クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

太陽と月と希望の剣士たち 前編「太陽と月の章」

物語は半年前から始まる…。突如、世界に現れたヴェンジェンスと言う組織、この組織は堕落に満ちた世界を変えると言う名目で活動を開始した。そして、手始めに平和な農村カプリス村を攻撃し、滅ぼしたのだ。ヴェンジェンスの圧倒的戦力であっという間に火の海になったカプリス村、この出来事は瞬く間に世界中に広まり、ヴェンジェンスの脅威を知らしめた。

そして、この出来事で人生が大きく変わった1人の青年がいた。この物語の主人公、タクト・レイノスである。タクトはカプリス村出身の18歳の若い青年であり、旅に出ると言って長らくカプリス村に戻っていなかったが、久々に戻ってみると自身の故郷が火の海になっていたのだ。

タクト「何だよこれ…俺の故郷が…!」

タクトがカプリス村に戻った時には既に村中が焼け落ちていた後だった。村人は全員殺され、人や物が焼けた匂いが漂い、村中に死体が転がっていた。あまりに凄惨な光景にタクトは怒りを爆発させた。

タクト「許さねえ…! こんな事をした奴を…ぶっ殺してやる…!!」

彼はこの時誓った、自身の故郷を滅ぼしたヴェンジェンスを倒し、ヴェンジェンスを完全に壊滅させる事を。そして、彼はすぐに旅に出た、ヴェンジェンスを倒す為に…!

タクトが旅を始めて半年が経った…。あれから彼には様々な事があった。まず、300年前の大戦で使われた聖剣エスペリアを手に入れた。これはレイノス家に代々伝わる聖剣であり、彼の先祖は、300年前の大戦にて、目まぐるしい活躍をしたと伝わっているのだ。カプリス村焼き討ちの際、焼け落ちた家を漁っていたら見つけたものであり、非常に状態が良かったためそのまま自身の愛剣となったのだ。

そしてもう一つ、最新鋭の乗り物、シエルプランシュを手に入れた。シエルプランシュはサーフボードの様な見た目だが、低空を飛行できる乗り物だ。これは旅の途中で立ち寄ったとある街にて30000Gで購入したものである。低空飛行の原理は風の魔力を本体に蓄えておく事で、浮遊力が生まれ、低空を飛行できるらしい。高い魔力を持つ人物でないと上手く操れないらしいが、タクトはこれを軽々と乗りこなしている。そして、タクトはシエルプランシュに乗ったまま次の村を目指していた。

タクト「次の目的地は…ホドの村か…もうすぐだな…」

タクトはシエルプランシュで低空飛行しながらまっすぐに草原を駆けていった。そして、そのままホドの村の前に到着した。すると、彼はシエルプランシュを魔法で別空間に転送した。

高い魔法力を持つ者は魔法であらゆる物を別空間にしまう事ができるのだ。その為、タクトは収納に困る事も無ければ泥棒に困る事も無いのである。ただし、しまっておける物量には限界がある為、注意は必要である。ちなみに、取り出す時はコネクトの魔法で取り出す事が可能だ。そして、タクトは情報収集の為、村の酒場に向かった。

酒場のカウンターに座ると、注文を聞かれた。タクトは酒が飲めないので、大好物のミックスジュースを注文した。すると、後ろにいた少女がタクトに興味を持ったのか話しかけてきた。

少女「ねえねえ、あなた結構強そうだね」
タクト「誰だお前」
少女「私はリリシェ、リリシェ・ルーンこう見えて旅の剣士だよ」

リリシェと名乗った彼女は17歳の少女であり、ルビーの様な色の長い髪と深紅の瞳を持った美少女であった。旅の剣士ではあるが、ファッションに気を使っているらしく、かわいらしいスカートを履いたり、頭にリボンを付けたりしていた。それは、適当に旅をしやすい服装をしていたタクトとは全く正反対であった。おまけに旅をしている割に服はとても綺麗で汚れ1つなかった。とりあえず、タクトは自己紹介を返す事にした。

タクト「俺はタクト、タクト・レイノスだ、で? 俺に何の用だ?」
リリシェ「いや、君強そうだなって思ってさ、あのヴェンジェンスも倒せそうだなって」
タクト「お前は冗談だと思うだろうが、俺はヴェンジェンスを倒す旅をしている」

すると、その言葉に酒場中がざわついた。あの恐ろしい強さを持つヴェンジェンスには誰も逆らおうとしないからだ。すると、近くにいた男性が話しかけてきた。

男性「あんた、やめといた方がいいよ、逆らったら殺されるって」
リリシェ「そうだよ、今のは冗談だから、ね?」
タクト「いや、やめるつもりはない、俺はあいつらに故郷を滅ぼされたからな」

すると、タクトの注文していたミックスジュースが届いた。大きなコップに一杯入っていたそのミックスジュースをタクトは一気飲みした。その豪快な飲みっぷりにリリシェは圧倒されていた。ミックスジュースを飲み終えると、タクトは酒場を後にした。そして、そのままホドの村を出て次の場所へと徒歩で向かった。すると、後ろからリリシェが付いてきた。

タクト「…何故付いてくる」
リリシェ「私ってこう見えて結構強いのよ?」
タクト「んな事知るか、と、言うか付いてくるな」
リリシェ「んもう、イジワル」

しばらくすると、リリシェがある話を持ち出した。

リリシェ「ねえねえ、知ってる? 300年前の大戦争の話」
タクト「ああ、太陽と月の剣士の話だろ」

そして、リリシェはその大戦争の話を始めた。今から300年前に人類は大きな戦争を起こし、大きな犠牲が出た、そして、人類は自らの生み出した魔法爆弾によって人類は地上の大陸のほとんどを消し飛ばした。その時、太陽と月の光から生まれた2人の精霊の剣士が力を合わせ、失われた大陸を復活させた、争っていた人類はその2人の精霊が愚かな人類に神が与えた最後のチャンスだと思い、戦争をやめた、人類が争いをやめた事を確認すると、2人の精霊の剣士は深い眠りについた。これが300年前の大戦争、通称、太陽と月の大戦と呼ばれている。

タクト「で、そんな話を持ち出して何だって言うんだ」
リリシェ「私が思うにはね、今のヴェンジェンスのしている事はこの時と同じだと思うの」
タクト「じゃあ、何だ、太陽と月の剣士が助けてくれるとでも?」
リリシェ「う~ん…ヴェンジェンスがそれだけの脅威だと認識すれば、じゃない?」
タクト「じゃあ意味がないじゃないか…」

すると、突然ホドの村の方角から大きな爆発音がした。

リリシェ「何!?」
タクト「…ヴェンジェンスだ!!」
リリシェ「嘘!? とうとうこの辺にまで現れたの!?」

すると、タクトはコネクトの魔法でシエルプランシュを取り出し、搭乗した。

タクト「お前も早く乗れ、ホドの村に向かうぞ」
リリシェ「うん!」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、ホドの村に急行した。ホドの村では、ヴェンジェンスの指揮官1人と兵士数十人がホドの村を襲撃していた。逃げ惑う村人を剣で斬り捨てたり、攻撃魔法で村を破壊したりとやりたい放題やっていた。

レック「1人も逃がすな! 堕落に満ちた世界を変える為にはな!!」

ヴェンジェンスの指揮官であるレックの命令により、兵士は攻撃の手を激しくした。

女性「嫌…! 助けて…!!」

恐怖に怯える女性に対し、兵士は剣を振り上げた。その時、到着したタクトによって兵士は斬り倒された。

タクト「早く逃げろ!」
女性「あ…ありがとうございます!」

少し遅れてリリシェも到着し、ヴェンジェンスの部隊と対峙した。

タクト「お前は下がっててもいいんだぞ?」
リリシェ「あら? 私だって結構やるのよ?」

そう言ってリリシェはコネクトの魔法で宝剣ティスカーを取り出した。宝剣ティスカーは聖剣エスペリアと同じく、300年前の大戦で使われた剣だ。長らく行方が分からずにいた剣で、幻の剣と言われていた剣である。

タクト「宝剣ティスカーか…いい剣を持っているな」
リリシェ「そう言うあなたも聖剣エスペリアなんていい剣をお持ちじゃない」
レック「フン、何者かと思えば骨董品の剣をもったガキ2人か」
ヴェンジェンス兵「俺達はな、最新鋭の剣を装備してんだよ!」
タクト「じゃあ、試してみるか?」
ヴェンジェンス兵「何だと~!?」
レック「お前ら、あいつらを殺れ」

レックの命令でヴェンジェンスの兵士が総攻撃を仕掛けた。だが、タクトは兵士の攻撃を軽々と回避し、次々と兵士を斬り捨てていた。一方のリリシェも素早い動きで兵士を次々と斬り倒していた。すると、兵士たちがエクスプロージョンの魔法を唱え、タクトとリリシェを攻撃してきたが、2人はそれを回避し、逆に2人でエクスプロージョンの呪文を唱え、兵士を一気に全滅させた。こうして、残すはレック1人になったのであった。

タクト「降参するなら今の内だぞ」
レック「フフフ…ハハハハハッ!!」
リリシェ「な…何がおかしいの!」
レック「俺にはクライム様から貰ったこのシールがある」

レックが取り出したものは白い長方形のシールだった。よく見ると呪文のようなものが描かれている。レックはそのシールを左腕に貼った。すると、腕にシールが吸い込まれていった。その直後、レックの体が眩く輝いた。

タクト「何だこれは!?」

光が収まると、そこには巨大なカニの様な怪物がいた。

リリシェ「まさか…あのシールは人間を怪物化させる物!?」
タクト「ヴェンジェンスの奴ら…狂ってやがる!!」

すると、カニの怪物がタクト目掛けてレーザーを放った。

タクト「しまっ…!!」

回避が遅れたタクトに迫るレーザー、タクトが死を覚悟したその時、目の前に2人の少女が現れ、魔導障壁でレーザーを防いだ。

タクト「…生きてる…?」
オレンジ髪の少女「大丈夫だった?」
紫髪の少女「どうやら無事みたいね」

目の前にいたのは、オレンジ色の髪の少女と、紫色の髪の少女だった。オレンジ髪の少女は長い髪と炎のように赤い瞳が特徴で、頭には太陽をかたどった髪飾りを付けていた。紫髪の少女は更に長い髪と月のように黄色い瞳が特徴で、頭には三日月をかたどった髪飾りを付けていた。その2人はまるで太陽と月のようであった。

タクト「…君達は…?」
オレンジ髪の少女「私はソレイユ、ソレイユ・サンソール」
紫髪の少女「私はクレセント、クレセント・ルナムーン」
リリシェ「ソレイユ? クレセント? もしかして、太陽と月の剣士!!」
ソレイユ「あっ、この時代の人も私達の事を知ってるんだね」
クレセント「なら、話は早いわね、あいつを倒しましょう」
タクト「そうだな、あんな姿になったなら死なせてやった方がいいだろう」

すると、カニの怪物は再びレーザーを放ってきた。だが、タクト達は各自散開して攻撃を回避した。

ソレイユ「サン・フレイム!!」

ソレイユは装備している剣のサンサーベルから炎を放った。炎はカニの怪物に命中し、燃え上がった。

クレセント「ルナ・カッター!!」

クレセントが装備している剣のルナブレードを振ると、三日月型の真空波が3発放たれ、カニの怪物の甲羅を切り裂いた。

リリシェ「アイシクルアロー!!」

リリシェがアイシクルアローの魔法を唱えると、鋭い氷柱が高速で飛んで行き、カニの怪物の甲羅を貫いた。

タクト「これで決める! ブレイヴ・ブレード!!」

タクトは高く飛びあがり、聖剣エスペリアに魔力を纏った。すると、巨大な魔力の剣を生成し、そのままカニの怪物を一刀両断した。カニの怪物は真っ二つに割れ、そのまま大爆発を起こし、砕け散った。こうして、ホドの村は守られたのである。

ヴェンジェンスとの戦いの後、めんどくさい事になる前にホドの村を立ち去ったタクトだったが、その後を付いてくる3人の人物がいた。リリシェ、ソレイユ、クレセントの3人である。

タクト「…だから何故付いてくる」
リリシェ「だってあなたといると面白そうって分かったんだもん」
ソレイユ「タクトもヴェンジェンスを倒すのが目的なんでしょ?」
クレセント「なら私達と目的は一緒ね」

タクト「ヴェンジェンスと戦うのは俺1人でいい」
ソレイユ「そんな事言っていいのかな?」
クレセント「私達はヴェンジェンスがどこにいるか分かるのよ?」
タクト「何だと!? だったら何で今まであいつらを放置してたんだよ」
ソレイユ「私達は世界に脅威が現れた時しか目覚められないの」
クレセント「何か…ごめんなさいね…」
タクト「はぁ…めんどくさい精霊だな…」

リリシェ「で? どう? 付いて行っていい?」
タクト「…勝手にしろ」
ソレイユ「やったー! ありがとーっ!!」
クレセント「必ず役に立って見せますね」
タクト(面倒なことにならなければいいがな…)

こうして、タクト一派のヴェンジェンス討伐の旅が始まった…。

この世界のどこかにあるヴェンジェンスの本拠地であるクライムパレスでは、既にタクト達がレックの部隊を壊滅させたと言う情報が届いていた。その情報は当然、ヴェンジェンスの総帥であるクライムの元に届いていた。

ヴェンジェンス兵「クライム様、レックの部隊が何者かに壊滅させられました」
クライム「ほう…一体何者の仕業だ?」
ヴェンジェンス兵「はっ、男1人と女3人だそうです」
クライム「たったそれだけの人数で30人を相手にしたのか…」
ヴェンジェンス兵「いかがいたします?」
クライム「今は泳がせておけ、我々の目的はあくまでも堕落に満ちた世界を変える事だ」
ヴェンジェンス兵「了解しました」
クライム(そうだ、今はこの世界を考える事だけを考えていればいい、今は、な…)

