クロストライアル小説投稿ブログ

pixiv等で連載していた小説を投稿します、ここだけの新作も読めるかも?

神聖戦士ノヴァティス

朝が来た、いつもと同じ朝だ。何も変わらない朝、そして何も変わらない一日、いつもと同じ日常だ。しかし、唯一違う事がある、毎日のように流れるニュース、怪人のニュースだ。特撮の世界から飛び出してきたようなおぞましい化け物。その怪人が人を襲い、人を殺すようになったのは一体いつからだろうか。よく覚えていないが、少なくとももう一年は続いているだろう。考えても仕方ない、俺はトーストを口にくわえ、家を出た。そして、いつも通り学校へ向かった。まさかこれから俺自身が怪人と戦うヒーローになるとは思いもせずに…。

俺の名前は日野鋼(ひの はがね)、天翔(てんしょう)高校に通うごく普通の高校生だ。暗めの茶髪で、男にしては少し髪が長く、身長もそれなり、体形はやせ型、どう考えても普通の高校生だ。普段は遅刻する事もほとんどなく、真面目に高校生活を送っているが、今日は寝坊してしまい、遅刻しそうだ。全速力で走り、俺はギリギリ学校にたどり着いた。まあ、人が人である以上、遅刻は必ずある事だ。

「ハガネくん」

ふと、俺を呼ぶ声がした、友人の月村理乃(つきむら りの)だ。理乃ははっきり言って美人だと思う。髪は長く、背中まで伸びており、目も大きく、鼻はスラッとしており、絵に描いたような美少女だ。その上料理も上手で、この学校での一番人気は理乃である。

「珍しいね、ハガネくんがギリギリで学校に来るなんて」
「いや、今日はちょっと寝坊したんだ」

俺と理乃がそんな会話をしていると、

「いつも早く来るハガネが遅く来るなんて、悪い事の前触れみたいだな」

と、友人の山下司(やました つかさ)が話に割り込んできた。司は楽観的な奴で、俺はこいつとはあまり相性が良くない。前に家庭の授業の時に野菜を作った事があり、みんなは真面目に授業を受けていたが、司だけどうやってこれで儲けるかとか言っていた、馬鹿な奴だ。馬鹿な奴だけど、それでもどこか憎めない奴でもある。

「そう言う司くんは、高1の時は遅刻無しだったのに、高2になってから週1回は必ず遅刻してるじゃない!」
「いやいや、週1回は必ずじゃないぞ! たまに週2回、最高で週5回の記録があるからな!」

そんな事を自慢するなよ…と、俺は心の中で思った。

「ところでさ、昨日のニュース観たか?」

と、司が話題を変える。

「知ってる! また怪人のニュースでしょ?」

と、話に入ってきたのはクラスメイトの島村有人(しまむら ゆうと)だ。有人は容姿が子供っぽく、言動も子供っぽい。俺達と同じ高2なのに、中学生と間違われる事もしょっちゅうある。司とは仲がいいが、俺と理乃はあまり話す事は少ない。

「怪人の事件こそ、司くんの遅刻回数の2倍で、週2回はあるよね」
「理乃、結構酷い事言うな…」

司が泣きそうな声で言った。

「でも、あの怪人の事件って酷いよね、だって、謎の宇宙生命体らしきものが人間と融合して、それで怪人になるんだよね? まるで昔放送していた特撮番組みたいじゃない?」

と、有人が言った。有人は昔の特撮番組に関しては人一倍詳しい。前も怪人の話をしていた時、昔の特撮番組の話を10分近く話し、昼休みが終わってしまった事がある。

「考えてみろよ、数十年前はこんな事SFやアニメの中でしかなかったのに、それが今現実の出来事になってるんだぜ?」
「やっぱ、フィクションが現実になったら怖いんだな」

司に対し、俺の意見を返した。今は西暦2035年の5月17日、10年前に火星のテラフォーミングがあり、それから8年が経った2033年のある日、突然怪人が出現した。怪人はその鋭利な爪で市民を次々と引き裂いていった。街中血まみれになり、灰色だったコンクリートは血で真っ赤に染まった。

その後、警察が出動し、拳銃を発砲したが、全く効果がない。そして怪人は警官を殺害し、パトカーを破壊した。その時、死に物狂いの警官が放った銃弾が怪人の脳天を直撃し、そこが怪人のコアだったらしく、怪人を倒した。だが、怪人はそれぞれ位置が違うため、警察たちはコアを探し出し、撃破するようになった。

また、怪人の死体を司法解剖した結果、元の人間の体組織の約98%が未知の組織に変わっていた。その後、研究が進み怪人は火星のテラフォーミングの際に何らかの方法で地球にやって来た宇宙生命体と人間の合体した未知の生物、すなわち「怪人」と呼ばれるに至った。

「でもさ、何で怪人って現れるのかな?」

と、理乃が疑問を投げかける。

「特撮でもいろいろな理由があるけど、一番メジャーなのはやっぱり世界征服かな」

理乃の問いに対し、有人が答える。そして、俺はこう返した。

「俺は、人間が環境を汚して、更に宇宙にまで進出しようとしたからだと思う」
「何だよ、ハガネ、怪人の味方か?」

俺の答えに司が返す、だが、俺はさらにこう返した。

「だってさ、人間が地球をダメにしてその上火星まで乗っ取る、本当の侵略者ってどっちだよ」
「確かに、昔の特撮やSFでもそんな感じの話があったね」

大分乗ってきた有人が返した。

「そうだとしても、俺は許せねえな、今まで何人死んだと思ってんだ」

司の言う事も、あながち間違っていない。2035年5月17日現在、出現した怪人は106体、その犠牲者は5238人。俺は家族を殺されて泣き崩れる人や、恋人の女性を殺され、自ら命を絶った人の事を思い出した。確かに許せない事だ、だが、何故怪人は現れるのか…それは、どんなに考えても誰にも分からない事だ。

「お前ら、授業を始めるぞ! さっさと席につけ!」

チャイムの音と同時に先生が入ってきた。

「じゃ、また後でな」

俺はそう告げてそれぞれの席についた。そして、一日の授業を終え、学校が終わった。現時刻はPM04:17、いつもと同じ時刻にいつもの4人が並んで下校している。

「早く帰らないとな」

俺がこう言うのには理由がある。今まで出現した怪人106体全ては夜から早朝にかけての暗い時間帯に出現しているのだ。そして何故だか分からないが、朝や昼などには出現していない。それが何故か、詳しい事は不明だが、恐らく、人間と合体している宇宙生命体の活動しやすい時間帯だからだと思われる。

「今日は曇りだから、余計に早く帰らないとね」

昼から曇ってきた事について理乃が言った。

「とりあえず、後でオンラインゲームしようよ、新しく発売されたエネルゲンブレイカー3、面白いよ」

と、有人が言った、それに対し。

「お前、あのゲーム買ったのかよ! いいな~俺も早くやりたいぜ~!」

と、司が返した、司はゲームが大好きだから、仕方ない。ちなみに、エネルゲンブレイカーとは、世界中で大人気のアクションゲームだ。世界中で570万本を出荷した大人気ゲームである。司と有人がそんな話をしていると、突然前から叫び声が聞こえた。

「うわあああっ!!」

恐怖心の混じったこの声は、同じクラスの倉橋元(くらはし はじめ)の声だ。

「今の声、ハジメくんの声だよね?」
「おいおい、尋常じゃないくらいやばい声だったぞ?」
「まさか…怪人?」

理乃と司、有人がそんな話をしている中、気が付いたら俺はその声の方に向かっていた。

「ちょ…ハガネくん!?」

後ろから理乃が俺の名前を呼んでいた。しかし、俺はそんな事を気にせず、声のした方向に向かっていた。万が一、怪人がいたとしても何もできないというのに…。

声のした場所は交差点だった。そしてその道の真ん中で声の主の元ともう一人、一年の山本正志(やまもと まさし)が血を流して死んでいた。元は首をもぎ取られ、正志は腹をズタズタに引き裂かれ、そこら中に内臓やはらわたをぶちまいていた。その様子を見ていたらしい俺達と同じクラスの篠原雫(しのはら しずく)が。2人の返り血を浴びて恐怖で力を失って地面に座り込んでいた。

「雫ちゃん!!」

俺の後を付いて来た理乃が雫の腕を引き、俺や司、有人と一緒に怪人から逃げた。その逃げている間、司は警察に連絡を取った。もちろん、怪人は追いかけてきた。有人は隙を見つけては怪人に石をぶつけたが、もちろん、効き目はない。

「おい、どうすんだよ!!」

司が焦りの混じった声で言った。確かに、この状況はまずい。するとそこに、警察がいいタイミングでやって来た。最近は怪人の事件が多い為、そこら中に警察署があるのだ。そしてこの時代の警察は対怪人用の特殊スーツを身にまとっており、一般的にはM(モンスター)トルーパーと呼ばれている。

「ここは我々に任せて、早く逃げてください!」

Mトルーパーの一人がそう言うと、Mトルーパー部隊は怪人に向けて左腕に装着している対怪人銃MB-G(モンスターバスターガン)を放った。そして、その間に俺達は逃げた。俺達はしばらく逃げ回った末、学校から一番近い俺の家に逃げ込んだ。

「あら、おかえり、…って、どうしたの? 何かあったの?」

俺の母さんの日野縁(ひの ゆかり)だ。俺達の今の状況を見て、何かあったのか悟ったらしい。

「母さん、これには事情が…!!」

俺は今までのいきさつを全て母さんに話した。

「そんな事があったのね、あなた達も大変だったわね、何かあったら大変だし、今日はみんな泊まっていった方がいいわ」

母さんがそう言うと、俺以外の4人が、

「お邪魔します」

と言い、すぐに上がり込んだ。一方その頃、怪人はMトルーパー部隊を全員、無残に惨殺し、Mトルーパーの一人の首をもぎ取り、手に持っていた。どれも元の姿が分からない程、ズタズタに引き裂かれていた。

「サッキノヤツラ、コロス!!」

怪人はそう言い、手に持っていた首を地面に落とし、そのまま踏みつぶした。怪人の言った言葉は、Mトルーパーの通信機から警察本部へ送られていた。そして怪人は、ハガネの家へ向けて移動を開始した。PM06:08、俺の家に俺の父さんの日野時雄(ひの ときお)が帰宅し、夕食が始まった。

「いただきます」

食事の始まりにいただきますと言うのは、2035年も変わっていない。

「ほら、これ、母さんが作った茹でブロッコリーだ、食うか?」

俺は雫に茹でブロッコリーを差し出した、しかし、雫はずっと俯いている。よほど、目の前で起こった出来事が恐ろしかったのだろう。

「なあ、司、こういう時ってどうしたらいいんだ?」

司は特徴のないスポーツマンの様な容姿をしているが、女性については非常に詳しい。しかし、こんな状況は想定外らしく、手の打ちようがないようだ。

「なあ理乃、お前は雫と同じ女の子だから、何か分かるんじゃないか? よく話してるしさ」

仲のいい理乃の言葉でも、ダメらしく、雫はそれなりに長い髪を顔の前に垂らし、俯いていた。その瞳には涙が溜まっており、今にも泣きだしそうに震えている。すると、見かねた有人が、

