゥーガの胸の中で涙を流した。例え光精霊の血が流れていようと、トルトゥーガやリヒトの仲間からすればれっきとした人間なのである。誰がその事を否定しようと、リヒトはれっきとした人間、その事に変わりはないのである。

仲間の一人であるレスターを失ったセブンイレイザーズのメンバーたちは、レスターの亡骸の近くで涙した。レスターは性格があまりよくなかったものの、メンバーにとっては幼い頃から共に訓練を積んできた大切な仲間であった。そのレスターを失った事で、セブンイレイザーズのメンバーは皆、リヒト達の打倒に燃えていた。

「リヒト・ザラームとその仲間達は危険だ、リヒトだけならまだしも、奴らの結束力は高い、下手をすればこっちがやられる」
「…意見、いいでしょうか?」
「言ってみろ、クレイユ」
「仲間が危険なら、リヒトだけを呼び出して始末すれば良いのでは?」
「そう簡単にリヒトを呼び出す手段などあるのか?」
「そうですね…リエージュ、何かある?」
「…あります、脅迫です」
「脅迫? 具体的にはどんな感じ?」
「…簡単です、1人で来ないと街の人間に危害を加えるって感じです」
「なるほど、アルメリア、これでどう?」
「いいんじゃないか? では、クレイユ、リエージュ、その作戦を実行しろ」

クレイユとリエージュは脅迫状を書き、リヒトの家のポストに投函した。翌日、リヒト達はその手紙を読んだ。当然、突然脅迫状が届いた事で慌てはしたものの、すぐに気を取り直し、冷静に対応をした。

「リヒト・ザラームへ、1人でニューエデンシティ北の埠頭に1人で来い、もし1人で来なければ街の人間に危害を加える…か、母さん、これ僕1人で行った方がいいよね?」
「でも…リヒトを危険な目に合わせるわけには…」
「だからと言って、街の人に迷惑をかける訳にはいかないよ、ミハルちゃん、もしもの時の為に、防衛隊の人達に警備を要請しといて」
「うん、分かった、防衛隊の人達でどこまで相手できるか分からないけど、シャオにグレイス、フロスと言った精鋭もいるから、多分大丈夫よね」

そう言って、ミハルは携帯端末を取り出し、防衛隊に警備を厳重にするよう要請した。その間、リヒトはクリスタルセイバーを持って外に出る準備をしていた。

「リヒト…本当に行くの…?」
「大丈夫だって、母さん、僕は死なないから、安心して」

そう言い残すと、リヒトは外に出た。セブンイレイザーズと戦い、人々を守る為。立派になったリヒトのその背中に、トルトゥーガは自分の夫であるナハトの姿と重ね合わせていた。
その一方で、リヒトもナハトと同じ様に戦いに行って帰ってこないのではないかと心配した。いくら立派になったといえど、リヒトはまだ17歳、まだ未成年だ。おまけにナハトと違って人を殺した事がない、そんなリヒトが人間相手に戦える訳がない。そう考えると、トルトゥーガは心配で心配で仕方なかった。

「リヒト…大丈夫かしら…心配だわ…やっぱり私達も…」
「トルトゥーガ…気持ちは分かるけど、あいつらはリヒトに1人で来いと言ったのよ? 私達が行ったら街の人に何されるか…」
「あのセブンイレイザーズって人達、卑怯すぎます! 私達全員が居たら都合が悪いからって、人質を取って、リヒトくんだけを呼び出すなんて!!」
「…大丈夫です、もしもの時には、私に考えがあります」

クリスのその言葉に、トルトゥーガ、シレーヌ、ミハル、そして他のメンバーはクリスの作戦に注目した。この状況で得策などがあるはずない、だが、クリスはいい方法を思いついたらしく、自信満々だった。

一方のリヒトは魔導バイクに乗り、ニューエデンシティ北の埠頭に到着していた。そこでは、クレイユとリエージュが武器を構えて待っており、リヒトは彼女たちから漂う殺気に身震いしていた。

「セブンイレイザーズのクレイユ・ベルフォールよ」
「…セブンイレイザーズのリエージュバーンズリーです」
「僕はリヒト、リヒト・ザラームだ」

クレイユは深い海の様に青く長い髪と毒々しい色の紫の瞳を持った少女である。冷静な性格で、現在の戦況を瞬時に判断する優秀な人材である。武器はデモンファングと言う紫色の短剣で、これを使って多くの人間を暗殺したと言う。

一方のリエージュは毒々しい色の短い髪とエメラルド色の瞳を持ったクールな表情の少女である。クールな性格をしており、戦闘よりは偵察などの任務を得意とするセブンイレイザーズを陰から支える縁の下の力持ちである。武器はカオスサークルと言う群青色のチャクラムで、この武器は遠距離から近距離まで対応できる優秀な武器である。

「レスターの仇だ、可哀想だが、お前にはここで死んでもらう」
「…レスターの仇、覚悟…」

そう言ってクレイユとリエージュは武器を手に取り、同時にリヒトを斬りつけた。だが、リヒトはクリスタルセイバーで攻撃を受け止め、そのまま切り払った。直後、リエージュはカオスサークルをリヒト向けて飛ばし、それと同時にクレイユがデモンファングで斬りつけた。リヒトはその攻撃を回避し、回避している間にサイクロンの魔法を詠唱し、クレイユに対して放った。しかし、クレイユはカオスサークルを振って竜巻を発生させ、サイクロンを相殺した。そしてその直後、リエージュの投げたカオスサークルによってリヒトはクリスタルセイバーを弾き飛ばされ、武器を失ってしまった。

「しまった!!」
「残念だったわね、リヒト、あんたは人を殺すって覚悟がないわ」
「だって…僕…人を殺したくないんだ…例えそれが悪人でも…僕には殺せない…」

それを聞いたクレイユは、リヒトを殴り飛ばした。リヒトは殴られた事で地面に倒れ、クレイユはそのリヒトに対し、デモンファングを向けた。

「その程度の覚悟で、私達と戦うつもりだったの? 少なくとも、あんた達に殺されたレスターはどんな相手とも戦う覚悟があったわ、戦う覚悟がない人間が、戦場に出てくるんじゃないわよ!!」
「…そうだね、僕、君に教えられたよ…甘えてた…死ぬ寸前に、君に教えられるなんてね…」
「そう…なら、ここで死ね」

クレイユがリヒトを刺そうとした瞬間、どこからともなく飛んできた銃弾がクレイユのデモンファングを弾き飛ばした。そして、その銃弾が飛んできた方角には銃弾を撃ったフェルネを始めとしたリヒトの仲間達がいた。

「みんな! 何故ここに!?」
「それはね、クリスちゃんの広域テレポート魔法でみんなここに移動してきたのよ」
「そう言う事です、リヒトさんを死なせる訳にはいきませんから、私の力を使いました」
「でも…みんなが来たら、街の人達が…」

リヒトのその言葉に、トルトゥーガが自信満々で答えた

「大丈夫よ、リヒトはちゃんと1人でここに来たんだもの、それに、街に何かあったら広域テレポート魔法ですぐに戻れる、だから、私達はたまたま通過した一般人って事で、いいわよね?」
「…どうする? クレイユ?」
「そうだな…あの手紙通りリヒトは危険を顧みず1人で来た、それに、今は圧倒的に私達の方が不利だ、そう言う事にしておこう」
「うんうん、物分かりのいい子達ね」
「ほんとそれ、それに比べてうちのフェルネと来たら…」
「あっ! お母さん酷い!!」
「嘘よ、冗談だって」

「とりあえず、今回は私達の負けにしておく、だが、次はないぞ」
「…じゃ、さよなら」

そう言ってクレイユとリエージュは去って行った。2人が去った事を確認すると、仲間達はリヒトの下に駆け寄った。真っ先にリヒトの下に駆け寄ったのは、ミハルである。ミハルはリヒトの事を一番心配していたようであり、目には涙がたまっていた。

「リヒトくん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ミハルちゃん、それにみんな、ありがとう」
「お礼ならこのクリスちゃんに言ってあげて、この子のおかげで私達はリヒトを助けに来れたんだから」
「本当にありがとう、クリスちゃん、おかげで助かったよ」
「いえいえ、私も、リヒトさんを助けられて嬉しいです」

その後、リヒトとその仲間はクリスの広域テレポート魔法でリヒトの家へと戻った。その様子をずっと埠頭の陰から見ていた一人の青年がいた。

「リヒト…今まで何度も様子は見ていたが、奴の真の強さは多くの人物を味方に付ける人柄の良さなのかもしれないな…」

青年はリヒト達が居なくなったことを確認すると、その場から立ち去った。リヒトは多くの仲間に囲まれている。だが、リヒトは誓った、いつか自分も仲間達や父親に負けないぐらい強くなると。今日の戦いで、リヒトはそう誓ったのであった…。

二度もリヒト達に手痛い目に合わされたセブンイレイザーズは、遂にリヒトの家に総攻撃をかけると決めた。その為、ニューエデンシティの外れの森でセブンイレイザーズとハイネ達は作戦会議をしていた。しかし、リヒト達二度も手痛い目に合わされたセブンイレイザーズは慎重に事を進める為、事を急がないようにしている。一体どうすればリヒト達を安全に始末する事ができるのだろうか。その時、彼等の前に1人の若い青年が現れた。

「大変そうだな、お前ら」
「見ない顔だな、私達に何か用か?」
「いや、お前達が色々困っているみたいだったから気になっただけだ」
「ああ、無関係のお前に言うのも何だが、実は私達はリヒトと言う男を抹殺しようとしているのだが、いかんせんそいつが手強いのだ」

謎の青年とアルメリアが会話している中、指揮官のハイネが現状を説明した。

「俺達ネオシュヴァルツゼーレは着々と侵略の手を伸ばしている、だが、このニューエデンシティの侵略は思うように進まないのだ」
「これも全部リヒト一派のせいよね、ハイネ」

ハイネとアンナの説明を聞いた青年は頷いた。

「なるほど、お前達の侵略の邪魔をするそのリヒトって奴を何とかして欲しいと…」
「何とかしてくれるのか? この無関係の俺達の為に…」
「ああ、俺もそのリヒトって奴には色々用があってな、とりあえず、俺が弱点を探してくるからお前達はそこで飴でも舐めながら待ってろ」

そう言ってその青年はハイネに飴を手渡し、歩きながら去って行った。残されたセブンイレイザーズの面々とハイネ達は自分達の代わりにリヒトの相手をしてくれる人物が現れて嬉しかった一方、その青年にはただならぬ気配を感じていた。不安に感じたハイネは、アルメリアに彼をどう思うか聞いた。

「…アルメリア、あの男、どう思う?」
「…不気味な気配がした、私の部下も皆、そう感じている」
「ねえ、ハイネ…あの男に任せてよかったのかしら?」
「今は利用できるものはすべて利用する、それがネオシュヴァルツゼーレの作戦達成の為に必要なものだ」

一方、自分に命の危険が迫っている事を知らないリヒトは、フェルネと共に特訓をしていた。自分も仲間達と同じかそれ以上に戦う為、特訓を始めており、今日は銃弾を剣で切り払う特訓をしていた。と言っても、流石に実弾を使うわけにはいかず、ゴム弾を使い、それを鉄の棒で切り払うと言う特訓だった。あまり慣れない特訓ではあったが、リヒトは一度もミスする事なく、ゴム弾を的確に切り払っていた。その様子を見ていた仲間達は、リヒトのその的確な剣の腕前に驚いていた。約1時間の特訓を終え、疲れ果てたリヒトはクリスからスポーツドリンクを貰い、くつろいでいた。

「お疲れ、リヒトくん」
「ありがとう、クリスちゃん、あ~、疲れた~」

トルトゥーガは特訓で疲れたリヒトの頭を撫でながら、リヒトに話しかけた。

「でも、珍しいじゃない、リヒトが自分から特訓したいなんて言い出すなんて」
「僕、今までいろんな人に助けられてばかりだったから、僕も役に立ちたくてさ」
「とは言ったって、リヒトくんは私の撃った弾を全部切り払ってたわ、普通ならできない芸当よ?」
「それは、フェルネの銃の腕前が大した事ないからじゃないの?」
「あ! お母さんったら酷いんだ~! 私の銃の腕前を馬鹿にしてるでしょ~!!」
「ごめんごめん、冗談よ」

「でも、フェルネちゃんの二丁拳銃の特訓は疲れたよ、今度はエフィも入ってね」
「分かりました!」

やる気になったリヒトを前に、ラーナもやる気になったようで、鉄の棒を手に取った。

「じゃあ、その次は私と剣の特訓しましょ~」
「うん!」

「やれやれ、リヒトがどんな奴かと思ったら、女共と戯れているアホとはな」

そう言って現れたのは、謎の若い青年だった。黒い髪を首の根元辺りまで伸ばしたその青年は、切れ長の目をしており、服はブラウンのコートを着ていた。その青年の武器は伝説の金属であるミスリル製の剣であり、その剣を腰に携えていた。そして、その青年はミスリル製の剣を抜くと、その剣をリヒトに向けた。

「リヒト、貴様の様子はネオシュヴァルツゼーレが初めてこの街に侵攻した時から見させてもらっていた!」
「ネオシュヴァルツゼーレが初めて侵攻した時って…僕とミハルちゃんがゴブリンやカマキリを倒したあの時?」
「嘘!? あの人ストーカーじゃん!!」

ミハルのその言葉に、青年は困った様子で顔を掻いた。

「いや…ストーカーではなくただリヒトの様子を見ていただけだが…」
「いや、ミハルちゃんの言う通りだよ、お前はストーカーだ! それに、僕の様子を見て何を企んでいたんだ?」
「それをお前に教える事はできん、とりあえず、まずは俺の相手をしてもらう!!」

そう言って青年はリヒトに剣を振り下ろした。剣を振り下ろされる瞬間、リヒトは別空間からクリスタルセイバーを取り出し、刃を受け止めた。だが、その青年はリヒトの腹部に膝蹴りを浴びせ、怯んだ隙に足に風の魔力を集め、そのままリヒトを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたリヒトはそのまま吹き飛ばされ、壁に激突して地面に倒れ込んだ。青年はなおもリヒトを攻撃しようとした為、リヒトは痛む体に鞭打って立ち上がり、攻撃を受け止めた。

「ふむ…根性はあるようだな…」
「お前…! 何のつもりだ!?」
「さあな、自分で考えてみろ!!」

そう言って今度は足に炎の魔力を集め、リヒトを蹴り飛ばした。あまりに強く蹴り飛ばされたリヒトは口から血を吐いた。蹴り飛ばされ、地面に叩き付けられた際の衝撃で意識が朦朧とする。地面に倒れ込んだリヒトに接近する青年を前に、セインスピアードを装備したトルトゥーガが立ち塞がった。

「リヒト! 大丈夫!?」
「邪魔をするな、邪魔をしたらお前も殺す」
「勝手に殺せば? 私は自分の息子であるリヒトが何よりも大切なの! 自分の命よりもね!!」
「なら、お前から殺してやる」
「やめろ…母さんに…手を出すな…!!」

その時、リヒトの周りの時間が止まった。時間の止まった空間で動いていたのは、リヒトとクリスだけであった。クリスはリヒトのいる場所まで歩くと、リヒトのクリスタルセイバーに同化した。クリスが同化すると、クリスタルセイバーは眩く輝いた。

「クリスちゃん…これは一体…?」
「これは私が作り出したあなたのイメージの世界…ここにいる限り現実世界は1秒も時間が進まないし、ここでの出来事は現実世界に何も影響を与えない…でも、ここでなら今やったように私はあなたに力を与える事ができる…私はあなたに力を与えに来たの…」
「ありがとう…クリスちゃん…」
「リヒトくん! お母さんを助けてあげて!!」
「うん! 絶対に助けるよ! 君がくれた、この力で!!」

再び元の世界に戻って来たリヒトの持つクリスタルセイバーは、イメージの世界と同じ様に眩く輝いていた。その光に驚いた青年は、驚愕し、再び戦闘態勢を取った。先ほどは立てないぐらい痛めつけたリヒトが再び立ち上がり、剣は眩い光を放っていた。この状況に驚いた青年は、リヒトを再び戦闘不能にする為、剣を取った。

「一体何だその光は!!」
「これは…お前を止める為に仲間が僕にくれた光だぁぁぁッ!!!」

リヒトはクリスタルセイバーを振り、剣に集まった光エネルギーを真空波として放った。青年はその真空波をミスリル製の剣で受け止めたが、真空波が命中すると、真空波は大爆発を起こした。だが、青年は事前に魔導障壁を展開していった為、服がボロボロになっただけで軽傷であった。

「くっ…! リヒト・ザラーム…奴は危険だ…!!」
「危険…? 僕のストーカーをしたり、僕の母さんを殺そうとしたお前の方がよっぽど危険だ!!」
「ヴァンレル! ヴァンレル・スティンガー、それが俺の名だ、覚えとけ!」

そう言ってヴァンレルと名乗った青年は去って行った。ヴァンレルとの戦いの後、疲れ果てたリヒトは地面に膝を付いた。そのリヒトに手を差し伸べたのが、クリスであった。

「お疲れ様、リヒトくん」
「ありがとう、クリスちゃん」

その後、ニューエデンシティ外れの森に戻って来たヴァンレルは、ハイネ達に分かった事報告した。先ほどのリヒトとの戦いで、ヴァンレルはリヒトの弱点を把握した為、その弱点をハイネ達に教えていたのである。

「リヒトの弱点だがな、俺は分かったぜ」
「リヒトの弱点? それは何だ?」
「簡単な話さ、水色の髪の白いワンピースの女だ、その女が奴らに力を与えているのさ」
「なるほど、それが奴の弱点か…感謝する、で、今更だが、お前の名前は…?」
「フン…名乗るほどの名前なんて持ってないさ、じゃあな」

そう言ってヴァンレルは去って行った。ヴァンレルが去った後、ハイネはセブンイレイザーズにリヒト抹殺の命を下した。

「では、あの男の言った通り、リヒトの抹殺の前にその女を始末、または捕獲する、これが最重要任務だ」
「了解、このセブンイレイザーズ、命に代えても任務を達成します」

謎の青年ヴァンレルにリヒト達の弱点を調べてもらったセブンイレイザーズのメンバーは、夜間リヒトの家に襲撃を仕掛ける事にした。目的はリヒト達反乱分子の抹殺、そしてもう一つはこれからの戦いで邪魔になるクリスの抹殺である。この目的の為、セブンイレイザーズのメンバーは作戦を開始する事を決めた。そして日が沈み、人々が寝静まった夜、セブンイレイザーズのメンバーは集まった。

「いいな、我々は命に代えてもこの任務を成功させねばならない、分かっているな?」
「ええ、それは勿論、ネオシュヴァルツゼーレの為なら命さえ投げ出せ、だものね」
「できれば私は死にたくないですが…」
「死にたくないのは私も同じだ、だから、何としても奴らを抹殺して、皆で生きて帰って来るのだ、いいな?」

アルメリアの言葉に、他のメンバーは全員「了解」と返事をした。そして、セブンイレイザーズのメンバーは散開し、各方面からリヒトの家に向かった。ネオシュヴァルツゼーレの為、自分達の命の為、必ずこの作戦を成功させねばならないのである。

その内の一人であるカーライル・ギルドフォードは、森の中を侵攻していた。棍使いであるカーライルは、深緑の髪が特徴で、キリッとした紫の瞳の右側が髪で隠れている。愛用する棍の名前はアビスクラッシュと言う名前で、破壊力が高いのが特徴である。

カーライルが森の中を侵攻していると、一人の少女が目の前に現れた。その少女は10代後半ぐらいの見た目であり、深紅の長い髪をツインテールにしていた。右手には青い鉱石で作られた剣を持っており、自分に敵対してくることは明白であった。