一方その頃、タクト達は河原にテントなどを構え、のんびりとくつろいでいた。タクトは1人でシーチキンの缶詰をスプーンですくって食べていたが、リリシェは簡易キッチンをコネクトの魔法で取り出して料理を、ソレイユとクレセントは2人で協力して衣類を手洗いしていた。これには理由があり、タクトが致命的なほどに炊事洗濯が下手なのである。一度タクトの作った料理を食べたリリシェ達はそのあまりに酷い味に怯え、自分達で料理を作ることを決めたのだ。そしてタクトは風呂には入るが洗濯をしない上、しても適当に洗う為、ソレイユとクレセントが仕方なく洗っているのである。

タクト「何故料理と洗濯をしている」
リリシェ「あんたの料理が美味しくないからよ!」
ソレイユ「タクトの服が臭いから洗ってるの!」
タクト「そうか? 飯は食えればいいし、服は着れればいいと思うんだがな…」
クレセント「いや、間違ってはないですが、流石に限度ってものがありますよ…」
リリシェ「一応聞くけど、最後に服洗ったの、いつ?」
タクト「ん~っと…2週間前だったかな?」
ソレイユ「それ汚すぎ! ほら! 今着てる服も脱いで!」
タクト「は? じゃあ俺に裸でいろってか?」
クレセント「下着はそのままでいいですから服だけ脱いでください!」

タクトはしぶしぶ服を脱ぎ、下着一枚だけになったが、流石に風が寒かった為、近くにあったバスタオルを羽織って寒さをしのいでいた。その後、リリシェは料理の最後の仕上げに取り掛かかり、ソレイユとクレセントは洗濯を終え、物干し竿に干していた。全ての洗濯物を干し終えた後は、ソレイユが自身の魔力で小型の疑似太陽を生成し、洗濯物を乾かしていた。

そうこうしているうちにリリシェの料理の最後の仕上げが終わり、料理が完成した。今回のメニューはクジラウサギのシチューと海藻サラダ、コッペパンだったちなみに、クジラウサギとは、この世界の全域に生息している大ウサギで、クジラの様に大きなウサギである事からこの名が付いた。肉は非常に柔らかく美味な為、食肉として重宝されている。

リリシェ「みんなー、できたよー」
タクト「おっ、おつかれさん」
リリシェ「ありがと、タクトには私特性のミックスジュースがあるからね」
タクト「ミックスジュース好きだから嬉しいよ」

全員が椅子に座り、テーブルを囲んで食事を始めた。リリシェの料理は非常に美味であり、かなり好評であった。

クレセント「うん、美味しいわね」
ソレイユ「リリシェって料理得意なんだー」
リリシェ「まあね、これぐらいは生きていく上で重要でしょ」

すると、黙々と食事を続けていたタクトが口を開いた。

タクト「…リリシェ、お前こんな特技があったんだな」
リリシェ「料理ぐらいなら誰でも練習すればできるものよ」
タクト「…そうなのか?」
リリシェ「当たり前よ、てか、あんた今まで何食べてたのよ」
タクト「缶詰とか、クジラウサギの丸焼きとか、川魚の丸焼きとかかな」

ソレイユ「…ねえ、この間の暗黒物質って何?」
タクト「暗黒物質? 俺が焼いた焼き魚の事か?」
クレセント「あんな焼き魚があるかーっ!!」
タクト「焼いてるんだから焼き魚だろ」
リリシェ「真っ黒焦げだったじゃない、あれは炭よ炭」
タクト「そっか、あまり美味しくなかったか、美味いと思うんだがな…」
リリシェ(こいつ舌おかしすぎでしょ…どんな舌してんのよ…)

すると、ソレイユとクレセントが何かを察知した。

タクト「…どうした?」
ソレイユ「ヴェンジェンスが来る…!」
タクト「場所はどこだ」
クレセント「ここから約1㎞…シーリスの村よ…!」
タクト「分かった、俺の服は乾いてるな?」
ソレイユ「私の魔力で作った疑似太陽だから、乾いてるはずだよ」

タクトは物干し竿から自分の服を取り、すぐに着た。そしてコネクトの魔法でシエルプランシュを取り出すと、リリシェと共に搭乗し、浮上させた。

タクト「俺とリリシェはこれで向かうが、お前らはどうする?」
クレセント「大丈夫よ、私達は飛べるから」
タクト「…飛べる?」
ソレイユ「私達、精霊だからね」
タクト「フッ、なるほどな、じゃあ、行くぞ」

タクトはシエルプランシュを発進させ、シーリスの村に向かった。その後をソレイユとクレセントが飛行しながら追いかけた。

その頃、ヴェンジェンスの部隊がシーリスの村を攻撃していた。部隊の指揮官であるリリナは珍しい女性指揮官であり、その実力もさることながら容赦ない攻撃をする事で知られていた。リリナは部下にシーリスの村の住民の皆殺しを命じた。部下はその命令に従い、剣や魔法でシーリスの村の住民を殺害した。

リリナ「この村もすぐに全滅しそうね」
ヴェンジェンス兵「そうですな、リリナ様」

そして、1人の兵士が住民の子供に剣を振り上げたその時、タクトとリリシェがシエルプランシュで突撃し、その兵士を吹き飛ばした。シーリスの村に到着したタクト達は村の凄惨な様子を目撃して怒りをあらわにした。

クレセント「酷い…」
タクト「ヴェンジェンスの奴ら…相変わらず酷い事しやがる!」

村は炎に包まれ、辺りには人の死体が散乱しており、人や物が焼ける匂いや、血の匂いがシーリスの村全体を覆っていた。

リリナ「あ、あんたら知ってるわよ、レックの部隊を潰した奴らでしょ」
タクト「お前らみたいなクズにも俺達の事が伝わってたか」
リリナ「やっぱり~! じゃあ、私はあんた達を殺してクライム様に褒めてもらおっかな~」

リリナは部下に攻撃命令を出し、タクト達を襲った。

ソレイユ「サン・フレイム!!」
クレセント「ルナ・カッター!!」

ソレイユとクレセントはそれぞれ炎と三日月型の真空波を飛ばして兵士達を攻撃した。兵士達はほぼ全員が炎と真空波の餌食となって倒れ、残った兵士達もタクトの炎呪文のファイアや、リリシェの氷呪文であるアイシクルアローで倒された。こうして、残すはリリナだけになったのである。

リリナ「ちょ…ちょっと待ってよ…もう私だけ!?」
タクト「降参するなら今の内だぞ、女」
リリナ「くっ! こうなったら奥の手を使うしかないわ!」

リリナは怪物化シールを取り出し、自身の右腕に貼った。すると、シールが体に吸い込まれ、体が眩く輝き、光が収まると巨大な白鳥型の怪物になった。

リリシェ「鳥型の怪物!?」
白鳥怪物「そうよ、そしてこの姿の特権は空中から攻撃出来る事よ!!」

白鳥怪物は空中まで羽ばたき、上空から羽根ミサイルを飛ばしてタクト達を攻撃した。羽根ミサイルの攻撃は家を破壊するほどの威力であり、タクト達はその攻撃の衝撃で吹き飛ばされた。

リリシェ「うっ! あんた、その空飛ぶ板で何とかならないの!?」
タクト「無理だ、このシエルプランシュは低空しか飛行できない、あんな上空までは上昇できないんだ」
白鳥怪物「これであんた達はおしまいね!」

すると、ソレイユとクレセントは高く飛び、そのまま白鳥怪物の所まで飛行した。

白鳥怪物「…え?」
ソレイユ「飛べないと思った? 残念でした!」
クレセント「私達、精霊だから飛べるのよ!」

そう言って2人は白鳥怪物の翼に剣を突き刺し、そのまま熱気と冷気を剣に送って攻撃した。

白鳥怪物「ああああああっ!!」

羽根を傷つけられ、飛べなくなった白鳥怪物はそのまま地面に墜落し、体内にあったシールも先ほどの攻撃で傷つけられた為、リリナの姿に戻った。

リリナ「あっ…あぐっ…」

すると、タクトは倒れたリリナに剣を向けた。

リリナ「ひっ!」
タクト「お前達に殺された人々の痛みを思い知らせてやる」
リリナ「ま…待って! もう悪い事しないから許して! お願い!」
タクト「…どの口が言ってんだ」

すると、リリシェがある提案をした。

リリシェ「ねえ、タクト、この女からヴェンジェンスの情報を聞き出せるんじゃない?」
タクト「…その手があったか」
???「あ~らら、リリナちゃん負けちゃったか~」

その声の方角を向くと、1人の男性が立っていた。

リリナ「…フロスト様…」
フロスト「リリナちゃん、役立たずはどうなるか分かってるよね~?」
リリナ「ひっ!」
フロスト「でも、クライム様は君に用があるみたいなんだ、だから特別に助けてあげるよ~」
リリナ「あ…ありがとうございます…」
フロスト「帰ったらクライム様にお礼言っときなよ? じゃ」

そう言ってフロストは転移呪文のゲートをリリナに向けて放った。すると、リリナは黒い渦に飲み込まれ、姿を消した。

タクト「…貴様、何者だ、名を名乗れ」
フロスト「僕はフロスト、フロスト・セシル、ヴェンジェンスの四天王の1人さ」
タクト「四天王が自らお出ましとはな、なら、ここでお前を殺してやる」
フロスト「へ~、僕に勝てるかな?」
タクト「その減らず口、すぐに黙らせてやる!」
フロスト「先に言っといてあげるよ、僕は氷使いさ、気を付けなよ?」
タクト「そうか、忠告感謝する」

タクトがフロストに斬りかかろうとしたその時、ある事に気づいたソレイユが叫んだ。

ソレイユ「タクト! そいつに触れちゃ駄目ッ!!」
タクト「何っ!?」

ソレイユの忠告を聞き、ギリギリ攻撃を踏みとどまったタクト、すると、フロストが悔しそうなしぐさを見せていた。

フロスト「ん~、もうちょっとで君を凍らせてたんだけどな~」
タクト「何だと!?」

すると、フロストが半壊した家の前に移動した。

フロスト「見せてあげるよ、僕に少しでも触れたらどうなるかを」

フロストは右手で家に触れた。すると、家はみるみるうちに凍り付いていった。

フロスト「フリーズ・エンド…!」

そう呟いたフロストが指を鳴らすと、凍り付いた家が崩れ落ち、粉々になった。それを見たタクト達は驚愕を隠せなかった。

フロスト「どうだい? 僕に触れたらたちまちこうなるよ」
タクト「なら、お前に触れなかったらいいだけだ!」

そう言ってタクトは炎魔法のファイアを唱えて攻撃した。それに対し、フロストはアイシクルアローで迎撃した。そして、フロストはタクト達に急接近し、自身の周りに巨大な氷柱を数本発生させる魔法である。アイシクルバーストを唱え、タクト達を攻撃したが、タクト達はその攻撃を回避した為、大事には至らなかった。

リリシェ「どうするのよ! これじゃ私達負けちゃうわよ!」
クレセント「いえ、大丈夫だと思います、ね? ソレイユ」
ソレイユ「うん! 私の出番だね!」

そう言ってフロストの方に向かって行ったソレイユは、フロストに斬りかかったが、フロストの剣で受け止められた。すると、ソレイユの剣がみるみる凍り付いて行った。

フロスト「馬鹿だね! 自ら死にに来るなんて…!」

だが、ソレイユは笑顔を見せていた。その様子に、フロストは驚いた。直後、ソレイユは自身の体温を急上昇させ、凍り付いた剣の氷を一瞬で溶かした。

フロスト「くっ! 君は何者だい!?」
ソレイユ「私は太陽の剣士、ソレイユ!!」
フロスト「! 君はまさか、あの300年前の…!」
ソレイユ「そうだよ~、で、あっちにいるのがクレセント、月の剣士だよ」
クレセント「どうぞお見知りおきを」

フロストは厄介な相手であるソレイユの存在に、自身の氷技が通用するかを考えていた。そして、フロストは再び攻撃を開始した。

フロスト「フッ、ならこれはどうだ!」

フロストは宙に1本の氷柱を生成した、アイシクルアローだ。

リリシェ「アイシクルアロー? 今更そんな魔法で…!」
フロスト「チッチッチ、1本だけじゃないよ~」

すると、氷柱が2本、4本、8本と、倍増していき、最終的に16本の氷柱を生成した。

タクト「一度に複数のアイシクルアローだと!?」
フロスト「これが僕の氷技の1つ、アイシクルアローバーストさ!!」

そして、16本の氷柱が一斉にタクト達を襲った。だが、ソレイユはタクト達の前に立った。

ソレイユ「ファイアーウォール!!」

ソレイユは自身の持つ太陽の力で炎の壁を生成した。そして、16本の氷柱は炎の壁に阻まれ、蒸発した。

フロスト(くっ!あの女は厄介過ぎる…!)
ソレイユ「どう? まだやる?」
フロスト「面白い! 僕の氷技をもっと見せてあげるよ!」

その時、フロストの脳内に語り掛けて来た1人の人物がいた。その人物は、ヴェンジェンス総帥のクライムだった。

クライム「フロスト、ここは退け」
フロスト「何でですか~? お楽しみはまだまだこれからなのに~」
クライム「このまま戦ってもその太陽の剣士との相性が悪い、だから退け」
フロスト「いやいや、まだ僕はできますよ~」
クライム「私の言う事が聞けないのか? フロスト」
フロスト「分かりました、じゃあ、今から帰ります」
タクト「どうした? もうやめるのか?」
フロスト「残念だけど、クライム様が帰って来いって言うから帰るよ、またね~!」