「大丈夫? 何かあったら力になるからさ、今は忘れよう? ね?」

特撮ヒーローで言うと、緑みたいなポジションの有人だが、こういう時は司より女性に対する接し方は上手だと思う。現に、雫は少し元気になっている。そして、司は少し悔しそうにしていた。夕食を終えた俺達5人はこれからどうするかを話し合っていた。

「これからは軽い気持ちで外に出れねえぞ、一応俺達の家にはハガネの母さんが連絡してくれたけどさ」

司が普段より真面目な声で言った。

「……もう…外に出たくない……」

雫が俺の家に来てから初めて喋った、その声は恐怖で震えている。それに対して、俺は正直な気持ちを伝えた。

「俺だって、もう外には出たくないよ、いつ死ぬかも分からないんだし…」

現に、怪人が出没するようになってから夜の街に出る人間はほとんどいなかった。怖いもの知らずのチンピラですら外に出るのを恐れるほどだからだ。

「けど、いつまでも家の中にいるのはよくないよね?」

有人が言った、確かにそうだ、かつて出現した怪人の第46号は家の中に上がり込み、その一家を一人残らず皆殺しにしたからだ。だが、家の中にまで入ってきた怪人は今までほとんど存在しない。その瞬間、激しい音を立てて部屋の壁が破壊され、先ほどMトルーパー部隊と交戦したクモ種怪人スパイダロスが現れた。

「あいつは…! さっきの怪人!! 生きていたのか!!」

有人が驚いた声で叫んだ。

「あら? 何かあったの?」

さっきの音に驚いた母さんと父さんが部屋に入ってきた、その際に雫はどこかに逃げた。すると、スパイダロスは口から蜘蛛の糸を吐き、父さんと母さんを絡めとった。

「うわっ!? 何だこりゃ!?」
「ハガネ! 早く逃げて!!」

俺の父さんと母さんはスパイダロスの方に引っ張られてゆく。

「母さん! 父さん!!」

俺の叫びも虚しく、スパイダロスは俺の父さんの首元に嚙みついた。すると、父さんの体は液化していき、骨も残らず溶けてしまった。続けて、スパイダロスは母さんの首元にも噛みつき、母さんも父さんと同じ様に骨も残らず溶けてしまった。

「こいつ…!! よくも父さんと母さんを…!! うわああああああっ!!」
「ハガネくん!!」

理乃が俺の名前を呼んだが、無視して俺はスパイダロスに殴りかかった。当然、スパイダロスには効果がなかった。スパイダロスは俺を薙ぎ払い、俺の体は壁に叩き付けられた。

「がはっ…!!」

全身が強く打ち付けられ、俺は少し吐血した。俺の視界が揺らぐ中、スパイダロスが俺にゆっくりと向かって来ているのが見えた。ああ、俺は死ぬんだな、父さんと母さんの所へ行けるんだ、そう思い、目の前が真っ白になった。次の瞬間、俺は怪人になっていた、いや、これは怪人じゃない、顔は見えないが、このヒーロー然とした姿、俺はヒーローになっている!?

「ハガネって、ヒーローだったんだ!!」
「何だか分かんねえけど、ハガネ! その怪人をやっつけろ!!」
「ハガネくん! 頑張って!!」

有人、司、理乃が俺の事を応援する。ここまで応援されたなら、ヒーローらしく戦わないといけない、でも、怪人との命がけの戦いなんて、やった事ないぞ? ええい、こうなったらヤケだ!!

「うおおおぉぉぉっ!!!」

俺は地を蹴ってスパイダロスに向かって行った。スパイダロスの顔面にパンチを次々打ち込んでいき、スパイダロスがよろめいた隙に回し蹴りを横腹に炸裂させる。スパイダロスは鋭い爪で攻撃してくるが、俺はその爪を手刀で叩き折ったそれは、折ると言うよりは、剣の様に鋭い切れ味の手刀で切断する感覚だった。

敵わぬと見たスパイダロスは逃走を試みたが、俺はそれを追い、飛び蹴りを食らわせた。昔の特撮ヒーローの見様見真似だったが、効果は抜群のようだ。スパイダロスは吹っ飛ばされ、部屋の壁を突き破って爆発四散した。体の破片と緑色の体液を飛び散らし、今度こそスパイダロスは倒されたようだ。

すると、俺の足元にペンダントが転がってきた。それは、高3の西上巧(にしがみ たくみ)の物だった。どうやら、俺の学校の生徒も怪人になってしまったようだ。思えば、巧と雫は仲が良かったはずだ。仲の良かった人が目の前で怪人になり、友人2人を殺したのだ。そのショックは大きいだろう。

そして、理乃たちが俺に「すごい」とか「やったな!」とか言っていたが、父さんと母さんがあの怪人に殺されたのだ、とても喜べない。それを察したのか、すぐさま理乃たちは俺に謝ってきた。そして、気が付くと、俺は元の姿に戻っていた。どうやら、ずっとあの姿でいる訳ではないみたいだ。やっぱり、俺は特撮ヒーローみたいな存在になってしまったのだろうか…?

すると、理乃が雫の姿が見えないと言い出した。どこへ行ったのか分からないので、探してみたところ、押し入れの中でビクビク震えながら隠れていた。

「なあ雫、あの怪人は高3の西上巧だったんだな、何で早く教えてくれなかったんだ?」

俺は雫に聞いてみたが、雫は答えなかった、多分、答えたくない、いや、信じられないのだろう、仲のいい友人が、怪人になるなんて。俺でも信じたくない、俺はますます怪人を許せなくなった。でも、一番心配な事はやはり、俺がヒーローになった事だろう俺はその事が気になり、眠れなかった…。

その翌日、知らない間に眠りについてしまった俺は、俺を呼ぶ声を聞いて目を覚ました。

「…きて…! 起きて…!!」

理乃の声だ、服装はYシャツ一枚で、髪には寝癖がかかっている為、起きたばかりなのだろう。そう言えば、昨日俺の家で泊まるとか言っていたな、俺が今何時か確認したところ、AM07:50、俺は目を疑った。始業時間が08:20なので、このままでは遅刻してしまう。そう言えば、昨日は中々寝れず、AM02:00ぐらいに寝たんだっけ。他の面々も同じらしく、司に至ってはまだガーガーといびきをかいている。おまけに目覚まし時計は昨日スパイダロスが暴れた時の衝撃で壊れており、仕方なくスマホのアラームをセットしていたが、音が小さく、効果がなかった。

俺達は急いで仕度をしたが、結局遅刻も遅刻の大遅刻で、学校に着いたのがAM08:46、先生に怒られてしまった。その後は気まずい空気のまま授業を受けることになった。こうなったのも全てあの怪人のせいだ。そして、昼休み。

「あーっ! お腹すいたよーっ!」

子供っぽい容姿の有人が子供っぽい台詞を放った。こうして見ると、本当に子供にしか見えないのが怖い。

「仕方ないでしょ、お弁当を作る時間もなくて、所持金もゼロ、ハガネくんが持ってた200円でサンドイッチが買えたんだから、食べられるだけでもありがたいと思わないと」

理乃の言うとおりだ、世の中にはまともな食事ができない人もいる、食事をすると言う事がどれほどありがたい事か。

「でもさ、腹減るよな、あれだけじゃ、マジで、いや、ほんとに」

まあ、司の言う事も分からなくもない、3枚あったサンドイッチを5人で分けたんだから腹も減るだろう。

「私はこれで十分よ、元から少食だしね」

とんでもない衝撃発言だ、雫、それは小食ってレベルじゃないぞ。むしろサンドイッチ半分で腹が満たされるって、どんな胃袋してるんだよ…。そして、今日は昨日のメンバーに加えて、もう一人メンバーがいる。俺と高1の時同じクラスだった沢田孝信(さわだ たかのぶ)だ。

「へ~、ハガネがヒーローねぇ…」

孝信は馴れ馴れしい奴で、俺はあまり仲良くしようとはしなかったが、入学して一番初めに孝信の方から俺に声をかけてきた事を今でも覚えてる。

「俺がヒーローって事は絶対に秘密な」

俺がそう言うと、特撮好きの有人が俺を見てこう言った。

「ヒーローは絶対に正体がバレちゃいけないんだよ、これ、ヒーローの常識ね」

有人は俺がテレビでやっているような特撮ヒーローだと思い込んでるようだ。

「まあ、そうだけど…」

そう言う俺自身は変身した時の事をよく覚えてない。みんなに聞くと、スパイダロスが近づいた時、俺の体が光に包まれて変身したらしい。

参考までに怪人の変身は少しずつ人間の形が悍ましい物に変わっていく。そしてMトルーパーは特殊スーツ、この事から分かるように、俺の変身は他の物とは全く違うようだ。だが、あの後何度か試してみたが、変身はできなかった。どうやら変身するには何かの条件が必要らしい。多分だけど、怪人を前にするとか、自分が危機に会うとか、よく分からないがそんな物だろう。

「ま、ハガネが戦えばどんな怪人だって倒せるよな!!」
「ちょっと司くん、ハガネくんは戦いたくないはずだよ、きっと」

司の言葉に理乃が返した、それに対し、俺は自分の意思を伝えた。

「いや、戦うしかないなら戦うよ、俺は」
「ハガネくん…」

理乃は心配そうに俺の方を見つめていた。

「理乃、心配してくれてありがとう、でも、ここで俺が戦わなくちゃ、みんな殺されるんだ、それなら俺は戦うよ」

その俺の言葉に孝信が反応した。

「本当にそれでいいのか? お前が戦う相手は元人間なんだぞ?」

その言葉に俺は少し考えた、その間に孝信は再び問いかけた。

「誰かから憎まれるかもしれないし、お前も死ぬかもしれないんだ、それに、変身の方法も分からないんだろ? それでどうやって戦うんだ?」

孝信の言葉にも一理ある、けど、俺の答えは既に決まっていた。

「それでも…それでも俺は戦う! 俺は何も失いたくない、父さんと母さんを守れなかった、だからせめて友達だけは守りたい、だから俺は戦う! みんなの為に! もう誰も殺させない! 誰の涙も見たくない! だから戦う!!」

俺は自分の決意を言い切った。すると、孝信は笑顔で俺に語り掛けた。

「そこまで言うなら、俺は何も言わないよ、頑張れよ、ハガネ!」

それが孝信の応援の言葉だった。俺の言葉にみんなも応援の言葉を送ってくれた。その日の放課後、いつも通り家に帰る事になった。

「ハガネ、家の件はどうなったんだ?」
「家の修理が終わるまではおじさんの家に泊まる予定だよ」

司の言葉に俺が返した、すると、有人が嬉しそうな様子で語りかけて来た。

「それってつまり、秘密基地?」
「そんなんじゃないって」

すると、その様子を見ていた雫が笑っていた。

「2人共面白いね!」

雫は昨日より元気になったみたいだ。理乃によれば、昨日の夜色々と話をしたらしい。ま、もっともそのせいで寝坊をしてしまったら元も子もないが。

「雫も元気になったようで何よりだよ」

俺がそう返すと、目の前に何者かが現れた。狼の様な姿をしたオオカミ種怪人ウルフェンだ。

「か…怪人だぁぁぁ!!」

司が叫んだ、すると、ウルフェンが俺に対して語り掛けて来た。

「ノヴァティス…」

その謎の単語に、有人が反応した。

「ノヴァティス…? もしかして、ハガネが変身したヒーローの事かな?」

そんな事を言っていると、ウルフェンがその鋭利な爪を俺に振り下ろした。

「うわああーっ!!」

すると、俺の体は光に包まれ、そのノヴァティスと呼ばれたヒーローに変身した! そして、その鋭利な爪を素手で受け止めた。

「みんな! 今のうちに逃げろ!」

俺の合図でみんなが安全な場所に逃げた事を確認すると、ウルフェンは自身の分身怪人、アリ種怪人アリアントを5匹生み出した。アリアントは数こそは多いが、所詮は分身なので、能力は本体の10分の1程度である。