「そこのお前、俺に何の用だ?」
「あたしの名前はお前じゃないわ、ルージュ、ルージュ・ラフレーズよ、覚えときなさい!」
「何故お前の名前など覚えなければいけない、それより、何の用だと聞いている」
「何の用…ねぇ…あんた、今から人を殺す気でしょ? あたしさ、勘で分かるのよね…」
「だからどうした、そこをどけ、俺には殺さないといけない相手がいる、お前に構っている暇はない」
「まあ、別にあんたが誰を殺そうが勝手だけどさ、ここであんたを逃がしたら、多くの人が死ぬ気がするって訳よ」
「どうしても…通してはくれないんだな?」
「そうね…ここは何かの漫画らしく、あたしを殺してから行きなよ、そうすれば行かせてあげるわ」
「フン、後悔するなよ?」
「勘違いしないでよね、あたしは強いんだから!」

ルージュが言い終わる前に、カーライルはアビスクラッシュでルージュに殴りかかった。しかし、ルージュは風魔法を転用した高速移動でカーライルの攻撃を回避した。続けて一発、二発と攻撃を仕掛けるが、カーライルの攻撃は全て回避された。

「あんたの実力、こんなもんなの? ダッサ」
「黙れ!!」

カーライルはアビスクラッシュを地面に叩き付けた。すると、地面から尖った石柱が広範囲に生え渡った。だが、ルージュは風魔法を転用して高く跳びあがり、石柱の先端に着地した。

「ふぅ…今のは危なかったわね…」
「くっ! まだだ!!」

続けてカーライルはその石柱を念力でバラバラに砕き、その破片をルージュに放った。だが、ルージュは風魔法のフィールドを自身の周囲に展開し、自分の身を守った。石柱の破片はルージュの周りの風のフィールドに巻き上げられ、全て地面に落ちた。あまりに味気のない攻撃をしてくる為、ルージュは風のフィールドの中であくびをしていた。

「ふわぁぁ…もう終わりかしら?」
「この…! 女がぁ…!!」

カーライルは掌にごつごつした石を生成し、ルージュに向けて飛ばした。この魔法はロックシュート、カーライルの一番の得意魔法であり、連射する事も出来る。カーライルは連続してルージュに石を飛ばしたものの、ルージュは全て軽々とした動きで回避した。自身の攻撃がことごとく通用しない為、カーライルは驚愕するしかなかった。

「もう飽きたからさ、今度はこっちから行っていい?」
「その前に一つ聞かせてくれ…お前は一体何者なんだ…?」
「そうね…あたしは17年前に世界を救ったナハトって人の仲間であるココさんと少し関係があるの、何だと思う?」
「…師弟関係か?」
「まあ、そんな感じね、ココさんは盗賊に襲われて殺されかけてたあたしを助けてくれたの、それからしばらくの間そこで暮らして、戦う方法を学んだの、でも、この戦い方はほとんどあたしの独学ね」
「そんな馬鹿な…! 独学でそこまで強くなれる訳が…!!」
「ま、死に物狂いで特訓したってワケ、あんたみたいな奴に負けないようにする為にね!!」

ルージュは剣に風の魔力を纏った。そして、カーライルの方に足を走らせた。

「行くわよ! 旋風刃!!」

ルージュはコマの様に高速回転しながら剣を振った。この高速回転のポイントは体に風の魔力を竜巻の様に纏う事で為せる業である。ここまで無茶苦茶な事はこの世界に住む人間の大半が行わない事であり、こんな離れ業ができるルージュは相当特訓したのであろう。ちなみに、訓練を積んだルージュは高速回転しても目が回らない為、この技を連続して放つ事も可能である。

カーライルはルージュの旋風刃をアビスクラッシュで防御した。アビスクラッシュはミスリル製、ルージュの剣はブルーメタル製であり、強度はほぼ同じである。だが、そのほぼ同じ強度であるはずのアビスクラッシュは、ルージュの旋風刃を食らって少しずつひびが入っていき、最終的に折れてしまった。

「な…! 馬鹿な…! ミスリル製のアビスクラッシュが…!!」
「それ、ミスリル製だったの、通りで中々壊れなかったわけだわ」
「貴様…! どんな方法でミスリル製のアビスクラッシュを…!!」
「簡単よ、私お得意の風の魔力で刀身を保護すると同時に、切れ味も高めたワケ、それに私の旋風刃も加わった事でパッキリ行っちゃったワケね」
「く…! こいつには勝てない…! うわあああっ!!」
「おっと、逃がすワケないじゃん」

ルージュは逃げようとするカーライルの首を後ろから刎ねた。頭を失ったカーライルは地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった。

「ふぅ…嫌な気配がしてここまで来たけど、どうやらこいつじゃなかったみたいね…じゃあ、一体誰なんだろう…」

一方その頃、リヒトの家ではクリスがセブンイレイザーズの気配を察知し、飛び起きていた。そして、リヒトを叩き起こすと、その事をリヒトに話した。

「何だって!? セブンイレイザーズが来る!?」
「そう! そうなの! さっきまで6人だったんだけど、今は5人に減ってるわ」
「でも、どっちにしろ危険だよね…」
「うん! だから、急いで戦闘準備して!!」
「分かった! じゃあ、僕はみんなを起こしてくる!!」
「急いで! セブンイレイザーズはもうすぐここに来るわ!!」

リヒトは急いで仲間を起こすと、セブンイレイザーズが来ると言う説明をした。その説明を聞いた仲間達は慌てて着替え、武器を装備した。そして、家の外に各自散開し、クリスは家の中で待機していた。

「セブンイレイザーズ…来るなら来い! 僕達が相手だ!!」

セブンイレイザーズのメンバーの中で一番最初にリヒトの家に着いたのは斧使いのディクソン・テムニコフだった。ディクソンはオレンジ色の髪をした少年で、前髪で目が隠れていると言う髪型が特徴である。マイペースな性格だが、その内に秘めた感情は残忍で、人殺しをメンバーの誰よりも楽しんでいる。武器はカースマーダーで、これの破壊力はセブンイレイザーズメンバーの専用武器の中で一番である。

そんなディクソンと対峙したのは、ルーンブレードの使い手の少女、ラーナであった。ラーナはディクソンと対峙した時、彼の秘めた残忍さに気付き、少し身震いした。だが、ラーナは大切な仲間を守る為、彼と戦うことを決意したのである。

「僕の邪魔をするのは君だね? 見た感じか弱い女の子みたいだし、僕のカースマーダーでバラバラにしてあげよっと」
「恐ろしい人ですねぇ…でも、私は仲間を守る為なら、あなたと戦えますぅ!!」
「そっか~、でも僕は君に負ける訳にはいかないんだよね、ネオシュヴァルツゼーレの目的達成の為、君を殺さなきゃなんないんだ」
「ネオシュヴァルツゼーレの目的? それの為なら人を殺してもいいんですかぁ?」
「僕はいいと思ってるよ~、だって、この世界には無能な人間が多いんだ、そんな人間は全部殺しちゃって、有能な人間だけ残せばいい、後は要らないよ」
「そんなの…間違ってますぅ! どんな人でも、命は平等ですぅ! 要らない人なんて存在しません!!」
「何? 小動物の雌の分際で僕に口答えするの? やっぱり君はここで殺さないと駄目みたいだね…!!」

すると、ディクソンはカースマーダーを地面に叩き付け、衝撃波を発生させた。その衝撃波は地面のコンクリートを破壊しつつ直進したが、ラーナは回避してルーンブレードに魔力の刃を生成した。ラーナはルーンブレードでディクソンを斬りつけようとしたが、ディクソンは雷の魔力をカースマーダーに纏い、雷球を発生させ、カースマーダーをラーナに向けて振り、雷球を飛ばした。雷球はラーナ目掛けて一直線に飛んでいた為、ラーナは雷球をルーンブレードで両断しようとした。しかし、ルーンブレードの刃が雷球に当たった瞬間、雷球は激しくスパークし、ラーナはダメージを受けた。

「その雷球は僕の得意技のスパークボール、何かにぶつかると激しくスパークして相手にダメージを与える強力な技さ!」
「そんな技があるなんてぇ…ちょっと油断してましたぁ…」
「さて…このスパークボールだけど、実は連続で放てるんだよね~」

そう言ってディクソンはカースマーダーに雷の魔力を纏い、スパークボールを複数発生させた。そして、再びカースマーダーをラーナに向けて振り、複数のスパークボールを飛ばした。スパークボールは地面やラーナの体にぶつかり、激しくスパークし、ラーナにダメージを与えた。一斉にスパークしたスパークボールはまるで、電撃で作られた網のようにも見え、文字通り、ラーナは電撃の網に囚われていた。

ディクソンのスパークボールの攻撃によってラーナはかなりのダメージを受けた。だが、ルーンブレードの刃はまだ生成したまま、まだ戦う事はできた。ラーナは痛む体に鞭打って立ち上がり、どうすれば勝てるかを本気で考えた。

ディクソンのカースマーダーの破壊力は高く、近づこうにもスパークボールで範囲攻撃を行って来る。ならば、一瞬で相手に近づき、接近戦を行うしかない。そうこう考えていると、ディクソンが再びスパークボールを放ってきた為、ラーナはルーンブレードを振って竜巻を発生させた。その竜巻はスパークボールを巻き込み、一か所に集まったスパークボールは大きなスパークボールとなり、大きくスパークした。

ラーナはその隙にディクソンに急接近し、攻撃を仕掛けようとした。しかし、ディクソンはカースマーダーを地面に叩き付け、衝撃波を発生させた。その衝撃波でラーナは吹き飛ばされ、壁に背中を強く打ち付けた。背中を強く打ち付けた事で、意識が朦朧とし、気を失いそうになったラーナ。そのラーナにトドメを刺す為、ディクソンがカースマーダーを振り上げているのが何となく見えた。だが、ラーナは意識が朦朧としていた為、立ち上がる事すら困難であった。とうとう自分も死ぬ時が来たのか…そう思ったその時、1人の人物の声が聞こえた。

「私はこんな所で諦めるように教えたつもりはないわよ!!」

その言葉で我に返ったラーナは、素早く立ち上がり、ルーンブレードを振って真空波を放った。ディクソン目掛けて放った真空波はディクソンの左腕に命中し、攻撃を中断させた。

「くっ! まさか、まだ立ち上がれる気力があったなんて…!!」
「勿論! だって、ラーナは私の自慢の娘だもの!!」

そう言って現れたのは、かつてナハトと共にシュヴァルツゼーレと戦った仲間、エスカ・レニーだった。エスカはラーナの母親であり、年齢は37歳になっていたが、顔も服装も17年前とあまり変わっておらず、若々しい見た目であった。せいぜい変わった点と言えば髪が伸びている程度であり、17年前はショートカットだったが、今は背中まで髪を伸ばしている。

「お母さん!!」
「久しぶりね、ラーナ、無事にニューエデンシティに到着できたみたいね、偉いぞ~」
「でも、何でお母さんがここにいるの?」
「いや、そろそろラーナもここに到着したかなと思って様子を見に来たのよ、そうしたら、トルトゥーガの家の所で激しい戦闘音が聞こえたから来てみれば、何よこの騒ぎは」
「お母さん、実はネオシュヴァルツゼーレって連中が私の仲間やこの街を襲っているの、だから、一緒に戦って!!」
「分かったわ、可愛い娘の為だもの、任せて!」
「お母さん…ありがとう…」

「くっ! お前がエスカ・レニー、17年前にナハトと共に戦ったと言う女か!!」
「ええ、そうよ、最近はあんた達ネオシュヴァルツゼーレのせいで私達が掴み取った平和も壊されてるけどね」
「これも僕達の目的の為さ! それに、いくらナハトと共に戦ったといえど、今はただの年増女、僕の敵じゃないね!!」
「あ? 今何つったこのガキ? 確かに私はもうすぐ40代だけど、まだ37歳! ギリ30代だかんな!?」
「37歳ならもう年増女じゃん、きっと17年前より腕前も落ちてるね!!」
「このクソガキ…!! 私の腕が落ちてるかどうか、すぐに分からせてあげるわ!!」

「お母さん…落ち着いて…」
「大丈夫、落ち着いてるわよ、それよりラーナ、ルーンエッジの準備をしておきなさい」
「ルーンエッジだね、分かった」
「で、私が合図したらあいつに向けて振るのよ、いいわね?」
「うん!!」

ラーナにそう告げると、エスカは体に風の魔力を纏い、高速移動した。この技はエスカが新たに生み出した技の一つ、ソニックムーブである。ソニックムーブは目にも止まらぬ速さで高速移動する技であり、その速度は200㎞に及ぶ。エスカは高速移動中に自身の愛剣であるマジックソードに風の魔力を纏い、ディクソンのカースマーダーを切断、更に、ディクソンの背後に回り込んだ。そして、エスカはディクソンの背中目掛けて零距離で風魔法のサイクロンを放ち、上空に吹き飛ばした。

「今よ! ラーナ!!」

エスカの合図でラーナはルーンブレードを伸ばし、ルーンエッジの準備を整えた。そして、ルーンブレードの刀身でディクソンを叩き斬った。

「そん…な…僕…が…あんな…奴ら…に…」

一瞬の内に敗北した事にディクソンは驚きを隠せないまま、ディクソンは地面に墜落した。そして、上半身と下半身が分離した状態でディクソンは息絶えた。親子の連携攻撃に、ディクソンは敗北したのである。何とか勝利を収めたものの、体はボロボロ、ルーンブレードを使いすぎて体力を使い果たしたラーナは、大の字になって地面に倒れ込んだ。

「何とか勝ったけど…お腹すいたぁ…疲れたぁ…」
「お疲れ、ラーナ」
「ありがとうお母さん…お母さんが居なかったら、私死んじゃってたよぉ…」
「ふっふっふ…お母さんの事をもっと頼ってもいいのよ?」
「うん! これからはもっとお母さんの事を頼るね!」
「ラーナは偉いぞ~、そんなラーナには、ジャムパンをあげるね~」

そう言ってエスカはコートのポケットに手を突っ込んだが、ジャムパンがない事に気付いた。その代わり、ポケットの中にあったのはジャムパンの袋だった。

「あ、ごめ~ん、ジャムパンは私がここに来る際にお腹空いて食べちゃったんだった…」
「もう! お母さんの馬鹿ーーーっ!!!」

エスカとラーナ、この2人は親子である。親子である2人は強い絆で結ばれており、その絆は何よりも強いのだ。これから先、どんな強敵が現れても、きっと2人は乗り越えてゆくだろう。親子の絆は2人のみの特別な絆だからだ。

一方その頃、リヒトの家の周辺にセブンイレイザーズのメンバーが3人到着した。短剣使いのクレイユ、チャクラム使いのリエージュ、そして鎌使いのファーノだ。クレイユとリエージュは以前リヒト達と戦った事があったが、ファーノは初めてである。ファーノは海の様に透き通った大きな瞳が特徴で、赤紫の髪をツインテールにしている。勝気な性格の彼女だが、根は優しい性格であり、仲間から好かれている。武器は身の丈程もある大鎌、デスカッティングであり、ファーノの黒い服装も相まってその様は死神のようにも見えた。

そんなファーノを始めとするセブンイレイザーズの面々は、リヒトの家の前に待機していた人物達と対峙した。そのメンバーはミハル、フェルネ、エフィ、シレーヌの4人であった。4人は待っていたと言わんばかりにファーノ達を見つめており、まさに一触即発の状態であった。そして、ファーノとミハルの2人は対峙し、言葉を交わした。

「あ~らら~、やっぱ待機されちゃってたか~」
「そりゃ待機ぐらいするわよ、リヒトくんやクリスちゃんが危ないんだから」
「ねえねえ、大人しくどいてくれたら危害は加えないよ?」
「どけないわ! 私達の後ろには、大切な仲間がいるんだもん!!」
「チッ、やっぱ戦うしかないか~、じゃ、覚悟してね?」
「来るっ! みんな! 戦闘準備を!!」

ミハルが剣を取ると同時に、ファーノはデスカッティングを振り、ミハル目掛けて赤黒い真空波を放った。この真空波はデスリッパーと言い、ファーノの主力攻撃である。ミハルはそのデスリッパーを切り払ったが、次から次へと放たれるデスリッパーに対し苦戦していた。耐えかねたミハルはサイクロンの呪文を詠唱しながらデスリッパーを相手し、詠唱終了と同時に竜巻を放った。その竜巻はデスリッパーを全て吹き飛ばしたが、ファーノには避けられた。

すると、ファーノはデスカッティングを構えた状態で闇に姿を同化させ、姿を消した。これはファーノの能力の一つであり、シャドーステルスと言う。文字通り闇に姿を同化させる事が出来るが、周りが暗くないと使えない上、短時間しか使う事はできない。ファーノが姿を消した事でミハルは動揺したが、ミハルは目をつぶり、周りの状況を感じ取った。

母親に何度も言われた事、それは見るのではなく、感じる事。すると、ミハルは後方から殺気が伝わってくるのを感じていた。そこにファーノがいると確信したミハルは、そこを剣で貫いた。剣先に刺さっていたものはファーノの左肩、そこを貫かれたファーノはあまりの激痛に地面に蹲った。

「痛い…! 痛いよぉ…!!」
「…退いてください、命まで奪いたくはありません」
「…この借りは必ず返すわ、覚えときなさいよ!!」

そう言ってファーノはその場から去って行った。どうせまた来る事は分かり切っていた、だが、やはり自分には命を奪う事はできない。命を奪わないでも解決できる方法があると、どこかで感じていたからである。

一方のフェルネ、エフィ、シレーヌの3人は、クレイユとリエージュの2人と戦っていた。フェルネ達3人の銃での攻撃を、クレイユとリエージュはデモンファングとカオスサークルで迎撃する。それに対し、クレイユとリエージュはそれぞれの得意技を放って攻撃を仕掛けてきた。まず、クレイユは7本の魔力のデモンファングを生成し、投げナイフの様に飛ばして攻撃した。この技の名称はエーテルダガーと言い、威力はそこそこだが、切れ味がとても高く、鉄を斬り裂く事も出来る。クレイユがここまで生き残ってこれたのはこの技のおかげと言っても過言ではない。一方のリエージュは風の魔力を纏ったカオスサークルを飛ばす技、サイクロンチャクラムを放った。この技は風の魔力で回転力と切れ味を増したカオスサークルを飛ばす技であり、鉄の塊をあっさりと切断する事が可能である。戦闘が得意ではないリエージュにとって、一番の攻撃力を備えた技である。その攻撃に対し、フェルネとエフィはエーテルダガーを銃弾で迎撃し、サイクロンチャクラムは間一髪で回避した。何とか凌いだフェルネ達であったが、クレイユ達は第二波を放つ準備をしていた。このままではこっちが不利と睨んだシレーヌは、フェルネにある物を渡した。

「フェルネ、これを使ってみなさい」
「これ…何? 普通の銃弾じゃないみたいだけど…」
「その2つの銃弾は私お手製の特殊弾頭よ、まあ、試しに撃ってみる撃ってみる」
「…変な物じゃない事を祈ってるわ」

そう言ってフェルネはしぶしぶ2つの特殊弾頭を拳銃に込めた。そして、フェルネはその2つの銃弾を発砲、銃弾はクレイユ目掛けて一直線に飛んで行った。クレイユはその攻撃に対し、エーテルダガーを盾の代わりにして防ごうとした。だが、エーテルダガーで攻撃を防いだ瞬間、その銃弾はクレイユの近くで大爆発を起こした。その爆風によってクレイユは両手を負傷、戦闘継続が不可能となった。

「ぐあぁぁぁっ!! な…何をした!?」
「これは私お手製の爆裂弾、早い話が銃弾を超小型爆弾にしたシロモノね」
「こんなものを…個人で開発したのか…?」
「そうよ、17年前はニードルガンの銃弾を自作していたんだもの、このぐらい楽勝よ」
「何て奴だ…!!」
「よくもクレイユを…! 許さない…!!」

そう言ってリエージュは再びサイクロンチャクラムを放った。だが、その攻撃をミハルがブルーセイバーで切り払った。その間に、シレーヌはエフィにも特殊弾頭を渡した。

「エフィ、私はあんたの腕前を信じるわ、この銃弾をあいつに当ててみて」
「これ、ですか…?」
「そうよ、これが当たればあいつに大きなダメージを与えれるはず!」
「分かりました! 任せてください!!」