そう言ってフロストはテレポートの呪文を唱え、去って行った。

クレセント「ヴェンジェンス四天王のフロスト…厄介な相手でしたね…」
ソレイユ「今度あいつと会ったら、私が丸焼きにしてやる!」
リリシェ「ソレイユがいると頼りになるよ~」
タクト「フッ、そうだな」

すると、タクトはある事を思い出した。そう、ここに来る前に食べていた食事である。それを思い出したタクト達は、慌ててキャンプ地まで戻った。幸い、物は一つも取られていなかったが、料理は完全に冷めていたのであった。

リリシェ「うえ~ん、料理冷めちゃってる~、一生懸命作ったのに~」
タクト「いや、冷めてても旨いぞ、この料理」
リリシェ「本当? そう言ってくれると嬉しいな」
ソレイユ(タクトの事だから食べられたら何でもいいだけだと思うけど…)
クレセント(確かにそうね…)

一方、クライムパレスに逃げ帰ったリリナは、ヴェンジェンスの総帥であるクライムと話していた。

リリナ「申し訳ございません! クライム様! 部下を失った挙句、大怪我までしてしまって…!」
クライム「リリナ、本来なら部隊を壊滅させられたお前は処刑される運命だ」
リリナ「…! どんな処罰でも覚悟しております」
クライム「ところでリリナ、お前はあの怪物化シールを使ったらしいな」
リリナ「え…? あ、はい、使用しましたが、シールを破壊されて、現在は腕の中にあります」
クライム「その腕の中にあるシールはしばらくすると体内で分解され、身体能力を強化する効果がある」
リリナ「と、言う事は、私の身体能力は以前より上がっていると言う事ですか?」
クライム「そうだ、そんなお前にとある部隊の指揮官となってほしいのだ」

クライムがそう言うと、リリナの後ろにあったドアから3人の女性兵士が入って来た。

ターニャ「ターニャです、よろしくお願いします」
ミーナ「ミーナだよ、よろしくね~」
ノクト「ノクトです、よろしくお願いいたします」
リリナ「…えっと、これは…」
クライム「この3人は我々ヴェンジェンスの兵士の中でも選りすぐりの兵士だ」
リリナ「選りすぐり…エリートと言う事ですか?」
クライム「そうだ、お前はそのエリート達が集まった特殊部隊の指揮官になってもらう、いいな?」
リリナ「私なんかが…光栄です!」
クライム「ふふ、いい返事だ、なら早速この3人を連れて、他の兵士達とも顔を合わせて来るがいい」
リリナ「はい! クライム様!」

一方のフロストは、四天王の部屋で今回の戦闘について考えていた。

フロスト(あの太陽の剣士…僕の自慢の氷技をああも容易く…)
ポディスン「どうしたの~? フロスト~?」

この少女は四天王の1人の毒猫族(どくびょうぞく)の少女、ポディスンである。紫色の髪に猫耳と尻尾を生やした彼女は毒使いであり、いつも明るい表情ではあるものの、実はかなり残忍で、戦闘だけでなく猛毒による暗殺も得意とする。

フロスト「ああ、今日戦った相手が中々の強敵でね…」
グラム「フロストがそこまで言うなら、相当の相手だったんだね」

この男性はグラム、四天王の1人の槍使いである。緑髪のやや長めのショートヘアに赤紫の瞳が特徴で、いつも気だるげそうな表情を見せているが、槍だけでなく、魔法の腕前もかなりの物である。

フロスト「あんな相手がこの世にいるなんて…僕はウズウズしてきたよ…!」
アオ「…フロスト…燃えてる…」

この少女はアオ、四天王の1人で鎌と魔法の使い手である。青い瞳と青い髪のツインテールが特徴の彼女は、いつも冷たい表情で、感情がないようで、強大な戦闘能力と魔力を持った謎の少女だ。

フロスト「今の僕は氷を溶かすほどに燃えてるよ! いつかあの女の子と決着を付けないとね!」
ポディスン「…フロスト、ナンパを頑張るのかな?」
グラム「バーカ、そうじゃないって」
アオ「…なんぱって、なに?」
グラム「アオはそんな事覚えなくていいから!」

一方その頃、タクト達は出発の準備を終え、次の目的地をどこにするか話し合っていた。すると、リリシェが意見を出した。

リリシェ「ねえねえ、私の故郷がこの近くにあるんだけど、そこに行かない?」
タクト「…別にいいが、ソレイユとクレセントはどうだ?」
ソレイユ「いいよー」
クレセント「私もそれで構いません」
リリシェ「おっけー! なら行こっ!」

リリシェの故郷はここから約1㎞の場所にあるフレン村である。フレン村は、世界一の花畑がある事で有名な花の村であり、春夏秋冬どの季節も綺麗な花が村中を華やかに彩っている。リリシェは半年ほど村に帰っておらず、今回が久々の帰省である。久々に故郷に帰る事を楽しみにしていたリリシェだったが、ソレイユとクレセントはどこか胸騒ぎがしていた。

ソレイユ(フレン村から、少しだけ嫌な気配がする…)
クレセント(これはヴェンジェンスの物に似ている…)
タクト「? 2人共、どうした?」
クレセント「い…いえ…何でもありません…」
リリシェ「もー、せっかく私の故郷に行くんだから、明るく行こうよっ!」
クレセント「そ…そうですね!」

その後、タクト達はフレン村に無事到着した。リリシェは久々に故郷に帰ってきた事もあり、嬉しそうだったが、フレン村からは何か不穏な雰囲気がしていた。

タクト「…なあ、何か村の様子がおかしくないか?」
リリシェ「えー? おかしくなんかないよー、ね?」
タクト「でも、花が全部枯れてるぞ」
リリシェ「…え?」

タクト達が村に入ると、村の花がほとんど枯れ果てていた。村にかつてのような美しさはなく、完全にさびれていた。現在の村の現状を語るかのように、村民たちも活気がなく、誰もが希望を失っているようであった。

リリシェ「嘘…なに…これ…一体何があったって言うの…!?」

フレン村は世界一の花畑が有名な美しい村なのだが、この光景はどう見てもそうは見えなかった。リリシェは近くにいる住民に話を聞く事にした。

リリシェ「あの…この村に何があったんですか?」
老人「おお、リリシェちゃんかい、この村はもう駄目だよ」
男性「1ヵ月前から突然草木が枯れ始めて今はこの通りさ」
女性「最近は井戸の水も出なくなって、人々は次々と村を出て行ってるわ」
リリシェ「そうですか…」

そして、リリシェは故郷の美しさを取り戻す為、調査を開始する事にした。

リリシェ「みんな、早速調査しましょう」
ソレイユ「そうだね! リリシェの故郷を守ろう!」

すると、後ろから1人の女性がやって来た。黄緑色の長い髪と水色の瞳の少女で、リリシェのいる方に手を振りながら走って来ていた。

???「リリシェー! 久しぶりー!」
リリシェ「クリスタ! 半年ぶりね!」
タクト「…誰だ?」
リリシェ「私の幼い頃からの親友のクリスタよ」
クリスタ「クリスタ・エリアードです、よろしくね!」
タクト「タクト・レイノスだ」
ソレイユ「ソレイユ・サンソールだよ! よろしくね!」
クレセント「クレセント・ルナムーンよ、よろしくね」

タクト達が自己紹介を終えると、クリスタもこの現状に困っているようで、リリシェ達に助けを求めた。

クリスタ「ねえ、この草木が枯れる現象、困ってるんだけど、どうにかならない?」
リリシェ「任せて! 親友の私とその仲間が必ず何とかするから!」
クリスタ「本当? ありがとう! じゃ、私は用事があるからこれで!」

そう言ってクリスタはその場を去って行った。そして、リリシェは早速調査を開始する事にした。

リリシェ「さ、早速調査を開始しましょう!」
タクト「いや、そんな事はしなくていい」
リリシェ「え? 何で?」
タクト「もう原因が分かったからだ」
リリシェ「嘘!? じゃあその原因は?」
タクト「さっきのクリスタと言う名の女だ」

その言葉に、リリシェは激怒した。いくら仲間でも幼い頃からの親友を原因にしたからだ。

リリシェ「ふざけないで! クリスタがそんな事するわけないでしょう!」
タクト「俺は嗅覚が誰よりも優れている、あの女からは怪物の匂いがした」
リリシェ「それはクリスタが怪物に襲われたとかそんな感じでしょ!」
タクト「いや、あの女には怪物の匂いが染み付いてい…」

リリシェはタクトが喋り終わる前にタクトの左頬に平手打ちをした。そのリリシェの目には一粒の涙があった。少しの間ではあるが苦楽を共にした仲間に裏切られたからだ。

リリシェ「あんたを少しでもいい奴だと思った私が間違ってたわ!!」

そう言ってリリシェは走り去っていった。

クレセント「…リリシェには悪いけど、私もあなたと同意見よ」
ソレイユ「あのクリスタって人からは怪物の気配がした」
タクト「ああ、しかも植物の怪物のな、これは放っておいたらこの村が滅びるぞ」
クレセント「あのクリスタって人の後を追いましょう」
タクト「そうだな」

一方、リリシェは河原の方で1人、体育座りをして考え事をしていた。

リリシェ(クリスタはそんな事しないわ、だって、私の親友だもん)

だが、タクトの言った事も少しは気になっていた。

リリシェ(でも、タクトは変な奴だけど、今まで間違った事はしてないんだよな…)

そして、考えた末にリリシェは1つの答えを出した。

リリシェ(っと、こんな事してる場合じゃない! 早く原因を調査しないと…)

すると、リリシェは森の方に向かうクリスタの姿を見つけた。

リリシェ「ん? クリスタったら、森の方に向かってるけど、どうしたんだろ」

その森は怪物が出ると言う事で誰も近づかない為、恐怖の森と言われている。そんな森にロクな装備もせず、たった1人で入って行ったのだ。怪しいと思った、リリシェはクリスタの後をこっそり追ってみる事にした。森の中に入ってしばらく歩くと、そこには広場があった。その広場は、中心に大きな岩があるだけで何もなかった。

リリシェ(こんな所に来て、クリスタは一体何をする気かしら…?)

その時、クリスタは岩にそっと触れ、謎の呪文を唱えた。すると、岩がゆっくり動き、隠し階段が現れた。

リリシェ(この広場にこんな場所が…!)

クリスタはその階段を下りて行った。そして、リリシェも勇気を出し、クリスタの後を付いて行った。階段を下りた先は当然地下だが、その地下には広場があり、そこには巨大な怪物がいた。その怪物は巨大な人食い植物のような姿をしており、胴体からは無数の触手が生えていた。そして、その触手からは村中から栄養や水分を吸い取っているようだった。

リリシェ「これがこの村の草木が枯れた原因ね!」
クリスタ「そうよ、リリシェ」

植物の怪物の近くにいたのは先に階段を下りたクリスタだ。だが、リリシェ達が村に来た時とは様子が変わっており、まるで悪の手先となったようであった。

リリシェ「クリスタ! まさかこの怪物を育てていたのはあなたなの!?」
クリスタ「そうよ、リリシェ」
リリシェ「何で…何でこんな事を…!!」
クリスタ「ヴェンジェンスの総帥であるクライム様に頼まれてね! この村は栄養が多いからすぐ育ったわ」
リリシェ「そんな…! 何でヴェンジェンスなんかに力を貸したの!?」
クリスタ「この世界がつまんないからよ」
リリシェ「えっ…!?」

クリスタ「この世界はとにかくつまんない、毎日毎日同じことの繰り返し、でも、ヴェンジェンスはそんな世界を変えてくれるのよ? 最高じゃない!」
リリシェ「でも、ヴェンジェンスは罪のない人を何人も殺してるのよ!?」
クリスタ「知らないわよ、誰が何人死のうと、私が知った事じゃないわ」
リリシェ「じゃあ、私は? 親友である私の事はどうなの?」
クリスタ「親友? あんたまだ私の事を親友って言ってるのね、笑えるわー」

その言葉に、リリシェは激怒した。それと同時に、こんな悪人を庇って仲間を信じなかった自分に腹が立っていた。

リリシェ「クリスタ…あなたはもう、私の知っているクリスタじゃないのね…」
クリスタ「当然よ、何年も経てば人間は変わるものよ」
リリシェ「なら、その怪物を倒してあなたも斬る!」

そう言ってリリシェは怪物の方に向かって行った。

クリスタ「馬鹿ね、やっちゃえ! 私の自慢の怪物、ヘルプラント!!」

ヘルプラントはクリスタの命令を受け、触手でリリシェを締め付けた。

リリシェ「ぐ…うあぁぁぁッ…!!」
クリスタ「ヘルプラントは獲物を絞め殺した後、栄養を吸い取ってミイラにしちゃうのよ、素晴らしいわよね、アハハハ!」
リリシェ(うっ…私はここまでみたい…タクト…あなたの事を信じなくて…ごめんなさい…)

その時、リリシェが捕まっている触手を何者かが斬り落とした。その人物は、タクトだった。少し遅れてソレイユとクレセントも到着した。

リリシェ「タクト…! どうしてここに…!」
タクト「ソレイユとクレセントに気配を追ってもらったんだ」
リリシェ「タクト…ごめんなさい…あなたの言った通り、クリスタが元凶だったわ」
タクト「お前が悪いんじゃない、誰しも親友を信じたい気持ちはある」
クリスタ「リリシェったら馬鹿ね、まだ私の事を親友と思ってたなんて」