俺はパンチやキックであっという間にアリアントを3匹倒した。アリアントは人間とアリを足した様な姿をした怪人で、その鋭利な牙で噛みついて攻撃するが、俺はその牙を顔面ごと叩き潰して残った2匹の内の1匹を倒した。顔面を叩き潰されたアリアントは体液を吹き出して地面に倒れ、消滅した。残る1匹は回し蹴りで胴体を分断して倒した。

残るはウルフェン1体だけだ。狼と人間を足して2で割ったような姿にオオカミの頭部をくっつけたような姿をしている。ウルフェンは指の爪をミサイルのように飛ばしてきた。それを俺は回避した、そして後ろで爆発が起こる。幸い、誰にも被害はなかったが、これを回避するのはまずい。

ウルフェンはすかさず2発目を放った。俺は回し蹴りでミサイルをウルフェンに蹴り返した。ミサイルはウルフェンにぶつかり、大爆発を起こした。ウルフェンは粉々に砕け散り、肉片や骨、血液を飛び散らした。すると、司が後ろで歓声を上げた。

「やったな! ハガネ!!」

俺はそれに対し、喜びの言葉を返した。

「ああ、やったよ、怪人を倒したよ!」

俺は元の姿に戻り、みんなは今の戦いの話題をしながらそれぞれの家に帰って行った。そして、俺はおじさんの家に向かった。

「おじさん、入るね」

…返事がない。俺は嫌な予感がしてすぐさま家に入った。

「…何だよ…これ…」

そこには元の姿が分からないほどズタズタに引き裂かれたおじさんの死体があった。あまりに凄惨な光景に俺は状況が理解できずにいた。そして、俺がふとテーブルの方を見ると、一枚のメモが置かれていた。それは、何者かがおじさんの血で書いたメモであった。そこには、こう書かれていた。

「ノヴァティスに告ぐ、お前が存在する限り、お前の大切な者は我々が1人ずつ殺す、それが嫌なら抵抗をやめろ、お前が死ぬか、我々が死ぬか、決めるのはお前次第だ」

俺は怒りを抑えられず、そのメモを握り潰した。

「ふざけやがって…!!」

俺はおじさんの家から食料を持って理乃の家に向かった。あの凄惨な光景を見るのが嫌だったと言うのもあるが、何より理乃の事が心配だった。理乃は1人暮らしだから怪人に襲われでもしたら大変だ。俺は理乃の家の前に立ち、家のインターホンを押した。

「どうしたの? ハガネくん?」

理乃が出てきた、俺はすぐさま事情を説明した。すると、理乃は涙を流した。

「何でハガネくんばかり…許せない…ハガネくん、事情は分かったから、しばらく私の家に泊まって」
「ありがとう、理乃」

俺は理乃の家に居候させてもらう事になった。全ての決着が付くまでは。

翌日、今日は土曜日だ、しかし、今日はあいにく土曜日授業なのだ。そして、俺が今いる部屋は物置みたいな空き部屋だ。理乃は私と一緒に寝る? とか言っていたが、流石にそれは駄目だと言う事で仕方なくここにいるのだ。すると、ドアの方からコンコンと音がした。

「入るね、ハガネくん」

理乃が部屋に入って来たと同時に俺は顔を手で覆った。何せ、今の理乃の服装は下着の上にYシャツを1枚着た何とも無防備な服装だった。そう言えば、俺の家に泊まった時も朝はそんな服装だったな。

「理乃…お前、そんな恰好で恥ずかしくないのか?」

すると、理乃はクスクスと笑ってこう答えた。

「ハガネくん、結構やらしいんだ~」

俺は慌てて否定する。

「ち…違う! そんなんじゃないって!!」

すると、理乃は優しく答えた。

「ま、いいよ、私はこの服装の方が寝やすいんだ」

こっちは目のやり場に困るんだよ、と心の中で思った。

「朝ご飯できたから、一緒に食べよ?」
「分かった、すぐ行くよ」

理乃は1人暮らしだから炊事洗濯は全部1人でやっている。どんな味なのだろうと俺は少し楽しみにしている一方、司は羨ましがるだろうなと心の中で思った。

俺が制服に着替えてリビングの方に向かうと、同じく制服に着替えた理乃が椅子に座って待っていた。俺が椅子に座ると、理乃が手を合わせたので俺も手を合わせた。

「いただきます」

俺と理乃がそう告げると、食事が始まった。今日はごはんに目玉焼き、サラダ、スープ等のシンプルなメニューだったが、味は文句なしで、普通に美味しかった。

「ねえねえ、私、スープは初めて作ったんだけど、どうかな?」
「美味しいよ、とても初めて作ったとは思えないな」
「嬉しい! 今夜、作り方を教えてあげるね」
「ああ、頼むよ」

そんな話をしながら朝食を食べ終えると、一緒に食器を洗って学校へと向かった。

「おはよう、司」
「おはようさん、ハガネ」

俺が挨拶をすると、微妙な返事で挨拶を返す司。すると、有人がやってきて話しかけてきた。

「ねえ、ハガネくん、昨日どこ行ってたの?」

俺は驚いた、何故その事を知っているのかと。

「昨日、ハガネが夜の街中を走っているのを僕のお母さんが見たんだって」
「ちょ…ちょっとランニングをしてたんだよ」

知られるとまずい、何としても隠さねばと思った。すると、雫がやって来た。

「正直に言ったら? ハガネくん」

雫のその言葉にもう隠しきれないと思い、俺は正直に言う事にした。

「じ…実はさ…」

俺は今までのいきさつをすべて話した。すると、司からは予想通りの返事が返って来た。

「女の子と2人きりで一夜を過ごすとか、羨ましすぎだろ! ハガネ!!」
「馬鹿! 声がでかい!!」

だから言いたくなかったんだよ、特に司には。

「ちょっと司くん、ハガネくんはおじさんを殺されたんだよ? 不謹慎じゃない?」

こう言う時、理乃は頼りになる。そして、有人はあのメッセージの事について聞いてきた。

「その怪人の残したメッセージって、僕達を殺すって事だよね?」
「ああ、多分な」

俺はそのメッセージを思い出した。俺がいる限り俺の友人が殺される、そんなのは嫌だ、絶対嫌だ、でも、どうしたら…。

「ハガネくん、大丈夫? 汗、凄いよ?」

理乃の言葉で俺はふと我に返った。

「まあ、考えすぎんなって、ハガネ」

司は俺を安心させようとしているようだ。

「僕達が殺される前に怪人を倒せばそれでいいよ」

有人も俺を安心させようとしてくれている。

「私はハガネくんに助けられた、今度は私達が助ける番だよ」

雫も俺を安心させようと頑張っている。

「でも、どうすればいいだろう、家にいても怪人に襲われかねないぞ?」

俺は一番心配な事を告げた。

「警察に行っても多分信用してくれないし、かと言ってこの事を話したらハガネくんが解剖されそうだし…」

有人の言う事にも一理ある。俺はヒーローと言っても、怪人なんだ、警察に気軽に話すと解剖されかねない。

「そう言えばハガネ、おじさんの事、どうなった?」

俺はハッとした、すっかり忘れていた。

「そ…それはどうしようもなくて、特に親戚とかもいないしさ…」

他の4人はすっかり呆れていた。その頃、警察のMトルーパー部隊はおじさんの家に向かっていた。

「ふむ、生存者はゼロか」

Mトルーパー部隊の隊長、神山広志(かみやま ひろし)が言った。

「はい、それと、食料が全て奪われております」

1人の隊員が言った。

「そうか、しかし、しかし最近はおかしいな、昨日、一昨日と続いて出現した怪人が何者かによって倒されている、一体誰が…」
「神山隊長、それについて、これを…」

その隊員は街中の監視カメラの映像を見せた、その中には一昨日の日野家の怪人、そして、昨日の町中の怪人との戦いが映っていた。

「何だこれは…怪人が怪人と戦っている!?」

神山はその映像に驚いていた。そして、怪人を倒した後、元の姿に戻ったところもしっかりと映っていた。

「この少年は…?」
「制服から確認するに、天翔高校の生徒だと思われます」
「そんな馬鹿な! 怪人に変身して怪人を倒して、更に元の姿に戻るなど、ありえない事だ!」

神山の言う事は正しい、普通、怪人に変身した者は元の記憶を全て失っている、更に、かつて警察の開発した特殊弾丸コンフォートM-01を使っても元の姿には戻らなかった、だが、この怪人は元の記憶が残っている上、元の姿に戻っているのだ。すると、1人の隊員が神山の下にある物を持ってきた。

「隊長、こんなものが…」

それは昨日、日野鋼が握りつぶしたメモであり、神山はそのメモを開いて読んだ。

「ノヴァティス…か、あの怪人の名前か?」
「隊長、どうします? あの少年に話を聞きますか?」
「ああ、聞いてみる価値は十分にあるだろう」

神山は天翔高校の下校時間であるPM4:30に張り込みをする作戦に出た。天翔高校の下校時間になると、目的の人物である日野鋼とその友人がやって来た。

「あー! やっと学校が終わったぜ!!」
「ねえ、後でゲームしようよ」

司も有人も毎日同じ事ばっかり言っていると思った。その時、俺の前にMトルーパーの人達が現れた。

「ちょっと失礼、君は日野鋼くんかな?」

俺は驚いた、何故、俺の名前を知っているのか、そもそもこの俺に一体何の用なのかと。

「私は警察署対怪人部隊Mトルーパー神山隊の隊長、神山広志だ」

Mトルーパーの隊長が直々に俺の下へやって来たとなると、遂に俺の正体がばれたとしか考えられない。俺を捕まえてモルモットにでもするつもりなのだろうか、そう考えると俺は冷や汗が止まらなくなった。

「大丈夫だ、安心してくれたまえ、君に危害は加えない、ただ、聞きたい事があるんだ」

その言葉を聞いた瞬間、俺は少し安心した。もしかすると、この人は優しい人なのかもしれない。俺は念を入れて一言聞いてみる事にした。

「…本当に、何もしませんか?」
「神に誓って約束するよ」
「分かりました、そこまで言うなら」
「それと、君のお友達にも話を聞きたいのだが…」
「俺達もかよ!?」

神山の言葉に、司が驚いた様子を見せた。まさか自分達にもお呼びがかかるとは思ってなかったのだろう、実際、Mトルーパーが興味を示すのは俺の事だけだと思ったからだ。

「少しでも情報は多い方がいいからね」

司や有人がしぶしぶ同意し、理乃、雫、そしてたまたま通りかかった孝信が同行し、俺達は警察署へと向かった。そして、昨日と一昨日の事について知っている限りの事を話した。