そう言ってエフィは特殊弾頭を拳銃に込め、リエージュ目掛けて発砲した。それと同時にリエージュは再びサイクロンチャクラムを放ったが、エフィの撃った特殊弾頭が命中した事で角度が変わって地面に墜落。一方のエフィが放った特殊弾頭はサイクロンチャクラムの跳弾によってリエージュの右肩に命中、貫通した。右肩を貫かれたリエージュは、あまりの激痛に地面に蹲った。

「うっ…! あぁっ…!! あぁぁっ…!!」
「凄い貫通力…シレーヌさん、あの銃弾は…?」
「貫通弾! 文字通り、貫通力を上げた弾丸よ、それよりエフィ、さっきの攻撃…」
「はい! 跳弾を利用する事でチャクラムを迎撃すると同時に相手に命中させたんです!」
「何て離れ業…私も負けてられないわね…」

すると、クレイユは墜落したカオスサークルを拾い、リエージュを背中に背負ってその場を立ち去ろうとした。だが、ミハル達はあえて攻撃を仕掛けなかった。いくら悪人といえど、弱っている相手を攻撃する気にはなれなかったのである。

「…何故、攻撃しない?」
「今の状況で攻撃したら、私達が悪人みたいじゃない」
「甘いな…その甘さ、いつか後悔させてやる…」

ミハルの言葉に、クレイユはそう返し、クレイユとリエージュはその場から立ち去って行った。無事にセブンイレイザーズのメンバーを撤退させたミハル達であったが、まだセブンイレイザーズのメンバーはもう1人残っていた。そう、セブンイレイザーズのリーダーであるアルメリアの存在である。アルメリアは他のメンバーを囮に、既にリヒトの家の中に侵入していたのである。リヒトは突然家の中に入って来たアルメリアに対し、クリスタルセイバーを向けた。

「君…あの時の…!」
「覚えてくれていて嬉しいよ、リヒト・ザラーム、英雄の息子よ」

アルメリアはリヒト、トルトゥーガ、クリスと対峙し、一触即発の状況になっていた。アルメリアはヘルブラッドを、リヒトもクリスタルセイバーを構え、お互いが様子を伺っていた。

「私はネオシュヴァルツゼーレの目的の為、お前達をここで殺す」
「僕は、できれば人間である君とは戦いたくない…」
「甘いな、敵を前にして敵の心配とは…」
「僕は殺したくないんだ、例え悪人でも、みんなこの世界に生まれた命なんだから…」
「そうか、ならば、お前が死ね!!」

そう言ってアルメリアは剣に雷を纏い、その雷を真空波として放った。アルメリアの得意技の一つ、サンダーリッパーである。その攻撃に対し、リヒトは魔力のバリア、魔導障壁を展開し、身を守った。だが、アルメリアは続けて電撃を放って攻撃する雷魔法、ライトニングを唱え、攻撃した。リヒトはそれも魔導障壁で防御し、無力化した。アルメリアの攻撃魔法に対し、リヒトはただ防御を続けるだけで戦おうとしない。その様子を後ろから見ていたトルトゥーガは耐えかねてセインスピアードを召喚し、リヒトの前に立った。

「お母さん!!」
「リヒト、後は私に任せて下がってなさい、あなたはやはり人間と戦わない方がいいわ」
「でも…!!」
「大丈夫! これでも私は17年前の激戦を生き抜いたんだから!!」

そう言ってトルトゥーガは背中に翼を生やし、セインスピアードを構えて高速で飛行しながらアルメリア目掛けて突進した。アルメリアは防御したが、そのまま家の外まで吹き飛ばされ、芝生の生えた地面に着地した。そのアルメリアに対し、トルトゥーガはセインスピアードから放つ竜巻、ハリケーンスピアードで攻撃を仕掛けた。竜巻は地面をえぐりながらアルメリアを襲ったが、アルメリアは攻撃を回避、当たる事はなかった。アルメリアは反撃にと炎魔法のヘルフレイムを唱えた。ヘルフレイムは地獄の業火で相手を焼き尽くす上級炎魔法である。とても難度の高い魔法ではあるが、幼い頃から過酷な訓練を積んでいたセブンイレイザーズのリーダーであるアルメリアは難なく唱えることが出来た。トルトゥーガはヘルフレイムを魔導障壁で防御したが、ヘルフレイムの威力は高く、大きく吹き飛ばされてしまった。だが、吹っ飛ばされる際にカウンターとしてハリケーンスピアードを放って攻撃を仕掛けていた。その竜巻はアルメリアを巻き込んで吹き飛ばし、壁に体を強く打ち付けた。

「どうよ!!」
「くっ…! 中々やるな…! だが、セブンイレイザーズのリーダーであるこの私の実力はこんなものではないぞ…!!」

アルメリアは目をつぶり、意識を集中させた。すると、トルトゥーガの周りにアルメリアの分身が10体ほど現れた。直後、アルメリアの本体は高速移動し、分身もトランプのシャッフルの如く高速移動する事でどれが本体か分からなくなった。本体がどれか分からず、混乱するトルトゥーガは、ヤケになって自身の周りに竜巻を発生させ、分身をかき消した。当然、この攻撃でアルメリアの本体も吹き飛ばされたとは思ったが、一応と思ってトルトゥーガは辺りを見渡した。

「本体は…どこにもいないわね…吹っ飛んだのかしら?」
「残念だったな、先ほどの攻撃に私は含まれていなかったのだ」
「どこ…!? どこに…!!」

直後、アルメリアはヘルブラッドで背後からトルトゥーガの腹部を突き刺した。トルトゥーガは何が起こったのか分からないまま地面に倒れ込み、意識を失った。腹部を突き刺されたトルトゥーガは、傷口から血を流していた。

「母さん!!」

この時、リヒトは取り返しのつかない事をしてしまったと感じた。あの時、身を守ってばかりでなく、自分が戦っていれば、母親を自分の代わりに戦わせなければ。自分が戦わなかったから、相手と本気で戦おうとしなかったから。人間と戦えないと言う優しさが、自分の母親を敵に傷つけさせることになってしまった。リヒトは怒った、優しすぎる自分に、そして、大切な存在を傷つけたアルメリアに…。

「…さない…!!」
「ん? 今、何と言った?」
「許さない…!! 母さんを傷つけたお前を絶対に!!」

その時、リヒトは怒りのあまり我を忘れていた。リヒトの周りには青白い稲妻の様なオーラが発生しており、装備したクリスタルセイバーは青白く輝いていた。その異常な状況に、アルメリアも、後ろでリヒトを見守っていたクリスも驚くしかなかった。

「な…何だあいつは…!?」
「あのオーラ…まさかリヒトくんに宿る光精霊の血が覚醒したもの…!?」

リヒトはアルメリア向けてクリスタルセイバーを振った。すると、青白い巨大な真空波、クリスタルリッパーが放たれた。アルメリアはヘルブラッドで防御したものの、クリスタルリッパーが命中した瞬間、大爆発が発生し、ミスリル製のヘルブラッドが砕け散った。クリスタルリッパーの計り知れない威力に、アルメリアは驚愕するしかなかった。

「な…! ミスリル製のヘルブラッドが…!!」

流石のセブンイレイザーズでも、武器を失っては戦えない。それに、今の状況でリヒトを抹殺するのは不可能に近い。アルメリアは仕方なく撤退すると言う手段を取った。

「リヒト・ザラーム! 今回は撤退する、だが、次は必ず貴様を殺す! 覚えておけ!!」

そう言ってアルメリアはリヒトの家から去って行った。アルメリアが去った事を確認すると、リヒトの周辺に発生していた青白い稲妻のオーラは消えていた。

「おわっ…た…」

そう言い残し、リヒトは意識を失った。意識を失う直前に見えたものは、倒れたトルトゥーガの周りに集まった仲間達の姿であった。その後、リヒトの目の前は真っ暗になり、意識が途絶えた。

リヒトの家から撤退したアルメリアは、同じく撤退していたクレイユ、リエージュ、ファーノと合流していた。4人全員が体にかなりのダメージを負っており、4人は拠点であるニューエデンシティの外れの森に戻った。

「生き残ったのは私達だけか…」
「他はみんな死んでしまったわ」
「レスター…カーライル…ディクソン…」
「あーもう! ムカつく!! 何でネオシュヴァルツゼーレの精鋭である私達がこんな目に合わないといけないのよ!!」

アルメリア、クレイユ、リエージュ、ファーノの4人がそんな話をしていると、ハイネがアルメリア達の前に現れた。

アルメリア、ちょっといいか?」
「何だ?」
「実はな、戦死したレスターの妹がここに向かっているらしいんだ」
「ああ、ティラナか…奴はまだ若いが、優秀な奴だ、必ず頼りになるはずだ」
「そうか、とりあえず、今はゆっくり傷を休めておけ」
「ああ、しばらく休ませてもらう事にする」

無事セブンイレイザーズのアルメリアを撃退したリヒト。だが、自分が戦わなかったせいでトルトゥーガは重傷を負ってしまった。すぐにニューエデンシティの病院に救急搬送されたトルトゥーガは、何とか一命を取り留め、今はすやすやと眠っている。母親の無事を確認し、安堵するリヒトだったが、それと同時に自分が戦わなかった事で母親に重傷を負わせたことを深く後悔していた。

「僕のせいだ…僕が戦わなかったばっかりに母さんをこんな目に合わせてしまったんだ…」
「違うよ、リヒトくん、悪いのはあのセブンイレイザーズって人達だよ、リヒトくんは悪くないって」
「そうですよ、だから、あまり自分を責めないで…」
「ミハルちゃん、エフィちゃん、ありがとう…でも、僕が戦わなかったのが一番悪いんだ」
「う~ん、ナハトとは違ってかなり自分を責めるタイプなのね…」
「お母さぁん、リヒトさんを虐めないでくださぁい…」

そんな話をしていると、トルトゥーガの病室に一人の少女が入って来た、ルージュである。ルージュはリヒト達とは初対面であり、当然そんな人物が入って来たら誰もが警戒するはずである。だが、ルージュはそんな事はお構いなしにリヒトに近づいた。

「君…誰…?」
「あたしはルージュ、ルージュ・ラフレーズ」
「僕達、初対面…だよね…?」
「まあね、でも私はあんたの父親であるナハトと共に戦ったココ・ルーって人とちょっとだけ関わった事があるの」
「ココの奴、情報屋の私でもどこにいるか知らなかったけど、一応生きてたんだ、で、あいつは今どこにいるの?」
「それは秘密ってココさんに言われてるわ、それよりあんた、あたしと特訓してみない?」
「特訓…?」
「そうよ、それも命懸けの特訓、どう?」
「…やるよ」
「OK! じゃ、あたしに付いてきて」

ルージュはリヒトの腕を引き、半ば強引にリヒトを連れて行った。当然、リヒトが命懸けの特訓をするとの事で周りは反対しようとしたが、ルージュのあまりの強引さには誰も声が出なかった。そして、ルージュはリヒトをニューエデン私立学園の運動場へと連れてきた。学園は現在休校中であり、誰もいない為、ルージュは特訓の場としてここを選んだのである。運動場に到着すると、ルージュは剣を取り、リヒトも剣を取った。

「さあ、準備はいいわね? 言っとくけど、あたしは本気で行くわよ?」
「うん! 分かったよ!」

リヒトが武器を構えた事を確認すると、ルージュは旋風刃を放った。コマの様に高速回転して放つこの回転斬りを、リヒトはクリスタルセイバーで受け止めたが、高速回転による振動で腕が少し痺れた。だが、ルージュは間髪入れずに再び旋風刃を放ってきた。リヒトは再びクリスタルセイバーで受け止めようとしたが、今度は受け止めきれずに吹っ飛ばされた。

「ほらほら! どうしたの? 強くなりたいんじゃないの?」
「強くなりたいよ…でも、怖いんだ、僕は人を傷つけるのが…」
「人を傷つけるのが怖い…?」

ルージュはリヒトの方に向けて歩いてきた。すると、ルージュは突然リヒトの腹を蹴り飛ばし、リヒトに剣を向けた。

「甘ったれるんじゃないわよ! 人を傷つけるのが怖いと思うのは勝手だけどね、あんたが戦ってるのは敵よ? 敵なのよ!?」
「分かってる…でも…!」
「でもじゃないわよ! その敵があんたを、あんたの大切な人を殺そうとして、あんたは黙って見てるだけなの!?」

ルージュはリヒトに対し、剣で斬りかかった。2度、3度と振られる剣を、リヒトは全てクリスタルセイバーで受け止めた。だが、ルージュは剣を打ち付けた際にクリスタルセイバーの向きを逸らしており、その隙を見てルージュはリヒトを蹴り飛ばした。

「あんたは一度でも本気で戦おうって思った事があるの? あんたがそんなんだからあんたの母親も傷ついたのよ!?」
「…分かってる…分かってるさそんな事! 僕だって人間の相手と戦わなきゃいけないって…! でも、いざ対峙してみると怖くて…相手にも家族がいて、その家族から恨まれるんじゃないかと思うと怖くて…」
「そんな事、当たり前でしょ、あたし達は生きるか死ぬかの命懸けの戦いをしてるんだから」
「でも、何かあるはずなんだ! 相手を殺さずに戦いを終わらせる方法が!!」
「なら、やってみなさいよ! 今、ここで!!」

ルージュは剣に風の魔力を集め、剣を振る事で強力な真空波として放った。この技はルージュの得意技の一つ、旋風波である。リヒトはエクスプロージョンの魔法を唱え、旋風波を迎撃したが、ルージュは追い打ちにと再び旋風波を放ってきた。この攻撃に対しては流石に対応できず、クリスタルセイバーで防御するも大きく吹き飛ばされ、壁に体を打ち付けた。

「…これが最後のチャンスよ、相手を殺さずに戦いを終わらせる方法、やってみなさい、できなければあたしはあんたを殺す」
「ぐっ…!」

その時、リヒトは薄々感じてはいた。相手を殺さずに戦いを終わらせる方法、そんなものはない、存在しない。そんなものがあれば、この世から争いという存在は消え、人類は平和を謳歌していたはずである。だが、この世に争いがある以上、相手を殺さずに戦いを終わらせる方法などという夢物語みたいなものは存在しないと言う事が明白であった。なのに、自分はそんな夢物語みたいなものを望んでいた。誰も殺したくない、誰かが傷つくところを見たくないからである。そして、その時リヒトは強く願った、相手を殺さずに戦いを終わらせる力を自分に与えて欲しいと。その時、クリスタルセイバーが眩く輝いた、まるでリヒトに呼応するかのように。

「何…!? 何なのあの光は…!?」
「クリスタルセイバー…君は僕の想いに応えてくれてるのか…? ありがとう…やってみるよ!!」

リヒトは立ち上がると、クリスタルセイバーに光を集めた。直後、剣を振り、その光を光球としてルージュ目掛けて飛ばした。すると、その光球はルージュの持つ剣に命中し、直後、その剣は消滅した。

「あたしの剣が…!」
「この技は相手の武器を奪う技なのか…?」
「…ねえ、あたしって何であんたを攻撃してたんだっけ?」
「え!? 忘れたの? 特訓って言ったじゃん」
「あ、言われてみればそうだったわね、忘れてたわ」

(なるほど、この技は相手の武器を奪うと同時に相手の争いの元となった記憶を奪う技なのか…)

「ねえ、ところであたしの剣知らない?」
「剣? そう言えば、僕の別空間に何か入ってるっぽいな…」

そう言ってリヒトが自身の別空間を確認し、コネクトの魔法で取り出すと、ルージュの剣が現れ、リヒトはその剣をルージュに返した。

「ありがと」
「お礼を言うのは僕の方だよ、ルージュのおかげで僕は新しい技を覚えれたんだ」
「フン! 勘違いしないでよね、あたしはあんたの為に特訓に付き合ったわけじゃないわ、ココさんに言われたの」
「ココさんに?」
「そう、トルトゥーガはどうせロクな特訓積ませてないだろうから少し特訓に付き合ってやれってね」
「そうだったんだ…ココさん、会った事ないけど、もし会えたらお礼言っとこう」

ルージュとの命懸けの特訓の末、新たな技を編み出したリヒト。リヒトとルージュはトルトゥーガの病室に戻ろうと帰路についていた。帰りの2人は特に話す事もなく、ただ無言であった。地味に気まずいその雰囲気を前に、リヒトは何か話す事はないかと考えていた。その時、リヒトいる場所の近くに落雷を発生させる雷魔法のドンナーが落ちてきた。幸い、その攻撃は外れたが、リヒトとルージュはすぐに戦闘態勢を取った。

「どこからの攻撃だ!?」
「それはあたし達の仕業って事ね!」
「あんたら、誰よ?」
「私はネオシュヴァルツゼーレのウィシア・フーガ、母は旧シュヴァルツゼーレの偵察兵ラフ・フーガ」
「で、あたしはローズマリー・クランドゥイユ、よろ~」

ウィシアという少女は黄緑色の長い髪に、空色の透き通った瞳が特徴であった。可愛らしい顔付きではあったが、両手にナイフを装備しており、彼女も戦闘慣れしている事が伺えた。ちなみに、彼女の母親であるラフと言う人物はかつてナハトとの戦いで命を落としている。一方のローズマリーという少女はピンク髪ツインテールの髪型と、血の様に赤い瞳が特徴であった。キリッとした目つきの少女ではあったが、低い背が可愛らしさを醸し出していた。武器は身の丈程もある超硬質ブレードであり、これで戦場を生き抜いてきたのだろう。

「さて、あたしらがここに来たって事は、あんたらを始末する任務を受けたって訳」
「ネオシュヴァルツゼーレは着々と他の地域を侵略している、でも、未だにニューエデンシティの侵略は手間取っている」
「全く、セブンイレイザーズも頼りにならないわね~」
「つまり、君達は仲間の侵略を手伝いに来たって事?」
「そゆこと~、だからさ~、死んでよ」

そう言うと、ローズマリーは超硬質ブレードでリヒトを攻撃したが、リヒトはクリスタルセイバーで攻撃を切り払った。一方のウィシアは2本のナイフでルージュを攻撃したが、ルージュは軽々と攻撃を回避した。すると、ローズマリーは落雷を発生させる雷魔法、ドンナーを連続で唱えた。ドンナーは立て続けにリヒト達の周りに着弾し、その度に爆発が発生する。幸い、リヒトとルージュに命中はしなかったが、爆発が発生した際に地面の瓦礫が飛び散り、リヒト達に命中した。その瓦礫はかなり尖っていた為、リヒトとルージュはそれなりにダメージを受けた。一方のローズマリーとウィシアはウィシアが魔導障壁を展開する事で瓦礫を防いでおり、ダメージを受けていなかった。

「くっ…! 瓦礫で攻撃してくるなんて…!!」
「どう~? あたし賢いでしょ~? こう言う攻め方もあるんだよ~!」
「あんた達、もっと正々堂々と攻撃したらどうなの?」
「うっさいわね! これは命懸けの戦いなんだから、どんな攻め方でもいいでしょ!!」

そう言うと、ローズマリーは再びドンナーを連続で唱えた。先ほどと同じ様に、ドンナーがリヒト達の周辺に着弾する事で爆発が発生、リヒト達に瓦礫が飛び散った。だが、リヒト達は既に対策を取っており、ドンナーが地面に着弾する前に魔導障壁を展開する事で瓦礫を防いでいた。

「ふぅん、考えたわね~、でも!!」
「既にかなりのダメージを受けたはずです! 正攻法ならこっちが有利なはず!!」

ウィシアは一気に距離を詰め、2本のナイフでリヒトを切り裂こうとした。突然の出来事に対応ができなかったリヒトは、絶体絶命の危機に陥った。

「私の母の恨み、思い知れ!!」

その時、どこからともなく放たれた2発の銃弾がウィシアのナイフを2本とも弾いた。ウィシアのナイフが弾かれた事を確認したリヒトは、ウィシアの鳩尾を殴り、気絶させた。

「ウィシア! 誰よ! あたしらの邪魔をしたのは!!」

銃弾が飛んできた先にいたのは、フェルネとエフィであった。

「リヒトくんとルージュが中々帰ってこないから様子を見に来てみれば…まさかネオシュヴァルツゼーレがいるなんてね!」
「ネオシュヴァルツゼーレ! 私達の仲間を傷つけたあなた達の事、許しません!!」