すると、タクトは怒りのこもった目でクリスタを睨みつけた。

クリスタ「な…何よ…!」
タクト「リリシェの親友を想う気持ちを利用しやがって…! てめえだけは許さねえ…! ぶっ殺してやる…!!」

そのタクトの威圧感に、クリスタは気圧されていた。

クリスタ「や…やれるものならやってみなさいよ! 行けっ! ヘルプラント!!」

ヘルプラントは触手でタクトを絡めとろうとしたが、タクトは迫り来る触手を次々と斬り落としていた。一方のソレイユとクレセントも同じ様に触手を斬り落とした。だが、触手は次から次へと伸び続けている為、キリがなかった。

タクト「くっ! この植物野郎! キリがない!」
クリスタ「私のヘルプラントは無敵よ!」

タクト「そうか、無敵か…」
クリスタ「な…何よ…!?」
タクト「この世に無敵の生物など存在しない!」

すると、タクトはVサインを送った。だが、このVサインには2つの意味があった。

タクト「お前の自慢の怪物は後2回の攻撃で倒され、俺達が勝つ!」

2回の攻撃と勝利と言う2つの意味のあるこのVサイン、その言葉に対し、クリスタは笑っていた。

クリスタ「あんた、とうとう頭おかしくなったのね、私のヘルプラントが負ける訳がないわ!」

タクトは剣に魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。

リリシェ「ブレイヴ・ブレードを放つつもりね!」

タクトは高く飛び上がり、ヘルプラントを一刀両断した。だが、ヘルプラントはなおも生命活動と続けていた。

クリスタ「残念ね! ヘルプラントの生命力は高いのよ!」

クリスタの言った通り、ヘルプラントの生命力は高く、なおも自己再生を続けていた。すると、タクトは続けて横に剣を振り、ヘルプラントと近くにいたクリスタを斬り裂いた。

タクト「ブレイヴ・ブレード・ダブル…!」

この攻撃でヘルプラントは張っていた根から切り離され、先ほど斬られた部位の再生が追い付かなくなり、そのまま生命活動を停止した。

クリスタ「そ…んな…」

同じく、胴体を斬り裂かれたクリスタも死亡した。

タクト「だから言っただろ、後2回の攻撃で俺達が勝つってな」

すると、タクトのブレイヴ・ブレード・ダブルの衝撃で広場の天井が崩れてきた。

タクト「早くこの部屋から脱出するぞ!」

そして、タクト達は急いで階段を上り、地上に出た。タクト達が無事地上に出ると同時に、広場は崩れ去った。広場の跡地はクレーターの様に崩れていた事からかなりの広さがあったようだ。

クレセント「…終わったわね」
ソレイユ「これでフレン村の草木は復活すると思うよ」
リリシェ「…そうだね…」

すると、リリシェがタクトの胸に顔を当てて泣き出した。

タクト「リリシェ…」
リリシェ「ごめん…タクト…しばらくこのままにさせて…」

そう言った後、リリシェは泣き続けた。幼い頃からずっと親友だと思っていたクリスタが豹変し、自分達を攻撃した事が、リリシェには耐えられなかったのだ。すると、タクトは泣き続けるリリシェの頭を撫でた。

タクト「…すまん、俺にはこう言う時どうすればいいのか分からない…」

リリシェが泣く分、タクトが頭を撫でる。このやり取りはしばらく続き、やがて泣き止んだリリシェはタクトに笑顔を見せた。

リリシェ「タクトって、優しいんだね」
タクト「え?」
リリシェ「さっき私の頭を撫でてくれたのはあなたなりの優しさなんでしょ?」
タクト「ま、まあな」

クレセント「もう大丈夫なの? リリシェ」
リリシェ「うん、今回の件で分かったんだ、ヴェンジェンスを倒さない限り、平和は訪れないんだって事が」
ソレイユ「そうだね、じゃあ、絶対にヴェンジェンスを倒さないとね!」
リリシェ「うん!」

すると、タクトが困った様子でリリシェに話しかけてきた。

タクト「リリシェお前…俺の服で鼻かんだだろ…」
リリシェ「あ、バレちゃった? ごめん…」
タクト「お前…覚悟しろよ…」
リリシェ「ひぃぃぃーっ!!」

今回の戦いの後、フレン村の草木は以前の様に元に戻ったと言う。そして、タクト達は誓った、必ずヴェンジェンスを倒すと。もう、誰も悲しまない世界を作る為に…。

フレン村を後にしたタクト達は、次の目的地へと向かっていた。次の目的地であるオール村はフレン村から約3㎞の場所にある為、魔力の温存と運動も兼ねて徒歩で移動していた。

ソレイユ「う~ん…3㎞って、思ってたより長いね~」
クレセント「まあ、あくまでも約3㎞だからね」
リリシェ「オール村って、のどかな村なんだって」
タクト「らしいな、あそこに畑が見える」

だが、タクトが指を指した先には、何か小さな村が見えるだけだった。

リリシェ「え…あんたあそこに何があるか見えるの…?」
タクト「見える、お前らには見えないのか?」
ソレイユ「いや…ちょっと見えないかな~」
タクト「もういい、面倒だ」

すると、タクトはシエルプランシュを取り出し、後ろにリリシェを乗せて発進させた。

クレセント「あ~あ…魔力の温存と運動はどこへやら…」
ソレイユ「そもそもこれ言いだしたリリシェが乗っていっちゃったらね…」

2人もタクト達の後を追ってオール村へ向かった。

オール村に付いたタクト達は、そののどかな様子に心を休めていた。オール村は野菜などが沢山栽培されている平凡な農村であり、牛や豚やクジラウサギなどの動物が家畜として飼育されており、見るからに平和な農村であることが分かった。

リリシェ「あ~、平和でいいね~」
クレセント「そうね、動物も沢山いて癒されるわ~」
タクト「俺は情報を集めてくる」

そう言ってタクトは酒場に向かった。

ソレイユ「ねえ、タクトは酒場でお酒飲んでるのかな?」
リリシェ「まさか、あいつああ見えて18歳よ?」
クレセント「じゃあ、リリシェは?」
リリシェ「私は17歳、と、言うかあなた達2人は何歳なの?」
ソレイユ「どうだろ、ずっと寝てたから分かんない」
リリシェ「そ…そうなんだ…」

一方、酒場ではタクトが情報収集をしていた。

タクト「参ったな…どいつもこいつも昼間っから酒を飲んで酔いつぶれてやがる…」

すると、1人の女性がタクトを呼んだ。

???「ねー! こっちおいでよー!」

その女性は紫の髪で、猫耳と尻尾が生えていた。その髪の色から察するに、毒猫族の一族であろう。毒猫族は人間から隠れて暮らす一族であり、とても強力な毒を使って生活をしている獣人族の一種である。タクトはその女性の所へ向かった。

タクト「俺に何か教えてくれるのか?」
???「あなた達、ヴェンジェンスを倒そうとしてるんでしょ?」

それを聞いたタクトは驚いた。自分達がヴェンジェンスを倒そうとしている事を知っている人間はそういないからだ。もしやと思ったタクトは女性に聞き返した。

タクト「お前…ヴェンジェンスの者か?」
???「あったりー! 私はヴェンジェンス四天王の1人、ポディスン・レイジングだよ!」
タクト「なるほど…あまり人里に出てこない毒猫族が何でこんな所にいると思ったら、ヴェンジェンスの、それも四天王とはな…」
ポディスン「まーねー、あ! ちなみにこのオール村の人達もヴェンジェンスに協力体制を取ってくれてるんだよ!」
タクト「何だと!?」
ポディスン「どうする? ヴェンジェンスの味方をしてるから、全員殺しちゃう?」
タクト「俺はそんなお前達みたいな事はしない…! 俺が殺すのは、お前だけだ!」

そう言ってタクトは聖剣エスペリアを取り出し、ポディスンに斬りかかった。その時、タクトはポディスンに何かの魔法をかけられた。すると、体が鉛の様に重たくなり、立てなくなった。

タクト(何だ…!? 体が動かない…! これは…毒…!?)
ポディスン「ふっふっふー、私の毒はどう?」
タクト「くっ…! ふざけやがって…!」

ポディスンは風魔法のトルネードを唱え、タクトを店の外に吹き飛ばした。タクトが吹き飛ばされた近くには、リリシェ達がおり、突然外に吹き飛ばされてきて大層驚いていた。

リリシェ「タクト!?」

すると、それに続いてポディスンが店の外に出てきた。どうやら浮遊魔法を使えるようで、ふわふわと宙に浮いていた。

ポディスン「そいつは強力な毒に冒されてる、10分もすれば死ぬはずだよ」
リリシェ「そんな…! 早く解毒しないと…!!」

4人の中で唯一解毒魔法が使えるリリシェは、解毒魔法のキュアを使って解毒を試みた。しかし、毒が強すぎるあまり中々解毒ができずにいた。

ポディスン「言い忘れてた、この村の人間は私達ヴェンジェンスに協力体制を取っているよー」

すると、村の住民たちがカマやクワ等を持って襲って来た。

クレセント「リリシェ! タクトの事はあなたに任せたわ!」
ソレイユ「こいつらの相手は私に任せて!」
リリシェ「うん! 分かった!」

ここでは解毒ができないと、リリシェはタクトを背負ってその場を脱出した。その際、住民に攻撃を受けたが、全て無視して逃げる事に専念した。

リリシェ「タクト! あのボード出して!」
タクト「馬鹿言うな…あれはお前に乗りこなせ…」
リリシェ「いいから!!」

タクトはシエルプランシュを取り出し、リリシェはそれに乗った。シエルプランシュは操縦が難しい為、ふらふらしながらも何とか乗りこなし、村の外れの岩陰に向かった。リリシェはタクトを仰向けに寝かせ、解毒を開始した。

リリシェ「タクト…絶対助けてみせるね…」

リリシェはタクトの胸に手を当て、キュアの呪文を唱えたが、やはり毒が強すぎるあまり、中々解毒できなかった。それどころか、どんどん体に毒が回って行った。タクトの息はどんどん荒くなり、苦しんでいた。

リリシェ「どうしよう…! このままじゃタクトが…タクトが死んじゃう…!!」

リリシェは諦めずキュアの呪文を唱えるが、やはり状況は変わっていなかった。そして、リリシェはいつの間にか目から涙を流していた。

タクト「お前…何で…泣いている…」
リリシェ「だって…! 私って何の役にも立ってないんだもん…!」
タクト「お前は十分…役に立ってるさ…」
リリシェ「でも、戦いではあまり役に立たないし、この旅に付いてきたのだって、ただの興味本位だし…現に今はタクトを助けられていない…」

そう話している間にもタクトの容態は急変し、呼吸が荒くなっていた。

リリシェ「タクト! しっかりして! タクトーッ!!」

その時、リリシェは願った、タクトを助けたいと、そして、今の自分を変えたいと。リリシェは目から大粒の涙を流し、タクトの胸に当てていた手に落ちた。すると、その手から眩い光が放たれ、光が収まった時にはタクトの呼吸は落ち着いていた。リリシェの誰かを助けたいと言う想いが、強力な毒の解毒に成功したのだ。

タクト「…ん?」
リリシェ「…タクト…? 大丈夫なの…?」
タクト「ああ、大丈夫だ、お前のおかげだな」
リリシェ「よかったー! もう死んじゃうんじゃないかと…」

リリシェは思わずタクトに抱き着き、号泣した。

タクト「ちょ…苦しいって…」
リリシェ「あ…ごめん…」
タクト「それより、さっきのは、どんな毒でも解毒すると言う、最上級解毒魔法キュアセイント…」
リリシェ「私そんな凄い魔法使ってたの!?」
タクト「ああ、お前の誰かを助けたいと言う想いが奇跡を起こしたんだ」
リリシェ「奇跡を信じるなんて、タクトって結構ロマンチストね」
タクト「茶化すな、それより、2人を助けに行くぞ」

タクトとリリシェはシエルプランシュに乗り、オール村に向かった。オール村では、ソレイユとクレセントが縄で縛られていた。2人の近くには鋼の剣を持った村人が剣を構えており、今から2人の処刑が行われようとしていた。

ポディスン「太陽と月の剣士も、こうなってしまえば形無しだねー」
ソレイユ「最後に…リリシェの作ったご飯が食べたかったな~」
クレセント「馬鹿言わないの! きっと2人が助けに来てくれるわ!」

そして、ポディスンの合図で村人が剣を振り上げた。その時、タクトとリリシェがシエルプランシュで体当りし、剣を持った村人は吹き飛ばされた。

ソレイユ「タクト! それにリリシェ!」
リリシェ「遅れてごめんね!」
クレセント「よかった、無事だったのね」
タクト「ああ、リリシェが俺の命を救ってくれたんだ」

ポディスン「あああ…あんた…あの毒をどうやって…!!」
タクト「リリシェの誰かを助けたいと言う想いが奇跡を起こしたんだ」
ポディスン「奇跡~!? そんなのあり~!?」
タクト「ありえないって言うだろうな、お前みたいな奴なら」

すると、タクトは聖剣エスペリアを取り出して構えた。

タクト「覚悟しろよ…! お前みたいな奴は、ただじゃおかねえ!」

タクトはポディスン向けて走った。対するポディスンはエクスプロージョンを唱えて攻撃したが、タクトは聖剣エスペリアでエクスプロージョンを真っ二つに斬った。真っ二つになったエクスプロージョンはタクトの後方で爆発した。そして、タクトは聖剣エスペリアに魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成し、そのまま剣を横一線に振った。

