私の名前はアリア・クリスティナ、とある国の少女兵士で、年は17。
その日の私は戦場の最前線となる雪深い山岳地帯を、大型の対機動兵器バズーカを持って駆け抜けていた。
未来の戦場はAI制御された機動兵器が主流で、私達のような人間の兵士は最前線で戦わされる、実質特攻のような扱いをされている。
人同士の殺し合いは主流ではなく、機械同士が破壊し合うのが未来の戦場だ。
これがAI技術が発達した成れの果てである。
私は敵の追っ手から何とか逃げ切り、小さな洞穴の中へと逃げ込む。
外は猛吹雪だ、寒さでAIのセンサーも狂って私を見つけられずにいるし、何より肌寒くて凍死しそうだ。
何とか寒さを凌がないと、戦いどころではない。
「ここでしばらく休むとしましょう」
私がそう呟いたその時、洞穴の奥からガサッという音がした。
敵がいるかもしれないと、私は腰のホルスターの拳銃を抜く。
「誰かいるの? 出てきて!」
私は寒さでかじかむ指を、トリガーに当てる。
もしこれが敵兵だったら、この瞬間は生きるか死ぬかだ。
だが、戦いは起こらず、洞穴の奥からは一人の少女が銃を向けたまま姿を現す。
とても鮮やかなコバルトブルーの髪をした少女。
瞳は綺麗な銀、兵士とは思えない整った顔立ち、これで私は察した。
「あなた、敵国の遺伝子操作兵士ね」
「……はい、セレスティア・ルナ・エデンと言います、年は16、エデン計画第3世代型人造人間、それが私です」
私達が今敵対している敵国は、AI技術だけではなく、遺伝子操作技術も発達しており、どの兵士も超人の様な身体能力をしている。
今、この場で戦闘になったら、勝てない!
しかし、彼女は銃を降ろした。
「……何のつもり?」
「ここは一時休戦といきませんか? 今日はクリスマスですし、ここで会ったのも何かの縁です、吹雪が止むまででも、休戦しませんか?」
確かに、この場で彼女と戦っては間違いなく殺される。
私は少しでも生き延びたい。
なら、ここは素直に要求を呑むしかないと、私は感じた。
「……分かったわ、一時休戦といきましょう」
私と彼女は二人寄り添って洞窟の奥で毛布を被り、暖を取った。
しばらく無言の状態が続いたが、彼女の方から私に話しかけてきた。
「あなた、お名前は何というのですか?」
「……アリア、アリア・クリスティナよ」
「アリアですか、では、私の事はセレと呼んでください」
そう言ってセレは貝殻を手渡してきた。
「これは……?」
「クリスマスプレゼントです、言ったでしょう? 今日はクリスマスだと、だから、プレゼント交換しましょう」
「プレゼント交換? そうね……これでもいいかしら?」
私は特に手渡せるものがなかったので、空薬莢を手渡した。
「まあ、何とも物騒なクリスマスプレゼントですね、でも、嬉しいです、私、クリスマスプレゼントを貰うのは初めてですので」
私達はプレゼントを交換し、私は貝殻を空薬莢の入っていた胸のポーチに入れる。
一方のセレは空薬莢を笑顔で眺めていた。
「……それ、そんなに嬉しいの?」
「はい、それはもう、私は戦う為に生まれた人造人間、プレゼントなんてものは貰った事がありませんし、クリスマスを祝った事もありません、ですが、ずっと興味があったのです、こうしてプレゼントを貰う事は、とても素晴らしい事なのですね!」
私はふと過去の事を思い出す。
孤児院育ちの私は、一応孤児院でクリスマスを祝っていた。
その後、軍に志願してからはクリスマスを祝う事はなくなったが、セレの姿を見て思い出した、幼い頃の私は確かにクリスマスを楽しんでいたと。
「ねえ、あなたは何でそんなにクリスマスの興味があるの?」
「クリスマスだけではございませんよ、正月にハロウィンなど、色々興味があります、何で興味があるかと聞かれると……何ででしょうね、よく分かりません」
セレは私に微笑みかけ、私の髪を触る。
「な、何?」
「この金髪と緑の瞳は、天然ですよね?」
「天然だけど……」
「とても綺麗です、遺伝子操作などしなくても、人はこんな美しいものを生み出せるのに、何故遺伝子操作するのでしょうか……」
セレの言う事ももっともである。