フェルネとエフィは銃をくるくると回転させた後、銃口ローズマリーに向けた。すると、ローズマリーは剣先をフェルネとエフィに向けた。

「何であんたらなんかに許されないといけないの? 何様のつもり?」
「そっちこそ、人々の平和を壊すその悪行、決して許しはしないわ!!」

フェルネは喋り終えると、エフィに1発の銃弾を手渡した。その銃弾は、フェルネの母親であるシレーヌが作った特殊弾頭であった。

「エフィ! この銃弾を撃って! あいつか武器のどっちかに当てればいいから!」
「うん! 分かった!!」

エフィは特殊弾頭を銃に込めると、それをローズマリー目掛けて発砲した。ローズマリーはその特殊弾頭を超硬質ブレードで一刀両断にした。すると、見る見るうちに超硬質ブレードが凍り付いて行った為、ローズマリーは超硬質ブレードを地面に投げ捨てた。

「な…何よこれ…!? あたしの超硬質ブレードが…!!」
「それは私のお母さんお手製の冷凍弾、当たった物を瞬間冷凍する夏にはもってこいの銃弾よ」
「な…何て事…! ともかく、武器が無くなったらこっちが不利ね、逃げなきゃ」

ローズマリーはその場から逃走しようとしたが、先に回り込んでいたリヒトがローズマリーの鳩尾を殴った事でローズマリーは気を失った。こうして、リヒト達はウィシアとローズマリーの命を奪う事なく、戦闘不能にしたのであった。

「よし、何とかこの人達を殺さずに戦闘不能にできた…、フェルネ達のおかげだよ、ありがとう」
「全く…この状況でも敵の事を心配するなんて…とんだお人よしね、リヒトくんは…」
「でも、そんなリヒトさんの事が、私達は好きですよ!」
「まあ、そう言う優しい所はあたしも認めてるわ…」

フェルネ、エフィ、ルージュの3人に褒められたリヒトは少し恥ずかしそうに目を逸らした。一方のフェルネはある事を思いつき、それをこの場で話した。

「ところでだけどさ、この2人からネオシュヴァルツゼーレの事を聞き出せば色々と分かるんじゃない?」
「それって、僕の父さんの事とか?」
「うん、それも多分分かると思うんだ」
「聞いてみる価値は十分にあるね、連れ帰って聞いてみよう!」
「そうはいきませんよ、リヒト・ザラームとその仲間達」

そう言って現れたのは、金髪ショートカットのオレンジの瞳をした小柄な少女であった。黒コート、黒ズボン、黒ブーツと言う服装をしていたほか、以前倒したレスターの装備していた槍、デススパイラルを所持していた事から、セブンイレイザーズなのだろう。すると、その少女はリヒト達に自分が何者なのかを語り出した。

「私はティラナ・スムガイト、あなた達に殺されたレスター・スムガイトの妹であり、新たなセブンイレイザーズのメンバーです」
「新たなセブンイレイザーズのメンバー?」

突然リヒト達の前に現れたティラナという少女は、レスターの妹であった。非常に可愛らしい見た目の彼女であったが、ただ者ではないオーラが漂っていた。兄が愛用していた武器、デススパイラルを携えた彼女は、そのデススパイラルをリヒト達の方に向けた。

「兄は、あなた達との戦いで命を落としたと聞きました、兄の仇は、妹である私が取るつもりです!」
「待ってよ! 君の気持ちは分かるけど、僕達は君と戦いたくないんだよ!」
「問答無用です! ライトニング・レーザー!!」

ティラナはデススパイラルに電撃を収束させると、それをレーザーの如く撃ち出した。ライトニング・レーザーはリヒトに向かって一直線に飛んで行ったが、リヒトはクリスタルセイバーで防御した。だが、ライトニング・レーザーの威力は高く、リヒトは後方に吹っ飛ばされてしまった。

「ぐっ!!」
「リヒトくん! 大丈夫?」

そう言ったのはリヒト達の様子を見に来たミハルであった。ミハルの他にも、クリス、ラーナ、シレーヌエスカが一緒にやって来た。

「僕は大丈夫…でも…」
「仲間達が来ましたか…なら、一掃します!!」

ティラナはデススパイラルに闇のエネルギーを収束させ、それをレーザーの如く撃ち出した。この技はティラナの得意技の一つ、デストロイランスである。リヒト達はデストロイランスのレーザーを回避したが、レーザーは地面に着弾し、大爆発を起こした。その爆風によってリヒト達は吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。ティラナはなおもライトニング・レーザーの構えを取った。

「そうはさせないわ!!」

ライトニング・レーザーを放とうとするティラナに対し、フェルネとエフィは銃撃で応戦した。だが、ティラナはライトニング・レーザーの電撃を収束させながらその攻撃を回避した。そして、ライトニング・レーザーの収束が完了すると、そのレーザーをリヒト目掛けて放った。リヒトはそのレーザーをクリスタルセイバーで防御したものの、その反動で吹っ飛ばされた。その時、クリスタルセイバーにひびの入った音が聞こえた。その音が聞こえた瞬間、クリスが苦しむような声を発した。どうやらクリスタルセイバーとクリスは痛覚か何かが連動しているようであり、これ以上クリスタルセイバーで防御するのは危険であった。

「そんなに僕を殺したいのか? 君は!!」
「ええ、もちろん、私にとってお兄さんは唯一残った大切な家族でした、それを、あなた達は…!!」

ティラナは地面にデススパイラルを突き刺した。すると、地面から一直線にマグマが噴き出し、リヒトに向かって来た。この技はティラナの技の一つ、マグマバーストである。そのマグマに対し、フェルネは冷凍弾を撃ち込み、マグマを凍結、無力化した。

「リヒトくんは、やらせないよ!!」
「ありがとう、フェルネちゃん!」
「これも仲間の協力あってのものですか…でもいいです、そろそろあなた達にトドメを刺してあげましょう」

そう言ってティラナはデススパイラルに闇のエネルギーを収束させた。それは先ほどのデストロイランスを遥かに超える程強大なエネルギーであった。危機感を感じたルージュは旋風刃を放ってティラナに攻撃を仕掛けたが、ティラナはデススパイラルを持った右手とは逆の左手からライトニングを放ち、ルージュを吹き飛ばした。そして、エネルギー収束が完了すると、ティラナはそのエネルギーを撃ち出した。

「これでトドメです! ウルティメイト・デストロイランス!!」

ティラナの撃ち出した闇のエネルギーは地面に着弾し、大爆発を発生させた。その爆風はリヒト達を吹き飛ばし、地面や壁に体をぶつけ、地面に倒れ込んだ。リヒト達はかなりのダメージを受け、戦闘不能となったものの、まだリヒトだけは立ち上がっていた。

「…まだ立ち上がりますか、しつこいですね…」
「君が僕達を憎むのは分かる…でも! 本当に復讐で君の気が楽になるのか!?」
「もちろんです、その為だけに、私はここに来たのですから!!」
「そうか…」
「さて、そろそろあなたにトドメを刺してあげましょう」

そう言ってティラナはライトニング・レーザーを放つ態勢を取った。それに対し、リヒトはクリスタルセイバーでの防御態勢を取った。

(クリスちゃん…無理をさせるかもしれないけど、我慢してくれないか…?)
(大丈夫です…私はリヒトさんとどこまでも一緒ですから…)
(…すまない、クリスちゃん…)

クリスタルセイバーを介して意思疎通した2人だったが、ティラナはライトニング・レーザーをリヒト目掛けて放った。その攻撃をクリスタルセイバーで防御するリヒト。しかし、ライトニング・レーザーはひびの入っていたクリスタルセイバーを破壊、ライトニング・レーザーはリヒトの胸を貫いた。胸を貫かれたリヒトは地面に仰向けに倒れ、動かなくなった。それと同時に、クリスタルセイバーとダメージが連動していたクリスも口から血を吐き、地面に倒れ、動かなくなった。

「リヒトくん! クリスちゃん! どうしたの? 死んじゃったの…?」

ミハルの投げかけた言葉も、もう2人には通じない。何故なら2人は命を落としたのだから。

「これで…私はネオシュヴァルツゼーレの一番の脅威であったリヒトを倒した! これでこの世界はネオシュヴァルツゼーレの物!!」

すると、ニューエデンシティの上空に巨大な島の様な要塞が出現した。これこそが、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地である巨大要塞である。巨大要塞はニューエデンシティの上空に制止すると、そこから数多くの魔物が箱舟の様な乗り物に乗って降下してきた。

「リヒトのいないニューエデンシティなど、軽く捻り潰す事でしょう」
「そんな事はないわ!!」

ニューエデンシティの防衛隊隊長であるミハルは強く叫んだ。リヒトがいない今、この町を守れるのは自分達しかいない。今までリーダーとして自分達を纏め上げていたリヒトやトルトゥーガの代わりに、今度は自分がみんなを纏め上げる番だと、彼女は感じていたのだ。

「リヒトくんが居なくても、私達や防衛隊のみんながいる! あなた達の好きにはさせない!!」
「そうよ! 今度は私が守る番なんだから!!」
「リヒトさんの代わりに、今度は私達が守ります!!」
「私達だってぇ、やればできるんですよぉ!!」
「そう言う事、勘違いしないで、この場にいないココさんの代わりにあたしが守ってやるってだけなんだから」

子世代のミハル、フェルネ、エフィ、ラーナ、ルージュの5人が戦う意思を見せると、親世代のシレーヌエスカも子供達に負けない程の戦う意思を見せた。

「今戦えないトルトゥーガの代わりに、友人の私が戦うしかないのね…」
「でも、悪くはない! もしナハトがここにいたら、きっとこうしてたと思うから!!」

諦めの悪いミハル達を見たティラナは、ため息をつき、デススパイラルを構えた。

「無駄に命を散らすつもりのようですね…いいでしょう、相手をしてあげます」

ニューエデンシティに侵攻開始した魔物たちの迎撃の為、防衛隊は総動員していた。その中でも特に魔物の数が多い中心区では、防衛隊の精鋭が出動して対応に回っていた。ブーメラン使いの男の娘であるシャオ、ショットガン使いの少女グレイス、スナイパーライフル使いの少女フロスの3人はミハルの部下であり、精鋭であった。この3人は今、人々を守る為命を懸けて全力で戦っているのであった。

「この数…とてもボク達だけじゃ太刀打ちできないよぉ…!!」
「諦めないの! ミハルさんだって今、一生懸命戦ってるはずだから!!」
「そう言う事、私達はただ、敵を狙い撃つだけ…」

3人は部下の防衛隊員複数人と共に魔物を次から次へと倒していた。だが、オオカマキロンやアーマースネーク等、大型の魔物まで現れ、対応しきれずにいた。守り切れずに魔物に殺されてしまう市民も現れる中、防衛隊員は命懸けで戦った。ちょっとした暴動ならすぐ鎮圧できるほどの力を持っており、平和な中も訓練は欠かさずにいた防衛隊。だが、それさえもこの数を前には無力であった。

「どうしよう…! もう手に負えないよぉ…!!」
「くっ…! どんだけ現れるのよぉ!!」
「流石に…これ以上は無理かも…でも…諦めない…!!」

ミハルの部下3人が命を懸けている中、ミハル達も命を懸けていた。リヒトを殺したティラナを相手にミハル達は戦っていた。手始めにラーナが全力のルーンエッジを放ったが、ティラナは左手に魔導障壁を展開し防御。剣に冷気を纏って切り裂く技、コールドブレードで攻撃を仕掛けたミハルを右手に装備したデススパイラルで切り払う。続けてエスカは剣に炎を纏って切り裂く技、ファイアブレードで攻撃を仕掛けるが、ティラナはデススパイラルで薙ぎ払ってエスカを吹き飛ばした。直後にフェルネ、エフィ、シレーヌが銃弾の雨を放ったが、ティラナは風魔法のサイクロンを唱え、銃弾ごと3人を吹き飛ばした。更に続けてルージュが旋風刃を放ったが、ティラナはデススパイラルでルージュを殴って吹き飛ばした。

「もう諦めたらどうですか? あなた達が束になっても私には勝てませんよ?」
「絶対に諦めないわ! リヒトくんやトルトゥーガさんが居なくても、私達だけで何とかしてみせる!!」

ミハルは絶望的な状況でもなお、戦う意思を見せており、それは他の仲間達も同じであった。ミハル達や防衛隊の人達が戦っている様子を、魂だけとなったリヒトとクリスは眺めていた。仲間達が傷つき、多くの人が死んでいるのに何もできない自分が歯がゆかった。だが、今の自分にはどうする事も出来ない、そう考えると、ただただ悔しかった。

「ミハルちゃん達や、防衛隊の人達が頑張ってるのに…! 僕には何もできないのか…!!」
「…一つだけ方法があるとしたら…?」
「そんな方法があるなら、僕は絶対に試すよ」
「その方法は、私と一心同体になる事、そうすれば再び戦える…でも、それは私生活でも私と一心同体になると言う事…どうする…?」

リヒトはしばらく考えた、私生活でクリスと一心同体になれば、自分のプライバシーと言う物が無くなる。ひょっとしたら、これからの人生で色々と大変なことに会うかもしれない。だが、リヒトは今目の前で起きている事を放置する事の方がずっと嫌だった。しばらく考えた後、リヒトは決意し、答えを出した。

「…分かった、君と、一心同体になるよ」
「本当にいいの? 私、あなたの私生活の邪魔するかもしれないよ?」
「いいよ、別に、僕は今目の前で起こっている事を放置できない、みんなを守りたいんだ! その為なら、僕の人生なんてくれてやる!!」
「…決意は固いみたいね…なら、あなたの左手を私の右手に合わせて」

リヒトは言われた通り、左手を出し、クリスの右手に合わせた。すると、まばゆい光が発生し、目の前が真っ白になった。そして、次に目が開いた瞬間、元の世界に戻り、立ち上がっていた。リヒトが復活した事で仲間達やティラナは当然驚いていた。

「リヒトくん…? 本当にリヒトくんなの…?」
「もちろんだよ、ミハルちゃん! でもまずは、あの子を止めないと…!!」
「生き返りましたか…ですが、また再び地獄に落としてあげましょう! ライトニング・レーザー!!」

ティラナはデススパイラルからライトニング・レーザーを放った。だが、リヒトは再生したクリスタルセイバーでライトニング・レーザーを切り払った。再生したクリスタルセイバーは強度が以前の倍以上になっており、その強度は伝説の金属であるオリハルコンに匹敵するレベルであった。リヒトはライトニング・レーザーを切り払うと、一瞬でティラナに接近し、デススパイラルを切断した。

「お兄様のデススパイラルが…!!」

リヒトはクリスタルセイバーに光を集め、光球を生成すると、剣を振って光球を飛ばした。その光球はティラナに命中し、ティラナから争いの元となった記憶を消し去った。しばらくすると、そこには無垢な性格の少女となったティラナがきょとんとした表情を見せていた。

「あの…私…何でこんな所に…」
「君は魔物の群れから逃げてきたんだよ、さあ、あっちへお逃げ」
「はい…ありがとうございました…」

そう言ってティラナはリヒトに教えられた方角であるニューエデン私立学園の方へ逃げて行った。ニューエデン私立学院には緊急のシェルターがあり、そこに逃げれば大体は安全であった。ティラナは丁度いいタイミングでやって来たリヒトの学友、エルフィナとアミアに連れられ、学園内に入って行った。ちなみに、エルフィナとアミアはリヒト達の事に気付いていたのか、手を振っていた為、リヒトとミハルも手を振り返した。戦いが終わった後、ミハルはリヒトの方に駆け寄ってきた。

「リヒトくん…本当に大丈夫なの…?」
「うん! クリスちゃんと一心同体になったから、僕はこうして生き返ることが出来たんだ!」
「そう…よかった…本当によかった!」

そう言ってミハルはリヒトに抱き着き、リヒトの胸の中で涙を流した。リヒトはミハルの頭を撫でてミハルの心を落ち着かせていた。しばらくそのままの状態が続き、ミハルが落ち着くと、これからネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する作戦を立てる事になった。

「で、あの移動要塞だけどさ、どうやって入ればいいんだろう?」
「その事なら問題ないわよ」

そう言ってやって来たのは、ミハルの母であるミソラ・アートランドとルージュの師匠に近い存在であるココ・ルーであった。2人共17年前と比べてそれほど変わっておらず、ミソラは若干髪が短くなっており、逆にココは髪が伸びていた。

「お母さん!」
「ココさん! 久しぶりね」
「ミハル、頑張ってるみたいね、私もこんな状況だから、戦わずにはいられないわよね…」
「ルージュか…嫌な気配がしたから久々にエデンシティに来てみれば、何だこの状況は…」
「何だ、じゃないわよ、あんた17年間どこに行方くらましてたのよ」
「そうそう! おかげであんた以外全員子供生まれてるわよ?」

ココはシレーヌエスカに駆け寄られ、少し戸惑っており、辺りを見渡した。すると、フェルネとラーナがそれぞれ自身の親を指差した後、自分を指差す事で誰が誰の娘かを教え、かつての友人に子供ができた事を認識したココは今までの事を話した。

「私はあの後ずっと獣人族の村で暮らしていた、ちなみに、私は生涯独身を貫くつもりだ」
「あらそう、まあ、たまには顔見せなさいよ?」
「ああ、分かった」

シレーヌ達はずっと顔を見せなかった自分の事をずっと覚えていてくれた、そう思うと、少し嬉しく思えた。その後、ミソラが今後の作戦を話した。

「で、あのネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する手段だけど、防衛隊が密かに開発していた飛行船を使用します」
「最近お母さん姿見せないと思ったら、飛行船を開発してたんだ…」
「まあね、凄いでしょ、とりあえず、みんな一旦防衛隊の本部まで行きましょう!」

こうして、ネオシュヴァルツゼーレ移動要塞に侵入する手筈は整った。リヒト達は、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地である移動要塞に乗り込む為、飛行船を使うことになった。飛行船は防衛隊の本部にあると言い、リヒト達はそこへ向かった。本部に到着したリヒト達は、防衛隊の隊員が使う兵器を置いてある格納庫に入った。すると、そこには全長約50m、全高10mほどの飛行船がその巨体を構えていた。この世界には空を飛ぶ乗り物は気球と上昇高度に限度があるシエルプランシュと言うサーフボードの様な乗り物程度しかなく、リヒト達は飛行船を見た瞬間驚いていた。

「こ…これが…! 飛行船…!! かっこいい…!!」
「飛行船フライハイト号よ、ニューエデンシティの技術を使って開発した、世界初の高速飛行船よ」
「ねえ、お母さん、本当にこれ空飛ぶの?」
「ええ、飛ぶわよ、このフライハイト号は風の魔力を蓄えた魔力炉によって空を自由自在に飛行する事ができるのよ、その飛行速度は時速350㎞にも及ぶわ!」
「凄いよ! 父さんの乗ってた魔導バイクよりずっと早いじゃん!!」
「でしょ? このフライハイト号に乗って、私達はあの移動要塞に向かいます!」
「待ってミソラ! 私も…移動要塞に連れて行って!!」

そう言って現れたのは、病院で寝ているはずのトルトゥーガであった。トルトゥーガはアルメリアに体を突き刺され、病院で入院しているはずであった。そのトルトゥーガが今、怪我が完全に治癒した状態でリヒト達の前にいるのである。

「お母さん! もう傷は大丈夫なの?」
「私は光精霊だからね、わりとすぐに傷は塞がったわ、でも…」
「体の中までは直ってないんでしょ? 無理しないで、あなたは休んでて」

ミソラはトルトゥーガの事を心配してくれたが、自分の息子が戦ってるのに自分だけ大人しくしている場合ではない、そして何より、トルトゥーガには譲れないものがあった。

「駄目よ! もしかしたらあの移動要塞にあの人が…ナハトがいるかもしれない…! こんな所で休んでいられないわ!!」
「…どうせ駄目って言ってもあなたは飛べるんだから飛んで来るわよね、分かったわ、でも、無茶はしないで、いいわね?」
「ありがとう、ミソラ!」