タクト「ブレイヴ・ブレード!!」

ポディスンはブレイヴ・ブレードを紙一重で回避したが、回避した時には武器のポイズンロッドが斬れていた。

ポディスン「あーっ! 私の大事なポイズンロッドがーっ!!」
タクト「チッ、外したか…」
ポディスン「サイアクー! もう帰るっ!」

そう言ってポディスンはテレポートの呪文を唱え、去って行った。

タクト「逃げたか…できれば殺したかったが…」

すると、縄を解かれたソレイユとクレセントが駆け寄ってきた。

ソレイユ「タクト、もう毒は大丈夫?」
タクト「ああ、何ともない」
クレセント「病み上がりだから後で少し休みましょうね」
タクト「そうだな」

すると、後ろでは村人たちが怯えていた。そんな村人たちに対し、タクトはある警告をした。

タクト「俺はお前達を殺しはしないが、もうあんな奴らと関わるのはやめるんだな」

そう言い残し、タクト達はオール村を去って行った。タクト達はすぐに次の目的地に向かっていたが、その移動中、シエルプランシュの上にいたタクトとリリシェはある会話をしていた。

タクト「なあ、リリシェ」
リリシェ「何? タクト」
タクト「助けてくれて、ありがとな」
リリシェ「…え?」
タクト「…何だ? 何か変な事言ったか?」
リリシェ「タクトって、ちゃんとお礼言えるんだ~」

すると、タクトは無言になった、どうやら照れているようだ。その様子を見て、リリシェはクスクスと笑っていた。

タクト「…笑うな!」

タクトはシエルプランシュのスピードを上げた。

リリシェ「わわっ! ごめ~ん!!」

奇跡を起こして勝利を収めたタクト達は、温泉で有名な観光地であるユーティ村に向かった。タクトはただ単に休めればいいと思っているが、女性陣は有名な温泉に入りたいと楽しみにしていた。そして、タクト達はユーティ村に到着した。

リリシェ「とうちゃーく!」
タクト「ああ、着いたな」
クレセント「ここの温泉って凄く有名なのよね」
ソレイユ「丁度疲れてたし、入ったら気持ちいいだろうな~」
リリシェ「ささ、行こ行こ! タクト、覗かないでよ?」
タクト「覗いたりしねーよ」

その後、タクト達は宿に行き、そこの大浴場に向かった。大浴場は非常に広く、男湯と女湯で分かれていてもなお広かった。ちなみに、現在は他に誰も客はおらず、タクト達の貸し切り状態であった。女性陣はタクトより先に湯船に浸かり、旅の疲れを癒していた。

リリシェ「う~ん! 気持ちいい~!」
ソレイユ「あったかいね~」
クレセント「旅の疲れが吹っ飛ぶわね~」

湯は熱すぎずぬるすぎず、丁度いい温度であり、その湯の温度で体の疲れや筋肉痛が和らいでいった。すると、ソレイユとクレセントはある事に気が付いた。

クレセント「ねぇ、リリシェ…あなた、意外と胸あるわね…」
リリシェ「え? そうかしら?」
ソレイユ「普通に私達より大きいよ?」
リリシェ「そ…そう? 何か照れるな~」
クレセント「ねえ、どうやったらそこまで大きくなるの?」
リリシェ「え…そう言われても…栄養を摂取するとかかしら…?」
ソレイユ「なるほど、太れって事だね!」
リリシェ「いや…そう言う事じゃ…」

すると、その話が聞こえていたのか、タクトが大浴場の柵を登って大声で叫んだ。

タクト「お前ら! 温泉で変な話をするな! こっちまで聞こえるわ!」

するとリリシェはタクトに対し、大声で返した。

リリシェ「こらタクト! 覗くなっつっただろー!!」
タクト「あ、やべっ」

リリシェに怒られてタクトはすぐに柵から降りた。

リリシェ「あいつ…後でお説教ね…」

その後、タクトは湯船から先に上がり、服を着て宿の個室で休んでいた。すると、しばらくしてリリシェ達がバスローブ姿で帰ってきた。

リリシェ「タークートー! あれほど覗くなって言っただろー!」
タクト「お前らが変な話するからだろ」
リリシェ「じゃあ何? 私達の話を盗み聞きして興奮してたの?」
タクト「盗み聞きしたんじゃなくて、こっちまで聞こえてたんだって!」

すると、リリシェはある事に気づいた。タクトの服が今日まで来ていた物と同じだったのだ。

リリシェ「タクト…一応聞くけど、この服洗ったやつ?」
タクト「いや、今日着てたやつ」
リリシェ「あんた馬鹿? 何で体を綺麗にしてわざわざ汚れるような事してんの!?」
タクト「だってまだ1日しか着てなかったから」
リリシェ「馬鹿! これ今すぐ脱いで! で、またお風呂入って綺麗なやつ着て!」

その話を聞いていたクレセントはくすくすと笑っていた。

リリシェ「え…? 何…?」
クレセント「あなた達って、まるで夫婦みたいね」
リリシェ「はぁ!? 何でこんな奴と!?」
タクト「そうだ、俺はこんなうるさい女を嫁に貰うのは嫌だぞ」
リリシェ「何ですってー!?」
クレセント「ほんと、息ぴったりね」
タクト&リリシェ「だから、こいつと結婚は嫌だって!」

その後、結局タクトはもう1度温泉に入った後、パジャマの代わりに下着とタンクトップを着て寝た。ちなみに、女性陣はネグリジェを着て寝ていた。その夜、タクトは急に夜中に目が覚め、ベランダに向かった。すると、そこには悲しげな顔をして月を見ているクレセントの姿があった。タクトは気になって声をかけてみた。

タクト「お前も眠れないのか? クレセント」
クレセント「タクト…ちょっとね、この戦いが終わった後の事を考えていて…」
タクト「この戦いが終わった後の事…?」
クレセント「あなたも知ってるでしょ? 300年前の大戦が終わった後の私とソレイユの事…」

300年前の大戦、通称、太陽と月の大戦は、ソレイユとクレセントが力を合わせて戦争で失った大陸を元に戻した事で、人類たちはこれが神の与えた最後のチャンスだと思い、戦争をやめたのだ。その後、ソレイユとクレセントは長き眠りについた。そして約半年前、ヴェンジェンスが活動を開始した事で、2人は長き眠りから覚めた。つまり、ソレイユとクレセントは世界に脅威が訪れた時しか目覚めないのである。

タクト「お前達が眠りにつくと言う事は、世界が平和になったと言う事だろ?」
クレセント「でもね、私は怖いのよ、あなた達と別れる事が」
タクト「俺達と別れる事が怖い…か…」
クレセント「ごめんなさい…ほんとに自分勝手って事は分かってるんだけど…私、あなた達と一緒にいるのが楽しいの」
タクト「俺達と一緒にいるのが楽しい…か…」

クレセント「私とソレイユはね、300年前にもあなた達みたいに心を通わせた人間がいたの」
タクト「だが、お前達は眠りについてしまい、目覚めたらその人物の姿はなかった、か…」
クレセント「そう、だからもしそんな事になってしまったら…」
タクト「………」

非常に重い内容の話に、しばらく2人は口を閉じた。すると、クレセントは何かを察知した。

クレセント「…タクト、ヴェンジェンスが来るわ」
タクト「何っ!?」

その時、ベランダに3人の兵士がジャンプで飛び込んできた。タクト達は後ろに跳んで攻撃を回避したものの、3人の兵士はマジックガンと言う魔法を発射する銃で炎魔法のファイアを放ち、タクト達を攻撃した。タクトとクレセントはファイアを回避したが、ファイアは後方にあったドアに命中し、爆発した。その爆音でリリシェとソレイユは目を覚ました。

リリシェ「ななな、何っ!?」
ソレイユ「タクト~、いい加減にしてよ~」
タクト「アホ、何寝ぼけてやがる、早く起きろ、ヴェンジェンスだ」
リリシェ「えええ~!? 私今ネグリジェなのに~」

文句を言いながらも、リリシェとソレイユは武器を召喚した。

タクト「さて、さっさと倒すか」

その時、後ろから真空波が飛んできた。タクトはその攻撃を間一髪回避した。その攻撃の主は、タクト達の知っている人物だった。

リリナ「久しぶりね、あなた達」
タクト「お前は…シーリスの村を攻撃していた指揮官か…!」
リリナ「今はヴェンジェンス特殊部隊の指揮官よ、そしてこの子達が私の部下…」
ターニャ「ターニャよ」
ミーナ「ミーナだよ!」
ノクト「ノクトです」
タクト「んな事どうだっていい、すぐにぶっ殺してやる!」

そう言ってタクトはリリナに斬りかかったが、斬り払われてしまった。

リリナ「驚いた? 私は人間の姿だけど、怪物化した時とほぼ同等の身体能力を持っているのよ」
クレセント「まさか…! あの時体内に吸い込まれたシールの影響!?」
リリナ「ピンポーン、あったり~!」
タクト「化け物め…! ならすぐに楽にしてやる…!」
リリナ「そうはいかないわよ! ブレード・エッジ!!」

リリナは剣を振って真空波を飛ばした。タクトは聖剣エスペリアで防御したが、真空波の衝撃でベランダの外に吹き飛ばされた。

リリシェ「タクトッ!!」

タクトは落下しながらシエルプランシュを取り出し、その上に乗った。そして、そのまま上昇し、ターニャ、ミーナ、ノクトの3人にシエルプランシュに乗ったまま体当たりをして吹き飛ばした。

リリナ「よくも私の可愛い部下を!」
タクト「いや、あの程度じゃ死んでないぞ」

タクトの言った通り、生きていた3人は同時にマジックガンでファイアを放った。だが、タクトは上級風魔法のサイクロンを唱え、竜巻を発生させた。すると、ファイアの炎がサイクロンの竜巻と合体し、炎の竜巻が発生、その炎の竜巻に呑まれ、リリナとその部下が吹き飛ばされた。

タクト「くたばったか?」

だが、なおもリリナは向かって来た。

リリナ「許さない…! ブレード・エッジ!!」
タクト「同じ手を二度も食うかよ」

タクトは真空波を炎魔法のファイアで迎撃し、爆裂魔法のエクスプロージョンで追撃、その爆発でリリナを吹き飛ばした。

タクト「驚いた、力の差が歴然だな」
リリナ「うぅぅ~! 覚えてなさいよ~!!」

そう言いながらリリナは部下を連れてすたこらと逃げて行った。

ソレイユ「あれを食らって生きてるなんて、生命力がゴキブリ並だね」
タクト「さっさと任務失敗の責任を取らされて処刑されてろ」

翌朝、タクト達は宿を破壊した事で、宿主にカンカンに怒られた。だが、事情を説明した事と、タクトが弁償として金を払った事により、大事には至らなかったものの、1年は宿に来ないでくれと言われてしまった。宿主曰く、宿を壊した事は許さないが、事情が事情なのと、一応弁償金を払ったから大目に見てこれぐらいのペナルティで済ましたとの事。そして、タクト達はあまりゆっくり休めず、そのまま旅に出る事になった。

リリシェ「あ~も~! 休むはずが逆に疲れちゃったじゃない!」
ソレイユ「ほんと、ヴェンジェンスって迷惑な奴ら!」

その旅の途中、クレセントはタクトにある事を聞いた。

クレセント「ねえ、タクト、私とソレイユがいなくなっても、私の事を覚えていてくれる?」
タクト「もちろんだ、2人共仲間だからな」
クレセント「それを聞いて安心した、ありがとう」

いつか別れは必ず来る、その別れに対する恐れを乗り切ってクレセントはヴェンジェンスと戦う事を決意する。そして、タクト達はヴェンジェンスを倒す為、旅を続けるのだった。

作戦に失敗したリリナ達がクライムパレスに戻ると、最近よく作戦の邪魔をするタクト達をどうするか会議が行われていた。

リリナ「ただいま戻りました、作戦の失敗、申し訳ございません」
クライム「別に構わないさ、それより、そのタクト達は中々やっかいだな」
リリナ「はい、4人いるのですが、4人共かなり強くて…」
フロスト「彼らの結束力はかなりのものだよ」
ポディスン「あいつら、私のお気に入りのポイズンロッドを壊したの! 許せない!」

ヴェンジェンスのメンバーがタクト達の強さを物語ると、四天王の1人であるアオが興味を示した。

アオ「ねえ、クライム、私が行こうか?」
クライム「いや、大丈夫さ、まだグラムが彼らと戦ってないからね」

グラムはマイペースな性格ではあるが、槍と魔法の腕前が高く、何より分析力が高いのである。

クライム「グラム、行ってくれるか?」
グラム「ん~、分かった、暇だから行ってくるよ、でも…」
クライム「でも? 何か必要か?」
グラム「クライム様の側近の2人を貸してくれる?」
クライム「デクシアとアリステラか? いいだろう、連れて行け」
グラム「ありがとう、じゃ、行ってくるね」

そう言って、グラムはテレポートの呪文で部下と共に移動した。

一方その頃、タクト達はカンナ村の宿で休んでいた。だが、クレセント以外の3人は全員ベッドの上でダラダラとしていた。長旅と度重なる戦いで疲れたのだろうが、流石に怠けすぎであった。

クレセント「もう…! 3人共ダラダラしすぎよ!」
タクト「ったく、お前は俺の親かよ」
リリシェ「まあ、たまにはこんな日もいいんじゃない?」
クレセント「あなた達ねぇ…」

すると、ソレイユがある疑問を口にした。

ソレイユ「ねえ、ヴェンジェンスの本拠地って、どこにあるのかな?」

ヴェンジェンスの本拠地は、世界各地の軍が探しているのだが、未だどこにあるか分かっていないのである。それをただの旅人であるタクト達が4人で探しているのだ。

タクト「それを俺達が探してるんだろ」

すると、リリシェがある提案をした。

リリシェ「ねえねえ、今度ヴェンジェンスが現れたら捕まえて聞き出しましょうよ」
タクト「捕まえるはいいが、そう簡単に吐いてはくれないだろ…」
ソレイユ「大丈夫! そういう時は拷問をして聞き出せば…」
クレセント「ソレイユ! 聖なる精霊である私達がそんな物騒な事言わないの!」
ソレイユ「じょ…冗談だって…怖いな~クレセントは…」