今の人類は遺伝子操作にAIと、人間の科学で生み出した技術ばかりに頼りすぎている。
結果、私の様に普通に生まれた人間はゴミの様に使い捨てられる。
これは自然の摂理に反している、そんな気がする。
「アリアさん、私はこんな戦争、無意味だと思うのです、だって、私とアリアさんは敵同士なのに仲良くなれました、人間は戦争などしなくとも、分かり合える、私はそう思っています」
「セレ……」
「アリアさん、私はあなたと出会えて、とても嬉しいです、私達は敵同士ですし、吹雪が止んだら私達は戦場に戻りますが、私達はずっと、友人同士ですよね?」
セレの言葉はとても純粋であった。
だが、戦場ではそんな甘い考えは許されない。
一歩の油断が命取りになるからだ。
「セレ……残念だけど、私達はこれが終わったら敵同士に戻るよ」
「あら、それは何故です?」
「決まってるでしょ! 私達は敵同士、今は休戦中だけど、私達は始まった理由さえよく分からない国同士の戦争に駆り出されて戦っている! そんな中で油断したら、死ぬようなものだよ!」
私の声が洞穴の中に響く。
セレは私の言葉を聞き、しゅんとした仕草を見せる。
「確かにそうですね……ごめんなさい、アリアさん……ですが、アリアさんから貰ったこの空薬莢、ずっと大事にします、だからアリアさんもその貝殻、大切にしてくださいね」
「勿論、ところでこれはお守りか何か?」
「はい、それは私が初めて外出が許された時に海で拾ったものです」
「そんな大切な物、貰っちゃっていいの?」
「ええ、構いません、私はプレゼント交換ができて満足ですので、アリアさんこそ、この空薬莢には何か思い出が?」
「それは私がお守り代わりに磨いて綺麗にした空薬莢よ、大した物じゃないけど……」
「いえいえ、とても嬉しいです! ありがとうございます!」
私達がそんな話をしていると、丁度吹雪が止み始めていた。
ひと時の休息は終わりをつげ、これで私達は再び敵同士、また戦場に戻らないといけない。
セレは毛布をしまい、一足先に洞穴の入口へと向かう。
「アリアさん、色々とありがとうございました、この空薬莢、大事にいたします、またどこかで出会えると、嬉しいですね」
「そうだね、セレも元気でね、いつかまた会おうね」
「はい、では達者で」
セレは私に一礼し、洞穴の外に出る。
刹那、セレの居た場所に一発の砲弾が着弾し、爆炎が上がる。
私が慌てて洞穴の外に出ると、そこには味方の機動兵器が展開されていた。
無人兵器に、セレは殺された。
だが、セレとは既に敵同士、なのに、この胸が張り裂けそうな気分は一体何なのか……。
私は雪の上で膝を付くと、足元に何か光るものが転がっていた。
それは、私がセレに渡した空薬莢、クリスマスプレゼントとして渡し、セレが心の底から喜んでいた物だ。
私はその空薬莢を掌に包み込むと、目から涙がこぼれ落ちる。
「だから……私達は敵同士って言ったんだ……戦争は理不尽に人が死ぬから……なのに……敵のはずのセレが死んで……私はどうしてこんなに泣いているんだよ……」
私はその場で泣き続け、空薬莢を墓標代わりに土の中に埋める。
それからの事はよく覚えていない。
気付けば自軍のキャンプに戻って、そしたら停戦協定が結ばれてて、私は軍の個室ベッドで眠りについてて、そして今、この文章を書いている。
今思い返してみても、あのセレという少女は不思議な少女であった。
あんな優しい子が目の前で死んだ事はとてもショックだ、だから私は、人が戦争で死ぬなんて事は、理不尽な事だと感じたし、とても耐えられない。
私は軍人、だけどこれからはもうセレみたいな子が死なないよう、二度と戦争が起きないように、自分にできる事を精一杯したいと思っている。
それに、セレの話を聞く限り、あちらの国はクリスマス等といった行事を知らないようだ。
なら、私のする事は決まっている、次に控える行事の正月を、あちらの国で行う、それをきっとセレも望んでいるだろう。
私はこの年のクリスマスに起きたこの悲しい出来事を、未だに忘れられない。
だから私はここでセレに誓う、二度と戦争のない優しい世界にすると。
『アリア・クリスティナ』著
「私の見た戦争日記」西暦2235年12月27日より抜粋