「そうか、君があの怪人、ノヴァティスになった理由は詳しく分からないんだな」
「はい、気付いたら変身していて、気付いたら元に戻っているんです」

神山に対し、俺は理由にならない理由を返した。こんな言葉で納得してくれるとは到底思えないが、今の俺にはこれだけしか情報がないのだ。

「もういいだろ、早く帰してくれよ」
「ちょっと! 司くん!!」

暇そうな司に対し、理乃が注意を入れる。

「ところで、俺はこれからどうなるんです? まさかモルモットにされたりしませんよね?」

俺はずっと感じていた事を言葉に出した。下手をすれば改造され、怪人と戦う為の兵器にされる可能性もあった。だが、神山の口から返ってきたのは意外な言葉であった。

「安心してくれたまえ、君をモルモットになんてしないよ、君は今まで通りの生活を送ればいいさ」
「え? それだけでいいんですか?」
「勿論だ、警察だってそこまで落ちぶれてはいないよ、ただ、少し採血をさせてほしい」
「ええ、構いませんが」

俺が同意すると、神山は事前に用意していたらしい採血器具を出した。俺が腕を捲って手を出すと、神山は採血針を俺の腕に近づけた。

「少し痛いが、我慢してくれ」
「大丈夫です、俺、子供じゃないんで」

神山は慣れた手つきで俺の腕に採血針を刺し、俺の血を採血した後、ガーゼを貼った。

「よし、終わったよ、ご協力感謝する、採決の結果は後日報告するよ」

神山はそう言って解散の合図を出し、俺達6人は家へ帰宅した。現時刻PM6:00、怪人が出てきてもおかしくはない時刻だ。

「あ~、今日は徹夜でゲームすっか!」
「もう、司くんはそればっかり!」

司には流石の理乃も呆れ果てているようである。事実、みんなが呆れているからな。

「ねえ、みんな、何か感じない?」

雫が少し怯えた様子でみんなに話しかけた。確かに、俺も何か嫌な気配を感じる。

「気を付けろ! 怪人だ!!」

孝信がそう叫んだ瞬間、暗闇からコウモリ種怪人バットンが姿を現した。そして、それと同時に俺の体は光を放ち、ノヴァティスへと変身した。コウモリは光が苦手で、それはバットンも同じらしく、ノヴァティスの変身の際の光でバットンは苦しんでいた。そこへノヴァティスのパンチが炸裂、バットンは大爆発を起こし、その身を四散させた。

「何だ、大した事ねーじゃん」

司がそう言った、だが俺は何かがおかしいと感じていた。あまりにもあっけなさすぎる、そう思った次の瞬間、地中からモグラ種怪人モールドンが姿を現し、俺を地中に引きずり込んだ。

「ハガネくん!!」

そう理乃が叫んだ気がしたが、もう俺には届かない。何故か知らないが全身が苦しい。恐らく、ノヴァティスは光の無い場所だとあまり長時間戦えないのだろう。昔観た特撮と同じだと俺は苦笑した。

素早く決着を付けなくては、俺は掴まれた右足とは逆の左足で。モールドンを力いっぱい踏みつけた。しかし、効き目はない。もう一度光を出せたら…。

俺は引きずり込まれながらも何とか石を2つ手に取った。そして、石と石をぶつけ、光を出した。その光でモールドンが一瞬怯んだその隙に、先ほどの微量な光で強化された蹴りをモールドンの顔面に浴びせ、高くジャンプした。

そして、落下と同時に両足でモールドンを蹴り飛ばした。モールドンは大爆発を起こし、その爆風で俺は地上に帰還した。地上に帰還すると同時に俺の変身が解けた。

「おお、ハガネ、大丈夫だっ…」

そう言おうとした司をはね飛ばして理乃が俺を強く抱きしめた。

「心配したんだよ、ハガネくん…」

理乃は俺が生きていて嬉しいのか、それとも俺が好きなのかは知らないが、とにかく俺を強く抱きしめた。俺を抱きしめてくれる人はもういない、母は怪人に殺されたのだ。
そう思うと、俺は涙を流してしまった。ほんの一粒の涙であったが、俺は少し楽になった気がした。ずっと不幸続きな俺は涙を流す事を我慢していたが、今だけは少しでいいから涙を流したかったのだ。

「おーおー、辛いな、モテる男は…」

司がそう言うと、雫は空気を読めと言わんばかりに司の右足を力強く踏みつけた。足を踏みつけられた司は声にならない声を上げて苦しんでいた。

そして帰り、俺と理乃は司、有人、雫、孝信と別れて理乃の家に向かった。着いたのはPM8:00、夕食や風呂を済ませた後、寝ようとしたら理乃が俺の部屋に入ってきてこう言った。

「ねえ、ハガネくん、今日、一緒に寝ない?」
「別に構わないが…男と一緒に寝るなんて嫌じゃないか?」
「別に嫌じゃないよ、ハガネくんとなら…」

そう言って理乃は俺の布団の中に入って来た。高校生の男女が2人で寄り添って寝るなんて普通しないと思うし、何よりばれたらまずいと思ったが、断る訳にもいかないから仕方なく一緒に寝る事にした。

「ハガネくん…」
「何だ…?」
「辛い時はさ、泣いてもいいんだよ…」
「…ああ」

俺と理乃は背中合わせで寝ているから理乃は分からないが、俺は今、涙を流している。父さんを殺され、母さんを殺され、おじさんも殺された。
肉親が誰一人いない俺に優しく接してくれるのは、理乃を始めとした俺の友人達だけなのである。だが、そんな友人達の前で泣いている姿は見せたくない。

「ハガネくん、もしかして、泣いてる…?」
「泣いてないよ、とりあえず、今日はもう寝よう」
「うん、分かった、おやすみ、ハガネくん」
「おやすみ、理乃」

俺と理乃はそう言って寝た。俺が小さい時、よく母さんが一緒に寝てくれた事を今でも覚えている。理乃は、その母さんに少し似ている気がする。

…また涙が出てしまった。理乃といると少し安心してしまう自分がいる。何故理乃といると安心してしまうのだろうか、理由を考えるうちに俺は勝手に寝てしまっていた。

翌日、今日は日曜日、ゆっくり休もう。そう思った瞬間、起きてすぐ異変に気付いた。理乃がいない。

家中探しても理乃の姿はなかった。もしかして買い出しに出かけているのか? スマホを使って連絡を取ろうとした時、テーブルの上に一枚の紙が置かれており、そこにはこう記されていた。

「貴様の大切な者は預かった、返してほしければ天翔街の空き地に来い、怪人の王より」

ふざけるな、怪人なんかの為にこれ以上大切な人を殺されてたまるか。相手が怪人の王だろうが何だろうが、絶対に倒してみせる。そう決心して空き地に向かおうとすると、司たちに出会った。

「司、それにみんな、どうしてここに!?」
「これだよ、ハガネ」

司が一枚の紙を手渡した。どうやら、オレだけじゃなく司たち4人にも案内状を出しているようだ。

「どうしよう、ハガネくん、Mトルーパーの人達を呼ぶ?」

有人が焦った様子でそう言った。

「でも、案内されているのは私達だけじゃ…」
「いや、我々も呼ばれている」

雫の言葉を遮ったのは、Mトルーパーの強化服に身を包んだ神山だった。

「おお、Mトルーパーまで呼ばれていたか」

孝信はワクワクした様子を見せていた。恐らく、決戦前の雰囲気に心躍らせているのだろう。大変な状況だと言うのに、のん気な奴だ。

「何故か我々Mトルーパー部隊の数名も呼ばれていたのだ、これは我々人類に対する挑戦なのだろうな」

神山の他にも数十名のMトルーパーの隊員がいた、どれも決戦用のフル装備だ。

「本来なら、君達の様な子供は行かせたくないのだが、これも仕方ない、何かあったら我々が命に代えても守る」

神山はそう答えた、この人が言うと安心感がある。

「では、行きますか」

出発の合図を言ったのは何故か孝信だ。普通こう言うのは神山さんが言うだろう。俺達は空き地へ向けて出発したが、その道中、神山は口を開いた。

「そうだ、ハガネくん、あの採決の結果だが…」
「何かあったんですか?」
「いや、それが、あの血液は一般人のものと全く同じ成分だったよ」

神山の口から述べられたその言葉に、俺達は驚いた。あんなヒーローに変身できるにも関わらず、その血液が一般人の物と同じとは思わなかったのだ。普通、怪人になると血液は成分が未知の成分に変化する、しかし、俺の血液は一般人と同じ血液だったのだ。

「信じられないな…」

怪人に詳しい孝信が興味津々な様子で答えた。

「それじゃ、ハガネくんの体はごく普通の人間の体で、更に変身ができるって言うの?」

雫が驚いた様子で答えた、俺も変身について思う事がある。一般的な特撮番組のヒーローとは違い、自分の意思では変身できない。怪人が現れた時に限り、勝手に変身し、倒すと元の姿に戻っているのだ。そして、変身する時は光に包まれる、まるで、何者かに取り付かれるように…。

「とにかく、俺に言えることは俺の体は正常と言う事だな」

俺はみんなを安心させる為、こう答えた。

「ま、ハガネ本人がそう言うなら大丈夫って事だな」

司はあっさりと切り替えた。普段はいい加減な奴だが、司のいい加減さはこういう時頼りになる。

「!! 止まれ、何かいる」

神山が俺達の歩みを止めた。そこには、ムカデ種怪人のムカデロンが立っていた。ムカデを人間にしたようなその怪人は、高熱の火炎を吐いて攻撃を仕掛けてきた。

「やらせるかっ!!」

俺がそう叫ぶと同時に、俺の体が光に包まれ、神々しい姿のノヴァティスへと姿を変えた。やはり、怪人が現れた時のみ変身ができるのだと、俺は確信した。

「ここは俺が引き受ける! みんなは先に行ってくれ!!」

俺がそう叫ぶと、同級生4人とMトルーパーの数十名は先に行った。みんなが先に行った事を確認した俺は、ムカデロンの顔面にパンチを叩きこんだ。

一方、同級生4人とMトルーパー数十名の前には、カマキリ種怪人カマキロンが現れ、Mトルーパーが相手をしていた。カマキロンはカマキリを人間にしたような怪人で、両腕の鋭い鎌でMトルーパーの隊員を次々と斬り裂いていった。カマキロンに隊員が斬り裂かれるたび、切り口から大量の血が噴き出し、地面を真っ赤に染めて絶命していく隊員たち。一人、また一人と次々メンバーが減っていく。

「おのれ! この化け物が!!」

神山がそう叫び、対怪人バズーカMB-02を撃った。その弾丸はカマキロンに直撃し、爆散した。カマキロンが辺りに肉片をばらまき、沈黙した事をすると、神山たちは安心した様子を見せていた。