すると、外が急に騒がしくなった。何が起こったのか確認する為に、タクト達はベランダから外を見た。

タクト「何だ…?」

外には、槍を持った人物と、その両脇に剣を持った人物がいた。

リリシェ「あの3人は、多分ヴェンジェンスだよ!」
タクト「だな、外に出るぞ!」

タクト達は武器を召喚し、外に出た。外では先ほどの3人が宿の入り口近くで待機していた。

グラム「やあ、君達がタクト一派だね?」
タクト「誰だ、名を名乗れ」
グラム「僕はグラム・ディオース、ヴェンジェンス四天王の1人である槍使いだよ」
クレセント「やはりヴェンジェンスだったのね…!」

すると、グラムは後ろに下がって取り巻きの2人を前に出した。

グラム「まずはこの2人を相手にしてよ、僕と戦うのはそれからさ」
タクト「お前はどうやら臆病者らしいな、いいだろう、すぐに蹴散らしてやる」

タクトは剣を取り、デクシアとアリステラの2人を相手にした。だが、デクシアとアリステラはかなりの剣の腕前であり、素早い連続突きや、素早い連続斬りを前にタクトは苦戦した。だが、すぐに仲間達が援護を開始した。

クレセント「タクト! 援護するわ! ルナ・カッター!!」
ソレイユ「私も続くよ! サン・フレイム!!」

クレセントとソレイユはそれぞれ三日月型の真空波と炎を放った。デクシアとアリステラはそれを素早く回避したが、そこをタクトとリリシェが追撃した。

タクト「食らえっ!!」

タクトはデクシアの胸に蹴りを放ち、そのまま吹き飛ばした。

リリシェ「エクスプロージョン!!」

続けてリリシェもアリステラの胸に至近距離でエクスプロージョンを放ち、吹き飛ばした。こうして、デクシアとアリステラの2人は戦闘不能になった。

アリステラ「も…申し訳ございません、グラム様…」
グラム「大丈夫、君達は帰っていいよ、後は僕に任せて」
デクシア「は…はい…」

デクシアとアリステラはテレポートを唱え、その場を去って行った。

グラム「さてと…僕は気付いちゃったな、君達の弱点に」
タクト「何だと!?」

グラムのその言葉に、タクト達は驚きを隠せなかった。どうせただの強がりだろうと思ったが、グラムの口から語られたのは、的確な事実であった。

グラム「まず、君達4人の主戦力は君さ、タクト、それを他の3人が援護する事で初めて僕達を凌ぐ力を持っているんだ」
タクト「…それがどうした」
グラム「だから、早い話が君の動きを封じてしまえば、後はどうにでもなるって事さ」

そう言ってグラムは黒っぽいインクの様な物を指で弾いて飛ばし、タクトの服に付着させた。すると、タクトは急に地面に倒れ込んだ。

リリシェ「タクト!?」
グラム「今タクトに付着させたものはグラビティゲル、早い話が付着した者の重力を異様に重くするゲルさ」

タクトは重力に耐え、何とか立ち上がろうとしていたが、あまりの重力に立ち上がれずにいた。

グラム「ふふふ、これでゆっくり他の3人を倒せるね」
クレセント「あまり私達を舐めない方がいいわよ!」
ソレイユ「そーだそーだ! 私達だって強いんだから!」

ソレイユとクレセントはそれぞれサン・フレイムとルナ・カッターを放った。だが、グラムは掌から光の壁を発生させ、2人の技を跳ね返した。ソレイユとクレセントは跳ね返って来た自分の技でダメージを受けた。

ソレイユ「ッ! 何で!?」
グラム「僕の防御魔法、リフレクトバリアの能力さ、これは魔力を使った攻撃なら全部反射できる」
クレセント「そんなっ…!!」

すると、リリシェが剣を取り、グラムに攻撃を仕掛けた。

リリシェ「魔法が駄目でも、私達には剣があるっ!!」

だが、グラムは大型の槍であるストロングランスで受け止めた。

グラム「忘れた? 僕は槍の腕前なら誰にも負けない自信があるんだよ?」

すると、グラムは槍を強く握り、高速回転を放った。

グラム「サイクロンランス!!」

サイクロンランスはグラムの必殺技であり、竜巻の様に高速回転を放ち、全てを吹き飛ばす技である。そして、その技を近距離で食らったリリシェはタクトの近くに吹き飛ばされた。

リリシェ「あっ…うぐっ…体が…動かない…」

リリシェはサイクロンランスと、体を強く打ったダメージで重傷を負った。

タクト「くそっ…! 俺さえ動ければっ…!!」

ソレイユとクレセントは2人がかりでグラムに挑むが、2人もサイクロンランスで吹き飛ばされてしまった。その時、タクトは傷つけられる仲間を見て、我慢の限界に達した。

タクト「…いい加減にしろよ…お前らはまた奪うのか…あの時みたいに…!!」

すると、立ち上がれないはずのタクトが急に立ち上がり始めた。

グラム「馬鹿な…! グラビティゲルを食らった者は立ち上がれないはず…!」

それでもなお立ち上がろうとするタクトに圧倒されたグラムは、恐怖に近い感情を感じていた。

グラム「や…やめろ…! 無理に立ち上がると体が崩壊するぞ!!」
タクト「ごちゃごちゃうるせえよ…今はお前を殺せればそれでいい…!!」

タクトは気合で何とか立ち上がり、聖剣エスペリアを手に取った。タクトの気合に敗北したグラビティゲルは消滅し、その役目を終えた。

グラム「馬鹿な…! グラビティゲルに勝利する人間など聞いた事がない…!!」
タクト「これで邪魔なものは消えたな、さて、俺の仲間を傷つけた借りを返させてもらうぞ!!」

地面を蹴り、タクトはグラムの方に向かって行った。

グラム「くそっ! エクスプロージョン!!」

グラムはエクスプロージョンの呪文を唱えたが、タクトにあっさりと斬り払われた。

タクト「小細工なんかしてんじゃねえよ…!」

タクトは聖剣エスペリアに魔力を纏い、魔力の剣を生成した。そして、空高く飛び上がり、剣を振り下ろした。

タクト「ブレイヴ・ブレード!!」

対して、グラムはストロングランスを振り、竜巻を発生させた。

グラム「ランス・トルネード!!」

タクトのブレイヴ・ブレードはランス・トルネードを斬り裂き、そのままグラムのストロングランスを両断した。

グラム「くっ…! 僕のストロングランスが…!!」
タクト「チッ、てめえを叩き斬るには魔力が足りなかったらしいな」
グラム「くそっ!」

その時、グラムの脳内にクライムからのメッセージが届いた。

クライム「グラム、お前の負けだ、ここは大人しく引き下がれ」
グラム「クライム様…! 了解です、今から帰還します」

グラムは負けを認め、テレポートの呪文でその場を去って行った。

タクト「フン、負けを認めて逃げ帰りやがっ…」

無理して立ち上がったタクトは体にかなりのダメージを蓄積させていたらしく、タクトはその場にバッタリと倒れ込んだ。その後、タクトが目を覚ました場所は宿のベッドであった。隣のベッドには、包帯だらけのリリシェがいたが、ソレイユとクレセントは傷が完治しており、近くで立っていた。

タクト「…何があった?」
クレセント「2人共凄い怪我をして気を失っていたのよ」
ソレイユ「だから、私達が運んで寝かせてあげたんだよー!」
リリシェ「でも、あなた達は何で怪我が治っているの?」
クレセント「私達は精霊だから傷の完治が人間より早いのよ」
タクト「便利だな、お前らは」

すると、リリシェがある事をタクトに聞いた。

リリシェ「ねえ、タクト、あなたは私達の事をとても大切に思ってるんだね」
タクト「え…? ああ、あれはその場のノリで言っただけだ」
リリシェ「本当? ノリで言っただけなら立ち上がれなかったし、あそこまで怒らなかったでしょ?」
タクト「あ…あれは、だな…」
リリシェ「言っちゃいなよ、私達の事、大切なんでしょ?」
タクト「うっ…うるさい!」
リリシェ「照れてる~」

タクトが照れる様子を見て、ソレイユとクレセントはクスクスと笑っていた。その後、リリシェはタクトに1つ頼みごとをした。

リリシェ「ねえ、タクト」
タクト「…何だ?」
リリシェ「この怪我が完治したら、みんなで海へ行こうよ」
タクト「海へ、か?」
リリシェ「うん、駄目かな?」
タクト「…たまにはいいだろう」
リリシェ「本当? ありがとう!」

すると、ソレイユとクレセントがタクト達の近くに近寄って来た。

クレセント「それじゃ、早速治癒魔法をかけましょうかね」
タクト「治癒できるなら早く言え!!」

グラムとの戦いの傷を癒したタクト達は、カンナ村の近くの海へと遊びに来ていた。この頃ずっと戦いが続いていた為、その息抜きである。4人は水着に着替え、海に向かった。そして、タクトを除いた3人は海で泳ぎ始めた。

リリシェ「う~ん! 気持ちいい~!」
ソレイユ「そうだね!」
クレセント「ずっと戦い続きだったから丁度いいわ」

だが、タクトは濡れるのが嫌いであり、一人浜辺にシートを敷いて、パラソルの下で休んでいた。それに気づいたリリシェは、タクトの方に向かった。

リリシェ「ねえ、タクトは泳がないの?」
タクト「俺は濡れるのが嫌いだ、特に海の水はな」
リリシェ「楽しいよ? ね、行こ」
タクト「断る」
リリシェ「む~」

すると、ソレイユとクレセントがやって来た。

ソレイユ「そう言わず、タクトも泳ごうよ」
クレセント「そうよ、せっかく海に来たんだから泳がないと!」

そう言ってタクトの腕を引き、無理やり海に連れて行った。

タクト「おい! 何をする! やめろ!」
ソレイユ&クレセント「そ~れっ!」

2人はタクトを海に投げ込んだ。タクトは2秒ほど海に沈んだ後、すぐに浮上した。いきなり海に投げ込まれたタクトはカンカンに怒っていた。

タクト「馬鹿野郎! いきなり海に投げ込むな! 鼻に海水が入ったじゃないか!」
リリシェ「だってタクトが中々泳がないんだも~ん」
タクト「お前らなぁ…!!」

タクトは海から上がり、リリシェ達を追い掛け回した。

リリシェ「ちょっと…怖い怖い…!」
タクト「お前ら絶対許さん!!」
ソレイユ「ごめんごめん! ただの冗談だって!」
クレセント「てか、女の子を追いかけるなんて真似はやめなさいよ!」
タクト「んな事知るかー! 濡れた仕返しだー!」
リリシェ「ひ~っ!!」

その後、タクト達は10分ほどリリシェ達を追い回したが、最終的にリリシェ達が海に入った事で追いかけるのをやめた。

タクト「お前ら! 海に入るなんて卑怯だろーが!」
リリシェ「タクト…そんなに濡れるの嫌…?」
タクト「濡れたら気持ち悪いし、海水はベトベトするからな」
クレセント「タクトの前世って、ネコなのかしら…?」
ソレイユ「それ、言えてる」

そして、日が暮れ始めた頃、リリシェ達は海から上がった。ちなみに、リリシェ達が海で泳いでいる間は、タクトはずっとパラソルの下でシートを敷いて寝ていた。そして、4人は水着から普段着に着替え、パラソルとシートを収納し、帰る準備を整えた。

リリシェ「楽しかったね~」
ソレイユ「ね~」
クレセント「また来れたらいいわね」
タクト(また来るのか…もう濡れるのは勘弁…)

すると、どこからか歌声が聞こえて来た。その声の主は海辺の近くにいた青い髪の少女だ。海の様に青い髪をツインテールにしたその少女の歌声は、綺麗な歌声ではあったが、どこか悲しげな歌声でもあった。その少女に興味を持ったリリシェは、話しかけてみる事にした。

リリシェ「綺麗な歌声ね」
???「…誰?」
リリシェ「私はリリシェ、で、あっちにいるのが…」
???「タクト、ソレイユ、クレセント、でしょ?」
リリシェ「!! 何で私達の名前を…!!」
???「だって私はヴェンジェンス四天王の1人、アオだもん」
タクト「何ッ!?」

自らの事をアオと名乗ったその少女は、タクトの方に向かって行った。

アオ「…ねぇ、何であなたは私達と戦うの?」
タクト「何でって、お前らヴェンジェンスが罪もない人間を傷つけるからだろ」
アオ「私達が…罪もない人間を傷つけるから…?」
タクト「ああ、そうだ」

すると、アオは海の方を見つめた。そして、タクトにある質問をした。

アオ「ねえ、クライム・ゼノロストって人を知ってる?」
タクト「見た事はないが、名前だけなら知ってるぞ、ヴェンジェンスの総帥だろ」
アオ「…私ね、昔の記憶がないの…私の一番古い記憶は、草原の真ん中で倒れていた事…それをクライムに救ってもらったの…」
タクト(昔の記憶がない…? この少女、孤児か何かか…?)
アオ「クライムは私にとって大事な人なの…でも、何であなた達はクライムと戦っているの…?」