そして、リヒト達はフライハイト号に乗り込もうとした。その時、リヒト達目掛けて数発の銃弾が飛んできたが、トルトゥーガがとっさに魔導障壁を発動させ、銃弾を防いだ。銃弾が飛んできた先には、ハイネ、アンナと部下のターニャ、ミーナ、ノクトの3人、セブンイレイザーズのアルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュの合計9人が現れた。最期の手段であったティラナでさえもリヒト達に敗北した為、全員で攻めてきたのだろう。

「残念だが、お前達をそれに乗せる訳にはいかない」
「ハイネの言う通りよ、残念だけど私達、ネオシュヴァルツゼーレだから」
「セブンイレイザーズは常にネオシュヴァルツゼーレと共にある! 組織の邪魔になるお前達はここで始末する!!」

ハイネ、アンナ、アルメリアが喋り終えると、他のメンバーと共に武器を構えた。

「あらあら…今まで私達に負けた人たちが一斉に来たって訳か~」
「あの生意気なガキの仲間、あの女の子以外だと初めて見たけど、こんな奴らだったのね…」
「まだ若いのに…人殺しに人生を費やしたのね…可哀想…」
「うるさいわよ! 年増女! 私達はネオシュヴァルツゼーレのおかげでこうして生きてるの!!」
「その組織の為ならば、私達は命すら投げ打つ、それだけよ」
「だから…邪魔者のあなた達は全員殺す…」

そう言ってファーノ、クレイユ、リーエジュは同時にシレーヌエスカ、ココに攻撃を仕掛けようとした。だが、リヒトは彼女たちの武器に対し、光の真空波クリスタルリッパーを3発放った。クリスタルリッパーは凄まじき切れ味を誇る真空波であり、ミスリル製の武器を軽々切り裂くことが出来る。ファーノ、クレイユ、リーエジュの持つ武器はクリスタルリッパーによって斬り刻まれ、バラバラになった。一方、ハイネ達の持つ銃もフェルネ、エフィの放った銃弾が銃口に命中し、暴発、破壊された。こうして、武器を持っているのはアルメリアだけとなった。

「リヒト…貴様、知らない間に腕を上げたな…」
「僕はティラナの攻撃で一度は命を落とした…でも、クリスちゃんのおかげでこうしてまた戦えている…その想いを、無駄になんてできない!!」

そう言ってリヒトはクリスタルセイバーに光を纏い、3回振った。すると次の瞬間、アルメリアが装備していたヘルブラッドを修復した剣、ヘルブラッドリペアはバラバラになった。リヒトの放った攻撃はクリスタルスラッシュ、高い切れ味を誇る剣技である。武器を失ったアルメリア達セブンイレイザーズのメンバーは諦めるかと思われたが、まだ諦めていなかった。

「こうなったら、奥の手だ」
「あれ、やっちゃう?」
「あれは威力がありすぎる為控えたかったが」
「任務の遂行には代えられませんね…」

そう言ってアルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュの4人は右手を一か所に集め、魔力を収束させた。一か所に収束された魔力は、膨大な魔力となり激しく渦巻いた。

「秘技! クワトロフォーメーション!!」

4人は協力し、強力な魔力のレーザー、クワトロフォーメーションを放った。クワトロフォーメーションはリヒト目掛けて一直線に飛んで行ったが、リヒトはクリスタルセイバーを構え、光のバリアを展開した。そして、その光のバリアであるクリスタルバリアにクワトロフォーメーションを吸収させ、無力化させた。

「何っ!?」
「私達のクワトロフォーメーションがぁ…!」
「無力化された…!?」
「ありえない…!」

自身の最終奥義を吸収された事に、アルメリア、ファーノ、クレイユ、リエージュは驚愕した。

「敵とは言え…僕は君達を傷つけたくない…だから…!!」

リヒトはクリスタルセイバーを構えると、クリスタルセイバーから眩い光を放った。その光はアルメリアやハイネ達を包み込み、光が収まった瞬間、彼女たちは戦闘態勢を解いていた。リヒトが相手を大人しくさせる為に使用する鎮静光球の広範囲版の技である。

「私達は…一体何を…?」
「君達は魔物に襲われてここまで逃げ込んできたんだ」
「そうか…助けてくれた事、感謝する」

その後、リヒト達は戦いの記憶を失ったアルメリア達を防衛隊基地で保護した後、フライハイト号に乗り込んだ。フライハイト号に乗り込むと、手始めに格納庫の天井を開き、その後、艦長兼操縦士のミソラは魔力炉のエンジンを入れた。すると、フライハイト号の船体が浮き上がり、大空へと飛翔した。

「行こう! ネオシュヴァルツゼーレの本拠地へ!!」

一方その頃、ネオシュヴァルツゼーレの本拠地では、17年間時の檻で眠り続けたナハトとデロリアが目を覚ました。

「う…俺達は…眠っていたのか…?」
「よく眠れたか? と、言っても、その時の檻の中の時間は1日程度だ、こっちでは既に17年過ぎている」
「あなた、こんな事をして、一体何が目的なの!?」
「目的…か、それはいつまで経っても争いや迫害を続ける愚かな人類を力で支配する事だ!」
「力による支配…だと…!?」

すると、ナハトとデロリアの2人と会話していた謎の存在は、自身の過去の話を始めた。

「俺は人間と魔族の混血児だ、幼い頃はそれが理由でよく迫害されていた、おまけに人間の父は魔族と子供を作った事が原因で親族に殺され、魔族の母は人間によって虐待され殺された…」
「酷い…」
「そんな酷い事をしたのがお前達人間だ! だから、俺はそんな愚かな人間を力で支配する! その為に魔族や魔族側の人間の力を借りた! シュヴァルツゼーレの残党も取り込んだ!」
「でも、そんなやり方では人間は変わらない!!」
「かと言って、放っておいても人間は変わらないだろ? だったら、俺が変えてみせる、この圧倒的な力で、手始めに世界平和の要であるこのニューエデンシティを潰せば世界は震撼するだろう」

ニューエデンシティの名前を聞いたナハトは、トルトゥーガの存在を思い出した。

「ニューエデンシティ…? まさか、トルトゥーガが…!!」
「ああ、貴様の嫁であるトルトゥーガも、息子であるリヒトも、かつての仲間達もいる、今からそいつらを全員殺してやる、ゆっくり楽しむがいい、ハッハッハ!!」
(トルトゥーガ…それに知らない間に生まれていたリヒト…みんな…無事でいてくれ…俺も今、ここから脱出する…!!)

一方、フライハイト号に乗り込み、浮遊要塞に向けて飛翔したリヒト達。素早いスピードで上空へと上昇していき、少しずつ浮遊要塞に近づいて行った。敵の襲撃に会うと思われたが、特にそんな事はなく、無事に浮遊要塞へと着陸した。浮遊要塞に着陸すると、リヒト達は全員フライハイト号から降りた。浮遊要塞は荒廃した城下町の様な外観をしており、不気味な雰囲気が漂っていた。魔物やネオシュヴァルツゼーレの兵士がいるかと思われたが、大半がニューエデンシティに降下しているようであり、特にそれらしきものはいなかった。

「ここがネオシュヴァルツゼーレの本拠地か…」
「リヒト、敵が潜んでいるかもしれないから気を付けるのよ」

すると、ブルーセイバーを握り、戦闘態勢を取ったミハルがトルトゥーガに語り掛けた。

「大丈夫ですよ、リヒトくんも私達も強いですから、そう簡単にはやられませんよ」
「そうね、ミハルちゃん達が居れば安心ね」

すると、シレーヌがトルトゥーガの肩に手を置き、ちょっとした冗談を口にした。

「まあ、病み上がりのトルトゥーガよりは頼りになるわよね」
シレーヌ…あなたこの戦いが終わったら一発殴らせてね」

リヒト達はそんな話をしながら浮遊要塞の中枢と思われる中心部へと向かった。中心部は城の様な建物であり、その見た目は漆黒の城そのものであった。リヒト達が建物の中に入ろうとしたその時、中から一つ目の大柄な人型の魔物、サイクロプスが現れた。サイクロプスは一つ目の巨人であり、その体色は朱色であった。巨大な金棒を持ったサイクロプスの攻撃力は非常に高く、その腕から放たれる攻撃は巨大な岩石を一撃で叩き割る破壊力を秘めている。そのサイクロプスがリヒト達の前に合計5体出現した。

「あれは、サイクロプスね、でも、あたし達の相手じゃないはずよ」
「ルージュ、油断はしない方がいいわ、どんな力を秘めているか分からないから」
「ココさんが言うなら気を付けた方がいいみたいね」

そう言ってルージュは剣を握ったが、先手を取ったのはフェルネとエフィであった。

「とりあえず、ここは私とエフィに任せて!!」

フェルネとエフィは先手必勝とばかりに拳銃を発砲した。まずは特徴的な一つ目目掛けて放ったが、サイクロプスは素早く金棒で目を防御した。いくら知能の低いサイクロプスといえど、自身の大事な一つ目を攻撃されると直感で感じ、防御行動に移ったのだろう。一つ目が無理だと感じたフェルネとエフィは、サイクロプスの胴体を銃撃した。だが、サイクロプスの皮膚は非常に硬く、銃弾を弾いた。その防御力に、フェルネとエフィは驚愕した。

「何て硬い皮膚なの…!?」
「銃弾を弾く皮膚…こんな魔物がこの浮遊要塞には沢山いるの…!?」
「大丈夫ですよぉ! だってぇ、私達は強いんですからぁ!」

そう言ってラーナはルーンブレードに魔力の刃を生成した。ラーナは高く跳ぶと、サイクロプスの首目掛けてルーンブレードを振った。サイクロプスは金棒で防御したが、金棒ごと首を切断された。ラーナが地面に着地した瞬間、首が地面に落ち、残った体は地面に崩れ落ちた。

「ほら! 頑張れば私達でも倒せるでしょぅ?」
「…うん! そうだね! お母さん! 爆裂弾ちょうだい!!」
「ええ、分かったわ」

フェルネはシレーヌから爆裂弾を貰うと、それを拳銃に装填し、サイクロプスの顔目掛けて放った。当然、サイクロプスは金棒で防御したが、その金棒に爆裂弾が着弾、爆発を起こして金棒は砕け散った。フェルネは砕け散った金棒の破片が顔に刺さって苦しむサイクロプスの一つ目目掛けて銃弾の雨を撃ち込んだ。すると、サイクロプスは地面に崩れ落ち、動かなくなった。

仲間を2人も倒されて危機感を覚えたサイクロプスは、地面に金棒を振り下ろし、衝撃波を発生させた。だが、リヒト達は散開し、衝撃波を回避した。その直後、ルージュは旋風刃を放ち、サイクロプスを攻撃した。サイクロプスは金棒で防御したが、鋼より硬いブルーメタルで作られたルージュの剣による高速回転斬撃を前に鋼で作られた金棒は意味をなさず、金棒ごとサイクロプスの体は切断された。

一方、ミソラミハル親子はサイクロプスと交戦していた。サイクロプスは金棒を振り回し、二人を攻撃したが、二人は攻撃を軽々と回避した。そして二人は同時に雷魔法のライトニングを放ち、サイクロプスを感電させた。その直後、二人はブルーセイバーで同時にサイクロプスの体を切り裂き、サイクロプスを倒した。

残った1体はトルトゥーガリヒト親子が相手をしていた。金棒を振り回すサイクロプスの攻撃を軽々とかわすリヒトとトルトゥーガ。そのサイクロプスの金棒を、リヒトはクリスタルセイバーの一振りで切断した。武器を失って動揺するサイクロプス目掛け、トルトゥーガは飛行しながらセインスピアードを突き刺した。そして、トルトゥーガは突き刺したサイクロプスを壁に叩き付けた。壁に叩き付けられたサイクロプスはピクリとも動かなくなった。こうして、リヒト達は全てのサイクロプスを撃破したのであった。

「片付いたね、お母さん」
「そうね、今の私達にこの程度の魔物は足止め程度にしかならないって訳ね」
「でもまだ分からないわ、城の中にはもっと強力な魔物がいるかもしれないし…」
「ミソラの言う通りね、ここからは気を付けて行きましょう」
「そうだね、お母さん」

その時、リヒトはある事を感じ取った。それは、知らないのに何故か知っている存在、自分の父親であるナハトの事である。リヒトが生まれた時、ナハトは行方不明になっていた為、当然ながらリヒトはナハトの事を知らない。写真でしか見た事のないナハトの事を、リヒトは感じ取っていたのである。知らないはずなのにどこか懐かしい自分の父親の事、それを考えた瞬間、リヒトは居ても立っても居られなくなった。

「…お父さん…」
「え? ナハトがいるの?」
「うん! お父さんはこの城の中にいるよ!!」
「どこにいるか分かる?」
「僕に付いてきて!!」

そう言ってリヒトとトルトゥーガは仲間達とは別行動を取った。突然の二人の行動に、仲間達は驚きを隠せなかった。

「あっ! 二人共…!!」

二人だけでは心配だと感じたミハルは、二人の後を追った。後の仲間達もリヒト達を追おうとしたが、彼女たちの前に大型の魔物が現れた。様々な魔物の強い所を合わせた合成魔獣キマイラである。キマイラは凶悪な獣の顔と体、龍の翼と尻尾、そして鋭い龍の爪を備えた怪物であり、高い生命力と攻撃力、防御力を持つ。口から火炎を吐く事もできるが、一番の武器は鋭い爪である。この爪は鉄を軽々と引き裂く程の切れ味を持っており、一度でもこれで引っ掻かれればひとたまりもない。キマイラの誕生には旧シュヴァルツゼーレにいた科学者、Dr.バイオが関わったとされている。Dr.バイオの研究成果は全て防衛隊によって処分されたが、一部の研究成果がシュヴァルツゼーレの本部辺りに残っていたのだろうと思われる。

「厄介な相手が来たわね…」
「ルージュ、命を懸ける覚悟はできてるな?」
「嫌だけど、一応その覚悟はしておくわ、ココさん」

目的を果たす為、二手に分かれたリヒト達。リヒトとトルトゥーガ、ミハルの3名はこの浮遊要塞にいると思われるナハトの救出の為、残ったメンバーは突然現れたキマイラと戦っていた。キマイラは攻撃力が高いのはもちろんであったが、防御力も高かった。フェルネ、エフィ、シレーヌの銃撃は一切効かず、ルージュやエスカの剣攻撃もあまり効いていなかった。唯一、ラーナのルーンブレードでの攻撃はある程度剣が通っていたが、キマイラは知能も高く、ルーンブレードが危険と分かるとその攻撃を最優先で回避するようになった。一方で、キマイラ一番の武器である鋭い爪での攻撃はかすり傷でさえも致命傷になる可能性があった為、彼女たちは回避していた。だが、キマイラは長い尻尾での薙ぎ払い攻撃や口から吐く火炎攻撃で徐々に彼女たちを追い詰めていった。

「くっ…! あたし達の武器じゃあいつに有効打を与える事はできないわ!!」
「私のルーンブレードは当たらないようですしぃ…どうしましょう…」
「ルージュ、私は諦めると言う事は教えたつもりはないぞ」
「私だって、娘であるあなたに諦めると言う事は教えたつもりはないわよ?」

「分かってる、分かってるわよ、ココさん、でも、あいつは強い…! 悔しいけど、それは認めるしかないわね…」
「私も、諦めたくはないですよぉ…キマイラを倒す手段はどこかにありますぅ…それを探さないとぉ、勝てないかもですねぇ…」
「ったく! リヒト、さっさと帰って来てこいつを倒す手伝いをしなさいよね!」

一方のリヒト、トルトゥーガ、ミハルの3名は浮遊要塞内部を進んでいた。進むべき場所はリヒトとトルトゥーガが感じ取っている為、ミハルは2人に合わせて進むだけであった。浮遊要塞城の内部は17世紀の城の様な造りになっており、リヒト達は時折ゴブリンやコボルド、スケルトンと言った魔物に襲われたが、今の彼らの敵ではなく、軽く蹴散らし先へ進んで行った。リヒト達が到着した場所は、一つの大広間であった。そこの天井には水色のキューブみたいなものがぶら下がっており、それが何なのか確認する為、よく目を凝らすと、中にはナハトとデロリアがいた。

「ナハト…! それに、デロリア…!」
「あれが…僕のお父さん…? それに、デロリアさんと言えば…」
「お母さんから聞いた事があるわ、17年前にシュヴァルツゼーレを率いて旧エデンシティや世界を震撼させた人ね」
「でも、あそこにデロリアがいるって事は、分かり合えたのね、ナハト…」

すると、天井に立体映像が映し出された。そこには、以前リヒトが戦った人物、ヴァンレルが映っていた。

「よくここまで来たな、リヒト・ザラーム」
「君は…ヴァンレル! 何でここに!?」
「何でかって? それは俺がネオシュヴァルツゼーレのリーダーだからだ」
「君が…ネオシュヴァルツゼーレの…! 何でこんな酷い事をするんだよ! 今すぐこんな事はやめるんだ!!」
「やめる訳ねーだろ、こんな腐った世界、一度壊滅させて作り直すべきだ、だから俺はネオシュヴァルツゼーレを率いてこの世界に革命を起こそうとしているんじゃないか」

トルトゥーガはヴァンレルに対し、疑問に思っていた事を問うた。

「ナハトとデロリアをあそこに閉じ込めた理由は何?」
「ただ単に邪魔だからだよ、だから17年間時の檻に閉じ込めた、まあ、彼等からすれば1日間あそこで眠っていただけなんだがね」

ヴァンレルのその言葉に、リヒト達は怒りを覚えていた、だが、ひょっとしたら他にも理由があるかもしれない、そう思ったリヒトは、ヴァンレルにその事を聞いた。

「君は…本当に世界を革命させる為だけにこんな事をしたの? 多くの人を死なせたの?」
「そうだ、この世界には争いや差別を続ける人間が未だに多くいる、そう言った愚かな人間を変える為には恐怖を与え、変えるしかないと思ったんだ」
「おかしい…! おかしいよこんな事!! みんな一生懸命生きてるのに…! そんな人達が死んじゃってもいいの? 傷ついてもいいの? 僕はやだよ、誰にも死んでほしくないよ!!」
「確かにそう言った人物は未だに多くいるわ、でも! 全員がそんな人ばかりじゃない!!」
「あなたがしている事は独裁! そんなやり方では、人は変わらない!!」

リヒト、トルトゥーガ、ミハルは怒りの言葉をヴァンレルに言い放った、だが、ヴァンレルはほとんど聞く耳を持っていなかった。

「ああ、そうかよ、だったら、そこにいるナハトを助けてみろ、言っとくが、この時の檻は簡単には壊れないぞ?」
「分かったよ、母さん! 力を貸して!!」
「ええ、分かったわ!」

トルトゥーガはリヒトを掴んで飛翔した。そして、リヒトは時の檻に近づくと、時の檻を四角の形に斬った。簡単に壊れるはずのない時の檻ではあったが、リヒトの装備したクリスタルセイバーは魔力を切り裂く力を持っている為、魔力で作られた時の檻を簡単に切り裂くことが出来た。時の檻が壊れ、解放されたナハトとデロリアはそこから落下したが、寸前の所でナハトがケイオスブラスターから風の魔力を撃ち出した事で風がクッションとなり、無事に着地できた。

(あの剣…やはりあの女の…! くっ…、なぜあの女が、あんな人間に力を貸したんだ…!!)