「あのカマキリ野郎のせいでMトルーパーがかなりやられちまった!」

司の言う事も無理はない。これから最終決戦があると言うのに、Mトルーパーはその前座に大半がやられてしまい、残っているのは神山を除いて7名程度だ。

「しかし、ハガネは大丈夫かね…」

孝信は俺の事を心配していたが、当の本人である俺はムカデロンと交戦中だった。ノヴァティスに変身した俺は、ムカデロンの吐いた高熱の火炎をかわし続けていた。流石のノヴァティスといえど、高熱の火炎を食らえば無傷では済まない。俺はムカデロンが高熱火炎を吐いた隙を狙い、一瞬で懐に潜り込み、鳩尾に強力なパンチを連続で打ち込んだ。

ムカデロンは15mほど吹き飛んだが、俺はその隙を狙って高く跳び、勢いそのままムカデロンに飛び蹴りを放った。ムカデロンは首を吹き飛ばされ、首から緑色の体液を噴き出し、仰向けに倒れて死亡した。ムカデロンを倒して元の姿に戻った俺は、すぐにみんなの後を追いかけた。

「くっ! 大分時間をかけてしまった…! 早くみんなの所に行かないと…!!」

俺は天翔街の空き地へと向かった。

一方、怪人の王に攫われた理乃は、攫った張本人である怪人の王と対峙していた。怪人の王を自称するその人物の見た目は怪人ではなく、れっきとした人間の見た目をしており、普通の好青年にしか見えなかった。だが、この男は怪人の王を自称しており、今からノヴァティスやMトルーパーが来ると言うのに余裕の表情だった。

「何故、私を攫ったんですか?」

理乃は気が付くとそう口走っていた。攫うだけならすぐに攫えばいい、だが、この男はわざわざ理乃を制服姿に着替えさせた上で一緒に寝ていたハガネに気が付かないよう攫い、更に関係者の家に招待状を送っている。ここまで回りくどい策を取っているのには何か理由があるのだろう。すると、その男は理乃に対し口を開いた。

「君には、他の者にはない物がある、それが分かるかい?」

理乃には、怪人の王の言った他の者にはない物が分からなかった。それもそのはず、理乃はただの学生、一般人である。顔は良い方ではあるが、もちろんそれは理由にならない。理乃がしばらく考えていると、怪人の王は答えを出した。

「分からないようだね、なら、教えてあげるよ、それは正義の光さ」
「正義の…光…?」
「そう、正義の光、我々怪人がノヴァティスと呼ぶ光に選ばれた人間、日野鋼が一番愛する人間が君だからだよ、分かるかい? 月村理乃」

理乃は頬を赤く染めた。まさか怪人の口からハガネが理乃の事を好きと言う事をカミングアウトされるとは思っていなかったからだ。それはさておき、理乃は疑問に思う事があった。その正義の光とは一体何なのか、理乃はその事についても聞いてみる事にした。

「正義の光って、一体何なんですか?」
「ノヴァティスに選ばれた人間に戦う力を与える存在さ、これを持つ存在は心の清らかな人間が多いと言われていてね、分かるだろう? 君がいては邪魔なんだよ」
「なら、何で私をすぐに殺さなかったんですか!?」
「すぐに殺しては面白くないからさ、これはゲームだよ、ナイトであるノヴァティスとその仲間達が姫である君を救うと言うね!」

こんな事の為に自分の友人たちが利用されていると思うと、理乃は怒りが込み上げてきたが、今の自分じゃどうする事も出来ない為、理乃は別の事を聞く事にした。

「あなた達怪人と、ノヴァティスの関係は一体何なんですか?」
「ただの敵だよ、君達人間の作る物語に出てくる正義の悪の戦いの様な、ね」

その言葉に、理乃は驚くしかなかった。このノヴァティスと怪人の戦いは、特撮作品の様な分かりやすい正義と悪の戦いだったのである。

「まあ、でも僕達はその物語の様に滅んだりはしないけどね! ハハハハハ!!」

怪人の王は勝利を確信し、笑い始めた。だが、理乃は信じていた、必ず助けが来る事を。

「ハガネくん…」

理乃を救う為に、俺は歩みを止めずにいた。それは司や有人、雫に孝信、Mトルーパーも同じだ。みんな、理乃を救う為に戦っている。その事を、理乃も心の底で感じているのであった…。

俺はやっとの事でみんなと合流した。途中でアリアント数十体と戦闘になったが、軽く蹴散らした。しかし、そのアリアント達は時間を稼ぐような戦い方をしていた為、思ったよりも時間がかかってしまった。

「みんな、大丈夫か!?」
「すまん、かなりやられたが、まだ大丈夫だ」

俺の問いに、神山はそう答えた。神山はMトルーパー部隊の隊長ではあるが、26歳にして隊長になった若きエリートだ。怪人が現れるまでは普通の警官だったが、怪人が現れてからと言うもの、自らMトルーパーに志願し、今まで10体以上の怪人を倒して隊長になったまさにエリートである。部下からの信頼も厚く、正義感も強い頼れる男である。その容姿も20歳にしては貫禄があり、女性からもモテる一方、本人は恋には構ってられないと言っているが、それが逆にモテる理由になっている事は辛い事だ。

「空き地までもう少しだな」

孝信が少し息切れした声で答えた。体力には自信のある孝信も、この命がけの作戦には流石に堪えているようだ。

「よし、行こう」

神山の合図で、高校生5人とMトルーパー数名が空き地へと向かった。

「無事でいてくれよ、理乃」

俺は心の中でそう願った。一方、その空き地では怪人の王が俺達の様子を超能力で見ていた。

「ふん、下等種の分際で中々やるようだね」

怪人の王は人間を弱小な生き物と見ていたようで、よもやここまで抵抗されるとは思ってなかったようである。

「まあ、僕の部下は倒せても、僕は倒せないよ」
「そんな事ない! 私達人間は決して負けないわ!!」

理乃は怪人の王に対し、そう叫んだ。だが、怪人の王は相変わらずの余裕の表情であった。

「フン、ノヴァティスに頼る事しかできない下等な人間如きに、一体何ができるって言うんだ」
「そんな事ありません! ノヴァティス…ハガネくんが居なくても、Mトルーパーの皆さんや警察の皆さんがいます! 人間はあなたが思っているほど弱くありません!!」
「おや? まさか、君達が勝つとでも思っているのかなぁ?」

すると、今まで余裕の表情だった怪人の王が、殺気のこもった表情で理乃の胸倉を掴んだ。制服のボタンが弾け飛び、白い下着が露わになる。

「君達人間は弱い生物なんだ、そんな人間がいくら協力しても、僕達怪人の足元にも及ばない! 雑魚がいくら集まっても雑魚は雑魚なのさ!!」

ドスのこもった声で怪人の王はそう答えた。それと同時に殺意のこもった目で理乃を睨みつけている為、理乃は恐怖を感じ、体が恐怖で震えた。

「ハガネくん…助けて…」

その時、空き地に俺とその仲間達が到着した。

「理乃から手を放せ!!」

俺は怒りのこもった声で怪人の王にそう叫んだ。

「ハガネくん!!」
「ほーう、どうやらナイトのご到着のようだね」

俺達が来ても、怪人の王は余裕満々だった。まだ怪人側の方に勝機があったのか、それとも、怪人の王はノヴァティスよりも強いのか。

「聞こえてたぜ! このド外道が!!」
「僕達は確かに弱いよ!!」
「だけど、私達は協力すれば強くなれる!!」
「だから、簡単にあんたらに負けるつもりはないさ!!」
「お前が言った事、私達が変えてみせる!!」
「俺はお前達に負けない! 弱い者は弱いなりにあがいてやる! それが俺達人間だ!!」

司、有人、雫、孝信、神山、そして俺はそれぞれの思いを伝えた。人間は確かに弱いかもしれない、だが、弱くても弱いなりに戦う事はできる。だから、俺達はここまで戦ってこれた、人間は簡単に負けたりしない。

「チッ! 黙って聞いていればいい気になりやがって!! 下等種風情が調子に乗るなよ!! 今から死以上の恐怖を味わわせてからズタズタに引き裂いてくれる!!」

怪人の王が自身の被っていた皮を脱ぎ捨て、本性を現した。本性はいかにも悪玉の王と言う性格で、特撮におけるラスボスをそのまま持ってきたようであった。

「やれっ!!」

怪人の王がそう合図すると、30体以上の怪人が姿を現した。その中にはスパイダロスやバットンと言ったかつて倒した怪人がいたほか、見た事も無い新種の怪人も混ざっていた。

「ハガネくん!!」

理乃が今にも泣きだしそうな声で叫んだ。だが、俺は理乃に対し、ピースサインを送った。これは、必ず勝つと言う勝利の印であった。

「俺のこの力は何なのか分からない、でも、もう迷わない! この力は、みんなを…人々を守る為に使う!!」

俺はそう叫ぶと、怪人に向かって走って行った。後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、その時の俺はゾーンに入っていたようでよく聞こえなかった。

「神聖変身!!」

俺は腕をX字にクロスさせ、そう叫んだ。すると、その体を眩い光が包み込み、神聖戦士ノヴァティスへとその姿を変えた。

「ノヴァティスめ…! 忌々しい!!」

怪人の王はノヴァティスを見てそう呟いた。

「我々もノヴァティスを援護するぞ!!」

神山の合図で、Mトルーパー部隊が一斉攻撃を開始した。そして、最終決戦が始まった。

ノヴァティスは強力な怪人のみを相手にし、アリアントなどの弱めの怪人はMトルーパーに回していた。こう言った連携もあり、怪人の数はあっという間に20体に減った。

しかし、流石のノヴァティスでも怪人軍団を相手にするのは無理がある。Mトルーパーもいつの間にか神山を残して他は全滅していた。更に、神山の持つ銃火器は弾切れを起こしており、対怪人ナイフMB-Nを使ってアリアントと交戦していた。ノヴァティスは何とか怪人を5体倒して残り15体まで減らしたものの、怪人の同時攻撃に苦戦し、消耗する一方であった。

「くそっ! 俺達は見ている事しかできねえのかよ!!」
「見ている…そうか! その手があった!!」
「な…何だよ、有人…」

戦うことができず、悔しがる司の言葉を聞いた有人がある事を閃いた。それは、ヒーローが戦っている所を見たら誰もがする行動であった。

「応援だよ! ノヴァティスが光の戦士なら、僕達の心の光も届くはずだよ!!」
「えっと…つまり、ノヴァティスを応援すればいいの?」
「そう! そうだよ!!」
「どの道、俺達にできる事はこれしかねえな…司! 雫! 有人! やるぞ!!」
「ええい! こうなりゃヤケだ!!」

司、有人、雫、孝信の4人はノヴァティスを応援した。幼い子供がテレビの前のヒーローを応援するように、ヒーローショーで活躍するヒーローを応援するように応援した。その声は、怪人と交戦中のノヴァティスにも届いていた。

「この声…! みんなの声…!!」
「ハガネ! 負けんじゃねえぞ! お前は絶対に理乃を助けるんだ!!」
「そうだよ! だから、一般怪人なんかに負けちゃだめだよ!!」
「ハガネさん! 頑張って! 私達も微力ながら応援させてもらうわ!!」
「俺達がここまで応援するなんて、滅多にないんだからな! 頑張れよ!!」