その質問に対し、タクトは答えた。

タクト「それもさっきと同じだ、クライムの命令でその部下が、罪もない人間を傷つけるからだ!!」

タクトがそう答えると、アオは悲しそうな表情で黙った。すると今度は逆に、タクトがアオに質問をした。

タクト「じゃあ逆に聞くぞ、お前はクライムのしている事をどう思うんだ?」

その質問に対し、アオはすぐに答えた。

アオ「クライムがやる事なら、私は協力するよ」
リリシェ「協力って…あなた…」
アオ「私ね…何故か体から血の匂いが消えないんだ…きっと記憶を失う前は沢山の人を殺したんだと思う…だから…」

アオは巨大な鎌、スラッシュシックルを召喚し、手に取った。

アオ「クライムの為なら、あなた達を殺すよ」

それに対し、タクト達も武器を召喚し、手に取った。

タクト「やはりこうなるか、くそっ! ヴェンジェンスは犯罪者の集まりだ!!」

アオはスラッシュシックルを振り、真空波を2つ発生させた。その真空波を、タクトとリリシェは斬り払った。だが、アオは続けてスラッシュシックルを振って小型の竜巻を発生させた。

タクト「散開だ!」

4人はそれぞれ別の方向に散開し、竜巻を回避した。そして、タクトはアオに斬りかかった。しかし、アオはスラッシュシックルでタクトの聖剣エスペリアを受け止めた。

アオ「なるほど…他の四天王を撤退させるだけのことはあるね…でも…」

アオはタクトを斬り払った。すると、アオは宙に浮き始めた。

リリシェ「えっ!? あの子…空に浮いてる!?」
アオ「…消えちゃえ」

アオはタクト達に対し、雷を数発落とした。雷の着弾地点では大爆発が発生し、タクト達は爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまった。そして、タクト達は地面に倒れ込んだ。アオは地面に着地し、タクト達にとどめを刺そうと向かって来た。

アオ「これであなた達も終わりだね…」
タクト「くっ…! このままでは…!!」
アオ「あなた達はよくやった方だよ、お疲れ様」
タクト「ふざけるな…! 俺は死ねない…! 死ねないんだ…!!」

すると、リリシェ達はタクトに対し、掌を向けた。

リリシェ「タクト! 私達の力をあなたに与えるわ!」
ソレイユ「この力であいつを倒して!」
クレセント「そして必ず勝って!」

3人の掌からは魔力の光が放たれ、タクトにその光が当たった。すると、タクトは立ち上がり、剣を構えた。

アオ「嘘…!?」
タクト「3人がくれた力…無駄にはしない!!」

タクトは剣に魔力を纏い、巨大な魔力の剣を生成した。これはタクトの得意技であるブレイヴ・ブレードだが、魔力の剣がいつもより長くなっていた。これはタクトがこの一撃に全てを賭けているからである。

タクト「これで決める…! ハイパー・ブレイヴ・ブレード!!!」

タクトは空高く飛び上がり、アオにハイパー・ブレイヴ・ブレードを振り下ろした。

アオ「プロテクト・シールド!!」

アオは鎌を横に構えて、魔力のシールドを発生させた。ハイパー・ブレイヴ・ブレードとプロテクト・シールドはしばらく競り合ったが、負けると悟ったアオがプロテクト・シールドの発生源であるスラッシュシックルを投げ捨てて脱出し、スラッシュシックルは両断された。

タクト「まだだッ! もう一撃!!」

タクトはアオに対し、ハイパー・ブレイヴ・ブレードを振った。

アオ「くっ! 撤退!!」

ハイパー・ブレイヴ・ブレードが命中する直前に、アオはテレポートの呪文で撤退した。こうして、危機は去ったのである。

タクト「…何とか…勝ったぞ…」

力を使い果たしたタクトは仰向けに倒れそうになったが、リリシェ達が支えてくれたことで何とか倒れずに済んだ。

リリシェ「お疲れ様、タクト」
ソレイユ「タクトのおかげで助かったよ、ありがとう」
クレセント「流石はタクトね」
タクト「はは…流石に疲れた…早くゆっくり休みたい…」
リリシェ「じゃあ、私達が宿まで運んで行ってあげるね!」
ソレイユ「それじゃあ、しゅっぱーつ!!」

タクトはリリシェとソレイユに運ばれて行った。一方のクレセントは、タクトの活躍を見て、思う事があった。

クレセント(タクトの力は…この世界を救ってくれるかもしれない…もしかしたら、タクトはこの時代の希望の剣士なのかもしれないわ…)

そう思いながらクレセントはリリシェ達の後を付いて行った。今日は海で楽しんだが、まだヴェンジェンスとの戦いは続く…ヴェンジェンスを倒すまで、タクト一派の戦いは終わらないのだ。


この世界のどこかにあるクライムパレスでは、タクト達と戦って帰ってきたアオが、クライムにタクト達の強さを伝えていた。

アオ「クライム、あいつら案外やるよ」
クライム「そうか…アオを含めた四天王たち全員がそう言うなら、彼らは中々やると言う事だな…」

クライムはこれまでにない程に考えていた。四天王最強のアオが撤退するほどの力、たった4人の旅人が何故これほどまでの力を持っているのか。そして、彼らを倒す為にはどうすればいいのか。すると、フロストがいい作戦を見つけたのか、クライムにある提案をした。

フロスト「クライム様、僕にいい作戦があります」

そのフロストの表情は自信に満ちた表情であった。

クライム「フロスト、その様子からすると、いい作戦なんだな」
フロスト「はい! 僕の能力の全てをかけた作戦です!」
クライム「分かった、ここはお前に任せる、頼んだぞ」
フロスト「はい!」

すると、フロストはリリナ達特殊部隊にも呼び掛けた。

フロスト「リリナ、お前達特殊部隊にも一緒に行ってもらうよ」
リリナ「はっ! 了解です、フロスト様」

フロストとリリナは、クライムに敬礼をして部屋を出て行った。

クライム「さて…彼らの作戦はうまく行くかね…」

一方のタクト達は、カンナ村を後にし、河原にテントとキッチンを構えて休んでいた。

リリシェ「久しぶりだねーこうやってキャンプするの」
タクト「ああ、そうだな」

河原では、ソレイユとクレセントが洗濯をし、リリシェがキッチンで料理を作り、肝心のタクトは椅子の上でくつろいでいた。

リリシェ「タークートー! あんたも何か手伝いなさいよ!」
タクト「嫌だ、めんどくさい」
リリシェ「働かざる者食うべからずって言葉知らないの?」
タクト「知らん」
リリシェ「馬鹿ーっ!!」

すると、突然キッチンが凍り付き、崩れ落ちた。幸い、キッチンで料理を作っていたリリシェは無事だったが、リリシェは突然の出来事に、目を丸くして固まっていた。

タクト「…お前、料理下手くそだな」
リリシェ「馬鹿! これはどう見てもヴェンジェンスの仕業でしょ!」
フロスト「せいかーい」

そこには、フロストとリリナ、そしてターニャ、ミーナ、ノクトが立っていた。突然現れた彼らに対し、タクト達はすぐに戦闘態勢を整えていた。

タクト「お前…! どう言うつもりだ!!」
フロスト「何、僕は君達を殺すよう言われてるけど、不意打ちで殺すのは嫌ってだけさ」
リリシェ「最低限の人間性を備えているのは褒めてあげるわ、でも…料理どうしてくれるのよーっ!!」

リリシェがさっきまで作っていた料理は、キッチン共々凍り付き、バラバラに崩れ去っていた。

フロスト「ごめんねー、ちょっと驚かしてあげようとしただけさ」
リリシェ「この馬鹿ーっ!!」
タクト「俺の料理…腹減った…」

すると、リリナとその部下の3人がタクト達の周りを取り囲んだ。よく見ると彼女たちの掌には、電撃が発生させられていた。

ソレイユ「一体何をする気だろう…」
クレセント「少なくともいい事ではなさそうね…」
フロスト「フフフ、すぐに分かるさ、やれっ!!」

フロストの合図で、リリナ達4人は電撃を掌から放った。すると、その電撃は檻の形になった。その様子は、まるで檻に閉じ込められた動物のようであった。

リリシェ「何…これ…?」
リリナ「エレキ・トラップ、複数人で放つ合体魔法よ」
フロスト「流石の君達もこれからは脱出できないだろう? さあ、どうする?」

エレキ・トラップは少しずつ小さくなり、タクト達に近づいてきた。

リリシェ「嫌ーっ! 感電するーっ!!」
クレセント「落ち着いて、リリシェ」
ソレイユ「でも、このままじゃ…」

すると、タクトは突破方法がひらめいたのか、ソレイユとクレセントの方を向いた。

タクト「ソレイユ! クレセント! リリシェを掴んで浮いていてくれ!」
クレセント「分かったわ!」

ソレイユとクレセントはリリシェの脇の部分を掴み、浮遊した。その間、タクトは剣に風の魔力を纏い、真空の刃を生成した。そして、そのまま回転斬りを放った。

タクト「エアロ・ブレード!!」

真空の刃はエレキ・トラップを斬り裂き、その風圧でリリナとその部下を吹き飛ばした。

フロスト「何っ!?」
タクト「ふぅ…危なかった…」

エレキ・トラップが消滅し、安全になった為、ソレイユとクレセントはリリシェと共に地上に降りた。

リリナ「フロスト様…、ごめんなさい…」

作戦は失敗したが、フロストはそれほど困っていない様子であった。どころか、まだ本気を出していないようにも見えた。

フロスト「大丈夫さ、本命はこれからだ!」
タクト「何っ!?」

フロストは地面に手を付いた。すると、そこから地面がみるみる凍り付いて行った。

リリシェ「やばっ! 逃げましょう!」

だが、逃げようとしても足が動かなかった。それは、足と地面が一体化したかのようであった。

タクト「何故だ…! 足が動かん…!!」
フロスト「僕のアイシクル・フィールドは、氷魔法と重力魔法のハイブリッド! だから獲物を逃さず凍らせる事ができるのさ!」

氷はタクト達の方にまで接近した。ソレイユはサン・フレイムを放ったものの、アイシクル・フィールドの凍結力には勝てず、とうとうタクト達の足元にまで氷が接近した。

リリシェ「嫌ーっ! 私まだ死にたくないーっ!!」
タクト「アホ! 諦めるな!!」
フロスト「さあ、こっからがお楽しみの時間だよ」

アイシクル・フィールドはタクト達の足から足首を凍結させた。凍結した瞬間、激しい痛みが足を襲った。

タクト「ぐあああああっ!!」
リリシェ「嫌ぁぁぁっ!!」
フロスト「ハハハハハ! いいねえ! いい声で泣くねえ!!」
クレセント「くうぅっ!! まだ…ヴェンジェンスを倒してないのにっ…!!」
ソレイユ(みんな…!!)

その時、ソレイユは思った。自分は太陽の光から生まれた精霊なのに、何をやっているんだと。自分が太陽の剣士なら、仲間を救いたい。そしてソレイユは、自分の真の力を解放させた。

ソレイユ「はあああぁぁぁぁぁッ!!!」

ソレイユは自身の体温を急上昇させた。そして、その体温を氷の方に送り、氷を解凍させた。ソレイユは自身の体温をコントロールさせる事で、近くにいるタクト達に火傷を負わせる事なく、氷と溶かす事に成功したのである。

フロスト「な…何故だっ…!? 僕のアイシクル・フィールドは、破られた事のない最強の技なのにっ…!!」
ソレイユ「知ってる? 寒さには下限があるけど、熱さには上限がないって事」
フロスト「何っ!?」
ソレイユ「私は太陽の剣士ソレイユ! あなたの氷じゃ、私を凍らせる事はできない!!」

その時、フロストにはソレイユが真夏の太陽のように見えた。夏の空にさんさんと輝く熱い太陽、フロストの自信は氷の様に砕け散ってしまった。すると、アイシクル・フィールドは、完全に溶かされ、タクト達は身動きが取れるようになった。

リリシェ「あっ! 動ける!」
ソレイユ「はぁ…よかった…」

力を使い果たしたソレイユは、力を失いぐったりとしていた。

タクト「クレセント! ソレイユの事はお前に任せる!」
クレセント「分かったわ!」
タクト「リリシェ! 行けるな?」
リリシェ「うん! まだ足が痛むけど、行けるよ!」

タクトとリリシェは剣を構え、フロストの方に向かった。

フロスト「まだだ! まだ僕は負けてない!!」
タクト「諦めが悪いんだよ…!!」

タクトとリリシェはフロストに攻撃を仕掛けるが、凍傷によって痛む足で無理やり動いている為、足取りがあまりよくなく、スピードでフロストに負けていた。

フロスト「その足じゃ、僕には勝てないね!」

フロストはコールドブレードを放った。コールドブレードは、冷気を纏った剣で斬り裂く技である。タクトとリリシェはそれを剣で防御したが、反動で吹き飛ばされてしまった。

タクト「ぐぅっ…!!」
リリシェ「どうしよう…この足じゃ勝てないかも…」
タクト「アホ! 諦めてどうするんだ!!」
リリシェ「アホって何よーっ!!」

その時、タクトはふと思いついた。相手が氷使いなら、炎が弱点じゃないかと。

タクト「リリシェ、何か炎魔法使えるか?」
リリシェ「え? ファイアが使えるけど…」
タクト「それを俺の聖剣エスペリアに放て」
リリシェ「うん、何か知らないけど分かった」

リリシェはタクトの聖剣エスペリアにファイアを放った。

フロスト「ハハハ! 自分の剣を燃やしてどうするんだ!!」
タクト「…いや、これでいい」

すると、聖剣エスペリアからは巨大な炎の刃が生成されていた。その刃は、ブレイヴ・ブレードよりも巨大であった。

タクト「俺の聖剣エスペリアには、魔力を増幅する能力がある、俺がブレイヴ・ブレードやエアロ・ブレードを使えるのもこのおかげだ」
リリシェ「じゃあ、剣に直接魔法を放ったら?」
タクト「その時は、いつもより巨大になるだけさ」