そう言ってヴァンレルは立体映像を消した。その後、ナハトは着地したトルトゥーガに対し、愚痴を言った。

「ったく、もうちょっとで俺とデロリアが死ぬところだったぞ、もうちょっと安全に着地させろよ…」
「あなたなら大丈夫だと思ってね」
「そうかいそうかい…」

「父さん…」
「お前が…リヒトか…その髪の色…その目の色…確かに俺とトルトゥーガの子だな…」
「会いたかった…僕…ずっと…父さんに…!!」

リヒトは生まれて初めて会った自分の父の胸の中で涙を流した。生まれた時からずっと会った事のなかった自分の父、その父とようやく再開できた。それが、リヒトにとって一番の喜びであった。

「で、ナハト、デロリアとは和解できたの?」
「ああ、彼女はもうシュヴァルツゼーレのリーダーではない、ただの女性だ」
「そう言う事です、私のした事は決して許される事ではない、でも、今はせめて、償いだけでもさせてください…」
「なら、私が今作った武器、セインセイバードをあげるから、これであいつと戦って」

セインセイバードは白銀色の美しい剣で、各部は白鳥の羽根の様な装飾がなされ、刃先は宝石のように輝いていた。武器とは思えない美しさを持ったその剣は、トルトゥーガのセインスピアード同様、装飾品のようにも思えた。

「分かりました、この剣を使い、あの日から始まった宿命に決着を付けます」
「じゃあ、みんなの所に戻ろう!」

リヒトはナハト達と共に仲間の所へ急いだ。その仲間達はキマイラの攻撃でかなりのダメージを負っており、あと一歩のところまで追い込まれていた。そして、キマイラがトドメを刺そうとした瞬間、リヒトがクリスタルリッパーを、ナハトがライトニングアローを同時に放ち、キマイラを一撃で爆散させた。その様子に、リヒトの仲間達は驚いていた。

「みんな! 間に合ってよかった…」
「もう! 遅いわよ! リヒト! …心配したのよ」
「ごめん、ルージュ、みんな、でも、お父さんとデロリアさんは助けられたよ」

「よう、シレーヌエスカ、ミソラ、ココ、無事か?」
「ナハト! あんたやっぱり無事だったのね!」
「ナハトってば、ほとんどあの時のまま…!」
「懐かしいわね…あれから17年だものね」
「こっちはあれから色々あったのよ」

かつての仲間達との再会を果たしたナハトだったが、ナハトは17年前とあまり変わってない彼女たちに対し、違和感を感じていた。

「でも、お前ら、何だ、あの時から髪型とか服装以外あんま変わってないな」
「あんたに老けたなとか言われるのが嫌で努力したのよ!! でもあんた、あんま変わってないわね…」

シレーヌのその言葉に対し、ナハトは女性とは大変なものだなと感じた。

「まあ、時の檻に閉じ込められてあれから1日しか経ってないからな」
「所謂コールドスリープって奴ね、羨ましいな~」

エスカのその言葉は恐らく若さを保てて嬉しいと言う事なのだろうが、正直あまり嬉しくないとナハトは感じたが、色々面倒になりそうだからと黙っておいた。一方、ナハトは見た事のない少女達に興味が移っていた。

「それより、この若い女の子達は誰だ?」
「僕の友達で、シレーヌさんやエスカさん達の子供やその関係者だよ」
「そうか…17年経ったんだから、シレーヌ達に子供ができて、その子供もお前ぐらいになっててもおかしくないもんな」
「うん! で、僕達の倒すべき相手も見つかったんだ、みんなで倒しに行こう!」
「ああ、俺達が倒す相手、それは、あのヴァンレルって奴だ!!」

父親であるナハトとナハトの元カノであるデロリアを救出したリヒト。リヒトはナハトと協力し、全ての元凶であるヴァンレルを倒す決意をした。リヒトとナハトはヴァンレルを倒し、宿命の戦いを終わらせる為に、浮遊要塞の内部を進み、ヴァンレルがいると思われる城の頂上へと向かっていた。階段は何段もあり、先が見えずにいたが、リヒト達はただひたすらに進んだ。すると、リヒト達は大広間へと到着した。そこにヴァンレルはいなかったが、代わりにアンデッド系のモンスター1体が立っていた。

「貴様、一体何者だ?」
「俺の名はリッチ、世界最強のアンデッドモンスターと言えば話は早いかな?」

ナハトの問いにリッチと名乗ったモンスターはガイコツの見た目に黒いローブを身に纏ったモンスターで、赤い宝玉のはめられた杖を持っていた。リッチは魔法などの手段を使い、アンデッドとなった強大な魔法使いであり、その多くは長い年月を生きた知識を兼ね備えている。ちなみに、この世界では過去にも幾度かリッチの出現が確認されている。

「リッチと言ったね、僕達はヴァンレルを倒す事だけが目的なんだ、君とは会話ができるんだし、できれば戦いたくないな」
「残念だったな、俺はヴァンレル様に貴様らを殺せと命令を受けているんだ、だから、貴様らには死んでもらう!!」
「やはり戦うしかないのか…!!」

リッチとの戦いは避けられないと悟ったリヒトとその仲間達は戦闘態勢を取った、すると、リッチは素早くエクスプロージョンの魔法を詠唱した。だが、そのエクスプロージョンの魔法は20個ほどに分裂し、一斉にリヒト達を襲った。エクスプロージョンの魔法の群れはリヒト達の近くに着弾し、連鎖爆発を引き起こした。幸い、リヒト達の回避は間に合った為、大きな被害は出なかったが、リッチは続けてアイシクルアローの魔法を詠唱した。そして、そのアイシクルアローの氷柱は約30個ほどに分裂し、一斉にリヒト達を襲った。

「嘘でしょ!?」

あまりの数にミハルは驚愕したが、臆することなく、剣で氷柱を破壊した。他のメンバーも同じで、フェルネ、エフィ、シレーヌの3名は銃撃で氷柱を破壊。トルトゥーガは魔導障壁で防御、ナハトはケイオスブラスターで迎撃、リヒト達剣使いは剣で氷柱を破壊していた。だが、その努力も空しくリッチはアイシクルアローを50個に分裂させて再び放ってきた。

「あいつ…!! 今度は倍近くに増やして俺達を攻撃してきた!!」
「父さん、このままじゃやばいよ!!」
「くっ…! トルトゥーガ! しばらく俺達を守ってくれ!!」
「分かったわ! 任せて!!」

ナハト、リヒト親子の前にトルトゥーガが立ち、魔導障壁で防御してナハトとリヒトは作戦会議を始めた。その作戦会議にはフェルネ、エフィの2人も参加しており、一緒にリッチを倒す手段を考えていた。

「父さん、あいつを倒す方法ってあるの?」
「守ったら負ける、ここは攻めるしかない」

ナハトのその言葉に、トルトゥーガは無茶だと感じた。それももっともである。リッチの魔法の物量はとんでもなく、下手な部隊程度なら簡単に壊滅させる程の物量だからだ。

「でも、あいつの攻撃の物量が半端なさ過ぎて攻められないわよ」
「そうですよ、攻められるならみんなで袋叩きにしてますよ」

トルトゥーガとフェルネのその言葉に、ナハトは自身の考えた作戦を伝えた。

「何、別に全員で攻めなくてもいい、攻めるのは俺達4人だけでいいんだ」
「父さん、それってどう言う事?」
「俺達4人で攻める、他は俺達の援護、そう言う事だ」

リッチを攻めるのは少数のメンバー、残りはリッチの魔法の迎撃、または少数メンバーの防衛をする事でリッチを倒そうとナハトは考えた。その作戦に、トルトゥーガは賛同した。

「なるほど! そうすればあいつを倒せなくとも一撃は浴びせられるって訳ね!!」
「一撃を浴びせる? 倒すんだよ」

その後、作戦会議を済ませたナハト達4人と作戦を聞いていたトルトゥーガはリッチのいる方へ飛び出した。案の定、リッチは無数のアイシクルアローを飛ばしてきたが、トルトゥーガの魔導障壁やフェルネ、エフィの銃撃で全て破壊。他の方角に飛んだアイシクルアローも他のメンバーによって全て破壊された。

「このままではまずい…!!」

まさかアイシクルアローを全て迎撃されると思ってなかったリッチは慌ててアイシクルアローの魔法の詠唱を始めた。だが、詠唱が終わる前にフェルネとエフィは自身の持つ拳銃にシレーヌ特性の特殊弾頭を装填し、撃ち出した。発射した特殊弾頭3発は全てリッチに命中し、リッチの体を凍結させ、動きを封じた。

「な…何じゃこりゃぁぁぁ!?」
「私のお母さん特性の冷凍弾よ」
「命中した物を一瞬で氷漬けにする効果を持っています」
「それが合計3発、あなたはもう動けないんじゃない?」
「くそっ…! 動けぬ!!」
「なら、解凍させてやるよ、フレイムバレット!!」

ナハトはケイオスブラスターに炎の魔力を収束させ、それを撃ち出した。撃ち出された炎の弾丸は氷漬けになったリッチに命中し、大爆発を起こした。爆風に巻き込まれてもなお生きているリッチを、リヒトは装備したクリスタルセイバーで一刀両断にした。

「お…おのれぇ…! ヴァンレル様…俺の仇を必ず、討ってくださ…!!」

クリスタルセイバーで一刀両断にされたリッチの体は灰となって崩れ去った。リッチは強敵ではあったが、ナハトの利かせた機転によって無事、倒されたのであった。

「さて…何とかあの骨野郎を倒したな、先へ進むか…」
「そうだね、父さん」

ヴァンレルのいる場所を目指し、先に進むリヒト達。リヒト達はただひたすらに階段を駆け上り、ヴァンレルのいる場所を目指した。すると、リヒト達はまた大広間に到着した。その大広間には、体長約8mほどのドラゴンがおり、リヒト達を見下ろしていた。

「ド…ドラゴンだぁ!!」
「大丈夫だよ、ミハルちゃん、今の僕達にはドラゴンなんて敵じゃないよ!」
「いや、それはどうかな?」
「どういう事? 父さん?」
「ドラゴンの体表、特に鱗は硬くてな、まあ、物は試しだ、フェルネ、あいつを撃ってみろ」

フェルネが二丁拳銃でドラゴンを狙い撃つと、その銃弾が全て弾かれてしまった。ナハトの言う通り、ドラゴンの体表は非常に硬く、旧時代ではドラゴンの鱗は防具の素材にされていたと言う。しかもドラゴンの鱗は魔法にも強く、並大抵の攻撃では致命傷はおろか、ダメージを与える事すらできない。

「と、まあ、ドラゴンの皮や鱗は非常に硬いと言う訳だ、魔法もロクに効かんし、ミスリル製の武器でようやくまともにダメージを与える事ができるぐらいだ」
「なら、ここは僕のクリスタルセイバーや父さん母さんデロリアさんの武器、ルージュちゃんの武器の出番だね!」
「分かったわ! 任せて!」
「うん…私、絶対役に立つね」
「仕方ないわね…この戦いが終わったら、何か食べ物奢りなさいよ!」
「うん! ルージュちゃんの好きなもの奢るね!」

そう言って、リヒト、ナハト、トルトゥーガ、デロリア、ルージュの5名が攻撃を仕掛けた。リヒトの持つクリスタルセイバーは水晶の様な素材でできているが、材質は不明である。それでも、ミスリル以上の硬度を誇っている為、ドラゴンの鱗にダメージを与えることが出来るのだ。ナハトの持つシャドウエッジとケイオスブラスターはミスリル製、トルトゥーガのセインスピアードとデロリアのセインセイバードは聖なる金属で作られており、ミスリルに匹敵する硬度を持っている。そして、ルージュの持つブルーメタルの剣はミスリル以上の硬度を誇る伝説の金属、ブルーメタルで作られている。この5名の武器が、ミスリル以上の硬度を誇る武器なのである。

一方、ミソラミハル親子の持つブルーセイバーやエスカのマジックソードは魔法鉱石で作られており、硬度は銀と同程度、銃は先ほどの様に効果がない。ラーナの持つルーンブレードは一見効果がありそうだが、相手は魔法に耐性のあるドラゴンなので、仮に効いたとしてもミスリル製の武器で斬った方が早い。その為、リヒト達は望んで攻撃を仕掛けたのである。

そのリヒト達はドラゴンに一斉攻撃を仕掛けていた。リヒトがクリスタルセイバーでドラゴンの身体を切り裂き、ナハトがドラゴンの背中に乗り、シャドウエッジを突き刺した。トルトゥーガはナハトが付けた傷口にセインスピアードを突き刺し、デロリアも同じ様にリヒトの付けた傷口を斬りつけていた。そして、ルージュは旋風刃を放ち、ドラゴンに大きなダメージを与えていた。しかし、ドラゴンは一向に倒れる気配を見せず、むしろ痛みを感じ、暴れていた。身体をのたうち回し、尻尾を振り回し、口からは火球のブレスを吐き、各所を破壊し尽くしていた。その様はまさに破壊神と言う言葉が似合っていた。意外な展開となった事で、ルージュはナハトにこの状況について説明してもらう事にした。

「ちょっと! ナハトさん、何か暴れまわってるんだけど?」
「これは少し計算外だったな、ドラゴンの生命力を舐めていた…」
「どうするの…? ナハト…」

デロリアのその言葉に、ナハトは少し考えた。自身の今までの旅や戦いの経験で、この状況に対する対応策はおのずと出てくる為、ナハトはすぐに答えを出した。

「そうだな…トルトゥーガ! 俺とリヒトの前に魔導障壁を張ってくれ!」
「うん! 分かった!!」
「あたしとデロリアさんは?」
「ルージュとデロリアの二人はドラゴンの目を潰してくれ!」
「うん…ナハトがそう言うなら、頑張るね…」
「ったく! リヒト! あたしに奢るものは奮発してよね!」
「うん…僕のお小遣いで払えるものなら…」

その後、デロリアとルージュはドラゴンの方に向かって行き、二人は真っ先にドラゴンの両目を潰した。当然、ドラゴンは目を潰された痛みと暗闇の恐怖で暴れまわった。その間に、ナハトはケイオスブラスターに雷の魔力を収束、リヒトはクリスタルセイバーに光の魔力を収束させていた。そして、トルトゥーガはいつ攻撃が来てもいいように魔導障壁で二人を守っており、他のメンバーはナハト達に攻撃が行かないように銃撃などで気を引き付けていた。

「父さん、魔法攻撃はあいつに効かないんじゃないの?」
「あれだけ傷を付けたんだ、ある程度は効くはずだ、それに、俺が放つ攻撃はちょっと特殊でな…威力がありすぎて未だに放った事がない技なんだ…」

そう話している内に二人の魔力の収束が完了した。それと同時にドラゴンがナハト達の方に向かって来た。

「今だ! トルトゥーガ! 離れろ!!」

ナハトの声を聞き、トルトゥーガは後方に跳んだ。その直後、リヒトはX字を描くようにクリスタルセイバーを放った。放たれた二つのクリスタルリッパーはドラゴンの胸部にX字の傷を与えた。リヒトは頭の中でこの技の名前はクロッシングクリスタルリッパーにしようと思った。そして、ナハトはケイオスブラスターの銃口をドラゴンに向けた。

「こいつで砕け散ってしまえ! ライトニングレールガン!!」

ナハトが放った電撃の弾丸は凄まじい速度で飛んで行き、ドラゴンの胸部に直撃、そのままドラゴンを城の外まで吹き飛ばし、体を貫いた。その直後、ドラゴンは爆発四散し、文字通り砕け散ってしまった。

「凄い威力だ…父さん、今の技は?」
「ライトニングレールガン、雷の魔力を目に見えない程の速度で撃ち出す技だ」
「そんな強い技、何で今まで使わなかったの?」
「単純に威力がありすぎるからだ、周りに被害が出る可能性があったし、下手をすればケイオスブラスター自体が砕け散ってしまう可能性もある」
「だから…ナハトくんはシュヴァルツゼーレの戦いや私との直接対決でも封印して、今の今まで使わなかったんだね…」
「そうだ、この技自体は17年前のシュヴァルツゼーレとの戦いで、特訓の最中、かなり初期の段階で身につけた技なんだが…まあ、人間相手に使ったらあれだからずっと封印していたんだ」
「でも、僕達が今戦ってる相手は人間じゃなく魔族だから使う、そうだよね? 父さん」
「ああ…まあ、ケイオスブラスターに負担がかからない程度でなら使えるがな」
「頼りにしてるよ、父さん」

その後、リヒト達は階段のある方へと向かって行った。この先にヴァンレルがいるかもしれない、そう思うと身震いしたが、人々の平和の為、戦うしかないと感じた。

(ヴァンレル…君がどんなに強くても、僕達は絶対に負けない…! 君と決着を付けて、必ず平和を勝ち取ってみせる…!!)

リヒトはそう思いながら階段を上って行った。全てはネオシュヴァルツゼーレとの決着を付け、17年の因縁を終わらせ、平和を勝ち取る為…。そして、家族や仲間達と共に生きて帰り、平和な世界で暮らす為…。数多くの難関を突破し、長い階段を上り、リヒト達は遂にヴァンレルと対峙した。ヴァンレルは玉座に座っており、リヒト達が来てもなお余裕を持った様子であった。リヒト達が来た事を確認すると、まるでリヒト達を待っていたかの様に玉座から降り、リヒト達の方へ向かって来た。

「待っていたぞ、リヒトとその仲間達、お前達がここに来たと言う事は、俺を殺すつもりなんだな?」
「君がこんな事をやめてくれるなら、命を奪うつもりはない! だからヴァンレル! 今すぐこんな事はやめるんだ!!」
「やめてどうなる? この腐りきった世界が変わる保証でもあるのか?」
「世界を変える方法なんていくらでもある! 力で変えなくても! 君のやり方は間違ってるんだよ!!」
「じゃあ、何で未だに争いは、差別は、貧困は無くならない!?」
「それは…」

ヴァンレルは自身の魔力を使い、玉座の真上の壁に映像を投影した。その映像は、紀元前が終わり、聖歴と言う新たな時代が始まってからの人類と魔族の争いや、人類同士の争い等、様々な映像が映し出されていた。ヴァンレルは恐らく、何かしらの古魔法を使い、このような過去の出来事を映像として映し出しているのだろう。その映像を見たリヒト達は、過去の争いの激しさを目の当たりにして、自分達がいかに平和な時代に生きているのかと感じていた。過去の人間たちは今よりもずっと理不尽な理由で死んでいった、その事実を今、認識したのであった。

「これがこの世界で起こった主な争いだ、これだけ多くの争いを乗り越え、多くの命を落としてもなお、人類は一つになれていない、そのせいで俺の家族も死んだんだ」
「ヴァンレルの家族も…?」
「ああ、俺が人間と魔族のハーフと言うだけで俺の家族は人間共に殺された、生き残った俺は一人で必死に生き延びた、泥をすすってまでもだ!!」

ヴァンレルはある意味リヒトの影のような存在なのであろう。人間と光精霊のハーフで幸せな人生を過ごしたリヒトと人間と魔族のハーフと言うだけで悲惨な目に合ったヴァンレル。同じハーフと言うだけで何故ここまでの差があるのだろうか、人類が愚かなせいなのか。これがヴァンレルが世界を力で変えようとする理由なのだと知ると、リヒトは何とも言えなかった。

「人類の歴史は2000年以上の歴史を持っている、それでもなお争いや差別をやめない人類を変えるにはもう、力しかないんだ!!」
「それは違う! そんなやり方では、人間は変わらない!! また第二第三の君の様な存在が生まれるだけだ!!」
「そう言った存在は鎮圧すればいいだけの話だ!!」
「そんなのただの、独裁じゃないか!!」
「黙れ! お前の仲間にも、この世界が愚かなせいで人生を狂わされた人間がいるだろう! ナハト! そしてデロリア! お前達二人は愚かな人間のせいで人生を狂わされた! そして、デロリアはシュヴァルツゼーレを率いて世界を革命しようとした! 人間が変わらない限り、このような争いは繰り返される! リヒト! お前は何が正しいと思う!?」
「…分からない…何が正しいかなんて僕にはわからない…でも! お前のやり方は間違っている! それだけは正しいと思う!!」
「…結局分かってはくれないか…なら、俺はお前達を殺す」

そう言ってヴァンレルは宝石で飾られたオリハルコンの剣を鞘から抜いた。そしてその剣の矛先をリヒト達に向けた。

「お前達の中で一番厄介なのは、リヒト! お前と同化している女だ」
「クリスちゃんの事…? 君はクリスちゃんの正体を知っているの?」
「ああ、クリスは人類の長い争いの歴史の中で戦って来た者達の正義の心、そして平和を願う人々の想いが一つになり、具現化した存在だ」
「そうだったんだ…」
「そして、その力は世界を平和にする可能性を秘めた者だけに与えられると言う…人間と光精霊のハーフであるリヒト! お前だ!!」

そう言ってヴァンレルは一瞬でリヒトに接近し、剣を振り下ろした。だが、リヒトは寸前の所でクリスタルセイバーで受け止めた。

「リヒト…お前はいいよな? 仲間や力に恵まれて…俺はそんな君が憎くて仕方ない…家族以外の誰からも愛されなかった俺からすればな!!」

リヒトを殺そうとするヴァンレルを止める為、フェルネ、エフィ、シレーヌの三人は銃を発砲した。だが、ヴァンレルは左手で風の防御膜を発生させる魔法、サイクロンストームを放った。放たれた銃弾は風に巻き込まれ、そのまま三人の方へと飛んで行った。そして、その銃弾は三人の腕や足に命中し、三人は痛みのあまり地面に倒れ込んだ。

「フェルネちゃん! エフィちゃん! シレーヌさん!!」
「ほらほら! よそ見している場合か!?」

ヴァンレルは連続でオリハルコンの剣を振り、少しずつリヒトを追い詰めた。リヒトは反撃に出ようとしたが、その素早い剣さばきを前に手も足も出なかった。そんなリヒトを助ける為、ラーナとエスカが剣を取った。

「リヒトさぁん! すぐ助けますぅ!!」

ラーナはルーンブレードを最大まで伸ばし、奥義のルーンエッジを放った。だが、そのルーンエッジはオリハルコンの剣に受け止められ、ヴァンレルはラーナにトルネードの魔法を至近距離で放った。ラーナは大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。ヴァンレルの攻撃の隙を狙ってエスカはマジックソードに風の魔力を纏って斬りつけるウインドブレイカーの技を放った。だが、ヴァンレルはオリハルコンの剣で軽く切り払い、エスカにサイクロンの魔法を至近距離で放った。エスカはラーナと同じ様に大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかり、そのまま倒れ込んだ。

「ラーナちゃん! エスカさん!!」
「やれやれ…どいつもこいつも弱すぎる」

邪魔者を片付けたヴァンレルは再びリヒトを攻撃した。この状況を変える為、ココとルージュは作戦を立てていた。

「ルージュ、私が隙を作る、その隙にお前は未完成のあの技を放て、いいな?」
「えっ? でもあの技はまだ成功した事がないわ」
「その技じゃないと、奴は倒せない、ぶっつけ本番だ、いいな?」
「…分かりました、絶対に成功させるわ」

そう言うと、ココはヴァンレルに剣を振り下ろした。ヴァンレルはその攻撃を回避し、ココの腹部に剣を突き刺した。

「ぐっ…!!」
「ココさん!!」
「いい加減邪魔だよ、弱いんだから邪魔すんなよ」
「ふっ…ルージュ! やれ!!」
(ココさんが命を懸けたんだ、ここで成功させなきゃ、あたし、格好悪いじゃない!!)