司たち4人の声援は、負けそうになっていたノヴァティスに力を与えた。倒れそうになっていたノヴァティスの体力は回復し、再び立ち上がった。

「俺は…! こんな所で負けられない…!!」

すると、ノヴァティスの右手に何か光るものが具現化していた。それは一本の剣であり、光の様に美しく、力強い剣であった。

「何なんだ…この剣は…綺麗だけど…とても強い力を感じる…!」
「馬鹿なっ! あれは、ブレイヴセイバー!? まさか、この星の生物の心の光で具現化するとは!!」

ブレイヴセイバーと呼ばれた剣の具現化は、流石の怪人の王も想定していなかったようであり、驚きを隠せない様子であった。それだけブレイヴセイバーの力は強大なのであろう。

「くっ! ノヴァティスを殺せ!!」

怪人の王は残る15体の怪人に一斉攻撃を命令した。怪人軍団は一斉にノヴァティスに向かっていった。

「ハガネ!!」

司たちが叫んだ次の瞬間、総勢15体の怪人は一瞬にして斬り裂かれ、爆散した。ブレイヴセイバーで放つ必殺技、ジャスティスブレイクである。

「そんな…馬鹿な…!!」

あれだけいた怪人軍団を一撃で葬られた怪人の王は、予想外の出来事に愕然としていた。

「理乃を…返せ!!」

俺は怪人の王の方を向き、叫んだ。ノヴァティスに変身していても分かるほどの威圧を飛ばし、ブレイヴセイバーの剣先を怪人の王に向けた。

「流石は光の戦士と言った所か…だが、まだ終わった訳じゃないぞ…」

少しだけ気を取り直した怪人の王は、再び余裕の表情に戻った。

「俺は光の戦士なんかじゃない、ヒーローに変身できるただの高校生だ」

怪人の王の言葉に対し、俺はこう返した。すると、怪人の王はある事を語り出した。

「ただの高校生、ねぇ…、君達は気にならないのか? ノヴァティスと僕達怪人の関係をさ」
「それは気になる、だが、俺は理乃を助ける為にここに来ているんだ!」
「まあまあ、冥土の土産にちょっと聞いて行けよ、この女に手は出さないからさ」
「…約束だぞ」
「了解、じゃ、話そうじゃないか、僕達怪人と光の戦士ノヴァティスの関係をね」

戦闘は一時中断し、怪人の王は黙々と話し始めた。今まで俺達の知らなかった怪人とノヴァティスの関係、その関係は、俺達が思っていたより遥かに壮大なものであった…。

全ては宇宙の誕生と共に始まった。光と闇、この2つはどこにでも必ず存在する。その光と闇がどこか遠くの銀河の爆発により、その莫大なエネルギーによって実体化したもの、それがノヴァティスであり怪人の王である。

この2つの存在は始めこそ意思を持っていなかったが、気が遠くなるほど長い時が経つにつれ、少しずつ意思を持つようになっていった。一つは正義、そしてもう一つは悪、正義の心を持つ光は、宇宙の平和の為に闇を消滅させようと活動する。そして、悪の心を持つ闇は、自分の欲望の為に光を消滅させようと動く。この2つの心はやがて激突する事となり、その戦いは徐々に激化して行った。そして遂には宇宙戦争を引き起こす事となったのである。

この時、地球はまだ恐竜時代であり、まだ人類と言う物は存在していなかった時代である。そして、光と闇の大きな戦いは相打ちと言う形で終了し、消耗した光と闇は長い眠りにつく事となった。闇は火星に、そして光は地球に、それぞれ眠りについた。それから長い時が流れ、恐竜は滅び、地球は人類が支配する時代となった。その時代の中で人類の文明は進化し、宇宙に出る事も可能となった。

しかし、10年前、人類が火星のテラフォーミングを行った際、ずっと眠りについていた闇を目覚めさせてしまった。人類は自分達の夢の為に敵を増やしてしまったのである。だが、闇はまだ不完全であり、完全に力を取り戻すにはあと8年必要であった。そして、完全に力を取り戻した闇は何故かその肉体を失っており、地球の下等生物を利用しないとその肉体を維持できない程に衰えていた。闇は仕方なく人間を怪人にする事でかつてと同じ様に自らの欲望の為、破壊と殺戮を続けた。それを止める光は今やこの世にはいない。

そんなある日、日野鋼を襲った際に光は目覚めた、闇と同じ様に地球人の体を使って。地球人はその心によって光にも闇にもなれる、心が綺麗ならば誰でも光と同化できる一方、心が汚ければ闇と同化するしかできないのである。こうして肉体を手に入れた光と闇は、因縁の戦いを終わらせる為、最期の戦いを始めたのである。その戦場は、この青い星、地球であった…。怪人の王の話はここで終わった。

「まさか、この戦いが遥か昔から続いているとはな…」

神山は驚いた様子で答えた。無理もないだろう、地球人からすれば宇宙誕生はまだ未知の領域、そんな頃の話をされてもピンとこないのである。

「闇は火星に眠ってて、それが10年前のテラフォーミングで目覚めた、で、光はハガネの家のある場所で眠っていて、それが怪人の襲撃によって目覚めたって事だね?」
「その通りだよ、地球人、まさかあそこにノヴァティスが眠っているとは思わなかったよ、それだけが誤算だったね」

孝信の問いに、怪人の王はそう答えた。流石の怪人の王もノヴァティスの復活までは想定しなかったようである。

「つまり、ノヴァティスとお前は宇宙の誕生と一緒に生まれた、いわば兄弟みたいなものなんだよな?」
「ああ、そうさ、あんなに物分かりの悪い奴が兄弟とは思いたくないがな」

俺の問いに、怪人の王はそう答えた。2つの存在は宇宙の誕生と同時に生まれた、なのに、何故その2つの存在はこうして戦わないといけないのか、俺にはそれがさっぱり分からなかった。

「どの道、ノヴァティスとはここで決着を付けなくてはならないのさ! 光か闇のどちらかが滅びるまで決着は付かない! お前達の文明にある特撮でもそうなんだろ?」
「そうでもないよ!」

怪人の王に対し、こう答えたのは有人だった。有人は特撮が好きなので、真っ先にこう反論したのだろう。

「確かに、ほとんどの特撮は敵を滅ぼして終わるよ、でも、敵と和解して終わる作品だってあるんだ、君達だって、ノヴァティスと和解できるんじゃないかな?」
「馬鹿馬鹿しい! あんな忌々しい光と共存などできるものか!!」

怪人の王は有人の提案を一蹴りした。この事から、光と闇の溝は修復不可能なまでに深まっているのだろう。

「光と闇は決して分かり合えない! それが生物上の掟の様な物だ! 地球上の生物を見てみろ、ライオンは生きる為にシマウマを食う、ライオンにとってシマウマはただの獲物だ、獲物と捕食者は分かり合う事ができない、それが掟なのさ!」

怪人の王は地球基準で光と闇の関係を教えた。結局、光と闇は決して分かり合えないと言う事が分かった。

「分かったか? 違う生き物同士では決して分かり合えないと言う事が」
「…そうやって、どちらかが滅び合うまで戦って、お前は満足かよ!」
「ああ、僕はとても満足しているよ、まさか地球人がわざわざ墓穴を掘ってくれるとは思わなかったからね、おかげで沢山の下等種を殺せたよ」
「…結局、どっちかが滅びるまで戦うしかないのかよ…」

怪人の王と会話した俺は、結局戦うしかない事に、そして、怪人の王の身勝手な欲望の為に多くの人々が殺された事に怒りを覚えていた。

「さて、君達にいい物を見せてあげよう」

怪人の王が右手を上げると、2人の人間が現れた。それは、スパイダロスに殺されて命を落としたはずの2年の倉橋元と、1年の山本正志だった。

「おいおい、何でこの2人がここにいるんだよ! こいつらはあのクモ野郎に殺されたはずだ!!」
「僕が死体を回収してサイボーグにしてやったのさ、こいつらは僕の思うままに動く操り人形さ!!」

司の問いに、怪人の王はそう答えた。怪人の王はこれを見せる事が楽しみだったらしく、俺達が怒っている様子を見て楽しんでいた。その様子を見た俺は、遂に怒りが限界まで達した。

「…許さない…!!」
「ん? 今何て言った?」
「人を殺して悲しませた上に今度は死んだ人まで弄ぶ! そんな命を弄ぶお前を絶対に許さない!!」

俺はあまり怒ったりはしないが、恐らく、ここまで怒りが爆発したのはこれが初めてだろう、それほどまでに命を弄ばれたのが許せなかったのだ。

「何とでも言うがいいさ、これが僕達のやり方だからね」
「そんなやり方! 絶対に許さない!!」

そう言って俺は怪人の王がいる位置まで跳ぼうとしたが、2人のサイボーグが掌から電撃を放ってきた。その電撃を浴びた俺は、体が痺れ、地面に倒れ込み、それと同時に、俺の変身が解除された。

「くっ!」
「さあ、早くあの忌々しい地球人を始末しろ!」

怪人の王の命令で、2人のサイボーグは俺に向かって来た。だが、俺はそのサイボーグと向かい合った瞬間、人の姿をした敵と言うだけで腕が震えた。いくら彼らがサイボーグとは言え、人の見た目をした相手と戦うとなると、いい気分はしないのだ。俺が今まで倒して来た怪人だって、元は人間だ、このサイボーグ達と成り立ちは似たようなものだと言うのに…。

「どうした、ハガネ! やられるぞ!!」

孝信が俺を我に返そうとしてくれたようだが、俺の腕の震えは消えず、今度は足まで震え始めた。

「下がれ! ハガネくん! こいつらは私が!!」

そう言って神山は他の隊員が装備していたサブマシンガンMB-03を撃った。その弾丸の雨は一瞬にして正志のサイボーグを蜂の巣にし、正志のサイボーグは爆発四散、機械のパーツを辺りにばら撒いた。

「おのれ…もう少しだったと言うのに…! 下等種如きがぁぁぁッ!!」

怪人の王が攻撃命令を出すと、元のサイボーグが電撃を放ち、それを食らった神山は感電した。

「ぐわあぁーっ!!」
「神山さんっ!!」

電撃を食らった神山は地面に倒れ込んだ。だが、まだかろうじて意識のあった神山は、他の隊員が戦闘中に落としていた小型爆弾MB-04を投げた。

「くたば…れ…」

MB-04は元のサイボーグに命中し、大爆発。元のサイボーグはバラバラに砕け散り、パーツを散乱させた。怪人の王はサイボーグがやられて悔しそうにしていたが、俺は倒れている神山さんの下へと急いだ。

「大丈夫ですか、神山さん?」
「ふふ…少し食らっただけでこのザマだ、私も、少しは役に立てたか…?」
「神山さんには十分すぎるぐらい助けてもらってますよ」

だが、その声は神山に届いていないらしく、神山の意識は朦朧としていた。

「後は…任せた…」

神山はゆっくりと目を閉じ、静かに息を引き取った。

「神山さん…? 神山さぁぁぁん!!」

俺は涙を流し、しばらく嗚咽した後、怪人の王の方を向き、再びノヴァティスに変身した。その時、俺はある決意をしていた、それは、もう誰も悲しませないと言う事である。

「怪人の王! 決着を付けるぞ! もう誰も傷つけさせない! ここでお前を倒す!!」
「ほう…果たして君にそれができるかな? ノヴァティス」
「俺はノヴァティスなんかじゃない、ただノヴァティスに変身できるただの高校生だ!」