タクトは巨大な炎の刃をフロストに振り下ろした。あまりの巨大さに、フロストは回避しきれず、その炎の刃をモロに食らってしまった。

フロスト「うわあああああっ!!!」

フロストの周りには巨大な火柱が発生し、火柱が収まった時には、フロストは大火傷を負い、地面に倒れ込んだ。

リリナ「フロスト様!!」

リリナとその部下はフロストの元へ向かった。そして、フロストを背中に背負い、タクト達に一言言い放った。

リリナ「あんた達、今度会ったら覚えときなさいよ!!」

そう言い残し、リリナ達は去って行った。

タクト「負け犬の遠吠え…か…」
リリシェ「てか、足痛った~」
タクト「うっ、言われてみれば…」

戦いが終わり、忘れていた凍傷に苦しみ出したタクト達。するとそこにクレセントがやって来た。

クレセント「私が治癒魔法で治してあげるから、安心して」
リリシェ「助かるよクレセント~」

クレセントの治癒魔法で完全回復したタクト達は、フロスト達に邪魔された休憩の続きを取る事になった。

リリシェ「さーて! 私は料理を作りましょうか!」
タクト「キッチンぶっ壊されたのにか?」
リリシェ「あ…」

リリシェは忘れていた、愛用のキッチンがフロストに破壊された事を。それを見かねたタクトが、代わりになるものをリリシェに貸した。

タクト「仕方ねえ…これを貸してやるよ」
リリシェ「ありがとー!…って」

タクトが取り出したものは、バーベキューコンロであった。

リリシェ「これ、バーベキューに使う奴じゃないの!!」
タクト「仕方ないだろ、これしかないんだから」
リリシェ「馬鹿ーっ!!」

すると、クレセントと体力を回復させたソレイユがやって来た。

ソレイユ「何々ー? バーベキューするの?」
クレセント「あら、それは楽しそうね」
タクト「ほら、こう言ってるぞ」
リリシェ「…はぁ、まあ、たまにはいっか」

タクト達に敗れ、帰ってきたフロストは、以前より強くなったタクト達の強さを思い知らされた。4人全員が結束して生まれたその強さは、もう四天王の誰が挑んでも勝てないのではないか、フロストは1人、そう考えていた。すると、目の前にポディスンが現れた。

ポディスン「やあやあフロスト、浮かない顔だね~」
フロスト「ポディスンか、いや、ちょっとね…」
ポディスン「タクト一派の事かな?」
フロスト「うん…あいつら、以前より強くなっててね…僕の作戦であと一歩まで追い詰めたんだけど、それも破られちゃってさ」
ポディスン「ふぅん…アイシクル・フィールドが破られたのか~でも大丈夫!」
フロスト「その様子、何か作戦があるみたいだね」
ポディスン「うん! 私の猛毒で、今度こそあいつらの息の根を止めてあげるんだ!」
フロスト「ポディスンの猛毒なら、今度こそ倒せるよ! 頑張ってね!」
ポディスン「ありがとー! じゃ、ちょっと行ってくるね!」

フロストとの戦いが終わったその夜、タクト達はテントで休んでいた。タクトのいるテントは小さい1人用のテントだが、リリシェたち女性陣のいるは3人用の大きめのテントである。流石に旅の仲間と言えど、男と女は一緒にはいれないのである。ちなみに、タクトのいるテントはタクトの私物で、リリシェ達のいるテントはリリシェの私物である。タクトがテント内の布団の上で本を読んでいると、テントの外からリリシェの呼び声が聞こえた。

リリシェ「ねえ…タクト、入っていい?」
タクト「リリシェか? 何か用か?」
リリシェ「うん…ちょっと聞きたい事があるの」
タクト「分かった、入っていいぞ」

リリシェはテントの中に入ったが、1人用のテントの狭さに少し戸惑っていた。2人は仕方なく、テント端に寄り、話を始めた。

タクト「で? 聞きたい事って何だ?」
リリシェ「タクトってさ、ヴェンジェンスを倒した後はどうするの?」
タクト「ヴェンジェンスを倒した後か? そうだなぁ…」

タクトはその問いにしばらく考えていた。この旅の目的はヴェンジェンスを倒す事ではあるが、ヴェンジェンスを倒した後の事はあまり考えていなかったからだ。リリシェのその問いにしばらく頭を悩ませた後、タクトは答えを出した。

タクト「多分だが、今と変わらず旅を続けていると思う」
リリシェ「えっ? 何で?」
タクト「それはな、ヴェンジェンスを倒して平和になった世界を見て回りたいからだ」
リリシェ「へ~、旅をしても結局旅を続けるのね」
タクト「まあ、こう見えても俺は旅人だからな」
リリシェ「そう言えば、タクトと最初に会った時は1人で旅をしてたっけ」

そんな話をしていると、タクトもリリシェに聞きたい事が思い浮かんだ。

タクト「そう言うお前も、ヴェンジェンスを倒した後は何をするんだ?」
リリシェ「えっ!? そ…そうね…」

タクトのその問いに、リリシェも頭を悩ませた。リリシェはこの旅にはただの興味本位で付いて来た訳であり、タクトのように明確な目的は持ってないからである。リリシェはしばらく考えた後、答えを出した。

リリシェ「私もタクトと同じかな、また再び旅に出るわ」
タクト「それは何故だ?」
リリシェ「忘れた? 私もこう見えて旅人なのよ?」
タクト「…ミニスカートを履いてリボンを頭に付けてるお前が旅人?」
リリシェ「失礼ね! あんたと違ってファッションには気を使ってるのよ!!」
タクト「フッ、お前、本当に面白い奴だな」

すると、タクトはリリシェにある事を提案した。

タクト「なあ、お前も旅に出るなら、俺と一緒に来ないか?」
リリシェ「えええ!? いきなり、何!?」

リリシェはタクトのその言葉を告白と捉えてしまった。こんなムッツリした男からいきなり一緒に来ないかと言う言葉が飛び出したからである。だが、タクトから帰ってきたのは彼らしい言葉であった。

タクト「いや、お前の料理美味いからさ、毎日食いたいし」

その言葉に、リリシェは嬉しくはあったが、少しホッとした思いもあり、少し怒りも覚えた。だが、リリシェはしばらく考え、答えを出した。

リリシェ「べ…別に一緒に行ってあげてもいいけど、この旅が終わるまで考えらせてくれない?」
タクト「この旅が終わるまで? ああ、いいぞ」
リリシェ「あ…ありがと…じゃ、私帰るね」

すると、外からクレセントがタクト達を呼ぶ声が聞こえた。その声の様子からすると、かなり焦ってる様子であった。タクト達が慌てて外に出ると、そこには猛毒に侵された女性がいた。

リリシェ「これはどういう事!?」
クレセント「私が外で涼んでいると、ふらふらとした足取りでここに倒れ込んだの」
ソレイユ「多分、この女の人、猛毒に侵されてるよ」

すると、タクトはある人物を思い出した。オール村で出会ったヴェンジェンス四天王の1人、ポディスンである。

タクト「おい! お前、誰にやられた!?」
女性「ど…毒猫族の女の子に…」
タクト「やはりな、この女をこんな目に合わせたのはポディスンだ!」
クレセント「ポディスンってあの…!」
ソレイユ「あの酷い猫女ね!」
リリシェ「なら、私が解毒できるわ! 任せて!」

リリシェが解毒魔法のキュアセイントを唱えようとしたその時、女性は自身の左胸を強く掴んだ。すると、そこから猛毒の霧が発生し、タクト達は猛毒に侵された。

タクト「ぐあああああっ!!」
リリシェ「な…何っ!?」

猛毒に侵され、苦しむタクト達。だが、さっきまで猛毒に侵されていた女性は何事もなかったかのように立ち上がり、リリシェの腹を強く踏みつけた。

リリシェ「がはっ!!」

腹を強く踏みつけられたリリシェは気絶した。

クレセント「あなた…! 何をするの…!!」
女性「これで…キュアセイントは使えないわね…」
???「よくやったわね、上出来よ、ライラ」

そう言って現れたのは、ポディスンであった。

タクト「ポディスン…! 貴様ぁぁぁッ!!」
ポディスン「いいザマだね~、こんな簡単に騙されるなんて~」
ソレイユ「卑怯だよ! こんなの!!」
ポディスン「戦いに卑怯もラッキョウも無いよ~、それより、何でこの作戦がうまく行ったか、聞きたい?」
ライラ「それはね、私が天才舞台女優だからよ」
ソレイユ「え!? じゃあ、苦しんでたのは演技って事!?」
クレセント「なるほど…ヴェンジェンスなら邪気ですぐ悪人って分かる私達精霊が気付かなかったのは、演技で邪気を消してたからなのね…」
ライラ「そうよ、流石私!」
ポディスン「それに、タクトは鼻が利くって言ってたから、ライラにはたっぷりと香水をかけてあげたよ~」
タクト「なるほどな…どうりで香水臭いわけだ」
ポディスン「そして、最後はライラの左胸に忍ばせたポイズントラップであなた達を猛毒状態にする! 全て私の計画通り~!!」
タクト「相変わらずやり方が汚いな!!」
ポディスン「まあね~」
ライラ「さて、そろそろやっちゃいましょうよポディスンさ~ん」
ポディスン「オッケー! 一気にぶっ殺しちゃうよ~!!」

すると、クレセントはあまりに卑怯なやり口に怒りをあらわにした

クレセント「…許さない…! あなた達は絶対に!!」

そう言ってクレセントは立ち上がり、自身の月の力を解放した。クレセントの全身は月のように輝き、夜の河原を眩く照らした。

ライラ「な…何…!?」
ポディスン「前が見えないっ!!」

クレセントの優しい月の光は、タクト達の体全体を覆い、身体に回った猛毒を完全に消し去った。

ソレイユ「これが、クレセントの月の力…」
タクト「凄く落ち着く光だ…とてもいい気分になる…」

力を使い果たしたクレセントは地面に座り込み、身体に回った毒が消え去ったタクトとソレイユは立ち上がり、ポディスン達を睨みつけた。

ソレイユ「みんなを酷い目にあわせた事、絶対許さない!!」
タクト「もう許さんぞ…ぶっ殺してやる!!」
ライラ「やばっ! あいつら復活した!!」
ポディスン「関係ないわ! やっちゃえ!!」

ライラはエクスプロージョンを唱え、タクトを攻撃したが、タクトは聖剣エスペリアでエクスプロージョンを押し返し、跳ね返した。ライラはエクスプロージョンを回避したが、タクトの聖剣エスペリアでの一撃で叩き斬られ、死亡した。

ポディスン「ライラ! くっそー!!」
タクト「貴様の毒を、ソレイユの炎で消毒してやる!!」

ソレイユは聖剣エスペリアにサン・フレイムを放った。聖剣エスペリアは刀身に炎を纏い、炎の刃を生成した。そして、タクトはそのまま剣を振り下ろした。

タクト「サン・フレイム・ブレード!!」

ポディスンは回避が間に合わず、その炎の剣をモロに食らった。

ポディスン「きゃああああああッ!!!」

灼熱の業火でその身を焼かれたポディスンは、全身黒コゲになってしまった。

ポディスン「うぅ~…」
タクト「あれを食らって生きてるとか、あいつ、ゴキブリか?」
ソレイユ「アハハハハ! でも見て! 真っ黒コゲ!!」
ポディスン「あんたら~…覚えてなさいよ~!!」

ポディスンは泣きながらテレポートの呪文で撤退した。

タクト「何とか勝ったな…」
クレセント「お疲れ様」
タクト「クレセント、感謝する、お前のおかげで俺達はこうして生きてるからな」
クレセント「人間を守るのが、私達の役目だからね」
ソレイユ「そう言う事だよ、タクト」
タクト「フッ、お前達も大変だな」

しばらくすると、リリシェも目を覚まし、その後、タクト達はテントで一睡をした。ヴェンジェンスが襲ってくるんじゃないかと言う危機感もあったが、特に襲ってくることもなく、無事一夜を過ごした。そして、一夜明けた次の日、タクト達は朝食の時間にある話をしていた。

タクト「なあ、お前達のあの力は一体何なんだ?」

あの力と言うのは、ソレイユの太陽の力と、クレセントの月の力である。タクト達はこの力によって絶体絶命の危機を切り抜ける事ができたが、この力が何なのか、タクト達はよく知らないのである。すると、その力について、クレセントの口から語られた。

クレセント「あの力は私達が太陽の剣士、月の剣士として覚醒した証ね」
リリシェ「太陽の剣士と月の剣士?」
クレセント「私達が300年前大戦によって失われた大陸を修復した話は知ってるわよね?」
ソレイユ「私達はあの時と同じ力を使って、失われた大陸を元に戻したんだよ」
タクト「フロストの氷を溶かした時と、ポディスンの毒を解毒した力が…300年前に失われた大陸を元に戻した時と同じ力だってのか?」
クレセント「そう言う事、まあ、今の私達にあの時ほどの力はないけどね」

すると、リリシェがある質問をした。

リリシェ「太陽の剣士と月の剣士に覚醒したら、何かあるの?」
ソレイユ「そうだなぁ…よく分かんないけど、ヴェンジェンスとの戦いにきっと役に立つはずだよ」
タクト「まあ、きっと役に立つだろうな」
クレセント「そう言う事! さ、ご飯食べましょう」
リリシェ「そうだね」

2人の精霊が太陽の剣士と月の剣士として覚醒した。この出来事はこの戦いに、どんな影響をもたらすのか? タクト達の戦いは、続く…。