ルージュは旋風刃の構えを取り、コマの様に高速回転した。だが、その回転力は通常の旋風刃の3、4倍以上になっており、目にも止まらぬスピードで高速回転していた。この技はルージュが100回以上挑戦して一度も成功しなかった幻の技、多重旋風刃である。そして、そのままヴァンレルの周りを回転し、ヴァンレルを攻撃していたが、ヴァンレルはギリギリその攻撃を防いでいた。

(この男…私の多重旋風刃に対応している…!? でもね、こっちだって必死なのよ!!)

ルージュは更に回転数を上げた。そして、そのスピードのまま一気にヴァンレルの背後に回り込み、剣を突き刺した。それと同時にヴァンレルもルージュに剣を突き刺した。結果、ルージュの剣はヴァンレルの心臓を貫いており、ヴァンレルの剣はルージュの左肩を貫いていた。二人は同時に地面に仰向けに倒れた。

「ハァ…ハァ…どうよ、これがあたしの本気よ…」
「お疲れ、ルージュちゃん、ありがとう、ココさん…お母さん! 早く治癒魔法を!!」
「はいはい、まずはココから回復させるわね」
「早くして頂戴よ、あたし、痛いの苦手なんだから…」

ネオシュヴァルツゼーレのリーダーであるヴァンレルは倒れ、世界に平和が訪れた。そう思った矢先、ヴァンレルの遺体に影の様なものが集まっていた。

「ねえ、お母さん、あれ、何…?」
「…何が起こってるの…?」
「嘘でしょ…ヴァンレルは確かに死んだはずよ…だってあたし、確かに心臓を…」

ルージュの渾身の多重旋風刃の一撃を受け、戦死したヴァンレル。ネオシュヴァルツゼーレのリーダーを倒した事で戦いが終わったと感じ、安堵するリヒト達。しかし、まだ戦いは完全に終わっていなかった。ヴァンレルの死体は赤黒いオーラに包まれ、その姿を変貌させていき、ヴァンレルは赤黒いオーラに包まれたままその体を巨大化させていった。その直後、大きなエネルギー爆発が発生した。爆発が収まった後、そこにあったのはカニとクモが合わさったような姿の怪物であった。

「あれがあの野郎の奥の手か…自分の体を変貌させるとは、悪趣味な野郎だ…」
「俺はまだ終わってない…古の呪文から入手した過去の邪神や魔王の残留思念…これを使って、俺は神に近い力を手に入れた…これで俺はこの世界を革命させる…!!」
「ヴァンレル!! 君はそこまでしてこの世界を革命させるつもりなのか!?」
「もちろんだ! こんな腐りきった世界、一度灰にしてから作り直した方がいいと感じたんだ!! だから、手始めにお前達を地獄に送ってやる!!」

そう言ってヴァンレルは体に生えているカニのような前足を伸ばし、ミソラを薙ぎ払った。ミソラは壁に強く衝突し、気を失った。

「お母さん!!」
「ミハルちゃん、今はあいつの攻撃に専念して!!」

トルトゥーガのその言葉ですぐさまヴァンレルの攻撃に専念したミハル。しかし、ヴァンレルは続けて前足や後ろ足を伸ばしてリヒト、ナハト、ミハル、トルトゥーガ、デロリアの5人を攻撃した。リヒト達はそれぞれ剣で攻撃を切り落とし、ナハトはシャドウエッジやケイオスブラスターで迎撃していた。だが、ヴァンレルの足は切り落とそうが破壊しようが無尽蔵に生えてきていた。

「ハハハハハ!! 俺は神だ!! この力は神の力なんだ!!」
「あの野郎…! 完全に狂ってやがる!!」
「ヴァンレル! その力は神の力じゃない!! 悪魔の力だよ!!」
「そんな事知った事か!! この世界を灰にできるなら、俺は…!!」

ナハトとリヒトはもう既にヴァンレルは人である事を捨てていると感じた。既に人の心を失ったヴァンレルに対し、ミハルとトルトゥーガは哀れみを感じていた。

「ヴァンレルさん! 本当にこんなやり方で世界が変わると思ってるの!?」
「この世界で必死に生きているのはあなただけじゃない! みんなが必死に生きているの!! それを壊すなんて、私達は許さない!!」
「うるさい! うるさいうるさい!! 俺はこの神の力で、世界を革命させるんだぁぁぁッ!!」

かつて世界を変えようとして変えられなかったデロリアもまた、ヴァンレルに対し、哀れみを感じており、彼女はヴァンレルに17年前の戦いで自身が感じた事を伝えた。

「ヴァンレル…! 人間は神にもなれないの…、かと言って悪魔にもなれない…、どんなに頑張っても、人は人なのよ…!!」
「黙れ…!! 黙れ黙れ黙れぇぇぇッ!!!」

ヴァンレルは体からカニのハサミのような物を生やした。そして、そのハサミを開き、そこから強力なエネルギーを放ち、リヒト達を攻撃した。

「危ないッ!!」

トルトゥーガは魔導障壁を全開にし、リヒト達を守った。危うく魔導障壁を貫かれそうにはなったものの、何とか守り切った。だが、ヴァンレルは既に二発目の準備を整えていた。このままでは負けてしまう、リヒトがそう思った瞬間、クリスの声が頭の中に響いてきた。そのクリスの声は、仲間全員に届いていた。

「皆さん、リヒトくんに皆さんの力を与えてください!」
「クリスちゃん! みんなの力が僕に集めた後は、どうすればいいの?」
「いつも通りクリスタルリッパーを放って、それなら何とか勝てるはずです!!」
「分かったよ!!」

クリスの言葉を聞いた仲間達は、リヒト向けて手を伸ばし、魔力を与えた。リヒトは仲間の魔力を貰うのに専念し、ナハト、トルトゥーガ、デロリア、ミハルの4人は魔力を与えながらヴァンレルの足を相手していた。絶対にリヒトを守る、その一心で4人は戦っていたのである。そして、ヴァンレルのエネルギーチャージより先に、リヒトに魔力が集まった。

「集まった! 行くよ! クリスタルリッパースペシャル!!」

リヒトは剣を振って特大のクリスタルリッパーを放った。クリスタルリッパースペシャルと名付けられたこの技は、クリスタルリッパーの実に10倍の威力を誇っている。ヴァンレル目掛けて一直線に飛んで行ったクリスタルリッパースペシャルに対し、ヴァンレルは強力なエネルギーを放って迎撃した。しかし、クリスタルリッパースペシャルはそのエネルギーを容易く切り裂き、そのままヴァンレルの胴体を一刀両断にした。胴体を一刀両断にされたヴァンレルはそのまま地面に倒れ込んだ。

「馬鹿…な…俺は…神…に…なった…んだ…こんな…はず…は………」
「ヴァンレル、君は神でも、悪魔でもないよ、革命のやり方を間違えた、ただの人間さ」

直後、ヴァンレルの体は灰となり崩れ去った。これで本当に戦いは終わった、そう思った矢先、灰の中から分離した赤黒いオーラが一か所に集まり始めた。

「おいおい…まだ現れるってのか…?」
「ナハト、ここまで来たら最後まで警戒は解かないでおきましょう」

赤黒いオーラはそのまま人の姿を形どった。実体を持たない煙のような存在であったが、その状態でも強大な力を感じさせた。

「あの小僧は結局使えなかったか…まあいい、貴様達の相手は、我がする…」

ヴァンレルの灰から分離したのは、赤黒い霧のような姿の謎の存在であった。その存在は実態を持ってないにも関わらず、圧倒的な威圧感を持っていた。対峙するだけで感じるその強大さ、リヒト達はその存在に対し、身震いしていた。

「お前は、一体何者だ?」
「我は今まで人間共に滅ぼされた邪神や魔王の残留思念、そうだな、今はダークミストとでも名乗っておこうか…」
「まさかとは言わんが、貴様があのヴァンレルを操っていたのか?」
「ああ、奴は人間に対する憎しみの余り、禁断の古呪文を使い、我を復活させた、そして、我は奴と契約したのだ」

ナハトは自身が今まで旅をした中で、今まで人間に倒された邪神や魔王の伝説を聞いていた。どれも強大な力を持っていたが、最後は勇敢な人間に滅ぼされたと言う。それらの残留思念と今、対峙してるとなると、少しだけだが恐怖を感じていた。

「じゃあ、ヴァンレルはずっと君に操られていたのか?」
「いや、我は奴と契約し、力を貸していたに過ぎん、だが、奴が目的を達成させた時に我はすかさず奴の体を支配するつもりでいたのだ」

リヒトは思った、仮にヴァンレルが自分達に勝ったとしても、どの道ヴァンレルはこのダークミストに支配され、思うがままに操られたのだろうと。すると、今度はトルトゥーガがダークミストに質問をした。

「じゃあ、あのヴァンレルって子は、ずっとあなたに裏で操られていたって言うの?」
「そうだ、そして、我の真の目的は、人間を根絶やしにし、この世界を闇の世界に作り変える事だ!!」

リヒトはダークミストに対して怒りを覚えた。いや、この場にいる全員がダークミストのその凶悪さに怒りを覚えたであろう。こいつのせいで多くの人間の人生が狂わされたと思うと、怒りが込み上げてきた。

「ふざけるな! ヴァンレルはヴァンレルなりに世界の平和を願っていた! なのにお前はただ人を殺す事しか考えてない! 辛い思いをしたヴァンレルを利用して…!! 僕は、お前を絶対に許さない!!」
「よく言った、リヒト、奴は俺とデロリアを17年間もあんな狭い所に閉じ込めた元凶だ、奴は必ずこの手で叩き潰す!!」
「できるかな? 貴様らに」

ダークミストは体中から濃い紫色の毒霧を放出した。その毒霧は少しずつリヒト達に向かって来ていた。だが、リヒトはクリスタルセイバーを掲げ、眩い光を発生させた。すると、その毒霧はきれいさっぱり消え去った。

「なるほど、これが噂に聞いたクリスの力か、なら、これはどうだ!?」

ダークミストは辺りを一瞬暗くすると、リヒト達の周りに高重力を発生させた。その途端、リヒト達は立つことが出来ず、地面に膝を付いた。続けてダークミストは再び毒霧を発生させ、リヒト達を毒殺しようとした。

「これが…ダークミストの力なの…」
「リヒトくん!!」
「大丈夫、任せてよミハルちゃん」

リヒトは腕に力を込め、何とかクリスタルセイバーを持ち上げて掲げると、再び眩い光を発生させた。その光は毒霧を消滅させると同時に、重力を元の状態に戻した。クリスタルセイバーから発生する光のあまりの万能さに、ダークミストもかなり驚いていた。

「ほう…その光はかなり万能なのだな」
「今度はこっちから行くぞ!!」

そう言ってリヒトはクリスタルセイバーでダークミストを攻撃した。だが、ダークミストは実態を持たぬ存在である為、攻撃が全く通用しなかった。続けてトルトゥーガ、ミハル、デロリアも攻撃を仕掛けたが、当然攻撃は通用しなかった。更に、ナハトが炎の魔力を収束させ、ケイオスブラスターからフレイムバレットを撃ち出したが、これも通用せず、逆に吸収されてしまった。

「魔法は全て吸収、物理攻撃は通用しない、これは厄介だな」
「諦めよ、人間の力では、我を倒す事はできぬ」

その時、クリスが再び仲間達に語り掛けた。それは、怪物化ヴァンレルを倒した時同様、リヒトに力を与えると言う物であった。

「皆さん、再びリヒトくんに力を与えてください、今度はあの時よりももっと多い力を…!!」

「…分かったわ、ナハト、あなたの息子だからちゃんと与えてあげるのよ?」
「分かってるよ、シレーヌ、全く、世話の焼ける子だ、トルトゥーガ、お前もいいな?」
「ええ、勿論よ、ミソラ、エスカ、ココ、あなた達も頼んだわよ?」
「分かってるわよ、できるだけ多くの力を与えるから!!」
「力…ねぇ、とりあえず、魔力を多く与えるわ!!」
「…これが終わったら、しばらく休もう…」

「みんな! リヒトくんの為に力を!!」
「分かった! エフィ! 私の持つ魔力を全部与えましょう!!」
「うん! 全部持って行っていいよ! リヒトくん!!」
「リヒトさんの為にぃ、私の魔力を全部与えまぁす!!」
「ったく、こんなサービス、滅多にしないんだからね、受け取んさない! リヒト!!」

その後、仲間の力を受け取ったリヒトは、クリスタルセイバーにその魔力を収束させた。しかし、あまりに多くの力を受け取った為、受け取り切れない力が溢れ出ていた。
すると、ナハトはその力をケイオスブラスターに吸収させていた。

「父さん…!!」
「ったく、最後まで世話の焼ける子だな」

直後、ダークミストがナハト、リヒト親子目掛けて暗黒光線を放ってきた。だが、それをトルトゥーガが魔導障壁で防御した。魔力を使い果たして防ぎきれないトルトゥーガに、デロリアとミハルが力を与え、何とか防いでいた。

「ナハト! リヒト! 行って!!」
「うん! 一緒に行くよ、父さん!!」
「言われなくても…!!」
「クリスタルバースト!!」
「クリスタルレールガン!!」

リヒトはクリスタルセイバーから光のビームを放ち、ナハトはケイオスブラスターから光のビームを放った。その二つの光のビームはダークミストを飲み込み、ダークミストの体を消滅させていった。

「ぐおぉぉぉ…!! 我の体が…! 消滅する…!! おのれ…! 人間共めぇぇぇぇぇッ………!!!」

直後、ダークミストの体は完全に消滅した。全ての元凶を倒したリヒト達は、戦いが終わった事に安堵した。しかし、ダークミスト撃破と同時に浮遊要塞の各所で爆発が起こった。

「爆発!? これって…」
「ああ、どうやらこの浮遊要塞の持ち主が死んだことで崩壊が始まったんだ」
「じゃあ、急いで脱出しなきゃ!!」

リヒトとナハトがそう話した後、崩れ行く浮遊要塞から脱出する為、リヒト達は慌てて階段を降りて行った。階段を降りると、フライハイト号のある場所まで全速力で走った。リヒト達は無事全員でフライハイト号に乗り込み、機体を発進させた。フライハイト号はすぐに宙に浮きあがり、そのまま浮遊要塞から脱出した。しかし、浮遊大陸はかなりの大きさを誇っており、このままではニューエデンシティにかなりの被害が出てしまう。このままではまずい、そう考えたその時、ミソラがあるアイデアを出した。

「よし、あまり気は進まないが、主砲のフライハイト砲を使うしかない!」
「おい、ミソラ、何だそのフライハイト砲ってのは」
「このフライハイト号に装備されている超魔力砲だよ、でも、未完成だから下手するとフライハイト号のエンジンがオーバーヒートして墜落してしまうかもしれない…」
「何でそんな欠陥装備を…って、それどころじゃない、今はあの浮遊要塞を破壊するのが先だ!!」
「ミソラさん、ここはお父さんの言う通り、フライハイト砲を使いましょう!!」
「…仕方ないな…もう墜落しても知らないからな!!」

そう言うと、ミソラはフライハイト号を操縦するタッチパネルに手を置いて操作し、フライハイト砲発射の準備を取った。フライハイト砲は文字通りの欠陥装備である為、ミソラは正直撃ちたくないなぁ…と思ったが、多くの命には代えられない。発射準備を取ると、フライハイト号前面にある主砲に魔力が収束されて行き、フライハイト砲発射の準備が整った。

「フライハイト砲、発射!!」

ミソラはタッチパネルを操作し、フライハイト砲を発射した。フライハイト号の主砲からは大出力の魔力のビームが発射され、浮遊要塞をニューエデンシティの外れの海上まで押し出した。直後、浮遊要塞は大爆発を起こし、四散した。

「凄い威力ね…」
「ああ、もしミソラがこれを撃つ判断してたら、俺とお前死んでたな…」
「大丈夫よ、私はすぐに何でもかんでも撃つ性格じゃないから!!」

すると、フライハイト号のエンジン室から爆発音が聞こえた。その直後、フライハイト号は万有引力の法則に従って墜落した。

「あ、やっぱ駄目だったみたい…」
「ミソラァァァッ!! 後で覚えとけよぉぉぉッ!!」

フライハイト号はそのまま地面に墜落した。幸い、フライハイト号は頑丈に作られていた為、大破はしなかったが、エンジン室から火が出ていた。その後、リヒト達は慌てて外に出たが、幸い死者は1人もいなかった。

「よかった…みんな無事みたいだね…」
「全く、お母さんったら、こんな未完成な物作って!!」
「ごめんごめん、でも、おかげで街に大きな被害は出なかったわね…」

その後、防衛隊の隊員たちから街に現れた魔物たちを全て倒した事が報告された。こうして、ネオシュヴァルツゼーレとの全ての戦いが終わったのである。

「…これで全部終わったんだね…父さん…」
「ああ、そうだな…あの日から始まった因縁が…これで…」

あの日デロリアとの別れから始まったシュヴァルツゼーレとネオシュヴァルツゼーレの戦い。長きに及ぶ戦いであったが、この戦いはようやく終わりを告げたのである。辛く、苦しい日々であったが、これからは平和な世界で平和な日々を過ごせるのである。リヒト達は戦いが終わった事を祝杯し、自身の家で小さなパーティーを開く事にした。このパーティーは共に戦った仲間に感謝すると同時に、その仲間達との別れを意味していた。仲間達はこれから歩む道がそれぞれ違う、ネオシュヴァルツゼーレの戦いの間は共に過ごしていたが、それが滅んだ今、共にいる意味がない。一つの戦いを乗り越えた今、皆は新たな道を歩むことになるのだ。