こうして、俺達と怪人の最終決戦が始まった。俺は必ず理乃を助け、長きに渡る光と闇の戦いに決着を付ける。それが、俺が神山さんにできるせめてものお礼だ。

思えば、今まで色々な事があった。スパイダロスの襲撃から始まった怪人との戦いは、両親の死や神山さんとの出会いなど、とにかく色々あった。そして、俺が今この場にいるのは、1人のクラスメイトを救う為である。それはまるで、特撮やアニメのヒーローみたいである。

子供の頃はそう言った番組をよく観ており、それを見ていた子供の頃の俺は何て魅力的なのだろうと心躍らせたものだ。だが、現実はテレビの様に美しいものではなかった。大切な人を失う辛さを今になって分かるなんて、俺は何て馬鹿だったんだろうと、今になって実感している。テレビの中のヒーロー達は、こんな苦しみを味わっていたんだな。突然ヒーローになった事による葛藤、大切な人を失う苦しみ、そして、人々を守る為に味わう痛み、今なら、テレビの中のヒーローの気持ちが分かる気がする。

だが、それらのヒーロー達は皆、苦しみながらも諦めず戦い、勝利を収めてきた。俺もそのヒーロー達の様に戦うさ、そして、大切な人を守るんだ。俺が戦う相手、それは怪人の王、ゲームで例えるなら、ラスボスである。まるで絵に描いたような正義と悪との決戦、俺は今、みんなを守る正義のヒーローになっているのである。

「さあ、そろそろ僕の真の姿を見せてあげよう」

怪人の王はその体に紫色の光を纏い、その姿を変えた。その姿は、悪魔とドラゴンが融合したような漆黒の怪人であり、巨大な悪魔の翼と、太く強靭な龍の尻尾、手足に鋭い爪、そしてその顔はとても凶悪な顔で、目は血の様に赤かった。鋭い牙はまるでナイフのようであり、体はかなり筋肉質であり、それはまるでRPGのラスボスのようであった。

「これが、僕の真の姿、怪人王グランヴァールだ」

そう言って怪人王グランヴァールは空を飛んだ。

「てめえ! 空を飛ぶなんて卑怯だぞ! 降りてきやがれ!!」
「悔しければ君達も飛んでみる事だ! もっとも、今のノヴァティスは飛べないけどね、僕はこのまま人間の街を破壊する!!」

グランヴァールはそう言うなり大空を飛び、掌から火球、口から破壊光線を放ち、街を破壊し、人々を殺戮して回った。

「街が…!」
「くそっ! せっかく理乃と再会できたってのに、これじゃ意味がないじゃねえか!!」

有人と司はグランヴァールの戦闘能力にただ茫然としていた。だが、理乃はまだ諦めておらず、2人を叱咤した。

「まだ諦めちゃ駄目! きっと勝つ方法はあるはずよ!!」
「でもさぁ…相手は空を飛べるんだよ?」
「頼みのノヴァティスは空を飛べないんだろ? 勝ち目無いじゃんか」
「今までハガネくんは…ノヴァティスは私達を助けてくれた、きっと今回も助けてくれるわ!!」

すると、俺はある事を思い出した。みんなの応援が新たな武器、ブレイヴセイバーを俺に託してくれた。ならば、あの時以上の応援があれば、勝つ手段はあるかもしれない。

「みんな、できる限り俺を応援してくれる人を集めてくれないか? そうすれば、ノヴァティスの新たな力が目覚めるかもしれない!」
「なるほど、あの時ブレイヴセイバーが具現化した時と同じことをするんだね、でも、どうやって集めるの?」
「それは…」
「それなら大丈夫だと思うよ」

そう言って孝信は自信満々にスマートフォンを取り出した。すると、孝信はスマホの画面を俺達に向けて見せびらかした。その画面には、テレビ局が街で暴れるグランヴァールの様子を中継していた。そして、そのニュースのコメント欄には、天翔街の人々が無事であるように、世界が平和であるようにと願う人々のコメント、そして、いつの間にかネット上で都市伝説となっていた天翔街を怪人の魔の手から救う謎の存在、つまりノヴァティスについての応援のコメントがあった。

「ハガネ、この世界の人々はみんな口に出さないだけで誰もが心の底ではみんな平和を望んでいるんだ、人間と言う存在はね、世界のどこかが大変な状況に陥った時、みんなそこにいる人々の無事を祈っているんだよ」
「孝信…」

孝信の言った言葉は正しかったようで、次の瞬間、今までにない程の光が俺に集まって来た。それは、俺を応援する言葉ではなく、平和を願う人々の正義の光、それが俺に集まってきているのだった。

「何か、ノヴァティスが輝いているぞ…」
「これは全部、平和を願うみんなの祈りなの?」
「そうさ、人間が皆、正義の光を持つなら、平和を願う心こそ、真の正義の光!」
「その正義の光でノヴァティスが強化されてるんですね」
「なら、僕達もノヴァティスに力を与えようよ!!」

そう言って俺のクラスメイト5人も祈り始めた。その祈りが通じたのか、俺の体を温かい光が包み込んだ。その光によってノヴァティスの姿は神々しい姿へと変わり、究極形態アルティメットノヴァティスへと進化させた。ブレイヴセイバーは強化され、より神々しいジャスティスセイバーとなり、全身は黄金のアーマープレートに覆われ、背中には美しいクリスタル状の翼が付いていた。その姿はまさに、美しさと神々しさ、そして力強さの融合と言う言葉が正しかった。

「これが…ノヴァティスの進化した姿か!」
「かっこいい! かっこいいよハガネくん!!」
「綺麗…」
「地球に住む人々の祈りの力で進化したノヴァティスか! いいじゃないの~」
「ハガネくん…」
「みんなの想いが…みんなの光が、俺を進化させてくれた! この想い、決して無駄にはしない!!」

そう言って、俺が大空へ飛び立とうとしたその時、みんなが俺を呼び止めた。

「ハガネ! 必ず生きて帰って来いよ! 死んだら許さねえ! 帰ってきたら、いつもみたいにまた馬鹿やって楽しく過ごそうぜ!!」
「ハガネくん! 帰ってきたら僕の好きな特撮を一緒に観よう! 約束だよ!!」
「ハガネさん! あなたは一人じゃありません! 私達が付いています! だから、必ず勝ってください!!」
「ハガネ、絶対死ぬなよ、俺達はお前の勝利を信じているからな!!」
「ハガネくん! 死んじゃやだよ! 絶対勝って! 絶対生きて帰ってきて! 私、信じてるから!!」
「分かった! 必ず勝って帰る!!」

司も、有人も、雫も、孝信も、そして理乃も、俺の勝利を信じている、絶対に負けられない。俺は怪人王グランヴァールとの戦いに勝って、この怪人との戦いに終止符を討つ為、空高く飛翔した。

一方の怪人王グランヴァールは、空から地上へ向けて無差別攻撃を放っていた。火球や破壊光線を放ち、建造物を破壊し、多くの命を奪っては高笑いをしていた。グランヴァールにとって、命を奪うと言う行動はただの快楽なのだろう。

「クックック…今ので3000人は死んだな、ほら! もっと抵抗しろ! 泣け! 喚け!! ハッハッハッハッハ!!」

グランヴァールは狂ったように笑っていた。そして、笑いながら尊い命を次から次へと奪っている。怪人と言う生き物はただの血に飢えた怪物なのだろう、グランヴァールは人が死ぬ様を見て楽しんでいた。

「さ~て、もう5000人ぐらいは殺してやるか!!」

グランヴァールが病院に向けて火球を放とうとしたその時、剣の一太刀がグランヴァールの右腕を斬り落とした。グランヴァールの右腕を斬り落とした者こそ、神聖戦士アルティメットノヴァティス、世界を救うヒーローである。

「くっ! 貴様! どうやってここに…!!」
「みんなが俺に、光を…! 力を与えてくれたんだ!!」
「力…? 下等な人間が、どうやってそんな物を…!!」
「誰かを守りたい…誰かに生きて欲しい…そう願うだけで、そう口にするだけで、人は強くなれるんだ!!」
「馬鹿馬鹿しい! そんな事で強くなれる訳がない!!」
「お前には分からないだろうな! 怪人の王!!」
「黙れノヴァティス!! 本当に強い者は闇!! 闇こそ究極の力だぁぁぁッ!!!」

グランヴァールは口から破壊光線を放ったが、アルティメットノヴァティスはジャスティスセイバーで受け止め、周りに被害を与える事のないよう、破壊光線を無力化した。すると、グランヴァールは左腕からアメジストの様に深い紫色の剣、シャドーセイバーを具現化し、アルティメットノヴァティスに攻撃を仕掛けたが、俺はその攻撃をジャスティスセイバーで切り払い、グランヴァールの腹に蹴りを入れた。すると、グランヴァールはシャドーセイバーから漆黒の光線シャドービームを放ったが、アルティメットノヴァティスはジャスティスセイバーを振り、純白の真空波ジャスティスライサーを放った。ジャスティスライサーはシャドービームを押し返し、その勢いのままグランヴァールの両足を膝から上の辺りまで切断した。

「くっ! この僕がここまで追い詰められるなんて…!!」

グランヴァールは徐々に焦りを見せ始め、シャドービームを連続で放って俺を攻撃して来たが、俺はジャスティスセイバーから光のバリア、ノヴァシールドを発生させ、全ての攻撃を無力化した。俺は人々を守りながら怪人の王と戦っているのだ、もう誰が悲しむ所も見たくないからである。

「何故だ…! 何故僕は勝てないんだ…!!」
「怪人王グランヴァール! 俺は、みんなを守る為に戦っている! お前に守りたい人はいるか! 誰かを守る為なら、人は強くなれるんだぁぁぁッ!!!」

そう言って俺は全身から眩い光を放つ技、ジャスティスフラッシュを放ち、グランヴァールの目を眩ませた。直後、俺はジャスティスセイバーを振り下ろし、グランヴァールを一刀両断にした。

「そうか…誰かを守る為なら誰でも強くなれるのか…それが…奴の力の源だったのか…」

直後、グランヴァールは爆発四散した。怪人の王であるグランヴァールの死をもって、光と闇の長きに渡る戦いに決着が付いた。全ての戦いを終えた俺は、静かにみんなの所へと帰って行った。俺がみんなの下へ戻ると同時に変身は解除され、変身が解除された事を確認した理乃は、いきなり俺に抱き着いてきた。

「おかえり…ハガネくん…」
「ただいま、理乃、そしてみんな…」

アルティメットノヴァティスと怪人王グランヴァールの戦いは世界中で話題になり、連日ニュースなどで中継され、怪人の脅威から世界を救った英雄と言われたが、結局最後まで一般的にノヴァティスの正体は知られず、世間では怪人の脅威から人々を救った救世主と言う扱いだった。ちなみに、神山たちMトルーパーのデータベースにはノヴァティスの正体は記されていたようだが、この情報はトップシークレットとして扱われている為、上層部以外の観覧は不可能らしい。そして、怪人王グランヴァールとの戦いから1ヵ月が経ち、世間もノヴァティスや怪人の存在を少しずつ忘れかけた頃、俺は1人、あの戦いの事を思い出していた。

怪人王グランヴァールの死後、リーダーであるグランヴァールを失った為か怪人は全て消滅したようであり、あれ以来怪人事件は起きていない。それと同時にMトルーパーも自衛隊に吸収された為、今後のMトルーパーの仕事は怪人との戦いではなく、日本の防衛及び各地の災害支援などが主となるようだ。

一方の俺達だが、俺達はあれから平和に学生生活を送っている。家族を失った俺は特に身寄りもない為どうなるかと思ったが、その辺は全て今は亡き神山隊長が自分のポケットマネーで10年は暮らせるよう、一人暮らしのマンションを俺の為に構えてくれていたのだ。本当に、神山隊長には感謝するしかないと俺は思った。

そう言えば、俺の持つノヴァティスの変身能力だが、あれから何回試しても変身する事はできなくなっていた。恐らく、宿敵である闇を滅ぼした事で自然消滅、または再び永い眠りについたのかもしれないし、俺の体から出て行ったのかもしれない。また新たな敵が現れたら変身する事ができるのかもしれないが、今はもう変身できないのだろうと俺は思っている。それにどの道、今の俺に変身能力はいらない、今はただ、俺の友人たちと平和に過ごせればそれでいいと思っている。

「おーい! ハガネいるかー?」
「遊びに来たよー!!」

この声は司と有人だ。俺がこのマンションに暮らすようになってからと言う物、休みの日はほぼ毎日遊びに来るようになった。おかげで1人でゆっくり過ごす事ができないが、無視するのもかわいそうなので、俺はドアを開けた。

「お前らなぁ…少しは休む事を覚えろよ…」
「いや、俺達はハガネを呼びに来たんだ」
「一体どこへ行くんだ?」
「いいからいいから、早く行こう!」

俺はさっさと身支度を済ませ、マンションを出た。マンションから歩いて5分ほどの所にある公園では、雫や孝信、理乃が俺達を待っていた。

「あっ! ハガネくん!」
「おー、ハガネか、待ってたぞ」
「ハガネさん、遅いですよ」
「ごめん、みんな、今さっき呼ばれたばっかでさ」

俺はさっきまで1人でソファに寝転がってテレビを観ながらあの日の出来事を思い返していたのだ。それを急に司と有人が事前連絡もなく呼び出したのだから仕方ない。

「で、みんな俺に何か用?」
「実は、みんなで遊びに行こうと思って…」
「そう言えば、この6人で遊びに行くのは初めてだな」
「でしょ? だから、ハガネくんを呼んだんだ」
「そっか! じゃあ、みんなで行こう!」
「うん!」

こうしてみんなが笑っていられるのは、あの時みんなが協力してノヴァティスに力を与え、怪人との戦いに終止符を討ったからであろう。だが、今の俺は変身能力を失ったただの人間だ、それでも、今は怪人のいなくなったこの世界で生きていくと言う使命がある。怪人との戦いが終わっても、俺達は人生と戦っていかねばならない。それがどんなに険しくても、みんながいればどんな困難でもきっと乗り越えられるはずだ。

[データファイル]

・ノヴァティス
本作の主役ヒーロー。日野鋼が変身するヒーローであり、禍々しい姿の怪人と違い、神々しい見た目をしている。主に強力なパンチやキックで戦い、様々な能力を持った怪人を圧倒する。活動エネルギーは光であり、これが少なくなると力が抜けてしまうと言う弱点を持つ。
身長178㎝、体重72㎏、パンチ力8t、キック力16t、ジャンプ力35m、走力は100mを3.8秒
主な必殺技はノヴァティスパンチ、ノヴァティスキックなど

・クモ種怪人スパイダロス
蜘蛛の特徴を備えた怪人で、ノヴァティスが最初に戦った怪人。変身前は雫と仲の良い高3の西上巧だったが、怪人に変身した事で巧の意識は失われ、殺戮衝動のみが支配するようになった。武器は鋭い爪と嚙みついた人間を骨も残さず溶かす毒牙。Mトルーパー部隊やハガネの両親である縁と時雄を殺害したが、ノヴァティスに変身したハガネにほぼ一方的に攻撃を食らい、逃げようとした所にノヴァティスキックを食らい、爆死した。
身長188㎝、体重85㎏、能力は鋭い爪と噛みついた人間を溶かす毒牙

・Mトルーパー
訓練を積んだ警察官が対怪人用の戦闘服を着こんだ姿。身体能力は怪人より劣るものの、様々な対怪人装備を使って怪人と戦う。個々の戦闘能力は低くても、数で怪人を圧倒する事ができるのである。
身長 個人によって異なる、体重 個人によって異なる、武器は様々な対怪人装備

・オオカミ種怪人ウルフェン
突如ハガネたちの前に姿を現した狼の怪人。何でも切り裂く鋭利な爪が武器で、そのツメは爆発力の高いミサイルとして使用する事も出来る。更に、分身怪人であるアリアントを生み出す能力も持っており、力だけでなく数でも襲い来る強敵である。ハガネの変身したノヴァティスと交戦したが、最期は自身の放った爪ミサイルを蹴り返されて爆死した。
身長185㎝、体重80㎏、能力は鋭利な爪と爪ミサイル

・アリ種怪人アリアント
一部の怪人が持っている分身能力で生み出された蟻の怪人。能力は生み出した怪人の10分の1程度であるが、その数を活かした集団戦術を得意とする所謂戦闘員ポジションである。その一方、特にこれと言った能力は持たず、ノヴァティスには簡単に倒されていた。しかし、人間からすれば脅威である事に変わりはなく、過去には民間人やMトルーパーに多大な被害を与えたと言う。
身長178㎝、体重72㎏、能力は群れによる集団攻撃

・コウモリ種怪人バットン
蝙蝠の特徴を備えた怪人。怪人には珍しく飛行能力を備えており、暗闇の中で活動し、闇の中から奇襲をかける事ができる。その一方、蝙蝠らしく光には弱く、ノヴァティスが変身した際の光で弱体化してしまい、そこにノヴァティスパンチを食らい、爆死した。本編ではあっさりやられたが、それなりにスペックの高い怪人なのである。
身長180㎝、体重73㎏、能力は飛行能力、弱点は光

モグラ種怪人モールドン
土竜の特徴を備えた怪人。地中での戦いを得意としており、地中を時速60㎞の速度で掘り進む事ができる。ノヴァティスの活動エネルギーである光のない地中まで引きずり込んだ。更に、防御力も高く、ノヴァティスの蹴りに対し、びくともしていなかった。強敵ではあったものの、ハガネの機転によって弱点である光を発生させられ、怯んだ所にノヴァティスキックを立て続けに食らい、爆死した。
身長188㎝、体重95㎏、能力は地中を掘り進む能力、弱点は光

・ムカデ種怪人ムカデロン
百足の特徴を備えた怪人。口から高熱の火炎を吐き、全てを焼き尽くしてしまう。その火炎の温度は1000℃もあり、流石のノヴァティスもただでは済まない。理乃の救出に向かうハガネ達の前に現れ、ハガネの変身したノヴァティスと交戦。ノヴァティスの猛攻を食らった後、ノヴァティスキックを食らって首を吹き飛ばされ、絶命した。
身長178㎝、体重78㎏、能力は高熱の火炎、弱点は頭部

・カマキリ種怪人カマキロン
蟷螂の特徴を備えた怪人。両腕から鋭い鎌が生えており、この鎌は岩石を両断してしまう。理乃の救出に向かうハガネの友人とMトルーパーの前に現れ、Mトルーパーと交戦し、多大な被害を出したが、最期は神山の撃った対怪人バズーカMB-02の直撃を受け、砕け散った。
身長175㎝、体重72㎏、能力は両腕の鋭い鎌

・ブレイヴセイバー
怪人軍団の猛攻を前に危機に陥ったノヴァティスを応援したハガネの友人達の心の光が具現化した剣。光の様に美しくも力強い剣であり、その切れ味はダイヤモンドを軽々両断するほど。清らかな心の持ち主の持つ心の光でないと具現化しないようで、差別や争いを繰り返す地球人では難しいとされていた。この剣を使っての斬撃攻撃はジャスティスブレイクと呼ばれ、怪人軍団を軽々と全滅させる威力がある。また、ジャスティスブレイク以外の技だと真空波を飛ばして攻撃するジャスティスライサーなどがある。
剣の長さ105㎝、剣の重さ1.2㎏

・サイボーグ倉橋元
怪人の王がスパイダロスに殺害された倉橋元の遺体を回収し、サイボーグ化したもの。見た目は人間と変わりはないが、中身はほぼ全てが機械であり、人間の皮を被っているだけである。掌から電撃を放つ能力が追加されており、人間の姿をした相手に躊躇うノヴァティスを苦しめたが、最期は神山が投げた小型爆弾MB-04が命中し、爆散した。
身長176㎝、体重94㎏、能力は掌から放つ電撃

・サイボーグ山本正志
怪人の王がスパイダロスに殺害された山本正志の遺体を回収し、サイボーグ化したもの。見た目は人間と変わりはないが、中身はほぼ全てが機械であり、人間の皮を被っているだけである。掌から電撃を放つ能力が追加されており、人間の姿をした相手に躊躇うノヴァティスを苦しめたが、最期は神山の放ったサブマシンガンMB-03を食らって蜂の巣にされ、爆発四散した。
身長173㎝、体重91㎏、能力は掌から放つ電撃

・アルティメットノヴァティス
人々の正義の光が集まり、誕生した究極のノヴァティス。全ての能力がノヴァティスを上回っており、まさに究極と言う言葉が似合っている。更に、飛行能力も身につけており、天翔街の上空で怪人王グランヴァールと激戦を繰り広げた。
身長178㎝、体重85㎏、パンチ力16t、キック力32t、ジャンプ力70m、走力は100mを1秒、飛行速度はマッハ1

ジャスティスセイバー
人々の心の光が集まり、誕生した究極の武器。その性能はブレイヴセイバーより遥かに上がっており、この世に斬れない物は存在しないと言う。この剣でも通常のノヴァティスで使えた技は大体使える。
剣の長さ107㎝、剣の重さ1.5㎏

・怪人王グランヴァール
光であるノヴァティスと対をなす闇の怪人の王。人間態は青年の姿をしているが、その真の姿は悪魔の様な姿をしている。命を奪う事を何よりも楽しんでおり、破壊と殺戮のみを快楽とする恐ろしい存在である。天翔街の上空から火球や破壊光線を放ち、多くの命を奪ったが、最後はアルティメットノヴァティスとの戦いに敗れ、死亡した。また、怪人は彼がいる限り生まれるようであり、彼の死亡後、怪人は一切出現しなくなった。
身長2.1m、体重1,35㎏、能力は掌から放つ火球、口から放つ破壊光線、シャドーセイバーから放つシャドービーム、飛行速度はマッハ1

・シャドーセイバー
グランヴァールの持つアメジスト色の剣。闇の力を秘めており、剣先からシャドービームと言う破壊光線を放つ。ノヴァティスのブレイヴセイバーと同等の性能だが、アルティメットノヴァティスのジャスティスセイバーの性能には及ばなかった。
剣の長さ110㎝、剣の重さ1.1㎏