「みんな…今まで本当にありがとう、乾杯!!」

リヒトの合図で、全員は持っていた飲み物で乾杯した。ずっと探していた父親と再会したリヒトは、日常の中で初めて父親と会話した。

「父さん…これからはずっと一緒に居れるんだよね…?」
「ああ、今まで一緒に居られなかった分、これからはずっと一緒に居てやる」
「ありがとう…父さん…」
「ナハト、これからは家事もやってよね? 私とリヒトだけでやるの、疲れたんだから」
「ああ、分かったよ、お前にも本当に迷惑かけたな」

すると、ミソラミハル親子がリヒト一家の元へやって来た。ミソラは酒が入って酔っている様子であり、ミハルが横で支えていた。

「リヒトく~ん? うちの子と仲がいいんだってね~? これからも仲良くしてやってよ~? 何ならお嫁さんにしてもいいのよ~?」
「な…何言ってるんですか!?」
「そうよお母さん! お酒飲みすぎ!!」
(酔ったミソラ、初めて見たぞ…こんな感じだったのか…)

一方のシレーヌ達は、これからどうするかを話し合っていた。今回の戦いではシレーヌの作った特殊弾頭頼みであった事から、フェルネとエフィはもっと銃の腕前を上げようとしていた。

「私、銃の腕前には自信があった…でも、結局はお母さんの特殊弾頭頼みだった…」
「そうそう、お母さんの特殊弾頭は強いからね」
「そう言う自身家な所は気に入らないけど、私はもっと腕を上げたい、エフィもそうでしょ?」
「うん! 私も、もっと腕を上げたいよ!」
「じゃあ、明日からエスクード大陸へ修行に行きましょうか?」
「うん! 私、いつか絶対世界一の銃使いになってみせるね!」

その頃、エスカとラーナはパーティーの食材を食べていた。特にラーナは最終決戦で魔力を使い果たした為、お腹を空かせていた。

「ラーナはよく食べるわよね~」
「だってぇ…ルーンブレードを使ったらぁ、お腹が空いてしまうんですぅ…」
「それは多分だけど、ラーナが魔力の調整をうまく出来ないからじゃないかな?」
「そうなんですかぁ?」
「うん、だから明日から、魔力の調整ができるようになる特訓をしましょう」
「はい! お母さん!」

仲間達が未来についての話をしている中、ココとルージュはデロリアと話をしていた。いくら改心して共に戦ったとはいえ、デロリアは17年前の戦いの元凶である。そんな人物を、簡単に許す事はできないのである。

「デロリア、お前はこれからどうするつもりだ?」
「今回は一緒に戦ってくれたけどね、あんたは17年前の戦いを起こした元凶なの、簡単には許せないわ」
「わ…私は…」

2人に問い詰められて困っているデロリアの下に、ナハトがやって来た。

「よせ、2人共、こいつは俺達と共に戦ってくれた」
「ナハト…」
「だが、ナハト、こいつがした事を忘れたわけではあるまい」
「そうよ、こいつのせいで多くの人が死んだのよ?」
「もちろん、それは許すつもりはない、だから、俺はデロリアに人生をかけて償う罰を与える」
「ナハト…それって…」
「デロリア、お前はこれから生きろ、どんなに辛い思いをしても、惨めに、あがいて、それがお前の為に死んだ人間にできる、せめてもの償いだ」
「うん…私…償うよ…この人生をかけて、償う…だから…ナハト…これでさよならだね…」
「ああ、辛くなったら、いつでも会いに来いよ、デロリア」
「うん…また会おうね…ナハト…好きだよ…ずっと…」

そう言ってデロリアはリヒトの家から去って行った。デロリアの作ったシュヴァルツゼーレと、それを引き継ぐネオシュヴァルツゼーレ。どちらの組織も滅びた今、デロリアは一人の女性として生涯を生きていくのである。彼女に待ち受ける運命がどんなに過酷でも、彼女は生きなくてはならない。それが彼女にできる、唯一の償いだから。

パーティーが終わった後、リヒト達はこれからどうするかを教え合っていた。これで本当にみんなと別れだと思うと、辛くもあった。

「僕と父さんと母さんはずっとここで暮らすけど、みんなはどうするの?」
「私はフェルネ、エフィと共にエスクード大陸に修行に行くわ、まあ、たまにここに立ち寄るかもね?」
「私はぁ、お母さんと一緒に修行の旅に出まぁす」
「私はまた獣人族の村に戻る、ルージュはどうするんだ?」
「あたしはしばらくニューエデンシティに残るわ、別に、この街が気に入ったとか、そう言うのじゃないから、勘違いしないでよね!」
「で、私とお母さんは防衛隊のみんなと一緒にニューエデンシティの復興作業に取り掛かるわ、リヒトくんも手伝ってよね?」
「うん! 僕達一家も、できる事はするよ!」

その夜、リヒトとその仲間達はリヒトの家に泊り、翌日、仲間達はそれぞれの道へ出発した。一つの戦いを終え、それぞれの道を歩んで行く仲間達は、皆、己の人生を歩んで行くのだ。

全ての戦いが終わって半年が経過した。多くの犠牲の上で成り立った平和である為、人々はこれを維持しようと努力した。世界はニューエデンシティを中心に国家が手を取り合う事で平和を維持することにした。当然、これから先も争いは起きる可能性はある、だが、世界はいつか必ず一つになれる。そう願いながら、人々は今日も生きていくことにしたのである。

全ての戦いを終え、普通の学生に戻ったリヒトは、今日もニューエデン私立学院に通っていた。今日はナハトが慣れない手つきで作った弁当を持って学校に向かった。ちなみに、ナハトが作った弁当は意外にも美味しいと好評である。

「じゃ、行ってくるよ父さん! 母さん!」
「気を付けてな」
「気を付けてね、リヒト」

そう言って見送るナハトとトルトゥーガに手を振り、リヒトは学校に向かった。まだ始業までは時間がある為、リヒトはゆっくりと歩いていた。暇なので辺りを見渡すと、まだ完全には復興してないが、かなり街が復興してきたのが分かる。終戦後は辺り一面が瓦礫だらけであったからだ。あの後、リヒト一家と防衛隊の隊員たち、そして、民間人やリヒトの力で記憶を失ったネオシュヴァルツゼーレの構成員と共に瓦礫の撤去作業を行ったのも既に過去の話である。ちなみに、元ネオシュヴァルツゼーレの構成員たちは皆、普通の仕事に就いて平和に暮らしている。若干乱暴かもしれないが、この方法が彼らにとって一番平和に暮らせる道なのかもしれない。すると、リヒトを呼ぶ少女の声が後ろから聞こえてきた。

「リヒトくん! おはよう!」
「あっ、おはよう、ミハルちゃん」

ミハルの他にも、エルフィナとアミア、そして何故か学園に入学したルージュも一緒であった。あの後、ルージュはなんだかんだでこの街を気に入り、この街で暮らすことになったのである。当然、住む場所などは持ってないので、現在は防衛隊に協力する事を条件に防衛隊基地に寝泊まりしている。

「おはよ、あんたも元気そうじゃない」
「いや、そうでもないよ、そうでも…ね…」

リヒトには今、一番の悩みがあった。以前命を落とした際、クリスと同化する事で蘇った。その際に同化したクリスが今、消滅しかけているのである。クリス曰く、本来ならもっと同化期間は長いはずであった。だが、最終決戦でクリスの持つ力を一気に使ってしまった事で、同化期間が一気に縮まったのである。クリスが消滅してもリヒトが死ぬ事はなく、クリスタルセイバーも残ると言う。しかし、リヒトにとってクリスは共に戦った大切な仲間、それが消えるのはとても悲しく、寂しい事である。

リヒトは最近学園生活の最中もその事ばかり考えている。いつかクリスは消えてしまう、それは今日か、明日か、明後日か、もしかすると今かもしれない。そう考えるだけで怖くなり、仲間と別れる事が怖くなってしまうのである。そんな日々が数日続いたある日の午後、リヒト一家とミハル、ルージュの5人がニューエデンシティの海岸に集まるよう、クリスに言われた。これはクリスとの別れの日が来たんだ、リヒトは直感でそう察した。

「今日、皆さんに集まってもらった理由、分かりますよね?」
「多分だけど、クリスちゃんとの別れの日が来た、そうでしょ?」
「はい、ミハルさんの言う通りです、遂に私の消滅の時が来たんです」

クリスはそう言うと、リヒトの体から分離した。分離したクリスの体は半透明で、体中から水色のオーラが抜け出していた。クリスに限界が近いのは確かなようであり、分離してすぐにクリスは地面に倒れ込んだ。

「クリスちゃん!!」

リヒト達はクリスに駆け寄った。クリスにまだ意識はあるようで、リヒト達に大切な事を語り掛けた。

「私が人々の正義の心や祈りが集まって生まれた存在って事は知ってますよね…?」
「当たり前だ、それぐらい、覚えてるさ」
「だから…私はいつか必ずこの世界に生まれます…それがいつになるかは分かりませんが…」
「馬鹿! だったら二度と会えないじゃないの! あんたが生まれるまで、何千年もかかったんでしょ!!」
「はい…そうですね…ごめんなさい…でも、私が消える時だけは、皆さんに笑顔でいて欲しいんです…」
「そんなの無理よ! クリスちゃんは、私達の大切な仲間、リヒトのお友達だもの!!」
「そうだよ! だから笑顔でいるなんて無理! ずっと一緒に居て欲しいよ…!!」
「トルトゥーガさん…ミハルさん…」

すると、クリスの体がどんどん薄くなっていった。どうやら、本当に限界のようである。別れが近づいている事に、リヒト達は焦りを見せ始める。だが、クリスは涙を流しながら、リヒト達に最後の言葉を残そうとしていた。

「皆さんと一緒に居れた事は、私にとって幸せでした…決していい事ばかりではありませんでしたが…それでも…私にとっては一番の思い出です…」
「クリスちゃん…それは僕達も一緒だよ…君と一緒に居れた事は、僕達にとって一番の思い出だよ…」
「俺も、お前と共に過ごした時間は少ないが、大切な家族みたいな存在だ」
「私も、まるで娘ができたような感覚だったわ…」
「ここにはいないけど、きっとフェルネちゃんやエフィちゃん、ラーナちゃんもクリスちゃんの事をお友達だと思ってるはずだよ」
「そうよ、だから安心して、あたしたちは、ずっと友達だから」
「皆さん…私は…皆さんと過ごすことが出来て…本当に…幸せでした…」

クリスの体は水色の粒子となって消えて行った。水色の粒子はすぐさま風に溶け込み、見えなくなった。これで完全にクリスとの別れが訪れた、そう思うと、涙を堪えきれなくなった。リヒト達は涙を流し、クリスとの別れを悲しんだ。共に過ごした仲間との別れ、その仲間との別れを悲しみ、涙を流した。

リヒト達はしばらく涙を流し、気持ちを落ち着かせた。クリスは自分達に笑顔でいて欲しいと言った、いつまでも泣いていては駄目だと。彼女と過ごした時間、それはかけがえのないものであった。リヒト達は、彼女と過ごした時間を大切な思い出にし、これからの人生を生きてゆくと誓ったのである。

「父さん、母さん、僕、父さんみたいに強くて、母さんみたいに優しい人になりたい…なれるかな?」
「フッ、なれるさ、お前なら」
「リヒトならきっとなれるわ、安心して」
「だよね、そうだよね」

「リヒトくんには、友達の私達がいるでしょ?」
「そうよ、だから、ひとりだけで頑張ろうとしちゃ駄目よ?」
「うん! 明日からも、みんなで頑張ろうね!」

リヒト達は一つの別れを経験した。だが、彼等にはこれから先、多くの別れが待っているだろう。それでも、彼等はその悲しみを乗り越え、一つ、また一つと成長してゆくのだろう。彼等の人生はまだまだ長い、その人生をどう生きていくのかは彼ら次第である。家族や仲間と共に、これからの人生を生きてゆく、それが彼らの人生なのだろう。そして、その人生はまだまだ始まったばかりなのである。

翌日、ニューエデンシティにネオシュヴァルツゼーレの残党と思われる魔物の群れが現れた。現れた魔物はカマキロンが2匹、タランチュラが2匹、コボルドが3匹、ゴブリンが5匹、アーマースネークが1匹であった。ミハルの部下の防衛隊が駆け付け、すぐに戦闘を開始したが、全身が鎧に覆われたアーマースネークが壁となった事で思うように攻撃ができなかった。アーマースネークは15mにも及ぶ体長を持っており、魔物の中でも特に強い部類である。防衛隊の隊員はアーマースネークの薙ぎ払い攻撃で吹き飛ばされ、負傷者が続出した。そこに、リヒト、ミハル、ルージュ、ナハト、トルトゥーガの5人が駆け付けた。

「シャオ、グレイス、フロス、みんな、遅れてごめん!」
「遅いよミハルさ~ん」
「私達、死ぬかと思ったよ?」
「ほんと…死ぬかと思った…」
「ごめんごめん! すぐに片付けるから!」

手始めに、ミハルが5匹のゴブリンを斬り捨て、ルージュが旋風刃で3匹のコボルドを倒した。続けてトルトゥーガがセインスピアードを振り、竜巻を発生させて2匹のタランチュラを吹き飛ばし、倒した。残った2匹のカマキロンとアーマースネークは、ナハトのスパークブラストとリヒトのクリスタルリッパーの同時攻撃で倒された。こうして、街に出現した魔物の群れは倒されたのであった。

「終わったね、父さん」
「案外あっけなかったな」
「でも、また来るはずよ、私達を始末する為に」
「大丈夫ですよ、トルトゥーガさん、私達なら、きっとやれます」
「そう言う事、だから、安心しなさいよ」
「そう…よね、大丈夫よね」

その頃、エスクード大陸で銃の腕前を磨いていたシレーヌ、フェルネ、エフィは半年の修行で銃の腕前が上がっていた。フェルネとエフィの特訓に付き合っていたシレーヌは、彼女たちの成長速度の速さに感心していた。それと同時に、もう自分に教えられることはないと感じていた。

「上出来よ、フェルネ、エフィ、もう私から教えられる事はないわ」
「何言ってるの、お母さん」
「まだまだシレーヌさんには教えてもらわないと困りますよ」
「だって、あなた達、特殊弾頭の製造方法も覚えちゃったじゃない、銃の腕前も上がってるし、もう教えられる事なんて…」
「それは違うよ、お母さん、お母さんには、人生の先輩として、教えてもらわないといけない事が沢山あるの!」
「銃以外の事だって、教えられますよね?」
「あなた達………分かったわ、私はあなた達の倍生きてるんだから、色々と教えてあげるわ、情報屋の実力、舐めないでよ?」
「それでこそお母さんだよ!」
「色々と、教えてくださいね?」

一方、アインベルグ大陸では、修行の旅に出たエスカとラーナが屋台で料理を食べていた。特訓で疲れていたのか、3人前の料理を平らげており、屋台の店主を驚かせていた。

「疲れましたねぇ…お母さぁん…」
「あぁ…本当に疲れた…どう? 少しは魔力の使い方、覚えれた?」
「もちろんですよぉ…半年前に比べて、半分ぐらいは抑えられるようになりましたぁ…」
「半分…半分…かぁ…」
「ど…どうしましたぁ…?」
「まだ足りないわね…ラーナ! 明日からはもっときつい特訓するわよ!」
「もっときつい…!? …分かりましたぁ、一人前になる為、私も頑張りまぁす!」
「OK! じゃ、今日はゆっくりと休みましょう」

ココが住んでいる獣人族の村では、1人の旅人が行き倒れていた。その人物は、シュヴァルツゼーレの元リーダーであるデロリアであった。あの後、デロリアは様々な所を渡り歩き、知らない間にここで行き倒れたのであろう。デロリアはココの家で介抱され、半日ぐらいで目を覚ました。

「…ここは?」
「私の家よ」
「ココさん…えっと…何で私はココさんの家に…?」
「知らないわ、あんたが獣人族の村の入り口で行き倒れていたからここに連れてきたの」
「あぁ…そう言えば、もう3日も何も食べてなかったんだ…えっと…何かあります?」
「クジラウサギのシチューならあるけど、食べる?」
「はい、それでいいです」
「OK、後、あんた、行く所ないなら、しばらくここに居なさいよ、ナハトには黙っていてあげるから…」
「大丈夫です、体力が回復したら、償いの旅に出ますので…」
「…偉いのね、あんた」

ニューエデンシティでは、ミソラを中心にフライハイト号の修理が行われていた。ネオシュヴァルツゼーレとしての記憶を失った元ネオシュヴァルツゼーレの構成員達と共に、フライハイト号の修理を行っていた。だが、ミソラには真の目的があり、それは空飛ぶ乗り物を一般化させる事であった。フライハイト号はその為の試作機及びベース機として開発しているのである。

「ミソラさん、エンジンの修理、終わりました」
「ご苦労だったね、アルメリア
「あの…ミソラさん、本当にできるんでしょうか? 空飛ぶ乗り物の一般化なんて」
「できるはずよ、それに、どこかで誰かがやらないと、一生できないじゃない?」
「そう…ですね、このフライハイト号の修理が完了したら、私も空を飛んでみたいです」
「その為にも、私達が頑張らないとね!」

その夜、リヒト一家は自宅で父親のナハトとこれからの事について話し合いをしていた。リヒトは今の自分はまだまだ未熟であり、どうすれば父親の様にたくましくなれるのかを気にしていた。

「ねえ、父さん、僕はどうやったら父さんみたいにたくましくて強い人間になれるかな?」
「いきなりどうした? お前は十分たくましいと思うが?」
「だって僕、気弱な所があるし…僕は父さんみたいにかっこよくなりたいんだ」
「別にそのままでいいんじゃないか?」
「…え?」
「リヒト、お前はそのままでいいんだ、別に俺の真似をする必要はない、敵の事を心配すると言うお前にはあって俺にはない心優しい所、それがお前の唯一無二の武器だと俺は考えている」
「父さん…ありがとう…僕は、僕なりに頑張ってみるよ」
「フ…まあ、頑張れ」

翌日の朝、リヒトはトルトゥーガの作った弁当を持ってニューエデン私立学院へと向かった。リヒトは学校に向かう前、ナハトとトルトゥーガに笑顔を見せた。

「じゃ、行ってくるよ父さん! 母さん!」
「気を付けてな」
「気を付けてね、リヒト」

そう言ってリヒトは家を出た。リヒトが出かけた後、ナハトとトルトゥーガは二人で会話をした。

「…こんな幸せな日々が来るとは思わなかったね、ナハト」
「ああ、そうだな…」
「ナハトは知ってるよね? 私達光精霊が、人間より長生きだって事…」
「知ってるさ、その事を覚悟して、俺はお前と結婚したんだから…」
「私…怖いの…あなたと…リヒトと…みんなといつかお別れしないといけない事が…!」
「別れはいつか必ず訪れる…トルトゥーガ、お前は光精霊と人間の寿命の違いで俺達が先に死別し、苦悩するはずだ、それでも俺は、君に生きて欲しい、だから、俺達の後を追うなんてことはするな、それが俺の願いだ…」
「分かった…私…ナハトが…リヒトが…みんながいなくなっても…頑張って生きるよ…それがナハトの…願いなら…」
「それでいい…それでいいんだ、トルトゥーガ…」

こうして、二世代に渡る物語は終わりを告げた。苦しい事も辛い事もあったが、彼等は無事に平和を勝ち取った。その平和がいつ終わるかは分からないが、彼等は今ある平和を生きてゆく事だろう。人間はその短い人生を頑張って生きて行かなくてはいけない。それが、人として生まれた宿命なのだから…。